SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 前回から三週間も空いてしまって申し訳ありません……

 中々時間が取れない社会人ってこういう時不便ですね~


二十八話 事件捜査その二

 クロト サイド

 

「……なんつーか」

 

 「嫌な話だが、ネトゲじゃよくある事だったな……」

 

 オレ達はレストランにて、生命の碑にあるカインズの名前に横線が引かれていた事、彼を殺すのに使用された槍がグリムロックによって作られたものだった事をヨルコさんに報告した。加えてシュミットという人物を知っているか聞いてみた。

 ……すると何とまあ、かつてのギルメンだったと答えてくれた。さらにカインズが殺された理由になりうる出来事を教えてくれた。

 

 ヨルコさん達が所属していたギルドは黄金林檎という名前で、半年ほど前、最前線でもドロップすることの無いだろう高性能な指輪を入手した。その後指輪をギルド内で使うか売却して利益を分配するかで意見が対立。ケンカに近い言い合いの末、多数決によって売却に決定したそうだ。そのためギルドリーダーが最前線に一泊二日の日程で出向き、競売屋に委託する筈だった。

 だがリーダーはそのまま帰らぬ人になってしまったのだ。当時は睡眠PKの手口が広がる直前であり、ドアロックできない公共スペースで眠る人も少なくなかった。不幸にもリーダー―――グリセルダさんも宿代を節約するためにそう言った場所で眠り、そのままPKされてしまったらしいのだ。狙われた理由は当然彼女が所持していたレア指輪だろう。だが指輪を持っている事を知っていたのはギルドメンバーのみ。当然ギルメンの誰かが利益を独占しようとか、売却される前に奪ってしまおうとか考えたのでは無いかという疑問がギルド内で浮上した。さらにグリセルダさんが殺された時間に自分がどこで何をしていたかを証明できる者は一人もおらず、互いに疑心暗鬼の状態になりあっという間に解散したそうだ。

 

 意外だったのが、リーダーであるグリセルダさんは女性で、グリムロックと結婚していたという事だ。SAOの男女比はとても偏っている。そんな中結婚するほど女性と親密になれる男性はほとんどいない。……カップルなら以前四十七層でそれなりに見かけたけど。

 とにかく、運良く手に入ったレアアイテムを取り合って、仲良しだった筈のギルドが空中分解するのはネットゲームではよくある事なのだ。その手の情報が広がらないのは、ひとえに当事者達が話そうとしないからだ。人間誰しも忘れたい事や話したくない事の一つや二つはあるのだから。

 

 「……やっぱり、割り切れないよ」

 

 「割り切れない?何がだ?」

 

 サクラが辛そうな顔で呟くと、それを聞いたキリトは首を傾げる。

 

 「だって……だって、今まで一緒に戦ってきた人達が、たった一つのアイテムでバラバラになっちゃうなんて……そんなのおかしいよ!」

 

 「ゲーマーってのはそういうものさ。普通の人よりも少しばかり自分の欲望に素直で、他人への配慮に欠けたヤツばかりなんだよ」

 

 やるせないといった様子のサクラと、冷めた表情で眉一つ動かさないキリト。オレはかじる程度とはいえネトゲをやっていたから、キリトの考え方は分かる。だが、人としてはサクラの方が正しいんじゃないかって思う。

 つまりオレは二人の内のどちらを肯定すればいいのか判らなかった。

 

 「サクラ、考え方は人それぞれよ。それよりも今、私達にはやる事があるでしょう?」

 

 「……はい……そうでした……」

 

 結局どっちつかずなオレよりも先に、アスナがサクラを慰めてしまった。……つーかアスナ睨むな!マジでこえーよ!!ヤタも突っつくな!痛てぇって!!

