正義の味方が帝国を翔ける   作:椿リンカ

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ロッドバルト「どこかの世界のどこかの誰かが「人間死に方は選べないが、生き方は自由だろ。」って名台詞を残していましたね。例外はあるとはいえ、基本的に死ぬのは選べないものです。老若男女、善悪問わず死ぬことだけは誰にでも訪れます。一番の平等なものだと思いませんか?」


生まれは不平等、死は平等

 

メラルド=オールベルグは暗殺結社オールベルグの後継者としてこの世に生を受けた。

幼少のころから暗殺技術を仕込まれ、暗殺のために厳しい訓練もしており、10にも満たないうちから人間を殺してきたサラブレッドである。

 

それに関して、メラルドは「つらい」「苦しい」「やめたい」と思ったことは無い。

 

暗殺をすることへの葛藤は彼女の中には無く、自然と彼女はそれを受け入れた。厳しい特訓でも、後味の悪い暗殺だとしても彼女はそれを受け入れる。

好みの相手がいたとしても、彼女は容赦なく殺すだろう・・・

 

受け入れたのには理由がある。

 

 

≪死はすべての人間に平等に訪れる≫

 

 

暗殺結社オールベルグが掲げていることが、彼女の中でしっくりと納得できるものであったからだ。

 

どんなに善人であっても悪人であっても、老若男女問わず、死ぬことだけは誰にでも訪れるもので、とても当たり前なことなのだ。

 

それが不幸な死であれ、幸福な死であれ、望まれても望まれなくても・・・人間はいつか死ぬ。絶対に死んでしまう。

でもそれは、悲しいことではないし、嘆くこともない。穢れでもなければ、忌むものでもない。

 

 

いつかは死ぬからこそ、人間は懸命に生きることができる。

 

 

いつかは死ぬからこそ、人間は次の時代への礎になることができる。

 

 

死ぬことそれ自体は、恐ろしいものではない。

 

 

いつかは死んだとしても、人は何かを残して、何かを繋いで死ぬのだから。

 

 

そうやって人間は歴史を紡いできたのである。

 

 

そんな彼女、いや、歴代の頭領たちも許せないものがあった。

 

 

 

_____________それが、正義の味方カッパーマンである

 

 

 

 

 

 

______帝国宮殿内にて

 

 

「久しぶりね、クロメ」

「近寄らないで」

 

「あらいいじゃない。ねぇ、ちょっと触るだけよ」

「絶対に触らないで」

 

「やだもう、つれないわねぇ。久々の再会なのよ」

「再会したくなかった」

 

特殊警察イェーガーズ所属のクロメに対して、メラルド=オールベルグは距離を縮めていた。

 

「クロメが嫌がってるんで、やめてあげてください」

 

嫌がるクロメを後ろに隠しながら、ウェイブがメラを制止する。それに対してメラはあからさまに嫌そうに表情を歪めた。

 

「どきなさい、童貞」

「どうてっ・・・じゃなくて、その、クロメと知り合いなんですか?」

 

「そうよ」

 

メラルドは短くそう答える。向けられたウェイブの視線にクロメも小さく頷いた。

 

「・・・敵だったけどね」

「そうね。懐かしいわぁ・・・姉妹揃って両手に花を楽しめたんですもの」

 

その言葉にウェイブは驚くが、クロメはすぐに「変なことはされてないもん!」と訂正をいれる。

・・・だが、その言葉を聞いたからか、ウェイブはしっかりとクロメを引き寄せた。

 

「昔のことはよく分からないですけど、クロメは今はイェーガーズの大事な仲間だ。嫌がってるなら俺は止めます」

 

「・・・・・・ふぅん。いい心意気ね」

 

メラルドは幼少の時から男嫌いの同性愛者である。

 

どんなに中身がよかろうが強かろうが、「でも男は嫌い」ときっぱりと言うほどの男嫌いである。

 

そんな彼女なので、基本的にウェイブに対しても塩対応である。

普段ならば多少戦闘をしてもいいだろうが、ここは帝国の宮殿でもあるし、彼は味方陣営の人間・・・メラルドは”今回は”クロメをナンパすることを止めておくことにした。

 

 

「・・・何をしている」

 

 

そこにやってきたのは、ウェイブとクロメの上司であるエスデスである。

 

 

「あら、エスデスじゃない!この童貞と会話してたから嫉妬しちゃった?」

 

 

「近寄ったら殺すぞ異常者」

 

 

エスデスは殺気を出しながらメラルドを牽制した。

台詞から分かるように、エスデスとメラルドも若い頃に面識があり、エスデスもクロメ同様の被害にあっているので塩対応MAXなのである。

 

「やだもうっ、照れて殺気を出しちゃう貴女も素敵よ」

「私の部下に手を出すな。それよりもカッパーマンの対策や情報収集はできているのか」

 

エスデスに問われたメラルドは「もちろん」と答える。

 

「帝都中で諜報活動はしているし、帝都の外からも情報を集めているわ。」

「それで倒せるか?」

 

「そこまでは分からないけれど、あの正義の味方は不殺生を貫いているもの・・・動きを止めるか、殺し続ける方法なら足止めはできるわよ」

 

さらりと恐ろしいことを言うメラルドに対して、ウェイブは更にクロメを引き寄せて彼女を警戒した。

 

「・・・まぁ、いい。ただ、イェーガーズに所属している私の部下には手を出すな」

「じゃあ、エスデスなら手を出してもいいのね」

 

「拷問室送りにしてほしいのか?」

「大胆で過激なところは好みね・・・でも、拷問室よりは貴女の部屋のベッドがいいわ」

 

「この場で殺されないことに感謝しろ」

 

メラルドの言葉にどんどん殺気が増してくるエスデスであったが、ウェイブが「隊長、そろそろ会議の時間ですから」と助け舟を出した。

 

「・・・そうだな」

「あら、残念」

 

「・・・仕事だけしていろ」

「はいはい。それじゃあまたね」

 

適当に挨拶だけして、エスデスたちの後姿をメラルドは眺めた。

 

「・・・・・・さて、私も仕事に戻らなくちゃね」


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