SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 ……前回投稿してから若干の燃え尽き症候群みたいな状態になってしまいました。

 多分今年最後の投稿になります。


四十二話 お忍びで……

 クロト サイド

 

 サクラに救われてから早いもので、もう一カ月が経った。非常に恥ずかしいのだが……彼女に縋って泣いて、泣き疲れて眠ってしまったらしいオレは、丸々二日くらい目を覚まさなかったらしい。気づいたらどっかの宿のベッドで横になっていた。

 

 ―――それもサクラの添い寝付きで。

 

 幸いベッドは大きかったので彼女も窮屈な思いはしなかったみたいだが……起きたら目の前にサクラの笑顔があったのは本当にびっくりした。少しの間フリーズした後、オレは慌てて起きた。だがすぐにふらついてしまい、サクラに抱きとめられてしまったのだ。

 しかも、その……頭から彼女の胸につっこむような感じになって、軽くパニックを起こしかけた。だけどサクラはそんなオレの頭をあやす様に撫で、オレが落ち着くまで抱きしめ続けてくれた。

 

 ―――大丈夫だよ。

 

 優しく囁かれたその言葉と、込められた想い。それが伝わってきた瞬間、オレは再び涙を流していた。何で泣いてしまったのかは自分でもよく分からなかったけど―――ずっとずっと欠けていた心が、温かく満たされていくようだった。

 その後は非常に気まずい状況になってしまった。みっともない所を晒したという事もあるが、記憶が間違っていなければオレは……サクラに……キスされた上にその……こ、告白……されたのだ。この時もそうだったが、今でも思い出すだけで恥ずかしくて仕方が無い。

 色々とゴチャゴチャになった頭は碌に働かず、お互いの立場とか、自分がしてきた事とか…………全部すっ飛んでいたのだ。その所為か、オレの中に浮かんだのは本当にシンプルな、サクラへの想いだった。

 

 ―――あぁ……オレは誰よりも……サクラが好きなんだ、と。

 

 しかもそれは気づかない内に己の口からダダ漏れだったらしかった。それがバッチリ聞こえた彼女は頬を紅く染めながらも……幸せそうに頷き、再びオレを抱きしめてくれたのだった。

 

 その後は、その……なし崩し的にというか、何というか……サクラと、付き合う事になった。知らぬ間にアスナ達が手回ししてくれていたらしく、オレが攻略会議に出席しても吊し上げられる事は無かった。

 とはいえそれは表立ってオレを非難しなくなっただけであり、すれ違いざまに陰口を叩かれたり、視線での無言の圧力をかけられたりするようになった。大抵の事は何とか今まで通りスルーできるのだが……今まで以上に心に突き刺さるようになった言葉もあった。

 

 ―――人殺し、殺人鬼、化物……とにかく自分が他人の命を奪った者だと突き付けられる言葉がそうだった。

 

 聞いた時には嫌でも体が反応してしまい、普段通りではいられなくなってしまう。我ながら情けないが……あの時の、平気で他人を殺せた自分が怖いのだ。その為全身が目に見えて震えてしまうし、息も荒くなる。その上自分の体から感覚が消え失せ、心が冷たい闇に飲まれそうになる。

 一度だけ会議中に後ろから言われた事があり、その時は急変したオレの傍にサクラが会議そっちのけで飛んできたし、言った本人はキリトにデュエルを吹っ掛けられて一方的にボコボコにされた上にしばらくの間謹慎処分になったらしい。誰が言ったのかはオレ自身見ていないので、そいつがどのギルド所属なのかや、どんな奴なのかなどは全く知らないが。

 ……まぁ、サクラとの関係もその時公になったらしかった。後日会議を開きなおした時にはクラインやエギルをはじめとしたごく一部の人には祝福され、それ以外からは前以上に睨まれるようになった。だがそれ以上に驚いたのは―――

 

 ―――完敗です。

 

 その言葉と共にレイが、オレを祝福してくれた事だった。アイツだってサクラには相当な想いを抱き、積極的にアプローチをしていたのだから、負け惜しみとか悪態の一つくらい言ってくるものだとばかり思っていた。それがあまりにもアッサリと切り替えた彼には驚きつつも人としての器の大きさの差を見せつけられた気がした……つーか逆にオレの方が負け惜しみとか悪態とか言いそうになってしまった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「はぁ……」

 

 「お前、今朝だけで十回以上だぞ?」

 

 思わず出たため息を感知したキリトが、呆れた表情を浮かべていた。それが何となく気に入らず、つい愚痴を零してしまう。

 