 左からはヤタにこめかみをつつかれ、反対側からはアスナに絶対零度の視線で睨まれ、両方から「何でフォローしないんだよ」と責められているような状態で非常に居心地が悪かった。

 

 ……余談だが、現在のオレ達はヨルコさんから話は聞き終わってレストランから出ているし、ヨルコさんも宿屋へと送った後だ、という事を追記しておこう。

 

 「えぇっと……と、とりあえずこれからの事を決めねえか?」

 

 「そうだな。俺が今思いつくのは―――」

 

 居心地の悪さを誤魔化すためにオレが口を開くと、キリトは真剣な顔をしながら指を三本立てた。

 

 「―――一つ、中層でグリムロックの事を聞き込む。二つ、元黄金林檎のメンバーにヨルコさんの話の裏づけをとる。三つ、殺害手口の詳しい検討をする……こんなところかな」

 

 「いっつも思うけどよ……よくすぐにそんなに選択肢が浮かぶよなぁお前」

 

 ヨルコさんから話を聞いて、まだそれほど時間が経っているわけでは無い。だと言うのにこの頭の回転の速さ……頼りになると同時に驚かされてばかりだ。

 

 「……一つめは、もっと人手が要ると思う……」

 

 「そうね……四人じゃ効率が悪すぎるし……かといって攻略以外の事に割ける人手はどこのギルドにも無いし、却下ね」

 

 普段より抑揚の無い声でサクラが呟くように言うと、アスナがキリトの選択肢にある問題点をすぐに挙げてきた。

 

 「じゃあ二つめは?」

 

 その事に驚きつつも次の選択肢を挙げるが、またアスナに問題点を指摘されてしまう。

 

 「指輪事件の事は元々裏の取りようがないわ。仮に元黄金林檎のメンバーから話を聞けたとしても、ヨルコさんの話と矛盾していた場合、私達じゃあどちらが正しいのか分からないもの」

 

 「……となると三つめだな」

 

 キリトが言うと、オレ達は皆頷いた。消去法ではあるものの、行動の方針は決まった。だが―――

 

 「けどよ……もうちょいSAOの知識があるヤツが要るよなぁ」

 

 「うん……でもヨルコさんも指輪事件の事はあんまり公にしたくない筈だし、口の堅い人じゃないと……」

 

 「そんな人いるかしら?」

 

 そう、オレ達以上にSAOに精通しつつ秘密を守ってくれる人のアテがないのだ。せっかく方針が決まったというのに、早速手詰まりになってしまった。

 

 「何を悩んでるんだ?おたくの団長さん呼べばいいだろ」

 

 「「「は!?」」」

 

 待て待て待て。キリトは今なんつった?サクラ達のギルマスを呼べばいい?あのヒースクリフのおっさんを呼ぶって事か!?

 

 「お前正気か!?いくらなんでもそんな大物―――」

 

 「昼飯奢ってやるからアルゲードの転移門前に来てくれってメッセよろしく」

 

 「無視すんなぁ!!」

 

 オレの抗議など関係ないといった風にキリトはアスナにメッセージを頼むと、そのままスタスタと歩いていくのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 アスナがメッセージを飛ばしてから約三十分後、本当にヒースクリフはやってきた。元々人の往来が多く昼間は騒がしい五十層主街区の”アルゲード”だが、彼が姿を現すと一瞬の静寂が訪れ、その後に多くのプレイヤー達がざわめいた。

 

 ―――攻略組トップギルドのリーダーにして、SAO最強のプレイヤーと呼ばれるヒースクリフ。その存在はアインクラッドで知らぬものはいない程に有名だ。そんな彼を人の多い場所へ呼び出せば当然注目されるし、アスナ達もいるとなればなおさらだ。だというのに何を考えてキリトはヒースクリフのおっさんをここへ呼んだのだろうか?

