ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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Soul6. 神父、来ました。

俺、歩藤誠二は悪魔で、生霊である。俺が何故こうなったのかは今はまだ、わからない。

だから俺はその謎を解き明かすためにオカルト研究部に所属し、悪魔稼業に勤しんでいるのだ。

 

今日もまた、俺達の悪魔稼業が始まる。イッセーは今朝内側から見たときは落ち込んでいたが

今は気を取り直している。

こいつの立ち直りの速さは、俺も素直に感心している。

と言うか基本、俺はイッセーに対して評価が甘いかもしれない。

俺の憑依先だから、というのもあるかもしれないが。

 

今日もイッセーは、悪魔としての依頼を受け、契約者の家に向かっている……自転車で。

情けないかもしれないが、それしか移動手段がないのだ。

一度飛んでいったらどうだと言ったが

 

「なんかやっぱり性に合わないんだよな。それに、この方がトレーニングにもなるし」

 

と返された。うん。至極真っ当な理由で俺びっくりしたよ。

まあ確かに、いつぞやの戦いではお互い嫌ってほど弱さを思い知らされたんだが。

とにかく、そんなイッセーを俺は今日は珍しく見送っている。

俺の方は、まだお呼びがかからない。

 

と言うか、以前行った時契約者である虹川四姉妹に

 

「路上ライブに使えそうな場所を用意して欲しい」

 

と言われたため、よさそうな場所を見繕っている最中だ。

幽霊が集まりやすく、かつ広い場所。

それでもって、周囲に迷惑のかからない場所。この条件が意外と難しい。

 

以前はぐれ悪魔と戦った廃屋が更地になったそうなので

そこを提案してみたがどうもダメだったらしい。

その為、今一から探している真っ最中だ。

 

部長らは使い魔にやらせているというビラ配りを俺は使い魔がいないことと

件の物件探しを兼ねて自力でこなしている。中々難しい案件だな。

だが、なるべく早く見つけてやりたいものだ。

 

そう考えながら夜の街を霊体で漂っていると、目の前に苦悶の表情を浮かべた幽霊がいる。

しかもうっすらとだがうちの部長の、グレモリーの魔法陣が見える。

ただ事ではない、そう感じた俺は即座にその幽霊に話を聞いてみることにした。

 

「おい、俺はグレモリー眷属の生霊だ。そんな顔をしてどうした?」

「キ……ツケ……シンプ……コロ……サレ……」

 

なに? 神父だと? まさか……まずい!

今グレモリーの魔法陣を使い、呼び出された悪魔は――イッセーか!

あいつは魔法陣移動ができないから時間差が生じるが

今回のはそれが吉と出たか凶と出たか?

 

とにかく、少しまずい状態になった。

 

「大丈夫だ……とも言えないか。とにかく、遅くなってすまない。

 神父については、今から応対する。今回のことは申し訳なかった。

 改めて、今度は俺が応対する。今は向かうはずだった仲間の悪魔を助けに行きたい。

 何を願うつもりだったのかは、後日改めて聞かせてもらえないか?」

 

イッセーには悪いが、イッセーが魔法陣移動できていれば彼は死なずに済んだかもしれない。

そう考えると、この幽霊に対し申し訳ない気持ちに苛まれる。幽霊の方は、俺の話を理解したのか

苦悶の表情がいくらか和らぎ、浮遊霊と化した。やはり、まだ成仏はできなさそうだな。

とにかく、部長に知らせてイッセーを助けなければ!

 

「部長。マズいことになりました。今イッセーが向かった先、神父がいます。

 イッセーを呼び出した人間は、既に殺されています。

 俺が幽霊になっているのを確認しました……至急、救援を願います」

 

「なんですって!? 困ったわね……実は私達の方でも

 堕天使が集団で何やら怪しい動きをしているのが見えたの。

 それでその場所に向かったところなのだけど……わかったわ。

 なるべく早く駆けつけるから、絶対に無理をしないように。いいわね!?」

 

――言いたいことはわかりますがね部長。俺はその現場のすぐ近くにいるわけなんですよ。

それより、そんな場所にイッセーを向かわせたんですか。ちょっとザル警備過ぎやしませんかね。

そしてこの状況……もしかして、ハメられたか? で、イッセーが神父と……

マズい、もう対峙してるじゃないか! ここで救援に行かなきゃ嘘でしょうが!