 「ンな事言ったってよぉ……折角……折角の……で、デートだってのに……戦闘用の服しか無ぇってさぁ……」

 

 そう。今まで鍛え上げてきたスキルや装備品が戦闘一色で……つまるところ私服がほぼ無いのだ。初めての、ごく普通のデートだというのにこれでは台無しだ。

 

 「仕方ないだろ……お前だって装備新調して忙しかったし。何よりあの女に頼んだら多分女装用のやつしか作らないぞ?」

 

 「それは分かってるけどよぉ……」

 

 あのゴタゴタの後、キリトに続く形でオレも防具を新調した。その中でも特に、黒をメインカラーとして、所々に蒼のラインが施されたハーフコート―――シャドウワイバーンコートと、漆黒のマフラー―――フォグナイトマフラーはそれぞれ異なるボスモンスターの希少素材が惜しみなく使われていて、前の防具と比べて非常に破格の性能を誇っている。

 しかもこれらの素材は、オレが集めた訳では無い。キリトやアスナ、クライン、エギル達が祝福してくれた時に既に完成したコートとマフラーをくれたのだ。そのため自力で新調するのはグローブやズボン、ブーツ等で出費事態は大分抑えられたのだが……攻略と平行して行っていたので、私服を用意するまでには手が回らなかったのだ。

 

 「そもそも、男が着飾っても意味ないだろ……お前は俺と違って金には余裕があるんだし、記念に何か買ってやれよ」

 

 「そりゃもちろん、そのつもりさ」

 

 「なら普段通り堂々としてろよ……というか、何で俺がお前達のデートに付き合わなきゃならないんだ?」

 

 どう考えても邪魔者だろ、とキリトがぼやく。オレとサクラはアインクラッド中に顔を知られているので、一人でいたら何が起こるか分からない。その為待ち合わせの時にはアスナとキリトが、サクラとオレにそれぞれについている事。これはアスナが決めた事であり、全く持って正論なのでぐうの音も出ない。その為キリトは渋々ながらもこうやってオレと一緒にいてくれている。

 

 (……まぁ、アスナもキリトに会いたいから言ってんのはバレバレだけどな)

 

 キリトよ、お前はいつになったらコレがアスナの建前だって気づくんだ?アイツは堂々とお前に会う口実を増やしたかったのは誰が見ても明らかだってのに。

 

 「その事はアスナが言ってたろ」

 

 「確かにその通りなんだけどさ……お、来たぞ」

 

 過疎層の転移門前で待っていたので、サクラ達が来る時は転移門のエフェクトで分かる。大したレアアイテムやファーミングスポットが無い層にやってくる物好きなんてまずいないので、彼女達が転移してきたのだと思ったのだが―――

 

 「…………誰?」

 

 やって来たのは臙脂色のフーデットローブを被った二人組。まさか本当に物好きが転移してくるなんて……

 

 「もぅ、わたしだよ?」

 

 「さ、サクラ!?って事はそっちはアスナかよ!?」

 

 驚いた。フードで顔を隠すくらいはあると思っていたが、ローブで体全体を隠してくるなんて完全に予想外だった。しかもローブの下は結構地味な服装で、着飾ったとはお世辞にも言えない。これは一体どういう事だ?

 

 「ここまでしないとバレるのよ……プライベートで買い物とか一人で行くときにはいつもこうしてたのよ?」

 

 「有名人ってのも大変だな」

 

 アスナが愚痴るように言うと、キリトがさも他人事のように相槌を打つ。確かにこの四人の中で、下層に降りても攻略組だとバレないのはキリトのみだ。

 

 「まぁ、これで無事合流できたって事で。俺はかえ―――」

 

 「―――ねぇキリト君、ちょっとクエスト攻略手伝って!!」

 

 そそくさ帰ろうとしたキリトの腕を、アスナが掴んだ。しかもイイ笑顔で。

 

 「は?何をいきなり……って待て!引っ張るなああぁぁ!?」

 

 「それじゃ二人共、楽しんでね!!」

 

 そう言ってアスナはキリトを連れて、オレやサクラの返事を待たずに転移した。…………あ、ありのままに起こった事を簡潔に言おう。

 

 ―――アスナがキリトを拉致って行った。

 

 うん、これに尽きる。サクラにしてもアスナにしても、何というか……結構大胆だな。これが所謂肉食系女子って言うヤツか?……もう死語だっけ?

