ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

70 / 151
誤字脱字誤植かましてる自分が言えたことでもないんですが
スペルミスってのも結構萎えるポイントですよね……

ちょっと悪意のある前置きですかね?


Chaos Brigate

――その時、確かに時間は静止していた。

 

「……なるほど。これが俺を呼んだ理由か? ヤルダバオト」

 

「それもありますが、これだけではありませんよ。

 私の言いたいことは、凡そあなた方と一緒でしたので。

 日本のあなた方に言っていただくほうが、説得力も増すでしょうし」

 

周囲の景色は色を奪われ、生きていないかのように動かない。

しかし、三大勢力首脳陣と偽神ヤルダバオト、神仏同盟の二人は変わらず動いている。

周囲は彼らを除き静止しているが、建物はわずかながらに揺れている。

地震は静止した時間の中では起きない。それが意味するものは一つ。

 

――攻撃を受けている。

 

「……『禍の団(カオス・ブリゲート)』、だな。こんな事をするのは」

 

苦虫を噛み潰したような顔でアザゼルが呟く。

曰く、「禍の団」と呼ばれるテロ組織が、今回の会談に合わせ襲撃してきたとの事。

和平に限らず、勢力同士の協調・対立には反対する動きは珍しくない。

いくら国のトップが和平交渉を進めようとも、末端の者まで完全に意見を同一にする事はない。

それが成されるのは、個というものを完全に取り払った社会のみである。

 

「……お前達は何処まで俺達に迷惑をかければ気が済むんだ」

 

「それを言うなら、首を突っ込んできたのはてめぇらだろうが。

 俺達は俺達だけで問題を解決しようとしてたんだがな」

 

「お二人とも、今は喧嘩をなさっているときではありません。

 何とかして、この状況の打開を目指しませんと。狙いは恐らく……」

 

「……私達、だろうね」

 

そして、そうした悪質な組織が狙うのはトップであると相場が決まっている。

魔王サーゼクス・大天使長ミカエル・堕天使総督アザゼル。

そして彼らがここにいるかどうか知っているかは分からないが日本の主神天照大神。

仏教の最高位に座する仏、大日如来。

聖書の勢力を取り纏める唯一神ヤハウェの影武者、ヤルダバオト。

テロリストにしてみれば、一網打尽に出来る千載一遇のチャンスである。

 

……できるものなら、だが。

 

「完全に包囲されていますね。時間を止めている間に集中砲火を浴びせ

 建物ごと私達を葬るつもりでしょう」

 

「かと言って、下手に打って出ればどさくさに紛れて結界を解いて

 外に被害を齎されかねない。

 しかし解せねぇのは、奴らがどうやってこの結界の中に入り込んできたのかって事だ。

 ……ま、うちもコカビエルって内通者を出している手前、偉そうなことは言えねぇけどな」

 

コカビエル。かつてこの駒王町で騒乱を起こした下手人。

アザゼルによる取調べの結果、ギリシャ由来の戦力は禍の団経由で流されたことが判明していた。

その事から、コカビエルは禍の団と内通しており、堕天使陣営の情報が

大なり小なり流れていることは想像に難くは無い。

 

「原因を探るのは後でも出来るでしょう。とりあえずは……」

 

「俺が行こう。この程度の時間静止ならば、俺で十分対応できる。

 『停止の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』とやらの力だろうが、所詮無理矢理引き出した力だ。

 正しく最大限に引き出した俺の力には到底及ばない」

 

大日如来が腰帯の右側面に下げられた数珠を握り、念じると

一瞬にして姿を消す。この静止した時間の中においても、大日如来の時間は

彼自身の時間そのままであった。彼の時間が加速すれば、彼自身もそれに合わせ加速する。

それは、他者の何者も干渉することは出来ない。追いつくことは出来るかもしれないが。

 

「……『時間加速空間(クロックアップ)』ですか。これならば静止した時間をものともせず動けますね」

 

「恐ろしい力だよ。なるべくなら、彼は敵に回したくないな」

 

停止の邪眼によって静止させられた時間を、時間加速空間で上書きする。

力技ともいえるそれは、禍の団にとっては想定外だったらしく

先ほどから続いていた攻撃が一瞬にして止まり

それと時を同じくして、大日如来が再び姿を現す。

 

その間、体感にしてわずか数刻のことであった。

 

「お早いお帰りだな、マハヴィローシャナ」

 

