ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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最初に言っておく! これはタイトル詐欺かもしれない!
でもカメタロスが嘘をつくのは、侑斗と友達になりたいと思っているからだ!
だからみんなも侑斗と友達になってほしい!

※注:この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
   仮面ライダー電王は一切関係ありません。

   ……たぶん。

閑話休題。
今回はLife7.とほぼ同一時系列です。ナンバリングがかぶっているのはそのため。
イッセーとアーシアがデートしていたころ、セージは……?


Soul7. 生霊、ぼっちです?

――まだ頭が痛い。

 

俺、歩藤誠二は霊魂で、悪魔。なのだが、今は訳あって動けずにいる。

いや実際には動けるのだが、実体が不安定になっており、うまく維持できない。

考えられる原因は一つ。先日戦ったクソ神父――フリード・セルゼンの銃弾を

モロに喰らったせいだ。

 

そのせいで、俺は霊体・実体共に不安定になってしまっている。

出来れば憑依先であるイッセーこと兵藤一誠に憑きたいのだが、訳あってそれもできない。

 

だからこうして、日中唯一実体化できるオカルト研究部の部室にある

ソファに横たわっているのだが――。

 

「――暇だ」

 

今までは霊体と実体をうまく使い分ける訓練も兼ねて色々やっていたが、それも出来ない。

おそらく今の心境は、骨折等の要因で入院している入院患者のそれだろう。

俺は別に骨は折れていないが。

 

あまりにも暇なので体を起こす。やはりまだ頭とか痛む。置いてある本も、粗方読んでしまった。

このオカ研に来てから、それなりに日数は経っている。

しかし俺は基本霊体なので、どうしてもここが活動場所になってしまう。

 

――どうしたもんか。と言うか、一応オカ研に籍は置いているが

駒王学園には実は俺の学籍はない。

昼間は存在しないことになっているからだ。

保健室通学ならぬ部室通学である。まさに文字通り幽霊部員!

 

――山田くん、座布団全部持って行って頂戴。

 

などと一人大喜利もいい加減飽きた。そういえば、イッセーの奴は無事だろうか。

家に逃げ込むわけにはいかないだろうから、お得意様の虹川さんに

ちょっと協力を要請していたりする。

 

対価を思いっきり要求されたが。騒霊ライブチケットの完売。ちなみにまだ会場は交渉中だ。

犯人は三女、里莉。幽霊のくせに金稼ぎとか、ちゃっかりしている。

これじゃあどっちが対価だかわかりゃしない。

 

――ま、いいや。壁すり抜けて身体出して遊んでるか。

前やった「右腕だけ」の状態が意外としっくりきた。

欠点は「右腕が壁ないしドアから生えてる状態」にしかならないことだが。

ちなみに今は実体化も不安定なので所謂幽霊スタイル、つまり「足がない」状態だ。

あんなもの飾りですと言わんばかりに、これはこれでしっくりきている。

今度首だけ状態に挑戦してみるか。

 

ただあまりやりすぎると、本当は自分死んでるんじゃないか、と錯覚してしまうことだが。

 

イッセーの中に眠っていた赤いドラゴン、ドライグ曰く

「死んではいない、生きてもいないが」らしい。

そんな中途半端な存在、それが俺だ。ただふよふよと漂っているのが性に合ってるんじゃないか。

と思うときはある。それなのに何故俺はオカ研にいるのか。それは――

 

――俺が何者なのかを知りたい。ただそれだけである。気がつけば、目の前にドライグがいた。

その後、俺はこのオカ研の部室でめでたく実体化した、というわけだ。

 

何故俺は、悪魔で生霊なのか。

部長、リアス・グレモリーは俺のことを何か知っている様子だったが――

未だ、何も聞き出せていない。或いは、触れられたくないことなのかもしれないが。

 

ある日、さりげなく話を振ってみたら、完全にはぐらかされたのだ。

それを聞き出すまでは、俺はここを離れるつもりはない。

 

「――信用しきれないんだけどなぁ」

「……誰がですか?」

 

へ? 恐る恐る後ろを振り向いてみると――

駒王学園のマスコット的存在、一年の塔城小猫さんがいた。

彼女もまた悪魔で、末恐ろしい怪力とタフさを備えている。ドゥルジョルザァーン!! ナズェイルンディス!?