俺は右手に龍帝の義肢(イミテーション・ギア)を発現させ、左手の記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を起動させる!

 

BOOT!!

 

そしてそのまま、霊体のまま猛スピードでイッセーに近づき、実体を得る。

 

「セージ! お前どこから……ってお前ならどこでも来られるよな、ある意味」

「そういうこった。今部長にも知らせたから、来るまで持ちこたえるぞ」

 

目の前にいたのは神父……とは言い難いものだった。

見た目だけなら、木場に匹敵するイケメンなのだが

その表情や発している言葉等々からイケメンとしての良さを相殺――

いやむしろマイナスにまで下げてしまっている。

これなら、イッセーの方が余程イケメンだ。俺? ノーコメントだ。

 

「お? クソ悪魔の次はクソ幽霊、いや悪魔っぽいからクソ悪霊っすか。

 いいねいいねぇ、今日は入れ喰いで俺ちゃんとしては大歓迎なんですよクソどもが!」

 

あー……見ただけでわかる。これ関わっちゃいけないタイプだ。

イッセーは――とりあえず、怪我はまだしてないな。遺体は……見るんじゃなかった。

もう猟奇殺人の域に達していた。正直、俺が最初に遭遇したはぐれ悪魔の犠牲者の方が

まだ人としての形状をとどめていたレベルだ。あの様子じゃ、これ初犯じゃないな。

じゃあ、この人以外にも犠牲者が!?

 

とにかく、俺は左手から一枚のカードを引く。初めて対峙する相手にはこれが一番だからな。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

フリード・セルゼン。非合法悪魔払い組織「教会」所属の神父。

光剣と祓魔弾を発射する拳銃を所持。悪魔だけでなく、悪魔に関わった人間までも

猟奇的に殺害する快楽殺人鬼、か。

 

――常習犯ってのは確定だな、こりゃ。見りゃわかる情報がつらつら出るだけ、って時もあるのが

このカードの難点だ。だが得物は厄介だな。

 

「おいおい! 何勝手に人の情報喋ってくれてる訳!?プライバシーの侵害を受けたんで

 そこのクソ悪霊マジぶっ殺すけどいいよね? 答えはきいてないけど!」

「セージ!」

 

お前どこの紫ドラゴンだよ。って、早速拳銃ぶっぱなして来た!? が、ガード!

盾が出るカードとか……ない! そもそも俺は盾を見てない!籠手で防ぐしかないか!

 

着弾。情報に出たとおり光の弾丸だからかなり痛い。籠手越しでも相当響いてる。

だが、今のでお前の武器は見た!

 

MEMORIZE!!

 

来た。これでこっちも飛び道具を手に入れた。

祓魔弾だから、相手に効くかどうかはわからないが。

――が。ちょっとマズい事が起きた。右手が痛い。これじゃ実体化させても使えないじゃないか。

いやそれ以前に構造上カードが――引けない。

 

「セージ、大丈夫か!?」

「なんとかな。と言いたいとこだが右手が痺れてる。

 次同じ場所ではガード出来ないだろうな。崩される」

「ほっほー、やっぱ効いてるねぇ、効いちゃってるねぇ。

 そんならもう一発撃って悪霊退散しちゃうぜぇ!!」

 

まずい。完全に向こうのペースだ。弾丸を回避できるほど今の俺に動体視力と反応速度はない。

左手で防ぐにしても、向こうは右手を狙っている。

無理な体勢でのガードは、逆効果以外の何者でもない。

 

「させるか!」

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

え? 相手の弾速が遅い――いや、こっちが速くなっている!

しかし、何故カードが発動したんだ? いや、今はそれより回避だ!

向こうが右を狙っているなら――左か!