「軍勢はここにいるだけではないだろう。俺がやったことは時間稼ぎにすぎん。

 何とかして、元を断たねばなるまい」

 

「ああ。そして、『停止の邪眼』を用いたと言うことは彼らの拠点は……」

 

「……旧校舎、ですね」

 

旧校舎。オカルト研究部の部室があり、専らリアス・グレモリーの別荘と化している

この空間。ここに停止の邪眼を持つギャスパーを一人でおいてしまったがために

このような事態を招いてしまった部分は否めない。

この結論が出ようとする頃、一部の生徒らも少しずつ時間停止の効果が解け

動けるようになっていた。

 

――――

 

旧校舎の一室。ここはかつてギャスパーが幽閉されていた場所であり

現在はセージがその代わりに幽閉されている場所である。

会議場のある新校舎とは異なり、禍の団の拠点であるこちら側には時間停止の効果は無い。

そのおかげか、セージは自由に動けていた。状況は把握していないが。

 

(外が騒がしい……? まさか、さっきの連中!)

 

先刻転寝から覚醒した際、部屋の前を横切るローブを来た集団が通り過ぎるのを見ていた。

何か起きているとするならば、彼らの仕業だろう。

 

(ここにこのままいるのは得策とは言えないか……だがどうやって出る?

 ……そうだ、さっき渡されたメモに……)

 

今の自分に力がないとは言え、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

しかし出ようにも、幽閉されている以上任意で外に出ることは出来ない。

そこで、セージは会議が始まる前に小猫に渡されたメモを読んでみることにしたのだ。

 

――窓を拭き忘れたので、代わりに拭いておいて

                   木場祐斗

 

「祐斗ぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「むっ、何だ今の声は!?」

 

「はっ、しまっ……」

 

そのまるで空気を読んでいない内容に、セージの叫びが木霊したのは言うまでもない。

思わず出てしまった声に慌てて口を押さえるが時既に遅く。

その声に反応した一人のローブの男がやって来るが、セージには気付かない。

霊体のセージは見えていないようだ。

 

「……ただの空き部屋じゃないか。強固な結界は張られているようだが……

 くそっ、俺の力では開けられないな。だが誰もいないこの部屋から声がしたような……?」

 

(……どうなるかと思ったが、奴らは俺が見えていないのか。

 となれば如何様にでも対処は出来るが……奴らもここを開ける術はないみたいだな。

 やれやれ。無駄に強固な結界を張ってくれちゃってまぁ……)

 

外の様子を伺いながら、セージは今自分がどうすべきかを考えていた。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)が使えるならば、すぐにでも打って出られただろう。

だが、今は使えない。実体化こそ出来るものの、読み取りも記録も出来ないのだ。

鍵のかかった分厚い本。それが今の記録再生大図鑑の持つ価値である。

この部屋から出る方法。凡そ普通の方法では出られない。

鍵は持っていない。外の連中に開けさせるのも困難だろう。

となれば、どうするか。

 

(外に出る方法……俺はあの時、壁越しにこの部屋に入ったが

 俺が幽閉されるに当たってそっちにも結界が張られている。この手は使えないな。

 扉。言うまでも無くアウトだ。

 奴らだって態々集団で空き部屋であろう

 ここを開けようとする物好きはいないだろう。

 壁もダメ、扉もダメ、となると……)

 

ふと、思わず投げ捨てたメモがセージの目に入る。

そこには窓を拭いておいて欲しいと、緊張感の欠片もない、まるで空気を読んでいない

木場の依頼があったのだが、これを見てセージはあることに気付く。

 

(そういえば、窓はチェックしていなかったな。どれ……つっ!)

 

窓に触れようとした手に痺れが走る。

こちらにも当然の事だが、結界が張られていた。

だが、その結界の強度は扉や壁に比べると弱かった。

 

(痛みはあるが……無理やり突破できないほどじゃない。

 出るなら……ここを使うしかなさそうだ……だが)

 

窓の外を見てみる。新校舎を取り囲むようにローブの集団がいる。

今外に出れば、彼らに気付かれる怖れもある。

こっちにいる連中はセージに気付かないが、外の連中も同じとは限らないのだ。

 

しかし、そんなセージの懸念を打開する出来事が起きる。

セージは知る由も無いが、大日如来がローブの集団を撃退したのだ。

時間加速空間を展開した大日如来をセージの目が捉えることは無く

セージの目には突然ローブの集団が崩れ落ちたように見えたのだ。

 

(なんだ? 突然あいつらが集団で倒れ……?

