SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 やりたいネタやってると話が全然進みません……今回もそのパターンです。

 圏内事件で何話使うのやら……


二十七話 事件捜査その一

 クロト サイド

 

 とりあえずハルの怒りが収まってから、オレ達は第一層に降りた。SAOプレイヤーの生死は、ここ”はじまりの街”にある生命の碑で確認できるからだ。

 街は軍の巡回等もありとても静かで寂れた感じだったが、オレ達が補導されるような事は無かった。結果を言えばカインズはあの時死に、グリムロックはまだ生きている事が確認できた。

 気が付けば夜中の十時くらいになっていたので、サクラとアスナとは翌日に落ち合う約束をして別れた。なおエギルとハルは、商売があるため明日以降は協力できないとの事。

 

 ―――まさかDDAに待ち伏せされて槍を巻き上げられるとは思わなかったが。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「DDAが?」

 

 「大丈夫だったのクロト!?」

 

 翌日、NPCレストランで落ち合いDDAの事を伝えると、アスナは訝しげに眉をひそめ、サクラはオレの事を心配してくれた。確かに槍を巻き上げられたが、向こうも本気でこちらに危害を加えようとしていたわけではなかった。その証拠にオレ達を囲んだ時は完全なボックスを作らなかったし(その気になれば脱出できた)、槍を差し出したらさっさと帰ってしまった。

 

 「落ち着けって。槍とった以外は何もしてこなかったし」

 

 「それにアレはDDAと言うより、シュミット個人が、って感じだったしな」

 

 オレがサクラをなだめている間に、キリトとアスナは話を進めていった。

 

 「あぁ~、いたわねそんな人……でっかいランス使いでしょ?」

 

 「そ。前にクロトがチキンタンクっていったアイツ」

 

 ……確かにオレもそんな事言ったような気がする。キリト達がデュエルしたのもその時だったし。

 

 「ん~……その人が犯人って事は無い?」

 

 「無いと思う。と言うか逆に狙われる方じゃないか?グリムロックの名前を出したら目に見えてうろたえていたしな……まぁ、断定はできないけど」

 

 確かに断定はできないが、シュミットが犯人って可能性は限りなくゼロだとオレは思う。カインズのアレは公開処刑ともとれるし、シュミットはその影響をモロに受けていた。きっとカインズ、シュミット、グリムロック、そしてヨルコには何かしらの共通点があり、それが原因でカインズは殺されたんじゃ無いだろうか?

 浮かんだ疑問を三人に告げると、皆納得してくれた。

 

 「過去の出来事への復讐……いえ、制裁だとすればどっちも危ないんじゃない?」

 

 「ヨルコさんは宿屋にいますし、シュミットさんもDDAにいる以上一人になる事はまず無いと思いますよ」

 

 「そうだな……カインズ達が過去に行った’何か’が分かれば、犯人も判ると思うけど……先入観は持たないようにしよう」

 

 「だな。ヨルコさんの話を聞くときは特に、な」

 

 全員で頷き合うと、話し合いを一旦やめて食べかけの食事を平らげる事にした。普段なら朝食はハルが用意してくれるが、今回はレストランが集合場所だったのでやめておいた…………のだが、ぶっちゃけ作ってもらえばよかったと後悔している。はっきり言ってこの店の料理よりもハルの料理の方が旨い。

 いや、オレが頼んだ料理がそもそもハズレメニューだったのか?現に三人は黙々と食べてるし。

 

 「クロトどうしたの?」

 

 料理を食べるのを諦め常備している携帯食料を取り出すと、それに気づいたサクラが声をかけてきた。

 

 「あぁ、ここのメシが口に合わなかったんだよ」

 

 「そうなんだ……じゃ、こっちの食べる?」

 

 「サンキュ、それじゃ……」

 

 手を伸ばして彼女の食べていたパンを分けてもらおうとすると、何故かやんわりと止められた。からかわれたのかと思い顔を上げると―――

 

 「はい、あ~ん」

 

 「「「!?」」」

 

 サクラが、野菜スープ(みたいな何か)を掬ったスプーンを突き出していた。これにはオレだけでなくキリトとアスナも固まってしまった。

 

 (ままままま待て待て待て!!今はキリト達がいるんだぞ!?こういうのは二人きりの時に……いや待て!そもそもまだオレら付き合ってないし!!)

