ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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タイトルにウソ偽りはありません。
タイトルには、ね……

サブタイを原作意識から遠ざけてかなり経ってますが
一応理由があります。

1:ネタ切れ
2:意外と様にならない
3:既に原作から乖離していることの示唆
さあどれだ。

※正解しても何も出ません


Soul56. 駒王協定締結

「……今回の件ですが、報告書を読ませていただき、現場の映像を確認いたしました。

 その上での決定ですが……我々堕天使陣営、主に神を見張る者(グリゴリ)は……

 

 ……悪魔陣営との相互不干渉をここに宣言するものとします」

 

……相互不干渉。戦争しない、けれど関わらない。

え、ええと確か相互不干渉とは主にモンロー主義と呼ばれる

独立して少し経ったアメリカとヨーロッパの間に交わされた確約がそんなだったような……

 

目の前に世界史の教師がいるのにこれはちょっとマズいかもしれない。

などと俺が思っていると、やはりというか、なんと言うか魔王陛下が狼狽えている。

 

「ちょ、ちょっと待ってよシェムハザちゃん! た、確かにアザゼルちゃんは……

 それに、シェムハザちゃんの奥さんは悪魔でしょ!? それなのに……」

 

「セラフォルー様。問題をすり替えないでいただきたい。

 今我々は種族の話をしているのです。私個人の家族の話をしているのではありません。

 この場に家族のことを持ち出すこと自体がこの会議の趣旨に反しているのでありませんか?

 それに今の発言は『身内に悪魔がいるから便宜を図ってくれ』と取れなくもないのですよ?」

 

「わ、私、そんなつもりじゃ……!!」

 

「無論、私自身はそうではないと信じていますがね。

 さて、話を戻しますが……アザゼル総督は今回の会談で

 右腕を失う大怪我を負っているのですよ。

 こんな言い方をするべきではないでしょうが……

 『総督の右腕一本で済んで安上がりだった』と。

 

 あの場面において、総督がもし頭部から捕食されていれば今頃私が総督になっていますよ。

 それくらい、あなた方が生み出した怪物は危険極まりないものだったということです。

 そして、そんな場にまともな警備を敷かずにいた場所提供者のあなた方の態度も……」

 

うわあ。このシェムハザって人、容赦ないなぁ。

ただ、堕天使もあまり大きな口は叩けないと俺は思うんだよねぇ……

白龍皇(バニシング・ドラゴン)と言い、あのクソカラスと言い。

そもそもあいつが余計なことをしなければ

俺もイッセーもアーシアさんも人間のままでいられたんだ。

そう考えるとなぁ。言いたいけど、言いたいけど今は黙っておこう。

ただ、後でこれは絶対に言ってやる。と言うか、アインストの情報の対価だ。

俺が持っているものなんだから、対価を要求してもいいと思うんだ。

この人は関係ないかもしれないが、堕天使と言う集団のボスなら、きちんと責任を取るべきだ。

 

「……コホン。これは我々ももっとまともな護衛を総督につけるべきでしたね。

 白龍皇の裏切り……これについては、総督に代わり私が謝罪申し上げます。

 また、白龍皇――ヴァーリ・ルシファーについてですが……総督の意向もありますので

 発見後即処刑とまではいきませんが、全世界指名手配とさせていただきました」

 

『ま、当然だろうな。テロリストに所属するって大見得切った相手だ。

 それを輩出したところとしては、黙ってるわけにはいかないだろうさ』

 

フリッケンの至極当然の突っ込みが入る。

全世界ってことは、ここも対象になるのか。と言うか、案外まだこの辺にいたりして?

……それは勘弁してもらいたいかもな。

だがフリッケン。これだけは言える。お前はお前で白龍皇とも赤龍帝とも何の関係もない。

と言うか、お前みたいなのがそうそういてたまるか。

 

「待ってくれシェムハザ総督代理! 白龍皇に関しては了解したが

 アザゼルの負傷の件に関しては少し待ってほしい!

