SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 とりあえず書き上がったので投稿します。


ファントム・バレット編
九十話 拭えぬ悪寒


 クロト サイド

 

 「―――それでは次のコーナー……今週の勝ち組さん、始まりまーっす!!」

 

 猫耳を生やした女性MCアバターの掛け声にあわせて、MMOストリーム―――略してMスト―――の中のとあるコーナー、’今週の勝ち組さん’が始まった。これは世界の種子(ザ・シード)がばらまかれた事によって数えきれない程のタイトルが生まれたVRMMOの中から、トッププレイヤーを一人から数人程度ゲストとして招待し、インタビューするコーナーだ。

 

 「早速今回のゲストをお呼びしましょう。銃と鉄の世界、ガンゲイル・オンラインより(GGO)……ゼクシードさん!闇風さん!クロトさんの三名でーす!」

 

 MCに紹介され、青い長髪が特徴的な男―――ゼクシード、黒い短髪に頭頂部付近の赤毛が映える黒衣の男性―――闇風、そして鋭い目つきが特徴的な少年兵崩れ―――まぁ、オレなんだが。この三名のアバターがスタジオに転送された。

 

 「いやー、GGO内最強プレイヤーを決める一大イベント、バレット・オブ・バレッツ(BoB)優勝者と準優勝者二名が揃うのは壮観ですねぇ」

 

 「そう言っていただけるのは光栄ですね」

 

 男性にしてはややキーの高い声で、ゼクシードは何て事はなさそうにMCに応える。だがその口許は僅かにニヤついており、喜色を隠し切れていないのが分かる。一方で彼よりも幾分いかつい顔を若干顰めさせている闇風としては、ゼクシードが調子に乗る様子は見ていて楽しいものではなさそうだ。

 それも当然か、オレもアンタも過程はどうあれゼクシードに負けちまったワケだもんな。

 

 (視聴者からリアルタイムで届くこのコメント達……崇めるようなモンから誹謗中傷するモンまで色々だな)

 

 VR空間故に一切ドアや窓が無いこの円形のスタジオの壁は全面モニターとなっており、この放送を見ている視聴者らが打ち込んだコメントが次々と流れていく。その様子に幾らか圧倒されている間に、前回のBoBについてのMCからの質問が飛んでくる。

 

 「ズバリ、今回の勝敗の決め手は何だったと考えていますか?」

 

 「それは勿論、AGI(アジリティ)万能説はただの幻想だった、ですね」

 

 「おぉー、断言しちゃいますか」

 

 ゼクシードのその一言だけで、彼を叩くコメントが大量に増える。やっぱこのゲーム、他のMMOよりはるかに上位プレイヤー達への妬み嫉みが強い。ゼクシード本人にもそれを加速させる原因があるけど。

 

 「ええ。確かにAGI……素早さは重要なステータスです。現にGGOに於いて速射と回避、この二つが突出していれば強者足りえた……これまではね」

 

 この上ない優越感に浸っているゼクシードは、この放送を視聴しているであろうGGOプレイヤー達へ向けて、嫌味たっぷりな口調で語る。他人を蹴落とす競り合いが他のMMO以上に激しいこのGGO、そのトップに立っている事を実感できるこの場が楽しくて少々ハメが外れちまってるな、アレ。

 

 「しかし、それはもう過去の話です。八ヶ月の間AGIをガン上げしてしまった廃人さん達にはこういわせてもらいますよ……ご愁傷様!」

 

 (炎上しようがお構いなし……そのクソ度胸はある意味で立派なモンだよ、お前……)

 

 どれだけのプレイヤーから反感を抱かれようと気にせずに言いたい事を言いまくるゼクシードの姿を見ている内に、いつぞやにやらかした瞬間に堂々としていた親友の姿を思い出す。キリトが他人を見下すような発言をする事はまず無いが……時々容赦無く相手の地雷を踏み抜いて怒らせるんだよなぁ、アイツ。悪気が無いからどうにも強く言えねぇし。

