ソードアート・オンライン アニマ~見た目は少女、中身はおっさん~   作:さんじぇるまん

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年も越してしまいました、なんとも不甲斐ない。
速さが足りない!
お待たせしてしまったのかな?
動画の方は、SAOゲーム発売前には投稿するつもりですのでよろしくお願いします。
今回の話の動画版は→http://www.nicovideo.jp/watch/sm19654845


四話 最初の決闘

 

 多くのユーザーが待ち望んだ楽園が、死の牢獄へと変貌してから早いもので二ヶ月が経過した頃。

 一部の高レベルプレイヤー……通称『攻略組』の面々の活躍により、ついに第一層が攻略された。

 続く二層はわずか十日で、三層・四層と順調に攻略が進み、今では最新攻略部を第七層としている。

 攻略の進まなかった二ヶ月まで、外からの救出を希望にしていた者も、

その大多数が変わらない現状に生きて帰れる望みも薄れてか、全体的に諦めムードが漂っていた。

 そんな中での攻略組の活躍は、まさに絶望を希望に変える健闘であったと言えるはずだ。

 かくいう俺も、希望をもらった側の人間であるので、攻略組には好意を抱いているし、賞賛もしている。

 しかしこのSAOの世界では、その攻略組の中に問題のある者が居る、なんて声の大きい奴が少数、喚いている。

 問題のある者と言われてるのは――ボスのラストアタックボーナスによるレアアイテム独占や、

高効率の狩場の占拠、価値の高いクエストを黙々と個人や仲間で回す――等を行う、

ベーターテスト上がりだから知っている知識により、チートを使っているような並外れたプレイをする者を、ベータテスターのチーター、略して『ビーター』と呼び、腫れ物扱いしている。

 晒しや罵りの横行していた俺の知るネトゲでは、こういうことも妬みとしてはあるのも仕方ないだろうとは思ったが、

命の掛かったこの世界で、一部の攻略を進め、強さを独占しているらしい人達を恨むのは、どうにもズレた考え方に思えた。

 自分から死ぬ可能性の高いエリアボスなどに挑み、帰還の一歩を踏み出そうとしている人間に、どうして悪感情が持てようか。

 むしろ彼らだけに戦わせるのではなく、俺も、俺たちも攻略組に!

 そんな気持ちが、俺を含めた他のプレイヤーの中に芽生え始めている気がした。

 だから俺たち三人の目標も、今は攻略組みに加わるになっている。

 攻略組に加われば、もしかしたらあいつに会えるかもしれないしね。

 

「ここが七層かぁ」

 俺、トリシル、ファルコンの三人は、解放の報せを受けてからすぐに七層へとやって来ていた。

 新調したてのカッターシャツの上にフルプレートで胸部を覆い、

移動速度を阻害しない程度の防御力を確保し、アクセントとしてネクタイを締めてちょっとだけお洒落をしてみた。

 下はデニムパンツのような半ズボンにし、とにかく動きやすさを重視させた軽装で決めている。

 まだ春先だと言うのに、おへそが見えるシャツに、脚の露出も多いパンツはいささか寒さ的に考えて問題がある気がしないでもないが、そこは現実であれば、であってゲームでは多少根性でどうにでもなる。

