されど転生者は自動人形と踊る   作:星野荒野

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第二話

訓練を初めてから瞬く間に一ヶ月が過ぎた。

全身は筋肉痛で常に熱を持ったようにうなされるが、毎日の侍女達にお風呂でマッサージされているおかげで痛み軽減になっている。そんな痛みにもだいぶ慣れてきた。

そして槍斧を振り続けた手の平は豆が出来ては潰れて出来ては潰れと何度も繰り返すうちにほんの少しだけ手が固くなったことを自覚した。

そんな頃。

 

「ッ!!」

 

叫ぶ力すらもったいない。

これが今の俺の全力全開とばかりに俺は軸足が地面に沈むほど踏込む。

そして全身をコマのように一回転させて魔杖槍斧<砕きしものベヒモス>にさらに遠心力を上のせし大木に向けて振り抜いた。

そしてベヒモスは大木に当ったったと思ったその時、僅かな抵抗すら無く擦りぬけた。

俺は勢いを更に回転することで緩めながら態勢を整える。

大木は、まるで映像をスローモーションにするかのごとくゆっくり、周りの木に枝があたり、バキバキと圧し折りながら明後日の方向倒れていった。

俺は止めていた息を…自然と息が止まっていたのを意識して吐きだす。

 

「とうとう出来た…」

「Jud,計算数値の九十五.八九%出ていたと判断できます、素晴らしい結果です」

「おめでとうございます、主様」

「うぅ…ヨッシャー!!」

 

俺は感動のあまり片手を振り上げながら歓声を上げた。苦節一ヶ月の成果がやっと実ったのだ。

そんな俺の様子に鹿角と多摩川が微笑みで祝福してくれる。

 

「主様ご立派です」

「さすがであると判断できます」

「うん、ありがとう。はぁ~それにしても疲れた。これでやっと第一段階成功なんだよね。もしくは初歩の初歩」

「そうなります」

「次こそ私達との模擬戦になります」

「そっか…」

 

俺は振り上げた手を森の木洩れ日から透かして見る。柔らかかった手には止血用の咒式布が巻かれて痛ましくも一回り大きくなって見えた。

 

「成長の一歩だね、さて次を始めよう」

「Jud,」

 

俺は魔杖槍斧を背中に分割収納して背負うと二人を連れて屋敷の敷地へと戻った。

屋敷はこの一ヶ月でかなり修復されており、どうやったのか外面の風格すら新旧違っているはずの左右ですら区別は無くなっていた。

内装はさすがにまだだったが、それなりに見れるようになっている。

外の花壇もそうだ。三河と多摩川二人の努力によって美しい色合いを復活させている。

こちらは左右対称とはいかず、一部だけ地肌を覗かせた言わば練兵場を作ってもらった。

そこで戦闘訓練を行うことにしている。

今はそこに立ち、三河と数メートルを開けて相対している。

 

「それでは、戦闘訓練を始めます。互いに恒常咒式以外は使用しないように。主様は全力でどうぞ、三河は一本入れるまでです」

 

鹿角の説明に然りと頷く。

俺は再度背中からベヒモスを連結展開。

体全体の重さバランスの変化に耐えきれずよろめいて蹈鞴を踏んでからきっちり構える。

三河もそれを見た後に腰から魔杖剣を引き抜き正眼に構えた。そして半身に取ってこちらに剣を向けた。

 

「初め!」

 

鋭い鹿角の合図に俺は息を一呼吸おいてから三河に向って駆け出す。

三河は全く動くことなく待ち受ける。

俺はこの一ヶ月練習した横なぎの一撃を一回転して遠心力をつけて、ぶん回しながら三河の『胴体』に向けて放つ。

それを見て初めて三河が動いた。

大きく後ろにステップを踏んで後方跳躍。

俺は振り抜いたまま勢いを殺さず再度回転切り。

三河は下がらず一歩踏み込んできた。そして魔杖剣を両手で持ち構え迎え撃つ体制をとる。

剣と斧が接触、ガキン!っと巨大な金属音が鳴り響くと共に僅かな火花が視線を散らす。

反動が手に伝わりジンっと痺れる。と同時に今度は反発を利用した逆回転、体全体を浮かしながら左回り、反動を利用したそれは先より鋭く早く視線をほんの一瞬だけしか逸らさず斜め左上からの強襲!

