SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 なんだかんだであっという間の連休でした……本当に早いなぁ……(涙)


八十五話 飛翔

 クロト サイド

 

 下方で放たれた眩い閃光が視界を塗りつぶし、轟音が耳朶を打つ。ドーム全体を揺らしたソレはオレ達やガーディアン達を例外なく硬直させ、回復した視界の先では小さな緑色の炎……シルフのリメインライトを中心に騎士達の群れに大きな穴が開いていた。

 

 (リーファ、いやレコンか?何かトラブルでタゲられたのか……?)

 

 視界左上に表示されたパーティーメンバーのHPゲージの中で唯一死亡判定が付いた名を見て、一瞬思考が逸れる。

 

 「―――ぉ、おおぉぉぉ!」

 

 一方で周囲の状況把握はオレに丸投げとばかりに進み続けるキリトは止まらずにガーディアン達へと突貫を試みる。瞬時にオレも意識を前方へ向けなおして彼をアシストするが、分厚い肉壁は多少凹んでもすぐさまオレ達を押し返す。

 前回よりも早く、かつ少ないダメージで扉に肉薄した辺りから、ずっと手詰まりの状態だった。リーファ達からの回復魔法が一度しか来ていない上にレコンが何らかの方法で自爆、なおかつフィリアのHPゲージまで減少している事から察するに、ドームの最下方で待機していた筈の彼女達をもターゲットするような、悪意あるアルゴリズムがこのガーディアン達には埋め込まれていたのだろう。

 

 ―――完全にジリ貧。このままじゃ全滅だ。

 

 相棒を補助し、目の前の敵を捌き続ける中で、感情から切り離された思考がそう告げる。止まらない、止まれない状態ではあるが、何か手を打たなければ道は閉ざされる。

 

 (力が足りないなら頭を使え……!考える為にも周りを見ろ……!あの手この手でやりくりするのはオレの役目だった筈だ!)

 

 鋼鉄の城にいた頃から、相棒との間にできていた差……単純な火力や剣技等で少しずつ大きく感じていったそれを埋める為に、あれこれと手を考えて試してきた。今更ここで何もできない、なんて言って止まるワケには、いかないのだ。

 下方にいるフィリア達からの支援は見込めない。道を阻むは秒間十二体、もしくはそれ以上のペースで増えるガーディアン達。その中で今のオレに、キリトにできる事。時間感覚が引き伸ばされた状態で周囲の状況を確認し、思考して―――

 

 ―――圧倒的に人手が足りない。

 

 この一言に尽きてしまう。キリトならば瞬間的にガーディアン達の壁を幾らか削り取れる。だがその削られた状態をオレが維持するよりも速く後続の騎士が補填され、生まれかけた穴は開通する前に押しつぶされる。ならば二人ではなくキリト一人だけでも押し通す事はできないかと考えるが、その場合は間違いなくオレがリメインライトになるだろうし、何よりキリトが分厚い肉壁を突破できる確率は大分低い。最悪の場合、孤立した相棒がHPを散らし、残ったリーファとフィリアが無数のガーディアン達によってすりつぶされる。だが、それでも……

 

 「止まって、たまるかよ……!」

 

 自らを奮い立たせ、キリトの死角から迫るガーディアンの右肘に短剣を突き立てる。関節を破壊された騎士がくぐもった呻きを上げるが構わず蹴り飛ばし、別方向から近づくガーディアンへと衝突させる。しかしあろう事か蹴り飛ばした騎士はこちらへ突撃する味方の巨剣に貫かれ、その身を白炎へと変える。

 

 「なっ!?ぐ……!」

 

 「クロト!?」

 

 勢いそのままに迫ってきた新手の騎士はオレの右脇を抉り、HPゲージが一気に三割程減少してイエローゾーンに入る。すぐさま目の前のガーディアンの首筋に得物を突き立て、抉り切って消滅させるが、そのエフェクトがオレの視界を塞ぐ。

 

 「こいつ等、味方を巻き込み始めたのか!」

 

 「らしいな、クソったれ」

 

 追撃はキリトが一刀のもとに切り捨ててくれたが、状況がさらに悪化した。今まで同時に襲い掛かってくる敵の数に制限があったが、ソレが取り払われてしまったのだ。文字通り全方向からの攻撃に晒される。

 

 「―――それでも、行くんだ」

 

 「ああ、そうだな」

 

 キリトと二人、揃って口角を釣り上げる。互いに獣のような獰猛な笑みを浮かべ、手にした得物を一層強く握りしめる。勝たなきゃならない、二人で助けると決めたのだから……やり遂げるまでは、絶望なんてしている暇は無い。

 何度地に伏したとしても、オレ達は決して諦めない。その度に這い上がり、この手が届くその時まで、相棒(キリト)と共に抗い続けるだけだ―――!