 カテレアは確かに我々の落ち度かもしれないが

 アインストに関しては我々も関与していない!」

 

「サーゼクス様。確かに私もアインストについては資料でしか知らず

 その資料もどう見ても不完全なもの……まあ、それらについては

 後程そこの少年――紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)がお話してくださると議長が仰っていますので

 そちらを合わせてということになりますが……映像を見る限りでは

 カテレア……ないし禍の団(カオス・ブリゲート)と繋がっていることは明白。現冥界に直接関連がなくとも

 旧魔王に関連があれば、それだけで冥界との関連性はあると言える……そう思います。

 それと、総督からの言伝です――『暫く会えそうに無いわ、悪い』――だそうです」

 

「……そうか。感謝するシェムハザ『総督』。

 もし伝えられたらアザゼルによろしく伝えてくれ……」

 

……うん? 今「総督」って……

まさか……いや、まさかね。もし仮にそうだとしても、無血開城だと思いたい。

コカビエルに続いて、アザゼルもあのザマ。堕天使も踏んだり蹴ったりだよな……

シェムハザの発言が終わったところで、薮田先生からの質問が入る。

 

「堕天使陣営の言い分はわかりました。そこで質問なのですが、神を見張る者については

 その行いがこの国、並びに世界中の神器(セイクリッド・ギア)を持った人間を脅かしているという

 神仏同盟(しんぶつどうめい)のお二方からの指摘もありますが

 その件についてはどうお考えですか?」

 

「トップであるアザゼル総督が病床に臥せっておられるため

 現時点では神を見張る者としての活動はほぼ不可能に近い、ということになります。

 また、人間への行いについてですが……

 これについてはすべての堕天使の意識改善は難しく……」

 

「……では、今後も神器を理由とした人間への被害が出るということですか?」

 

「無論、減らす方向で努力はさせていただきたく思います。

 また、そうした行いに出た堕天使については我々ではなく現地の法に則り

 処罰を与える方向に考えたい所存ではあります」

 

……そこだ。肝心要の話だ。堕天使による神器所有者の無差別誘拐殺人事件。

悪魔も一枚かんでいるんだが、こと堕天使に関しては俺や、俺の友人も被害に遭っている。

そしてそれは世界各地で起きているという話だ。

何より、これこそが天照様が腰を上げた事案の一つでもある。

シェムハザ総督代理の話によれば、今まで治外法権的な対応だったそれは

今後現地の法で裁かれるようにしていく方向である、との事らしい。

 

……俺達には願ってもない事なんだが、現場の堕天使は納得するんだろうか。

こういうのは現場が納得しないと意味がないと思う。

今までの習慣を変えろ、って言うのに等しいだろうな。

 

「方向性としては理解した。それだけに、今後またさらに同じようなことが起これば

 我々もまた考えを改めることはあるだろう。

 仏の顔も三度撫でれば腹立てる、だ」

 

「今までに多くの人々があなた方の勝手な理屈に巻き込まれ命を落としたり

 人生を狂わされていたりします。今紫紅帝龍……そこの少年にも参加いただいたのは

 彼もまた、そうした事件の被害者であるからです。

 あなた方にもあなた方の理由はおありでしょう。ですが、その理由で踏みにじられた

 彼の心の声に、皆様は耳を傾けるべきであると言うのが、我々神仏同盟の意見です」

 

うおっ。いきなり天照様に話を振られて驚いてしまった。

い、いやまあ確かに俺は特に悪魔や堕天使には言いたいことがごまんとある。

種族全体と言うと大げさかもしれないが、少なくともグレモリーやレイナーレ……

いや神を見張る者には俺は声を大にして言うべきなのだろう。

被害者と言う意味ではイッセーやアーシアさんも同じだろうか。

 

