あとSAOの十六巻読みました。ああいう感動系が好きなんですよねぇ……本作でもそんな風にできたらいいなぁ、と思っております。
クロト サイド
キリトとの話の後、オレ達は夕方までそこから動く事は無かった。午後三時ごろにハルが目覚め、仕入れがあるからと言って別の階層へ転移した。だがサクラとアスナがぐっすり眠ったままだったので、起きるまでオレ達は動く事ができなかった。
そして夕方になり、二人が目覚めたのでオレ達はようやく動けるようになったのだ。……目覚めた時の、赤面しながら慌てていたサクラがマジで可愛かった。
……後ろで誰かが剣を抜く音が聞こえた気がしたが、きっと空耳だろう。うん、誰も抜刀なんてしていなかった。
「―――それで、何処まで歩くのよ?」
「もうすぐ右側に見えてくるさ」
眠っている間のガードのお礼という事で、アスナ達が一回メシを奢ってくれるという話になった。そのため現在オレ達は五十七層主街区”マーテン”を歩いていた。ここは最前線から僅か二つ下の層だが、《生活を楽しむ》という雰囲気が溢れていた。
オレ達も最近ここで旨いNPCレストランを見つけたし、下層から娯楽を求めて上がってきた人や戦いでの疲れを癒すために降りてきた攻略組も多い。けれど今はそれが災いしていた。
(ちょっと視線が多くねえか?)
アインクラッド初のビーストテイマーとして顔が割れているので、ある程度注目されるのは慣れていた……のだが。
(サクラとアスナの比じゃねーな……)
なにせすれ違うプレイヤーのほとんどが振り返って二人をガン見してくるのだ。他にも遠目から二人を見つめる人までいる。
そしてその反面、キリトはにはギョッとした表情を見せる。この中で唯一顔バレしていないので、コイツがあの黒の剣士だという事に誰一人気づいていない。
…………ん?攻略組にはバレてるんじゃないかって?オレもそう思ったのだが、周りを確認すると中層以下のプレイヤーしかいなかった。普段はこのあたりでも数人位はすれ違うというのに今日に限って、である。
「―――ここだ。おススメは肉より魚」
なんだかんだで目的の店に到着し、キリト、アスナ、サクラ、オレの順に店に入る。丁度窓際の四人掛けの席が空いていたので、そこへ座る。オレやキリトと違って二人の動作は優雅なもので、ここでも自然と視線が集まってしまった。
「おい、あれ閃光と歌姫じゃないか?」
「あっちは遊撃手だな。……てことはあのガキが黒の剣士か?」
「あんなひょろいのが?別人じゃないのか?」
キリト哀れ。オレと一緒でも気づいてもらえないとか、二つ名プレイヤーとして同情を禁じえない。いや、だからこそこの店で一番値が張るフルコースをがっつり頼んだのかもしれない。
「―――今日は、その……ありがとう」
「へ?」
ギリギリ聞こえるくらいの声でアスナが告げた感謝の言葉に、キリトは思わずといった感じで聞き返していた。すると彼女は不機嫌そうな表情でそっぽを向いて
「ありがとうって言ったの…………今日一日ガードしてくれて」
「まぁ、アンタにいなくなられると困るからな」
別に大した事じゃないさ、と純粋な感謝をするアスナに対して素直に受け取れないキリトという二人のやり取りを聞きながら、オレとサクラは微妙な雰囲気になっていた。
別に喧嘩した訳でもないし、どちらかが不機嫌であると言う訳でもない。とにかくサクラを意識しすぎているせいで緊張してしまい、何を話せばいいのか全く分からないのだ。
(き、気まずい……!)
隣でキリトとアスナが雑談をしているというのに、オレ達は目が合った途端に逸らしてしまう有様。サクラと一緒に居られる時間は少ないため、早急にどうにかしたいのだが考えが浮かばない。思わず天国のお袋に助けを求めようと現実逃避しかけた時―――
「―――クロト、SAOに欲しい調味料って何だと思う?」
「は?」
突然キリトに話を振られ、つい聞き返してしまった。
「だから、この世界にあってほしい調味料って何だって聞いてるんだよ」
ちなみに俺はソースな、とキリトは言っていた。さっきまで気まずい空気だったので、オレにとってはありがたかった。
「ん~、マヨネーズだなぁ……」
SAOには、現実世界に存在している調味料のほとんどが存在しない。そのため現実世界にある調味料ならどれでも良いというのが本音だが、とりあえずパッと思いついた物を口にしておいた。
「わたしはドレッシングが欲しいな。アスナさんは?」
「そうねぇ……お味噌、とか。あとは―――」
「「「「醤油!」」」」
何の打ち合わせもしていないのに、最後は四人全員がハモった。その事が堪らなく可笑しくて、誰かが吹き出すとすぐに笑いとなって全員に広がっていった。
丁度その時NPCのウェイターが注文した料理を持ってきたので、和んだ空気のまま食事をしようとして―――
「きゃああああああ!!」
―――突然聞こえた悲鳴によって、中断せざるをえなかった。
「外からだわ!」
四人の中で最も敏捷値が高いアスナはそう言って真っ先に店の外へ。それにやや遅れる形でオレ達は彼女の後を追った。
(どこだ……!)
