ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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禍の団による襲撃。
人質にとられたリアス。
豹変し、アスカロンでイッセーに牙を剥いたイリナ。

偽神のカミングアウトから始まった三大勢力の会談は
ここに来て更なる混乱を生み出す。
カオスの名が指し示すように。



……場面転換目まぐるしくて申し訳ないです。
事件があっちこっちで起きているような状態ですので。


Be taken hostage

縋るものを失い、信じるものがある世界こそが正しいと

振るう先の無い龍殺しの聖剣(アスカロン)を闇雲に振り回す紫藤イリナと

広大な夢は無くとも、ただ友のために夢を守ろうと聖魔剣を振りかざす

木場祐斗の戦いが旧校舎で繰り広げられていた。

 

「壊れている……壊れテいる……壊れてイル……

 みんナみンな、壊れチャッたのよ!!

 だから、私が……私が、本当にあるべき姿に直すんだから!!」

 

「そのために、君は友を手にかけようとしたのか!?」

 

「ゼノヴィアも壊れちゃったのよ……だからあんな事を言ったのよ……

 でも心配要らないわ。私がこのアスカロンでみんなを直すの。

 本当に、あるべき姿に戻すの。今のこの世界は大きく変わってしまったの。

 主がいない? 主を気取った偽者? これの何処が壊れてないって言うの?

 

 私は、私は今まで何を信じていたって言うのよ!?

 何もない空っぽの器を有難がったり、崇めていたって言うの!?

 そんなの、そんなのおかしいわよ……狂ってるわよ!!

 だから何もかも狂ってるの。壊れちゃったのよ。

 そう……だから私が直すの。邪魔しないでよ」

 

もはや、イリナの目には湛えるべき光は無く。

敬虔な信徒であったころの面影など、もはや何処にも無く。

身に纏った黒のボディスーツも、そのデザインこそ変わらないもののどこか禍々しさを感じさせ。

 

「くっ……これじゃまるでフリードの剣捌きだ……ッ!」

 

「いたわねそんなの。でも、今ならアイツの言いたいことわかるかも。

 でも、アイツも壊れてるから直さないと。

 壊れているって言えばそう、ミカエル様――いやミカエルも壊れてる。

 だってそうでしょ? いもしない神様を崇めているんですもの。

 そっか……直さないといけないの、いっぱいあるんだね。

 だから……邪魔しないで、さっさとどいてよ」

 

イリナは呟きながらアスカロンを出鱈目に振り回している。

その太刀筋ゆえ、木場が聖魔剣で往なす事は不可能ではなかった。

しかし、元来スタミナに優れない木場には、長期戦は不利であった。

 

その一瞬の隙を突き、イリナが懐から出したそれ――擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

木場の目を眩ませる。ゼノヴィアが持っていた破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)

彼女が警察に勾留されていたことで警察から教会へと返還されたが

イリナの持つ擬態の聖剣は、その当時彼女が行方不明だったこともあり

消息不明となっていたのだ。それが実際にはこうして

イリナの手元に残ったままだったのである。

イリナはかつてのゼノヴィアと同じく、エクスカリバーと別なる聖剣の

二振りの聖剣を持っていることになる。

いかに魔剣製造(ソード・バース)禁手(バランスブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)とて

二振りの聖剣を同時に相手にすることは難しい。しかも、手の内が読みにくい擬態の聖剣だ。

 

「……イッセー君は行っちゃったかぁ。まぁいいわ。

 後でゆっくり私が直してあげるからね。

 お前も後で私が直してあげる。全部……全部私が直すから」

 

「く……っ!」

 

木場を置き去りにし、イリナも旧校舎を後にする。

普段ならばともかく、今のイリナが新校舎に向かえば更なる波乱は免れない。

体勢を立て直した木場は、急ぎ新校舎へとその足を進めたのだった。

 

――――

 

その一方、眷属であり能力を禍の団(カオス・ブリゲート)に悪用されているギャスパー・ヴラディを救うべく

リアス・グレモリーと兵藤一誠もまた動き出したが、リアスは禍の団に捕らえられてしまう。

その報せは、即座に新校舎の会議場にいる三大勢力の首脳陣に伝わることとなった。

ギャスパーは救い出され、彼によって止められた時間こそ動き出しはしたが

これによって情勢は一気に禍の団の側に傾くこととなった。

 

