ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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突然ですが、オーフィスとの絡みのためにアインストを出すにあたり
その舞台装置としてクロスゲートを出したことについて。
実は少し、いやかなり後悔してる部分があります。

……チャラ男賞金稼ぎとか毒舌シンデレラとか来たら凄いカオス化しそう。
イッセーがライザーと同じ理由でハーケンに喧嘩売ってアシェンの毒舌で
凹まされるところまではまざまざと見えるんですがこれは。

それにOGMDであんな奴らが出てくるなんて思わなかったんだもん!!
アインストどころの騒ぎじゃねーよコレ!!
(尚ネタバレにつきこの件については感想掲示板等では触れないでください。
 私はネタバレについてはバッチコイ派なので無問題ですが
 不特定多数の目が触れる場所ではどうかご自愛のほどを)


……こほん、取り乱しました。
今回はまさかの名護さん……もとい伊草慧介視点。
そして、まだ少し描写不足な点もあるかもですが
実質上の第四章「停止世界のクーデター」最終話です。


Extra Justice7. 神に返すべきもの

――そこで、あなた方に学校の警備をお願いしたいのです。

 

そう言って、俺――伊草慧介(いくさけいすけ)とその弟子、ゼノヴィア君に提案をしてきたのは

自身を日本の未来を憂ういち日本人と名乗る、如何にも胡散臭い男、薮田直人(やぶたなおと)

聞けば、近々その学校――駒王学園において天使・堕天使・悪魔らによる

会談が行われ、その警護として人外の存在とも戦える俺達に

会場の警護に当たってほしいとの事なのだが。

 

確かに、俺達が所属しているNPO法人・蒼穹会(そうきゅうかい)はそうした人外の勢力から

市民を守ることも役割の一つとしてある。

そう考えれば、俺にお鉢が回ってくることも別に不思議ではない……が。

 

「相変わらず天界の大天使長は勝手だ。教会を離反したとは言え

 俺のところには一切話が来ていない。もう関係ないとも言えるがな。

 ゼノヴィア君を呼ぶのならば、俺も呼びなさい。今俺は彼女の身元保証人だ」

 

俺には身元保証人としてゼノヴィア君を守る義務がある。

そもそも、彼女は保釈された身の上だ。俺はその保護観察を担っていると言えよう。

この件に関して、俺は間違っていない!

 

さておき。ゼノヴィア君は確かに聖剣使いとして名を馳せたらしいが

俺に言わせば、まだ彼女には戦士としての自覚に危うい部分がある。

そんな彼女を、今回の警護に回すには少々不安だ。

その証拠が、先刻の事態だ。目先のことに囚われて、大局を見失い

窮地に陥っていた。そう何度も俺や仲間が助けに来られる保証などない。

 

そもそも、それ以前にだ。悪魔が絡むということは会議は夜、それも深夜じゃないのか?

22時を回るような案件に、未成年のゼノヴィア君を派遣することなどできはしない!

薮田直人! 君も日本人なら、労働基準法と言うものを勉強しなさい!

 

……ってゼノヴィア君もゼノヴィア君だ! 何受けているんだ!

やめなさい、そんな胡散臭い依頼は今すぐ受けるのをやめなさい!

ああもう、ここにめぐがいれば止めにかかったかもしれないのに!

 

「やめなさいゼノヴィア君! 君は未成年だろう!?

 未成年の22時以降の就労は法律で禁止されている!

 薮田直人、その事を知らないわけでもあるまい!」

 

「おっと。そういえばそうでしたね。私としたことが失念しておりましたよ。

 ……ではこうしましょう。就労の報酬はあなたに一括で渡す形で。

 勿論、ゼノヴィア君の分も含めての特別報酬と言う形ですからね。

 きちんとゼノヴィア君に渡してくださいよ?」

 

「そういう問題じゃない! 未成年をそんな時間に就労させることが問題だと言っているんだ!」

 

そうだ、俺は間違っていない! 俺が間違うことはない!

間違っているのはそこの胡散臭い男だ!

