今回はオリジナル展開です。上手く書けているか不安ですがどうぞ。
キリト サイド
”森の秘薬”クエから四日、俺達は”ホルンカ”から次の村”メダイ”に拠点を移した。
”メダイ”を一言で言えば、『見習い職人の村』だろう。理由は簡単だ。ここで受けられるクエスト報酬のほとんどが、生産職に必要な設備や道具なのだ。また、店売りの武具も”ホルンカ”のような製作者側の引っ掛けも無いため、安心して購入できる。
”森の秘薬”クエで武器が壊れてしまったハルは、暫定的に俺の『スモールソード』を使っていた(壊れやすい『ブロンズメイス』を購入するよりも、”メダイ”の『アイアンメイス』を購入したほうが楽なのだ)。
ハルは二つ目のスロットを空けていたので、片手棍スキルを外す事無く片手剣スキルを入れることができた(SAOでは、スキルをスロットから外すと熟練度がリセットされるのだ)。もっとも、”メダイ”に到着した時に『アイアンメイス』を購入したので、片手剣スキルはもう使っていない。
(レベルが七になったら、”トールバーナ”へ拠点を移そう。それにしても、三つ目のスロットに何を入れるか……)
今の俺達のレベルは六。三人でパーティーを組んでいるので、基本的に経験値は均等に分配される。そのため、レベルの上がり方はだいたい同じなのだ。また、スキルスロットはレベルが六になると一つ増える。そのため、俺達は新しいスロットに何のスキルを入れるか悩んでいる。
(パーティーを組んでいるから隠蔽はまだ要らない……とすれば、前でmobの攻撃を防ぐために武器防御か……?)
レベルが十二になるまでは三つのスロットで戦わなくてはならない。そのため、スロットに入れるスキルは慎重に選ばなくてはならないのだ。と―――
「ああ、オレは三つ目に軽業スキル入れたから」
「お前、ベータの再現一直線だな……」
「別にいいだろ。ちゃんと遊撃できるんだし」
「あのなぁ、MMOゲームでの遊撃ってのは爆死確定ビルドなんだぞ……」
「それで第一線で戦えてんだからいいだろ」
そう言われると俺は反論できない。確かにベータ時代、俺はクロトの戦い方に何度も助けられた。攻撃役・囮役・援護役と、コイツは器用にこなしていた。その時のスキルは確か………短剣・投剣・軽業・疾走・武器防御………だった気がする。武器防御は怪しいが(ベータ終了時、クロトが五つ目のスロットが開くレベル二十に達していたか不明)他の四つは確定だ。ちなみに俺は十層ボスを倒してやっとレベル二十になった。五つ目のスロットが開放されるのもその時知った。
「スキルならオレよりハルの方が重要だろ?」
そうだった………ハルは片手棍以外のスキルを決めていないのだ。どうしたものか………
「ハルが買出しから戻ったら、宿屋でちゃんと話し合おうぜ」
「ああ、そうだな…」
~~~~~~~~~~
宿屋で待つこと数十分、ハルが帰ってきた。
「僕達以外でここまで来ている人は数人しか見ませんでしたよ」
「そうか。…ところでハル、お前のスキルについてなんだが……」
「あ、え~っと…そのことなんですが……その…」
珍しくハルには歯切れの悪い言い方だった。気になって俺は優しく声をかける。
「どうしたんだ?どのスキルを選べばいいか分からないなら、俺達がアドバイスできる。だから、気にしないではっきり教えてくれないか?」
「…えっと……実は…”片手武器作成”と、”所持容量拡張”を……入れちゃった…」
「「は…?」」
俺もクロトもポカーンとしてしまった。そのスキルを選択したって事はつまり―――
「ハル…お前、生産職になるのか?」
「うん」
「なあハル、理由を聞いといてもいいか?」
俺が動揺から回復しきれていない一方で、平静を取り戻したクロトはハルに理由を訊ねた。ハルはそれに首肯する。
「僕が武器を無くしてからの二人の連携を見ていて…僕が足手まといになるって気づいたんです…」
「まあ、キリトとはベータからの付き合いだからな。…んで、鍛冶師を選んだ理由は?」
「長い目で見れば、攻略する人の装備はモンスタードロップやクエスト報酬では間に合わなくなる筈です。だから、その足りない分を補う人が必要になります。そして今攻略に参加している人たちはそれに気づいていないと思います」
「「っ!」」
言われてみれば、確かにそうだ。俺もそこまで考えが到っていなかった。今までずっと【攻略=最前線で戦う】と思っていた。だが、ハルは戦う以外の攻略方法を見つけたのだ。
(昔から、ハルは他人を支えるのが得意だったから……生産職が向いているのかもな…)
「それに、二人とも碌に伝手なんて無かったんでしょう?」
「「うぐっ!!」」
図星だ……ベータ時代の俺のフレンドなんて、クロトとアルゴの二人だけだった………
「だから僕が、二人の装備を整えて支えます」
そう言いきったハルの目には、確固たる信念が感じられた。初日の夜、俺に泣きついてきた時とは大違いだ。なら―――
「分かったよ、ハル。俺もできる限り手伝うよ」
「兄さんっ、ありがとう!」
ハルは嬉しそうに笑った。たまらず俺はその頭を撫でる。
「……あ~っと、仲が良いのはいいんだが…オレも忘れんなよ」
「「あ」」
「もう完全にブラコンだろ、お前ら」
「違う!」
クロトが言ったことを、俺は全力で否定する。
「褒め言葉です!」
………は?今ハルは何と言った?