ここで俺が語ることがいい事なのかどうかはわからないが、でも俺は言うべきなのだと思う。

今までの話だと、俺みたいな目に遭ったやつはいっぱいいるだろうし。

神器についてもだが、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)については塔城さんのお姉さんが確か……

などと思っていると、天界側が発言を開始していた。

……さっきから凄い緊張するんだけど。

 

「では続いて、我々天界からなのですが、その前に……

 ヤルダバオト様、今までの数々のご無礼をお許しください。

 主の影武者を、代理をなさっておられたことを、我々は全く存じ上げず……」

 

「気にすることはありませんよ。ヤハウェの影としての仕事など、大してやってませんし。

 『システム』等というものが大手を振ってのさばれる程度にしかしていませんしね。

 それがある以上、もはやヤハウェも、私も必要ないのではないのですか?

 それに、私も影武者と言えば聞こえはいいですが、要は偽者ですからね。

 『偽者風情が……』とか、色々思い当たる節はあるのではないのですか?」

 

……うわ。薮田先生が性格あまりよくないのは知っていたけど

ここまでねちねち言うかね……

俺も天界の事情なんざ知ったこっちゃないけど、あのガブリエルって人が気の毒だ。

 

「け、決して我々はそのような!

 あの大戦の後、主の力が及ばなくなることを危惧した我々天使への

 自衛策として用意したものであります!

 決して主を蔑ろに扱い、主を不要なものとするために

 作り上げたものではありません!」

 

「まあ、口では何とでも言えますがね。道具が、装置が生きているものを使役するなど

 私に言わせれば何ともおぞましい話です。あなた方のしたことは、つまりそういうことですよ」

 

「ヤルダバオト様。もうその位でいいのではないでしょうか。

 そろそろ話を進めませんと、ただでさえ妨害が入っていますし……」

 

「天照に同じく、だ。『時間加速空間(クロックアップ)』で会議を進めるわけにもいかんだろう」

 

薮田先生のイビリは神仏同盟のお二方によってひとまず止められた。

正直、内心ほっとしている。誰がこれ止めるんだよ、とは思っていたし。

この後ずっと天使いびりって誰が得するんだよ。

 

「……まあ、それもそうですね。失礼しました。つい色々思い当たる節があったものでして。

 私情を持ち込んでしまったことはお詫び申し上げます。

 では改めましてガブリエル、そちらの――天界の意向をお聞かせ願いますか?」

 

「か、かしこまりました!

 私ども天界陣営も、当面は信徒に対し害をなす悪魔への対応のみを行うものとし

 『システム』については大幅な見直しを他の熾天使(セラフ)と協議を行うものとしまして……

 

 つきましては、今回の和平については我々としましても今は十分に協議できませんので

 今回は見送らせていただきたく思います」

 

「まぁ、妥当な判断でしょうな。我々堕天使も個人主義の集まりとはいえ

 今回は各陣営あまりにも意見がまとまっていなさすぎます。

 恥の上塗りですが、コカビエルにしたって白龍皇にしたってああですし。

 特にコカビエルなど幹部でさえあのザマですからね。

 末端の堕天使に至っては言うに及ばず、です。

 

 そこで、和平に向け足並みをそろえるのはまだまだハードルが高いと見受けられました。

 これはこの会談の前に、個人的にとはいえアザゼルに打診したことではありますが……。

 改めて申し上げますが、我々堕天使も今回の和平交渉は

 『なかったもの』として扱わせてもらいたい。

 和平を結びたい、そういう気持ちが無いわけではありませんが急いては事を仕損じますからね」

 

「う、嘘よ嘘よ! どうしてみんな和平を結ぶのを避けようとするの!?

 もう戦争はダメだって、みんな知ってるでしょ!?