会議室には三大勢力と神仏同盟(しんぶつどうめい)、そして偽りの神に向けてメッセージが送られていた。

 

「ごきげんよう、愚かな三大勢力の首脳陣、そして愚かな魔王ルシファーと偽りのレヴィアタン。

 私は正当なるレヴィアタンの後継者、カテレア・レヴィアタンです。

 この度はあなた方に面白い知らせを持ってまいりました」

 

「面白い知らせだと……?」

 

そうしてカテレアが指し示した先には、魔術で作り出された映像が宙に浮かび上がる。

そこには、満身創痍の状態で磔にされたリアス・グレモリーが映し出されていた。

 

「り……リアス!!」

 

「ご覧の通り、リアス・グレモリーは我々の手中にあります。

 返して欲しくば、我々の要求を飲んで頂く事になります」

 

「……碌な要求じゃねぇだろうが、一応聞くぜ。何だ?」

 

カテレアの要求。それは、冥界の政権を旧魔王派に戻すこと。

今回行われた三大勢力の和平交渉を白紙撤回すること。

そして……新魔王4人の首を、一週間以内に旧魔王派に差し出すこと。

 

「……ふざけているのか? 今ならまだ、恩赦の余地はある。

 そうでなくとも、既に冥界の政権は我々の方にあるはずだ。

 貴公らが行っている事は、立派な反逆行為だ。

 それ以前にリアスを返せ。彼女は何も関係が無いはずだ」

 

「関係が無い? ふざけているのはそちらのほうですわ。

 サーゼクス、あなたの妹と言うだけで我々にとっては不倶戴天の敵なのです。

 いずれ我々にとって恐るべき存在となるやも知れません。

 最も、こうして簡単に我々の手に落ちる以上、杞憂かもしれませんが」

 

旧魔王派と新魔王派。彼らは政治方針から何までとことん対立しており

それが冥界の表向きの最たる社会問題になってさえいるほどだ。

こうして交渉が平行線をたどることなど、珍しくも無い。

 

「……新魔王派は現実を直視せず、旧魔王派は過去の栄光に縋り。

 やれやれ……先ほど私は冥界の現状をソドムとゴモラになぞらえましたが

 まさしくその通りですね、カテレア・レヴィアタン。

 よもや、私の顔を見忘れたとは言わせませんよ。

 神の炎(メギド)に焼かれたくなくば、直ちに展開している戦力を全て撤収させなさい」

 

「……か、神ですって!?

 バカな、あの時確かにヤハウェは消えたはず……!!

 い、いえ……あなたは所詮偽神。偽りの神如きが、崇高なる我らの目的を阻むなど!」

 

沈黙を守っていたヤルダバオトが前に躍り出て、カテレアに睨みを利かせるが

カテレアは動じることなく、要求を取り下げようとはしない。

ヤルダバオトが表に出たことでカテレアの優位性に揺らぎが生じたと見たか

アザゼルも得意げに語り始める。

 

「崇高ねぇ。俺にはカビの生えた饅頭程度の価値しか見出せねぇけどな。

 それにな、いくらお前らと言えども白龍皇(バニシング・ドラゴン)を相手にただで済むと思ってるのか?」

 

白龍皇。その名前を出した途端、追い討ちをかけられたかのようにカテレアは黙り込む。

白龍皇アルビオン。赤龍帝ドライグを冥界が擁しているように、堕天使もまた

白龍皇を自分達の戦力として擁している。そうアザゼルは思っていた。

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)である兵藤一誠をリアス・グレモリーが目にかけているように。

白龍皇であるヴァーリ・ルシファーの面倒をアザゼルは見ている。本人はそう自負していた。

当の白龍皇は赤龍帝と違い会議には出席せず、会場警護を担っていた。

これは堕天使陣営の人手不足の問題と、ヴァーリ本人の希望でもあった。

曰く――

 

