ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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少々ぐだり気味ですが、いよいよセージが証言台に立つ時が来ました。
一小市民に過ぎない彼を証言台に立たせる(しかも悪魔にしてみれば反逆者)と言う
天照様も相当無茶をなさってます。

……岩戸の事を考えれば結構思い切ったことをなさる方とは思いますが。


Soul57. 証言開始、譲れない一点

駒王学園、グラウンド跡。

クレーターだらけのここに設置された仮設テント。

信じられないかもしれないが、ここが三大勢力と神仏同盟を交えた会談の会場である。

 

時は初夏。日が高くなり始めたこの時間帯。少々の日差しの強さが地面をじりじりと焼き

それが暑さとなって、空気を暑くしている。

 

そんな中、俺――歩藤、いや宮本成二はふとしたことから知りえた重要な話を

各勢力のトップ陣に話すという重役を任されてしまう。

数か月前まで、ただの高校生だった俺が、だ。

自慢じゃないが、俺は生徒会役員との面識が全くないわけではないが

それは生徒会としての役職に従事していたからではない。

いや、たとえ生徒会としての仕事をしていたとしても。

 

――こんな政治、ある意味国際問題にも発展しうる

こんな場所で発言したことなんてあるわけがない!

よく俺は度胸が据わっていると言われるが、こんな場所でも仏頂面していられるほど

度胸は据わっていない。はずだ。

たぶん、今の俺はみっともない顔になっているかもしれない。

鏡がないからわからないが。いや、わかりたくもないが。

 

「……さ、さきほどご紹介いただきました……

 ふ……いえ、み、宮本……」

 

人間名で名乗ろうとした途端、魔王陛下が何やら凄い睨みを利かせてきた。気がした。

思わず、委縮してしまう。場所が場所だからか、余計にプレッシャーを感じてしまう。

ぐ、これじゃまともにしゃべれない……

 

「冥界陣営。今は確かに歩藤誠二かもしれませんが、宮本成二と言う名は

 彼の人間としての名前……すなわち、彼の家族がつけた名前です。

 それを名乗る権利位、持ち合わせているでしょう?

 それとも、彼の本来の家族さえも認めないほど、悪魔は器の小さな種族なのですか?」

 

「――それは妙だな。俺が受け取った資料には、悪魔……特に彼の主である

 グレモリーは、こと情愛に篤い家系とあるが……これは一体?

 そしてそれは、現魔王サーゼクスもまた然り、ともあるが……

 資料が間違っているのか? 今の様子を見る限りでは、とてもそうは見えないが」

 

「彼本来の名前を名乗るくらい、大目に見るべきではないかと思うのですが?」

 

た、助かった……のか?

薮田先生や神仏同盟が助け舟を出してくださった。

できれば、この話は歩藤誠二としてではなく、宮本成二として話したい。

歩藤誠二と言う名前そのものに恨みがあるわけではないが

それは同時に悪魔としての名前でもあるのだ。人間としてこの場で話すのならば

人間・宮本成二の名を名乗るのが筋ではなかろうか。

 

「私も話程度にしか聞いていませんでしたが……

 聞くと見るとでは大違いですね。と言うより寧ろ耳が痛いですね。

 神を見張る者(グリゴリ)も、神器(セイクリッド・ギア)の持ち主の意向を無視した行いを繰り返していますし」

 

「親に与えられる名前には、大きな意味があります。

 それは私達も主に教わったことであります。

 それを別の名前で上書きする……

 恥ずかしながら、心当たりがないわけではありませんが……」

 

今度は天使・堕天使からもダメ出しが出る。

これ以上は悪魔陣営がかわいそうに見えてしまうが……

い、いや! ここはあえて心を鬼に……

 

「宮本君。あなたの名乗りたいように名乗って構いませんよ。

 これは、本来我々だけで解決すべき問題です。

 そこに、無理言ってあなたにこの席に座っていただいたのです。

 ですので、我々があなたに指示ないし命令を下すのは間違いだと思いますよ」

 

「少しお待ちを。それを決めたのは天照様が勝手に決めたことでしょう。

 それに彼は、主――リアス・グレモリーに対する反逆疑惑で幽閉されていたのです。

 それを今回の騒動に乗じて脱獄しているのです。

 我々にとっては、脱獄囚を証言台に立たせるようなものなのです」

 

あー、そうだった。

俺は冥界ではいらない子扱いと言うか厄介者扱いされているんだった。

そりゃあ、サーゼクス陛下の言い分にも一理あるわな。

……納得はしてないが。

 

「ふむ。では冥界陣営は彼の持つ情報は必要ないとおっしゃるのですか?