 

 「邪魔を……」

 

 「すんじゃねぇぇえええ!!」

 

 現実でなら血反吐を吐いてもおかしくない程に叫び、二人同時に愚直に突撃する。『バーチカル・スクエア』を模倣した四連撃が今までよりも深く騎士達の壁を削り、食い込む。彼の剣はそこで止まらず、四撃目を振り切った勢いそのままに回転しながら体勢を立て直し、次なるソードスキルの軌道をなぞる。

 SAOでは不可能な動きだが、ここはALO……ソードスキルは存在しない。当然システムアシストやダメージのボーナスと言ったプラスの補正……メリットは無いが、逆に技後硬直のデメリットが全く存在しない。さらにアバターは肉体的疲労が無く、酸素を必要としない為、本人の意識が続きなおかつアバターの関節の可動範囲内での動きであれば……ソードスキルの模倣とそれ以外の剣技をつなげて剣を振るい続ける事だってできる。オレもまた同じように本能のままに体に染みついた剣技をつなげて相棒の背中を預かり、食い込んだ穴を全力で進もうと得物を振るう。

 

 ―――視界の端で、無数の光点が煌いた。

 

 忘れもしない、弓兵達の光の矢だ。瞬時に補充される暴力的な数に膨れ上がった騎士達と同様に、あの弓兵達もまた味方を巻き込む事を厭わないだろう。あの矢に当たるのはマズい。そう直感的に悟るが、全力で突き進んだオレ達はもう騎士達の肉壁の内部に入り込んでおり、こじ開けた入り口の穴は塞がれつつあった。進もうにも反対側までの壁は未だ分厚く、引き返そうにも退路は塞がれつつあり突破は困難。その上あと幾何(いくばく)もしない内に弓兵からの一斉射撃が来る……まさに進退窮まった、という状況だ。

 

 「キリトッ!」

 

 「チィッ!」

 

 瞬時に相棒と背中を合わせると、左手の短剣を鞘に納める。群がるガーディアン達の隙間から見える光点が強く輝き、弓兵達から一斉に矢が放たれた。その事を気にせず斬りかかってくる守護騎士達の巨剣を受け流すと、開けておいた左手でその鎧を掴んで引き寄せる。その後ろから唸りを上げて光の矢が降り注ぐが、その殆どはオレ達を包囲するガーディアン達の背中に突き刺さる。上手く隙間を縫ってきた矢も、引き寄せた騎士の巨体に身を隠す事で何とか凌いだ―――筈だった。

 

 「こいつ!?キリトッ!」

 

 「放せ……放せぇ!!」

 

 盾替わりにした騎士が光の矢を受けても全く怯まず、巨剣を捨てて両腕で抱きしめる様にこちらを拘束したのだ。咄嗟に相棒に警告するが、彼もオレと殆ど同じ状況に陥っており、満足に大剣が振るえなくなっている。二人揃って比較的小柄なアバターであった事も災いし、守護騎士との間に生じる体格差がここにきて致命的だった。暴れようにも手足の自由を封じるように抱えられている以上、初動を封じられているも同じで力が発揮できず、拘束から抜け出すのは容易ではなくなるからだ。

 捨て身でオレ達を拘束するガーディアンは万力のようにビクともせず、ジワジワとこちらのHPゲージを蝕んでいく。その後ろではギロチンの如く巨剣を構えた守護騎士達が空間を埋め尽くし、拘束する騎士諸共に貫くべく一斉に同じタイミングで突進してきた。

 

 (サクラ……!)