 

 「―――しかしねえ、ゼクシードさん。BoBはソロでの遭遇戦じゃあないですか。二度やって全く同じ結果になる保証はどこにもありません。それをステータスタイプの勝利みたいに言うのは、いかがなものかと……」

 

 「いやいや、今回の結果はGGO全体の傾向の現れと言えますよ。闇風さんはAGI型だから、否定したい気持ちもわかりますがね……結論から言えば、これからはボクのようなSTR・VIT型の時代ですよ。いいですか―――」

 

 たまりかねた様子で口を挟んだ闇風に対し、ゼクシードは予め用意していたであろう持論を浪々と語り始める。曰く、これまではAGIを鍛えて強力な火器を速射し、同時に回避ボーナスによって低い耐久力を補えたからAGI型は強かった。曰く、そのAGI型を脅かす存在である、高い命中精度を誇る銃器の実装が進んでいる事。曰く、新たに追加された銃は総じて要求STRが高く設定されており、AGI型の強みであった火力も相対的に下がりつつある事。

 ゼクシードが語った内容のどれもが事実であり、彼を論破できないらしい闇風は悔しそうに口を噤んだ。とはいえ彼が語ったのはあくまで事実の一部であり、それが全てではない。何より先月のBoBにて鎬を削り合った闇風が言いくるめられているのはいい気分ではない。

 

 「―――STR・VIT型にも弱点がある、とは思うぞ?オレは」

 

 「おぉっとクロトさん、それはどういう事でしょうか?」

 

 うげ、という声が聞こえてきそうな程に顔を顰めるゼクシード、興味津々とばかりに食い付くMC、黙って耳を傾ける闇風と三者三様なリアクションを見ながら、オレは持論だけどな、と一言ことわる。

 

 「STR・VIT型って要はロボゲでいうガチタンだろ?高い耐久力と火力でゴリ押してやられる前にやるっていう。特にゼクシード、BoBじゃ撃ち合いの時殆ど移動してなかったろ。それってスナイパーにとっちゃカモだぜ」

 

 「うぐ……」

 

 「特に耐久面じゃこのゲーム……どんだけガッチガチに防具つけたって、ヘッドショットされりゃハンドガンでもお陀仏だろうが。防弾メット被っても貫通力に秀でた弾丸とか……ちょいと前にオークションに出てたアレ……アンチマテリアル・ライフルとか撃ち込まれれば一発アウトだ。自慢の耐久力に胡坐かいてたら不意打ちでズドン!ってやられるぜ?特に認識できていない相手からの初弾は弾道予測線(バレット・ライン)が無いんだし」

 

 「成程……私達AGI型以上にスナイパーが天敵だと」

 

 「で、ですけど、AGI型相手には有利っていうボクの考えは間違っていないでしょう」

 

 「それだって一概には言えないぞ、多分」

 

 納得したように頷く闇風に対して、ゼクシードの表情は険しくなっていく。そりゃアンタにとっちゃ面白くないんだろうけど……オレだって言いたい事をずっと黙っていられる程大人じゃないんでな。一つずつ指を立てながらオレは続ける。

 

 「一つ目、さっきも言った通りヘッドショットの危険性。闇風みたいに銃弾バラ撒くAGI型は結構いるだろ?近距離で撃ち合った時、乱射した弾が頭にヒットする可能性はゼロじゃない。相手を捕捉する事に気を取られりゃフルオート射撃のライン全部把握するとか無理だろ普通。二つ目、フィールドの条件でどっちが有利、なんてのは簡単に変わっちまう。砂漠みたいに遮蔽物が無きゃゴリ押しできるSTR・VIT型が、遮蔽物が多い市街地とかならゲリラ戦ができるAGI型が有利だ」

 

 「いやいや、ゲリラ戦ができたって、結局AGI型じゃ大したダメージは与えられないんですよ?それなのに有利だって言えるんですか?」

 