 先ほどの戦いにおいて、彼は赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)白龍皇(バニシング・ドラゴン)ともども異次元に飛ばされ

 その先でさらに彼のみが何者かと接触したのは状況証拠から見て間違いないのですが。

 そう……彼の右手を御覧なさい」

 

『……なんだ? 俺に何か用か?』

 

薮田先生に促されるまま、俺は右手の紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)をかざす。

それに合わせ、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)フリッケンが答える。

中央に飾られた翠と碧の勾玉は静かに輝いている。

 

「そのドラゴンの神器どころか、彼は右手さえも異次元に飛ばされるまで

 存在していなかったはずですよ。それがここに戻って来た時には存在している。

 それだけでも、向こうで何かがあったとするには十分すぎる証拠でしょう。

 兵藤君。今度はあなたに聞きます。向こうで彼に何がありました?」

 

「えっ!? そ、それは……」

 

今度はイッセーに話が振られる。今までがああだったからか、イッセーも狼狽えている。

いや、そこは聞かれたら答えろよ。いきなり振られて狼狽えるのはわかるが。

そして、それに水を差すかのように魔王陛下が睨んでおられる。おお、怖い怖い。

グレモリー部長も……何とも言えない表情をしてるな。

 

「構いません。この会議の議長は私です。発言をするべき時にはしっかりと

 嘘偽りのないように発言をする。それが会議のルールです。

 あなたが何を言おうと、それによる不利益は齎されないことは保証いたします。

 

 ……まあ、反社会的なことに関しては保証しかねますが」

 

イッセー。この期に及んで変な欲をかくなよ?

この場でそれをやったら、お前マジで破滅するぞ?

それは俺の証言云々じゃなく、お前自身のためだ。

 

「……こいつだけ、また別の次元に飛ばされました。

 その後のことは、こうなったってことしか俺はわかりません。

 あと、白龍皇をあっという間にのした位っすかね……」

 

俺の考えは杞憂だったというべきか。こいつのアレな部分は外部からのものも少なくはない。

いつだったか、自慢げに小学校の頃に出会った紙芝居屋の話をしていたが……

それがその最たる例だろうとは思う。

 

最も、俺はその話は今でも嘘だと思っているが。

 

「ヴァーリを……!? た、確かにこちらにある資料を考慮に入れれば

 理論上は可能かもしれませんが……しかし……」

 

「ここに彼がいること、今までの彼の実績、戦闘記録。

 そのどれもが、彼の語る言葉が真実であることの証拠となるでしょう。

 そういえば私はこんな噂を聞きましたよ。

 

 ――冥界は、起きた事件に対し満足な調査を行わず、自分たちにとって都合が良いように

 犯人を仕立て上げる――と」

 

「!! そ、それって……!!」

 

塔城さんが今の言葉に反応する。間違いない。今のは塔城さんのお姉さんの事件の話か。

その話を聞いた魔王陛下も、一瞬顔色が変わったのを俺は運よく見逃さなかった。

ふと、その事件と今の俺の境遇がどこか被って思えた。

 

――満足な調査を行わず

 

――都合の良いように事態を持って行き

 

――存在されては困る者を犯人に仕立て上げ

 

――さも合法的に始末しようとする

 

……そうか、そう……か。俺に始まったことでは無かったということか。

そういうことならば、俺は塔城さんのお姉さんを探すことに

さらに本腰を入れねばならないかもしれない。

別に俺の仲間が欲しいとか、そういう意味じゃない。寧ろいるべきじゃない。

ただ、俺みたいな目に遭っているのならば。

 

……できれば、助けたい。

勿論、俺の身体も大事だが。

 

「あくまでも噂ですがね。まあ、仮に事実だとするならば……

 シェムハザ、ガブリエル。悪魔と和平を組まなくてよかったですね。

 遠くない将来、厄介事に巻き込まれたかもしれませんよ。

 教師としての顔を持つ私が言うべきではないかもしれませんが……

 『友は選べ』と言ったところでしょうか」

 

「……聞き捨てならないな。我々はそんな杜撰な調査など行いはしない!」

 

「そうよ! そんな事件、そもそもあるわけないじゃない!