 

「え? あ……い、いや……俺そんな事言ったっけ? つか、いつからここに?」

「……先輩が生首ごっこに挑戦しようとしていた時からです」

 

ナズェミデルンディス!? いるならいるって言ってくれ! びっくりしたじゃないか!

と言うかあれ見られてたのか!? それはそれでかなり恥ずかしいんだが!?

ううっ、賢者修行ほど精神的ダメージは負わないが結構来るものがあるなぁ。

こんなところで賢者修行する気は全くないけど。

 

と言うか、言えるわけがないだろうが。

 

「あんたのとこの部長は隠し事してるみたいで信用できません」

なんて。

 

一応俺も眷属らしいし、主を信用できない眷属ってどんだけだよ。

言うだけ言って、塔城さんは冷蔵庫から羊羹を出して食べている。

まだ昼休憩って時間でもないはずだけど。

 

……うん。黙々と食べてらっしゃる。

食事の時間は何というか救われてなければいけないとはよく言ったものだ。

俺のことなどお構いなしに、羊羹を頬張っている。そんなにおいしいのかな、それ。

 

「……ひと切れ、食べます?」

「え? いいの?」

 

こくり、と頷いたのを確認したあと、頂きますと言わんばかりに

俺も羊羹をひと切れ食べようとしたが、右手がすり抜ける。

なに? なにこれ? 新手の先輩いびり? いや厳密には俺先輩じゃあないんだけどさ。

今度は左手を伸ばしてみる。ダメだ。やっぱりすり抜ける。

くそっ、本は持てたのに何で羊羹はダメなんだ!?

 

――答えは簡単だった。俺の実体が未だ不安定であるということ。

遊んでないで休めってことか。むぅ。あのクソ神父の後遺症おそるべし。

同じくアレを喰らったイッセー、大丈夫か? しかしこの羊羹はうまそうなのに、食えないのか。

食べられる食べ物を目の前に出されて食べられないのは、辛いな。

 

「――はぁ。まだ完全復活には程遠いね。塔城さん、羊羹はまた今度にするよ。

 ちょっと眠くなったから俺は寝るよ。おやすみー」

「……おやすみなさい」

 

なんだか傍から見たらふて寝みたいだが、実際ふて寝も含めているから仕方ない。

なお俺がこうして日中外に出ないのは、周知の事実である。

出ても実体化できないのだからしょうがない。

 

ただ何故か皆別段驚くでもなく、「ああまたか」みたいな空気だったのは

俺みたいなのが他にいるのだろうか。そういえば、このオカ研の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のうち

僧侶(ビショップ)だけはまだ見てないなぁ。ま、今はどうでもいいか。

 

――――

 

遠くに聞こえるチャイムの音でふと目が覚める。今は昼休憩の時間か。

腹は……いかん。さっき羊羹を意識したせいで減ってきた。

普段は霊体だからか、食べなくても空腹を感じないが、実体化するとやはり空腹感はある。

明るいところに行くと実体化できなくなるから、食事も一苦労だ。

イッセー越しに食事の感覚は共有できるのだが、やはり食事は自分の好きなものを食べたい。

まだイッセーとは飯を原因にした喧嘩には発展していないから、とりあえずは大丈夫だろうが。

 

しかし困った。普段ならイッセー越しか、ここで待機して誰かに買い出しを頼むとか

方法はあるのだが今日はさっきの通り、実体化が不完全だ。

そのくせ腹は減るんだからタチが悪い。

 

でも今ここで食べると、ぼっち飯になるんだよなぁ。気にする主義じゃないけど。

 

とりあえず誰か来るかと思ってソファに腰掛けていたが、誰も来る気配がないので

再び横になることにした。まあ無理もない。今日休むと言っていたイッセーはいざ知らず

このオカ研の面子は皆異様に人気が高い。この時間は色々囲まれて大変なのだろう。

俺にはわからない苦労だが。

 

――空腹感があり眠れなかったので、本当に横になっているだけだった。

そのせいか、部室の扉が開く音にいち早く反応できた。

入ってきたのは二年の木場祐斗。駒王学園一のイケメンとして有名である。

 

「あれ。歩藤くん、起きて大丈夫なのかい?」

「腹が減っている以外はな。

 ただ残念なことに、まだうまく実体化できないから食事が摂れない」

 

木場の手には弁当箱らしきものが見える……マズった。ここで食べるつもりだったのか。

となると、飯が食えない俺が居ると食べづらいだろう。

 

「――あ、悪い。ここで食べるつもりだったなら、俺はもう一度寝直すが」

「いや、気にしないでいいよ。君の状況を把握してなかった僕にも落ち度はあるし」

 

うん、そう言うとは思った。けどな、色々な意味で耐えられないから俺はやっぱり寝たいんだが。

眠れなくても、横になりたいんだが。

 

ああもう、何でこんな時に限って完全に霊体に戻れないんだよ。

あ、外に出ればいいのか。そう思って俺はおもむろに立ち上がって

壁から外に出ようとした瞬間――

 

「酷いよ歩藤くん。君は僕にぼっち飯を食べさせるつもりかい?」

「なっ、そういう言い方は無いだろう!?

