【カッパーマン視点】
渓谷での戦いを止め、なんとか双方の合意を得ることができた。イェーガーズのボルス君とナイトレイドのナジェンダ君の判断に感謝するとしよう。
彼らも彼らで大事な戦いなのかもしれないが、人が死なないことに越したことはない。
「今回は仕方ないな。俺たちの仲間を助けてくれたんだから今回は引くぜ」
「・・・あぁ。無駄な戦いは止めるべきだし、誰かが危機なら助けるのが仕事だからな」
ブラート君の言葉に答えつつ、後から来るであろうクロメ君とボルス君をウェイブ君のところまで連れていこうとした。
どうやらウェイブ君はナイトレイドに飛ばされて、かなり遠方のほうにいるらしい。
帝具の力というのは千年経過しても凄まじい威力を出すもののようだ。普通の人間ならば死に至る攻撃だと思うが、彼も帝具使い・・・死ぬことはないだろうが、やはり心配だ。
ボルス君やクロメ君に近付こうとすると、私の腕を誰かが引き止める。
・・・レオーネ君だ。
「・・・あんたは、それでいいのかよ」
「・・・」
「人に優しくするのも助けるのも、そりゃあ良いことだ。でもあんたのそれは・・・型通りになってんだよ」
「型通り、か。厳しいね」
「今回も仲間を助けてくれたのは感謝してるけど、あんたは人のことに首を突っ込みすぎなんだ。なんでもかんでも助けなくてもいいんだ」
「・・・」
「・・・引き止めてごめん。ほら、さっさと行けよ」
「・・・すまない」
レオーネ君にそう答えて、ボルス君とクロメ君を連れて空を飛んだ。
かなり見晴らしもいいし、ウェイブ君がどこにいるかもわかりやすそうだ。彼もきっと、まだ戦ってると思ってこちらに向かっているだろう。
「・・・カッパーマンさん」
「なんだいボルス君」
「今回はクロメちゃんのこともあるし、ウェイブ君も心配だから引きました」
「あぁ、引いてくれて感謝している」
「・・・けれど、こちらも仕事です。イェーガーズとして戦えると判断したら、貴方とも戦います」
「・・・そうか。君も大変な仕事を請け負っているものだな」
「それでも、待ってくれている家族がいますから」
「・・・家族、か」
私も正義の味方になる前は、家族と言える親類はいたはずだ。
もう千年も前になると顔も声も朧気だが、良い思い出も悪い思い出も少しは思い出せる。
・・・自分が死にそうになった時のことは鮮明なのに、それ以外は朧気だ。
それほどまでに死ぬことが怖かったのか、それともこれもスーツにされた河童の呪いだろうか?
ボルス君とクロメ君をウェイブ君と合流させ、近くの街まで案内することができた。
クロメ君はすっかり私のことを怖がってしまったのか、ボルス君やウェイブ君にくっついていた。
・・・やはり怖がらせてしまったようだ。
大人げないことだっただろうか。あの場では無駄に戦うのは得策では無かったように思えたのだが・・・まだまだ私も修業が足りないな。
久々に隠れ村に立ち寄って水でも浴びようと、隠れ村へとやってきた。
「あれー?カッパーマンじゃん、久しぶり!」
声を掛けてくれたのはチェルシー君だ。
元々は帝国の田舎で役所に勤めていた女性である。彼女とは幼いころからの付き合いだったが、彼女が帝具であるガイアファンデーションを手に入れたことがきっかけで、こうして隠れ村へと引っ越してきた。
ガイアファンデーションの能力を駆使して、隠れ村への物資を手に入れたりと何かと働いてくれている。
かなり仕事のできる女性でもある。
「チェルシー君か・・・ほかのみんなは?」
「ランたちは子供たちと一緒にピクニックだよ。ガイたちも一緒に行っててさ・・・あと、ダイダラたちは危険種狩りだったっけ?とにかく、今は留守にしてる人たちが多いかなぁ」
「なるほどな。・・・私は少し水浴びをしに立ち寄っただけだ。水を浴びたらすぐに帰る」
「相変わらず休まないなぁ。最後に寝たのいつ?」
「・・・10年ぐらい前だった気がする」
「定期的に睡眠もとらなきゃ。どうせならちょっとだけ仮眠したら?今なら私の膝とか貸しちゃうよ?」
「しかし助けを求める人が・・・」
「・・・もう、ほらほら、早く水浴びして!それで仮眠!」
そのままチェルシー君に押し切られてしまい、河童の皿を潤してすぐにチェルシー君の家に連れていかれた。
ベッドに連れていかれたものの、被り物の幅があるせいか膝枕は諦めたらしい・・・とりあえずベッドで横になるように促された。
「確かに助けを求めてる人も多いけどさ、正義の味方ってのに依存させちゃダメよ?」
「依存させるだなんてそんな・・・」
「本当なら自分のことは自分でなんとかするのが普通なの!そもそも、人間の範囲内で済ませられることは済ませないとさ」
「・・・私はそれでも」
「わかってる」
「・・・」
「ほんと、お人よしっていうか、お節介ね。でもそういうところがいいところでもあるのよねぇ」
「いいところ、か・・・・・・いや、独りよがりの善人なのだろうな」
レオーネ君の言葉を思い出して、自分自身に失笑してしまう。
自分で分かっていたつもりにはなっていたが、やはり言われてしまうと少し辛いものがある。
・・・だが、正義の味方でいることだけが、今の自分の支えだ
・・・自分のために善行をする、か。まったく、死んだときから私は自分勝手極まりないな
「・・・正義の味方、やめちゃえば?」
「・・・」
「なーんて、言ってくれる女の子がいたらいいのにね。そうしたら、そのスーツの呪いも解けるかもよ?」
「・・・気を使わせてすまないな」
ほんの少しだけ眠って、また頑張るしかないだろう
今の私には、その生き方の選択しかないのだから
ロッドバルト「さて、次回はイェーガーズsideになるかもしれません。いよいよエスデス様の登場ですよ」