昨日本屋に行ったら先週はあった筈のSAO最新刊が無くなっていた!畜生!!(兄)
……とまぁちょっと踏んだり蹴ったりな事がありました。
キリト サイド
ヒースクリフへの直談判から数日後、七十五層主街区”コリニア”のコロシアムで決闘する旨の連絡を受け、やって来たのだが……
「火吹きコーンが十コル!十コルだよ!」
「冷えた黒エールもあるよ~!」
コロシアムの入り口から、そこに続く大通り中に露店が所狭しと並んでいるのだ。どうやら見物のお供用の軽食と飲み物を売っているらしい。
「……ど、どういう事だこれは……」
「さ、さぁ……」
「わたし達もさっぱり……」
傍らにいるアスナとサクラに問い質すも、返ってきたのは引きつった笑みと曖昧な回答のみ。
「……っておい!あそこでチケット売ってるヤツ、あの時椅子にふんぞり返っていた内の一人だろ!おっさんの差し金か!?」
「あぁ~、経理のダイゼンさんだね……多分あの人の仕業だよ。結構しっかりしてるから」
「ウチって実は戦力だけじゃなくて、資金もギリギリだからねぇ……これ幸いとDDAを出し抜いてがっぽり儲けようとしてるんだね」
……クロトの指摘によって、漸く全容が見えてきた。慢性的な財政難というのはよくある事なのだが……アスナ達のKOBもその例に漏れなかったのは少々意外だ。
「けどさぁ……見世物にされる側の気持ちも考えてほしいぜ……」
「―――あんなお宝スキル隠してたんだから、自業自得でしょーキリト?」
感情ではまだ納得がいかずに悪態をつくと、不意に後ろから聞いた事のある声がかけられた。顔を見る前から相手が誰なのかは察しているが、一応振り向く。
「……フィリアか。お前なら、ライバルの少ない今のうちにダンジョンで荒稼ぎしてると思ってたけどな」
「たまには観光もいいかな~って」
アスナよりも明るい色の髪と、碧眼が特徴的な少女の名はフィリア。俺やクロトの数少ない友人の一人であり、最前線にほど近い層でもソロで潜り込むトレジャーハンターだ。
彼女の手には、既に黒エールが。十中八九これから俺とヒースクリフのデュエルを観戦する気だろう。
「観光?お宝マニアで守銭奴のお前が?」
「女の子相手にひっどーい。そんなんでよくサクラに愛想つかされないね?」
「口が悪いのは元からだっつーの」
一見すると軽い口喧嘩に思われるかもしれないが、この二人はこれが平常運転だ。その証拠にフィリアはクロトの皮肉を別段気にせず笑っているし、その眼は彼をからかおうと悪戯っぽく光っている。
「え、えっと……キリト、この人は?」
「随分仲良さそうだけど……」
サクラ達が驚くのも当然だろう。彼女達からすれば初対面の相手と俺達が親しげに話しているように見えるのだから。
「彼女の名はフィリア。ソロでも最前線近くのダンジョンに潜り込めるトレジャーハンターで、ハルの常連だ」
「根は良い奴だが、結構がめついから気を付けろよ?」
「そんなんじゃないってば!全くもう…………」
俺の紹介についてはともかく、蛇足のようにからかったクロトに対して、フィリアは拗ねた様に頬を膨らませる。だが次の瞬間には、先ほど同様に悪戯っぽく目を光らせ、ニヤニヤとして―――
「そんな事言うなら、もう二度とデートの相談してあげないよ?」
「ブッ!?テメ、なんつー事を!」
―――爆弾を投下した。……実はクロト、デートをはじめ、サクラとの事についてフィリアに相談した事が何度かあるのだ。俺もハルも女心なぞさっぱりなので、クロトの助けにはなれなかったが……年の近い女の子であるフィリアは中々に強力な助っ人足りえた。まぁ、それでクロトが上手くいったのかや、フィリアがどんな入れ知恵をしたのか等の細かい所までは知らないが。
……つまるところ、この話を出されるとクロトに勝ち目は無い。しかもそれをサクラの前で暴露するとは……アイツ絶対に確信犯だろ。
「ホントでしょ?この前だって泣いて土下座してきたじゃん」
「土下座はともかく泣いてねぇぞ!変に脚色してんじゃねぇ!!」
ムキになって言い返すクロトだが……お前それ、土下座はしましたって墓穴掘ってるぞ。
「クロト……?」
「ク~ロ~ト~く~ん~?」
「いっ!ま、待て!誤解だ!!」
案の定、ショックを受けた様子のサクラと、彼を射殺さんばかりの眼光で睨むアスナ。元々知っている俺はともかく、この二人にはきちんと説明しておかなくてはならないだろう。……些細なすれ違いでクロト達を別れさせたくないし。ちょっとやり過ぎたフィリアにもお灸を据えてやろう。