 これじゃ、このままじゃみんな……みんな滅ぶしかないじゃない!!」

 

「……く、確かにカテレアの事も考えれば我々だけが和平だなんだと言ったところで

 それが容易く実現できるものではないということくらい、すぐにわかっただろうに……

 我々は、結論を急ぎすぎたというのか……?」

 

相手が影とはいえ自分達の上司だからか、さっきのシェムハザ総督代理に比べると

委縮した対応に見える。そう考えるとさっきのって部下いびりだよなぁ……

俺が口を挟める問題じゃないけど。

そしてシェムハザ総督代理が改めて和平交渉を保留にする意見を出したおかげで

セラフォルー陛下は完全に動転している。

まあ、そこは議長でもある薮田先生に一喝され黙り込んでしまったが。

 

「静粛に。ところでガブリエル、ミカエルの容態はどうなのです?」

 

「急所を的確に突かれていたので、未だ予断を許さない状態です。

 また、今回の件を見直した結果紫藤イリナに対する処罰を追放から

 聖剣強奪と反逆の罪で発見次第即処刑とさせていただくことになりました。

 また、ミカエル本人につきましても主への反逆疑惑が上がっているため……」

 

まあ、いち勢力の首魁に重傷を負わせた上に

その首魁から預かった代物を持ち逃げした上に傷物にしてるんだ。

その対価が発見次第即処刑、か。白龍皇に比べるとなんともはや。

ある意味、天使って連中の器が知れているともとれるな。

そして探し求めていた友人がこうなってしまったゼノヴィアさんの心中察するに余りある。

 

そんな中ガブリエル天使長代理が言葉をつづけようとした矢先、イッセーが割り込んでくる。

おい、ちょっと待て。このタイミングは――

 

「ま、待ってくれ! これにはきっとワケがあるんだ!

 イリナを……イリナを処刑なんて、ちょっと待ってくれ!」

 

「兵藤君。前も言いましたよね? 発言を許可した覚えはない、と。

 天照様のご厚意でこちらの席に着いている宮本君でさえ今は静かにしているのですよ?

 そうでなくとも、今はガブリエルの発言の最中です。

 これは授業のディスカッションではない、れっきとした社会の政治なのですよ?

 日本国の法律ならば、本来あなた方はこの席に立つことすら許されないのです。

 あなた方が政治の席に立ち、一人前に物を言うには

 力が、知識が、何よりも社会と接した経験が足りません。

 あなた方は各勢力のご厚意でこの場に立てているということを、努々忘れぬように」

 

……そうだった。

参政権は高校生である俺らには当然、無いんだった。

選挙権が18歳からになるとかならないとか国会で言っていた気がするが

それにしたってまだ俺達はアウトだろう。

3年組が辛うじて……だろうけれど。

 

あれ? そういえばグレモリー部長やシトリー会長に選挙権って発生するのか?

外国人参政権ならぬ悪魔参政権?

……ちょっと怖い考えになった。やめておこう。

ただでさえ外国人参政権は色々言われている曰くつきの話題なんだ。

その上悪魔だなんて……

 

「な……なんでだよ……アーシアにしたって、イリナにしたって!

 どうしてそういうことを平気で出来るんだよ……!

 元はと言えば、お前たちが……」

 

イッセー。どう考えてもイリナのやったことは国家反逆罪だろ。

この対応はかなり自然なものだと思うぞ。

アーシアさんにしたって、ゼノヴィアさんの言い分もある以上は

一方的に上が無罪放免なんて言うわけにもいかないってことくらい

ちょっと考えればわからないか?

 

それともゼノヴィアさんの言い分は全部が全部間違ってるっていうつもりか?

それも俺はどうかと思うがね。

と言うか本気でそろそろ控えたほうがいいぞ。

薮田先生の目がマジだ。どうなっても知らんぞ、俺は。

 

「聞こえませんでしたか兵藤君。黙りなさい、と。リアス・グレモリー君。

 次彼が余計なことを言えば、彼の管理者であるあなた諸共退席を命じますよ」

 

「わ……わかりました。イッセー。気持ちはわかるけど黙りなさい。

 ここで彼らの不興を買うのは、私たちにとっても、悪魔にとってもよくない結果になるわ」

 

「けれど部長!」

 

「……お願いよ、イッセー。お願いだから……」

 

グレモリー部長の泣き落としでようやくイッセーが黙った。

この期に及んで使う手が泣き落とし、か……

結果オーライとは言え、次期当主である良家のお嬢様が使う手段として

それはどうなのかと思ったりする。せめて一睨みきかせるとか

そういう面も見せておかないと、嘗められたりしないか?