 俺だって何が悲しくて男の食ってるところを見るだけなんて、イッセーが聞いたら

 『それなんて拷問だよ!?』って言いそうなことをしなきゃいけないんだよ!」

 

この木場ってイケメン、中々食えないやつである。

爽やかスマイルの裏に、中々どうして黒いものを持ってらっしゃる。

仕方なく、俺は飯も食えずに昼食を木場と過ごすことになった。

 

とりあえず、家で木場自身が作ったのか、誰かが作った弁当をもらったのかはわからないが

弁当はうまそうだった。

 

……そういえば、仕事内容が家事って時もあったっけ。

木場。お前、ヘルパーとか向いてるんじゃないか?

悪魔の仕事がある意味ヘルパーのそれに近いものがあるのも事実なのだが。

 

そんな事を考えているうちに、木場は飯を食べ終えたようだ。

味が気になったが、食えない以上は仕方ない。

作ってくれ、などとも言えないし。俺は――確か、作れた。はず、だが。

 

「ごちそうさまでした。さてと、歩藤くん。

 怪我が治ったら一度手合わせ願いたいんだけど、いいかな?

 ああ、剣術じゃなくて実戦方式の方だね。君みたいなタイプと手合わせするのは

 いい経験になりそうだし」

 

「――それをマジで言ってるんなら、買いかぶりすぎだ。

 俺は本当にイッセーに毛が生えた程度の経験しかないぞ? はぐれ悪魔との戦いや

 フリードとの戦いのことを言ってるなら、あんなマグレ何度も起きてたまるか」

 

俺がああもうまく立ち回れているのは、右手のドライグの鱗こと龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

この左手の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のおかげである。一度だけ身体の一部機能を倍加させる義肢と

一度見たデータをあらゆる形で網羅できる大図鑑。

この二つがなければ、今頃俺ははぐれ悪魔の餌だろう。

 

だが今こうして横たわっている俺は、この二つがあっても

イッセーといい勝負ができるのが精々だろう。

 

「僕は実戦方式って言ったよ? 兵藤くんの左手みたいに爆発力のあるタイプもなんだけど

 君みたいに様々な武器が使えて、状況に応じて戦闘スタイルを変えられる相手との勝負は

 いい勉強になるんだよ」

 

「スパーリング相手って事か。オッケー、俺も新しいカードの使い方とか知りたいし

 そういう事があったらこっちからお願いするかもしれない。その時は協力してくれると助かる」

 

決まりだね、と木場お得意の爽やかスマイルが帰ってくる。

そういえば人気があるとは聞くけど、浮いた話を全然聞かない。

このオカ研のほかの面子にも言えることなのだが。

 

まぁ、人気があるのと付き合うのはまた別の話だしな。

イッセーの場合は――あれは、それ以前の問題だろう。

 

弁当箱を片付け、午後の授業の始業チャイムが鳴るであろう時間から少し前

木場は部室を後にする。再び俺だけになったオカ研の部室。

 

なんだかんだで木場と話している間はいい暇つぶしになっていた。

その木場が帰ってしまった今、俺はまたしても話し相手を失ったことになる。

 

「――カードの効果をノートにまとめておくか」

 

やっと手先の実体化がうまく安定するようになった。今更遅い。

まぁいいや。とにかく俺はおもむろに以前部長にもらったノートとペンを取り出し

ノートにつらつらと今まで使ったカードの効果や戦った相手の事を書き始める。

実戦ができないなら、座学だ。と言っても、左手の神器(セイクリッド・ギア)を起動させて

記録させたデータを書き写しているだけなのだが。

 

だが、こういう作業は得てして眠くなる。

まだダメージが残っている俺に向いている作業ではなかった。

 

――――

 

ふと、隣に艶やかな長い髪の女性がいた。年の程は――俺より一回り位上、だと思う。

何せ、顔がよく判別できない。そしてイッセーが気になるであろう箇所は――

うん、ホイホイついて行きそうなレベル……って、何見てるんだ俺は。

 

女性はおもむろに俺の右手を取り、俺をどこかへ連れて行こうとする。ん? 何処へ行くんだ?

