SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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 え~例によって全く進んでいません!


 シリアスがくどいとは思いますが、昼寝その2をどうぞ


二十四話 クロトの本音

クロト サイド

 

 「んん~?」

 

 ふと、なんの前触れも無く目が覚めた。といっても空は相変わらずの快晴だし、時折吹くそよ風が心地良い。そのため再び睡魔に身を委ねようとして―――

 

 (な~んか右腕が重いよう…な……!?)

 

 違和感から右側に目を向けたオレは完全にフリーズしてしまった。

 

 「すぅ……すぅ……」

 

 (どうなってんだこれええええぇぇぇぇ!?)

 

 なぜなら、サクラがオレの……右腕を…ま、枕代わりにして熟睡しているからなんだよ!

 

 「んむぅ……くろ、と……」

 

 「っ!?」

 

 しかもこっち向いてるし!マフラーの端を両手でちょこっとつまんでるし!寝言でオレの名前言ってるし!

 

 (どどどどーすりゃいいんだよこれ!お持ち帰りすりゃいいのか!?いや待て、それはダメだろ!!けどこのままっていうのは生殺しだし、なによりオレの理性がヤバイ!お袋、助けてくれええぇぇ!!)

 

 オレの頭の中は完全にパニックになり、眠気なんざ跡形も無く吹っ飛んだ。だが体がフリーズしたまま動かなかったのは幸いだった。……もし動いてしまったら最悪な形でサクラを起こす事になっていたからな。マジで。

 

 「―――なんだ、起きたのか」

 

 「っ!?き、キリトか……」

 

 それにキリトの声で、ある程度は落ち着く事ができた。とにかく誰かがいるってのが分かれば、上辺くらいは何とかなる。落ち着く事ができたオレは―――

 

 「なぁ、何がどーなってこうなった?」

 

 こうなった経緯をキリトに尋ねた。つーかそっちに意識を向けないと、至近距離にいるサクラによってオレの精神HPがマッハでヤバイ事になる。

 オレの質問に対し、キリトは思い出すかのように上を向いた後

 

 「クロトならそこに寝ているって教えた」

 

 「端折った説明すんなコラ」

 

 目をそらしていい加減な説明をしやがった。今のコイツ明らかに怪しいわ!

 

 「っていうか何で止めなかったんだよ!?」

 

 「止める理由なんてないだろへタレ」

 

 「うぐっ」

 

 一応サクラを起こさない程度に音量を絞りつつ、抗議するもバッサリと切り捨てられた。しかもディスられるというオマケ付きで。

 何も言い返せなくなったオレは首をめぐらせて、キリト同様に警戒をサボった使い魔を探した。するとオレの左腰のポーチに頭を突っ込んで中を漁っているヤタの姿があった。

 

 (コイツ……餌の位置覚えやがった!?)

 

 気づけば空腹感があるので、正午に近い時間なのかもしれない。だがしかし、使い魔は腹が減ったからと言って主人の持ち物を漁る事は無い筈―――

 

 (いや、ヤタに使い魔の常識が通じなくなったのも今に始まった事じゃ無いか……)

 

 オレの使い魔がアルゴリズムに無い動きをするのも、最早当たり前となりつつある事を今更ながら思い出した。それと同時にようやく頭が冷え切って、心を落ち着ける事ができた。

 

 「―――いつまで、そのままでいる気だ?」

 

 「は?」

 

 しばらくしてから、不意にキリトが言葉を発した。だがオレにはその意味が分からず、つい間の抜けた返事しかできなかった。

 

 「いつになったらサクラと付き合うんだって聞いてるんだよ」

 

 「っ!?」

 

 苛立ちを含んだ声と、その言葉の意味。それはオレにとって予想外のものであり、すぐには答えられなかった。動揺する自分を落ち着かせるために軽く首を左右に振ってから、オレは口を開いた。

 

 「もっと、落ち着いてからだよ」

 

 「攻略組なんだ。落ち着くも何も無いだろ」

 

 いつになく真剣なキリトからは、どんなごまかしも効かないように感じられた。だが同時に、何故今そんな事を聞くのかという疑問を抱いた。

 

 「オレ達はビーターだろ。ただでさえ恨まれたり妬まれたりするんだし……その上サクラと付き合うとかしたら、それこそ本気で刺されるぞ?」

 

 「今まで散々人前でイチャついてた癖によく言うぜ」

 

 「そ、そりゃ……」

 

 サクラの方からきてくれるから、とは言えなかった。そう言ってしまうと全てが彼女のせいだと言っているのに等しい気がしたし、そういう風には思いたくなかったからだ。

 

 「……何でお前は、オレとサクラを近づけようとするんだ?」

 

 僅かな沈黙の後、オレはつい先ほど抱いた疑問をぶつけた。何がキリトを動かしているのだろうか?と思いながら。

 

 「お互いに想い合ってるのに付き合おうとしないからな、お前達は…………もういい加減、俺じゃなくてサクラを選べよ」

 