この場にそういう風に陥れる輩はいないとは思うが、これが悪魔同士とかだったら

そういう些細な点を突いて陥れるとかありそうで怖いんだが。

人間同士だってそういうのがまかり通るご時世なんだ。

 

「……コホン、よろしいでしょうか?」

 

「ええどうぞ、続けてください」

 

「はい、では……ミカエルについてですが

 議席での証言により主への、人間への反社会的な発言が見受けられたため

 症状回復を待って取り調べ、彼が先導して開発したシステムについても

 改竄を行われた痕跡がないかどうかの調査を行うことが決定しましたので

 ここにご報告させていただきます。

 

 また、その影響でシステムを調査のために一時停止するものとします。

 これについては、調査時期及び再開時期は追ってご連絡いたします。

 以上、我々天界勢力の決定事項を申し上げます」

 

「……私も資料を見て驚きました。まさかあのミカエルがあんなことを口走るとは。

 こう言っては不謹慎かもしれませんが

 我々堕天使陣営ではいつでも受け入れ態勢は整えております」

 

シェムハザ総督代理のちょっと嫌味な物言いに、ガブリエル天使長代理は苦笑しながら答えている。

その様子を見て俺はふと思う。別に無理に和平結ばなくてもいいじゃないか、と。

無理に和平を締結して、それで各勢力の不興や反感を買うようなら、そんな和平は長続きしない。

そして一度破られた和平は、最悪二度と元には戻るまい。

信頼は、壊すのは簡単だけど得るのは大変なんだ。壊した信頼を今一度得るなど……

 

「ふむ。これで天使・堕天使陣営の証言は出そろいましたね。

 多数決を採るのならば今回の和平締結はなかったものとして扱うのが筋でしょうが……

 一応聞きましょう。両魔王陛下。今回の件について、何かご意見はありますか?」

 

「大ありよ! なんで二人ともそういうこと言うわけ!?

 戦争しないんだよ!? 戦争しない以上に幸せな世界なんてあるわけないじゃない!

 それに、アインストなんて怪物が出た以上、私たちがいがみ合ってる理由なんて……」

 

「お待ちを。我々は別に戦争状態を持続させようなどとは申しておりません。

 アインスト絡みとなれば、我々も対策は練る必要があると考えております。

 しかし、そのために悪魔や天使と組むというのは……

 私はともかく、他の――特にコカビエル派の堕天使が納得しないでしょう」

 

「私もシェムハザ総督代理と同意見です。情けない話ですが、今の天界は内政が極めて不安定。

 そんな状態で和平を、同盟を結んだところで皆さまの足を引っ張りかねません。

 と言うよりも、よそ様とのことまで気が回らないと言ったほうが正しいでしょうか。

 もちろん、こちらの世情が落ち着いた時には和平については前向きに考えさせていただき……」

 

セラフォルー陛下の意見に、シェムハザ総督代理とガブリエル天使長代理が待ったをかける。

ここに来て名前が出る程度には、コカビエルの影響は小さくなかったって事らしい。

まあ、いち組織の幹部なんだし派閥作っていてもおかしくはないか。

そして、ガブリエル天使長代理の「自分たちの事で手いっぱいだから落ち着くまで待って」

と言う意見をさえぎるように、再びセラフォルー陛下がまくし立ててきた。

 

「いつかっていつよ!? 私たちはみんな明日をも知れない状態だってことわかってるでしょ!?