俺は和平などには興味が無い。求めるのはただ強敵との戦いのみ。白龍皇も同じく、だ。

俺は仲良しゴッコに興じるつもりはない、やりたければお前達だけでやれ。

 

――と。

 

この発言にはアザゼルも肩を竦めたが、ヴァーリの意思を尊重する姿勢をとっていた彼には

これ以上の追求は出来なかった。

最も、参加したところで和平は望むべくも無い現状であり

堕天使陣営の見苦しさをまざまざと見せ付けられる形になるだけで

参加しなくて正解だったかもしれないのだが。

 

「ま、ここには二天龍が揃い踏みしてるんだ。下手な気は起こさないほうがいいと思うがな」

 

二天龍。その存在は三大勢力にとって騒動の抑止力足りうるものである。

アザゼルも彼らに被害を被った手前、こうして自身が持つ

白龍皇をジョーカーとしてちらつかせている。

そうなれば面白くないのは神仏同盟だ。そんな危険なものを揃えて自分達の領土に置いている。

その件に関してサーゼクスからも、アザゼルからも一言の通達も無い。

まるで「制御には成功していますから何も心配は要りません」と言わんばかりである。

 

だが、果たしてかつて世界を震撼させたドラゴンが大人しくしていられるのか。

ヤハウェをもってしても、神器への封印が精々であった二頭の龍を。

それを御することが出来ると思うのは、大層な思い上がりではないだろうか。

何を根拠に、彼らは二天龍を自らの下に置いたと思えるのだろうか。

 

「赤龍帝――兵藤君がお前達の目論見を破りに向かった。

 当代の赤龍帝は、お前達のやり方を否定するらしい。

 カテレア。それでもまだ、お前達は旧い血に固執するのか?

 血に拘っていては、我々悪魔の未来は無いのだぞ?」

 

――尤もらしいことを言っているが、結局は龍の威を借っているだけではないのか?

一連のアザゼルとサーゼクスの態度を見て、大日如来にはそのような考えが過ぎっていた。

何故、自分達で解決しようとしないのだろう、と。

何故、ドラゴンの力に頼っているのだろう、と。

特にサーゼクスなど、本来ならば自分が率先すべきことではないのか?

その大日如来の考えは、天照によって口に出されることとなった。

 

「……サーゼクス様。此度の事案はどう贔屓目に見てもあなた方の政治問題。

 その政治問題を異郷の地であるここに持ち込んだことについては

 後ほど、しっかりと追及させていただきます」

 

「……我々冥界政府は、決して日本神話を陥れようとしてこのような真似をしたわけではない。

 その事だけは、どうかご留意いただきたい」

 

「そうじゃない。『禍の団』とお前のところの前政権が繋がっているのが問題だといっている。

 新政権は、前政権の不平不満を発散させることも出来ない無能の集まりなのか?

 ……釈迦に説法とは言うが、お前達の場合は馬耳東風――馬の耳に念仏、だな。

 我々は降りかかった火の粉を払うべく禍の団に対し断固とした態度を取る。

 言い方は悪いが、人質程度に屈していては、あの手合いは図に乗る一方だぞ」

 

一連の騒動に、神仏同盟もこめかみをひくつかせていた。

サーゼクスの意見も跳ね除け、禍の団に対し断固とした態度を取ると宣言している。

それはつまり、リアスの身の安全は保障しないという事でもある。

 

「……っ、ではリアスはどうなるというのだ!」

 

「待ちなサーゼクス。悪いが、これは神仏同盟のほうが正しいぜ。

 あの嬢ちゃんには悪いが、奴らに付け入る隙を与えたらその時点で俺達の負けだ。

 それにな、俺としてもお前のところのゴタゴタに巻き込まれるのは御免なんだよ」

 

「アザゼル……っ! 貴様とて己の幹部の動向を事が起きてから初めて認識したというに!」

 

アザゼルもまた、神仏同盟の意見に同調しているが

そこはサーゼクスに「お前が言うな」とばかりに糾弾されている。

まるで歩調が合っていない。それが、ヤルダバオトや神仏同盟から見た

三大勢力の現状である。

 