 この世界では風邪をひくこともなく、結局肌寒さなんてちょっと感じる程度なので、見た目と性能を重視して、やはり今の装備は譲れない。

 ちなみに、トリシルとファルコンも装備の新調をしている。

 トリシルも軽装ではあるが、防御力と機能性を重視したレザーコートに各種防具を。

 ファルコンは見た目こそ初期装備とは変わらないが、基本的に防御力を上げることを重視し、動きやすい程度の防具を着こなしている。

「なんかさ、新しい層にくると新鮮な感じしない?」

 町並みを見回し、年甲斐もなくはしゃぐ。

「新鮮ってのは否定しないが、俺はまだ七層かと思うとうんざりするよ」

 なんと、若いのに後ろ向きな意見。

「暗く考えたらあっという間に老けるぞ?」

 若さは精神的な健康も大きく関係者するのは、この歳になることでより強く感じる。

 それにやっぱ若さって元気のよさだと思うんだよね、おじさん。

 職場に新しく若い子が入ってくれると、それだけ活気も生まれるし。

 やはり彼のような若い子には、その辺りの元気というものを持ってほしいものだ。

 男の子だしね。

 対するファルコンは、いつも無駄に張り切ってるし。

 やっぱ若いならああいうにぎやかさ、欲しいよな。

「あれ、そういえば……」

 そこで、ふと気づく。

「そういえばあまり人、いないよね」

 まだ七層は解放されて間もない状態で、通例だと今頃はどこも人でごった返しになっていたものだ。

「言われてみれば、確かにそうだな」

 トリシルも周囲の違和感に気づいてか、辺りを見回す。

「ふふふ、その理由を教えてあげよう」

 しかし一人だけ、状況を理解している者がいた。

「ベータテスターである、この俺がね!!」

 見事なドヤ顔の、ファルコンだった。

「実はこの層には闘技場があるんだ」

「闘技場?」

 ローマのグラディエーター的なやつだろうか。

「モンスター同士を戦わせる施設で、お金を賭ける事ができるんだよ」

 モンスター闘技場。

 その昔に、ドラクエであったようなやつか。

「闘技場ねぇ」

 そんなものもあるのか、といった感じのトリシル。

 どうやら彼も、その存在について全く知らなかったようだ。

 

「どう? 面白そうだろ?」

 目を輝かせて話しかけるファルコン。

「別に、俺は興味ないな。何が面白いんだ、賭け事なんて」

 対するトリシルは冷め切っていた。

 ま、興味ない人は興味ないもんな賭け事って。

「賭けかー、確かに面白そうだな」

 賭けと聞くと……男としてはやはり、血が騒ぐものがある。

「ユナ、興味あるのか?」

 と気のある台詞を出すと、ファルコンはすぐさま飛びついてきた。

「いやぁそれでも賭け事はちょっと、やらないって決めてるんだ」

 しかし、そう。

 俺は決めたのだ。

 賭け事は、やっちゃ駄目だと。

 スロットで大損こいてしまって以来、ね。

 

「そっか、うん。それならこの層の狩り場行く?」

 ちょっとしょげた様子を見せたファルコンだが、すぐに切り替えて提案する。

「今なら闘技場に行ってる人も多いから、もしかしたら狩場空いてるかもしれないぞ」

 なるほど、それは名案。

 基本的に最新層の狩場は攻略組みか、準攻略組みが先取りしてしまうため、

俺たちのような攻略組み手前の奴らは効率の良い狩場を使えないでいる。

「よし、そうと決まれば行こう! あわよくば、私たちも攻略組み入りだ!」

 俺は気合の号令をかけ、街の外へ進路をとる。

「おー行こうぜー」

 それにファルコンは気持ちよく乗り。

「装備とか用意は大丈夫だよね」

 トリシルは堅実に、確認をした。

 ん、準備?

 あ。

「……ちょっと買い物してくるね」

 大切なことを忘れるところだった。

 なんか、かっこよく号令かけたのにコレだから、締まらなくなった。

 うう、恥ずかしい。

「ユナは、なんか相変わらずだな」

「本当、相変わらずだ」

 トリシルは頭を抱えて、ファルコンはニヤニヤして言う。

「な、なんだよぉ」

 二人とも、あまりおじさんをからかうもんじゃないぞ。

 

 

―――七層 フィールド、狩場

 

 

「結局、何を買いに来たのかと思ったら……それか」

 道具屋から買った(無料配布なので、正式には受け取ったかな?)のは、ガイドブックだ。

「そう、あると何かと便利じゃない?」

 これには、エリアの攻略情報やクエスト情報が書かれている。

 ただ表紙下部に書かれてる『大丈夫。アルゴの攻略本だよ』という一節が、

ネタ元を知ってる年寄りの俺からすると不安を煽る仕様だが、内容は折り紙つきだ。

 最新層に行く度に、いち早く内容が更新されるのもありがたい。

 アインクラッドの冒険の、心強いお供である。

 

「へぇ~」

 俺とファルコンは一緒になってページを繰り、内容に感心する。

 毎度のことながら、詳細な地形と出現するモンスター、ドロップアイテムまで網羅してあるってのはどういうことだ。

 こいつを作った著者は、相当な凄腕ゲーマーなんだろうな。

「二人とも、仲が良いとこ悪いけど」

「ん?」

「どうやら一足、遅かったみたいだ」

 見れば、フィールドにはモンスターと戦闘するプレイヤーが何人も居た。

 どうやら考えることは皆、同じだったようだ。

 

