過去最強となったアルトリウス、彼一人で四話も使うとは思わなかった。
第七十六話 アルトリウス
深淵歩きは直角に移動しながら次々に迫り来る光波を回避して行く。
彼の深淵を放出する事によって行われる立体機動、纏われている深淵はその度に剥がれ落ちているのだが、攻撃が当たらない。
急加速と急静止、その動きによって俺の攻撃の悉くが回避されてしまう。
避けているだけならともかく、合間合間に兜割りや突進などの攻撃を挟んで来るため、一瞬たりとも気を抜く事が出来無い。
カウンターを狙って剣を振るっても、その刃が触れた瞬間に回避されてしまい、決定打を打つことが出来ない。
中途半端な攻撃を与えてしまった結果、俺を”敵”として認識してしまったみたいだな。
彼奴が俺を取るに足らない雑魚とみなしていた時ならまだやりようは有ったのだが……。
攻撃の頻度も上がり、兜割りの三段斬り、突進からの回帰、軌道の変わる斬撃。
掠らせる事すら出来無い為、大袈裟に避けるか、月明かりの大剣で防ぐしか無い。
しかも、完璧に回避出来なかったり防御出来なかった場合即死する。
修理の光粉も無くなってきた、光波や盾代わりにと酷使しているため、月明かりの大剣も疲労が目立ち始めた。
もう、腹を括るしか無いか。
狙うはカウンター、バカのひとつ覚えだがこれ以外に活路を見出せない。
最後の結晶魔法の武器を発動し、月明かりの大剣にありったけの魔力を込める。
俺の不穏な動きに気が付いたのか、彼は大剣を構え、二段階の加速をしながら突進して来る。
彼の選択が突進だった事、それは幸運だったのだろう。
彼の刺突を強引にパリィの要領で盾受けする。
刃の上を盾で滑らせてゆく。
紋章の描かれた盾は火花を散らし、彼の大剣を半ばまで防いだ所で両断される。
構いやしない、防ぐ事が目的じゃないんだ。
そのまま、残りの半分を左腕の手甲を使って防ぐ。
だが、本来の使用方法では無いため、拮抗する事はない。
左腕がヤスリがけのようにおろされて行く。
まだ、まだ遠い、この距離では避けられる。
肘から先が無くなった。
後、もう少し。
次は肘から上を使って防ぐ。
今一歩間合いが足りない。
頼む、気がつくなよ。
直ぐに肘から上が挽肉になる。
最早左腕は肩しか残っていない。
迷わず肩で刃を受け止める。
徐々に首に迫る刃、削られて行く肩、平常心を無くせば終わってしまう。
肩すら無くなった頃に、漸く目的の間合いに入る。
月明かりの大剣を、彼の砕けた鎧の隙間に突き立てる。
彼の刃が、俺の首の皮を切った頃に届いた刃、限界まで注いだ魔力を彼の傷口で解放する。
結晶の魔力と、聖剣の魔力、それらが合わさり深淵歩きの身体を粉砕する。
想像通り、纏っているだけの深淵は彼の体内までは守らないようだ。
大きく仰け反った彼の身体にもう一撃、渾身の魔力を込めた一撃を叩き込む。
消し飛んだ深淵歩きの身体、彼の再生速度を超えた一撃を受け、ソウルの粒子となり、消えて行った。
俺の身体もタダでは済まなかった。
左腕は肩まで消え去り、右腕も、魔力の爆発を直接浴びた所為で焼け爛れている。
右腕だけで無く、全身の鎧もヒビだらけだった。
俺の中に、彼の持っていた朽ちた大剣が流れ込んでくる。
それと同時に、彼に纏わりついていた深淵が行き場を失い、俺に這い寄ってくる。
それを受け入れる事で手に入れる不死身は素晴らしいのだろう、能力は眩しい、人間性やソウルを通貨とした魂の命の同化。
ー失せろ‼︎ー
ー俺の心も魂も命も、俺だけの物だ‼︎ー
ー深淵との命の競合、命の融合、心の統合ー
ー何と素晴らしいー
ーそれはきっと、人間である俺には素晴らしい事なのだろうー
ーきっと、それは歓喜に違いないー
ーだが冗談じゃないー
ー真っ平御免だねー
ー俺の物は俺の物だー
ー毛筋一本、血液一滴ー
ー俺は俺だ、俺は俺だ、俺は俺だ‼︎ー
一喝。それによって、俺に這い寄っていた深淵の泥が弾かれる。
そんな物に縋るほど、頼るほど、俺は弱くない、人間は弱くない。
俺は人間だ、人間が人間たらしめている物はただ一つ。
己の意志だ‼︎
貴様らのような出来損ないと、
そんなか弱いものと一緒にするな‼︎
俺は俺の意志がある限り、俺は人間だ。
人間は、魂の、心の、意志の生き物だ‼︎
俺は俺だ‼︎
少佐マジイケメン。