 「AGI型の方が牽制射撃で小突きまわして長期戦に持ち込めば、精神的な疲労は後手に回るSTR・VIT型の方がデカい。いつ、何処から相手が出てくるか分からない以上、常に集中しなきゃだからな。そうしてメンタル面で隙ができた所で建物の二階とか、上からプラズマ・グレネードでも落とせば……」

 

 「回避能力を切り捨てたタイプである為、逃げられず爆殺される、という訳ですか」

 

 「わぁお……さっきから話の内容が過激です」

 

 多分大荒れになっているであろうコメント達を務めて無視し、三人と向き合うオレ。この頃には自分が番組によってどう映されているのかは気にならなくなっていた。

 

 「まぁ、何も考えずAGI型にステ振りした方にも落ち度はあるけどな」

 

 「どういう意味ですか、クロトさん?」

 

 今度は闇風の方が表情を険しくする。MCが少々困ったように視線を泳がせるが、口を挟んでこないならとりあえず気にしないでおく。

 

 「これもオレの主観だけどな……AGI型って玄人向けじゃね?BoBでカチ会った連中じゃ闇風、アンタしかアバターのスペックをフルで発揮できていなかったぞ」

 

 「何ですと?今更お世辞ですか?」

 

 「ちげーよ。他の連中は回避行動が似たり寄ったりなパターンしか無くて単調すぎたんだよ……自慢の速度に胡坐をかいて、回避のやり方が雑だった。そんなザマだから、いくら速くたってすぐに見切られて当てられるってワケ。要はプレイヤースキルの不足……キツイ言い方すりゃプレイヤーが下手って事」

 

 「……忌憚ない意見はありがたいですが、今の言葉で全AGI型プレイヤーは貴方の敵になったと思いますよ。クロトさん」

 

 若干憐れむような目を向けるのはやめてくれ、闇風。過去の経験から、悪役は慣れてるんだ。

 

 「つってもなぁ……殆どの連中、自分の速度に’振り回されてる’って感じがモロに出てたんだ。ま、現実世界の肉体が出せる速度と、AGI型アバターの全力疾走じゃスピードが違い過ぎるワケだし。無意識に’これ以上は無理’ってブレーキがかかってるんだ。闇風だってそろそろ感じているんじゃないか?AGI上げても速度が上がった気がしない、なんて事をさ」

 

 「っ!」

 

 努めて感情を出さないようにしている闇風だが、彼の身が一瞬強張ったのを見逃さない。SAO元攻略組なら誰だって分かる反応だ。

 

 「図星だな。けどGGOはサービス開始からまだ八ヶ月……普通に考えりゃ、今後のアップデートでレベルキャップだって上がっていく筈だ。そうしたら他のステ上げた方がいいと思うぜ?。装備できる銃の選択肢増やすとか、ヘッドショットを狙いやすいようにするとか……VIT以外なら、プレイヤーのクセや好みにあわせてどれ選んでもイケるだろ。大前提として、要求プレイヤースキルが高いじゃじゃ馬なビルドだが」

 

 「……成程。無理に長所を伸ばすよりも、足りないステータスを補い、自分の腕を磨けと……我々AGI型も、輝ける可能性がまだ充分にあると。感謝します、少し道が開けた気がします」

 

 「あくまで個人的な考察に過ぎねぇぞ?誰の言葉を信じ、どの筋から仕入れた情報を頼りにするか……その最終判断をするのは自分自身だ」

 

 とある理由から狩場や攻略等の情報が少ないかつ曖昧なものばかりになるGGOに於いて、最優先すべきは優れた情報屋とのコネと、他人の意見を見極める冷静な判断力だとオレは思っている。詐欺等が横行したSAOでの経験が、デマやミスリードに対する警戒を常に意識させるのだ。

 何はともあれ、高いAGIに振り回されていなかった闇風との対決は真剣勝負として非常に愉しめたので、そんな彼が落ちぶれていくのは何となく嫌だっただけだ。単なるお節介、とか言われるヤツだなコレ。

 

