SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 どうも、KAIMUです。

 今回は”はじまりの日”編です。


三話 初日の夜

 クロト サイド

 

 ”はじまりの街”を出て数十分。オレ達は、次の村である”ホルンカ”に着いた。道中の戦闘は、キリトが鬼神の如き強さを発揮したため、手こずらずに済んだ。つーか走りながらのソードスキルの発動とフルブーストを一回もミスらずに一撃で仕留めるとか………一応、オレとハルもちゃんと戦ったが……キリトの方がオレ達より多くのmobを倒していた。しかも、ハルの近くのヤツを優先的に………もうブラコン確定だろ、コレ。

 

 「よし、まずは今までの戦闘で手に入った素材を全部換金して、防具の新調とアイテムの補給だ。……あ、あと武器のメンテもしっかりな、キリト」

 

 「分かってるよ……」

 

 さっきまでの鬼神っぷりはどこへやら、今はもういつものキリトに戻っている。と―――

 

 「兄さん、武器は新調しなくていいの?」

 

 「ああ、この周辺に出てくるmobと、この村の武器は相性が最悪でな……ベータ時代、多くのテスターが引っかかって死に戻ったんだ」

 

 そう、ここで買える”ブロンズ”シリーズの武器は、攻撃力こそ初期武器の”スモール”シリーズより高いが、耐久値が低い上に減りやすい。加えて、この辺りにポップするmobは装備の耐久値を減らす攻撃を仕掛けてくる。耐久値がゼロになった装備は消滅する。武器が無くなれば戦えない。つまり、mobにフルボッコされてゲームオーバーだ。

 

 「それにな…この村で受けられるクエスト報酬の片手剣は、第三層まで使える優秀な剣なんだ。だから、片手剣使いにはここの武器は買うだけ無駄なんだ」

 

 「そうなんだ。分かったよ、兄さん」

 

 「まだ他のテスターもいないみたいだし、宿も押さえておくか」

 

 「ああ、それは頼むよクロト」

 

 「じゃ、二十分後にここに集合な」

 

 そういってオレは宿へ向かう。

 

 (あ……部屋割り聞きそびれた………まあいっか。あいつら二人部屋でも)