店を出た途端再び悲鳴が聞こえ、それを頼りに広場へと全力疾走したオレ達は、到着と同時に悲鳴の原因を探して―――
「っ!?」
―――その惨状を目の当たりにし、息を呑んだ。
多くのプレイヤーがいる広場と、その北側に建っている塔。そして塔から、一人のプレイヤーが胸に武器を突き刺された状態で吊るされていた。
全身をがっちりと覆うフルプレートアーマーと兜のせいでどんな容姿をしているのかはよく分からないが、体格的には多分男だろう。そしてそのプレイヤーは苦しそうに呻いていた。
鎧のプレイヤーはロープによって首を吊るされているが、SAOに窒息死は無い。加えて、いくら武器に貫かれていようがHPさえ残っていれば死ぬ事は無い。
「速く抜け!」
驚愕で思考が止まったのはほんの一瞬。鎧のプレイヤーの胸を貫く武器からは紅いダメージエフェクトが噴出しており、現在進行形でHPを削られている事に他ならない。いち早くそれに気づいたキリトが叫ぶが、鎧のプレイヤーはずっと刺さった武器を抜こうとしていた。
だがその刃には凶悪な逆棘がびっしりと付いており、引き抜くためには相当な筋力値が必要だ。そして何より鎧のプレイヤーには刻一刻と死が迫っているのだ。
自身の死を目前にしてパニックを起こし、ステータス通りの力を発揮できなくなる事はそう珍しい事では無い。むしろ何度も死に掛けてしまい、HPがレッドゾーンになっても平常心を保てるようになったオレやキリトが異常なのだ。
鎧のプレイヤーも例に漏れずにパニックを起こしているようで、刺さった武器が抜ける気配は無い。
「チッ!キリトはアイツの下に行け!!」
「おう!」
オレは腰の鞘に収めた短剣を引き抜きながら、助走をつけて跳躍。システム外スキル『ウォールラン』で塔を垂直に駆け、鎧のプレイヤーを吊るしているロープを切断しようとした。
けれど、現実は残酷だった。
オレがたどり着くよりも先に、鎧のプレイヤーは無数のポリゴン片を撒き散らして消滅してしまったのだ。
「なっ!?」
感情に反して体は動いてくれた。鎧のプレイヤーに刺さっていた武器を左手で掴み取り、両足からしっかりと着地できたが、目の前で人が死ぬのを止められなかったのがショックだった。
「皆!デュエルのウィナー表示を探してくれ!!」
「私は中を見てくるわ!」
悲鳴が響き渡る中、それに負けないくらい声を張り上げるキリトと塔へと駆け込むアスナ。サクラはせわしなくあたりを見回し、ウィナー表示を探す。そんな彼らを見て、オレは気持ちを切り替えてヤタの索敵を発動。ここから不自然に遠ざかって行くプレイヤーがいないかを探すが、そんなものは見つからない。
やがて―――
「だめ……三十秒、経ったわ……」
―――サクラの呟きが、タイムリミットが訪れてしまった事を告げるのだった。
~~~~~~~~~~
「どういう事だ?」
あの後、周りの人達に現場をブロックしてもらい、オレ達は教会の中で考えを整理する事にした。
「普通に考えれば……」
小首を傾げつつ、アスナが自分の推理を言い始めた。
「あのプレイヤーのデュエルの相手がこのロープを結んで、胸に槍を突き刺したうえで、首に輪を引っ掛けてから突き落とした……って事になるのかしら……?」
「見せしめってか?チッ胸糞悪ぃ……」
全く、反吐が出る演出だ。
「けど、ウィナー表示がどこにもなかった。あの場にいた数十人が誰も見つけられなかったんだ。デュエルじゃないって事は確実だろう」
「それこそあり得ないよ!圏内でダメージを与えるには、デュエルしかない筈なのは皆知ってるでしょ!」
確かにサクラの言うとおりだが……
「けど俺達は今、その’あり得ない事’を見てしまったんだ」
キリトの指摘に、サクラは何も言えなくなってしまった。デュエル以外でダメージを与える方法があるのだとすれば、このままほったらかす訳にはいかない。何時寝首をかかれるか分からないからな……
「見ちまったからにはしゃあねぇな……圏内PKを放置する訳にはいかないし、原因を突き止めようぜ」
「そうだな……そういうわけだし、俺達はしばらく前線から離れるよ」
またアスナの怒りを買うかもしれないが、仕方ないだろ―――
「―――待ちなさい」
「んぁ?」
不機嫌になるのは予想していたが、さっきの声は至極真面目な声だった。そのせいかついアホっぽい返事が出てしまった。
「見てしまったからには仕方が無い……それは私達にも言えることよ。血盟騎士団副団長として、この事件は見過ごせません」
「わたしも協力するよ。二人より四人の方が早く解決すると思うから」
サクラ達の表情はさっきレストランで見せた年相応のものから、普段人前で見せるKOB団員としてのものに変化していた。
「そっちは人脈とか色々オレ達以上にあるからな……協力してくれるなら大歓迎だ」
「よろしく頼むぜ、お二人さん」
オレが差し出した右手にキリトが手を重ねる。アスナとサクラもそれにならって手を重ねた。
「先に言っておくけど、昼寝の時間はありませんから」
「今日のわたし達が言えた事じゃ無いですよ」
クールに釘を刺したつもりだったアスナだが、サクラの台詞によって顔が瞬時に赤くなり
「さ、サクラぁ!!」
羞恥による叫びが部屋に響き渡った。
作者(弟)の夏休みは僅か四日……学生と社会人の違いを痛感しています。
ピッカピカの社会人一年生ですが、しばしば学生の頃が懐かしく思ってしまいます。