されど転生者は自動人形と踊る   作:星野荒野

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第八話

翌日。

 

窓から差し込む光が気持ちが良い日。

雲一つない晴天の日だった。

朝はいつものように着替えを手伝ってもらい、朝の準備を終わらせていく。

食堂で美味しい朝食を頂いた後、昨日の予定通り咒式を学ぶこととなった。

 

「主様、まずは地下武器庫へと参ります、そこで主様に合う魔杖剣を見繕いましょう」

「そういえば初めてだよね、地下室って。なんかわくわくするなぁ」

 

今日は武蔵さん…武蔵に運ばれながら隣の鹿角と会話する。

さらに後ろには多摩川がしずしずと付いてくる。

 

「そういえば二人の腰のも魔杖剣だよね」

「Jud,」

「その通りです」

「それじゃあ鹿角のは?何も持ってないけど」

「私のは、魔杖簪、この頭についているのがそうです。大型咒式演算魔杖簪、名を私と同じ<鹿角>といいます」

 

確かに鹿角の頭には常に鹿の角を思わせる巨大な簪が付いている。

見た目は簪と兜を合わせて二で割った程度の外見だ。

常につけていて違和感がなかったが、鹿角によく似合っていると思う。

 

「それに咒弾やら演算器が付いているんだよね?重たくないの」

「いいえ、私が製造された時より着けていますので違和感を感じたことはありません。また同様に重たいと判断したこともありません」

「へぇー」

 

鹿角が済まし顔で頭の魔杖簪を撫でながら答える。

そんな様子に自分がそれを付けたところを想像するが…大きさ的に合わないだろうし何より似合わない。

どう想像しても何処かの地方の有名な赤い兜を付けたゆるきゃらサムライがいいところだろう。

そんな話をしているうちに地下室の扉の前にやってきた。

さすがに武器庫であるためか頑丈な鉄扉…本当に鉄かどうかは謎だが、金庫のような扉であった。

鍵穴は二つありそこに、鹿角と多摩川が合わせて認証装置を起動させて入力すると鍵が開く仕組みのようだった。

 

「頑丈な扉だね」

「貴重な資材などもありますので当然の処置です。また武器庫奥の工房には我々自動人形の製造設備があります。我々の事なので言ってはなんですか咒式法違反なので簡単に開けるわけにはいかないのです」

「ベぇ!?鹿角さん達って駄目なの!?」

 

咒式法違反と聞いて驚きの声を上げてしまう。

こんな美人で綺麗なのに何がいけないんだろう…。

 

「Jud,擬人と違い完全に人と区別が付きません。また内部にも違法素材が多重に使われております。他にもご説明するには難しい問題も多数内包していますので、見つかれば咒式士最高諮問法院から査問官がやってきます。人は人以上に優れた存在を生み出すことに恐怖を覚えるとか…そういうことらしいです」

「余計に街に行くのをためらう理由ができたな…」

「見つからなければ問題ないのですが」

 

鹿角が何でもないことのように言った。

 

「わざわざ危険を冒すのもどうかとね」

「そうですか、どちらにしろ主様のお望みの通りに致します」

「うん、まぁ、疑わしきは罰せずだと思うし」

「外見から見分けがつかないので私たち自身から明かさなければ問題はないのです」

「そ、そっか安心した……今は鹿角達ってえっと十二人だよね?製造設備があるなら鹿角達って増やせるの?」

 

ちょっとした興味から聞いてみる。

その質問をした瞬間鹿角がピタリと止まった。

何かまずいのだろうか?

 

「…材料さえあれば製造可能ですが」

 

僅かにためらいが感じられる言い方だった。

 

「お求めになられますか?」

「うーん、いや、ただの興味で聞いただけ、今でもみんなを覚えてないし、十二人は多いよ、それ以上はいいかな」

 

俺は無難な返答で答えを誤魔化した。

何か『うん』とは言ってはいけない雰囲気を察したのだ。

何かあるのだろう、鹿角さん達の製造にかかわる何かが……たとえば……人間を素材にしているとか。

され竜世界だと普通に有りそうだから怖すぎる。

出来れば鹿角達がそういった罪深い存在でなければいい、そう思わずにはいられなかった。

だが、もしそうなら…知らないふりをしておこう、そう思い密かに息を吐いた。

 

「でも、怪我は治せるんだよね?」

「Jud,頭部さえ完全破壊されなければ問題ありません」

「そうなんだ。そういえばそうだよね」

 

よくよく考えれば、三河さ……三河みたいに真っ二つにされた人間が生きて居られるはずがないのだ。

そこを考えればあれほ慌てる必要はなかったのに、咄嗟の出来事とはいえ難しい話だ。

 