 

 万事休す。そんな状況で脳裏に蘇るのは、誰よりも愛おしい少女の笑顔。決して挫けてやるものかと、心臓めがけて迫る巨剣の一つを睨みつけて―――

 

 「ファイアブレス、撃てぇー!!」

 

 「フェンリルストーム、放てっ!!」

 

 ―――十の紅蓮の火柱と、幾条もの緑の雷光が、迫っていた守護騎士達を悉く飲み込んで消し去った。

 

 「お兄ちゃん!」

 

 「クロト!」

 

 瞬く間に破壊された包囲網にオレ達が目を見開いていると、下方からリーファとフィリアが真っ直ぐにこちらめがけて飛翔してきた。そのままオレとキリトを拘束していたガーディアン達の首を刎ねて白炎へと変える。

 

 「お兄ちゃん!良かったぁ……!」

 

 「スグ!……ありがとう、助かったよ」

 

 両目に涙を溜めた彼女は、迷わずにキリトの左手を握って、安堵の笑みを浮かべた。そんな妹の手を、彼は優しく握り返す。

 

 「サンキューフィリア。けど、一体何が……?」

 

 「援軍が来たのよ。シルフとケットシーのね!」

 

 喜色満面とばかりにウィンクする彼女が指差した方……ドーム下方へと目を向けると、つい先日別れたばかりのサクヤとアリシャがいた。それも一目で精鋭と解る戦士達や飛竜を従えて。

 

 「アイツ等……」

 

 資金提供はしたとはいえ、まさかこれほど早く駆け付けてくれるとは全く思っていなかった。そもそも組織を動かすには金もそうだが時間だって掛かる筈なのだから。それをどういうワケか二人共大急ぎで戦力を用意してきてくれたらしく、一瞬目が合った首領達は誇らしげに微笑んでみせた。

 

 「総員、彼等を援護し、続け!黒衣の二人が突破の鍵だと忘れるな!!」

 

 「ドラグーン隊、ブレスの再準備急げ!シルフ隊の道を確保して!!」

 

 だが領主達が表情を緩めたのもほんの一瞬で、次の瞬間には互いに息の合った指揮を飛ばす。彼女達の命に従う精鋭たちはあっという間に湧いてきたガーディアン達を屠り、オレ達を守る様に囲い、見事な連携で守護騎士達を近づけさせない。その上でオレとキリトにレベルの高い回復魔法を施してくれるものだから、半分を割り込んでいたオレ達のHPゲージもすぐに全快する。

 

 「これなら……クロト!」

 

 「ああ!行けるぜ相棒!」

 

 ここまでしてもらったのなら、絶対にたどり着いてみせる。その心は親友も同じで、互いに頷きあう。

 

 「遠いなぁ……お兄ちゃんの背中」

 

 「スグ?」

 

 不意にリーファが零した呟きに、キリトは目を瞬かせる。俯くリーファの表情は窺い知れないが、悔しいような、悲しいような声色だった。

 

 「やっぱり……あたしじゃクロトさんみたいに、お兄ちゃんの背中は守れないや……」

 

 「スグ、それは―――」

 

 「―――でもね。守れなくても……背中を押す事はできるから」

 

 顔を上げた彼女の頬は涙が伝っていたけれど。浮かべる笑みは、誰もが目を奪われる程に綺麗で清々しいものだった。

 

 「だから、受け取って。あたしの(おもい)を!」

 

 「っ……ああ!スグ、本当にありがとう……!」

 

 リーファから託された長刀を左手に、漆黒の大剣を右手に。二刀を携えた黒の剣士が、ここに蘇る。

 

 「ホント、一途だよね。リーファって」

 

 「そうだな。あんなに真っ直ぐ生きるのは、簡単じゃないのに……」

 

 肥大化した欲望に吞まれた者。他人の悪意に晒され、荒んだ者。SAOの中で、心を歪ませた者達を見てきた身としては、リーファの心は眩しかった。

 

 「支援頼んでばっかでわりぃけど、リーファの事は頼んだぜ」

 

 「はいはい。その代わり、ちゃんと取り戻しなさいよ?」

 

 「当たり前だろ!」

 

 フィリアに左手の親指を立て、キリトの隣に並び立つ。

 

 「クロト、俺……本当にバカだったよ」

 

 「何だよ?急に」

 

 「だってさ。最初はアスナ達を救い出すのは俺一人でやらなきゃ、って意地張って、お前から逃げて……でも気づけばスグやフィリア、シルフやケットシーの皆……そしてお前に助けられて、支えてもらって、ここまで来れた。俺一人じゃ、絶対に何もできなかったって、やっと実感しているんだ」