「そういうフィリアだって、俺達に色々と泣きついてきただろ」
「な、泣きついてなんか―――」
「―――ハルに作ってもらったばっかの剣をスナッチされた時」
「うっ」
「トラップのクイズが一人で解けなかった時」
「あうっ」
「あとは―――」
「―――ごめんなさい!調子に乗り過ぎましたぁ!!」
……まだ二つしか言っていないというのに、もう降参したフィリア。だが涙目になっているのを見ると、俺も少しばかりやり過ぎたかもしれない。
「アスナもサクラも落ち着け。順を追って説明するから。フィリアとクロトは黙ってろよ?話がややこしくなるからな」
そして俺はダイゼンが呼びに来るまで、時間の許す限り俺達とフィリアの仲を彼女達に説明し続けた。
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闘技場を囲む階段状の観客席はぎっしりと埋まっていて、皆口々に斬れー、殺せー、と物騒なことを喚いていた。正直溜息の一つくらいつきたいものだが、客席にはフィリアだけでなくハル、エギル、クライン、そしてリズやシリカまでいたので見栄を張って我慢する。
「―――すまなかったなキリト君。こんな事になっているとは知らなかった」
「なら収入の二割はギャラとしてこっちに回してくれよ」
あの男、ダイゼンはチケット販売に留まらずオッズまで主導していたのだ。ひっそりと行われるとばかり思っていたデュエルをこんな大イベントにされた挙句、何の連絡も無かったのだから、これくらい要求したってバチは当たらないだろう。
「……いや、この決闘が終われば君とクロト君は我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらうよ」
「へぇ……」
何の気負いも無い、ごく自然な口調でヒースクリフは自らの勝利を宣言した。それは彼の自信の表れであると同時に、俺への挑発だろうか?何となく気に入らなかったのは事実だ。
「……こっちは弟も見に来てるんだ。負けるなんてかっこ悪い姿は見せられるかよ」
俺がそう言うとヒースクリフは視線を外し、十メートル程の距離が開くまで下がった。次いで右手を振ってメニューウインドウを操作。その直後にデュエルメッセージが眼前に出現。俺は迷う事無く受諾し、初撃決着モードを選択する。
背負った二振りの愛剣を抜き放ち、構える。たったそれだけで歓声がシャットアウトされ、意識がヒースクリフにのみ向けられた。それは彼も同じようで、その真鍮色の瞳は一瞬たりともウィンドウを見る事は無く、俺だけを映していた。
「……」
聞こえるのは互いの息遣いのみ。無理な力が一切かかっていない自然体の構え故に俺はヒースクリフの初撃が予想できない。
ならば奴より先に動き先手を取るだけだ。如何に鉄壁の守りを誇ろうとも、俺の攻撃が彼の反応速度を超えられれば―――勝てる。
カウントがゼロになった瞬間、俺は地を蹴り深紅の騎士へと突撃した。
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クロト サイド
キリトとおっさんのデュエルが始まった。先攻はキリト。先読みとかの心理戦を一切捨てた、迷いの無い動きで挨拶代わりとばかりに『ダブルサーキュラー』をお見舞いする。
しかし当然というべきか、おっさんはコンマ一秒差で襲い掛かる二本の剣を盾と剣で迎撃したためダメージは無い。キリト自身も動揺した様子が無い辺り、初撃で仕留められるとは思っていなかったんだろう。
今度は攻守を入れ替える様に、おっさんがキリトへと駆け出した。大きな十字盾を持つおっさんのビルドはタンクでありステータスが筋力寄りな筈だが、予想外な速さでキリトに迫り―――
「なっ!?」
―――あろう事か、’盾で攻撃’したのだ。不完全ながらも咄嗟に防御し吹き飛ばされたキリトのHPバーは僅かに減少しており、もしガードが間に合わずクリーンヒットしていたらこれで決着がついてしまっていたかもしれない。
「盾にも攻撃判定あるとか聞いてねぇぞ!?」
「こ、こっちも初めて見たよ……」
SAOに於いて、盾には攻撃判定が存在しない。今まで例外なんて出てこなかったから、今おっさんが見せたアレには度肝を抜かれた。サクラも初見だという事から、今回が初披露なんだろう。対人戦に於いては完全に初見殺しだ。攻防一体ってのはこういう事だったのかよ……!二刀流より神聖剣の方がチートじゃねぇか!