ただ、抵抗しようという気は起きない。寧ろ、出来れば一緒にいたいと願う。

けれど、そんな時間は長く続かない。女性の手が俺から離れると同時に、話しかけてきた。

……ように思えた。

 

――またいつか、会いましょう。

 

え? それってどう言う意味? と聞こうと思った瞬間、俺の肩が何かに揺すられるのを感じる。

誰だ、今取り込み中だ。肩の手を振り払う。まだ揺する。また振り払う。

揺すり方自体は優しいものだったが、止まったと思い振り向くと

目の前に嫌な笑いを浮かべた部長と姫島先輩がいる。

 

思わず驚き、逃げ出してしまう。後ろから呼び止める声が聞こえるが、聞くな。

止まったら殺される。あれは獲物を見つけた目だ!

雷が落ちてくるのか、跡形も残らず消されるのか。そうだ、左手のカードを……

 

あれ? 何で神器(セイクリッド・ギア)がないんだ!? と言うか何であの二人は俺を殺そうとしてるんだ?

わけがわからないまま、とにかく俺にできたことは

どこだかわからない場所を全力疾走するのみだった。

 

どこかの路地裏に逃げ込む。マズい、どうにかして巻かないと!

逃げる算段を立てていた俺の脇を、トラックがすり抜ける。

路地裏にトラック!? 見ると、塔城さんまでもが俺に狙いを定めているじゃないか!

さっきのトラックは投げたのか!? 何だ、何がどうなっているんだ!?

俺が何をしたって言うんだ!?

 

とにかく、トラックを足場にして路地裏から逃げ出そうとする。

その時、両脇を誰かに抑えられる感覚があった。木場と――イッセーだ。

オカ研総出で、俺を捕まえに来たってのか。何故だ?

いつの間にか、俺は取り押さえられている。全く身に覚えがない。

 

そりゃ確かに、部長には反抗的な態度を取ることも少なくない。

そこに起因してるのは俺の事情と俺の勝手な感情だ。イッセーに比べりゃ、眷属として見れば

俺は出来の悪い眷属悪魔だろうとも思う。だが、殺そうとまでするか?

悪魔の社会では反抗的な眷属悪魔は即死刑なのか? 人間社会も、ある意味ではそうだが。

俺はイッセーと木場に連れられ、部長の前まで連れてこられる。俺は――

 

光の槍で、貫かれていた。

 

――だ、誰だ!? 誰がやったんだ!? オカ研の面子にも、今まで会った奴にも

光の槍を使う奴はいないはずだ! 部長は悪魔だ、光の槍なんて使うはずがない!

抜こうにも、手で持とうとすると手が焼け、持てない。徐々に力が抜けていき、俺は――

 

――また、死んだのか。

 

また? どういうことだ? 普通人間は一度死んだら終わり――

とここまで考え、イッセーのケースを思い出す。

あいつも死んだが、悪魔の駒によって悪魔として復活した。

俺もそうなのか? だから光の槍が持てずに――

 

あれ? こうやって殺されたの、覚えている? そんなバカな。これがまさか――

 

――遠くで誰かが呼んでいる。俺は、そこに行くべきなのだろうか。だが、体は動かない。

もう、ここまでなんだな。誰が呼んでいるかわからないが――俺は、もう――

 

――――

 

「――ジ、セージ、起きなさい」

 

はっ。また俺は寝ていたのか。しかも机に突っ伏して。

幸い、ノートは汚れていない。助かった。

袖と口の周りについていた涎を拭い、辺りを見渡すとそこには――部長がいた。

 

「お疲れのところ悪いのだけど、机を空けてもらえないかしら?」

「う、うわああああああっ!? く、来るなあっ!?」

 

寝ぼけていた俺は、完全に転げ落ちる形でソファから落ち

尻餅をついたまま後ずさりする。傍から見たら相当カッコ悪い状態である。

だが、完全に頭が混乱している。

 

「ちょっ、セージ落ち着きなさい! 一体何があったの!?」

「――はえ?」

 

部長に抱きしめられ、ようやく夢と現実の認識ができるようになる。

我ながらなんと情けない。ま、ほんの少しおいしい思いができたことは

とりあえず触れてはいけないノートとかに埋めておこう。

 