 

 柔らかな笑みを浮かべる相棒の姿に、こちらもつられて口角が吊り上がるのが分かる。その事に照れくささを感じながらも、オレは目を逸らさなかった。

 

 「言ったろ?親友(ダチ)の頼みなら何度でも、いくらでも……オレの力を貸すって。オレだけじゃない。お前が思っている以上に、お前の周りには力を貸してくれる人がいるんだぜ」

 

 「ああ……ありがとう」

 

 感謝するのはオレの方だ、と零れそうになる言葉を吞み込み、進むべき方向へと向き直る。隣の相棒も同様で、互いに意識は剣士のソレへと切り替わる。

 

 「皆!二人が出るよ!」

 

 フィリアの声が響くと、ドーム上方に展開していたシルフ隊の者達が散開してスペースを作る。

 

 「クロト!」

 

 「キリト!」

 

 互いの名を呼び、同時にトップスピードで飛翔する。立ち塞がるは数多の守護騎士だが、その数は先程に比べれば少ない。

 

 「「おおおぉぉ!!」」

 

 背中合わせに羽ばたくオレ達が振るう二刀が、双剣が、群がる守護騎士達を正面から食い荒らし、突き進む。そこへ絶え間なく緑の電光や飛竜のブレスが放たれ、横合いから押しつぶそうと迫る騎士達の行く手を阻む。

 

 ―――今のオレ達なら、どこまでも飛べる。そうだろ、相棒!

 

 ―――ああ、もちろんだ相棒!

 

 意識が繋がるような感覚。互いの思いが、声にせずとも伝わる。その高揚を胸に、オレ達は飛翔していく。何処までも、高く―――!

 

 「―――行っけええぇぇぇ!!」

 

 その中でなお明瞭に耳朶を打った少女の声に、背中を押されながら。脳が焼け付くと錯覚する程に加速した意識と共に目の前の敵を切り捨て、飛んで……視界いっぱいに眩い光を受けた。

 

 「がっ!?」

 

 「あで!?」

 

 体が硬い何かに衝突し、揃って頭を振る。光に慣れた視界に映ったのは、ずっと目指していた石扉だった。今までずっと守護騎士達に阻まれていた天井周りの光に目が眩んだオレ達は、勢いそのままこの石扉にぶち当たったワケだ。つまり―――

 

 「辿り、ついた……!」

 

 「やっとだ、やっと……!」

 

 後ろに目を向けると、犇めくガーディアン達の肉壁に一か所だけ穴が開いていた。徐々に塞がっていくその向こう側では、役目を終えたとばかりにシルフ・ケットシー隊の者達が反転している。きっとフィリアやリーファも同様だろう。後はオレ達がこの石扉の先へ進めば……

 

 「開かない……?ユイ、どういう事だ!?」

 

 「待ってくださいパパ……ッ!こ、この扉はクエストフラグによってロックされている訳ではありません!単なる管理者権限です!」

 

 「つまりどうすりゃ開くんだよ!?」

 

 反転した守護騎士と、新たに天井付近で産み落とされた守護騎士達が、不気味な飛翔音と共に迫る。見た所弓兵がいないのが唯一の救いだが、こちらが攻撃されるまで十秒あるかどうかの違いでしかない。

 

 「この扉は、プレイヤーには絶対に開けられません!」

 

 「なっ……」

 

 ユイの悲鳴のような宣言に絶句したのはどちらだったか。だが、ここで折れるワケにはいかない……!

 

 「キリト、時間は稼ぐ!!」

 

 背負い続けていた弓へと武器を持ち替え、牽制に矢を射かけようとして。

 

 「そうだユイっ!このカードなら……!」

 

 「……!コードを転写します!」

 

 「クロト!手を!!」

 

 躊躇う暇は無かった。大剣を背負い、ユイにカードを突き出した状態で叫ぶキリトへと手を伸ばし―――黒衣の端に指先が触れた瞬間、視界が白一色に染まった。




 FGOイベントのバルバトス狩り……兄弟そろって140体ほどで音を上げてしまっています。無心でワンキル周回し続けるガチ勢の方々は尊敬しますよ、マジで……

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