SAO~黒の剣士と遊撃手~   作:KAIMU

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百十七話 宴

 大和 サイド

 

 ウルズ達の依頼を完遂し、エクスキャリバーとミョルニルを獲得したオレ達。その際クラインがウルズの妹―――スクルドに連絡先を聞き、彼女が微笑みながら手を振るという一幕があったが詳細は割愛する。

 

 「……この後、打ち上げ兼忘年会でもどう?」

 

 クエストの余韻に浸りながら零した相棒の提案に、誰もが賛同したのだった。場所についてはALO内と現実世界とで相棒は大いに悩んでいたが、今日を逃すと年内に両親が会えない事を察したユイの一声で、現実世界側―――エギルが営むダイシー・カフェに決定した。

 

 「―――で?さっきから置いてるその機械は何?」

 

 「あの親バカ(和人)と一緒に、学校の課題ってお題目で作ったモンだよ。本音はユイを現実世界で展開する方法を探す為の試作品」

 

 「へぇ……?」

 

 「おい、余計な事言うなっての。口動かす前に手を動かしてくれ。ちゃんと接続できてなかったらはったおすぞ?」

 

 「へいへーいっと」

 

 午後二時過ぎにやってきた和人達三兄弟を迎えたあと、オレは彼が持ち込んできた機材を店内に設置する作業を手伝う。この作業自体は学校で何度かやっていて慣れているし、同じく手伝っている晴人も兄の意図を知っているが故に手際よく作業を進めている。和人本人は機材と一緒に持参したノート型PCで諸々の設定やら設置を終えた機材との接続状況のチェック、加えて愛娘に所感を尋ねたりしている。彼の隣のテーブルでは勝手の分からない詩乃がそれらを興味深そうに眺めており、傍では直葉がざっくりとした解説を始めていた。

 

 「どうだ、ユイ?」

 

 「はい!ちゃんと見えますし、聞こえます。皆さんありがとうございます!」

 

 「良かった。これで後は皆が来るのを待つだけだね、兄さん」

 

 柔和に微笑む晴人を労うように和人が片手を上げ、直葉がジュースが注がれたグラスを手渡す。色合いからしてグレープジュースか?あいつ色々と兄貴そっくりに成長しているものの、ジンジャーエールを飲んでいる和人と比べると幾分か甘味の方が好みっぽいんだよな。

 

 (あー、腹へってきたなぁ……)

 

 カウンター席に座って待つ間、店主(ギルバート)が調理真っ只中である厨房から香るにおいに食欲が大いに刺激される。この店名物のスペアリブとベイクドビーンズの味を過去に知っている分、否が応でも期待値は高まり、昼食を控えめにしていた事もあって早く食わせろと胃袋が暴れ―――もとい、訴えかけてくる。

 ジンジャーエールで胃袋を誤魔化す事しばし。明日奈と桜、遼太郎、琴音、最後に里香と珪子が到着した。すぐさまテーブルには所狭しと料理が並べられ、存分に腕を振るった店主を賞賛しながらもグラスが配られる。そして未成年組にはノンアルコール、遼太郎とギルバートには本物のアルコールが用意された事で準備が整った。

 

 「―――えー、祝《聖剣エクスキャリバー》と《雷槌ミョルニル》ゲット!お疲れ2025年!って事で乾杯!!」

 

 「「かんぱーい!!」」

 

 親友の音頭に全員がグラスを掲げて応え、宴が始まる。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「―――ってぇカンジでよぉ、残った黒牛野郎をスパーン!ってなます斬りにしてやったのよ」

 

 「マジか……店の方が大事なのは変わらんが、それはそれとして行けなかったのは悔しいな。おいクロト、次からはダメ元でも絶対に一声かけてくれ。もしかしたら融通が利く時があるかもしれん」

 

 「わーったよ。レアアイテムや冒険に目が無いトコはオレらと変わんねぇよなギルバート」

 

 「ゲーマーに歳は関係ないさ。仮想世界に非日常を求め、冒険に憧れる……対等な存在だろ、おれ達は」

 

 少年の心を覗かせるセリフと共にニヤリと笑うギルバートに、オレと遼太郎は違いない、と破顔する。

 

 「さ、メシはまだたっぷりあるんだ、早く続きを聞かせてくれよ」

 

 「おうよ!牛コンビを倒した後、時間がヤバかったんでユイっぺのナビで迷路やギミックをTAばりのスピードで突っ切たんだ」

 

 「そん時の琴音が百面相しててなぁ……中々面白かったぜ」

 