 あったら私達が待ったをかけているわよ!」

 

その魔王陛下の言葉に、塔城さんが顔を伏せてしまう。

やはり、塔城さんは心のどこかで冥界政府を疑っている……?

そしてセラフォルー陛下……それ、自分の無知を公言してない?

現に塔城さんのお姉さんは……

 

……俺の立場はもう冥界では最悪に近い。今更言っても変わるまい。

俺は意を決して、薮田先生の言葉尻に乗ることにした。

 

「……その噂、俺も聞きました。情報源は明かせませんが……

 ある転生悪魔が、止むに止まれぬ事情から主を殺害し

 それが原因ではぐれ悪魔――犯罪者に仕立て上げられて……

 けれど、それはその転生悪魔の家族を守るためだと……」

 

「せ、セージ先輩……!?」

 

案の定、周囲はざわめく。ごめん塔城さん。けれど、言うにはこのタイミングしかないと思った。

最悪、情報源はバオクゥかリーに押し付ける。あの二人ならば

そう遠くないうちにこのスキャンダルにぶち当たるかもしれない。

あるいは、もう情報をつかんでいるかもしれないし。

 

「……やはり君には反乱の意志あり、か。

 そんな噂に踊らされ、主殺しに正当性を持たせようとするなどとは。

 いいかい? 君は我が妹――リアス・グレモリーの眷属だ。

 そして眷属にとって、主殺しは大罪だ。如何なる理由があれども、だ。

 ならば魔王サーゼクス・ルシファーの名において――」

 

「お待ちを。サーゼクス・ルシファー。あなたは何を言おうとしていたのです?

 まさかとは思いますが、この場で彼をはぐれ悪魔認定しようとしていたのではありませんよね?

 ここは冥界ではないのですよ? そうでなくとも、彼は天照様のご厚意、ご依頼によって

 この席に着いている、いわば客人です。そんな彼に対しての無礼は

 天照様に対する無礼と同等と捉えることも可能ですが、その点は如何お考えですか?」

 

「……サーゼクス様。もしあなたが彼をはぐれ悪魔にし、冥界から追放するというのであれば

 我々日本神話が彼の身柄を保護いたします。彼は元来この国の国民です。

 そんな彼を、我々が保護するのは当然の事であると思います。

 それによって冥界政府との関係が険悪なものとなっても

 私――天照大神はその点についても辞さない覚悟であります!」

 

え……え?

ちょ、ちょっと天照様? いや、犯罪者の俺を保護したら間違いなく冥界と関係が悪くなって

最悪戦争になると思うんですが……それはさすがにマズいかと……

あ、あと月読命様とか須佐之男命様とかその辺りの方々にもきちんと相談されたほうが……

 

「天照。少年に肩入れするのはいいが、せめて俺にも一言言ってほしいものだったな。

 ……ま、俺も答えは一緒だが。もし日本神話と冥界の関係が悪くなるようならば

 日本に籍を置く仏教勢力も、冥界との付き合い方を考えねばなるまいな」

 

「サーゼクス様。これはお節介かもしれませんが

 今の発言は撤回したほうが良いのではないですか?