 

 「イヤ、だった……?」

 

 思考がおかしな方に飛びかけて固まっていると、サクラは目を潤ませながらそう言った。彼女を悲しませる訳にはいかないので首を横に激しく振って拒否するつもりが無い事を伝える。

 

 「……いただきます」

 

 そう言ってから、突き出されたままのスプーンを口に含んだ。

 

 「おいしい?」

 

 恥ずかしさで頭がいっぱいなので味なんて全くわからなかったが、笑顔で聞かれている手前ではそんな事口が裂けても言えない。ゆえにオレはただコクコクと頷く事しかできなかった。

 

 「……サクラったら……ちょっとは人目を気にしなさい」

 

 「いちいち目くじら立てるなよ」

 

 キリトとアスナが何か言っていたが、オレにはよく聞こえなかった。ただ、これはサクラの料理が無くなるまで続けられた。

 ……もっともサクラも相当恥ずかしかったらしく、後にこの事を思い出す度に赤面していた。

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

「ほ、本当にやるの?」

 

 「ああ」

 

 ある実験をするため、オレ達は”マーテン”の出入り口の一つに移動していた。そして実験に対して未だにしり込みしているアスナに、キリトはやる事が当然のように答えた。

 

 「手にピック刺したってHPが数パーセント減るだけだろ。ビクビクしすぎじゃね?」

 

 「それはそうだけど……でも何かあったらどうするの!?」

 

 オレも特に問題は無いと思うのだが、サクラまでごねているので中々実験できない。どうしたものかと思っていると―――

 

 「実験なら俺一人で十分だ。二人はさっきみたいにイチャついてろよ」

 

 「~っ!?」

 

 「なっ!?テ、テメェ!!」

 

 キリトが盛大な爆弾を放り込みやがった!後でハルにチクってやるから覚悟しとけよ!!

 

 「……どうせ止めたってやるんでしょう?ならパーティー組んでHP見せなさいよ。今回はそれで折れてあげる」

 

 見かねたアスナが、呆れ声でそう言った。手には高価な回復結晶を握り締めて、だ。

 

 「おいおい……回復ならポーション一つでいいだろ。大げさだぞ?」

 

 「別にいいじゃない!やるならさっさとしなさいよ!!」

 

 ……な~んか最近アスナの態度が変わってきたな。特にキリト絡みで。

 

 「ふっ」

 

 どうでもいい事を気にしている内に、キリトが『シングルシュート』を発動し、放たれたピックは彼の左手に突き刺さった。視界の端に表示されているキリトのHPバーが極わずかに減少したのを確認し、少しの間待機。五秒ほどするとピックが刺さった所からダメージエフェクトが発生し、刺さった時よりも僅かに彼のHPが減少した。これが貫通継続ダメージであり、今回の実験の肝だ。

 

 オレ達の実験の目的は、貫通属性の武器が刺さったまま圏外から圏内へ移動したら貫通継続ダメージは有効か否かを確かめる事だ。後はキリトが圏内に入れば目的は達成できる。

 

 「はやく入って!!」

 

 ……だからアスナ、何でそんなに慌てているんだ?キリトだって言われた次の瞬間には圏内に入ったし。

 

 「……ダメージは止まったな」

 

 「けどピックは刺さったままだし、感覚はある」

 

 キリトの左手には今もピックが刺さり、そこから五秒毎にダメージエフェクトが発生しているが、HPバーは一ミリたりとも減らない。

 

 「感覚があるのは、武器が刺さったままなのに気づかないで圏内を歩き回る人がいないようにするためかな?」

 

 今のキリトみたいに、と若干嫌味っぽく言ったのは、さっきの爆弾発言に対するサクラなりの仕返しなのだろうか?

 だがキリトも特に気にした様子も無く、無造作にピックを引っこ抜いた。

 

 「……すぐには感覚は消えねぇか?」

 

 「そうだな…………けど、なら何でカインズさんは死んだんだ?継続ダメージも圏内じゃ無効になるのに……」

 

 左手を開閉してはいるものの、思考に耽っているのか、返事はどこか上の空だった。……いや、あえて考える事に没頭する事で、不快な残留感を頭から締め出しているのかもしれない。

 この世界は痛覚こそ無いが、ダメージを受ければ不快感はあるし、少しの間残留感がある。とりあえずほっとけばいいので、キリト同様にカインズの死因を考える。

 

 「それこそあの槍、圏内でもダメージが無効にならないとか?」

 

 「いや、ハルの鑑定で特殊効果なんて何も無かったんだ。そんなのありえ―――!?」

 

 不意にキリトの声が途切れたのでそっちを見ると、意外なものが見れた。なんとアスナが、胸の前でキリトの左手を両手で包んでいたのだ。

 

 「ア、アスナ?何でキリトの手を?」

 

 「こうすれば、残留感がすぐになくなるからよ」

 

 顔を背けながらそんな事言ったって説得力ねーぞアスナ。サクラだって小声で素直じゃないんですから、とか言ってるし……もしかしてアスナ、キリトの事―――

 

 「はな、せっ!」

 

 突然キリトがアスナの手を振り払い、彼女を拒むように数歩後ずさった。他人から離れようとするのはクリスマス以来だったので、オレはやや面食らってしまった。

 だが二人はキリトの突然の拒絶に立ち尽くしてしまい、なんとも微妙な空気になってしまった。

 

 「………………ごめん」

 

 ギリギリ聞こえる大きさで謝ったキリトだが、顔は俯いているために今どんな表情をしているのかまでは分からなかった。ただ―――

 

 (怖がってた……のか?)