しかし二人とも、俺の言葉に耳を貸そうともしない。俺の言うことを聞きなさーいっ!!

 

「説明が足りませんでしたね。こうすることで私とゼノヴィア君との間に

 労働契約は発生しないことになるんですよ。金銭の授受が行われれば

 確かに労働契約になってしまい、22時以降彼女を拘束することは出来ません。

 ですが金銭の授受を慧介、あなた一人に絞れば私とゼノヴィア君の間には

 何の接点も無くなるわけです。なので、その時間ゼノヴィア君が

 どこで何をしていようが、私は一切関与いたしませんので」

 

「なるほど。それならば時間を気にせず私も警護に当たれるな」

 

「納得するんじゃない! 薮田直人、君も教師なら未成年の深夜徘徊について

 何か言うことはないのか!?」

 

「……それを言われると痛いですねぇ。しかし、私としてもあなた方に頼るより他ないのですよ。

 超特捜課(ちょうとくそうか)は町の警備に当たってほしいですし、会場警備は手薄なことこの上ありません。

 強化を具申したのですが、却下されてしまいましてね……。

 そこで、あなた方に白羽の矢が立ったのですよ」

 

解せない。それほど重大な会議に、何故警備を多く割かないのだ?

それでは反社会的勢力に襲撃してくれ、と言っているようなものではないか。

なるほど、薮田直人の言い分はわかった。だが。

 

「なるほど。そういうことならば俺は引き受けよう。

 だがゼノヴィア君、君はダメだ。未成年の君を、そんな時間に外に出すわけにはいかない」

 

「ま、待ってくれ慧介! 三大勢力のトップと言うことは

 ミカエル様が来られるということだろう?

 ならば私は、ミカエル様にどうしても聞きたいことがあるんだ!」

 

「……ふむ。ですが、必ずしも聞けるとは限りませんし

 その答えはあなたの望むものではきっと無いでしょう。それでもですか?」

 

……む?

この物言い、まるで自分が天界の関係者であるかのような物言いだな?

如何にも胡散臭いとは思っていたが……これは気を付けたほうがいいかもしれないな。

ゼノヴィア君、この話――

 

「ああ、私はどうしてもミカエル様に確かめたいことがある。

 イリナの事にせよ、主の不在の事にせよ。そして私はこう言いたいんだ。

 『主が不在であれ、私の主を敬う気持ちに嘘偽りはない』――と」

 

「……わかりました、いいでしょう。では改めて、伊草慧介。ゼノヴィア君。

 お二方に駒王学園で行われる三大……いえ五大勢力による会議の会場警備をお願いします。

 あ、こちら私の連絡先です。何かあったらこちらまでお願いしますよ。

 それから……ゼノヴィア君が会場にいることは

 『私は関与しない』方針を貫きますので。この件について警察に問いただされても

 私は一切の責任を負いませんので、そのおつもりで」

 

むう。結局受ける方向で話が決まってしまった。

ゼノヴィア君が深夜にその場所にいることについては

自己責任、と言うか俺の責任にするつもりか。

まあ、俺の答えも決まってはいるのだがな。めぐへの説明だけが面倒だな。

 

「それでは、私は準備がありますのでこの辺りで。

 当日、駒王学園でお待ちしておりますよ」

 

言うだけ言って、薮田直人は立ち去ってしまった。

困った話だ。俺だけならばともかく、ゼノヴィア君も一緒となるとな。

何事も起こらなければいいが、態々蒼穹会の裏の顔を知っている者が

俺に依頼を寄越してくるんだ、まず事態は起きるだろう。

 

「ゼノヴィア君。これだけは言っておく。

 今回の警備、もしかすると『相手は悪魔とは関係ない人間も混じっている』かもしれないぞ。

 そんな奴を斬るということになれば、下手をすれば傷害罪。もう一度塀の中だ。

 そして今度は、俺も君を助けられない。それでも今回の警備を受けるのか?」

 

「それは慧介にも言えることだろう?

 めぐから聞いたぞ、昔警察の世話になったことがあるとな。

 そんな慧介に、私の事は言えないんじゃないか?」

 

ぬうっ! 痛いところを突くな、ゼノヴィア君。

だが今それとこれとは関係ない! 俺は常に正しい、俺が間違うことはない!

