折角の深淵の大剣、活躍させなきゃ損だよね。
今回は短めです。
第八十一話 ウーラシール市街
市街入り口にあった篝火で肉体を取り戻す。
何時までも亡者のままでいると自分の中の何かが抜け落ちて行く感覚が酷く、亡者化の進行も早くなるだろう。
先のアルトリウス戦では一度や二度で勝てそうに無く、人間性の無駄使いになりそうだったから、仕方無く亡者の状態で戦っていた。
深淵の主との戦いはきっと熾烈を極めるだろう、また幾度と無く殺され、その度に戦わなくてはならない。
生身に戻るだけ無駄かも知れないが、少しでも亡者化の進行を遅らせたいのだ。
生身になった所で亡者化が完全に止まる訳では無いが、それでも格段に遅らせる事が出来る。
肉体を取り戻した瞬間、何時もの不快感が俺を襲う。
闇霊の侵入か、これだけは亡者化が進んでいても不快なままだな……。
髑髏の面、闇の力を発する鎧に身を包んだ男。
彼の持つ剣は見た事の無い装飾が施されている。
特に力があるようには思えないが、質は良さそうだ。
彼は大盾を構えながら杖を構え始めた、その杖はローガンの物だ、結晶の魔術か? それともローガンの魔術か?
彼の周りに黒い何かが展開される、ソウルの塊の類の魔術だろうか? 見た事のない魔術だ。
更に続けて、彼は黒い霧を俺の周囲に撒き散らし始めた。
その霧は肌に触れるだけで身体を蝕む猛毒、あの放浪者の吐く毒霧よりも強力な物だった。
後ろに飛び退き、その霧から抜け出したが、その隙を狙われてスナイパークロスの狙撃を膝に受ける。
二度目の黒い霧、それを吹き飛ばす為、月明かりの大剣の光波を地面に叩きつけ、強引に霧を散らす。
霧が晴れたと同時に斬りかかってきた彼の刃を防ぎながら、聖剣を振るう。
構えていた大盾で防ごうとしていたが、それをすり抜け左腕を刎ね飛ばす。
そのまま光波を叩き込みかったが、彼の周囲を浮いていた黒い何かの一撃を受け、盾ごと左腕を消し飛ばされた所に彼の魔術を浴びせられる。
散弾のような魔術、それを至近距離で叩き込まれ、身体が消し飛ぶ。
直撃して分かったことは、アレは深淵の、闇の力を宿した特殊な魔術と言うことだ。
結晶の槍と塊、結晶魔法の武器の三つを記憶して再び生身に戻る。
さっきの闇霊、まさにウーラシールの惨状を表したような男だったな……。
あの魔術、闇術と仮称しようか、鷹の目の話から察するに、ウーラシールを蝕む闇の力を求めた者達によって発明された物だろう。 ローガンが狂喜しそうな代物だな。
出来ることなら入手しておきたい、アレは神族や生身の相手には有効な物だ。
特にあの浮遊していた黒い塊、アレは別格だ。
アレの動きは緩慢だったが、盾ごと腕を消し飛ばした威力、そしてその身に受けて理解した、アレは人間性に吸い寄せられるモノ。
と言うより、人間の身体に恋焦がれている人間性のなり損ないと言ったようなモノが近いかな、ともかくそんな印象を受けた。
肉体を求め、恋焦がれたそのなり損ないに意識を与え、目の前の生物に向かって追い縋らせる魔術、それはきっと人間の闇を体現したような物だ。
ウーラシール本来の魔術とは程遠い、攻撃的な魔術。
その力を使う事に対しての嫌悪感や罪悪感は無い、寧ろ強力な魔術を見つけた事により、自分の手数が増える事が喜ばしかった。
先の深淵の泥に取り憑かれるのは御免だが、ちゃんと制御して使用出来るなら話は別だ。
真っ直ぐ深淵の主に向かおうかと思ったけど、ゆっくりと回り道をして行くか。
あの闇術が此処で発明された物なら、その痕跡がある筈。
あわよくば魔術書その物が手に入る可能性がある、見落としの無いように辺りを隈なく探さないとな。
自分にはあまり時間が残されていないのは分かっている、本当なら真っ直ぐ深淵の主まで向かった方が良いのだろう。
けど、これからの戦いにおいて、闇術と言うものは確実にアドバンテージを取ることができる。
失われた魔術、それへの対策は今この時代に居る者しか立てることは出来ないだろう。
いくらあの放浪者と言えど、予備知識無しでは反応する事は不可能なはずだ。
いや、そうあって欲しいな。
俺はそんな事を考えながら、市街へ向かう階段を降りていった。
闇術の習得が決定しました。
残光ブンブン飛沫ブッパマンになりそうな予感。
何故、彼は火力厨になってしまったのか?