「……天使や堕天使はもとより、悪魔も本を質せば私から生まれた存在。

 それがこのような事態を招いた事、誠に申し訳なく思います……」

 

「……お釈迦様は言っていた。

 『「私は愚かである」と認められる者こそ、賢者である』……とな。

 確かに彼らの愚行は我々にとって害だろう。だが、害と分かれば

 それを正す事もまた、不可能ではないはずだ」

 

「頭を上げてください、ヤルダバオト様。

 今はこうして責任の擦り付け合いをする時ではないと思います。

 結界で守られこそすれ、土地自体は人間の世界のものです。

 この地に住み、平和な暮らしを営む人々のためにも

 この事態を打開する事を考えましょう」

 

神仏同盟への謝罪の言葉と共に頭を下げるヤルダバオト。

偽者とは言え聖書の神、唯一神がこうして頭を下げる姿は

信徒が見たら腰を抜かしかねないだろう。しかし、彼にしてみれば

このように頭を下げざるを得ないほど、彼の直系の子とも言える

三大勢力がしでかした事は大きかったのだ。

そんな彼を、神仏同盟は糾弾しなかった。

あらゆるものを受け入れる神の寛大さ、仏の慈悲の心。

そうしたものを、天照も大日如来も当然持ち合わせている。

その対象は、人に限らない。

それは、先ほどヤルダバオトが三大勢力のトップに向けて言い放った言葉と同質であった。

 

「お二方のお心遣いに感謝いたします……すみません。少し失礼。

 

 ……はい、薮田(やぶた)です。

 ああ、(やなぎ)君ですか……っ!? それは事実なのですね……?

 わかりました。すみませんが、私は今手が放せません。

 ご心配なく、安全は確保しております。

 ええ……ええ。防衛省への連絡など、本郷(ほんごう)警視総監を当たってください。

 曲津組(まがつぐみ)の背後にいる悪魔の出自は私の独自の調査で掴めています。

 資料については私の手元にあります。

 私のほうは問題ありませんので、警察官の職務に専念してください。

 よろしくお願いします。では……」

 

ヤルダバオトが持っていた携帯に着信が入る。

当然、今この場で初めてヤルダバオトとして名乗りをあげたので

かかってくる連絡は人間・薮田直人(やぶたなおと)に対するものである。

 

事実、かかってきた連絡は超特捜課(ちょうとくそうか)の課長、テリー柳からのもの。

薮田直人として対応したその内容は、防衛省の名前が出たり

警視総監クラスが動かざるを得ない事態になっていたりと

ただ事ではない様相を呈していた。

 

「サーゼクス。あなたは冥界でどういう悪魔の管理をしているのですか。

 今しがた、恐らくは契約した悪魔に唆されたのでしょう。

 人間界の反社会的組織……平たく言えば暴力団ですね。

 彼らが一斉に抗争を起こしたと私のところに連絡がありましたよ。

 つまり、今この結界の外は大騒ぎになっています。

 幸い、住民の避難などは警察が行っており、悪魔への対応も超特捜課が動いていますが……」

 

「管理などと……そんな住民をモノとしてみるような方針は、私のやり方に反する!」

 

「今はそんなことを言っている場合か。そのモノではない連中が

 こうして人間界に実害をもたらしているのだ。

 自分達の契約者を唆した上で、な。

 はぐれ悪魔の暴走とも違うのだろう? これはどういう了見か、説明してもらおうか」

 

悪魔とつながりを持っていた暴力団組織と言えば、昨今駒王町で勢力を拡大していた

曲津組が挙げられる。しかし、暴力団は曲津組だけではない。

寧ろ、暴力団同士の抗争こそが暴力団が暴力団足りうる事案になっていることも

決して少なくない。

そして、そこに悪魔が、禍の団が付け入る形となったのだ。

しかも、抗争を起こしたタイミング。どう考えても、この会談に合わせてある。

会議場周辺では魔術師を中心とした部隊が。町内では悪魔と彼らと契約した

暴力団が抗争と言う形で混乱を引き起こし、迂闊に外に出られなくする上に

外部からの干渉を完全に阻止している。物理的な結界と言えよう。

 

「これは契約の法規に明確に反している。今回の契約に携わった者には

 後ほど厳罰を与える。また、今後このようなことが起こらぬよう……」

 

「そうじゃない。今この場でこうして現実に起きている。

 現在起きている事案に対してはどう対処するつもりなんだ。

 まさか……人間に任せるつもりなのか?