 「流石前BoBでベストバウトと名高い死闘を繰り広げたお二人、ライバル感がビシビシきますね」

 

 「そりゃどーも」

 

 MCの言葉に肩を竦めて応える。巷ではよくそう言われていると馴染みの情報屋から聞いてはいたが……オレにとっちゃ苦い経験でもある。なんせ闇風とのバトルに熱中し過ぎてしまい、ゼクシードに漁夫の利とばかりに不意打ちを喰らったのだ。しかもその時受けたダメージがかなりデカく、一時共闘した闇風と仲良くゼクシードに削り切られたのだから。

 

 「じゃじゃ馬ビルドって言ったら、貴方のヤツが一番意味不明ですよ!」

 

 「……心外だな。ただのSTR・AGI型だぞオレ」

 

 「なぁーにが’ただの’ですか!はっきり言わせてもらいますけどねぇ、あんな変態的な三次元機動見せられて平気なプレイヤーなんてまずいませんよ!!」

 

 ゼクシードの叫びにあわせて、コメント欄に大量の変態機動なる文字が流れ出した。MCも面白がってBoBのリプレイ映像を流し始める。闇風ですらゼクシードに同意するかのように頷き、理解者がいない事を悟った。

 

 「ほぇー、曲芸じみた三次元軌道ですね。これはどんなスキルが必要なんですか?」

 

 「……軽業(アクロバット)スキル。それ以外は企業秘密で」

 

 流石に自分の手の内を進んで明かす気にはなれない。勝利に貪欲なGGOプレイヤーならば、次のBoBで対策を立ててくるのが当たり前だろうし、自分で自分の首を絞める真似はしたくない。つか、言えるか。気づいた時にはSAO・ALOのクロトと同じような戦い方してて、その為にステータスやスキルを鍛えたなれの果てなんてしょうもない理由が原因だった、とか。

 

 「まだ何かあるでしょう!?レアアイテムとか、レアスキルとか―――」

 

 「―――ゲーマーらしい反応すんのはいいけど、余裕なさ過ぎっつーかがっつきすぎだ!いくら過酷なGGOでトップ維持したいっつっても、リアルソロじゃ楽しくないだろ……」

 

 「リアルソロはお互い様でしょうが!GGOのプロとしてのプライドとか無いんですか!?」

 

 「ねーよ!そもそもオレはガチバトル楽しみたいだけのエンジョイ勢で、ホームは別ゲーだっつの!リアル捨ててまでのめり込んでねー。ゼクシード、アンタと違ってダチも恋人もいるわ!!」

 

 「……はっ、それは笑えない冗談ですね!どーせ二次元かVRの中だけでしょう?くくくっ……」

 

 ゼクシードが腹を抱えて笑い出すと、同調するようにコメントが濁流となって視界を横切る。もう多すぎてどれが何て書いてあるか分からないレベルだ。MCと闇風が今まで以上に憐れみの目を向けてくるのが何だか腹立たしい。

 

 「はーい、ただ今本日一番の大炎上中でーす。リアル勝ち組を自称するクロトさんへのコメントが相次いでいますねぇ……」

 

 MCが呑気に呟いた、その時だった。彼女の隣でバカ笑いしていたゼクシードが突如、胸を抑えて苦しみだす。その姿に目を瞬かせた次の瞬間、彼のアバターが消失した。

 

 「……ありゃ、回線落ちですね。暫くすれば復帰すると思いますので、皆さんチャンネルはそのままでお願いします」

 

 (持病の発作で強制ログアウトでもしたのか……?いや、アイツにそんな噂は無かったし……何だ?この拭いきれないイヤな感じは……?)

 

 最近久しく感じていなかった怖気。何故それが今感じられるのか、全く見当がつかないが……近いうちに何かが起こる、それも良くない何かが。そんな確信めいた直感が体を強張らせた。

 

 ―――その後、ゼクシードが番組に復帰する事は無かった……




 スカディ来た。溜めてた石溶けた……七百あったのが全部……

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