ソードアート・オンライン アニマ~見た目は少女、中身はおっさん~   作:さんじぇるまん

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ニコニコ動画に投稿する予定の二話と、投稿した一話との間の話です。
動画二話→http://www.nicovideo.jp/watch/sm19654845
ちなみにおっさんの友人側のSAO→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1593354


三話 はじめてのクエスト

 デスゲームが宣言されてから三日目。

 俺達一行は始まりの街から近くにある民家と商店合わせて十数棟ほどの小さな村、『ホルンカの村』までやってきた。

 それまで、ファルコンの師事のもと俺とトリシルはβ時代に確立された『威力ブースト法』を練習していた。

 おかげで俺はたまに、ファルコンは何度か、トリシルはほぼ確実にそれができるようになっていた。

 ちなみに『威力ブースト法』とは、ソードスキル使用時に半強制的に動く体に、自分の意思で動きを同調させることによって威力を上げる方法である。

 しかし、これがまた難しい。

 ちょっとでも動きが違うとシステム側がスキルキャンセルを行ったと判断し、発動中であってもソードスキルのシステムアシストが打ち切られるのだ。

 勿論、いくらスキルを途中で止めてもスキル使用後の硬直が無くなるわけではない。

 なので確実にできないのであれば、戦闘で使うのは避けた方が良さそうだ。

 成功率の低かったおじさんなんて、特にね。

「クエスト?」

「ああ、このホルンカの村には片手剣を装備してる奴なら絶対にやるべきクエストがある」

「なるほど、ついてきてほしいってつまりそこに行きたかった訳か」

 このSAOにも、難易度はそれぞれに異なる設定のされた、クリアすることでお金や経験値、または特殊な武器防具やアイテムが手に入る『クエスト』とやらがあるらしい。

 一路、俺たちは村の奥にある一軒の民家に入った。

 中には鍋をかき混ぜている、いかにも村のおかみさんってNPCがいた。

「見てて、今からクエスト受けるから」

 言って、ファルコンがおかみさんへと進むと、彼女は振り返って話を始めた。

「こんばんは、旅の剣士さん」

 そうしてファルコンは目の前でクエスト受注の段取りを、手慣れた感じでこなしていく。

「ねぇ、トリシル。あれでもまだファルコンの事は受け入れられない?」

 トリシルは、ファルコンの仲間への加入に良い顔をしなかった。

「仲間になるのは構わないって言ったけど、人の好き嫌いは別だからね」

「売るとか、弱気なとこが嫌いなんだっけ?」

「そうだよ。威力ブースト法を教えてはもらったけど、俺はまだあいつを良くは思えない」

 とは言いつつ、なんだかんだでトリシルはファルコンを認めているところがある気がする。

 威力ブースト法を素直にやったし、彼の持ってる情報のおかげで安全にここまで来れたことを理解してる。

 ただ、何かが邪魔をしているようで、ファルコンに対して素直に仲間意識を持つことができていないようだ。

「受けてきた。場所はこの先の森の中になってる」

 コソコソと話していると、話を終えたファルコンが戻ってきた。

「分かった。それで、クエストの内容は?」

「特定のモンスターを狩って、特定のアイテムを出すこと」

 基本的なクエストって感じだな。

 しかし、ファルコンの言い回しが少し気になった。

「出すことって、もしかして一個でいいの?」

 そこまで詳しいわけではないが、VRではない通常のMMOの経験のいくつかがある俺にはそこが気になった。

 だってネトゲでよく要求されるのは、今持ってるアイテムを例にすれば、『フレイジーボアの皮』なんかを十枚とか二十枚要求してくるなんてザラだからだ。

「なら簡単だね」

 それに比べたら一個で良いなんて、随分良心的だなと思ったが。

「むしろ、その逆」

 ファルコンが暗い顔で、そんな事を言い出したので、俺はちょっと以上に嫌な予感がしたのだった。

 