 ま、まあとにかく今がチャンスだ! 今のうちに外に出ないと!)

 

意を決し、窓の結界に飛び込むセージ。

窓からは火花が散るが、意に介さずそのまま強引に突破を試みる。

 

「ぐ……ぬ……これ……くらいっ!

 腕……取られた事に……比べりゃあっ!!」

 

気合を入れると同時に、セージの霊体は結界を突き破り、窓から外に飛び出す。

生身の身体ならば落ちたかもしれないが、霊体である以上その心配は無い。

しかし結界を強引に抜けた後遺症はあるらしく、肩で息をしていた。

霊体であるのにこの行動をとるのは、肉体があったときの名残であろう。

 

(ふうっ、ふうっ……よし、何とか外に出られたな。

 後は部室に乗り込めば……)

 

霊体のまま、セージは旧校舎の玄関に回りこみ中に突入する。

道中何人かローブの男女がいたが、彼らは皆一様にセージには気付かない。

それは即ち、彼らの実力は魔王眷属よりも下である事を意味していた。

 

(少なくとも、グレイフィアさんよりは危険度は高くないか。

 だが数が多いし今の俺にまともな戦いができるとは思えない。

 なるべく無駄な戦いは避けるべきだな……)

 

気付かれぬお陰で、一切の妨害を受けることなく部室へとたどり着いたセージ。

その前には、茫然自失としているゼノヴィアの姿があった。

意外な存在に、セージは思わず実体化し駆け寄る。

 

「ゼノヴィアさん!? どうしてここに!?」

 

「君は確か……ははっ。私もよくよく運が無い……

 あれだけ捜し求めていたものが、まさか最悪の形でみつかるなんてな……」

 

ゼノヴィアの言っている事はセージには読み取れなかった。

しかし、彼女が相当なショックを受けていることだけは見て取れる。

その原因まではわからないが、これから騒動が起きるであろう

ここに置いたままでいいものかどうか。

 

「立てるか? 俺はこれから、ローブの連中が入ったであろう部室に乗り込む。

 それより、あいつらは一体何者なんだ? 中に入ったって事は、中にいるギャスパー……

 グレモリー部長の眷属なんだが、彼に用事があるのだろう。

 だが、どう見ても善良そうな連中に見えない。知っていたら教えてくれないか?」

 

「……彼らは『禍の団』。有体に言えばテロリストだ。

 私も詳しくは知らないが、今日ここで三大勢力の和平交渉が行われているらしい。 

 その会談の妨害が主目的だろうとは思うのだが……まさか……な……」

 

説明し終えると同時に、ゼノヴィアは項垂れてしまう。

その沈みように、セージも当惑していた。

 

「困ったな……俺も見ての通り、五体満足じゃない。

 そちらを気にかけながら戦うなんて真似は出来ないぞ」

 

「いや……そこまで気にしなくていいさ。

 私はここで少し気を落ち着かせる。今のまま君についていっても

 恐らく足手まといだろうからな。ここにいる連中くらいなら、私一人でも大丈夫だ」

 

セージは存在しない右手を見せながらゼノヴィアに現状を説明するが

ゼノヴィアも精神面の疲労が大きいのか、動けそうも無い。

やむなくセージはゼノヴィアをここに残したまま、霊体に戻り部室へと忍び込む。

 

部室には、案の定紙袋を被ったギャスパーがローブの女性に捕まり、椅子に縛られていた。

抵抗をした様子は無い。室内がいくらか荒らされてはいるが

それは抵抗によるものではなく、物色の痕跡によるものだとセージは直感した。

 

――物が壊れていなさすぎる。

 

それが、ギャスパーが抵抗もせず敵対勢力の手に落ちたことの証左であった。

 

さて。ローブの女性も外の連中と変わりなくセージには気付いていない。

しかし、人質がある以上下手な真似はできない。

決定打を加えようにも、今のセージにはできる手段が限られている。

 

実体化して大立ち回り……論外。

今のセージの力で、この室内……ざっと5、6人はいるであろう

ローブの集団を相手に出来るとは思えない。

 

隙を見てギャスパーの縄を解く……捕まる。

これが最終目標には違いないのだが、それを今やったところでまた捕まるのが落ちだ。

結局、前述の方法と同じになってしまう。

 