 だとしたら……ヤルダバオトの言っている事を完全に履き違えているとしか言いようが無いな」

 

「で、ですが我々から人間への干渉は最小限にすべきと……」

 

「意味が違いますよ。今回の事案は、悪魔によって唆されたのが原因でしょう。

 だとしたら、サーゼクスはもとよりミカエル。

 あなたこそこういう場面に出るべきではないのですか。

 何のための悪魔祓いなんですか。

 

 それに、私はそういう観点からも三大勢力の和平には疑問を抱いていました。

 神と魔、そのバランスが崩れればそれは最早災厄しか生まなくなります。

 そうなってしまえば、世界の、生命のためを思えば駆逐すべき存在は誰か……

 それが分からないとは、言わせませんよ」

 

今回の事案は、悪魔が起こした事件であるにも拘らず

魔王として抑止力としての行動を起こさないサーゼクスや

悪魔を祓う者を取り纏める立場にあるべきミカエルに、鋭い指摘が飛ぶ。

成すべきことを成さなかったツケは、今ここで支払わなければならない事態に陥ったのだ。

 

「……し、仕方ありません。各地の悪魔祓いに通達を。

 『駒王町を中心に活動している悪魔勢力を撃退せよ』と通達なさい。

 我が信徒の安全には変えられません……」

 

「いいのかよミカエル。和平前にそんなことをすれば、またどっちかのマスコミが騒ぎ出すぜ?」

 

「お前は黙っていろアザゼル。セラフォルー、こちらも冥界に連絡だ。

 場合によっては、『彼ら(イェッツト・トイフェル)』をここに派兵する」

 

「その事なんだけど、さっきから呼び出してるのに

 ファルビーもアジュカちゃんも出ないんだよぉ~」

 

セラフォルーの空気を読んでいないくらいに気の抜けた声で告げられたのは

「冥界と音信不通になっている」と言う事態。

それには流石に、サーゼクスも嫌な汗が流れるのを感じ取った。

 

「冥界から応援を呼ぼうとしても無駄な事。ここにあなた方が集いしことを

 後悔しながら苦しみ続けなさい。そして……

 

 ……望まれぬ……世界を……望む者を……破壊……

 我らは……望む……静寂なる……世界と……純粋なる……存在を……」

 

「……っ!? 雰囲気が……違う!」

 

「ちょっ……カテレアちゃん、どうしちゃったの!?」

 

そんなサーゼクスをさらに追い詰めるかのように、カテレアの様子が豹変する。

それは、かつてイリナを捕縛した時と同様。リアスを捕らえた集団と同様のことを呟き

レヴィアタンの魔力とは全く異なる、得体の知れないオーラを纏っている。

褐色の肌も青白く変色していくことからも、それがただ事ではないことが見て取れる。

その証拠に、カテレアの腕に付けられた赤と青の石が埋め込まれた腕輪は

激しい輝きを放っている。

 

「……それがお前の望みだってのか、カテレア。

 無駄に格好だけつけたって、言ってる事が下らなさ過ぎるんだよ」

 

「我らの望む……世界に……お前達は……不要……

 故に……破壊する……望まれぬ……世界を……望む……者達を……」

 

次の瞬間、会議室の内部に突如として黄色い角を生やし、赤い宝玉のような目を持ち

腹部にまた赤い宝玉を備えた白い骨の怪獣のような怪物の軍団が現れる。

それらは、何もないところから出現し会議室にいた全員を包囲していた。

悪魔でも、はぐれ悪魔でも、ましてや堕天使でもない。

まるっきり見たことの無い異形の存在であった。

 

「こいつら、どこから……!?」

 

「……『時間加速空間(クロックアップ)』の類ではないな」

 

「カテレアちゃんの眷属でもない、本当に見たことの無い怪物だよ!