イッセーのやつは、これ以上をやっているとは思うけど。

 

「……し、失礼。どうも夢を見ていたようで。あ、あの、もう大丈夫なので、その……」

「ん? どうかしたのセージ?」

 

落ち着いたのはいい。だが問題は、まだ部長が俺を離してくれないことだ。

これじゃ、違う意味で落ち着かない。頼むから、離してもらえないだろうか。

俺はイッセーじゃないんだから。

 

こういう時は、こっちの意思を伝えないと多分解決しないだろう。だから、思い切って言う。

 

「あの……離して、もらえませんかね」

「――抱きしめたりない気もするけど、仕方ないわね。また悲鳴をあげられるのも傷つくし」

 

ううっ、それは本当にすみませんでした。けど言えない。

 

「部長やオカ研の皆に殺される夢を見た」

なんて。

 

仲間意識の強い部長にそんな事を言ったら、それこそ傷つけてしまいそうだ。

しかし部長。抱きしめたりないって、俺は煎餅布団か何かですか。眷属だけど。

 

「調子はどう? 私は今からお茶を飲もうと思っていたのだけど、セージも飲む?」

「まだ実体化は不完全ですね。寝る前、ようやく手だけ実体化が安定したところですよ。

 なので、お茶は飲めるかどうか怪しいですね」

 

俺はおもむろに立ち上がり、ノートとペンを元の場所に戻す。

どれだけ書いたか確認するのを忘れたが、まあいいや。

ついでにお茶も入れようかとも思い、お茶を入れる用意を始める。

 

「あら。さすが私の眷属ね。気が利くわ」

「立ったからついでにやっただけですよ。それと、リハビリもしたいですし」

 

聞く人が聞けば「ツンデレ乙」とか言われそうだが

別にツンデレとかそういうやつではないはずだ。

実際、俺はイッセーほどこの人――もとい、この悪魔に入れ込んではいないはずだし。

俺がここにいるのだって、憑依先のイッセーがここにいることと、俺の情報を得るためだ。

 

「ふふっ、あなたはイッセーとは違ってツンデレってやつなのかしら?」

「……頭から熱湯かけますよ?」

 

部長。今俺が一瞬思ったことを言わないでもらえますか。

とりあえず冗談を返しながら、俺はお茶を沸かす。えーとコンロコンロ……あった。

姫島先輩は魔法でやってそうだけど。それとお茶っ葉は、と……

 

最近思い出したことだが、俺は家事スキルはそこそこにあるらしい。

ヒーローヲタクで家事スキルそこそこ、か。これ、手がかりになるのかな?

とにかく、俺はお茶と茶菓子を部長に出すことにした。

 

「粗茶ですが、どうぞ」

「――ふぅ。朱乃には劣るけど、悪くないお点前よセージ」

 

一応、比較対象を考えれば褒められたという認識でいいのだろうな。ちょっとうれしい。

それが顔に出てしまっていたのか、部長はさらに俺をつついてくる。

 

「そういえば、あなたの笑ったところってほとんど見なかったわね。意外と可愛いじゃない」

「む。俺、そんなにしかめっ面ばかりしてました?」

 

……してただろうな。暇さえあれば俺は記憶の手がかりを探したり

契約先の情報やら何やら集めたり、戦術立てたり。

いつも何かしら考えていた。考えてどうにかなるものでもないものも多いけど

それでも思いを馳せずにはいられない。

 

特に、俺の記憶については。

 

「本当に好対照ねあなたたち。セージ、あなたはイッセーを見習え……

 とまでは言えない部分もあるけど、もう少し、ゆっくりと探し物をしたらいいんじゃない?」

 

ゆっくりと、ねえ。部長、あなたが話してくれさえすれば

俺の腹の中のモヤモヤはだいぶ取れるんですがね。

 

それにこの態度は……まだ、話す気はないって事か。なら、イッセーの側から調べてみるか。

何か、あいつも知ってそうだし。

 

そんな事を話しつつ、部長がお茶を飲み終える頃に姫島先輩が部室に入ってくる。

 

「おはようございます。セージくん、もうお加減は大丈夫なのかしら?」

「後一歩ってとこですかね。実体化に関しては、俺のカードでもどうにもなりませんし」

 