「……キリト君」
胸の前で両手を握り合わせ、ひっそりと呟くアスナ。ただそれだけで、彼女がどれほどキリトの身を案じているのかが伝わってくる。その視線の先では、深紅の騎士より放たれた初見のソードスキルに晒される相棒の姿があった。
意識の全てを防御に回して凌ぎ切ったキリトは、間髪入れずに『ヴォーパル・ストライク』を十字盾の中心へと叩き込む。だがその渾身の一撃もおっさんのHPを僅かに削るだけに留まり、決定打にはならなかった。
「……?」
一旦間合いが開いた二人がすぐには動かなかった事を不思議に思い、視力強化で二人を見ると……何かを話しているようだった。だがそれも二言三言といった具合で、すぐに仕切り直しとばかりに二人は構えた。
―――同時に二人の姿が掻き消え、闘技場中央で激突。二度目の応酬が始まった。
攻防どちらも行えるおっさんと、攻める事に特化したキリト。相性でいけばキリト側が不利だが……
「大丈夫だアスナ。キリトなら勝てる」
「え?」
彼の剣は、今までにない程の速さでシフトアップしている。オレが相手をしてきた時なんかの比ではなく、一撃ごとに少しずつキリトの剣速は上がっていく。
「団長が……遅れてる……?」
徐々にだが確実に、おっさんの動きがキリトのそれに追いつかなくなってきたのだ。先程まではキリトだけが弱ヒットが重なり続けてHPが大分減っていたが、今度はおっさんのHPが削られ始めた。
防戦一方になってもおっさんのHPは削られ続け、とうとう六割を下回った。
―――聖騎士が、最強の盾が負ける……?
観客の誰もがそんな未来を予想し、どよめきが広まる。そしてキリトはそれを実現するように、闘いで高揚した笑みを浮かべたまま大技を繰り出した。
「あれって確か…!」
「二刀流上位スキル『スターバースト・ストリーム』だ。アイツ、これでカタを付ける気だ」
キリトは、テンポが遅れ厳しい表情を浮かべるおっさんに立て直す暇を与えず、強引に防御を崩すつもりだ。彼が振るう二刀流の真骨頂はその速さと重さにある。相手の反応速度を超えた速さで襲い掛かり、生半可な防御など意味をなさない重い攻撃で崩す。絶え間ない剣劇に晒されたおっさんは辛うじて十字盾で防いでいるが、限界がくるのは明白だった。
「あっ!」
声を漏らしたのは、誰だっただろうか。ついにおっさんの防御が崩れ、十字盾が大きく弾かれた。そしてキリトのソードスキルは……まだ続いている。
(行ける!)
無防備となった深紅の騎士へと迫る、相棒の漆黒の剣。誰も彼もがキリトの勝利を確信して―――
「……は?」
―――彼の剣は
同時に勝敗を告げるブザーが鳴り響き、ウィナー表示が淡々と勝者を告げた。
(何だったんだ……最後の一瞬、何かがおかしかった……?)
具体的に何がどう変だったのかが分からないが、普通ではありえない事だという強烈な違和感があった。オレはアスナやサクラと共にキリトの傍に駆け寄りながらも、無言でその場を去っていくおっさんの背中から目を離せなかった。
「カァ?」
「クロト?どうしたの?」
「あ、いや……何でもない」
確証の無い事を言っても混乱させるだけだ。そう思ったオレは咄嗟に取り繕ってしまったが、キリトから、お前もか?といった視線を向けられた。
(……どうもキナ臭いな……)
後でキリトから話を聞くとして、今は彼等と共に控室に戻る事にした。形はどうあれギルドに所属する事になったのでこれから先の攻略は何とかなりそうだが、別の問題が出てきてしまった事が気を重くさせるのだった。
―――あんな紅白カラー、オレ達にはぜってぇ似合わないよなぁ……
そう、見た目の問題が。
ヤバイ……原作とほぼ変わらない。つ、次こそはキリアスのターンに……なる…………かな?