取り敢えず亡霊達は一気に駆け抜けます。
今更彼らに苦戦はしないでしょうしね。
後、活動報告へ主人公ラスボス物のあらすじを掲載しました。
第百十話 封印の番人
並み居る亡霊達を薙ぎ払いながら、遺跡の中を突き進む。
彼らに実体は無い、故に何の抵抗もなく容易く斬り捨てる事が出来る為、一振りで纏めて殺す事が出来る。
ーそこを退けー
ー道を開けろー
ー死にたく無ければ前に立つなー
至る所から現れる亡霊達へと投げ掛けながらも、只管に目的の場所まで走り抜ける。
その目的地は封印の番人が居る建物の屋根。
彼はフラムトの知り合いらしく、自分に与えられた使命を捨てる事なく守り続けているそうだ。
元々、封印の番人は三人居たのだと言うが、内二人はその使命を捨て、己の道を歩き出してしまったらしい。
彼までもが行方知れずにならずに良かったな、そう思いながらも愚直な男だと思わずには居られなかった。
亡霊の群れを抜けた後、屋根の上に彼の姿を見たが、同時に付けられているような気配を感じる。
背後に気を向けてみると、ウーラシールで出会った闇霊のような騎士が物陰から俺の様子を伺っているのが分かった。
アレが、ダークレイスと言う奴か。
彼の左手から闇の力を感じるので、間違い無さそうだが……、さて如何するかな。
今俺がいる場所は、番人が居る建物へ向かう石橋の上。
かなり足場も狭いし、彼と交戦している最中に他のダークレイスが現れる可能性も無くはない。
彼の身体からは水が滴っている、つまりは水没した遺跡の中から上陸して来たと言う事。
もう一つ、彼の身体には僅かながらも深淵の泥が纏われているように見えるのだ、やすやすと倒せはしないだろう。
先に番人へ会いに行くのが吉か。
彼の目的が俺の排除なのか、はたまた番人の持つ封印の鍵なのかは分からないが、向こうから仕掛けて来ない以上、まだ偵察の段階なのだろう。
ならば下手に手は出さず、此方の目的を果たさせてもらう。
見えている人間には選択することが出来る、見えている事を伝えるのか、見えていない事を装うのかを。
俺は彼に気付かなかった振りをしつつ、番人が待つ場所まで向かった。
亡霊のたむろする内部を突き抜け、屋根の上に向かう階段を上って行く。
背後のダークレイスも、一定の距離を開けながら俺の後に続いて居るが、どうやら階段の手前で止まっているようだった。
彼が来る前に番人の元まで歩いて行く。
彼は俺に気が付き、俺の中にある王の器に反応を示す。
ーほう、お前さん王の器を持っておるな?ー
ー様になっておるな、お前さんの目的は分かっておるー
ーお前さんが探す四人の公王はわしが見張っておるー
ーそれは本当か?ー
ー貴方がこの水門の番人で間違いは無いのだな?ー
俺のこの問い掛けに、彼は即答する。
ーそうとも、わしがあの鍵を封印しておるー
ーじゃが、この任を辞める前に、お前さんに聞きたい事があるんじゃー
ー果たして、お前さんは闇の騎士の前に膝を屈する事無く立って居れるかのう?ー
ー気が付いておるようじゃが、ダークレイスがお前さんを探し回っておる、恐らくは四人の公王の使いじゃろうてー
ーお前さんがアレを倒せるのか、わしの前に証明してみせいー
ーそれが、封印の番人としてのわしの義務じゃー
ーもし、それが出来ぬと言うならばー
ーお前さんをあの小王に合わせる事はならんー
ー例えフラムトがお前さんを選ぼうとも、王の器を持つ者としてもじゃー
彼の言葉が終わると同時に、梯子を上ってきたダークレイスが屋根の上へと現れた。
俺とこの番人を一網打尽にするつもりだったのか?
まあ良い、手間が省けた。
月明かりの大剣と、アルトリウスの聖剣を左右に握り、ダークレイスへ向き合いながらも背後の番人に話しかける。
ーそこで見ているが良い、ご老体ー
ー私の強さを、人間の強さと言うものをー
対峙しているダークレイスの身体から闇の力が溢れ出す。
世界に僅かな綻びを作り、その隙間から彼は深淵をその身に纏わせ始めた。
深淵纏いか、懐かしい技だな。
魔術を封じ、通常武器では傷を残せず、身体能力を底上げする物。
その代償は自身の身を異形へと作り変えること、恐らく彼らの鎧は拘束具のような意味合いを持っているのだろう。
闇に飲まれ、異形に堕ちた身体を無理やり人の形に当てはめる物、そこまでして人間で有りたいならば始めからそんなものに頼らなければ良いものを。
ー君は一つ、勘違いをしているー
ー深淵の力は無敵では無いー
ー何故なら、それは所詮は人間性のなり損ない、魂の出来損ないなのだー
ー人間の持つ魂の輝きに遠く及ばないー
その言葉と同時に、右手の月明かりの大剣の光波を彼に叩き込み、纏われていた深淵の泥を吹き飛ばす。
彼は左手の力で闇の結界を盾のように展開するが、その腕を左手のアルトリウスの大剣で刎ね飛ばし、ガラ空きとなった胸に月明かりの大剣を突き立てる。
そのまま刀身を暴発させ、絶命させる。
ー如何であったかな?ー
ー私の魂の輝き、しかと見届けて頂けただろうかー
彼はその言葉に対してただ一言。
ーお見事ー
そう答えた。
深刻な主人公のインフレ、内心ではともかく遂に一人称が変わりだしましたね。