 でも、私の番組の敵役にちょうどいいかも!」

 

セラフォルーの暢気な発言は、その直後の骨の怪物の攻撃に撤回されることとなる。

彼らが持つ左腕の巨大な爪。それは校舎のコンクリート壁を泡を崩すかのように

簡単に切断してしまう。建造物は結界で保護されているにも拘らず、だ。

立て続けに別の個体は肋骨を飛ばしてきたり、角を巨大化させブーメランのように

飛ばしてくるなど、明確に攻撃の意思を見せてきたのだ。

当然、それらの攻撃もコンクリートなどものともしない。

 

「見境なしってわけか……おいサーゼクス。神仏同盟じゃないが

 これは一体どういう事だよ」

 

「……私にも分からん! 一つ言えるのは、この場にいる非戦闘員の参加者を

 直ちに避難させなければならんと言う事だ!」

 

「……無駄。既に……包囲……してある……

 それに……逃げれば……奴が……滅ぶ……」

 

会議室に残っている非戦闘員ないし、戦闘力の低い者――

ソーナ・シトリーの眷属の一部と、天照の付き添いで来た旧海軍軍服の男性。

彼らはこちら側の事情を知っているとは言え、戦闘力に関して言えば

一線級には遠く及ばない。軍服の男性に至っては、その服装に反し完全に非戦闘員である。

そんな彼らだけでも避難させようと試みるが、カテレアはそれを許しはしなかった。

なぜなら、彼女らの下には――

 

「ううっ……!」

 

「リアス!!」

 

「選びなさい……そこで……滅ぶか……この者を……捨てるか……」

 

カテレアの魔力刃が、リアスの首をなぞる。

彼女の髪のように赤いラインが、首に浮かび上がっていく。

このまま力を加えれば、首と身体は離れかねない。

 

(俺の「時間加速空間」を封じる意味合いもかねて、あの怪物を使役したと見ていいな。

 突然現れたことといい、「時間加速空間」が奴らに通じるかどうかが分からん)

 

(このまま手をこまねいていても、事態は進展しないでしょうけどね……

 私としては、リアス・グレモリー君を見捨てて打って出るべきとは思いますが

 これでも人間としては教師でしてね。生徒を見捨てると言う選択肢も出せません。

 そこまで見越してはいないでしょうが……人として生きるのも不便なものですね。

 それを否定するつもりは、ありませんけどね)

 

人質作戦は、単純ながらも功を奏していた。

正しく全能の神たるヤルダバオトも、時間加速空間で人質救出が容易な大日如来も

未知の敵戦力に対し身動きが取れずにいた。

睨み合いが続く中、ようやく事態が動く。

 

「部長ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「い……イッセー!?」

 

「赤龍帝……望まぬ世界を……望む者……故に……排除……」

 

囚われたリアスに向かい、一直線にイッセーが突っ込んでくる。

当然、その動きはカテレアからも丸分かりであり

そこに新たに召喚した骨の怪物を差し向ける。

 

WERSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

「部長に手ぇ出すんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「!?!?!?」

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)。イッセーの迷いの無い心のまま展開されたそれは

骨の怪物をものともせず蹴散らしていく。

そのまま、事態は好転するかに思われた。

 

「……無駄な……こと……」

 

しかし、そんなイッセーの快進撃を嘲笑うかのように骨の怪物は無限に現れる。

サイズも人間の成人男性よりやや大きめの固体から、子供程度のサイズまで様々だ。

その子供程度のサイズのものは、イッセーの四肢にしがみ付き動きを封じようとしている。

 

ふと、カテレアの肌が青白いものから元の褐色へと色を変える。

それに伴い、纏っていたオーラも元来のカテレアのものへと戻っていく。

しかし、骨の怪物はそれとは関係なくイッセーの動きを封じている。

 

「くそっ、離せ! この骨野郎どもぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……っ。また……けれどこれは好機!

 見なさい! これが純粋なるオーフィスの力!