そう、俺の霊体は魔力とほぼ同質なのだ。魔力をコストに発動するカードでは

実体化に効果があるどころか、逆に実体をすり減らしてしまう。

霊体を実体に変換させる。実は結構、魔力を食っている。

 

俺が昼間や明るいところで実体化できないのはそれが原因。

夜はそもそも俺ら悪魔の力が増すため、実体化しやすい。

今は病み上がりのため、結界の張られた部室内でも実体が不安定なのだ。

 

「朱乃、今日のお茶はセージが淹れてくれたのよ。セージ、私にはおかわりを頂戴」

「あらあら、それは是非私も頂きたいですわ」

 

リクエストが入ったため、俺はお茶を淹れ直すことにした。

俺のお茶は、姫島先輩にも好評だった。しかし後一歩で完全回復というのに

気が休まらないのは何故だ。さっき見た夢のせいだろうか?

 

我ながらバカげた夢を見たものだ。何故俺がオカ研の皆に殺されなければならないのだ?

 

――だが、やけにリアルな夢だったな。初めに出てきた女性といい

光の槍が俺を貫いた感触といい。

 

となると、俺を殺したのは悪魔じゃないってことになるはずだが。この時点で矛盾している。

まあ夢だから、そんなものだろう。

 

とにかく、部長と姫島先輩がガールズトークを始める前に、俺は退散したほうが良さそうだが

今来たばかりの姫島先輩に呼び止められてソファに座っている。それも先輩の隣に。何故だ?

 

「結構なお点前でしたわ。ところでセージくん、セージくんには好きな人とかいるのかしら?」

「それは気になるわね。眷属の好みを知るのも、主の大事な仕事だし。

 ちなみにイッセーは胸の大きい子が好みらしいわ。セージはどう?」

 

はい来ました。しかもいきなりどストレートです。何ですかこれ。新手のパワハラですか?

なお聞いた話だと、異性との交友関係を問いただしただけで

セクハラ認定されるケースもあるらしいですよ奥さん。

 

だが、こんな話を振られてうろたえるほど、肝が小さいつもりではない。と思う。

 

「仲間意識、って意味を除外すればいませんね。と言うより、いつか話したと思いますが

 俺は俺のことがさっぱりわかりません。それなのに好きになってくれ。

 とか都合良すぎやしませんかね? つまり、今そういうことにまで頭回らないんですよ。

 俺のことを知るのに、必死なんですよ。俺の記憶が戻ったら、また改めて言えると思います。

 後イッセーの意見とか知ったこっちゃないんで」

 

「あらあら。随分真面目ですのね。それじゃ、もしかしたら実はその人柄に惹かれた彼女さんとか

 いるのかもしれませんわね、うふふ」

 

何を言ってるんだ姫島先輩は。からかわないで欲しい。いない、いない――はずだ。

もしかして、あの夢の女性がまさか――いや、んなわけない、ない。

ちなみに、イッセーの意見には同意しておく。案外、好みはかぶっているのかもしれない。

 

「セージ。あなたの考えはよくわかったわ。でも、今のあなたは私の眷属。

 記憶があっても無くても、セージはセージ。今の私――いえ、私達にはあなたが必要なの。

 だから、早まった真似だけはしないでちょうだい」

 

部長。それ仲間意識じゃないんですか?

仲間意識除外して答えた俺がバカみたいじゃないですか。

結局、部長も俺のことについてはそれ以上話さず、姫島先輩もいるかどうかすらわからない

俺の彼女のことをあれこれ勝手に語っていた。

 

ガールズ(+ボーイズ1)トークも一段落する頃には塔城さんや木場も来ており

学校をそもそも休んだイッセー以外は集合する時間になっていた。

部長はあれからシャワーを浴びている。

部長、シャワー好きだなぁ。

 

などと考えていたら、イッセーがすごい剣幕で部室に入り込んできた。

おい落ち着け、何があったんだ。

 

ま、まさか――




ネタバレ:
セージの正体は1巻部分終わるまでに判明する。

どーだどーだネタバレしてやったぞはっはっはー。
……まあ、Soul1.時点で気づいてる人は気づいてるでしょうけど。

さて、今回は「学生生活がまともに送れないのに
ハイスクールとかどうなのよ」といわんばかりの
セージの日常がコンセプトです。

劇中で触れてますが「保健室通学」ってことで。
ちょっとデリケートな問題もはらんでますので劇中描写について
もし不愉快に感じられる方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

今回セージの夢に出てきた謎の女性はオリキャラです、念のため。

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