「もしかして、レアアイテムなの?」

 何十回、何百回と狩りをして、ようやく手に入る類いかと勘繰り、質問をする。

「違う……けど、それに近いかも。倒せば確定で落とすんだけど、問題が二つある」

「問題?」

「そう、一つは対象のモンスターがまれにしか出ないってこと。

そいつは『花つき』なんて呼ばれてて、

ここら辺に群生してる自走捕食植物の『リトルネペント』の頭に花が生えてるだけ。

ちなみにリトルネペントの実力は、今の俺たちならなんとかなると思うけど……」

 レアモンスターってことね。

 適当に回してれば、いつかはたどり着きそうだ。

「もう一つ。これが厄介で、俺が昔このクエストやった時は……四人いたパーティが全滅した」

「なんだそれ、どういうこと?」

 これにはトリシルが聞く。

「『実つき』ってのが、花つきと同じくらいの確立で出るんだけど。

もしこいつの実を割ってしまうと、この一帯のネペントが一斉にやってくるんだ。

俺、このクエスト受けた時……間違って割っちゃって、モンスターが群がってきて、全滅した」

 それは面倒くさそうだ。

 今や死んでしまうことがリアルの死に直結しているから、その問題はなかなか笑えない。

「でも、その実ってのを壊さなきゃいいんでしょ?

それならそこにだけ気をつけてやれば、大して問題ないよ」

 楽観は禁物だけど、悲観も良くない。

 とにかくやる事が決まったなら、リスクとメリットを上手く決めていかないとな。

 おじさんだって、無駄に歳を重ねてきたわけじゃないんだ。

「行こう、初めてのクエストだ!」

 ここは年長者として、バシっとした姿を二人に見せてやらないと。

 

「意気込みすぎると危ないよ、ユナ」

「そうだよ、慎重にいくべきだ」

 意気込むが、二人に制止させられる。

「……はい、わかりましたー」

 うーん、ここは「おー!」って感じの鬨の声を期待してたんだけどな。

 やっぱり、『威力ブースト法』もマトモに扱えないから言われちゃうのかね。

 そもそも昨日一日でできた事って言えば、ソードスキルを間違えずに出すことくらいだしな。

 かと言って、年下の彼らのついていくだけというのも、なんとも寂しかった。

 大人の威厳的にね。

 

「ひいぃぃぃぃ」

 リアルに構成された異形のモンスターの恐怖は、かなりのものだ。

 今回のターゲット、リトルネペントはウツボのような体に人間の口をつけたような見た目で、

触手状の木のツタみたいな両腕と根のような数本の足で蠢く植物型モンスターだ。

 とにかく気持ち悪い、というか怖い。

「やだやだ、なにこれ! こわい!」

 およそ生身のおっさんの姿のままだったら、苛つかれているだろう不甲斐ない悲鳴を上げ、相対した植物に剣を向ける。

「確かに、気持ち悪い」

 流石のトリシルも、ネペントから一定の距離を保って槍の刃先を向けて威嚇するだけに止まっている。

「そうは言っても、こいつを一定の数倒さないと今回のクエストに必要なアイテムを持った敵が出現しないんだ。戦ってよ」

 しかしクエストを受けたファルコンだけは威勢良く、俺達二人に発破をかける。

 だが、当のファルコンも剣を向けてはいるが及び腰だし、動きがせわしない。

 なんだかんだで、こいつも怖いんだな。

「パターンはさっき言った通り。攻撃力が高いから気をつけて!」

 それでも戦わなければ生き残れない。

 敵の攻撃パターンは大よそ、二つ。

 先端が短剣状になったツタでの攻撃と、口から出す腐食液噴射だ。

 ツタの攻撃は斬り払いと突きで、変則的な動きがないため、軌道を見れば避けられる。

 腐食液は、当たれば武器や防具の耐久値を下げる効果があるらしいが、

タイミングを見極めて、口から前30度くらいの発射範囲にいなければ命中はしないらしい。

 どれも当たれば危険な攻撃ため、細心の注意で、狩りは始まった。

 

 

 だいたいリトルネペントを狩り始めてから、一時間か二時間が経過しただろうか。

 ネペントの経験値効率はなかなか高く、早くも俺たちのレベルは全員が一つ上がるまでになっていた。

 