 

「……とまあ、そういうわけだ。私が同行してもいいだろう?

 それに、ミカエル様が来られるということはもしかするとイリナも……」

 

「君が探していたという子か。

 ……全く仕方がない。その様子では来るなと言っても来るだろう。

 だが、何かあったら俺を頼りなさい。決して一人で解決しようとするな。

 誰かを頼るというのは、決して恥ずべきことでは無いのだからな」

 

結局、渋々ながらもゼノヴィア君と共に深夜の学校の警備を受け持つことになってしまった。

それにしても、人類に害をなす人外集団との戦いにも長けている

蒼穹会の俺達に警護を依頼するとは、一体何をやらかそうというのだ。

結局、お題目は恵まれない人々の為と謳いながらも、自分たちのエゴで

その恵まれない人々を増やしていては世話がない。だから俺は教会を抜け蒼穹会に入ったのだ。

天界は、そのころから全く何も変わっていない。

 

噂だが、孤児を集めて非人道的な行いを働いたこともあるそうじゃないか。

それが事実だとすれば、教会に籍を置いていたことは俺のミスであり、罪だ。

罪は許されない。元締めである天界は、この罪を償わなければならない。

ゼノヴィア君はミカエル大天使長に言いたいことがあると言うが

どうやら俺にもあるみたいだ。

 

――その命、神に返しなさい、と。

 

――――

 

三大……いや五大勢力による会議の当日。

何故五大勢力かと言うと、天使・悪魔・堕天使の三大勢力に加え

日本神話と日本に籍を置く仏教勢力が手を組んだ「神仏同盟(しんぶつどうめい)」が

この会議への参加を名乗り出たため五大勢力の会議と相成ったわけだ。

日本の神も、ようやく重い腰を上げたようだ。

俺の言葉が通じたのだろう。うん、今日は何故だか気分がいい!

 

「お二人とも、お待ちしておりましたよ」

 

校門で出迎えてくれたのは薮田直人……ん? いや、ちょっと待て。

何故こいつが出迎えを? そもそもこいつは何者なのだ?

蒼穹会の裏の顔を知っているのはまだいい。警察関係者でも

超特捜課など、知っている人間もいるからだ。

今からここはただの人間の立ち入れる領域ではなくなるというのに

ここで一体何をしているというのだ。

しかし、そんな俺に疑問符を投げかける暇さえ与えずに

目の前の男は割り振りを始めてしまったのだ。

 

「ゼノヴィア君はオカルト研究部の部室前を中心に。

 慧介は旧校舎の入り口を中心に警護をお願いしますよ。

 新校舎の方は、三大勢力の皆さんが警護についてくださるそうなので。

 ですから、あまり近寄らないほうがいいですよ。トラブルの元になりますから」

 

「確かにな。悪魔や堕天使もそうだが今の私は

 天使ともあまり顔を合わせないほうがいいだろうな」

 

「……ん? 待ちなさい。

 と言うことは、旧校舎は我々だけで警護を受け持つというのか?」

 

俺の疑問に、目の前の男は黙って首を縦に振る。なんということだ!

会場は確かに新校舎、そっちに警戒を強めるのは当然の話かもしれないが

旧校舎を足掛かりにでもされたらどうするというんだ!

……なるほど、それで俺達が呼ばれたということか。

 

「それについては私も具申したんですがね。ここの領主が必要ないとの一点張りで。

 神仏同盟のお二方に……とも思ったのですが、ご足労いただいている上に

 トップの天照様や大日如来様の身辺警備に加え、その上会場警備にまで

 人員を割くというのも気が引ける話ですし……。

 そもそも、お二方がこの会議への参加を表明されたのも、ここは日本国であり

 自分たちにとっても縁のある場所、それなのに無視されたと見做されたうえでの

 お話ですから……」

 

「領主……ああ、あいつか……」

 

領主の話を聞いたゼノヴィア君が軽くこめかみを押さえる。

その態度を見て、俺はその領主があまり良い人物ではないということを直感する。

 