「それでは開けます」

 

鹿角の合図と共にゴウン、と大きな音を立てて金属の扉が開いてく。

空気の管理もされているのか、プシューっと圧搾音も同時に聞こえる。中は階段があり二重扉となっていた。

その先の扉も認証があり、さらに鹿角と武蔵で操作をして開けていく。

そんな警備厳重な扉を開けた先が武器庫だった。

 

そこは静謐な空間。

光源は裸電球が並んだ天井。

影が多く薄暗い空間。

全く匂いもしない不思議な空間が武器庫であった。

しかし。

 

「っ!?」

 

圧倒された。

光が差し込んだ瞬間。

眠るように騒然と並ぶ研ぎ澄まされた刃が煌めく。

その無言の圧力に圧倒された。

 

「すごい……。まさしく武器庫だ」

 

並んだ刃、物騒なそれらはまさしく人を傷つける者たち……。

そこには、ほぼ通常の型と思われる鈍色の魔杖剣数十振りをはじめとして、手斧、長大な斧、単槍、長槍、馬上槍、杖、勺、短弓、弓、長弓、刀、二組剣、さらに俺が名前の知らない武器やそもそもどうやって使うのか分からない品までずらりと並んでいた。

さらに各種機関部やシリンダーの一部、倉庫の奥は工房になっているのか作りかけの部品をはじめ刀身、柄、持ち手、法珠、その他どこに使うかわからない機器に、それらを弄るための道具各種、それらが整然と並ぶ様子はある種の圧力となって押し寄せていた。

さらに壁の一面には各種咒弾も並んでいる。箱詰めされたそれらは大きさと用途ごとにきちんと分類されているが……その量は膨大で、これだけでも一回くらいなら小さな町ひとつ吹き飛ばせるんじゃないかと思う量が備蓄されていた。

 

「すごいな……そう…すごいとしか言えない」

 

武蔵にゆっくりと運ばれながら室内を見ていくが、ある種さわるのを躊躇ってしまうようなそんな空気が満ちていた。

 

「このまま、眠らせとくのが正解なのか使ってあげるのが幸せなのか…なんとも迷うところだね…」

「私達、自動人形の身としましては使ってこそ物は幸せであると判断します。特に主様のようにお優しい方でしたら間違った使い方はなさらないでしょう」

「物は使いよう、紙を切る鋏ですら人は殺せる、そうだね大事に使わしてもらうよ」

 

僕はしっかりと鹿角の目を見て答えた。

 

「Jud、そうしてやってください。それではどれを使いましょうか?、主様ですと、今は短剣、または短刀がよろしいかと」

「うーん」

 

俺は揃えられたそれらの物騒な気配から怯えつつ魔杖剣を眺めていく。

正直どれがいいかわからない。

となればもうピピッときた感覚で選ぶべきだろう。

そんな時だ、本当に感覚器官に電流が走るような一振りの刀があった。

 

「……これは?」

 

答えたのは多摩川さんだった。

 

「東方より流れてきました魔杖短刀、懐刀又は守り刀と呼ばれるものだそうです。名は<撫子の桜>」

 

多摩川が抜き出したそれを掲げて見せてくれる。

この中にあって一種独特の雰囲気を醸し出すそれ、薄い桃色の装飾が施され、引き抜かれた刃には桜の模様が掘り込まれていた。

美しい。純粋にそう思える何かがあった。

そして何より…守り刀としての思いが伝わる。

何か飲まれるようなそんな思いが込められた短刀。

純粋に見蕩れた。

俺はこれに惚れ込んだ。

 

「これがいい」

「ですが、これは練習用には向かない品です、どちらかと言えば護身用に分類される品で、さらに二連装といえ単発の魔杖剣です。咒式宝珠もあまり高位の咒式対応ではありませんが」

「そうなんだ、でも持っておきたい…確か、爆炸吼(アイニ)専用咒弾ってあったよね」

「ございますが?」

「それ、その咒弾二発入れといて」

「なぜでしょう?」

「最悪の時の自爆用、今の僕の思いにぴったり」

 

僅かに驚きの気配が三人からする、が俺としては譲れなかった。

短刀を受け取る。

くるりと抜いてピタリと首筋に当てる。

さらにそのまま腹に向けて垂直に立てる。

 

「ごめんね、みんなを信頼してないわけじゃないんだ、でもこれ一つあれば安心できる」

「説明を願います」

「『され竜』世界だとね、まともに死ねない可能性の方が高いんだ。体内に入ってくる咒式や、内臓抉られるようなそんな絶望的な相手とかそんな嗜好を持った相手が居たりとか…そんな時、咄嗟に自爆できれば気分的に楽だと思う」

