おくりものは無し
第二話 不死院のデーモン
気が付いたら俺は篝火の前に座っていた。
死んだはずだった。
確かに俺は先ほどあのでか物によって床のシミにされそこで終わったはずなのに。
何故か俺はこうして生きている。
普通なら取り乱してもおかしく無い体験である。
迫る大鎚の恐怖
身体を挽肉にされる痛み
その両方共常人が耐えられるものでは無い
ならばどうして自分は耐えられて居るのか?
俺はここまで精神が強い人間だったか?
秘められた力の覚醒だのがご都合主義宜しく発現でもしたのだろうか?
それとも未来視や正夢の類いなのか?
いやそんな物は俺には無い、だったら何が原因なんだ?
暫く考えたのちに辿り着いた答えが、この篝火が原因なのでは無いのか?というものである。
この篝火に触れているだけであらゆる疲労から解放された。
そうして、今もこうして自分が虫のように殺されたにも関わらず、平然と考え事に耽っている事からあながち間違いでもなさそうである。
当面の問題はあのでか物だ。
奴が居る限り此処から出ることは叶わない。
しかしこのままではまた亡者に成るのを待つだけとなってしまう。
どうしたらいい?まともに戦う?無理だ。
俺の手には折れた剣の柄しかなく武器とは到底呼べない代物だ。
いっそ奴を無視して強引に突破してみるか?
幸いと言ってもいいのか、俺は簡単には死ねなくなってしまった様だから、死んで確かめるという手が使える。
今はこれぐらいしか奴に対して出来る事はなさそうだ。
そうと決まれば実行に移すだけだ。
少しでも身体を軽くするために着ていた兜、鎧、手甲を外し軽快に動ける事を確かめる。
この時に、自分の身体の中に先ほど脱いだ鎧が粒子となって入ってきた。
どうやら自分の物は身体の中に収納出来るようだ。
最悪の場合、残りの防具を捨ててあのでか物に挑む事となることも覚悟していただけに有難かった。
自分の身体の軽さに驚きながらも、どの程度動けるか確認出来た。
これから奴と二度目の会合となる。
そう考えると手が震えて来た、奴に味わわされた死の恐怖。
それが今になってフラッシュバックする。
落ち着け、落ち着け、大丈夫。
俺なら出来る、主人公なんだろ?だったらこんな所で立ち止まるな、お前はまだ終わらない、終われないんだ。
だから何も考えるな。
自分を奮い立たせる為にそう言い聞かせ呼吸を整えながら扉を開く。
先ほどは出口の様なものを前に興奮してしまい、周りを見渡していなかったがこの部屋はとても広く、天井も壊れ果てている。
そうして上を見上げると、朽ち果てた屋根に乗り此方を見下す奴がいた。
その手の大鎚には血がこびり付いていた。
それを見てまた身体が震えそうになるが、覚悟を決めいつでも走り出せるように深呼吸して身体をリラックスさせる。
さっき俺が奴に殺された場所には、血だまりと緑色をした何かが漂っていた。
何と無くだがアレが何なのかが理解出来た。
アレは俺の中にあった何かだと、だがそれを考えるのはまた今度でいい。
今はここから外に出ることが先決だ、俺は脚に力を入れ奴の前へと走り出す。
奴が何なのか、此処の番人なのか、処刑人なのかは分からないが、そのどちらにせよ奴は俺を殺しにくる筈だ。
だからあえて奴の前に移動する。
奴は案の定飛び降りてきて、その巨体を持って行く手を塞ぐ。
-此処は通さない-
そう言っているようだった。
奴が大鎚を振り上げる。
一瞬身体が竦むが、強引に奴の股下に転がりこむ。
俺が奴の股下を潜った直後、先程まで居た場所へ奴の一撃が叩き込まれる。
後ろを確認したい衝動に駆られながらも、何とか扉まで辿り着いた。
奴は俺がまだそこに居ると思い込んでいる様で、執拗にその大鎚を振るっている。
その隙に扉に手を掛けるが鍵が掛かっている。
半ば予想していた事だったのでショックは少なかったが、手詰まりとなった。
そうしているうちに、奴も俺が居ないことに気がいた様だ。
慌てて柱の陰に隠れ様子を伺う。
どうやら奴は手当たり次第に隠れられそうな場所を破壊して行っているようだ。
どうしたものかと考えていたらふと目の前に抜け道が見えた。
奴の暴れぶりからしてこの柱も直ぐに破壊される。
だったら飛び込むしかないか。
タイミングを測っている暇は無い、多少無謀でも全力で滑り込む。
幸い、奴は俺に気付かなかった様で、そのまま通路に転がり込んだ。
奥には篝火があり、そこで一度休憩する。
どうにか逃げ込めたが、先ほど奴の横を通る時に奴が鍵をあの大鎚に付けているのを見てしまった。
出来れば別の鍵であって欲しいがあれがお目当ての鍵な可能性が高い。
もしあれが別の鍵だったとしても奴が居る中、鍵を開けるという作業を熟さなければ行けないのだ、難易度が高すぎる。
まだ道は続いているようなので、何か奴をどうにか出来るものを探しに先へと進む事にしよう。