 「おいおい……後で埋め合わせ必要なヤツだろそれ。というか未回収のレアアイテムが幾つあったのかって考えると惜しいな……何ユルドになったのやら」

 

 商人らしい呟きを零し、ギルバートはグラスを呷る。確かにオレ達が取りこぼし、スリュムヘイムと共に砕け散った未知のアイテム達の事を思い返すと惜しむ心は全員が持っている筈だし、一つくらいは回収できていたら……なんて夢を見るのもゲーマーの性だろうか。

 チラリと親友の方に目を向ければ、いつかのオフ会よろしく里香が騒ぎ、それにつられて周りもわちゃわちゃとしていた。場酔いってヤツだろう、多分。

 

 (いい奴ら、だよな……皆)

 

 時々自分には勿体ないと思える程に眩しい彼ら彼女らに目を細める。和人とは色々と似ている所があると皆から言われる事があるけれど。人を惹きつけ、いつの間にか皆の中心にいる親友とオレは違う。少なくともオレはあんな風に何人もの人間を巻き込む事なんてできないのだから。その分、彼と背中を預け合い肩を並べる無二の存在―――相棒の座は誰にも渡す気は無い。

 

 「もークロト!見てないで一緒にリズさん達止めてよー!」

 

 「悪い、今行くって」

 

 何の話題の果てなのか分からんが、和人の右腕に里香が、左腕には珪子が引っ付き、それを支えようと直葉が彼の背中にほぼ抱きつくような状態になっていて、明日奈の表情がいささか引きつった所で桜からヘルプ要請が入った。

 

 「よっ、いいご身分だな親友」

 

 「ニヤけた面してないで助けてくれ……真面目に動けん」

 

 「何よぅ、あたしらが邪魔って言いたいのぉ……?」

 

 里香のヤツ酔ってんなぁ……ホントに場酔いだけでここまでになるとしたら、一種の才能だろうか?

 

 「邪魔、ですか……?」

 

 里香のノリにフルスロットルで便乗したのか、珪子が上気した顔で和人を見上げる。すると彼は困った気配を滲ませながらも微笑んでしまい、彼女を拒む事ができない。

 

 「そういう所だぞ、お前。そこでハッキリ断れない結果がソレだろ」

 

 「うぐぐ……けど、悪意ゼロの相手を断れって無理だろ……」

 

 「そうかい。なら、あとは前にも誰か引っ付けばフルアーマー和人って呼んでやろうかな」

 

 「ちょ、クロト!?」

 

 後ろで桜の驚く声が聞えるが、大丈夫だと笑みを向ける。ちょっとした悪戯に近い考えを思いついたんだ。

 

 「つー訳で明日奈、ゴー」

 

 「えっ……ええぇ!?」

 

 眉間にシワが浮かびかけていた明日奈の背中を軽く叩き、和人へけしかける。彼の心の中では不動の1位を得ているのを自覚しているのだから、こういう時は目くじら立てるよりも開き直って便乗してやればいいのに。その方が見ている方も面白いし、っていうのは内緒な。

 

 「―――なら、私が行こうかしら?」

 

 「シノのんまで!?」

 

 思わぬ伏兵、詩乃の立候補に明日奈が顔を赤くしたり青くしたりするのを見た途端、我慢できず親友へと屈託の無い笑みを向け、わざとらしく尋ねてみる。

 

 「おぉっと、候補者が二人になったぜ和人……で、ご指名は?」

 

 「クロト、お前ぇ……絶対に覚えとけよぉおおおおお!!」

 

 彼の叫びを聞き流しながら、腹が痛くなるくらい大声でバカ笑いをする。

 

 ―――たまにはこんな風に羽目を外して騒ぐのもいいもんだな

 

 言ってしまったら恥ずかしい、そんな穏やかな感情を胸中に隠しながら。こんな日々が続けばいいと願うのだった。




 お待たせした上に短かった事は申し訳ございません。

 前話を投稿してから少しして、リアルの仕事がアホかってぐらい忙しくなりました。特に約半年間に受けとった資料が明らかに書き途中だけど予定日になったから送ります(笑)な感じのやつばかりで、
 ・枚数が多いクセに精度が劣悪
 ・不明点、不整合だらけ
 ・期日が短い
 ・後だしジャンケン宜しく追加図という名で書き途中だった続きの資料がぶち込まれる

 等々のオンパレード(現在も続いています)で時間が取れず、その上で一度詰まってしまったので、全く執筆しなかった日が多かったんです……ご容赦を。

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