「腐食液きた!」

「大丈夫、右に避ける!」

 腐食液を回避して、滑り込むように右下に移動したトリシルは、一度に二体を串刺しにする。

 その手際の鮮やかさに、「おお」と感嘆の声をあげたかったが、そんな暇もなく。

「セイッ」

 気合いと共に放ったソードスキルで、近くのネペントを打ち倒す。

 続けた動きで残った一体を軽くやりすごしながら時間を稼ぎ、

クールタイムを終えたのか、再びソードスキルを放ち、ネペントを二体とも倒す。

 俺とファルコンでいくらか削っていたとは言え、ここまで鮮やかに決められると見ほれる。

 

「やるねぇ~」

 しかし、こいつらは慣れてしまうと意外に弱い。

 というか、正確に言えば脆い。

 攻撃力が高い反面、防御力の方はあまり高くないらしい。

 触手の攻撃を食らってしまうとかなり痛いのだが、その体にソードスキルを二~三発当ててやるとあっさり四散する。

 威力ブースト法を会得したトリシルなんかは、上手くすれば一瞬でネペントを打ち倒せる。

 

「やっぱ強いよね、あの人」

 いままでのトリシルの戦いを見て、近くいたファルコンが呟く。

「俺もあれだけできれば……羨ましい」

 苦虫をつぶす様な、彼は渋った顔をする。

 何か、彼の心につっかえがあるように感じる。

 これは、仲間としてどうにかしてやりたいなぁ。

「ファルコンだって、少なくとも私より強いじゃない?」

 それにどれだけの効果があるか分からなかったけど、俺は軽くフォローを入れた。

「当たり前だよ。自分より年下の女の子には負けたくない」

 ぐぅ、本当は年下でも女の子でもないけどね。

 それにしても、あんまりな返しだ。

 おじさん、ちょっと悲しいよ。

 

「でも君は君、彼は彼でしょ」

 人は人、他人は他人。

 どんなに羨んでも、結局は誰だって自分以外のもんにはなれない。

「……そうだけど」

 そういう意味で言ってはみたが、彼は今一納得しきれないようだった。

「歯切れが悪いなぁ」

 どうやら、上手く彼の求めることにはハマらなかったらしい。

「何が納得できないの」

 それなので、本人に直接、その心を尋ねる。

「俺……俺はこのクエストで、役に立つって証明したい」

「役に立つって、そんな――」

 十分役にたってくれてるじゃないか。

 でもそれがファルコンが欲しい言葉には、どうにも思えなかった。

 というか、なんだろう。

 今それを言っても、ファルコンには届かない気がしたんだ。

 だから言えるような時に言おうと、そう思った時。

 

「ッ! トリシル、ここから南西の方――何体かいる!」

 『聞き耳』スキルに感有り。

 あいつらが移動する音が聞こえたのだ。

 そう遠くないが、まだ見えない場所に敵がいる。

「……確かに、4体いるね」

 すぐさま、トリシルが『索敵』スキルで正確な数を把握する。

 これで無理な数とも戦うことなく、今まで順調に進んでこれた。

「行こう」

 いままで、群れても2体か3体だった。

 それが4体もいるというのは気になった。

 

 

 暫く森林の道を掻き分け歩いていくと。

「……あそこ、見てくれ」

 小声で、トリシルが集団を指す。

 確かにリトルネペントが四体、一定の距離でその場に固まっている。

 通常ならそのまま攻撃に移るところだが、そうはしない。

 『通常ではない』からだ。

 注目すべきは、その中の一体。

「いた、花つき!」

 ファルコンが指した方向には、頭部に双葉を乗せる他の個体と異なり、頭に花びらを咲かせたネペントがいた。

 あれが今回の目的、花つき!