三河は今度は受け止めずに大きくスカートを膨らませてしゃがんで回避。

完全に斧の遠心力に体が流される俺は、続いて持ち手を変えて脇からのベヒモスの石突で刺突。

反撃を狙っていた三河は魔杖剣でそれを弾き飛ばす。反応が早い!俺はコマのように回転を続け、弾き飛ばされるままに着地。

槍斧と二本足の轍を作りながら下がる。

 

「ふぅ…」

「大変良い動きであると判断します」

 

一瞬の攻防。息が詰まる。

しかし俺はこの体が恐ろしい。

今の動きすべてが俺が考えたのではなくこの体が動くまま、反応するままだったのだ。

ハイスペック過ぎるだろう。

 

「今度はこちらが参ります」

 

俺が自身に驚きを感じている間に三河が動く。

俺は構え治して迎撃準備。

だが三河が三歩の高速移動に次いで一気に刺突!早い!俺が捕えられない速度だが!体は反応。

自動迎撃装置が動くかのごとく、こちらも槍部分を使っての斜め下からの刺突。

剣と槍が交わり弾かれる。そのまま今度は縦に斧を回転。

 

「ッ!?」

 

驚く自分が回転する。地面が頭を擦りながら、ベヒモスと一緒に前転回転。そして地面から斧を振り上げての斬撃。

しかし三河も反動で下がったまま上半身を反らし回避。大

きく膨れ上がって舞い上がるメイドスカートが斧に切り裂かれ糸が舞った。

 

「つッ!!!」

 

付いていけない。

俺の思考が追いつかない速度での戦闘。

終わった後になって何をしたかを頭が認識する。

気持ち悪い。しかし更に僕は攻撃に映る。

槍での突き。迎撃され弾かれる。斬撃。楽しい!気持ち悪い…!

体が痛みを、無理な態勢と筋力の限界で攻撃を繰り出し、防御を行う。

それを完璧に受けては流し、鋭く反撃を繰り返す三河もかなりものだと思う。

互いの位置が入れ替わり、足が踏み出され、地面が抉られる。空気が耳鳴り、風が切り裂かれる。

 

「とッ!」

 

止まれ!俺は体を意志の力で止めに掛かる。

その瞬間を狙われた。

三河の横なぎの一撃が胴体を切り裂く!

受け止めるために立てた槍斧が一歩送れる。

 

「そこまで!」

 

互いにピタリと止まる。

切り裂かれたと思われた三河の攻撃は俺の脇腹寸前で停止していた。

俺の腕は受け止めるために出てはいたが伸びきる前。つまり負けだ。

 

「三河の勝利と判断します。ですが主様の動きは十二分であると判断できます」

「Jud,危うい場面が多々ありました」

 

二人から賞賛の言葉を貰う。

しかし、俺は素直にうなずけなかった。

ベヒモスを下し、酸素を欲して息が上がる。

その中で思考が戻ってくる。

 

「凄い…でもこの体むちゃくちゃだよ。俺が動く前に全部反応してる」

「しかし、咒式の支援が無い戦闘ですとこれでもまだ遅いくらいです」

「Jud、これに生体咒式士は筋力増加、反応強化の咒式を恒常発動しています。より厳しい訓練が必要かと」

 

俺はそれを聞いて呆れるばかりだった。

 

「それは、また、何とも…。もう俺はある程度でいいよ。そんな超戦闘は君達に任せる。後衛程度に自衛が出来れば十分だ」

「Jud,主様がそうおっしゃるのでしたら、それでもかまいませんが…」

 

どことなく三河が残念そうに告げる。

それを見て若干罪悪感に囚われた俺は言葉を返した。

 

「でも体が鈍らない程度はしっかり練習するから、三河、これからもよろしくね」

「Jud,」

 

そんなやりとりをしているとき屋敷から武蔵と村山が並んでやってきた。

二人はこちらまでやってくると、一つお辞儀をしてから武蔵が話し始めた。

 

「主様、訓練中に申し訳ありません、前回ご要望のありました、ウルムン人民共和国への渡航準備が完了いたしました」

「また、以前より調査を行っておりました、『曙光の戦線』の活動の活発化も確認できております」

 

二人の言葉に時が来たことを俺は理解した。

 

「始まる。いや原作は始まったというべきか。こっからだ。これからどう関わるかで俺の物語も決まる」

 

ちょっと格好つけた物言いだったが…俺の心にあったのはまさにこれだった。

 

「屋敷から脱却し、物語をせめてもの幸いに。みんな手伝って」

「「「「Jud,」」」」

 

ここにいる侍女一同の礼が揃って聞こえた。




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