「仕方ない、夜にしよう」

 現状から無難に、トリシルがそう切り出す。

「「えー……」」

「文句言うな、シンクロすんな」

 そうして俺とファルコンのうんざり声を一蹴して、街へと引き返す。

 夜狩りか、あれは嫌だな。

 なんか夜になるとモンスター凶暴化して、いつもより多く回復アイテム使うことになる。

 さらに、遠いところにいるモンスターも異様によってきたりするので、

囲まれてピンチになりそうだったら必死に逃げるを繰り替えすことになるのだ。

 今のところ、トリシルの《策敵》と俺の《聞き耳》のおかげか、

絶体絶命なピンチの状況にはなっていないが、夜の狩りは気分の良いものじゃない。

 

 とりあえず、夜までは時間がある。

 なので先に街の広場で情報を集めることにした。

 

―――七層 街の広場

 

 今や街の広場は、プレイヤーのクエスト情報コミニティ的な集まりを自然と作っている。

 それも攻略に対しての意欲が生まれた結果の産物だ。

 それぞれのプレイヤーが、経験したクエストなどの情報を持ち合って、

互いに益を出していこうという前向きな集まりである。

 ま、それも表向きの理由なんだけどね。

 人間やはり欲があるのか、それでもやはり身内にしか有益なクエスト情報を教えあわないところがある。

 なのでこの集まりの本懐は、思い思いに集まった人たちの新着結果発表会みたいなもんだ。

 俺はここまでやった、お前はどうだ。

 そういうのを確認しあって、お互いにモチベーションを上げあっているのだ。

 

「さぁ気を取り直して! 今日も元気にクエスト漁るぞ!」

「ユナの復帰の早さは尊敬するよ」

「そう? 早く頭を切り替えないとね、損しちゃうよ」

 それでも有用なクエストが全くないわけじゃない。

 たまに転がっているその優良クエスト目当てで、俺らのように集まる人は絶えない。

 

「なんか知らん?」

 手近なプレイヤーに声をかける。

「クエスト? 色々あるよ」

 そうして俺たちは、コミニティでの情報交換を始めた。

 

数分後

 

「良いのないなぁ」

「そうだな」

 設置されたベンチにトリシルと腰を下ろし、聞いて回ったクエストの内容にため息がでる。

 やはり、そうそう優良クエストの情報はない。

 最新層に来たと言っても、まだ日が浅いから仕方ないんだけどね。

 

「でさ、それが面白くて――」

 ん、《聞き耳》スキルが会話を拾ってる。

 そういえばさっきフィールドに出たからか、このスキルをパッシブ使用にしてた。

「そのNPCの話だと、《体術》スキルが習得できるんだと」

「《体術》? なんだそりゃ……」

 スキル使用を切ろうと、メニューを操作していた手が止まる。

 今、なんて言った。

 思うが早いか、俺は会話をしていた二人の元へ近づいた。

 

「え、誰? 君」

 ズカズカと真っ直ぐ近づいてきた俺の行動が理解できなかったのか、一人が困ったような顔で尋ねてくる。

「《体術》スキルの習得はどこでできる?」

 だが俺はその質問に答えることなく、用件を切り出す。

「え?」

 自分でも大人気ないと思うが、俺にはそれがほしかったのだ。

 昔の癖でたまに拳が出てしまうが、ソードスキルではないので酷い威力なのだ。

 そこに、拳で攻撃できると噂の《体術》スキルの話。

 いままで持っている奴の情報はあっても、どこで取れるかは謎だった。

「どこで受けられる?」

 それが習得できると聞こえれば、詰め寄らずにはいられない。

「二層だけど……」

 観念したのか、《体術》スキルの話を切り出した方の男が答える。

「二層の、どこ?」

 そうそう、その調子で教えてくれ。

「詳しくはアルゴって奴が知ってるから、そいつに聞いてくれ」

 詰め寄ると、一歩下がった彼は困った顔でその名を口にする。

「アルゴ? もしかして、攻略本作ってる人?」

「そう、そいつ情報屋なんだ。体術スキルのことはそいつが詳しい」

 情報屋。

 なるほど、通りで色々と詳しいわけだ。

「呼んであげるから、情報料とか用意しといた方が良いよ」

 やった。

 頭はもう、《体術》スキルのことでいっぱいだった。

 

 

―――二層 フィールド出入り口前

 

 