 「お前をほっとけるか!……まだお前の心は、癒えてないだろ……!」

 

 黒猫団の壊滅と、クリスマスイベントでの蘇生アイテム。この二つがキリトに与えた絶望はオレ以上に大きい。どれだけ取り繕っても、キリトの中には’死にたいけど、死ねない’という苦しみが強く根付いている。

 それゆえに少しでも目を離せば本当に死んでしまうか、心が壊れてしまうように見えて仕方が無いのだ。

 

 「……俺は大丈夫だ。ハルがいてくれるから、戦えるし死ぬような事はしないさ」

 

 「お前の’大丈夫’だけはっ……信用できねぇんだよ……!」

 

 いつもそうだ。キリトの笑みは、泣きそうで影がさしたものであってほっとけなかった。一番辛いのはキリトなのに、それを棚上げして他のヤツを気遣う。そして自分は平然と無茶な事をしでかす。

 

 「何でお前は……!自分の事が頭ん中から抜けてんだよ……今独りになったら、今度こそ壊れるぞ!」

 

 「……誰かを巻き込むくらいなら、ソロでいい。現実世界(むこうがわ)で帰りを待ってる人達がいるんだし、壊れるつもりはない」

 

 結晶無効化エリアでのアラームトラップによる高レベルmobの大量発生。それによってケイタ以外の黒猫団のメンバーが死亡し、残ったケイタもキリトから事情を聞いた途端にアインクラッド外周部から飛び降り自殺をした。それがクリスマスを過ぎた頃にオレがキリトから聞いた、黒猫団壊滅の経緯だ。

 キリトという強力な味方をつけたダッカー達は自分達の力を過信し、当時の最前線より少し下の―――パワーレベリングによるプレイヤースキルの不足が懸念されていた―――層へと挑んでしまったのだ。そのため彼らはトラップにかかった時、冷静な対応ができなかった。

 ケイタが自殺を選んだ詳しい理由はよく解らないが、その事についてキリトは結果しか教えてくれなかった。

 

 (自分が関わらなければ、とか思ってんのか……)

 

 誰かを巻き込むくらいなら、という台詞は間違いなくケイタ達との事を引きずり続けている証拠だ。

 一年ほど前に彼らを助けた時、協力する事を拒んでいたならダッカー達は無茶なレベリングや攻略をしなかっただろう。そしてケイタが自殺する事も無かった筈だ。オレだってその事を何度か考えた。

 だがそれは後から出てくる’もしも’の話であり、実際には何も変わらない。

 

 「……お前がいたから、サチの心は救われたんだろ……!」

 

 「そうかもしれない……けど、死んだ。死なせてしまった……!」

 

 遠くを見ながらそう言ったキリトの声は、震えている事がはっきり分かるものだった。キリトがサチを寝かしつけるようになってから、彼女は少しずつ前へと踏み出していたのはよく覚えている。戦闘でも怯えきった顔をしていなかったし、自然な笑みを浮かべられるようになっていた。それは間違いなくキリトが他人の心を救った証だった。

 

 

 けれど。キリトは自身に課した’サチ達を守る’という誓いを果たせなかった。いくら心を救っても、その命を守れなければ意味が無いのだと、キリトは言外に語っていた。

 

 「……もう、嫌なんだ。俺がいるせいで仲間が―――お前が幸せになれないのが」

 

 「っ!?」

 

 幸せ、という言葉がオレの心に突き刺さる。そしてそれが、オレが知らず知らずのうちにズルズルと現状を維持しようとしていた理由を気づかせてくれた。

 目を逸らして無言でいるキリトへと、語りかけるようにオレは口を開いた。

 

 「十年くらい前かな……サクラと出会って、別れたのは」

 

 「……?」

 

 突然過去を話し出したオレに対して、キリトは訝しげな視線を送るだけだった。だが、リアクションをしてくれたという事は、こちらの話を聞く気があるのだろう。

 

 「ちょっと変わった出会い方だったけど、不思議とサクラとは仲良くできた。あの時はよく二人で遊んでたっけ」

 

 当時のサクラは人見知りが激しかったし、オレはクラスに上手く馴染みきれていなかった。けれどそれは些細な事で、気にしてはいなかった。

 

 「あの頃のオレは、きっと幸せだったと思う……けど、それも長くは続かなかった」

 

 「何か、あったんだな?」

 

 オレはキリトの問いかけに頷き、覚悟を決めて先を語る。

 

 「お袋が倒れたんだ。目の前でな……」

 

 「倒れた?……まさか、そのまま……?」

 

 「死んじまったよ。急に心臓が止まったんだって、医者が言ってた……」

 

 悪夢として蘇る事こそないが、当時の事はオレの脳裏に焼きついている。

 ―――いつもどおり穏やかに笑っていた母が、何も無いところで突然倒れた。体は硬直し、冷や汗を掻いていた。顔を見ればさっきまでの笑みは消え失せ、不自然に強張った表情だった。そして何より、息をしていなかった―――