 

 ~~~~~~~~~~

 

 二十分後、宿の確保、防具の更新、アイテムの補充、武器のメンテ、素材の売却、クエストの受注と、やるべき事を全て終えたオレ達は、再び”ホルンカ”の入り口に集まった。

 

 「よし、ここでキリトのクエを手伝いながらレベリングな。ハル、これから戦うmobのこと、キリトから聞いたか?」

 

 「はい!大丈夫です!」

 

 それなら安心だ。そしてオレ達は森の中へ向かった。

 

 「―――うわぁ……グロい…」

 

 森に入ってから程なくして目的であるmobを見つけた時、ハルの第一声がそれだった。

 まあ、初見じゃそう言いたくもなるよな。あんなタラコ唇のついたウツボカズラみたいな”歩く”植物―――『リトルネペント』の姿を見れば。オレだって最初はそう思ったよ。

 

 「ハル、これからウンザリするほどアレを狩るから……我慢してくれ」

 

 「うん……兄さんの役に立てるなら…コレくらい…」

 

 ホント健気だな、ハルは。後半はオレだけが辛うじて聞き取れた。

 

 「そういやキリト。お前、二つ目のスロットに何入れた?」

 

 「索敵だ。クロトは?」

 

 「ん、投剣」

 

 「アホか!何考えて――」

 

 「お前が探す、オレがタゲ取る。以上説明終わり」

 

 「ベータと同じだな……それ…」

 

 「やり易くていいだろ」

 

 「僕はまだ保留なんですけど……何を入れればいいんでしょうか?」

 

 「すぐに決めなくていいぜ。じっくり考えな」

 

 「はい…」

 

 「ハルは、取りあえずネペントをぶん殴っていればいいから、な?」

 

 「うん!実さえ割らなければどこでもいいんだよね!」

 

 確かネペントって打撃耐性はどこも大して変わらなかった……か?よく覚えてたなキリト。

 

 「とにかくさっさと狩るぞ」

 

 「ああ、今夜でレベルを四か五ぐらいまでは上げておきたいな」

 

 「がんばろ、兄さん」

 

 手近なネペントへ、そこら辺に落ちている石ころを投げる。投剣スキル『シングルシュート』が発動し、石ころが猛スピードでネペントに当たる。

 

 「シャアアァァ!!」

 

 「ハンティング開始だ!」

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「………出ない」

 

 「レベルも一しかあがんねぇ…」

 

 「もう…三百は倒しましたよ…」

 

 六時半から狩り始めて、今九時半。ベータならもう”花つき”ネペントが出るなり、レベルが二つか三つ上がるなりしてもいいハズなのに……

 

 「あそこにまた出たぞ」

 

 「オーケー、いくぜ」

 

 「あれ倒したら一回引き返しましょう」

 

 石ころを投げ、タゲを取る。残念ながら普通のネペントだ。

 

 「はああっ!」

 

 オレに向かってくるネペントの側面から、ハルが『パワー・ストライク』を放つ。

 

 「シャアアァァ!?」

 

 まともに喰らい、仰け反っているところをキリトが『ホリゾンタル』をヤツの弱点――上下を繋げる白くくびれた所――に放つ。しかし、それでもヤツのHPは数ドット残る。それをオレがトドメをさす。つーかオレ、本当に必要か?

 

 (ハルのスタンは高確率で発生するし…キリトはHPほとんど削っちまうし……オレってただの囮じゃね?)

 

 なんてネガティブなことを考えていたが、場違いなほど明るいファンファーレに中断される。

 

 「やっとレベル三か……」

 

 疲れたような声で、キリトが呟く。ガチで引き上げようか……

 

 パンパンパンパン!

 

 「「「っ!?」」」

 

 それぞれの武器を構えつつ、音がしたほうへ振り向く。

 

 「わあっ!?待って待って!!」

 

 片手剣とバックラーを装備したソロプレイヤーがいた。多分―――

 

 「あんたもテスター…か?」

 

 「そ、そうだよ。あと、レベルアップおめでとう。随分速いんだね?」

 

 「まあな。それと過剰に反応して悪かった」

 

 「気にしなくていいよ。それより、君たちもやってるんだろ?”森の秘薬”クエ」

 

 「ああ。あれは片手剣使いには必須のクエだからな…」

 

 「僕も手伝っていいかな?」

 

 ん?何か変な気がするな。

 

 「見返りは何だ?はっきり言ってくれ」

 

 「あ~っと、僕の分が出るまで手伝って欲しい……かな」

 

 まあ、ベータでもよくあった条件だな。キリトもそれで納得し、承諾する。

 

 「分かった。ただ、後三十分ぐらいしても一体も”花つき”が出なかったら、俺達は引き返すから続きは明日になるけど」

 

 「え?どうして?」

 

 「弟を深夜まで付き合わせたくないからな。すまない」

 

 「そっか、分かったよ。もしそうなったら、明日もよろしく」

 

 「んでアンタ、名前は?」

 

