不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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主人公の亡者化は緩やかに、しかし確実に進行しています。


その内、戦う事とこれまでの旅路の事しか思い出せなくなる日も来るかもしれませんね。




不死の英雄伝 63

第六十三話 書庫の牢屋

 

 

そもそも、不死身とは一体何か?

 

 

あらゆる攻撃を無傷で済ませる事?

 

決して老いさらばえて行く事の無い身体?

 

死の度に蘇る我々のような存在?

 

 

 

その答えは今対峙している竜が教えてくれた。

 

 

狂気に堕ちた公爵の身体からは、溢れ出る程の生命力がありありと感じられる。

 

 

彼は久々のモルモットが此処に足を踏み入れた事がよっぽど嬉しいのか、大きな咆哮を放っている。

 

 

負ける為の戦い、だがしかし、タダで負ける訳には行かない。

 

 

彼の行動を観察し、何が出来るのか、どういった手段を使って俺を害そうとするのか、何が有効で、何に耐性があるのか。

 

 

後の戦いにおいて確実に必要となる情報をこの戦いで可能な限り入手する事が大切だ。

 

 

死の恐怖は無い、処刑人に殺され続ける内に慣れてしまった。

 

 

いや、寧ろ今までの道中で少しづつ、そして確実にそれらの感情が死んでいたのだろう。

 

 

それが先の処刑人によって、加速してしまっただけの話、遅かれ早かれこうなっていたか。

 

 

 

被害者の日記や研究日誌を読んで悪感情が湧かない訳だ。

 

 

 

その事を悲しみながら、遂に俺をどう料理するかを決めた白竜に意識を向ける。

 

 

 

彼は両手の内側に魔力を込め始める。

 

視認出来るほど収束された魔力の塊は、白竜の身体に宿る結晶の力を映し出す。

 

 

咆哮と共に周囲に拡散する魔力、その性質が波動となって辺りを汚染する。

 

 

白竜の魔力に汚染された周囲一面が結晶の海に沈み、禍々しい魔力が辺りに充満する。

 

 

結晶の魔力に汚染されそうになり意識が飛びかけるがハルバードを一回転させて、周囲の結晶を焼き払う。

 

 

身体をよく見ると、一部が黒く固まっていた。

 

 

その現象には見覚えがあった。

 

最下層、あの棘の騎士と戦った場所に居たカエルの周囲にあった石像と同じ物だ。

 

 

気を強く持たないと持ってかれるな……。

 

 

先の一撃を耐えたからか、彼は吠えながら顔を上に上げる。

 

彼の口には膨大な魔力が臨界点スレスレまで収束され、やがてそれは真っ直ぐに吐き出された。

 

 

直線的な収束砲を回避し、その着弾点を確認する。

 

 

此方もやはり結晶の力が宿っているらしく、収束砲をなぞるように結晶で出来た道があった。

 

 

だが、これらの結晶は長続きしないらしく、数秒も立てば自壊するようだ。

 

 

反撃としてソウルの塊を展開し、ソウルの槍を放つ。

 

 

無駄な攻撃だが、彼の持つ不死身の力がどんなものかを知りたかったのだ。

 

 

それぞれの魔術が一点に集中し、彼は悲鳴を上げる。

 

 

意外な事に、不死身と言っても痛みはあるらしく、着弾点も大きく抉れていた。

 

 

直ぐにその傷は塞がってしまったが、これで彼の不死身の力が何なのか判明した。

 

 

圧倒的な回復力、それが彼の不死身の秘密。

 

 

そして、不死の結晶の力の正体か。

 

 

そこまで考えた後に、彼の腕で握り潰された。

 

 

 

 

目を覚ますと狙い通り、書庫の牢屋に投獄されていた。

 

 

 

見張りの蛇人も居るには居るのだが、間抜けな事に居眠りをしている。

 

 

装備も取り上げられなかった為、混沌の刃を引き抜き、檻の隙間から音を立てずに心臓を一突き。

 

 

眠ったまま絶命した見張りを尻目に、続けざまに檻の錠前を両断する。

 

 

混沌の刃の斬れ味が有るからこそ出来る芸当、行儀が悪いが仕方ない。

 

 

俺の脱獄がバレてしまったのだろう。

 

 

急に辺りに不協和音が響き出し、眼下に見える檻から魔物が放たれる。

 

確か、名前はスキュラ…だったか。

 

 

蛸と蛇を足して割ったような姿をしたアレらは元々は聖女だった者達だ。

 

 

 

今まで戦ってきた魔術師は白竜の伝道者らしく、彼らは実験材料である聖女を誘拐する事が目的だ。

 

 

そうして誘拐された彼女たちは、白竜の凶行の被害に会い、あのような悍ましい姿となった。

 

 

彼女達への手向けは一思いに楽にしてやる事だ。

 

 

 

混沌の刃を構え、見張りの仲間達とスキュラ達を切って行く。

 

 

 

迫る蛇人の大剣を両断し、スキュラから吐き出される水鉄砲のような物を身を低くして回避する。

 

 

横一閃。 蛇人とスキュラを纏めて斬り捨てる。

 

 

次に向かってきた二体目の蛇人を、ソウルの槍で背後に居るスキュラ諸共ブチ抜く。

 