「そんな時が来ないように我等一同がお守りしますが?」

「うん、だからこの刀は『守り刀』、引き抜かず、触らず、使わない。お守りのような物として持っておきたい。懐に納めるにはちょうど良いし、そんな刀であってほしい、これを使うときは最後の最後。みんなが居なくなったとき、死にたくなったとき、本当にどうしようもなくなったとき、これで自爆するよ」

 

俺はそうやってお腹のベルトに大切にそれを差した。

 

三人は何か納得したように頷いた。

 

「主様の思い理解いたしました。その刀が抜かれることの無いように我等一同が全力をつくします」

 

代表した鹿角が真摯に答えた。

 

「うん、お願い。絶対にこれを使わせないでね。約束」

 

俺は小指を立てて鹿角の前にだした。

 

「何でしょうか?」

「元の世界の約束の仕方なんだ、鹿角も指だして」

「Jud、」

 

鹿角が指を出すのに合わせてそれと自分の小指を絡める。

それからあの詩を歌うように紡ぐ。

 

「指切り拳万~嘘ついたら針千本飲~ます。指切った!」

 

最後に合わせて指を離す。

鹿角が僅かに目を開く。

 

「ずいぶんと物騒な約束なのですね」

「それぐらい大事な約束ってことだね。嫌だった?」

「いいえ、我等自動人形一同確かに約束をお守りします」

「うん」

 

僕は笑顔で頷いた。

これがフラグにならない事を願って。

そう思わずにはいられなかった。

 

次に探すのは今度こそ練習用の魔杖剣なのだが…並んでいる魔杖短剣からはピンとくるものが無かった。

 

「普通のってつまらないな」

「そうですか…今は練習用なのでこのあたりのが適当であると判断しますが?」

 

どうやら武器担当の多摩川さんが幾つも剣を取って見せてくれるが…どれもピンと来るものが無かった。

 

「こちらなど短刀でありながら業物なのですが」

「刀身は綺麗なんだよね…でも使ってほしいって気持ちが無い、多分俺の為の刀じゃないんだ」

「お気持ちですか…私達一同にはわからないモノ、難しいですね」

 

男の子だからだろうか、形から入りたい、魔法――咒式を使うのが第一だが、やっぱりやる気を出すためにもお気に入りの品でやりたい。

 

「勺や杖はお嫌いなのですよね?」

「うん、できれば前衛ができるのがいいなぁ…実際に俺が戦うことないけど刃に憧れるから。最悪弓でもいいけど…もと弓道部だから…いちいち残心までやってたら戦えない、けどやっちゃうみたいなことになるから、選びたくないな」

 

下手になれたものよりは一からの方がずっといいと考えていた。

 

「なるほど、でしたら主様に大きいですが、斧の系統はどうでしょうか?」

「斧か…あんまり気が進まないけど見てみよう」

 

三人の誘導に従って立てかけられたそれらを眺めるが…こちらにもピンと来るのが無かった。

なんというか上半身裸の筋肉ムキムキ男が持っていそうな、そんなのしかなく、自分が持ってるイメージできなかったのだ。

 

「うーん、最初のだから慎重に行きたいけど…お!?」

「気に入った品がありましたか?」

「うん、これ…これが使ってみたい…すこしピピンときた」

「これですか…ですがこれは…主様には少し大きすぎるかと」

 

かなり控えめな表現だが呆れたように言われたそれ。

皆の視線の先にあるのは壁に立てかけられた一本の長大な斧。

所謂ハルバートと呼ばれる種類の魔杖槍斧だった。

 

「これは、軍用の魔杖槍斧、『砕きしものベヒモス』です」

 

多摩川が説明をくれる。

 

「両斧部刃渡り三五七ミリメルトル、槍部刃渡り三二○ミリメルトル、機関部を含む全長二○二○メルトル一八口径回転弾倉式、最大量八発。全体換装重量十二キログラムル。完全軍用魔杖槍斧です。少々荷が重いかと…」

「うん、でも惚れ込んだ、これ使えるように練習する」

「……Jud,」

 

ものすごく不服、というか不安というかそんな雰囲気が全員から、ここにいる自動人形全員から噴き出してきた。

しかしこいつが使ってほしいと訴えかけてくるのだ。多分。

武骨な造りのその槍斧、刃の部分だけに薄っすらと波紋の装飾が施されたそれに俺の顔が写りこむ。

 

「綺麗……、うん、なんかもう一味欲しいって訴えかけてくるけど、使ってほしいとも言ってる。君に決めた」

「そうですか、主様がそうおっしゃるのであれば、全力でサポート致しますが…そもそもお持ちになることができますか?」

「…試してみよう」

 

そんなわけで、そっと武蔵から床に降ろされ地面に立った俺は、多摩川さんから魔杖槍斧を受け取る。

両手で渡されたそれを覚悟を持って慎重に受け取るが…。

 

 

 

ピンと腕が伸びてプルプルと震える。

肩が抜けそうなほど重圧がかかる。

腰がミシリと音を立てる。

膝がガクガクと音を立てる。

足の裏が地面にズブリと沈んだような気配がする。

 

 

結論。

 

「……重い」

「当然ですね」

 

全員が然りと頷いた。

 

だが、負けない!