 アルゴというプレイヤーは、意外にも低めの身長のフード姿の女の子だった。

 宇宙海賊やってたネオロシア代表の屈強なガチムチ男とは思えなかったが、

もっとインテリの入った狡猾そうな眼鏡男かと思ってたんだけどな。

 そう、トリシルみたいな子をイメージしてた。

「七層になったら、真っ先にこの注文があると思ったヨ」

 開口一番。

 両の頬にヒゲを模したペイントをしているフードの少女が言った。

 しゃべり方がどうも特徴的で、語尾が鼻音が被さって少し甲高くなっている。

「後ろのお二人サン。あんまり乗り気じゃないように見えるゾ」

「大丈夫、二人も《体術》スキルを受けるよ!」

「微妙にズレた返答するお穣ちゃんだナ。で、いいのカ? ご両人はサ」

「うん、もう諦めてる」

「右に同じ」

 トリシルとファルコンは、なんだかんだで大人しくついてきてくれていた。

 流石は俺の選んだ仲間たちである。

「なんか、あの二人を思い出されるやり取りだナ」

 何かを思い出すように、二人の様子を見たアルゴちゃんが一人で納得する。

「それじゃ、アルゴちゃん。案内お願いするよ」

「情報料は貰ってるからナ。行くゾ」

 場所を地図に書き込んでもらうでも良かったが、

確実性を優先して、俺たち一行は彼女へ案内を申し出た。

 すると彼女は二つ返事で承諾してくれた。

 忙しい身だろうに、同行を決めた理由を聞くと、

「お前たちと一緒だと稼げそうな話が聞けそうだからナー」なんて答えてくれた。

 その理由の情報は、サービスらしい。

 

「そういえば、アルゴちゃんは色んなことに詳しいね」

「まぁナ。情報屋が情報に詳しくなかったら、商売できないダロ?」

「ごもっともで。なら、一つ聞きたいんだけど良い?」

 情報にはかなりの自信があるように見える。 

「見合った金額を払ってくれるなら、いくらでもいいゾ」

 うーん、しっかし商人してるなぁ。

 

「それなら聞きたいんだけど……」

 ちょっと気になった事を聞きながら、俺たちは《体術》スキルを習得できるらしい場所へと向かった。

 

 

―――数日後の七層 宿屋

 

 

 《体術》スキルは、未開の地を超えに超えた場所で受けられ、

その内容は『大岩を壊せ』というものだった。

「いやーキツかったね! 力には自信あったんだけど」

 SAOではレベルが上がる毎に、

加算された3ポイントを筋力か敏捷性に能力値を振り分けるシステムになっている。

 俺はそれで結構、筋力に振り分けていたんだけど。

「いや、あれはそういう問題じゃないだろ。ファルコンもまだ掛かって遅くなるみたいだし」

 確かに、あれは凄かった。

 壊せと言われても、どう見ても破壊不能にしか思えなかったからな。

「ちなみに、ユナは何日掛かった」

「んーと」

 そう、大岩を砕くには日数が掛かるのだ。

 壊れるのかもどうかも怪しい岩を攻撃し続けるのは、なかなかしんどかった。

「二日くらいかな」

 最後辺りは、ひたすら腕の痛みがない事を良いことに、本気の本気で拳を打ち込みまくってたな。

 しかしあのクエストは、そもそも思い切りを試していたようだ。

 相手が拳よりも強い岩だから、気持ちが躊躇してしまうが、

要はその躊躇をどれだけ早く無くすことができるかという話だった。

 まぁ、かなりの割合で筋力パラメーターも必要そうだったけどさ。

 

「……そうか、二日か。意外に早いだな」

 見れば、トリシルがうな垂れていた。

 どうやら、か弱い女の子にしか見えない俺が、

先にクエストをクリアしたことがショックだったらしい。

 これも年季の差だよ、なんてドヤ顔をして良いたいが……今は黙っておこう。

 一応、おじさんはか弱い女の子って設定だし。

「そうだ」

 そう言えば、七層に来るまでにある事があった。

「ここの来る途中にさ、親切な人に会ったんだよね」

「親切な人?」

「そう、露天を出してた人でさ。なんて名前だったかな。

なんか日本人離れしてる人で、ガチムチのハゲの人。

最近、《体術》を覚えたって話をしたら良い防具を格安で譲ってくれたんだよ。

二層を攻略した後に、友人から行商道具と一緒に貰った防具らしいんだけどさ」

 防具を実際に見せようと、メニューを操作する。

「へぇ、どんな防具」

「二層の防具でもかなり強化されてて、防御力もそこそこ高い。さらに筋力ボーナスもつくんだ。

あ、あった。これこれ」

 見つけた『マイティ・ストラップ・オブ・レザー』を選ぶ。

「でも珍しいんだよ、この防具」

 そうして、装備。

 

