不死の英雄伝 〜始まりの火を継ぐもの〜   作:ACS

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癒し系のシフ戦は私の心が良心の呵責によって折れそうなのでとっとと終わらせてしまい、 嫌死系の大凡四人の公王編に入りたいと思います。


悲しみを絶望で塗り潰そう(提案)


不死の英雄伝 106

第百六話 墓守の神獣

 

 

俺の視界に入っている一本の剣、それは深淵歩きアルトリウスが握っていた聖剣。

 

 

最奥地に設置されていた大扉を開いた先に、それは突き刺さっていた。

 

 

王の四騎士、アルトリウスの墓標。

 

それは、嘗てキアランが彼の死を悼み作り上げたもの、その墓標の周囲には古今東西の英雄達の剣が突き刺さって居る。

 

 

剣の墓場、それは彼を信奉する者達が追悼の意を込めて置いていった物だった。

 

 

自分にとっては、アルトリウスの死は昨日の事のように思えるが、こうして見ると気の遠く成る程の過去の者だったと言うことが実感できた。

 

 

時を越えた会合。

 

 

それに対しての感傷に浸りながら、聖剣に触れた時だった。

 

 

気高さが伝わる遠吠えと共に、墓標の上に着地した灰色の大狼。

 

 

彼は俺が救った相手であり、尚且つ深淵にて邪神を相手に共に立ち向かった者。

 

 

灰色の大狼 シフ。

 

幼かった彼は今や成体となり、その存在感を周囲に知らしめている。

 

 

彼は俺の事を覚えてくれていたようで、以前のように俺にじゃれ付いて来たのだが、途中から俺の中の何かに気が付いたような顔をし、俺の目的を悟ったようだ。

 

 

 

ーシフ、アルトリウスの契約を渡して欲しいー

 

ー君とは出来る事なら戦いたくはないんだー

 

 

彼の頭を撫でながらそう語りかける。

 

だが、彼は悲しい目をしながらアルトリウスの聖剣を抜く。

 

悲しげな遠吠えが森に響き渡り、彼は俺を見つめ直す。

 

 

そして、その目は彼の思いを俺に伝える。

 

 

出来ることならば、私とて戦わずに終わりたい。

 

貴方には大恩がある、私の身を救って頂いた事は勿論の事、我が主人の魂を解放し、その仇を討ってくれた。

 

その事を考えれば、この契約の指輪を渡してしまっても構わないかもしれない。

 

当時は右も左も分からぬ童ゆえ、碌な礼も返せなかった。

 

これが代わりとなるならば、と少なからず私も思っている。

 

けれど、それは叶わぬ事。

 

火を継ぐと言うならば、世界の理を塗り替えようと言うならば。

 

私の屍を踏み超える覚悟の一つ程度、持ち合わせなくてはならない。

 

その覚悟無くしては、この指輪は渡す事は出来はしない。

 

その覚悟、我が主人たるアルトリウスのように、不動の覚悟が無ければ。

 

理を塗り替えるなど、所詮絵空事。

 

大恩ある貴方に刃を向ける無礼を許して欲しい。

 

だがこれは、これだけは譲れない事なのだ。

 

貴方のその思いが、真なる物ならば。

 

今、此処で証明して頂きたい。

 

私を討つ事によって。

 

 

彼の思いを受け止め、月明かりの大剣を抜き、切っ先を彼に向ける。

 

 

ー本当に、それしか無いんだな?ー

 

ー本当に君を討たなければならないんだな?ー

 

ー言っておくが、俺は手心を加えるほど余裕を持って居ないんだー

 

ー戦いになったら容赦はしないぞー

 

ー本当に良いんだな?ー

 

 

返答は決まっているだろうが、コレはお互いの確認の為に語りかけて居るのだ。

 

お互いに手を抜かない為に、死力を尽くす為に。

 

彼はゆっくりと頷き、悲しげな空気を四散させる。

 

思考を切り替え、目の前に居る俺を打倒するために闘志を滾らせ、最後に俺に向かって問いかけを投げかける。

 

 

問おう、大王の後継者よ。

 

其方の望む後の理。

 

幾多の屍を踏み越えてでもこの世界を塗り替えんとするその理とはなんぞや?

 

 

俺は月明かりの大剣に魔力を流し込み、輝きを増した聖剣を構えながら彼に返答する。

 

 

ー我が望む後の理は、神による統治の無い世界‼︎ー

 

ー人間による人間の世界なり‼︎ー

 

ー神は天上に、魔物は地下に、人は地上にー

 

ー世界を三分に分け、互いが干渉できぬ世界ー

 

ー人の意志が、魂が、心が世界を形作る世界だ‼︎ー

 

ー不動の精神を‼︎、不屈の魂を‼︎ー

 

ーそれを世界に満たせば世界に神も魔物も要らぬ‼︎ー

 

ー善も悪も皆等しくー

 

ーたった一つ、たった一つのそれを持たせる事がー

 

ー我の望む理の真髄なり‼︎ー

 

ー墓守の神獣よ‼︎、その強さを今‼︎、此処で証明して見せよう‼︎ー

 

ー我が不動の精神‼︎、不屈の魂‼︎、十二分に理解して散って行け‼︎ー

 

 

俺の返答と共に彼は何時ものように、気高い遠吠えを一つ吐き、俺に向かってその瞳を向ける。

 

 

良くぞ答えた‼︎

 

その思いを叶える為の屍として、轍として私を踏み潰して行くが良い‼︎

 

彼のその思いを受け取ると同時に俺たちの衝突が始まった。

 






活動報告にも掲載しましたが、割れペンのフラグ回収が微妙だったので一応の補足と言うことで。


割れたペンダント。

本作の割れペンは時間跳躍、永劫回帰、平行世界の観測などの時空に影響する力を持った最大級の神具。

己の存在と野望を磐石にしようとするマヌスの手に一度落ちてしまったが、深淵に汚染されながらも瀕死の身体でアルトリウスがそれを破損させ、彼の手から奪還。


その後、彼は正気が残っている内にキアランにそれを託し、闘技場で散る。

破損した為に性能を十分に発揮できなくなったが、マヌスは僅かにでも力が残っていれば深淵の力で増幅して使用できると踏んでいた為、主人公から奪い返そうと必死になった。


割れペンが割れた理由がこんな感じ、主人公が引きずり込まれたのは割れペンに染み付いた深淵がマヌスと反応し時間の壁を超えたから、と私のフロム脳が囁くのだ。


実機の割れペンは全然違うものですがね。




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