 

 しかし、そこでふと、違和感を覚える。

「あれ、花が少ない……?」

 唐突に、ファルコンがそんなことを口にする。

 どうやら頭についてる花びらが気になったらしい。

 見れば、三つの花びらが花つきが動くたび、ゆらゆらと動いている。

「なんか一枚、落ちそうだけど」

 が、その内の一つが他の二枚とは異なり、取れかかる。

 そうして千切れそうで千切れない動きを暫く続け。

「あ、落ちた」

 三枚の中からはらりと抜け、頭の花びらは二枚になった。

 どうやら時間経過で、頭の花の数が減るようだ。

 だからどうした、なんて思っていると。

「……拙いよ、あれ」

 ファルコンは顔を真っ青にして、震えた言葉を発した。

「拙いって、何がだ?」

 そんなファルコンに、すぐにトリシルが反応し。

「花つきの花びらが全部落ちると、実つきになるんだよ」

 ファルコンがその疑問にすかさず答える。

 実つき。

 確かに、ファルコンの言う通り、この状況は相当拙い。

 タイムリミットが設けられた上に、失敗は許されない。

 失敗すれば、最悪、待っているのは死だ。

 それを意識した瞬間、俺は自然と息を呑んでいた。

 

「どれだけの間隔で落ちるか分からないけど、早めに倒した方が良さそうだね」

 その場の全員の考えを口にしたトリシルはそう言って、武器を構える。

「前の二体は間隔が近いね、トリシルやれる?」

 さっきの動きを見る限りだと、トリシルはなんとか二体までなら一人で相手にできる。

 だからあえて、トリシルに二体を任せてみる。

「期待に応えられるか分からないけど、できる限りやってみる」

 これに彼は不適な笑みで応える、頼れる奴だ。

「花つき以外のもう一匹は、私とファルコンで即効倒す。

一匹を倒したら、ファルコンはトリシルの援護に入ってくれない?

私がいったら、邪魔しちゃうかもしれないし……」

「分かった」

 ファルコンも、素直に頷いてくれた。

 うん、あの『スイッチ』っての、今一できないしね。

 ターゲットを分散させて攻撃するチャンスを増やすため、

複数で交互に攻撃を仕掛ける方法の事をそう言うらしいけどさ。

 クリックゲーMMOを適当にやってた俺には、それはあまり聞き慣れない言葉だ。

「よし、仕掛けるよ!」

 俺がそう言うと、二人も同時に動いてくれる。

 もし失敗したら死ぬかもしれない。

 そんな不の思考すら吹き飛ばす勢いを、二人が与えてくれるような気がして、俺は静かに微笑んだ。

 やっぱり、仲間を作って正解だったと思えたからだ。

 

 

 順調だ。

 二人で狙った一匹は、ファルコンと交互に攻撃していき、あっさりと倒した。

 トリシルの方も片方を五割、もう片方をすでに三割ほどのダメージを与えていた。

 後はそこにファルコンが加われば、大して時間もかけずに二体を倒す事ができるだろう。

 俺もここで思考を切り替え、すぐさま残る花つきだけにターゲットを絞る。

 が、ここで一つだけ問題があった。

「ッ! 花びらが!」

 花びらが、残り一枚になっていたのだ。

 

 急がないと。

 距離は、5~6メートルほどか。

 これを一気に詰めるためには――全力で地面を踏み込み、前へ進む。

 ところで、体が倒れる。

 それは前のめりに、バランスを崩したように、倒れてしまったように見えただろう。

「ちょ、ユナ!」

「何やってんの、ここでケコるなんて!」

 だからたぶん、二人はそんな心配そうな声を出したんだろうな。

 倒れたように見えるから。

 あくまで、傍から見たらね。

 

「違う」

 そうだ、これでいい。

 瞬間、体が半強制的に動く感覚、システムアシストが立ち上がったことを確信する。

 右手の剣を左腰に据え、体を転倒寸前まで前に倒すことによって発動するソードスキル。

 片手剣基本突進技、『レイジスパイク』だ。

 昨日はひたすらこれを練習し、確実に出せるくらいまでにさせた。

 こんなこともあろうかと、ね。

「いっけェェェェェッ!」

 システムのアシストにより全身が青白く光った俺の体は、一瞬で花つきへと詰め寄り――

「ピギィィィ」

 ――その植物体の腹部分に深く、剣の刃先が吸い込まれるように突き刺さる。

 体は勢いをそのまま、ネペントの左横に吹き飛ぶ。

 が、手ごたえは十分だった。

 見れば、花つきのHPをガクっと3割ほど一気に奪っている。

 ダメージブースト法を使えば、もっと大きくダメージを与える事はできただろう。

 だがこの局面、あえて賭けにはでなかった。

「スイッチ!」

 だから体が勢いのまま体制を崩している最中、叫ぶ。

 