「なんかこの防具の上から、別の服着れないらしくてさ」

 すると俺の――美少女アバターユナの服装が変化する。

「強制的に半裸になるんだけど、良いよね」

 簡素な布を本当に大事な部分を隠した程度で、ほぼ全裸みたいな格好になった。

 こいつを着た瞬間、ある一つの想いが俺の中で強くなった。

 製作者、なんてものを作ってくれたんだ。

 良いぞもっとやれ、という気持ちになった。

 痴女みたいに見えるが、これは筋力ボーナスが良いからつけてると良い訳ができる辺り素晴らしい。

 真のエロスなら、良い訳することなく堂々と変態装備を着るだろうが。

 ことおじさんのようなピュアミドルには、そういう都合の良い設定がありがたかったりするのだ。

 それに、トリシルだって良い年の男の子だ。

 可愛い子の半裸姿、見て嬉しくないわけがない。

 そのままで良い、なんて言ってくれるかもしれない。

 

「なんて格好してんだああああああああ」

 と思ったら、赤面して叫んでいた。

「着替えろ! そんな、おい、恥ずかしくないのかよおおおおおおお!?」

「うん、まぁ?」

 おじさん自身が裸になってるわけじゃないし。

「おかしいだろおおおおおおおおおお。どんだけ箱入り娘だったんだよ、ユナは!!」

 相当信じられない様子で喚くトリシル。 

「もう、なんで俺が恥かしがってんだよ……着替えろ! 絶対着替えろよ!」

 まさかここまで動揺されるとは、予想外だ。

 そこまでされると、こっちまで恥かしくなってくるから困る。

 

 

「いやぁ、時間かかった」

 と、そこへファルコンが入室してきた。

 入って早々、俺の姿を見るなり、停止した。

「え、何その格好」

「筋力ボーナスが上がる装備だから、仕方なく着てるの」

 ファルコンは、じっくり

 あ、そう見られると凄く恥かしいな。

 思わず、ギリギリ隠してるところを手を使って隠す。

 するとファルコンの目力が、いっそう強くなったような気がした。

 うわ、女って見られるとこんな想いをするもんなのか。

 おじさんも、これからはあまりジロジロ見ないようにしよう。

「ファルコン、見すぎだよ」

「あ、えっと、ごめん。でも……そ、そのままでも良いんじゃない?」

「駄目だろおおおおおおおおおおお! 出てくぞ、ファルコン!

絶対着替えろよ、ユナ!!!」

 トリシルは思いの外、ウブな子だった。

 でもそのおかげで、ファルコンのおかげで羞恥心を感じ始めた格好を着替えることができた。

 うーむ、女の子の体も考え物だな。

 

 

―――翌日の七層 狩場

 

 

「隠れた狩場?」

 翌日、ファルコンの情報から俺たちはフィールドの奥へとやってきていた。

「そう、情報屋から買ったんだ。

そこにはプレイヤー一組しかいないから、そいつらがいない間なら狩れそうなんだ」

 ま、他の狩場なんて最低でも2~3組が順番待ちしてたりするし。

 とかなんとか思いながら、目的の場所に到着する。

 

 が。

「うわーいるなー」

 すでに、そこに狩りを行っている一団がいた。

 どうやら例の一組とかち合ってしまったらしい。

「昼間だし、夜に行くか」

 ここで俺たちは、トリシルのその提案に素直に従ってその場を後にした。

 しかし夜に行っても、変わらず彼らはその狩場を使っていた。

 

二日後

 

「おい、そっちだ!」

「スイッチー!」

「スチッチー!!」

「スイッチだっつんだろおおおおお!」

 

 独占されている。

 確信を持ってそう言える。

 狩場でモンスターと戦ってる一団は、狩場の独占をしていた。

 

 これは流石に問い詰めに行こうと体が動こうとした。

「ん?」

 そこで、トリシルの半身が視界に入ってくる。

 どうやら、話をしに行こうとしたのは背後にいたトリシルも同じだったようだ。

 ここは女の姿であるおじさんより、彼の方が強くでれるかな。

 俺はそう納得し、進みかけてた足を止めた。

 そうして彼は無言で集団へと近づこうとした所で――

 

