メラルド=オールベルグは暗殺結社オールベルグの後継者としてこの世に生を受けた。
幼少のころから暗殺技術を仕込まれ、暗殺のために厳しい訓練もしており、10にも満たないうちから人間を殺してきたサラブレッドである。
それに関して、メラルドは「つらい」「苦しい」「やめたい」と思ったことは無い。
暗殺をすることへの葛藤は彼女の中には無く、自然と彼女はそれを受け入れた。厳しい特訓でも、後味の悪い暗殺だとしても彼女はそれを受け入れる。
好みの相手がいたとしても、彼女は容赦なく殺すだろう・・・
受け入れたのには理由がある。
≪死はすべての人間に平等に訪れる≫
暗殺結社オールベルグが掲げていることが、彼女の中でしっくりと納得できるものであったからだ。
どんなに善人であっても悪人であっても、老若男女問わず、死ぬことだけは誰にでも訪れるもので、とても当たり前なことなのだ。
それが不幸な死であれ、幸福な死であれ、望まれても望まれなくても・・・人間はいつか死ぬ。絶対に死んでしまう。
でもそれは、悲しいことではないし、嘆くこともない。穢れでもなければ、忌むものでもない。
いつかは死ぬからこそ、人間は懸命に生きることができる。
いつかは死ぬからこそ、人間は次の時代への礎になることができる。
死ぬことそれ自体は、恐ろしいものではない。
いつかは死んだとしても、人は何かを残して、何かを繋いで死ぬのだから。
そうやって人間は歴史を紡いできたのである。
そんな彼女、いや、歴代の頭領たちも許せないものがあった。
_____________それが、正義の味方カッパーマンである
______帝国宮殿内にて
「久しぶりね、クロメ」
「近寄らないで」
「あらいいじゃない。ねぇ、ちょっと触るだけよ」
「絶対に触らないで」
「やだもう、つれないわねぇ。久々の再会なのよ」
「再会したくなかった」
特殊警察イェーガーズ所属のクロメに対して、メラルド=オールベルグは距離を縮めていた。
「クロメが嫌がってるんで、やめてあげてください」
嫌がるクロメを後ろに隠しながら、ウェイブがメラを制止する。それに対してメラはあからさまに嫌そうに表情を歪めた。
「どきなさい、童貞」
「どうてっ・・・じゃなくて、その、クロメと知り合いなんですか?」
「そうよ」
メラルドは短くそう答える。向けられたウェイブの視線にクロメも小さく頷いた。
「・・・敵だったけどね」
「そうね。懐かしいわぁ・・・姉妹揃って両手に花を楽しめたんですもの」
その言葉にウェイブは驚くが、クロメはすぐに「変なことはされてないもん!」と訂正をいれる。
・・・だが、その言葉を聞いたからか、ウェイブはしっかりとクロメを引き寄せた。
「昔のことはよく分からないですけど、クロメは今はイェーガーズの大事な仲間だ。嫌がってるなら俺は止めます」
「・・・・・・ふぅん。いい心意気ね」
メラルドは幼少の時から男嫌いの同性愛者である。
どんなに中身がよかろうが強かろうが、「でも男は嫌い」ときっぱりと言うほどの男嫌いである。
そんな彼女なので、基本的にウェイブに対しても塩対応である。
普段ならば多少戦闘をしてもいいだろうが、ここは帝国の宮殿でもあるし、彼は味方陣営の人間・・・メラルドは”今回は”クロメをナンパすることを止めておくことにした。
「・・・何をしている」
そこにやってきたのは、ウェイブとクロメの上司であるエスデスである。
「あら、エスデスじゃない!この童貞と会話してたから嫉妬しちゃった?」
「近寄ったら殺すぞ異常者」
エスデスは殺気を出しながらメラルドを牽制した。
台詞から分かるように、エスデスとメラルドも若い頃に面識があり、エスデスもクロメ同様の被害にあっているので塩対応MAXなのである。
「やだもうっ、照れて殺気を出しちゃう貴女も素敵よ」
「私の部下に手を出すな。それよりもカッパーマンの対策や情報収集はできているのか」
エスデスに問われたメラルドは「もちろん」と答える。
「帝都中で諜報活動はしているし、帝都の外からも情報を集めているわ。」
「それで倒せるか?」
「そこまでは分からないけれど、あの正義の味方は不殺生を貫いているもの・・・動きを止めるか、殺し続ける方法なら足止めはできるわよ」
さらりと恐ろしいことを言うメラルドに対して、ウェイブは更にクロメを引き寄せて彼女を警戒した。
「・・・まぁ、いい。ただ、イェーガーズに所属している私の部下には手を出すな」
「じゃあ、エスデスなら手を出してもいいのね」
「拷問室送りにしてほしいのか?」
「大胆で過激なところは好みね・・・でも、拷問室よりは貴女の部屋のベッドがいいわ」
「この場で殺されないことに感謝しろ」
メラルドの言葉にどんどん殺気が増してくるエスデスであったが、ウェイブが「隊長、そろそろ会議の時間ですから」と助け舟を出した。
「・・・そうだな」
「あら、残念」
「・・・仕事だけしていろ」
「はいはい。それじゃあまたね」
適当に挨拶だけして、エスデスたちの後姿をメラルドは眺めた。
「・・・・・・さて、私も仕事に戻らなくちゃね」