 

回避。このカードは木場の能力。機動力を向上させる効果がある。

受けられないなら避ければいい。シンプルだな。

 

で、何故カードが発動したのかというと――

 

「へへっ。こう上手く行くなんてな!」

「なんと。まさか他人がカードを引いても認識されるなんてな。その発想はなかった」

 

そう。イッセーが俺の左手からカードを引いたのだ。しかも効果は俺の方に来るらしい。

さて。このままスピードで相手をかく乱したいところだが

俺の方は右手が使えない。ただでさえ戦闘力が低いのに右手抜きで戦うのは

無策としか言い様がない。

 

「なんなんですかそこのクソ悪霊の左手はァ!?

 先に左手を潰しとくべきでしたねぇああチクショウ!

 だったら今度はそっちのクソ悪魔から片付けてやろうかァ!!」

「悪いね。やらせんよ!」

 

俺を仕留められなかったこのアブない神父は、今度はイッセーに狙いを定めて拳銃を放つ。

だが、今の俺は弾丸より反応速度は上だ!

 

イッセーめがけて放たれた弾丸は、そのまま壁に炸裂する。

俺がイッセーを突き飛ばし、回避させたのだ。

勿論、俺も喰らうわけにはいかないから回避している。

 

「サンキュー、セージ!」

「気にすんな、お前には前も助けられた――ッ!?」

 

礼を言い終える寸前、途端に身体が重くなる。マズい、カードの効果が切れたのか!

向こうはイッセーに狙いを定めてる、今の手は次も使える手じゃないぞ!

 

「……そーかい。そーかい。どこまでも人を舐め腐る悪魔と悪霊には

 一片たりとも慈悲はいらないよねぇ! 最もォ、元から殺すつもりでやってるけどォ!?」

 

しかも、向こうは拳銃を乱射し始めた!

しかしどうも頭に血が上ってるらしく、狙いはデタラメだ。

 

「ぐあっ!?」

「くうっ!?」

 

だが二人いるのが仇になった! 向こうにしてみれば的が二つもあるんだ。

どっちかに当たればいいんだろう。

 

俺は左肩に、イッセーの方は右足にもらった。

どっちも防具がないから、着弾点からは出血している。

俺は状況を打開しようと鈍い右手を何とか動かし、カードを引こうとするがうまく動かない。

痛みをこらえながら、カードに指が触れるが――引けない。引くところまで力が入らない。

くそっ、ただの紙切れ一枚取れないとは!

 

だが、それは相手にしてみても同じだった。弾丸が止んだ。

そう思って顔を上げると、奴は醜い顔をさらに醜く歪め舌打ちしている。

ああわかった。弾切れか! よし、何とかこれをチャンスにできれば……

 

「……やーめた。蜂の巣大作戦と思ったけどォ、やっぱなます切りだよねぇ!!」

 

フリードは拳銃を放り捨て、今度は光剣で突進してくる。

あ、ダメだ。痛みで次の手を考えられなかった。

イッセーの方は――ダメだ、そもそも足をやられている。逃げられない!

ここまでか。俺は何も知ることができずに、終わるのか。

こんな目的と手段を履き違えたクソ神父の手にかかるとは――

 

マジで、悪霊になって化けて出そうだな、俺。いや、もう化けて出てるか。

 

「やめてください!」

 

む? この場所に場違いな女の子の声。

確かこの声の主は――アーシア・アルジェントさんのはずだ。

フリードも、イッセーも声のした方向へと目線を向けている。

 

とにかく、今は生きながらえたみたいだ。

俺は霊魂だが、死んでない。ドライグ曰く生きてもないらしいが。

いや、今そんなことはどうでもいい。何でアルジェントさんがここに? 教会って、まさか……!

 

「おんや。助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。こんなとこで何してんの?

 結界は張り終わったのかな? かな?」

「それは……!? い、いやああああああっ!!」

 

あ、アレを見ちまったか……悪魔でもあれは堪えるのに

そういうのとは無縁のアルジェントさんに、あの死体は堪える。

このクソ神父の相手をする前に、遺体の対処をしておくべきだったか?

いや、無理だったか……。

 

「かわいい悲鳴ありがとうございます! アーシアちゃんはその手の死体は初めてでしたかねぇ?

