正義の味方が帝国を翔ける   作:椿リンカ

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ロッドバルト「自分が認識する現実と他人が認識している現実は全く違うもの…なんて、頭で理解しても気持ちは追いつかないものです。人間は所詮、自分が見ている現実こそ真実だと思ってしまう生き物なんですから。今回は安寧道の彼の視点です」


「助けてほしいと、願われた」

 

帝国において、金と権力はのし上がるためには必要なものだ。私はそれを身に着けながら、運よくオネスト大臣と親しくなるほどの権力と地位を手に入れた。

 

「あなたに頼みごとがあるのですよ」

「ほぉ、頼み事ですか」

 

チェス盤を挟み、駒を互いに動かしていく。私が好きなのは将棋なのだが、大臣が相手ならチェスのほうがいいだろう。

・・・チェスも将棋もルールは似通っている。だが、大臣はどうやらチェスのほうが性に合っているようだ。

 

「キョロクという地方の街を知っていますか?」

「・・・?えぇ、一応。あまり肥沃な土地ではない街ですよね」

 

「最近、その街に奇跡の体現者がいて、どうやら小さな宗教ができているとかなんとか」

「・・・奇跡の体現者ですか」

 

あぁ、胡散臭い。この世界に奇跡なんて存在するはずもないだろう。

 

「どうやら素晴らしい記憶力に予知能力、それに傷を癒せる力があるそうです。その人物を信仰する宗教組織らしいのですがね。貴方にはそこに潜入していただきたい」

「・・・ほぉ。潜入、ですか」

 

「このままいけば、愚かな民衆がどんどん信者になるでしょう。弱い人間は、自分を助けてくれる相手に依存するものですからね」

 

杞憂ではないだろうか。・・・と、思ったが、こういう時の大臣の勘はよく当たる。暴飲暴食酒池肉林がモットーのオネスト大臣だが、政治判断能力や先読みはかなり才能がある。

 

「貴方には潜入していただき・・・まぁ、好きに楽しくやってください。ただし、反乱を起こしそうなら奇跡の体現者である人間を始末すること」

「それはそれは・・・大役ですな」

 

「組織の中で派閥を作り、甘い汁を吸うのは得意でしょう?」

「・・・・・・えぇ、まぁ」

 

今もその真っ最中ではある。大臣なりのジョークのつもりだろうが、全然笑えない。

・・・だがまぁ、左遷ということではないだろう。

左遷するぐらいなら、この男は私をすでに殺しているはずだ。

 

「任せましたよ、ボリックさん」

 

 

 

 

キョロクにやってきて、宗教組織【安寧道】へと入信した。

・・・正確に言えば、入信したフリではあるが。

 

私の後にも自分の息のかかった人間をこちらに送り込んでくれるらしいし、私も自分の手札を増やす必要がある。

 

「ありがとうございます。皆さんのおかげで、助かる人々が増えました」

 

馬鹿な教主様だ。すでに幹部や信者の一部は自分の欲望を満たしているというのに我々を敬虔な信者だと思っている。

 

「いえ、教主様がいればこそです。我々の力なんて・・・」

「皆さんがいなければ、こうやって組織も大きくなりませんでした。・・・私だけでは、助けられる人間に限界があったでしょう」

 

・・・根っからの善人、根っからの馬鹿とはまさにこのことだ。

 

「これからも、もっと多くの人々を救いましょう」

「・・・えぇ」

 

「この世界には、飢えや病で苦しむ人々がいます。私にできることは限られていますが、より多くの人々が協力してくだされば、少しだけでも癒されるでしょう」

「・・・」

 

この国は、この世界は、不平等で出来ている。誰かの不幸や苦労が無ければ幸福は作られない。

 

この男が傷を癒したところで危険種に食い殺される人間はいるし、戦争で死んでいく人間はいる。

どれだけ飢えを満たしたところで、安寧道の力が届かぬ場所では飢饉で家族を喰らう人間はいる。

 

自分が見知っている場所から外の不幸にまで気を掛ける必要はない。

 

見知らぬ他人の不幸を知って、それに嘆き悲しむことに、意味はないのだ。

 

・・・そんな感傷に浸ったところで、何も救えはしないのだ。

 

 

 

 

安寧道の中で宗教反乱の兆しが見え始め、私が教主の暗殺計画に着手していた頃に特殊警察イェーガーズがやってきた。

どうやら私も革命軍に目を付けられたらしい。

 

・・・ナイトレイド、か。羅刹四鬼もいるから安心はしているが油断はならないだろう。

だが、こちらには帝国最強のエスデス将軍が護衛をしてくれるのだ。

もしもの時は安心である。

 