となれば……外で騒ぎを起こし、隙を見てギャスパーの縄を解く。

これが今できる最善手であろう。

外で騒ぎを起こす……霊体のまま、廊下辺りで大きな物音を立てれば反応もあるだろうか。

先ほど大声を上げたときも、彼らは部屋までやって来た。

 

気付かれぬよう、そっと適当なガラクタを持ち、部室を後にする。

そのセージの一連の動きは、ギャスパーでさえも気付かなかった。

 

(さて……後はこれをモーフィングで癇癪玉くらいには変えられるだろう。

 廊下の適当な場所にセットして、奴らがやってくるのを待つか……)

 

周囲に人がいないのを確認した後、実体化し左手でガラクタに魔力を注ぎ込む。

 

「――モーフィング、『ガラクタ』を『癇癪玉』にする――!!」

 

数は少ないが、うまくいった。

今まで龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を用いていたのは、難易度の高いものだったり

まだ慣れていなかったりでサポートとして必要だったのだ。

術式は頭に入っている。それを行使するだけの魔力さえあれば

モーフィングは成功するのだ。

 

(うまくいったか……ふぅ。後はこれを……)

 

大きく振りかぶり、おもむろに廊下に投げ込む。

思惑通り、廊下で炸裂音が発生する。

霊体に戻り、物陰から部室の様子を眺める。

 

「何だ今の音は!?」

 

「侵入者か!?」

 

ぞろぞろと、室内からローブの集団が出てくる。

思う壺とばかりにセージはほくそ笑みながら、霊体のまま彼らとすれ違う。

狙うは一点、部室にとらわれたギャスパーの解放。

それだけを目標に、一目散にセージは部室へと潜り込む。

 

目論見どおり、部室の中でギャスパーを見張っているのはローブの女一人だけだ。

ぞろぞろと繰り出したローブの集団の単細胞っぷりにセージは内心笑いが止まらなかったが

自分達の陣営も然程変わらない事を思い返し、冷静に戻っている。

 

「くっ……時間はこのハーフヴァンパイアの神器(セイクリッド・ギア)で静止させたはず!

 外の見張りもあの聖剣使いが戦意喪失させたのに、まだここに戦力がいたと言うの!?」

 

ただの癇癪玉一発にうろたえる集団と言うのも、見ていてバカらしい。それもテロリストが、だ。

セージがそう思っていたかどうかはわからないが、ローブの女が隙だらけなのは間違いなかった。

これは最早奇襲してくださいと言っているようなものであった。

 

セージはおもむろに彼女の背後に立ち、記録再生大図鑑を実体化させる。

左手部分だけの実体化なので、傍から見ると辞書を持った左手が浮いているようにも見える。

 

「……ふんっ!!」

 

「がはっ……!?」

 

記録再生大図鑑。セージの神器であるそれは、初めて具現化させた際に

ドライグから貸与された鱗が変異した「龍帝の義肢」とリンクする形で具現化した。

そのため、龍帝の義肢は記録再生大図鑑の鍵の役割も果たすこととなり

龍帝の義肢のない今、記録再生大図鑑はそこに記された知識を生かすことも

そこに新たな知識を刻むことも出来ない。

 

しかし、セージはそんな一見使い物にならない神器だろうと使っていた。

……鈍器として。

その証拠に、記録再生大図鑑の角にあたる部分が

ローブの女の後頭部に突き刺さるかのように降り下ろされたのだ。

 

「……電話帳とかの分厚い本はちょっとした凶器にもなる。覚えとけ」

 

「ひぃぃぃぃっ!? ひ、ひとりでに倒れたぁぁぁぁ!?」

 

ギャスパーもセージを認識していなかったとは言え

あからさまに怖がっているその態度にセージは辟易としながらも

ギャスパーの縄を解くことにした。

 

「俺だ。まあ幽霊の仕業だってのに間違いは無いが……

 って俺はまだ死んでない! 幽霊ってのは死人の霊魂だ! 俺は生霊だ!」

 

「な、何も言ってないです……」

 

セージの一連の行動が、ギャスパーの緊張を解くためなのかどうかは分からない。

ギャスパーは怯えながらも突っ込みを入れているが。

 

「……っと、そんなことより。早いところここを抜け出すぞ。

 今外に出たやつらが戻ってきたら、また元の木阿弥だ」

 

セージはギャスパーに逃げ出すよう提案するが、ギャスパーはピクリとも動かない。

腰が抜けているのか? とセージの問いにも首を横に振る。

 

「逃げても……変わりません」

 

「なに?」

 

「だってそうでしょう!? 今来た奴らはとんでもない数の大軍団で

 その中には聖剣使いや旧魔王派だっていたんですよ!?