 ならなら、よーくとくとご覧くださいな! 悪魔に魅入られたダメ人間くんには

 そうやって死んでもらうのですよぉ」

「こ、こんなこと……主がお許しになるはずがありません!」

 

……アルジェントさんの意見はそうなるわな。

だが俺に言わせれば、フリードのクソ神父もある意味、職務に忠実に生きていると言える。

最もこいつの場合、それ以上に快楽殺人鬼なのが大問題だが。

おい教会。殺人狂の神父ってアリなのか。

 

「はァ!? なにナマぶっこいてるワケぇ!?

 主はこうも言ったんだよ、異教徒は殺せってなァ!! だから俺様がこうして

 悪魔を信じるクソ異教徒や、そこにいるクソ悪魔を殺して回ってるんだよォ!!」

 

アルジェントさんが振り向いたその先には――イッセーと、俺がいた。

なんてこった。親切にしてくれた人が実は悪魔でした。などとは。

あまりの事実に驚き、震えているのが見て分かる。

 

なら、ここは一芝居打ってみるか。無駄だと思うが。

 

「イッセー……さん……?」

 

「あはは、バレちゃあ仕方ないな。こんな形で失礼するよ。

 俺は歩藤誠二。悪魔をやってるのさ。それにしても

 こんなクソみたいな神父に見つかるとは。俺もいよいよ年貢の納め時かな。

 ああ、ここにいるのはただの通りすがりのエロガキだ、覚えなくていい」

 

「お、おいセージ!?」

 

俺が悪魔だ。そう名乗れば、イッセーに疑惑が向くことはないだろう。

そして俺とイッセーは無関係だというアフターケア付きだ。

幸い、俺自身はアルジェントさんとは初対面。誤魔化しが効けばいいんだが。

 

だが、アルジェントさんはこのクソ神父の前から動こうとしない。

 

「悪魔だから、殺すんですか……? 異教徒だから、殺すんですか……?

 そんなの、間違ってると思います! 人殺しが主の教えに従っているとは思えません!

 お願いです、この人たちを見逃してあげてください!」

 

「お前、さっき言ったこと聞いてなかったの?

 異教徒は殺せって、我らが主もおっしゃていたでしょうが!

 もういいよ。俺はそこのクソ悪魔くんムッコロさないと、お仕事にならないの。

 邪魔するんなら、いくらかわいいアーシアちゃんでも容赦しないよ?」

 

「やめろ! アーシアに手を出すな!」

 

ぐ……まさかコイツ、自分の仲間を殺してまで俺らを殺すつもりか?

これじゃ、どっちが悪魔だかわかりゃしないな!

快楽殺人鬼に理性を期待する方が間違っているのかもしれんが――状況は好転していない。

今ので痛みが身体に慣れていれば、少しは動けたのかもしれないが――

無理だ。ヘタをすれば気絶する。

 

だが、今打てる手は――

 

「ちょっと待てよ。悪魔は俺だっつってんだろうがクソ神父。

 ここのエロガキと、アンタんとこのシスターは無関係だ。俺を消せば済む話だろ。

 おう表でろや。お前みたいなクソ神父に、俺もただでは消されてやれねぇからな」

「セージ、お前はさっきから何を言ってるんだ!?」

 

……ははは、我ながらど下手くそな芝居だ。アルジェントさんにはともかく

このクソ神父にはイッセーが悪魔だってバレてる。

――それでも、せめてアルジェントさんの前では。

兵藤一誠は普通のバカでスケベな男子高校生であってほしいのさ!

 

「ほほーぅ。自分から消されたいとは、何て殊勝な悪魔くんなんざんしょ。

 それじゃあご要望通りに――死んでもらいまぁぁぁぁぁす!!」

「セージ、避けろ!!」

 

バカ、今避けたらお前に直撃するだろうが! 奴は光剣を構えて飛びかかってくる!

くそっ、両腕が使えないから事実上俺の手札はもがれたも同然!

こうなりゃイチバチでやるしかなさそうだ!