 

 「すまない、少々待たせてしまったかな?」

 

 「いえ、こちらこそ突然お呼び立て申し訳ございません団長!」

 

 「どうしても団長に協力してほしいと、彼らが」

 

 こんな状況でも上下関係が保たれているが、KOBは組織内の構造がしっかりしているのか少し気になる。サクラ達はおっさんを呼ぶにあたって普段の騎士服になっているが、彼自身はボス戦などで見かける深紅の鎧ではなく暗赤色のローブを纏い、武器を装備していなかったからだ。

 今のおっさんの姿から、この世界には無い魔法使いの職業を連想したのはオレだけではないだろう。一言そういった事を告げてやろうかとも考えた事があるが、あまり面白い反応をしてくれるイメージが無いのでやめた。とはいえ詳しい事情を教える事無く呼んだのだ。一応問題無いかを本人に確認しておくべきだろう。

 

 「こっちの都合でサクラ達に呼んでもらったけどよ、おっさんは時間大丈夫なのか?」

 

 「何、構わんよ。夕方から装備部との打ち合わせがあるが、それまでは特に予定は無いのでね」

 

 それに君達に昼食を奢ってもらえる機会などそうそう無いだろう?と微笑しながら返されれば、呼び出しをした事についてはもういいだろう。

 

 「アンタにはまだ、ここのボス戦でタゲを取り続けてもらった礼をしてなかったからな……そのついでにちょっと興味深い話を聞かせてやるよ」

 

 「ほう……かの’黒の剣士’キリト君がそう言うのなら、期待できそうだ」

 

 面白そうに目を細めるおっさんを見ると、普段の泰然自若とした様子とのギャップがあり本当にコイツが’聖騎士’や’神聖剣’などと呼ばれる人物か?と思わずにはいられなかった……良く言えば子供の心を忘れない大人なのだろうけど。

 立ち話を続けるつもりは無いので、オレ達はキリトの案内で目的の店へと歩き出した…………のだが、な~んか見覚えのある道を進んでいる気がしてならない。キリトのヤツ……まさかあそこへ連れて行くつもりか?

 

 「ここって本当に入り組んでるわね……マップ見てても転移門まで戻れる気がしないわ」

 

 「か、帰りもちゃんと案内してね?」

 

 「お、おう」

 

 行き先の事を考えていたために、サクラへの返事が少し遅れてしまった。まぁ、ここにホームがあるオレ達はともかく初見のプレイヤーにとってここは迷路みたいな所だろうし、サクラとアスナが不安になるのも仕方が無い。

 

 「補足しておくと、街にいるNPCに十コル支払えば転移門まで案内してくれるようになっている…………それすら払えなかった場合はどうなるか分からないがね」

 

 おっさんが安心させる気があるのか無いのかよく分からない補足説明をしてくれたせいか、サクラが不安げに俯いてしまった。

 

 (事実をスパッと言うのはいいけど……配慮が足りねぇ気がするなぁこのおっさん)

 

 ここでフォローしておかないと、またアスナとヤタに文句を言われそうな気がした…………いや、オレが彼女を安心させたいんだ。幸いキリトは人気の無い路地裏ばかり通っているため周りにいるのはNPCだけ。

 

 (……あとは、オレが一歩踏み出せば……)

 

 小さく深呼吸して、気持ちを落ち着ける。そして心を決めたオレは―――

 

 「っ!?クロ…ト?」

 

 「ここ……上から見れば割と単純だからさ……迷子になってもオレが探して連れ戻してやる……よ」

 

 ―――サクラの手を握った。しかもほぼ勢いでクサイ台詞までつけてしまい……非常に恥ずかしい。やっぱり早まったか……

 

 「ふむ……二人の仲はそれなりに進展しているようだね、アスナ君」

 

 「え、えぇ……まぁ。公私のけじめをつけるように注意しておきます」

 

 「別に構わんさ……願わくば、クロト君がこのままKOBに入ってくれれば―――」

 

 「―――話の途中で悪いが、着いたぞ。ほら、あの店だ」

 

 キリトの言葉によって、オレ達は視線を彼が指差した方へ向ける…………って

 

 「やっぱそこかああぁぁぁ!!」

 

 キリトが案内したのは、数ヶ月前に訪れて以来全く利用しなくなった、ラーメン屋の様な暖簾が特徴的なNPCレストランだった。この店のメシを知らない三人はオレが叫んだ理由が分からなかったようで、首を傾げていたが。

 

 キリトにツッコミをしながらもサクラの手を離さなかった事に気づいたのは、店に入って席に着く時だった。




 早く進みたい……でも圏内事件でやっておきたい事があるから省けない……

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