皆に離れてもらった俺は気合を入れてそれを慎重に振り回し始める。

持ち手を変えて横なぎにグルリと刃が廻り、槍先がギラリと輝く。

そのままの勢いで振り上げてはよろめいて、地面に自重のままに振り下ろし地面に激突し火花をちらす。

それをクルリと縦に遠心力で回しガツンと石突を地面に叩きつける。

片手で支えるそれは自分の身長の倍弱ほど。

見上げる刃は鋭い。

さらに持ち手を握り締め、前方に突出し切り上げ、石突からの刺突。

さらに倒れこんで、槍斧ごとくるりとまるで棒高飛びのように反対側に着地する。

それを片手で再度回して支える。

魔杖槍斧はピタリと先端を上に向けたまま止まった。

もう一度横なぎを腰だめに、一閃、回転を維持したまま、斜め振り下ろし。

今度は地面に当たらず急停止。

そのまま再度突き出し、もう一度一閃、今度も綺麗に刃が回転する。

振り回せば回すほど体に馴染んでいくように……

不思議だ。

 

使える!

 

「なんで?なんでか使える……。すごく重たいのに…振り回すと体が反応する。ただ持つと重たいのに…なんだろうこの不思議な感じは」

 

眼を丸くしていた三人が静かに音を立てず拍手する。

 

「お上手です。以前使われたことがあるのですか?」

「いや、無い。でも…なんだろう、体が知ってるっていうのかな…そんな感じがする」

 

まさしくそのような感じだった。

重量的に無理なはずのそれを手足のように振り回せた。

振り回す瞬間だけ体が確かに反応していく。

 

「これなら咒式だけでなく近接戦闘の訓練もできますね」

 

多摩川がどことなく嬉しそうにいう。

 

「多摩川さんが相手してくれるの?」

「Jud,私と三河は護衛担当ですので、近接戦訓練は私達が致します」

「咒式そのものは私ですが」

 

鹿角が言葉を引き継ぐ。

なぜか武蔵は少しだけ涙目だった。

 

「私は筆頭侍女ですので、他にお仕事が…」

 

そんな様子に可愛そうになりポンポンと背を伸ばして頭を撫でてあげる。

 

「頑張って武蔵」

「Jud,主様」

 

武蔵は顔に微笑を浮かべるほど元気になってくれた。

そんな様子に若干羨ましそうな二人だった、が気が付かないふりをして言葉をかけた。

 

「それじゃ時間かかったけど外に出て訓練をしよう」

 

多摩川に斧を渡して、武蔵に御姫様抱っこされながら宣言をした。

 

 




主人公のチートの一端が明らかに。
しかし、小さいショタっ子が大きい武器を持つというのは何とも俺得な姿。

装備品
魔杖短刀<撫子の桜>
主人公自殺用の魔杖短刀。
され罪世界のまともに死ねない率の高さに絶望している主人公がもしもの時のために用意した自爆用短刀。
刃渡り九四ミリメルトル、機関部を含む全長一九四ミリメルトル。
八口径二連装薬室装填式、最大二発装填可能。
常に腹部に隠し持っている。
腹を切るか、首を刺すか、すぐに引き金を引き装填されている爆炸吼(アイニ)専用八口径咒弾を点火して爆死するか選択できるお勧めの一品。

魔杖槍斧<砕きしものベヒモス>
主人公の主装備、完全軍用魔杖槍斧。
現在は一本ものであるが、後に改造され背中に背負えるように分解される。
武骨な造りではあるが、刃に波紋のような装飾がしてある。
主人公が惚れ込んだ一品。
両斧部刃渡り三五七ミリメルトル、槍部刃渡り三二○ミリメルトル。
機関部を含む全長二○二○ミリメルトル、一八口径回転弾倉式、最大量八発。
全体換装重量十二キログラムル。
普段であると持つのが精いっぱいだが、なぜか振り回すことができる。
咒式法違反の可能性大の品。
ちなみに、改造後ではあるが恰好よく連結展開すると主人公はよろめいてしまう。
(それを見て自動人形達の回路はキュンキュンしてしまう)

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