 妹君の眷属が反抗的であるからと言う言い分はわからなくもないですが

 その為に日本神話のみならず仏教までも敵に回すというのは……」

 

「……その様子では、私達も和平について考え直さなければなりませんね。

 我々はかの少年がどのような人物であるかを知りませんが、資料と実績と

 あなた方の証言が食い違っているように見えてならないのです」

 

……うわあ。

一気に空気が悪くなった。冗談抜きで助けが欲しい。

姿を消すわけにもいかないし、増えるわけにもいかない。

そんな事やっても仕方ないし。

もう嫌だ、こんなことは早く終わらせたい。

 

……けれど、俺の知っていることで、誰かが救えるのなら……

嫌だけど、怖いけれど、このままいるべきなんだろう。

 

「……コホン。会議に参加されている皆様におかれましては静粛に願います。

 私個人としても、彼に対する処遇には思うところはありますが

 今は彼に証言をお願いしているのです。

 宮本君、喋りにくい環境にしてしまい申し訳ありませんが

 あなたが異次元で得た情報を、我々にお聞かせ願いますか?」

 

「わ、わかりました……

 で、ですが……その前に、三大勢力の方々には

 飲んでいただきたい……じょ、条件があります……っ!」

 

……来た。

喉が渇く。声が震える。足もさっきからガクガクだ。

多分、今凄いみっともない状態なのだろう。

だが、今は体裁をどうのこうの言っているときじゃない。

俺のやるべきこと、それは――

 

「冥界政府の方々には、以下をお願いします。

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に関する情報の公開』

 ――これは機能ではなく、内部データなどを含めたものです。

 いわば、ブラックボックスの中身を公開してほしいのです。

 

 堕天使陣営に対しては、以下をお願いします。

 『神器を理由とした人間の拉致及び殺害の一切を禁止する』。

 

 天界陣営に対しては、以下をお願いします。

 『真実をありのままに伝え、信徒を自分たちの都合のいいように使い捨てない事』。

 

 ……また、三大勢力全てに共通することとして――

 『人間への過度な干渉は今後その一切を控えていただきたい。

  また、過去行われた干渉について、事件性のあるものは調査してほしい』。

 い、以上自分が異次元で得た情報を公開する、条件とさせていただきたく思います」

 

……い、言った。

言ってやった。

まだ震えが止まらない。これで俺は完全に冥界政府を敵に回しているようなものだ。

如何に天照様の後ろ盾があるとはいえ、それを頼りにもできない。

これで俺は、どうなるのだろう。

 

……悪魔の駒。俺の得た情報から推測した考察が正しければ

これはとんでもない呪縛だ。

 

確かに、悪魔となって得られる力は大きいだろう。

だが、それ以上に主従関係の強要に始まり

思想の塗り替えといった洗脳行為。

そしてそこから外れようものならば……

これは、俺も確証を得てはいない、完全な憶測だが……

 

はぐれ悪魔は、もとからあんな怪物だったわけじゃない。

『悪魔の駒のせいで怪物にさせられた存在』だ。

転生悪魔が反逆行為を行えば、理性を奪われ、姿形も怪物にさせられる。

 

バイサー……いや、その前の蜘蛛男型はぐれ悪魔か。

それに始まった俺が見続けたはぐれ悪魔。彼らはいずれも元は普通の転生悪魔。

それを主の、政府の都合で怪物に追いやられてしまった連中。

ドラゴンアップルの害虫と言われるはぐれ悪魔の情報を得たときに

俺の仮説は信ぴょう性を増したと言える。

それが本当の事ならば、悪魔の駒の情報を公表することは

政府にとってはダメージだろう。だが、被害を食い止めるには必要だ。

 

……それに、塔城さんのお姉さんも、最悪怪物になってしまう恐れがある。

これはさすがに、塔城さんには言ってないが。

 

「……いいだろう。我が友アジュカの設計した悪魔の駒に不備などない。

 その程度の事でよければ、いくらでも公表しよう。

 それより、要求と言うからには他にはよかったのかい?

 例えばそう……『反逆者扱いの撤回』とか、『君を人間に戻す』とか」

 

「……お言葉ですが魔王陛下。その言葉にも大いに魅力を感じます。

 ですが……自分にはそれが実行できるとは、到底思えないのです。

 自分を人間に戻す……それは我が主であるリアス・グレモリーが既に試みた事。

 にもかかわらず、自分はこうして人間に戻れずにいる。

 反逆者扱いの撤回にしてもそうですが……できもしないことをこの場で提案されても

 それはご自身の首を絞めることになると思うのですが」

 

く……さっきからプレッシャーが半端ない……っ!