「聞きたいか? 慧介」

 

「……察しはついた。本来多すぎるに越したことはない警護を疎かにする時点で

 物事に対する考え方の程度は知れる。そしてそれを部外者たる俺が知れてしまう時点で

 後はもうお察しだ。わざわざ言う必要はない」

 

「散々に言われてますねぇ。担任ではないにせよ、一応私の教え子なんですがね。

 ああ、その点について気を使わなくとも結構ですよ。

 時には痛い目を見るのも勉学には必要ですし。失敗・挫折……

 今の彼女、リアス・グレモリーにはそれこそが成長のための糧だと思いますから。

 肥料や水は、与えすぎては根腐れの元になりますからね」

 

最も、ただ一人の成長のためにこの町の、世界の人々を巻き込むのは

本末転倒甚だしいですがね、と薮田は締めている。

二人して散々な評価だが、そんな輩がこの町を取り仕切っているのか。

この町が悪魔に取り仕切られているというのは、俺も聞いている。

だがなんだこの散々な評価は。一度鍛えなおさねばならないのではないか?

それとも、人間の町の管理など三下で十分だとでも言いたいのか。

全く腹立たしい話だ。そもそも悪魔が人間の町を管理するなど烏滸がましいにもほどがある。

やはり悪魔の命は神に返さねばならん。

教会の戦士の名は返上したが、悪魔を倒していないわけではないのだからな。

 

「聞けば聞くほど呆れ返るばかりだな……。

 一度そいつの命、神に返したほうがよさそうだ」

 

「いりませんよそんなの……ごほんっ、失礼。今のは忘れてください。

 さて、そろそろ私も行かなければなりませんので。

 万が一、手に負えないような事態が起きましたらいつでも構いませんので

 私にご連絡を。いいですね。事が起きてからでは遅いのですから」

 

慌ただしく場を後にする薮田を、俺達は見送るしかできなかった。

ゼノヴィア君が旧校舎のオカルト研究部部室前、俺が旧校舎の入り口付近。

聞けば、ここには警備を配備していないそうだ。

だから俺達がこうして来ることになったのだが……。

 

「ここで呆けていても仕方ないな。手筈通り君は部室前に行きなさい。

 何かあったら、薮田や俺に言いなさい」

 

「わかった。何事もなければいいのだがな」

 

ゼノヴィア君のその発言は、何かが起きるということを確約しているとしか思えなかった。

 

――――

 

俺達が警備についてからしばらくして、何か違和感があった。

その違和感の正体まではわからなかったが、俺には何か胸騒ぎがしてならなかった。

その証拠に、さっきまでいなかったはずのローブの集団がいる。

以前にも交戦した魔法使いの連中か。だが、今の俺は機嫌が悪い!

 

「悪しき魔法使い……その命、神に返しなさい!」

 

魔法が飛んでくるが、ある時は身を屈め、またある時は身を反らし回避する。

敵の攻撃をよける。イクササイズの基本動作だ。

そして攻撃直後の隙を見極め、懐に潜り込みワンツーパンチ。

悪いやつらを叩く。これもイクササイズの基本だ。

返す刀で、今度は回し蹴りを魔法使いの横っ腹に叩き込む。

叩きなさい。蹴りなさい。悪いやつらを倒しなさい。

イクササイズの創始者はこの俺だ。後れを取るはずがない!

一しきり蹴散らしたところで奴らのボタンを毟り取り、休む。

パワーチャージだ。これも必要なことだ。

 

……そして走る! 未来に、俺の弟子の元に向かって走る!

今の違和感の正体、そしてこの魔法使いの集団。

間違いなく、何かよからぬことが起きた!

それも、俺達が気づかぬ間にだ!

全く、これで警備などとは俺としたことが!

 

オカルト研究部の部室前。ここにゼノヴィア君はいるはずだが……

そこにたどり着く前に、階段の踊り場でうずくまっている彼女を見つけてしまう。

見たところ、怪我はないようだが。

 

「ゼノヴィア君、俺だ! 伊草だ! しっかりしろ、ゼノヴィア君!」

 

「あ……けい……すけ……」

 

しかし、俺の声に答えた彼女の瞳からは、光が消えていた。

一体、何があったというんだ!