 俺はゲームが上手くないし、ドン臭いおっさんだ。

 だが、だからこそこういう局面を見誤っちゃいけないのを理解している。

 俺の役目は、あくまで繋げること。

「続く!」

 その意思を汲み取ってくれたのか、残るリトルネペントへの攻撃を止め、

トリシルはすかさず俺同様に突撃技で距離を詰め、ソードスキルを叩き込む。 

 だが、それでも倒しきれていない。

 リトルネペントのライフはまだ二割ほど残っており、ソードスキルでの攻撃をあと一撃は必要としていた。

 

 そこで、はらり、と最後の葉が落ちかける。

 まずい。

 あれが落ちれば、これまでの苦労が台無しになるどころか、一気に状況は最悪になる。

 たぶん倒しても実つきになった瞬間、実が落ちてフィールド全てのネペントを集めてしまうから。

「早く……!」

 見れば、近くにはファルコンの姿がある。

 どうやら、俺のスイッチの声に反応し、仕掛けようとしていたが、トリシルにそれをされて叶わなかった状態らしい。

 これはチャンスだ――とばかりに声を出そうとするが、ファルコンはすくんでいた。

 ネペントの花が落ちるかどうかのその瞬間に、間に合うかどうか決めかねていたのだ!

 迷う。

 ここで下手にファルコンを煽って良いのか。

 最悪、全滅の責任を彼に負わせることになる。

 ならばここで引くこともまた、必要な選択ではないのか、そんな考えが頭を過る。

 俺もまた、瞬時の判断を必要としていたこの状況で、慎重になるが故に、決めかねていた。

 今、必要となる決断を。

 そうして退却、やはりそうすべきだという考えが拙速ながらも纏まり、声に出そうとしたところで。

 

「ファルコン、決めて!」

 一声が上がる。

 意外、それはトリシルから。

 焦りからではない。

 その声色には彼がファルコンを頼り、その活躍を期待して背中を押す応援の色があった。

「ファルコン! いっけぇ!」

 ならばとばかりに俺も続き、勇気の声を上げる。

「うおおおおっ!」

 すると声に答えるように、ファルコンが駆け出した。

 間に合え、間に合え!

 揺れる葉と、システムアシストを受けて光るファルコンの姿を交互に見て、祈る。

「レイジィ、スパイクッ!!」

 迫るファルコンは唸りを上げ、効果音と閃光を織り交ぜ。

「間に合えェッ!」

 リトルネペントを貫いた。

 葉は――辛うじてまだ、落ちていない!

「やった!」

 間に合った……!