 「あぁ!まだ自己紹介してなかったね。僕はコペル。よろしく」

 

 「クロトだ」

 

 「俺はキリト。そしてこっちが――」

 

 「弟のハルです。よろしくお願いします」

 

 「クロトに…キリト…?どこかで――」

 

 「気のせいだろ。オレもキリトも、よくある名前だろ?」

 

 「…う、うん。そう…だね」

 

 多少強引に話をそらす。ベータじゃオレとキリトはなかなか有名になっちまったからな……

 

 「早く狩りませんか?」

 

 「そうだね、やろう」

 

 ハルがコペルを促し、オレ達は再びネペント狩りを再開した。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 約二十分後、オレ達は未だに”花つき”に出会えないままだった。

 

 「クソッ、大分ポップ率が下げられてんな…」

 

 「ま、まあ、テスト版に比べて製品版のレアドロップとか経験値とかは下方修正されるのが普通だし……」

 

 オレの愚痴に、コペルは答える。

 

 「今度は左に二体……って、マジかよ…」

 

 「どうしたの?兄さん」

 

 「”花つき”だ…!」

 

 「「「っ!?」」」

 

 キリトの言葉を聞いて左を見ると、確かに”花つき”がいた。だが―――

 

 「”実つき”もいやがる……!」

 

 その実を破壊すると、周囲のネペントが集まってしまう”実つき”。ポップ率は”花つき”と同じくらいだったが、まさかここで同時にポップするとは………

 

 「どうする?」

 

 キリトがオレ達に聞いてくる。今のオレ達では”花つき”のみをタゲる事はできない。どうしたものかと悩んでいると―――

 

 「行こう。僕が”実つき”のタゲを取るから、三人は速攻で”花つき”を倒して合流して」

 

 コペルがそう、提案した。

 

 「……分かった。行くぞ、ハル、クロト」

 

 「うん」

 

 「ああ…」

 

 オレは何か引っかかりを覚えながらも、”花つき”へ向かう。

 

 「「シャアアァァ!」」

 

 ”花つき”と”実つき”が同時にオレ達に気づくが、手前にいる”実つき”は無視。奥の”花つき”へ向かう。

 

 「はあっ!」

 

 ”花つき”の触手をかわし、『アーマー・ピアース』を放つ。残り七割。後ろでは、”実つき”の触手がコペルのバックラーに防がれる音が聞こえる。

 

 「やああぁぁ!」

 

 ハルが『パワー・ストライク』を側面から叩き込む。残り三割。

 

 「シッ!」

 

 キリトの『レイジスパイク』が、触手が振られるよりも先に”花つき”の弱点部分に突き刺さる。これで”花つき”はHPを全損し、ポリゴン片に変わる。

 

 「兄さん!胚珠は?」

 

 「あったぞ!コペル!」

 

 ハルの問いかけに答え、コペルを呼ぶ。コペルはこちらを確認すると―――

 

 「…ごめん」

 

 「いや…だめだろ、それ」

 

 あろう事か、コペルは垂直切り『バーチカル』を発動。頭の実を破壊しつつ”実つき”のHPを全損させる。

 

 「コペルさん!?一体何を!?」

 

 「本当にごめん!」

 

 ハルの問いかけにコペルはただ謝る。そのまま茂みを突っ切っていきオレ達の視界から隠れ―――カーソルも消える。おそらく隠蔽スキルを使ったのだろう。今思えば、オレ達の前に現れるときも使っていたはずだ。だからこそキリトの索敵スキルでも気づけなかったんだ。そしてそれを今この状況で使うって事は―――

 

 「”MPK”って事か……!」

 

 ”MPK”、モンスタープレイヤーキル。恐らく狙いはキリトがポーチにオブジェクトのまま入れてあるネペントの胚珠。これはクエストのキーアイテムなので、ストレージではなくフィールドにドロップする。そしてプレイヤーが死ねば、そいつが持っていたオブジェクト化されたアイテムはその場に残る。つまりコペルは、ネペントにオレ達を始末させ、フィールドに残った胚珠を拾うつもりなんだろう。そのための隠蔽スキルか。

 

 「コペルさんは僕達を殺すつもりなの!?でもどうして!?」

 

 「他人を蹴落としてでも強くなりたいんだろ。生き残るために……な」

 

 「そんな……!」

 

 オレが落ち着いた声で答えると、ハルは絶望した表情をした。と―――

 

 「……そっか、コペル。お前、知らなかったんだな……」

 

 キリトは何処か達観したような、哀れむような声で、コペルが隠れた茂みに話しかける。

 

 「隠蔽スキルは確かに便利だけど、”視覚以外で相手を探すmob”には効果が薄いんだ……例えば、『リトルネペント』とかさ……」

 

 キリトのこの話は、ついさっきまで忘れていたが、ベータ時代に聞いた事がある。それが製品版の現在でも変わっていないなら、ここに集まってくるネペントの内いくらかはコペルを狙うだろう。つまり、相手が”視覚以外で相手を探すmob”である時点で、コペルがした事は自殺行為と変わらないのだ。

 