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

そう。両手が使えなければ――口を使えばいい。口でカードを咥え、効果を発動させる。

強靭な防御力と攻撃力! 見てくれは札を咥えた犬みたいで不格好だが

贅沢は言っていられない。

 

俺はそのまま、クソ神父めがけて体当たり――いや、頭突きをぶちかます。

だが両手の使えない状態で頭突きをかましたため、着地の体勢が取れず

地面に転がり込んでしまう。

 

あー……これ、ジリ貧だ。これでもう、この手も使えない。

辛うじて両足が動く分、まだなんとかなるか。さて、今の一撃でどうなることか。

 

「ごぶっ……!?」

「……へっ、どうしたよクソ神父」

 

頭がクラクラするが、向こうにもダメージが入ってるはずだ。

案の定、フリードは倒れ込んでいる。

い、今のうちにイッセーとアルジェントさんを逃がさなきゃ……

 

「い、今だ、二人共、逃げろ……!」

「で、でも……」

「そうだ! セージ、お前はどうするんだよ!?」

 

何をしているイッセー! 今はアルジェントさんを連れて離れることだけ考えろ!

そもそも今の芝居の上では俺とお前は無関係! こっちからコンタクトを取るわけにもいかないし

部長の増援が来たら俺の芝居は全部パァだ。

 

お前は、アルジェントさんの前ではまだ普通の男子高校生なんだぞ!

 

「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇエロガキが……。

 まだ暫くは防御も硬いし、少しすれば援軍も来る。

 今のうちに逃げるんだよ……!」

「援軍……部長か! わ、わかった! セージ、死ぬなよ! アーシア、こっちへ!」

 

へっ。霊魂に向かって死ぬなよ、とはお前も言うじゃないか、イッセー。

アルジェントさんがイッセーの足を治療し、イッセーがアルジェントさんの手を取り、逃げ出す。

ふふふ。どうだクソ神父。ざまぁみろ。俺はお前みたいな考え方が大嫌いなんだ。

 

「うおぉぉぉぉぉっ! くっあああああああっ!!

 ざっけんなあああああああっ!! クソ悪霊ォ!!

 てめぇのせいでクソ悪魔くんやアーシアたんに逃げられちゃったじゃないかァァァァァ!!」

「そーか。よかったな」

 

満面の笑みで答えてやる。俺は目的を果たしたんだ。

後は出来れば増援が来るまで待てればいいんだが。

 

さて、カードの効果の残り時間もそれほど無い。次同じ手は使えない。

と言うか、記憶が正しければ後の手札は分析と回復、あとは武器の実体化だ。

回復して武器が持てればいいが、そこまで俺が持つかどうかだ。

 

冷静さを欠いてるコイツは、俺をメッタ打ちにするだろう。と言うか実際、されている。

今なんともないのは単にカードのおかげだ。

 

だが、いくら強化しても、悪魔で生霊である以上は――光剣には耐えられない!

 

「ぐっ……!」

「その憎たらしい顔を焼き切ってやろうかぁぁぁぁぁ!!」

 

MEMORIZE!!

 

――今更記録しても遅いよ。もうすでにカードの効果はほとんど切れ

光剣が俺の顔を焼いている。このまま横薙にしたら、間違いなく俺の頭が吹っ飛ぶ。

 

だがさっきほどの無念はない。

同期の戦友と、その将来の友人を俺は助けることができたのだ。

お前のようなクソ神父に殺されるのと俺が何者か分からずじまいだったのが

ただただ悔しくてならないな。

 

いよいよ観念したその時、床が光を放つ。これは――ふう。やっと来てくれた――

 

「歩藤くん。助けに来たよ……って、少し遅かったかな?」

「いや、ちょっとはしゃぎすぎただけだ。ちなみにイッセーは無事だ」

 

木場が来た。その爽やかスマイル、今見ると生きてる実感が湧くよ。

 

「あらあら。こんなに酷い状態になってまで……」

「あー……なんとか生きてます。霊魂ですので生きてるって表現が

 適切かどうかわかりませんが」

 

姫島先輩。すみません。やらかしました。でもイッセーは今話したとおり無事です。

 

「……神父」

「ああ塔城さん。あいつはクソ神父だ。相当危険な快楽殺人鬼だから、気をつけて」

 

塔城さん。まだあいつの手の内は全部読めてないかもしれない。戦うなら気をつけて。

 

「ごめんなさいセージ、遅くなったわ。もう大丈夫よ、よく頑張ったわね」

 

俺は黙って部長にサムズアップを返す。

これは納得した行いをした者にのみ許される仕草と言うらしいが

今の俺はそれに該当する……はずだ。イッセーも無事に逃げられたんだ。あとは――

 

「これはこれは! 悪魔の団体様ようこそいらっしゃいました!