「ピィェェ」

 ネペントの口らしきものから、断末魔が上がり、次にその体を青いガラス片に変え、四散する。

「敵はまだ残ってる、掃討するよ!」

 歓声を上げたい自分をなんとか押さえて、メンバーに次の行動を意識させる。

「大丈夫、任せてよ!」

 が、言うまでもなかった。

 トリシルはというとすでに体制を整え、次の標的にクールタイムを終えたスキルを叩き込んでいるところだった。

「おお!」

 ファルコンも、力強く続く。

 その声は、どこかクエストを始める前より自信に満ちているような気がした。

 これはおじさんも負けてられないぞ、なんて思っていたが。

「と、うわぁあ」

 体制を上手く建て直せず、無様に尻から転んでしまった。

 なんとも、格好がつかない顛末である。

「片手剣は、ファルコンが使ってよ」

 クエスト報酬、赤鞘の長剣『アニールブレード』を、俺はファルコンへ手渡した。

「そうだね。ネペントのLA(ラストアタック)を取ったのもファルコンだし」

 これに、トリシルも同意してくれた。

「……本当に、俺で良いのか?」

「うん、私は他に武器を変えてみるからさ」

 そう言うと、ファルコンはおずおずとアニールブレードを装備し始めた。

 シュンとエフェクトと音を立て、鞘に収まった長剣がファルコンの腰に装着される。

 彼はそれをゆっくりとした動作で引き抜き、構える。

「これが、アニーブレード」

 長剣は見た目は少々古めだが、初期装備にはない存在感を放っていた。

 ファルコンは、目をキラキラとさせながら、その刀身を見ていた。

 思えばベータ時代にこのクエストを受けた時、ファルコンは全滅してしまったんだ。

 以来そのクエストをクリアせずに放置したとは思えないが、剣をファルコンが手にできたどうかというと話はまた違ってくるだろう。

「喜んでくれたみたいだね」

 その様子に、自分まで嬉しくなってしまった俺は聞く。

「うん。ありがとう、二人とも」

 するとちょっと恥ずかしそうに、ファルコンは俺たちに感謝の言葉を言ってきた。

「いいよ、経験値も入ったしね」

 トリシルは、あくまでクールに応えたが、まんざらでもない様子だった。

 

「でもトリシル、よく最後に攻撃しろって言えたね」

 ここでふと、俺は気になったことを聞く。

「あの時か、あれはね。まだ葉が落ちるには余裕があったからだよ」

「え? 余裕があった? まさか、葉が落ちるまでの時間数えてたの!?」

 花びらが落ちそうになってたから、余裕があったようにはまるで見えなかったんだけど。

 なんて思うと、その疑問を察したのか、トリシルは言葉を続けた。

「そう、俺達が最初に葉っぱが落ちたのを見た時があったでしょう? あの時にね」

 なるほど、大したものだ。

 俺なんて葉っぱが落ちるのを見ても、そこまで考えられなかった。

 やっぱりこの子は凄いな。

「それで、花びらが落ちそうになってから30秒くらい余裕があってさ。

あの時はまだ間に合ったから、攻撃しろって言ったんだ。

あそこで攻撃しなかったら、俺はファルコンの事をもっと嫌いになってたけどね」

「でも今は?」

「……認めるよ」

 諦めたような、割り切ったような静かな笑みを浮かべるトリシル。

「仲間としてよろしく、ファルコン」

 彼はそこから一歩、前に出てファルコンへ手を差し出した。

 求めている、握手だ。

「……え」

 これにファルコンは、突然のことだったからか面食らったままトリシルと差し出された手を交互に見て、

どうしたものか決めあぐねいているようだった。

 

「良かったね、ファルコン!」

 俺はなんか嬉しかった。

「君、役にたってるんだよ……ちゃんとさ!」

 だから言うべきタイミングは、今だろう。

 そう思い、ファルコンの手をとって、トリシルとの握手をさせる。

「――うん、うん!」

 彼も、何か納得できるものを得られたのか、深く頷いて笑った。

 思えば、ファルコンが笑ってるとこは初めてみる。

「なんか大げさだなぁ」

 呆れたようにため息をつきながらも、トリシルもまんざらではないように喜んでくれているようだった。

 だが、そんな良い感じの場面だったのも束の間。

 

「でも……ユナが役に立ってる、なんて言うのってどうなんだろう」

「確かに」

 ここでトリシルに発言を指摘され、ファルコンも同意する。

「え」

 確かに、おじさんはあんまり役にたってないけどさ。

 

「だけどユナだって、頑張ってたよ」

 俺のしょげを見てとったのか、ファルコンがフォローを入れる。

「ぐぅ、なんかそれはフォローになってない」

「確かに」

 言って、トリシルが小さく笑う。

 するとファルコンも続けて笑った。

 そうなってくると、つられて俺まで笑ってしまう。

 むむ、しかし完全に威厳も何もないじゃないか。

 待ってろよ。

 この調子で強くなって、いつか皆を引っ張っていけるようになってやる。

 そうして、攻略組みにいるだろうアイツに会うんだ。

 

 決意を新たに、俺たちはこうして初めてのクエストを終えた。




ソードアートオンライン八巻に収録されている『はじまりの日』より、ホルンカのクエストです。
ソードアート・オンライン プログレッシブでは何度も登場した初回の強片手剣『アニールブレード』登場のお話ですね。
アニメには登場しなかったこの話ですが、やはり外せないということで書かせていただきました。

今回の話は、製作している動画ではカットしている話なので、
イメージはし辛い部分もあるかもしれませんが、その辺りは是非ソードアートオンライン八巻で確認ください。
描写不足の言い訳ではございません、販促行為です。ええ、はい。たぶん。

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