「まぁ待てよ」

 

 ――彼を背後から、制するものがいた。

 

「ッ!?」

 驚いて振り返るトリシルだったが、姿がない。

 どこだ、視界を動かすと。

 男だ。

 この場にはいままでいなかった男が、いつの間にか集団に歩み寄っていた。

 そうして一団へ、声をかけるのかと思ったら、違った。

 

 男は突然、集団が狩っていた近くのモンスターに対して持っていた大剣で、攻撃を始めた。

 所謂、横狩りってやつだ。(たぶん)

 

「おい、ここは俺たちの狩場だぞ。何を勝手に……」

 狩場独占してる奴が何を、とも思ったが、先にいたグループのリーダーらしき奴が、

怪しい男に近づいて言った。

 ちなみに、この会話はおじさんの聞き耳スキルで聞いているぞ。

 ただ流石にマナー違反行為であるそれは、マナー違反者である彼らの気に障ったようだ。

 

「えぇー?」

 これに男は、すっとぼけた声で応じた。

「別にいいだろ? 文句あんの?」

 続いて、相手の神経を逆なでする台詞を、彼は言ってのけた。

「ハァ!? あるに――」

 これを聞いたリーダーらしい奴は、カチンと来たのか声を荒げて詰め寄ると。

「じゃぁさぁ」

 彼の目の前に、アイコンが現れた。

「勝負しようぜ。俺はPKじゃねぇし。『正当』なデュエルで、さ」

「は、だって、これ……」

 リーダーが表示された対戦指定アイコンを見て、息を呑む。

「あぁ、俺中途半端は嫌いだからさぁ」

 そこで男は一歩前に出て、ずぃと顔近づけて一言。 

 

「賭けるのはこの狩場と、互いの『命』だ」

 大きく見開いた両目で相手を飲み込むように見ながら、そう提案した。

 

「な……に」

 拒否することは、可能だ。

 対戦は相手に内容を確認させるために、申し出側の突きつけた内容に手が出せるようになっている。

 だが彼は、そんなことはしなかった。

 分かる。

 彼は恐怖していた。

 今取り合おうとしているのは、これから続く100層のフィールドの、たった一つの狩場だ。

 こんな狩場一つには、命を賭ける価値なんてない。

 だと言うのに、妙な男はそれをなんのためらいもなく賭けて挑んできた。

 そんな異常な条件を突き出した奴が、目の前にいることに恐怖していたのだ。

 不気味で仕方ない。

 そうしてリーダーは、同時に思ったのだろう。

 こんな奴に、これ以上は関わりたくないっと。

 

「か、狩場やるよ! い、行くぞ!」

 だからそう叫ぶと、仲間を引き連れてその場を後にした。

「あ、ああ!」

「おう!」

 仲間たちもそれを察したのか、リーダーに倣うようにこの場から離れていった。

 

「教えてやるよ、初心者(ニュービー)」

 そうして一団が消えたところで、妙な男は振り返って言った。

「狩場が欲しけりゃ、こうやって奪うもんだよ。

『話し合い』(チャット)じゃなくて、『暴力』(デュエル)でな。

だってさ、まどろっこしいだろ? そんなこと一々してたら。

ここは強い奴が先に進んで、弱い奴が引きこもってる世界なんだ。

もっと、その辺り自覚しないと――死んじゃうんじゃない?」

 ぎくりとさせられた。

 死ぬ。

 その言葉に、自然と体は固まってしまっていた。

「じゃあね」

 気まぐれだったのか。

 妙な男はつまらなさそうに、ただそれだけを行って立ち去った。 

 

「だからって、こんなの」

 おかしいだろ。

 仲良しこよしなんて、やっても意味はないのは分かる。

 しかし、今、それがまかり通ってしまった。

 ここはおかしい場所なんだ。

 いや、正確に言うなら、おかしいことも許される世界なんだ。

 明確なルールで、人間性を縛られていないから。

 ああいう邪道も許される。

 ここは、そういう世界でもあったのだ。

 いままで、慣れてきたことで忘れてしまっていたことを。

 俺は改めて思い知らされることになった。

 

「これはゲームであっても遊びではない」

 

 確かそんな言葉を、ゲームの始めに聞いた気がして――

 それはこういう意味を持っていたのかもしれないと、考えさせられた。




最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
次の話は、なるべく動画の前に出したいと思います。

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