赤の赤色灯が室内を舞い、光を躍らす。
窓が無く黒に染まった部屋で唯一の光源である赤色灯がぐるぐると駄犬のごとく回転する。
異常を知らせるサイレンはうるさく、常に不快を掻き立て、忙しなく焦りを呼ぶ。
しかし室内の住人は完璧な動作を崩すことなく、作業を行う歩調は軍隊の行進のごとく焦ることはない。
各人が所定の作業を的確に進める。
全員が時々虚空を一瞬だけ見上げては戻す。
会話は無い、必要性がないのだ。
内臓された咒式機関がネットワークを通じ、声帯振動のような言語の発声という不安定な方法を用いることなく光速に情報を交換する。
しかし、この一瞬だけは、『けじめ』のためにも発するべきか、一つの人型は全体の判断を受けて音を発生させる。
「テスタ・・・」
言いよどむ。
それは本来ありえないことだった。
全員の動作が一瞬止まった。
しかしその意思は、言いよどむに値する想いは、全員が共通するものだった。
そして、再度一つの人型は言葉を紡ぎ結んでいく。
「ジャッジメント、我らが主様、お許しください。我ら自動人形は任務に失敗したと判断できます。ですがご安心ください主様。我ら自動人形が誠心誠意尽くします。ゆえにそれをもって判断ください。罰はいかようにでもお受けしますゆえに、ですから・・・ジャッジメント。私にのみその罰を」
咒式機関ネットワーク内の共通記憶領域が加速する。
自動人形たちは会話する。
しかしその一つの人型、頭に鹿の角のを思わせる大型咒式演算魔杖簪を付けた一体だけは揺るがない。
その視線を揺るがすことは無かった。
不安をあおるような振動がたびたび室内を揺るがす、しかしその中で彼女だけは、一点を見つめ続ける。
割れたグラス、流れ出す液体は血のように赤く、光のように淡い、それと合わせて必要の可能性が低いはずの用意された料理、人型が丹精込めて作り上げた料理が振動で揺られ地面に落下していても、彼女の服を汚そうとも、彼女は一点をゆるぎなく見つめる。
「予想される結果は二十五通り、最悪の可能性は0.27から0.45と判断されます。それでもお許しください。主様」
幾度もの謝罪の言葉、それが何を意味するのか・・・。
見つめる瞳の先、射抜くほど強くこめられた先には、ガラスのような透明な物質で覆われた球体のカプセル。
咒式駆動器。演算装置。生体演算器としてむき出しの何かしら巨大な生物の脳すら繋がれ、触手のごとく群れて張り出した人一人が入るカプセル型生体咒式装置がそこには鎮座していた。
中に浮かんでいるのは小さな小さな人影だった。
自動人形たちは会話する。