 「先に言っておく。俺はハルを殺そうとしたお前を助けるつもりなんて…無い」

 

 キリトがひどく冷たい声で、隠れているコペルに言い放つ。正直、オレもここまでキレたキリトを見たことが無い。完全に地雷踏んだな、コペル。まあ、仲間を殺そうとした時点でオレも助けるつもりは無い。自分で何とかしてくれ。が―――

 

 「けどよキリト。オレはともかく、お前らの武器は大丈夫か?」

 

 「正直キツイけど……攻撃を弱点に集中して攻撃回数をギリギリまで減らせば何とかなるだろ」

 

 「オッケーだ。じゃあメインアタッカーはオレがやるから、キリトはハルを守れ」

 

 「ぼ、僕だって―――」

 

 「お前のメイスが一番ボロボロなんだ。あと数回攻撃すれば壊れるかもしれない」

 

 キリトがハルを優しく諭す。

 

 「俺が絶対に守るから……だから、ハルは俺を信じてくれ、な?」

 

 「”オレ達”だぜ、キリト」

 

 キリトの言葉を少し訂正させ、ネペントの包囲網を抜けるために構える。ハルもさっきの言葉で希望が持てたようだ。お互いがお互いの生存理由であることは一目瞭然だった。

 

 (オレだって……桜に会うまでは…絶対に死ねない!!)

 

 二人だけじゃない。オレにだって死にたくない理由はある。だから―――

 

 「キリト!ハル!行くぞ!!」

 

 「おう!!」

 

 「はい!!」

 

 ”ホルンカ”の方向へ、ネペントの群れを突っ切るように走り出した。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 ”ホルンカ”に戻るまでの事を、オレ達は断片的にしか思い出せない。キリトが近づいてくるネペントを探し、オレが削り、キリトがトドメを刺す。ハルは、戦いに集中して周りが見えないオレ達の変わりに後ろから来るネペントがいないか見てくれた。極限状態だったからか、ネペントの動きがやけに遅く感じた。加えて、オレやキリトは今まで以上のダメージを叩き出す事も多々あった。だが、それまでに何体のネペントを狩ったのかや、ポーションを幾つ飲んだか、何度HPがレッドゾーンに落ちたかなどは思い出せない。本当に、気が付けば”ホルンカ”の入り口だったのだ。

 

 「生き残った……よな?」

 

 「そう…だな…」

 

 「僕達…生きてます…」

 

 三人とも装備はボロボロ、疲労困憊といったところだった。特にハルはメイスが壊れてしまった。後ろのネペントと戦ってくれた時に壊れたのだ。そのお陰で前方に集中できたから、新調するのは手伝うべきだろう。

 

 「でも……コペル…さんが…!」

 

 「ああ、死んだな。音が聞こえた」

 

 オレとキリトは音で分かった。元々助けるつもりは無かったから平気だが、ハルはそうではない。根が優しすぎるのだろう。だから多少辛くとも、オレはハルに言う。

 

 「MMOゲームってのは他人を蹴落としてナンボだからな。コペルはそれに忠実だっただけだ。でもそれは何かあったとき他人から切り捨てられる原因にもなる。多分こっから先も似たような事をされるだろ」

 

 「でもっ!」

 

 「自分を殺そうとしたヤツまで助ける余裕は、今のオレ達にはない。誰を助けて誰を切り捨てるかってのをちゃんと割り切らないと……死ぬぞ?」

 

 オレの言葉に、ハルは黙ってしまう。そこにキリトが優しく訊ねる。

 

 「なぁハル。自分がされるだけならまだ許せるんだろ?でも、それがもし俺にやられたら?お前はやったヤツを許せるか?」

 

 「それ…は……」

 

 「俺は許せなかったんだ。だからコペルを助けなかったんだ。余裕が無かったのも事実だけど」

 

 「…うん……」

 

 言葉で分かっていても、感情で納得できていないようだった。ハルは難しい顔をしていたが、何も言わなくなった。

 

 「オレは先に寝てる。キリト、クエ終わらせてこい」

 

 「ああ」

 

 そしてオレは一足先に宿へ向かう。その途中で元ベータテスターらしきプレイヤーを何人も見かけた。あんまりのんびりしている余裕はなさそうだ。

 宿の部屋に入ると、すぐにベッドに潜り込む。そして再現されているヘアピンに触れる。ログインした時に偶然着けたままだったため、これも再現されていたのだ。

 

 (桜……会いたいよ……)

 

 さっきまでずっと抑えていた死への恐怖に震えながらも、桜を想い、涙を流す。少しでも恐怖を忘れたくて、彼女との思い出に安らぎを求める。

 やがてやってきた眠気に逆らう事無く、オレは眠りに落ちた。




 これってコペルのアンチになるのでしょうか?タグにアンチ・ヘイトを追加した方がいいのでしょうか……ちなみに、ネペントの打撃耐性は作者が勝手に考えたオリジナルの設定です。

 誤字、脱字、アドバイス等ございましたら、感想にてお願いします。

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