 

 

見張りの蛇人は全滅、残るスキュラは後7体。

 

 

 

ソウルの塊を展開し、階段を駆け降りながら残るスキュラを片付けに行く。

 

 

五つのソウルの弾がスキュラを撃ち抜き、絶命させる。残りは6体。

 

 

蛸の脚を広げて抱きつきに来たスキュラの頭にナイフを投げ付け、脳味噌を射抜く。残り5体。

 

 

ソウルからスナイパークロスを取り出し、向かってくる2体のスキュラの額を撃ち抜く。残り3体。

 

 

ソウルの塊を再度展開し、階段の手すりから、下に居る3体に飛び掛かる。

 

 

着地と同時に近くに居たスキュラを正中線に沿って両断、残りの2体にソウルの塊が被弾し、身体が仰け反った所へナイフを投げ付け止めを刺す。

 

 

 

スキュラ達が現れた場所には、さめざめと泣いているスキュラが2体、どうやらまだ理性が残って居るみたいだ。

 

 

彼女達は、己に降りかかった不幸を嘆く事しか出来ないのか俺が近付いても気が付かなかった。

 

 

ー許しは請わない、恨んでくれー

 

彼女達の首を斬り落とし、その苦しみから解放してやる。もっとも、それは俺の独りよがりなのだが。

 

 

ソウルとなって消えてゆく彼女達から二冊の本が零れ落ちる。

 

 

奇跡を使用する為の聖書のようだ。俺は神に対しての信仰心が欠片も無いから使用する事は出来ないな。

 

 

二人の聖女に祈りを捧げ、上に残っている蛇人を倒しに向かう。

 

 

コブラ頭と普通の蛇人が2体。

 

真っ先に一番奥に居るコブラ頭をソウルの槍で強襲する。

 

 

コブラ頭は首から上が吹き飛び、悲鳴を上げることもなく倒れる。

残る2体の蛇人を大剣や盾の上から斬殺する。

 

 

奥にある宝箱から鍵を拾い、辺りの棚にある書類を手に取る。

 

 

俺は周囲の制圧が終わったため、此処にある膨大な研究資料に改めて目を通していった。

 




お ま け 不死の英雄外伝 〜 闇の落とし子 〜

第4戦 騎士 再び


くっせぇなここ、とっととこんな場所からオサラバしてぇよ全く。


放浪者の装いをした男はそう零しながら最下層を攻略して行く。

彼は小休止した篝火で、落ち込んだテンションを上げるために再び浸入を試みた。


ーおっと、漸くオーブが反応しやがったなー


意気揚々と侵入した先は例の騎士の世界だった。


あん? 彼奴も不死だったのか、てっきりアストラの連中の調査部隊かと思ってたんだがな。


まぁいい、楽しませてくれよ?ルーキー。


奴の前に勇んで飛び込んだのだが、この野郎は生意気にも魔術を覚えてやがった。


アストラの騎士連中にはあり得ない一撃を貰い、身体を仰け反らせてしまう。


だが、俺の感が体勢を立て直す事に警鐘を鳴らす。


視界の端に映ったナイフ、成る程こいつか。


その内の一本を掴み、地面に倒れ込む。


そのタイミングで、目の前の騎士が大剣を振り下ろすが、動きがばらけてやがるな。


勿論、そんな一撃は貰わねぇ。

蹴りを放ち、奴の握る大剣を弾き飛ばす。


そのまま立ち上がるつもりだったが、此奴は俺の顔を踏み付けやがった‼︎

仕方ないので、さっき握ったナイフを奴の喉に向けて投げつける。


放浪者の投げたナイフを避けるために騎士の足が彼の顔から離れる。

すかさず彼は立ち上がり、騎士の足を払い顔を踏み返す。


下水と汚物の味はどうだい? よくも俺を踏んでくれやがったな。


踏まれている騎士は、その体勢から腰のブロードソードを逆手で抜いて、放浪者に斬りかかる。


おっと、あぶねぇな。 もう少しで怪我するとこだったじゃねぇか。


此奴の反撃を受け止め、早速首を刎ねようとした時だった。


奴の左手に何時の間にか握られていたナイフで、右手を貫かれシミターを取り落とす。

その時に思わず手を抑えたのがマズかった。


奴に蹴り飛ばされ、今回も距離を稼がれる。


その隙にこれ見よがしにエンチャントを施されたことに腹が立ち、足元のナイフを拾って奴に向かう。


馬鹿の一つ覚えみてぇにまたナイフを投げて来やがって、早々同じ手は食らうかよ。


盾を構え飛来するナイフに備えたんだが、この後予想外の物もこの男は投げてきやがった。


ー忘れもんだ、是非受け取ってくれ‼︎ー


そいつはさっき俺が落としたシミターだった。

この野郎っ‼︎ ドサクサに紛れてくすねてやがったな⁉︎

それを反射的にパリィしたのだが、気がつくと目の前に奴が立っていた。ムカつく事に迎撃は間に合わねぇ。


呆気なく胸を貫かれた俺は、怒りと屈辱で沸騰し始めた頭で奴を睨むことしか出来なかった。


初敗北の味は……反吐が出るほど最悪な物だった。






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