 

 「心臓が止まっても、すぐ死ぬ訳じゃない。心臓マッサージとかで絶えず血を巡らせてりゃ、助かる可能性は大きい……」

 

 気づけば自分でも分かるくらいに声が震えていた。けど、やめない。やめるわけにはいかなかった。

 

 「その時お袋を助けられたのはオレだけだった……オレだけが、助ける事ができたのに…………何も、できなかったんだ……!」

 

 「クロト……」

 

 いつの間にか震えていた左手を見ながら、オレはその時から自分に根付いていたトラウマを言った。

 

 「幸せになっても……オレはきっとまた、すぐに失ってしまうに決まってる……!また何もできないまま、目の前で大切な人を失うのが……怖くて、仕方ないんだよ……」

 

 どれだけ強がっても、いざと言う時に何もできない。自分はそういうヤツなんだって、あの時思い知ったんだ。なら、幸せの一歩手前で止まっていればいい。その状況でなら、オレは動けるし、守る事ができる。

 

 「なんで、そんな一回だけで決め付けるんだ?」

 

 「……悪いかよ」

 

 「二度三度と同じ事が起きたならまだしも、たった一回でそう思うのは早すぎるんじゃないか?」

 

 ぷつり、とオレの中で何かが切れた気がした。

 

 「テメェにオレのっ!何が解るってんだよ……!目の前で家族が―――」

 

 「―――家族を失った事なら、俺達もある」

 

 「っ!?」

 

 予想外だった。キリトもオレと似たような事があったなんて、考えもしなかった。だが

 

 「なら何で、たった一回って言えるんだよ……!その一回が、どんだけ大きいか……テメェも知って―――」

 

 「―――だからこそ、だ。」

 

 未だに己の膝の上で眠りこけるハルを愛しげに撫でながら、キリトはどこか諭すような声音で続けた。

 

 「だからこそ、俺はハルを守る。失うのが怖いなら、失わないように守ればいい……サクラと再会した時、そうは思わなかったのか?」

 

 「それ、は……」

 

 言い返す言葉が、出てこなかった。失わないように守る、確かにそれは正論だ。自分が強くなればそれでいいのだから。

 加えて、サクラを守ろうと思った事だって数え切れないほどあった。だがオレが彼女を守れるという根拠がどこにあるのだろうか?

 

 「……お前の言うとおりだけど……オレに、できるのか?サクラを守れるだけの力が、今のオレにあるのか?」

 

 「さあな……そんな事が解るヤツなんて、何処にもいないと思う……けど、一人くらいならできるんじゃないか?」

 

 要は気持ち次第だろ、と続けたキリトの言葉に、背中を押された気がした。少しの間を空けて、自分が励まされたのだとようやく気づいた。

 握り締めたままだった左手を開き、キリトの方を見ると、口の片端を吊り上げたシニカルな笑みを浮かべ

 

 「前にお前言ったよな?根拠なんか無くても、守ると決めたなら守りきれって」

 

 「なっ!?」

 

 約一年前にオレが言った恥ずかしい台詞をソックリそのまま返してきやがった!やめてくれ、アレ結構恥ずかしかったんだぞ!!

 

 「あ~あとな、サクラに両想いだって吹き込んどいた」

 

 「ファッ!?!?」

 

 コイツかああぁぁぁ!!!ここ一ヶ月KOBの連中からの風当たりが異常に強くなった原因は!!レイのヤツも何かオレに「貴方には負けませんよ」とか言ってきやがったし!!今日こそコイツをぜってぇにボコして―――

 

 「くろと、すき……」

 

 「―――!?!?」

 

 キリトとあれだけの言い合いをしていたのに、起きる事無く眠り続けていたサクラの寝言。たったそれだけでオレの意識はそちらへと引っ張られ、キリトそっちのけで釘付けになってしまった。

 

 「ん……」

 

 すぐ傍で眠り続けるサクラの表情はとても穏やかなもので、心の底から安らいでいるようだった。

 

 (可愛すぎて、目が離せねぇ……)

 

 普段は綺麗だと思う事が多いのだが……こう、無防備な顔をしていると可愛いという言葉が先に出てくる。左手で彼女の前髪を軽く払うと、気持ち良さそうに小さな吐息を漏らした。

 気づけばオレ自身、顔が熱かった。きっと今のオレは普段ならありえないくらい真っ赤な顔をしているのだろう。だがそれは些細な事であり、気にならなかった。

 

 「サクラ……」

 

 目の前で眠る彼女が、ただただ愛おしかった。

 

 「そうだ……それでいいんだ、クロト」

 

 だからこそ、キリトが五十層の時と同じような目でこちらを見ていたのに気づく事ができなかった。




 誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、感想にてお願いします。


 最近サブタイトルが思い浮かばない事が多いので、実際の話と全然合っていないかもしれません……

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