 

 ―――アスナから離れた時の、怯えた様な表情が頭から離れなかった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 やや微妙な雰囲気をどうにか払拭し、オレ達はヨルコさんが泊まっている宿に移動した。昨日の出来事のせいか、ヨルコさんはあまり眠れなかったようだった。

 

 「わりぃな……友人が亡くなったばっかだってのに」

 

 「いえ、気にしないでください。私も、はやく犯人を見つけてほしいですから……」

 

 ヨルコさんは俯きがちだったが、サクラとアスナの二人を見た途端に歓声を上げた。

 

 「うわぁ……お二人のその服全部、アシュレイさんのお店のワンメイク品ですよね?全身揃ってるのはじめて見ました!」

 

 ……完全に言いそびれていたが、今のサクラとアスナは見慣れたKOBの騎士服ではなく、私服を着ていた。しかも結構頑張ってオシャレしましたって感じの。

 

 (……だから今日会ってすぐに似合ってるって言った時、サクラはあんなに嬉しそうにしてたのか……)

 

 ヘタレだと言われていても、それくらいはできる。むしろスルーしたキリトが変じゃないだろうか?詳しい事が分からなくても、しっかりキメてきた女の子を褒めるのって男として当たり前の事だってじいちゃん言ってたし……

 それに引き換えオレ達は普段どおりの黒づくめ。キリトはロングコートを、オレはハーフコートにマフラーを身に着けているのが当たり前になっていた。

 

 「アシュレイ……だと?あの女か……!」

 

 「「「へ?」」」

 

 キリトの忌々しげな呟きに、女性陣が固まった。だがそれは仕方が無い事だ。アシュレイとオレ達の間に起こった出来事は当事者以外はほとんど知らないのだから。

 

 「えぇっとな、アシュレイとは知り合いっつうか……」

 

 「ハルを誘拐して着せ替え人形にしようとした変態(ショタコン)だ。ついでにヤタもしつこく愛でられてるしな」

 

 「……カァ……」

 

 彼女に延々頬ずりされた時の事を思い出したのか、ブルっと体を震わせるヤタ。サクラ達は、キリトの説明に対して引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。

 

 「最近はオレ達まで狙われるようになってさ……」

 

 この間訪ねたときは、女物のウィッグと服を装備させられてモデルにされたし。(何故かオレだけ)

 

 「俺達のコートとか仕立ててくれるのはありがたいんだけどな……」

 

 「あの性格を何とかしてほしいぜ……」

 

 仕立ての腕が一流な上に外見も文句なしの美人だというのに、良くも悪くも己の欲望(服を作る事とそれを着せるモデルを探す事等)に忠実なため、必要以上に関わりたくないのが本音だ。そこさえ改善できれば、すぐにでもいい男を捕まえて幸せルートまっしぐらになれるというのに……残念だ。

 

 「確かにアシュレイさんってちょっと暴走気味なところあるけど…………って、そのコートもアシュレイさんの!?」

 

 「あ、あぁ……まあな」

 

 ちょっと引くぐらいに食いついたアスナと、彼女に迫られて若干言葉が詰まったキリト。つーかそこまで驚く事か?

 

 「いいな~。アシュレイさん、基本的に戦闘用の装備は作らないのに」

 

 「オレ等くらいだよ……色々犠牲にしたけど……な」

 

 「た、大変なんですね……」

 

 サクラはこっちを羨ましそうに見て、ヨルコさんはさっきの話からオレ達が対価としてアシュレイに要求されたものを察してくれたようだ。……えぇ、色々犠牲にしましたよ。男の尊厳とかプライドとか意地とかその他もろもろ…………実際はひたすら女装させられて大量に写真を撮られたんだけどさ。

 

 「まぁ、オレ達が着てるのは彼女に仕立ててもらったモンにハルが装飾つけたやつなんだけどな」

 

 そう言って、金属製の肘当てや打ち込まれたスタッズを指差した。こういった装飾のお陰で、基本的な防御力を底上げしたり、ステータスアップのボーナスがついたりするのだ。実のところ、中層の下手な金属鎧よりもこっちのコートの方が防御力が高い。…………とはいえ攻略組の中では紙装甲なのは間違いないが。

 

 「……とにかく場所を変えよう。ドアロックできる場所じゃ、誰かが聞き耳スキルで盗聴してくるかもしれないし」

 

 「今の時間なら、レストランとかスッカスカじゃね?」

 

 どうにかアスナを落ち着かせたキリトが移動を提案し、オレが場所の候補を挙げた。女性陣も特に異論は無かったので、昨日夕食を食べそびれたレストランへ移動した。

 

 ―――今にも雨が降り出しそうな曇天が、今回の事件の解決が容易でない事を暗に示しているようだった。




 最近、平均評価が少し上がっていたのに気づきました。

 評価してくださった方々には本当に感謝しています!

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