 

「ゼノヴィア君、何があったんだ! 答えなさい!」

 

「イリナ……イリナが……ううっ……うわああああああああっ!!」

 

そのまま彼女は泣きじゃくってしまった。

イリナ。ゼノヴィア君が探していたという子だが、一体何があったというのだ。

ともあれ、このままでは危険だ。今のゼノヴィア君は、戦意を喪失している。

とてもこの場においておける状態じゃない。

俺はゼノヴィア君を背負い、薮田に連絡して今後の指示を仰ごうとしたその矢先。

 

――剣圧。

 

明らかに、俺達を狙っている一撃だ。それも、素人のものではない。

ゼノヴィア君をおろし、攻撃が飛んできた方向へと向き直る。

 

「おじさん、邪魔しないでよ。せっかく私がゼノヴィアを直そうと思ったのに」

 

「おじさんはやめなさい。俺はまだ20代だ。それより君は何者だ。答えなさい」

 

「十分おじさんじゃない。ゼノヴィアから聞いてない? 紫藤イリナ。

 『元』教会の聖剣使いよ」

 

なるほど、彼女がゼノヴィア君の言っていた子か。

しかし礼儀がなっていない。俺をおじさん呼ばわりとは。

 

……いや、そんなことよりもだ。

彼女の持っている剣に、俺は己が目を疑った。

 

――アスカロン(龍殺しの聖剣)

 

龍殺しとも言われる聖剣を、何故彼女が持っているのだ。

今の態度を見るに、正式に選ばれたのだとしたらアスカロンに見る目がなさすぎる。

あるいは、噂に聞く聖剣計画のように無理矢理に使っているのか。

 

「これ? ミカエル様――いえミカエルが下さったの。

 私の幼馴染がね、悪魔になっちゃったの。だからね、これで直してあげるの。

 でもね……私気づいちゃったんだ。その子だけじゃなくて、世界も、ミカエルも……

 何もかも壊れちゃってるって……だからね、私ね……」

 

これはまずい! 俺の直感が告げている。俺は咄嗟に「未知への迎撃者(ライズ・イクサリバー)」を具現化。

結果としてアスカロンと切り結ぶことになってしまった。

いくら「未知への迎撃者」が優れた神器(セイクリッド・ギア)とは言え、聖剣を相手にどこまでやれるか!?

 

「じゃましないでって言ったよね、おじさん」

 

「おじさんはやめろとも言ったぞ」

 

「言ってもわからないおじさんは壊れてるのよ。壊れたものは直すの。

 これで、さくっと。さくさくっと。さくさくさくさくさくさくさく……」

 

光のない、どこを見据えているのかまるで分らない目で

目の前の少女は狂気の刃と化した聖剣を振り回している。

これは切り結ぶのは愚策と考え、俺はゼノヴィア君を連れて逃げることを選択した。

と言うより、ゼノヴィア君を守りながら相手にできるとは思えない。

 

「……あれれ? おじさんいなくなっちゃった。

 まぁいいか。じゃ、イッセー君を直さないと。イッセー君を直したら、次はゼノヴィアで……

 それからそれから……うふふふふふふふふ」

 

――――

 

息を潜め、旧校舎の教室に隠れたおかげで見つからずには済んだ。

結局、警備の仕事になっていない気もするが、命あっての物種だ。

これは戦略的撤退。そう思わねばやってられん。

だが問題はゼノヴィア君だ。

 

「イリナ……イリナぁ……どうして……どうして……」

 

「……すまない、ゼノヴィア君。

 俺には事情が分からないから、どう声をかけていいのかわからない。

 だがこれだけは言える。今は生きろ。俺の見た限りでも、あの少女は正気ではなかった。

 彼女の正気を取り戻したいのならば、なおの事君は生きなければならない。

 生きなさいゼノヴィア!!」

 