 悠長なこと言ってないで、ここは私達で力を合わせて禍の団やアインストをやっつけたり

 私達が滅びたりしないようにするのが先じゃないの!?」

 

「で、ですが急に、無理に和平を成立させては……

 それに、アインストの戦力だって未知数。紫紅帝龍の少年のお話次第ですが

 我々が手を結び、禍の団とアインストとの全面戦争になってしまえば

 結局戦争が起きるという結末は変わらないのでは……?

 もちろん、彼らから人々を、我々自身を守ることは必須ですが」

 

「私もガブリエル様に賛成です。さっき申し上げた通り、まだ我々には

 コカビエル派の堕天使も多く存在しています。彼らの意向を無視すれば

 今度は我々同士の戦争ではなく、内戦で勢力が瓦解しかねません。

 内戦の恐ろしさは、あなた方もよく理解しているのではないのですか?」

 

……え? つまり、自分たちの意見もまともに纏めないまま和平締結しようとしてたのか?

そりゃ統一まで待っていたらいつまでたっても、って話かもしれないけれど。

それでも、何故悪魔はそんなに急いでいるのだろう。

俺には、どうしても悪魔が何かにおびえて、焦っているようにしか見えなかった。

 

「セラフォルー、落ち着くんだ。内戦の事を出されては、我々には何も言えない」

 

「うぐっ……そ、そうね……カテレアちゃん、どうしてあんなバケモノの力を使ってまで……」

 

セラフォルー陛下が落ち着きを取り戻したころを見計らって、薮田先生は

神仏同盟のお二方にもお話を伺っていた。

俺が思うに、これって三大勢力の和平だからあまり関係ない気もするけど……

まあ、巡り巡って関係してくるのかもしれない。

社会ってのは、世情ってのはそういうもんだろう。

 

「……意見は出そろいましたね。神仏同盟のお二方は何かございますか?」

 

「我々の国に、社会に危害を加えるのでなければ特に何も。

 他の神話勢の皆様も、ある程度は同じことをお考えかと思います。

 どうか勝手に我々の国に、あなた方の問題をさも世界の常識のように

 持ち込まないでほしいのです」

 

「世界に目を向けろ、と言うのはそういう意味ではないと俺は解釈している。

 お前達の問題はお前達の問題だ。世界の問題じゃない。

 今回の件は、実演を兼ねた国際テロリストの存在の示唆と

 危険性の訴えとして見ることにする。天照はともかく、俺は他の国にも顔が利くからな。

 他所の国で被害が出た場合には俺は赴くつもりだ」

 

お二方の意見をまとめると、要するに

「そっちの問題には関与しない。でもアインストや禍の団が我々に危害を及ぼすのであれば戦う」

って事らしい。まあ、普通だよな。その普通こそが大事なんだけど。

 

結局、和平は悪魔陣営が一人で盛り上がっているだけか。

何だか遊びに誘っているのに相手にされないで拗ねているようにも見えるんだが。

しかも、その理由は家の都合だったりスケジュール的なものだったり。

しかもその遊びに誘う側も問題を抱えているという。

これで天使や堕天使に難癖つけたら、それかなり問題じゃないか?

 

「しかしこれだけは言っておきましょう。アザゼル総督は和平には前向きであった、と。

 そしてそのアザゼル総督は、今は病床に伏せておられます。

 総督の意向に反することは私にはできませんし、こちらが落ち着き次第

 改めて和平については対話させていただきたく思います。

 今回はそれでご容赦願えないでしょうか。

 ただし、それまでの間は不要な干渉はお互いのために避けるべきでしょうが」

 

「我々天界陣営も同じく、です。我々の場合、音頭を取っていたミカエルに

 反逆疑惑があるので堕天使陣営のようにすんなりとはいかないかもしれませんが……

 和平については、前向きに対処したく他の熾天使と協議させていただきます。

 我々も、内政に専念させていただきたいので

 暫くは不必要な交渉はお控えくださいますと幸いです」

 