 まずはご挨拶がわりに一撃ィ!!」

 

チッ、あのクソ神父! 今土手っ腹に頭突きかましたのにまだあんな動きで戦えるのか!

だが、今いるのは俺なんかより遥かに強い――

 

「悪いね。彼は僕らの仲間でさ。こんなところでやられてもらうわけには行かないんだ!」

 

木場が剣を抜き、フリードの光剣を防ぐ。さすがはうちの騎士様だ。本当に頼りに見える。

俺は――よし、さっきの要領ならこれでいけるはずだが。

 

「――すみません、誰か俺の左手からカード引いてもらえません?

 それでも効果発揮するみたいなんで」

「あらあら。わかりましたわ。うふふ、ここでよかったかしら?」

 

姫島先輩か。先日のことがあったので一瞬身構えてしまったが

そんな心配をよそに手早くカードを引いてくれた。

ありがたい。これでまた立ち上がれる!

 

EFFECT-HEALING!!

 

回復のカード。先日のアルジェントさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を記録したものだ。

思ったとおり、俺の左肩の傷と右手の痺れが消えている!

だが、違和感がまだ残っているあたりは本家には及ばないのだろうか。

本家を受けたことがないから認識が不十分なのかもだが。

 

「セージ。あなたの左手って、本当に何でもアリね」

「――それほどでもない、と言っておきます。

 これはただ、見たものを記録してるだけですから」

 

立ち上がり、埃を払っている俺に部長が話しかけてくる。

ぶっきらぼうな受け答えだが、事実だ。だが、実は今の答えはマズかった。

回復のカードを持っていることは

つまり超自然的な回復を目の当たりにしていること。

 

それは、俺ないしイッセーがアルジェントさんと出くわし

ある程度の親密度を得ていることを遠まわしに言っていたのだ。

いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。こっちは立ち直れた、木場の援護を――

 

SOLID-GUN!!

 

「木場! 伏せろ!」

 

実体化させた奴の銃で射撃。はっきり言って、俺は銃を使ったことなど無いし

ゲームセンターの類も嫌いだったはずだ。覚えは全くないので何とも言えないのだが。

つまり、銃に関してはど素人もいいところである。

それでも初めて手にする銃が何の問題もなく撃てるのは、多分、悪魔の能力のおかげだろうな。

 

「うおっ!? いつの間にクソ悪霊くんが立ち上がってるわけェ!?

 それにそれってば俺の銃じゃんかよ!? 他人の武器勝手にパクるとか

 マジムカつくんでやめてもらえませんかねぇ!?」

「おっと、君の相手は僕のはずだけど?」

 

俺の銃は当たらなかったが、注意をそらすことには成功した。

いいな、これ。俺の能力的に援護とか多そうだから、暇なときに射撃訓練とかやっとこう。

そんな油断したフリードに、木場が一太刀浴びせんと斬りかかる。

それでも奴の身体能力は相当高く、受けられてしまうが

追い詰めているのは目に見えてわかる。よし、いいぞ!

 

「ふへへ、テメェら悪魔のくせに仲間意識強いじゃんか

 お熱いねぇ燃えちゃうねぇ萌えちゃうねぇ。あ、もしかして

 彼が攻めで君が受けとかそういう関係? それとも逆だったり?」

「――下品な口の利き方だ。『はぐれ悪魔祓い』か」

 

あ、そうだった。援護射撃もいいけど弱点のアナライズがまだだった。

ましてみんな今来たところだ。とにかく戦いを制するには情報が大事。

というわけでクソ神父、もう一丁プライバシーを侵害させてもらうぞ!