 僕達が逃げ出したところで、結果なんて……」

 

ギャスパーが俯いたところに、突如として実体化したセージの左手が飛んできて

ギャスパーの胸倉を掴む。そのまま華奢なギャスパーの身体は持ち上げられる。

 

「てめぇで捕まっておいていう事がそれか。ふざけるのも大概にしろよ……?」

 

「や、やめてください。痛いのは嫌いです……」

 

ギャスパーの腑抜けた態度に、セージは内心助けたのを後悔しながらも

これが一番最適解であったと自分に言い聞かせている。

舌打ちと同時に、部室に魔法陣が展開され中からイッセーと木場が飛んでくる。

 

「ギャスパー、助けに来たぜ! ……ってあれ? セージじゃねぇか。

 お前、幽閉されてたはずなのになんでここにいるんだよ!?」

 

「面倒なタイミングで来たな。ギャスパーならご覧の通り、俺が助け出した。

 それより、今中にいた連中を外に誘い出したんだ。少ししたら戻ってくるかもしれない。

 迎撃するなり、逃げるなり手を打たないとまずいんじゃないか?

 ……と言うかだ。お前ら、会議に出席してたんじゃないのか?」

 

「そうなんだけどね……ちょっとまずいことになった。

 テロ組織が、三大勢力の首脳陣を狙っているんだ。

 副部長や小猫ちゃん、アーシアさんは時間を止められてまだ動けない。

 部長はここにある『戦車(ルーク)』の駒を利用して

 キャスリングでここに乗り込んだはずなんだけど……」

 

言われて、セージとイッセーは部室の中を見渡す。しかし、ここにいるのは

男3人に見た目少女の男1人。リアスは何処にもいない。

 

「……いないようだが」

 

「戦車の……ああっ!! た、大変ですぅぅぅぅぅ!!」

 

「うわっ!? いきなり大声を出すなギャー助! どうしたんだよ?」

 

突如として大声を張り上げるギャスパーに、イッセーが面食らう。

ギャスパーは狼狽した様子で、3人に現状を説明し始める。

 

「お、大きい人には言ったんですけど……きゅ、旧魔王派の一人がここに来たんですぅぅぅぅ!!

 そ、その時に何か『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を持ち出したらしくって……」

 

「なんだって!? それは本当かい!?」

 

悪魔の駒が持ち出された。その事実に、今度は木場が狼狽する。

現在、リアス・グレモリーの所有する駒のうち

未使用の駒は騎士(ナイト)と戦車の各1個のみ。

その1個のうち、戦車の駒を用いて、会議場から部室にキャスリングで転移しようと

試みていたのだが。実際にはリアスはここにはいない。

そして持ち出された悪魔の駒。これらが意味するところは――

 

「騎士のほうならまだいいが、戦車だとまずいことになるよ……!!」

 

――――

 

駒王学園、運動場の中央。

 

ローブの集団、聖剣使い、堕天使の集団。

統一性の無い彼らの所属は皆、禍の団。三大勢力の和平を拒むと言う、その一点において

結託し、威力行為を行う所謂テロリスト。

そんな彼らが囲んでいる中央には――

 

キャスリングで部室への移動を試みたはずのリアス・グレモリーがいた。

だが実際には、こうして敵集団に包囲されている。

 

「ようこそおいでくださいました、リアス・グレモリー様」

 

「部室じゃない……しかも囲まれた!?」

 

そう。持ち出された悪魔の駒は、こうしてリアスをおびき出すための餌にされていたのだ。

キャスリングは『(キング)』と『戦車』の位置を交換する技術ではあるのだが

そこにはチェスのルール上、ある程度の制約は存在する。

キャスリングの際戦車と王の間に他の駒が存在してはならない、等がそれにあたる。

しかし悪魔の駒は、チェス駒そのものではない。悪魔の駒特有の性質が存在する。

単純な物質ではない、生物である転生悪魔である以上律儀にチェスのルールは守れないのだ。

 

それが、今回は完全に裏目に出てしまった形である。

 

