されど転生者は自動人形と踊る   作:星野荒野

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前話と一緒にすべきかも・・・。


第五話

僕は空気を落ち着かせるために、三河さんから一杯の珈琲を頂き、乾いた喉を潤した。

かなり好みの珈琲の味に満足したうえで、質問を続ける。

まだまだ聞かないといけないことはあるのだ。

もちろんそれが嫌な予感、目を背けている事態に近づくと分かっていてもだ。

 

「えっと・・・あと聞かないといけないことは僕の体のこと、どうして急に言葉とか理解できるようになったの?」

 

鹿角はしっかりと頷いてから頭を下げた。

それは礼儀の範囲を超えるほどの角度、九十度ピッタリなお辞儀だった。

 

「Jud,それについては謝罪を申し上げなければなりません」

 

僅かに、鹿角の声に反省の成分が込められる、それは僅かな変化であっても普段淡々として話す鹿角の言葉とは思えないほど、違って聞こえた。

その様子に僕は驚いて頭を上げるように言う。

 

「ちょっ、ちょっとまって、頭を上げて鹿角さん。謝罪ってね、えっと聞いても怒らないから話してくれないかな」

 

僕の言葉を聞いた鹿角さんは二度うなずいてから話し始めた。

 

「Jud,主様を生み出した転生装置ですが、損傷しておりまして修理を行っておりましたが、結果その修理が・・・」

 

鹿角さんの声は普段と比べて鎮痛を極めていて、あまりにも可哀想だった。

僕はそこまで鹿角さんが言った段階で察して言葉を引き継いだ。

 

「なんだ、それが遅れただけってことでしょう?別にそんなことじゃ怒らないよ、むしろ・・・(役得だったし)」

 

僕は最後を聞こえない程度の脳内音声で呟く、おかげでお姫様抱っこや、アーンが常習化したのだ、喜びこそすれ怒る理由にならない。

僕は鹿角さんの様子に気が付くことなくうんうんと一人頷いた。

むしろ、鹿角さんの悲しい謝罪成分込みの声を聞いていたくはなかったのだ。

そんなわけでさっさと次の質問に行く。

 

「それはわかった、その装置で僕の体を治してくれたと、じゃぁ次の質問、あの襲ってきた人たち、あれは何?どうして襲ってきたの?」

「Jud,あれは非合法の攻性咒式士達です。『屋敷』にある咒式具、それらを狙って襲撃してきました」

 

俺は嫌な言葉を聞いて口を曲げていた。

攻性咒式士・・・に咒式具・・・。

そろそろ目をそむけていられなくなってきた。

 

「咒式具ねぇ・・・えっと何か高級品とかある訳?」

「Jud,貴重な咒式具、珍しい魔杖剣など様々なものがこの屋敷の地下に保管されております、後でご覧になられてはいかがでしょうか?」

「興味があるから後でね・・・それにしても魔杖剣か・・・」

 

また嫌な言葉が出てきた。

僕はそろそろ核心的なことを聞くべき時に来てしまったような気がした。

 

「ええっと・・・今更だけど・・・ここどこ?この屋敷があるのってなんて国のどこかな?」

「Jud,ツェベルン龍皇国、三十五州の一つパルメラ州西端の辺境区、後アブソリエル公国国境竜保護緩衝区より三十五キロメルトル東南の位置が現在の屋敷の位置になります」

 

鹿角さんが何かを召喚できそうな呪文のように国名と長い位置関係を諳んじてみせる。

しかしそのなかでいくつもの・・・そう無視しえない言葉があった。

 

「ツェベルン龍皇国に竜保護緩衝区・・・あとはキロメルトルかぁ・・・」

 

俺は珈琲カップを丁寧に置いた後でぐったりと頭を抱えて蹲る。

 

「主様?」

「御加減でも悪いのですか?」

 

鹿角さんの声に、横から三河さんの心配そうな声が降ってくる。

僕は大丈夫とふらふらと右手を挙げて答えた。

その中で何を聞こうかと何を聞いたらもう逃げられないと確信できるか考えた。

そう、地名だ。

僕は蹲ったまま声を絞り出した。

 

「・・・エリダナって都市ある?あとは何とか都市同盟だっけ?」

「Jud,エリウス自治郡の郡都で、国土の東端、此方からほぼ国土の反対側、ラペトデス七都市同盟との国境にあり、四十年ほど前から両国家の交流のため両国共同で委任統治されている、観光と貿易と外交の都市、それがエリダナですが、ご存じなのですか?」

 

僕はさらに縮こまるように頭を抱えた・・・。

もう、もう逃げられない、理性が嘲笑うかのように彼女の言葉を耳にしてしまった。

この健康な体が恨めしい・・・元気にならなければ気づくこともなかったのに。

しかし、そうも言ってられない、そろそろ現実を直視すべきだろう。

 

僕は頭をあげて言葉を紡ぐ。

 

「『されど罪人は竜と踊る』・・・かぁ。転生先ならもっとましな世界に生まれたかった」

 

僕の呟きに鹿角が答える。

 

「『されど罪人は竜と踊る』何かの詩ですか?」

「そんなものだよ・・・さて、なにから話そうかねぇ・・・」

 

俺は投げやりに答えながら頭を悩ました。

今度はこちらの説明会になりそうだった。

 

『されど罪人は竜と踊る』それはとある出版社から発売されているライトノベルだ。

『咒式』という科学と魔法が融合した独特の技術を基にしたファンタジー小説ではあるが。

残酷ともいえる物語と表現方法、演出の仕方により「日本で最初の暗黒ライトノベル」と称される作品・・・。

ウィキペディア辺りを参照すればこんな文が乗っていることだろう。

この中で何が問題かとすればまっさきにライトノベルに相応しくない暗黒の文字だ。

可愛い魔法少女が可愛い装飾の施されたステッキを振り回すなんてのは幻想であり、その名前が示す通り中身はグロエロかつ残酷を通り越して悲惨かつ冷酷非情な救いのない物語が展開する。

その実態は野郎(一部女性が)魔杖剣を使って咒式振り回し、人や、"異貌のものども”と言われる化け物を惨殺していくような物語だ。

その登場人物の致死率は主人公系統を除き高い率を誇り・・・そういえば主人公の眼鏡の置台って一回か二回死んでたよな・・・。

主人公ですら死ぬそんな物語であり、まともに死ねれば幸い、死よりなお恐ろしいことがあることを教えてくれる物語だ。

 

何が言いたいかと言えば・・・。

 

「神様・・・転生先・・・変えてくれませんかね」

 

ぶっちゃけ絶望した。




正直難産。
嘘つかないために苦労しました。

第五話にして自分がどの世界に転生したか気が付いてしまった主人公

ようやくスタートラインに立ちましたが・・・走り出してくれるのでしょうか。

感想熱望します。

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