ゼノヴィア君に喝を入れるも、とても戦士の目をしていない。

このままでは言っては何だが足手まといだ。

しかも、今外を見たら悪魔とも違う、骨のような怪物が徘徊している。

うかつに動けば、奴らに見つかるだろうという矢先。

俺の携帯が震える。これがマナーモードでなかったら、音で見つかったかもしれない。

外出時には携帯はマナーモードにしなさい。これはゼノヴィア君にも今度言っておこう。

 

「……はい、伊草です」

 

『ヤルダ……いえ薮田です。慧介。大変なことになりました。

 今外で駒王学園の生徒会の皆さんが避難誘導をしています。直ちに彼らの指示に従い

 地下シェルターに避難してください』

 

「避難? 警備の仕事はいいのか?」

 

『それどころではありません。今外にいる怪物は悪魔以上に危険な存在です。

 そして、間もなくこの一帯は激戦区になります。

 蒼穹会……いえ、それどころか超特捜課でも対応できないでしょう。

 ですから、直ちにゼノヴィア君を連れて避難してください。いいですね?』

 

「ゼノヴィア君ならここにいるが……わかった。だが、何があったかは

 今度会った時に説明しなさい」

 

『……心得ておきましょう。では』

 

ただならぬ様子で避難指示が出された。

人に会場警備を依頼したと思えば避難指示とは、ずいぶん勝手な話とは思う。

だが、今のゼノヴィア君の事を思えば、好都合かもしれない。

俺は心神喪失気味のゼノヴィア君を背負い、旧校舎を後にし避難指示に従うことにした。

その後の事は、ただひたすらに避難所が揺れた事と

時代錯誤な旧海軍の軍服を着た青年が場違い感をこれでもかと言うほどに

醸し出していたことくらいしか覚えていない。

結局、俺達が避難所の外に出られたのは夜明けになろうかと言う時間だった。

 

――――

 

そして、何とか無事に朝を迎えることができた。

炊き出しのおにぎりとみそ汁は大変に美味だった。ゼノヴィア君、この味は覚えなさい。

ただ、その炊き出しをやっているのがかの大日如来だということに俺は驚いたが。

後日めぐに映像を見せたら「これ天道寛(てんどうひろ)じゃん!? 慧介、あんたいつ会ったのよ!?

っつーか、なんで私を呼ばなかったのよ!?」と怒られてしまった。理不尽だ!

俺が会ったのは大日如来であって、天道寛じゃない!

そもそも俺は天道寛などと言う人間は知らん!

 

……話を戻そう。俺は昨夜何が起きたのかを薮田に問い詰めることにしたが

それ以上に大変なことが起きたらしい。

 

「な……なんだって……!? イリナが……イリナがミカエル様を……!?」

 

「……申し訳ありません。完全に私のミスでした。

 激戦の後の、一段落着いたところを狙われました」

 

なんと、あの大天使長ミカエルがイリナと言う少女に重傷を負わされたというのだ。

確かに只事ではなかったが、だとしたら彼女はあの激戦の間一体どこにいたというのだ?

避難所にいた俺達でさえ、その衝撃を肌で感じ取っているというのに。

言っては何だが、いくら精神面でのタガが外れていたとは言っても

総合面ではゼノヴィア君とどっこいのように思えた。

そんな者が、ミカエルに闇討ちを加えることができるとは考えにくい。

もし出来るとするならば、よほど気配を断つ事に長けていたのか

ミカエルが相当に油断をしていたかのどちらかとしか思えない。

 

……おそらく、後者だろう。

アスカロンをどんな形であれ手にしていたということは

ミカエルから相応の信頼を得ているということだ。

凶器も、考えたくはないがアスカロンだろう。

アスカロンほどの業物ならば、大天使長と言えどもただではすむまい。

……俺も、まさかそんな事態が本当に起きるとは思いもしなかったが。

 

「そ……それで! イリナは!? ミカエル様は!?」

 