こうして反論するだけでも心臓がおろし金にかけられた気分だ……!

だ、だが……ここで俺が折れたら……!

俺だけじゃない……塔城さんのお姉さんや、他にもいるかもしれない

悪魔になったことに納得していない転生悪魔……

そんな人達のためにも、力を、情報を持っている俺が屈するわけには……!

 

「なるほど、リアスが……か。彼女も曲がりなりにもグレモリーの次期当主。

 眷属を思い動くことに、何ら不自然はないな。

 そんな彼女が手を尽くした結果が『悪魔であることを受け入れろ』ならば

 君はそれに答えてもよかったのではないか? 兵藤君のように。

 君はリアスの思いやりを、優しさを踏みにじっている。そう考えたことはないのか?」

 

……そいつは痛い。俺とて全くグレモリー部長に感謝していないわけではないのだ。

それ以上に疑念を抱いたり、俺が俺でなくなりかけたことに対する忌避感の方が強いのだが。

しかし……ここで身内であるグレモリー部長を出してくるとは。

この人それでもいち種族をまとめ上げる存在か?

俺も出したが、俺にとってグレモリー部長はあくまでも(勝手にポストに就いた)上司であって

俺の家族でもなければ、イッセーと違って親しい仲でもない。

これも面と向かっていった日にはグレモリー部長が泣きそうな気がするので黙っているが。

どうでもいい相手だが、泣かれるのは気分がよくない。

 

「……それは出来ません。なぜならば、悪魔になるということは

 自分の家族と、友達と同じ時間を過ごせなくなるからです。

 兵藤一誠も確かに友人ですが、ここで言う友人とは

 自分が人間であった頃に得たかけがえのない友人……

 この駒王学園においても松田、元浜。クラスメートの桐生さん。

 そして、中学の頃からの友人である大那美(だいなみ)高校の兜甲次郎(かぶとこうじろう)如月皆美(きさらぎみなみ)

 彼らは皆どこにでもいる普通の人間です。自分は彼らとこそ同じ時間を共有したい。

 

 それに、悪魔になるということは、人間である自分はその時点で死を意味する。

 そう自分は考えております。ならば、子が親よりも先に死ぬというのは最大の親不孝。

 その親不孝を成してしまった自分は、一刻も早く人間に戻り

 この『ありえない親不孝』を取り消したいと思っているのです」

 

「……ほう。悪魔になるということは、君にとっては汚点であると言いたいわけか。

 悪魔の頂点に立つこの魔王を前にして、その物言いは感服するよ」

 

自分でもそう思う。余裕がないんだ。

人間としての平穏。それが今の俺の望み。

ただ、色々なことを知ってしまったから、それに対する責任は負わなければならないけれど。

それを成すのに悪魔の力が必要なのは痛いところ、か。

そんな俺の考えを見透かしたのか、紫紅帝龍・フリッケンが突如俺に耳打ちをしてくる。

 

『セージ。俺の力は別にお前が悪魔でなければ使えないというものじゃない。

 記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)も然りだ。そもそもアレは、お前が元来持っていた神器。

 神器に目をつけて悪魔にする……お前はよく知っている話だろ?』

 

――ああ。イッセーにしたって、アーシアさんにしたって。

今にして思えば、あるいは祐斗だってそうだったかもしれない。

天界と冥界のパイプさえあれば、そういう風な取引だって可能なんだから。

神器に限らず言えば、塔城さんだってそうかもしれない。

結局よその力が羨ましいから、自分のものにしたいがために強引に自分のものにする。

そんな、そんな勝手な話って――

 

「……陛下がどう仰ろうと、自分の意見を曲げるつもりはありません。

 自分は、自分が自分以外の何者かに変えられてしまう。

 それが、ただただ恐ろしくてならないのです。

 もし、もしもどうあっても自分が変えられてしまうのであれば

 可能な限り、自分は自分のまま生きていく所存です」

 

「……やれやれ。これではまるで私が悪者だな。

 このまま話していても埒があかないか。

 わかった、この件についてはアジュカとも相談しておこう。責任者は彼だからな。

 では歩藤君。君が得たという情報を話してくれないか?」

 

……はぐらかされたか?