 いえ……最早『無限龍(ウロボロス・ドラゴン)』などと言う呼び方も相応しくありませんわね。

 『純粋なる龍(ライン・ドラッツェ)』、とでも言いましょうか。

 さあ! 今こそ純粋なる無限の力を思い知りなさい!」

 

カテレアの声に応えるように、突如としてイッセーの足元に巨大な腕が現れる。

それは人間のそれではなく、寧ろ龍のそれに近い。

その様は、地上に生え出てきた牙のようでもあった。

そしてそれは、骨の怪物ごとイッセーを握りつぶそうとしている。

 

「イッセー!!」

 

「あははははははっ!! 所詮赤龍帝など旧い時代の伝説にすぎません!

 これからは、我らが新たな歴史を、時代を、世界を――

 

 ――望まれぬ世界を滅ぼし、純粋なる静寂の世界!

 純粋なる生命のルーツ! 正しき形の始まりの地!

 そう……我々こそが……」

 

――過去であり、未来。神も、魔も。全ては私達が生み出そう。

 

カテレア・レヴィアタンは自身の付けた腕輪の力に呑まれた。

そこにいるのは、全く未知の世界から来た、忌むべき来訪者。

或いは、招かれざる異邦人。

 

――否。そもそも悪魔は、この人間の世界に住む者にとっては

正しく忌むべき来訪者であり、招かれざる異邦人なのかもしれない。

そんな彼女らが築き上げようとしているのは、愚か者達の帝国なのか。

 

禍の団は、その貌を大きく変えつつも、成そうとしている事は変わらず。

今ある世界を滅ぼし、新たな世界を作る。

それは、元来カテレア・レヴィアタンが、旧魔王派が抱いていた野望そのものであった。

カテレアの人格は大きく歪められたものの、目的は全く変わっていない。

 

そして、そんな激動の会議室に向かっているセージとギャスパーの二人の元にも

骨の怪物が現れようとしているのだった……。




イリナはぶっ壊れ、そのイリナを浚い
今度はリアスを人質にとったカテレアさんもまたぶっ壊れてます。

>イリナ
普通に擬態の聖剣持ち逃げしてます。
カテレアに浚われた際に色々教わった(吹き込まれた)ので
聖剣返す義理どころか騙し討ちさえ画策してます。
実際アスカロンとか持ち逃げみたいなものですし。

……ヤンデレってこういうのでいいのかなぁ。

>サーゼクス、リアス
要所要所でリアスが人質になったせいで株価を落としているような。
でも実際、テロリストってこれくらいやるのが普通だと思うんです。
これに関しては現実が創作に追いついた、或いは超えてしまった
事案が起きてしまいましたが……
でもここで断固とした態度取らないと付け上がらせるのも事実。
指導者としての資質はこういうときにこそ問われるものだと思います。
いくら平和な世で名君だ名君だ言われてても……ねぇ。

>骨みたいな怪物
カテレアの豹変具合と言いこれである意味答え出てるようなものですけど。
今回は今までみたいにネタとしてではなく
シナリオにも大きく絡んだ形で採用かけているキャラクターですので
一応伏せさせていただいて……

怪物や背後にいる者の正体が分かった方はメッセージでお願いします。
当たっても「やったね、すごいね」って返信と
もしかすると個別のネタバラシがついて来る以外何もありませんけど。
感想掲示板に書いても一応消しはしませんがこの件に関する返答は致しかねる
場合がありますのでご了承ください。

劇中大日如来様がクロックアップが通用するかどうか迷ってましたが
普通に通用します。>怪物
出現方法が出現方法で、かつ全くの未知の相手で人質をとられているという
物凄い不利な状態だったのであの時点では博打になるクロックアップを控えていただけです。

>オーフィス
前述の骨の怪物にも絡む形になりますが
原作に無い能力を普通に使ってます。
カテレアや一部構成員が装備していた赤と青の石のついた腕輪。
これは原作における「蛇」の役割を担っています。
この赤と青の石、ってのも怪物やオーフィスが手を組んだ相手の正体のキーワードです。

>招かれざる異邦人、忌むべき来訪者、愚か者達の帝国
そのまんまスパロボのBGMタイトルより引用。
そして件の怪物とも大きく関わっているタイトルだったり。

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