「落ち着いてください……と言っても難しいかもしれませんが。

 まずミカエル。彼は凶器……アスカロンですね。

 明らかに事故ではなく故意で凶器を突き立てられました。

 その為、ミカエルは重傷を負い天界の医療施設に先ほど運び込まれました。

 イリナは……白龍皇(バニシング・ドラゴン)、ヴァーリ・ルシファーと共に

 フリード・セルゼンに連れられその後の消息は分かりません。

 禍の団(カオス・ブリゲート)に所属したヴァーリと行動を共にしているということは

 イリナも必然的に禍の団に入っていると推測することは可能ですが……。

 また、アスカロンも今回の事件の影響で聖魔剣へと変質してしまっています」

 

薮田の淡々とした説明は、ゼノヴィア君には衝撃が強すぎたのか

後ろで聞いていた俺からも彼女の全身の力が抜け落ちるのが見て取れた。

地面に倒れないように慌てて支え、彼女を用意した簡易ベッドに横たえることにした。

無理もない。同じ教会に所属していた戦友が、まさか信仰する天使長に逆らうばかりか

逆賊と言えるフリードと行動を共にしているというのだ。

ショックが強かったのだろう、失神してしまっている。

結局、俺はそのまま体調を崩したゼノヴィア君を連れ帰る形で、家に戻ることになった。

 

今後は、俺にとってはもとよりゼノヴィア君にとっては辛い話になるだろうな。

とりあえず、起きた時にどうなるか。

友と刃を交えなければならない現実。それに立ち向かうのか、それとも目をそらすのか。

ゼノヴィア君。辛いだろうが、ここからが戦士としての本質を問われるだろう。

俺には、師匠として彼女が自分に屈することのないように導く義務がある。

しかしそれでも、彼女が戦士としての自分を否定するような言動をとるようならば……

俺は、どうすればいいのだろう。

 

……いや! 何を迷うことがある! 俺は伊草慧介! 伊草慧介なんだ!

俺が迷っていては、ゼノヴィア君も迷ってしまうのは必定ではないか!

俺こそが、平常心を保たなければならない!

全てはゼノヴィア君が再び起きた時に始まるだろう。

彼女の進むべき道。それを決めるのは俺じゃない、彼女だ。

だが俺には、彼女が迷い屈するような事にならないようにする義務がある。

やらねばなるまい。彼女が正しい道を歩めるように。




このキャラクターは「伊草慧介」であり「名護啓介」ではありません(重要

ゼノヴィアに渡フラグが立っちゃいそうな予感。
以前めぐからモデル推薦されてますが、今のゼノヴィアの精神状態で
モデルが務まるかと言うと……
キバ原作でも豆腐メンタルっぷりが際立った渡ですが
ゼノヴィアも大概豆腐メンタルだと思うんです。
拙作アーシアが鋼鉄メンタルなだけかもしれませんが。

とりあえず今回の補足。

>この世界の労基法
一応現実世界のそれに準じてます。
なので、オカ研の連中どころか上層部含めて神仏同盟以外みんな労基法違反。
「悪魔に刑法は適用出来るのか……?」@甘党猫好き猫アレルギーの某刑事

>アインストの事は超特捜課や蒼穹会には伝えていないの?
はぐれ悪魔以上に危険な存在なので、五大勢力で話が止まってます。
アインストの話をするとなると、必然的にゲートの話もしないといけませんし。
それも政府上層部で止めるクラスのトップシークレット情報ですが
アインストはリアス・ソーナ共に目撃・交戦したことや
セージに至ってはゲートの情報まで会得してしまったため
特例としてオカ研がこのレベルの話題に首を突っ込んでいます。
決して魔王の妹だから贔屓されているわけではありません。

>ゼノヴィアは薮田の正体知らないの?
知りません。カミングアウトの時現場にいませんでしたので。
慧介が精々「実は天界関係者では?」と疑っている程度です。

>で、ちょうどこの時パクられた悪魔の駒は?
これについては近々触れたいと思います。

>OK、デーモンボーイアンドガール。俺達の出番はあるのかい?
 コードDTDでボクの身体がウズウズしちゃうんだけど~
今は新西暦の世界かエンドレス・フロンティアにお帰り下さい。

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