いや、だが俺の意見は、立場はこれで明確にしたつもりだ。

その結果、俺がはぐれ悪魔にでもされたら……

 

それこそ、人間に戻るためにも悪魔の駒を本気で除去しなければならないだろう。

そしてそれは、きっと塔城さんのお姉さんを救う手立てにもなるはずだ。

 

「では宮本君。お願いします」

 

「わかりました。まず俺達は――」

 

一呼吸置き、俺はさっき起きたことを包み隠さず話すことにした。

 

 

突如としてレーティングゲームの空間らしき場所に飛ばされたこと。

 

飛ばされた先で、無我夢中で白龍皇の力を奪おうとして異次元に飛ばされたこと。

 

飛ばされた先で、白金龍(プラチナム・ドラゴン)と出会い他の次元世界の存在を知ったこと。

 

アインストは、その次元世界の一つから「ゲート」と呼ばれる通路を通ってやってきていること。

 

白金龍の手引きで、赤龍帝と白龍皇の力から紫紅帝龍の力を得、俺の右手が復元したこと。

 

その力で白龍皇を退け、白金龍の手引きで異次元から帰還したこと。

 

 

俺の話したことに、周囲はざわつく。

二天龍をも下せる龍の存在。

そしてさらに黙示録にも語られる龍と同格ともいえる龍の存在。

不文律、暗黙の了解、ローカルルール。先の大戦で大暴れしたという二天龍に端を発した

龍の神話は、ここに来てその姿を大きく変える時が来たのだろうか。

 

そして、もう一つ大きな反響を呼んだ話題があった。

「別なる次元世界」。こことは全く違う、あるいは似ているけれど全然違う世界。

そしてそれを繋ぐ「ゲート」の存在。

それらがアインストや俺の力に説得力を与えているのだが。

……まさかとは思うが、別なる次元世界の力を得ようとか思ってないだろうな?

そうなった場合、白金龍が止めに入るのだろうか?

あるいは、これも俺がやらねばならないことなのか?

……いや、それはないか。そもそも彼らに「ゲート」をどうこうするのは不可能だ。

白金龍だって完全にゲートを開閉できるわけじゃない。

 

……って、ちょっと待て。

だったら、アインストはどうするんだ?

まさか場当たり的に湧いて出たのを叩くわけにもいかない。

ゲートを能動的に閉じられない以上、アインストの影響は計り知れないんだが。

 

その疑念は、俺以外の皆も思っていたらしい。

この会議も佳境だが、ここが一番の山場かもしれない。

俺にはそんな予感がした――




はぐれ悪魔に関するセージの抱いている疑惑

・バイサーなど、人としての姿を成していない、理性もない怪物などは
 悪魔の駒による改造の結果ではなかろうか。

・今はこうした姿を保てているが、はぐれ認定された時点で
 (処理しやすいように)ああなってしまうのではないか?

・つまり、はぐれ認定された塔城姉(黒歌)もいずれ……
 そうなる前になんとかしないと!

・もちろん、自分がそうなる危険性もある。

※これは拙作独自設定です。
 また、セージの勘違いの可能性も現時点ではあるとだけ言っておきます。

こんなことを公言したら「妄想乙」で片付けられそうですし。
証拠さえあれば……ですけど。
証拠と言えば、「アジュカに悪魔の駒のデータを出させる」とか言ってますが……
そのデータの信憑性はどうなることやら。

セージなりに考えた結果、色々な事件が全てリアスの都合のいいように
進んでいたため、これが疑惑を抱く切っ掛けになったとも言えます。
実はアーシア誘拐はもとより、セージがこうなるきっかけにもなった
レイナーレ放置の件も、まだ公式発表出てないんですよね……

神を見張る者のトップが変わったため、ここで調査がなされるかどうか……
これは極めて個人的なことなので、今回セージの出した条件には
名指しでは入ってませんが、事件性のあるものの調査依頼は出しているので……

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