「ハル?今なんて――」
「僕にとってブラコンは褒め言葉です!兄さんは大事な家族ですから!!」
クロトが少し引きつった顔でハルに訊ねると、ハルは満面の笑顔で答えた。って!!
「ブラコンってとこは否定しろよ!!」
「……ダメ?」
うぐっ!涙目で言われると、俺は弱い。っていうかハル、それやめてくれ。罪悪感で俺の精神HPがあっという間にゼロになるから。
「分かったけど…おおっぴらには言わないでくれよ…」
「うん!」
満面の笑みで答えたが、本当に言わないでくれるだろうか?少し不安だ。クロトは―――
「………」
「クロト?」
何故かフリーズしていた。ラグってんのか?そう思い、彼の前で手を振る。
「……はっ!」
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ!だからその表情をやめてくれ!俺はノーマルなんだよっ!!」
真っ赤になって何を言っているんだ?まあ、落ち着くまでほっとこう。
~~~~~~~~~~
「とにかくハル、キリト以外のヤツの前で笑うな」
「はい?何故ですか?」
大真面目な顔をして、ハルに笑うなと言うクロト。その理由が分からず小首を傾げるハル。俺も分からない。何故そんなことを―――
「相手をショタコンに目覚めさせる気か!!」
「へ!?」
ハルは驚いているが、俺はなんとなく分かった。確かに現実では、ハルと話してショタコンに目覚めた近所のおばさん達がいる。この世界でもそんな人が出たら、ハルが大変な目に遭う。そうならないために、俺からも言っておくか。
「これからは少し気をつけような、ハル。」
「…うん………ショタコンだなんて……そんなつもり…無いのに……」
暗い顔をして何か呟いていたが、俺には聞こえなかった。
「あ~…気を取り直して、クエやるぞ。」
「ああ」
「…はい……」
まだハルが立ち直りきれていないが、俺達はクエストを開始した。
~~~~~~~~~~
クエスト自体はそこまで難しいものではない。単純な納品やお使い系だ。しかし量が多かったり、納品すべきNPCが見つけにくい場所にいたりと時間がかかるものばかりだった。記憶力にはそれなりに自信があったが、ベータ時代の配置を思い出すのに時間がかかってしまったり、そもそも配置が違っていたりして面倒だった。
「やっと終わった…」
「レアドロップアイテムをあんなに要求されるとは…」
俺とクロトは一足先にレストランでぐったりしていた。じきにクエストを終えたハルも来る筈だ。と―――
「レベルが上がったな」
「ああ、今、レベルが上がるってことはクエスト報酬の経験値が入ったって事だから―――」
「―――メンバーのクエが終わったって事ダロ?」
「「うわあぁ!?」」
突然誰もいなかった筈の後ろから声をかけられ、俺達は素っ頓狂な声を上げる。
「お…おいおい、そんなに驚くナヨ?」
「いきなり会話に入るな!!」
「心臓に悪いわ!!」
俺とクロトの反論などどこ吹く風で、フードつきマントを羽織ったプレイヤーは何か考える仕草をする。と、ちらりと見えた頬のヒゲペイントと、特徴的な口調が、俺に”ある人物”を思い出させる。
「…まさか…お前…アルゴ?」
「おお!よく分かったナ?オネーサン嬉しいゾ!」
「アルゴテメェ!その猫かぶりなキャラやめろつったろうが!!」
ベータ時代、俺以上にぼったくられたらしいクロトは怒りを露にする。
「オレっちは猫じゃねーヨ!!」
ベータでもあったなぁ、このやり取り……俺が昔を懐かしんでいると―――
「オレっちを猫呼ばわりするって事ハ……お前、クロちゃんダロ?」
「ちゃんづけすんじゃねぇ!オレは男だ!!」
「その顔でカ?’男の娘’の間違いじゃねーノカ?」
「ぶっ潰す!!」
「ニャハハハハ!相変わらず振り回されてんダナ、キー坊?」
「んな!?」
「クロちゃんと一緒にいる片手剣使いなんてキー坊しかいねーヨ」
その通りだ。これ、完全にアルゴのペースだな。どうしたもんか………
「あれ?兄さん、その人誰?」
ハルが帰ってきた。ってヤバッ!このままじゃ、ハルもアルゴの餌食に―――
「オレっちはアルゴ。情報屋をしてるんダ」
「アルゴさん……兄さんのフレンドだった人ですね。初めまして、ハルです」
「ホウホウ、ちっこいのに礼儀正しいナ。オネーサン感心するヨ。」
「いえ、ベータテストでは兄がお世話になりました。これからもよろしくお願いいたします」
社交辞令のつもりだろう。ハルは’笑顔’で話す。って、’笑顔’はダメだって―――
「………」
マジか、あのアルゴでさえ落ちたのか?ハル、恐るべし………
「アルゴさん?どうかしましたか?」
ハルは小首を傾げてアルゴの顔を覗き込む。やめろ!それ以上追撃するな!!