さて。彼我戦力差だが、リアスの滅びの魔力ならば

彼ら程度の有象無象は一網打尽に出来るだろう。

だが、それを行使する前に光の槍が、聖剣がリアスを貫くであろう。

それ位、完全に包囲されていたのだ。

 

「『悪魔の駒』に意思があればこうは行かなかったでしょうが……残念でした。

 では、あなたには兄上の首を取ってきてもらいましょうか」

 

「ふざけないで! 何で私がお兄様の、魔王様の首を取らなければ……」

 

「別にあなた自身がやる必要は無いんですがね……やれ」

 

囲んでいた堕天使が、リアスの手足を中心に痛めつける。

抵抗されないためだ。執拗に光の槍による攻撃や、普通に殴打を繰り返し

リアスの美しい手足は見るも無残に痣だらけとなり

動かすのにさえ痛みを伴う状態になってしまう。

 

「そのくらいでいいでしょう。これだけやればカテレア様もお喜びになる。

 そして……我らの望む……

 

 ……静寂な……世界……始め……ましょう……」

 

集団の指揮をしていたリーダー格の男の腕にはカテレアが付けていたのと同じ

赤と青の鉱石が埋め込まれた腕輪が輝いている。

鉱石は不思議な光を放ち、男の顔には血のように赤い

フェイスペイントのような模様が浮かび上がり

瞳もまた同様に赤黒く、光を湛えぬ不吉なものとなっている。

 

(禍の団は無限龍(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスが首魁だとお兄様は言っていたわ。

 けれどあれは、私の聞いたオーフィスの力じゃない。

 何か別の、私の……私達の知らない何かが奴らの背後にいると言うの……!?)

 

そんな男の変化を見逃すリアスでもなかったが

その禍々しささえ感じさせる変化には、リアスも内心怖れを抱いていた。

そして不可解な点として、その変化に対し周囲の誰も気にも留めていないこと。

 

「贄を……ささぐ……

 ……静寂なる……世界の……ために……」

 

「静寂なる……世界……」

 

「我らの……望む……」

 

それどころか、堕天使も、聖剣使いも皆一様に似たようなフェイスペイントが浮かび上がり

中には身体に赤い球体の結晶が浮かび上がっているものまで現れる始末。

その異質な光景に、痛めつけられたリアスは息を飲むしか出来なかった……




テロ勃発。
そしてセージ脱走。

普通に考えて自分達の拠点の時間まで止めないよな、と言う事で
旧校舎にいたセージは無事でした(出るのに必死でしたが)

原作ではキャスリング(+転移魔法)でリアスとイッセーがギャスパー助けましたが
拙作では片腕の無いセージが単身乗り込んでます。

癇癪玉で気を逸らされるテロリストって……って思うかもしれませんが
彼らにセージは見えて無かったですし、ゼノヴィアは後日理由を語りますが
動ける状態ではなかったので侵入者を疑うのではないかと。

この辺りから原作のリアスとイッセーの異常なageっぷりが目に付くようになったような?

以下解説

>時間加速空間
ルビの通りです。クロックアップはファイズアクセルやトライアルと違い
空間作用型の高速移動なので
会議場の時間を止めた今回の停止の邪眼を上書きすると言う
とんでもない力技で影響を軽減しています、が。

そもそも原作で止められていた方々にはクロックアップ適性も無かったので
結局変わらないと言う。

>今回のセージ
能力記録・武器実体化等の能力は使えませんよ?
全盛期には大きく劣りますがモーフィングも可能ですし
武器(兼小型盾)の本型デバイスもありますので、全く戦えないわけでもなかったり。
最も、最序盤とほぼ同等の戦闘力しかありませんが。

なお正規の使い方ではないのでよゐこは真似しないでください。
多分玩具メーカーのスポンサーとかついてたらクレームが来るレベルの
邪道な使い方です>記録再生大図鑑で殴る

ちなみに、メモは一応「窓に手がかりがあるよ」と言うメッセージを内包していました。
あからさまなの書いたら謀反になっちゃいますし。

>リアス
……いや、そういう可能性もあるよね、と。
キャスリングを使用して助けに行こうとしたら悪魔の駒が敵の手に落ちていて
あっさり敵に捕まりました。
当然この後は薄い本が厚くなる展開……

ではなく、人質作戦やら何やら立て放題。
だって魔王の実妹ですもの。
ギャスパー助けたのに、もっととんでもないのが人質になっちゃいました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。