・・・・・・そう、思っていた。

 

 

ナイトレイドの襲撃した日に、私の前にカッパーマンが現れた。

 

 

「貴様・・・カッパーマン、なぜここに来た」

 

エスデス将軍があのふざけた着ぐるみ河童に問いかけた。堂々と表の扉から入ってきたそいつは、「・・・頼まれてやってきた」と答える。

 

「なんだと?」

「・・・彼に頼まれてきた」

 

カッパーマンはそのまま歩いて先に進もうとする。エスデス将軍が攻撃するが、彼はそれを受け止めて、言葉を続けた。

 

「・・・」

「君たちがよく知っている、安寧道の救主だ」

 

そう言われた瞬間、笑いがこみ上げてきた。

 

「は、はははっ・・・アハハハハハ!!!いよいよ私が邪魔になったのか、あの偽善者は!!」

 

ただの愚かな善人と思っていたが、あぁ、ちゃんと人間らしい

そうでなくてはならない!あんな絵にかいたような聖人なんぞ、ただの演技だったんだ!

 

「・・・彼は、ボリック君がナイトレイドに殺されると予知した」

「・・・ほぉ、そうかそうか。それで?」

 

 

「だから、私に・・・・・・・・・彼を助けてほしい、と」

 

 

・・・助ける?

私を?

 

私を助けるために、このふざけた正義の味方に頼んだのか?

 

「・・・ふざけるな。ふざけるなっ、ふざけたことを言うな!!!私はそんなことを頼んではない。私が邪魔だから!自分を殺そうとしているからだ!」

 

なんて嘘を吐くのか、それで私がそれを信じると思っているのか。

あぁ、まったく・・・なんて忌々しいんだ、あの男は!!

 

エスデス将軍がカッパーマンの進みを止めようとするが彼はたやすくそれを受け止め、交わし、着実に私に近づいてくる。

私の傍で警護をしているイェーガーズの小娘が刀を構えるが、その切っ先は少し震えていた。

 

「・・・天に迎え入れられることも幸福である、と。彼はそうやって民衆に説いている。だが、彼はその信念を曲げて、私に助けてくれと頼んだ。心に闇があっても、今まで教団を大きくしてくれた恩を返したいと」

 

「詭弁だ!私を救いたい?それならナイトレイドを始末すればいい!私の代わりに、あいつが死ねばいい!!」

 

エスデス将軍は攻撃をするが、その前に正面からナイトレイドらしき賊が侵入してきた。そちらも対処せねばならない将軍はそちらへと意識を向ける。

 

「クロメ!頼んだぞ!すぐに増援も来るはずだ!」

「・・・了解」

 

その間にも講堂で激しい戦闘が始まった。

・・・羅刹四鬼も、こちらにこれないようだ。まったく、使えない奴らだ。

 

「彼も言っていた。自分が死ねばいいかもしれない、と・・・」

「・・・」

 

「だがそれは、君を救うことにならない。彼はそう私に言った」

 

イェーガーズの小娘が骸人形と共に向かっていくが目の前の”正義の味方”に攻撃を防がれる。

 

「彼は、君を見捨てたりはしない。どんな形であれ、生きて、救われてほしいと願ったのだ」

 

小娘の攻撃を弾いたところで、更にナイトレイドの増援がやってきた。

その攻撃を防ごうと、小娘はそちらへと回るしかない。【八房】による骸人形も攻撃に参加せざるえない

 

・・・・・・詰み、とはこのことだろう

 

 

 

「・・・助けてほしいと、願われた」

 

 

 

「・・・・・・ふっ、ふふふ、ははははは!助けてほしい?いつも他人を助けてばかりのあの男がか?・・・馬鹿にするのも大概にしろ」

 

「・・・」

 

「自分のことを救えないような無力な輩が、他人(わたし)を救えるはずがない。救っていいはずないだろうが。挙句、自分が救えぬからと自分よりお人よしに押し付けるとはな」

 

「・・・」

 

「弱い人間に縋りつかれて、お前も可哀想な正義の味方だな」

 

逃げる暇もなく、正義の味方によって河童にされた

 

どうやらこの姿でも自分の意識はあるらしい

 

 

 

「・・・・・・彼は、私よりはきっと強いさ」

 

 

 

 




ロッドバルト「さぁ、これでキョロク編は切り上げですよ。いやー、死亡者0だと助けるシーンなんて無くてつまらないつまらない。・・・殺した先で助けて逃がすのだから、本当に面白味もないですよねぇ。葛藤も死闘も、すべてぶち壊しにするんですよ?チートっていうのは、そういうものです。死闘も茶番にするのですから、そんなものを見てもつまらないでしょう?」

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