正義の味方というのは、人質という存在には途端に弱くなることがある。
もちろん、気にしない正義の味方もいるのだが・・・
とにもかくにも
古今東西、様々な物語の【正義の味方】が立ち向かうべき試練のひとつだろう。
ある正義の味方は人質のために身を捧げる
ある正義の味方は人質ごと悪を倒して礎とする
ある正義の味方は人質も助けて悪も倒す
エトセトラエトセトラ
そう、正義の味方の数だけ答えは違う。
その過程も、結果も、結末も、辿っていく最後はその正義の味方だけのものだ。
さてそれではカッパーマンはどうだろうか?
_________帝都宮殿付近建物、屋上にて
「あら、来たわね」
「・・・」
カッパーマンはスズカの伝言を受けて、指定の場所までやってきた。
そこにはメラルド・オールベルグと、捕縛されたレオーネたちの姿がある。普通に捕縛されているだけにも思えるが、その周囲には無数の虫が不快な羽音を立てている。
彼は暗殺者の気配がないか、己の知覚をもって測る。
周囲にはほとんどだれもいない。人払いをしているかのような感覚に陥ってしまいかねないほどだ。
「・・・君だけのようだな」
「えぇ、これでも暗殺者として依頼されているもの。他の子たちは別任務よ」
メラルドと会話しながら、レオーネたちの様子を確認する。
メラルドは虫の卵を暗殺対象の肉体に産み付けるように虫に指示できるのをカッパーマンは知っていた。
彼の皿の水があれば、虫を洗い流すこともできる。
「彼女たちは気絶しているみたいだが・・・虫が入っているみたいだね」
「・・・本当にいやになるわ。離れているのに・・・そこからよく分かったわね」
「これでも正義の味方だから当然だ。そういえば、エスデス君も来るらしいが待つべきか?」
「待たなくてもいいわ。先に片付けてあげる」
殺気だったメラルドは、カッパーマンに宣言しつつ奥の手を披露した。
その奥の手とは…大量の虫を身に纏い、帝具ライオネルのように他生物と混ざり合うような形態に変化する。
虫を思わせる触角、蝶のような羽に手足や体を守るように虫の体毛が覆っていく・・・
【蠢くもの】を身に纏った彼女を例えるなら、虫の女王だろう。
「本気で戦いなさい。私はもう、河童にはならないのよ」
「それはそうだが・・・しかし私が本気で戦闘をして、誰が救われるんだ」
「少なくとも私の気が晴れるだけね」
「・・・君は暗殺者だ。正々堂々とした戦闘は好みじゃないはずだろう」
カッパーマンの言葉に彼女は少しばかり黙して、彼をじっと睨みつける。
「そうね。私は暗殺者、あなたのような英雄とは違うの。暗闇で命を狩ることが向いていることぐらい、分かっているのよ」
「それじゃあなぜ、こんな・・・」
「正義の味方だったとしても、死は平等に訪れるべきよ」
「・・・」
「どんな生き物も、生まれて死ぬのが定め。それが世の中、それが世界。でも貴方はあまりにも異質すぎる」
「それは・・・そう、だろうな」
”異世界からやってきた”、そんなことを言えるはずもなく彼はその言葉を肯定することにした。
何よりも彼女が言っていることはまっとうだ。
自らの存在は通常の生き物から外れていることを彼は自覚している。
この世界に1000年も永く生きているのは・・・恐らく自分か、長命な希少危険種ぐらいだろか。そこまで彼は考えていた。
「復讐(リベンジ)もあるけど、何よりもオールベルグの信条として・・・貴方にも死を与えないといけない。貴方が人間なら、ね」
「・・・」
「もしもあなたがそういう”危険種”とか”帝具生物”だったらただの復讐になるんだけれど、どうかしら?」
「・・・そう、だな。昔は普通の人間だったさ。このスーツを着るまではね」
「素直に答えてくれてありがとう。これで思いっきり戦えるわ」
「・・・」
カッパーマンは胸元からキュウリを取り出す。
メラルドにとっての救いが戦うことならば戦闘不能になるまで戦うべきだと判断したのだ。
しゃくり、しゃくり
被り物の口からキュウリを齧る
その途端に、彼の身体は膨れ上がっていく・・・いままでとは違い、筋骨隆々の3mの大男にまでなった。
これが彼の本気、いや、カッパースーツが最大限能力を発揮できるモードである。
「・・・準備はできたかしら」
「・・・あぁ」
______________同時刻、帝都宮殿内
「タツミ、こっちだ!」
「わかった!」
宮殿内部に侵入したタツミとアカメは二人で走っていた。一番の標的はオネスト大臣・・・彼を探しているのだ。他の兵士や官僚が見当たらないを二人は疑問を抱いていたが、それでもなお走る。
「アカメ、こっちに人の気配がする!」
「・・・こっちか。かなり奥まで来た気がするが・・・」
アカメは周囲を警戒しつつ、タツミを伴って奥へと進む。
宮殿の最奥部から声が聞こえた。
『陛下!なにをしてらっしゃるんですか!?』
『いったいなぜ我々を・・・何をするつもりですか!』
『おい!離してくれ!』
『なんでこんなことに・・・』
『陛下、いったいなにを・・・!』
戸惑い、罵り、恐れ・・・そういった言葉が交わされている。
タツミとアカメはアイコンタクトをして、気配を消しながら近くまで移動する。
「お前たち、この帝国には皇帝は必要か?」
・・・暗殺者二人の耳に、少年らしき声が届いた。
「この帝国に置いて皇帝は、本当に民から求められているのか?」
カツン、と杖をつくような音が響く。アカメとタツミが扉から覗いてみると・・・何人もの人間たちが捕まっていた。
親衛隊の兵士たちは微動だにせず、直立不動で逃がさないように監視しているようだ。
「この国は、最初から皇帝は必要としていない」
幼い皇帝が、しっかりとした口調で断定する。
「この国の民が必要としているのは、正義の味方だ」
その言葉に、親衛隊の兵士たちが勢いよく「そうです陛下!!」と腹から声を出すように叫ぶ。
「正義の味方カッパーマン、その英雄に国を導いてもらえばいい」
「何を言ってるんですか、陛下!!!そのような戯言を・・・」
「オネスト、戯言ではない」
「何を・・・陛下がこの国を」
「カッパーマンこそ、この国を統べるにふさわしい正義の味方だ!余はっ、・・・余のようなただの人間が国を統べていいはずないだろう!!」
慟哭にも近しい絶叫と共に、彼は持っている杖を使い・・・至高の帝具を発動させた。