されど転生者は自動人形と踊る   作:星野荒野

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第二章 我が背のナリシア(仮)
プロローグ1


新月の日、月が見えない静かな夜。冷たい風が吹きすぎる。

しかし星は残酷なほどに明るく澄んでいた。

それは見る人が見ればとても美しい日と感じたことだろう。

絶好の天体観測日和、もしくは愛を語らうには素敵な夜とでも。

毛布一つで互いに丸まって語らえばどんな恋でも成就しそうなそんな空模様。

しかし、それは空模様だけだった。

そんな奇麗な空模様も二人には関係ない。

いや意識する余裕がなかった。

その二人にとってそれは意味のないものだったから。

なんの助けにもならなかったから。

そんなものに意識を払う余裕なんて二人にはなかったのだから。

氷点下を下回る外気。

暖を取る方法はとうに失われ、残されたのは互いで僅かに身を寄せ合うだけだった。

固く尖った地面は冷たく痛い。草一つない荒れ野の大地は荒涼として無機質。

何も見えないその世界は残酷さを告げるだけ。

熱は奪われる方が、地面に倒れ伏すしかない二人にとって冷たい地面に奪われる方がずっとずっと多かった。

固い地面に頬をつけた一人が弱弱しく言葉を吐く。

もはやその一言が命を削るかのごとく弱弱しい。

もう一人も同じだった、しかし、僅かばかりに力のこもったそれは反論だろう。

互いの言葉が相打つ、しかし共に限界だった。

血が吐き出される。

喉は乾ききっておりただの言葉だけが喉を傷め続ける。

せき込む度に苦痛に体が歪む。

全身が痛む。もともとボロボロの体はここに来た間でさらに傷つき壊れきっていた。

僅かな会話だけでももう命を削り取るに等しかった。

それでも話すことを止めない。止めるわけにはいかなかった。

それは互いに祈り、いや願い、懇願であり希望の言葉であり、絶望だったから。

だから、一人がそれを持っていると気が付いた瞬間、もう一人は体を動かそうとした。

止めないと。

その狂気そのものの願いを止めないと。

しかし、もう、言葉は浮かばない、体も浮かばない。

できるのは、残酷なほどの絶叫と慟哭の涙だけだった。

ただ目をきつく瞑り紅い黒い血の涙を流すしか、絶叫を迸らせるしか方法がなかったから。

だからだろう。

それに気が付いたとき、彼は言葉を持たなかった。あまりにも非現実的だったからだ。

夢でも見ているそう思わずにはいられなかった。

出なければ、その人の物語は残酷に過ぎたから。

だから。

 

「ごめん、ごめんなさい、こんなはずじゃなかった。そうとしか言えない。だからごめんなさい」

 

それは言葉を、謝罪の言葉を発した。

しかし何を謝っているのか、それらには分からなかった。

 


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