 

 「アスナさん、上手くいくといいなぁ……」

 

 「……そう、だな」

 

 何とはなしに呟かれたサクラの言葉に、いつの間にか同意していた。これまで、四人でパーティーを組んで攻略ダブルデート(?)をした事はある。そこでアスナは少なくない回数アピールしたのだが、キリトはそれらを悉くスルーしている。アピールそのものがそこまで分かりやすいものでは無いという事もあるが、一番の原因はキリトの鈍感さだろう。少し考えれば分かる筈なのに、キリトは違う意味で解釈してしまうのだ。そのくせ無自覚に女性を惹きつける。

 これまでつるんでいて分かったのだが、キリトは……そう、モテるのだ。中性的な容姿だからか、大抵の男よりも初対面の女性から警戒されにくい。そして自然とさりげない気遣いができる(正直ここはオレも見習いたい)。何より、時折見せる影のある表情に引き込まれてしまうのだろう。辛い事を隠そうとしたような、どこか無理をしているようなセンチメンタルな表情が、相手に’何とかしたい’とか’放っておけない’と思わせるのだ。とはいえオレだってキリトの事がほっとけないから今でもコンビ組んだままなんだけどな。

 それにしても―――

 

 (アイツ……振り払わなかった、よな……)

 

 圏内であるため、本気で嫌だったのなら断れた筈だ。だがそうしなかったって事は、満更でもなかったのだろうか?表情だって怖がっている様子は無く、幾分明るかったし。

 もしかしたらキリトもアスナに惹かれているのかもしれない……百パー自覚してないんだろうけど。ただ、キリトには恋愛への諦観が深く根を張っているのが唯一の不安材料で―――

 

 「―――クロト?」

 

 「あ、いや……何でもない!」

 

 サクラに小首をかしげながら覗き込まれ、ドキリと心臓が跳ね上がった。考え事をしていて不意を突かれたというか何というか……いきなり視界いっぱいに好きな人の顔が映ったのだから。

 

 ―――それこそもう少し近づけばキスできるくらいに。

 

 赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、とっさに顔を逸らす。そのままマフラーを引き上げるが……隠せたのはせいぜい口元くらいであまり効果が無かった。

 

 「ふふふっ」

 

 「……ほら、行こうぜ」

 

 ……多分バレバレだな、この反応。いや、笑顔になってくれるのは嬉しいけどさ……恥ずかしい所を見られたこっちの心境は結構複雑だ。そのためか少々ぶっきらぼうにサクラを促し、歩き出す。

 

 (……ちょっと、コレはヤバイな……)

 

 歩き出す時に彼女の手を握ったのだが……もう既に心臓がバクバクしている。手を握る事自体は初めてではないというのに、どうしても慣れない自分が少し情け無い。

 

 「―――ねぇ、クロト」

 

 「お、おう」

 

 特にあても無く歩きだしてから少しして。ふいにサクラが口を開いた。何とか普段通りの声で反応してみせたものの、彼女の方を見るのが気恥ずかしくて顔を向けられなかった。

 

 「初めて……二人きり、だね」

 

 「そう……だな」

 

 手を繋いで、話をする。ただそれだけで顔が熱くなり、胸からは決して不快ではない痛みを感じる。だというのにサクラは―――

 

 「ふふっ、可愛い」

 

 「うぐ!?」

 

 オレの様子を知ってか知らずか、予想外の言葉を放り込んできた。オレが女顔である事を認めたくないのはサクラもよく知っている筈なのに。それを言うという事は、何かあるだと考えるべきなのに、オレはついカッとなって口を開いてしまう。

 

 「あのなぁ!オレは―――」

 

 「―――やっと、見てくれたね」

 

 少しばかり声を荒げながらサクラを見て……固まった。頬を紅く染めた彼女が、例えようもないくらいに綺麗だったから。

 

 「……わたしだって、ドキドキしてるんだよ?」

 

 サクラがはにかむように微笑む。それだけで心は彼女への想いで満たされていく。

 

 「サクラ……」

 

 「ん……」

 

 気づけば、自分から彼女へとキスしていた。それはほんのわずかな時間、唇が触れる程度ではあったが、今は充分だった。

 目の前にいる彼女が、堪らなく愛おしくて。抱いた想いは彼女と共に時を過ごすにつれてより強く、色濃くなっていって。

 

 ―――大好きな人と共にいられるのが、とても幸せだった。




 リアルで経験して無いのにデートの話とかできるかぁ!!

 ごめんなさい、もしかしたら次の話では二人のデートの続きを飛ばしてしまうかもしれません……独り身ってマジ辛い。
 二次作書いてる他の人達ってどうしてあんな甘々な話が書けるんでしょうか……?


 何はともあれ、皆さん良いお年を!!

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