 

COMMON-ANALYZE!!

 

「またそこのクソ悪霊くんが何か小細工仕掛けてるねぇ。

 はいはいそーですよ俺様ってばはぐれですよ。で? それが何か問題でも?

 俺的に悪魔や異端を気が向いた時にぶっ殺せればそれで全く無問題なんでねぇ!!」

 

フリードが一瞬の隙を突き、木場に蹴りを入れて飛び退く。距離をとったつもりだろうか。

だが、既にそれを見越してか姫島先輩が魔法発動の準備をしていた。

以前の時とはまた違う、真剣な眼差しだ。

 

「悪魔にだって、ルールはあります」

 

フリードが着地しようとしたところを見計らって雷を落としている。わお、ナイスタイミング。

で、肝心の俺はというと――アナライズエラー。と言うか弱点らしきものがまだ発見されない。

所謂あれか、「じゃくてんは とくになし」って奴か。

こうなりゃ力押しで攻めるべきなのかな。だがそれならもう十分に可能みたいだ。

 

「……ふん」

 

塔城さんが追い討ちとばかりにソファをフリードめがけてぶん投げている。

うん、俺が力押し作戦でどうかなって考えた矢先に塔城さんが攻撃って、考え読まれてた?

と言うかそもそも、部長からして正面突破の力押し作戦がお好みのタイプみたいだ。

その証拠に、フリードの脇の後ろにある壁が綺麗さっぱり吹き飛んでいる。部長の仕業だ。

 

「私の下僕達が随分とお世話になったみたいね?

 私は私の下僕を傷つける輩は絶対に許さない主義なの。

 特にあなたのような、下品極まりない者に自分の所有物を傷つけられるのは我慢ならないわ」

 

――所有物か。所有物ねぇ。イッセーは喜んだかもしれないが、俺は別だ。

救援に来てくれたのは素直に嬉しいんですが

俺はまだあなたを主人と認めたわけじゃあないんですがね。

いきなり現れてご主人様面されても、対応に困るんですよ。

 

ま、今その事はどうでもいいだろう。数の上でも、力の上でも圧倒的に優位。

それを見越してか、部長の二撃目の魔力が炸裂しようとしたとき――

 

「ああもう! 今日の仕事パァだよこんちくしょう!

 いいかお前ら、絶対俺がぶっ殺してやるからな! 特にそこのクソ悪霊!

 俺様の腹に頭突きかましてくれやがって! 絶対許さねぇからな! 覚えてろよクズが!!」

 

あまりにも見事なテンプレートの捨て台詞とともに

部長の魔力の爆発を利用し、奴は逃げていった。

神父ってのは、生命力も相当なものなんだな。ともあれ、追い払うのには成功したが。

 

あ、やばい。これ緊張の糸が切れた。目の前が歪む。遠くに何かが倒れたような音が聞こえ――

 

 

――俺は、意識を失った。




Q:セージ気失いすぎじゃない?
A:書いててそう思いました。でもいくら記憶がないって言っても
いきなりこういう環境に放り込まれれば
ぶっ倒れてもおかしくないと思うんです。

1巻のイッセーだって結構ぶっ倒れてた気がしますし。


後、オカ研面子が(セージが粘ったにもかかわらず)
遅れてきたことに関して。

原作でリアスはフリードが来た事を「予想外」って言ってましたが
これ無理あるんじゃね? と。
悪魔との契約はエクソシストに狙われるってリスクを伴うことは
悪魔崇拝者なら知ってそうなものですし。
崇拝者でさえ気づきそうなものを悪魔(しかも地域の元締め)が気づかないとか
ちょっと楽観視が過ぎるなぁ、と。

そんなわけで今回は堕天使軍勢との小競り合いがあって身動きが取れなかった
(原作の堕天使軍勢の援軍との戦いが前倒しになった)形にしてあります。

……アンチ・ヘイトのタグは伊達じゃありませんので
こういう作風で行きたいと思います。

それでもお付き合いくださっている皆様に感謝です。

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