「セラフォルー。別に彼らとて和平に反対しているわけではないのだ。

 和平への希望はあるとして、今回は彼らの言い分を飲もう……」

 

渋々と言った様子でセラフォルー陛下も首を縦に振っている。

そして、用意された羊皮紙にサーゼクス陛下、シェムハザ総督代理、ガブリエル天使長代理が

それぞれ調印を行っている。

 

一時的な相互不干渉。それが三大勢力の出した結論だった。

始終、セラフォルー陛下は不服そうな顔だったがその心のうちまでは俺にはわからなかった。

 

……いくら子供っぽいからって、自分の意見が通らなかったいらだちではあるまいな?

もしそうだとしたら、ちょっとそれは外交担当として致命的すぎる。

俺が選挙権を持った国民だったら、絶対に投票しない。

それ以前に、冥界って選挙制度があるのかどうか知らないけど。

……そもそも民主主義か? なんか違う気がするが。

 

「さて。今後の指針が決まったところで……宮本君。

 先ほど現れたアインストについて、あなたの知っていることをお聞かせ願いますか?

 ああ、こういう場での発言は初めてでしょうから、楽になさって結構ですよ。

 では宮本君、前へ」

 

「は、はい!」

 

いよいよだ。こんな間に合わせの会議場とも言えない場所ではあるが

場の何とも言えない空気に、俺は少し押され気味ではある。

薮田先生の言うように、こんな会談での発言なんて初めてだ。

さっき先生が言ったように、これは授業のなんちゃってディスカッションじゃないんだ。

俺の発言一つで国が動きかねない、それだけ大事なものなんだ。

 

今さっきアインストと戦っておきながらそれはないだろう、と言われそうだが

それとこれとは全く違う。震える足を抑えながらも、俺は前に出る。




協定は締結されましたよ?(和平が結ばれたとは言ってない)

今回(も)かなりハードな内容ですので
そろそろ口直しが欲しいころかもしれませんね……
まあ、原作ではかなりなあなあで済まされた政治関連の話題ですし
もう少々だけお付き合いくださいませ。

……パワーアップイベントの後でこれとか、やはり配分おかしいかも。
一応、またセージの反則技披露の機会はありますけど。原作にはない形で。

>セラフォルー
原作ではなんだかゆるい=有能みたいな描かれ方してますが
本当にそうなのかな……って思った結果がこれ。
和平って言葉に酔ってる、そんな風にも見えましたので。原作が。
これはセラフォルーに限ったことではありませんが
拙作ではアザゼルもミカエルも退場して
サーゼクスはブレーキを否応なしに担当しなければならなくなったので
いわば彼女はスケープゴート。でも外交担当だからしょうがないね。

上に立つものは人気者になるかもしれないけど
同時にバッシングの対象としても立たなければならない。
そう私は思います。

……で、原作の四大魔王って劇中で叩かれてましたっけ?
敵対勢力以外から

>イリナ
もうこれで~かえれ~な~い~
禍の団(カオブリ)に~入る~だ~け~@今日もどこかでデビルマン

今だから言いますが、実はバルパー殺害も彼女がやる予定でした。
でもさすがに人殺しはマズいだろうと思いとどまったけど
結局これ。ゼノヴィアは泣いていい。マジで。

>シェムハザ
いきなりの大抜粋。アザゼルがほぼ再起不能なので実質総督。
こう書いてもなんだかアザゼルがほくそ笑んでるようにしか思えない、不思議!
とりあえず悪魔の嫁さんの事を出されても「それはそれ、これはこれ」で返す
有能さん、として書いたつもりです。
そのせいで悪魔が無能になった? ……それはー……

>ガブリエル
まさかのいびられ役。おまけにセラフォルーからちょっとだけ強く当たられてます。
それでも気にも留めず職務を遂行したガブリエル様マジ天使。
なお、彼女自身は普通に人間に対して好感情を持っています。
おかげでおっとり美人の原作から一転、苦労人属性が付きそうな……

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