「…ハッ!!ななな何でもないゾ!!本当に何でもないからナ!!」
「そう…ですか?」
「ヤメロ!!オレっちはショタコンじゃないんダヨ!!」
「ショタ……コン…?……ふえぇぇ…」
ハルは涙目で俺に抱きついてきた。………アルゴ、ハルヲ、ナカセタナ?
俺はその頭を優しく撫でつつ、アルゴを睨む。
「次にハルを泣かせたら……分かっているよな?」
「わ、分かっタ!だからそんなドス黒いオーラをやめてクレ!!」
「ならさっさと用件言えよ、アルゴ」
さっき暴れておとなしくなっていたクロトが、アルゴに先を促す。
「そ、そうダナ。…今オレっちはコレを作っていてナ。その手伝いをして欲しいんダヨ」
そう言って、ポーチから一冊の本を取り出す。
「これは…攻略本か?」
「そうダヨ。ほとんどの元テスターが初日に”はじまりの街”からいなくなっちまっテ、残されたビギナーが大変なんダヨ」
「だから俺達が持っている情報が欲しいのか?」
「そうダヨ。既に何人かのプレイヤーから情報をもらってるケド、一番進んでんのはキー坊達ダヨ」
「分かった。それで、ビギナーが死なずに済むならそれでいい」
「気前がいいんダナ、キー坊?」
「まあ、デスゲームだからな……」
これはきっと、クラインを見捨てた俺ができる数少ない償いの一つの筈だ。とはいえ、それで許されるとも思っていないが。
「フゥン……ま、そーいうコトにしといてヤル。じゃ、契約成立ダナ」
アルゴは俺が何か抱えていることに気づいたようだが、それを訊こうとはしなかった。
それから俺達は、ベータ時代の第一層の情報と、デスゲームになってから得た情報をアルゴに伝えた。代わりに、まだ俺達が知らなかったベータとのズレを教えてもらった。しかし、途中からアルゴの話術に嵌まり、聞かなくてもいい情報を買わされたり、情報収集の名目で、”トールバーナ”周辺の調査を依頼されてしまった。
まあ、ハルが鍛冶屋をやる時の宣伝をしてもらうが。
~~~~~~~~~~
「じゃあまたナ~!」
情報のやり取りをした後、アルゴは去っていった。なんだかんだで彼女も多忙なのだろう。
「クソッ!また嵌められた!」
「仕方ないだろ、クロト」
「そうですよ。あの人の話術はレベルが高すぎます。僕だって、どこで言葉を間違えたか分かりません…」
「あ~!明日から、今まで以上にハイペースでやるぞ!!」
クロトはやけっぱち気味にそういうと、宿屋へ向かう。
「明日に備えて俺達も寝よう、ハル」
「そうだね。確かにもう眠いや」
俺達もクロトも、今日はここ数日よりも早めに休むことにした。
その晩、少し寝付けずにいると
「…ゆう、き………」
ハルの寝言が聞こえた。もしかしたら、ハルは毎晩こうなのかもしれない。ハルがこのデスゲームに参加した原因は俺だ。その責任を取るためにも絶対にハルは守ってみせる!
(必ずハルを現実に帰すから……だから…もうしばらく待っていてくれ、木綿季)
決意を新たにし、天井に手を伸ばして拳を握る。しばらくして手を下ろし、目を閉じる。すると、今度はすぐに寝付くことができた。
アルゴの口調が分かりません……コレで合っているんでしょうか?不安です…
誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、感想にてお願いします。