ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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最近なにやら反響が凄いです。
そんなに人生の難易度上がってるかなぁ……?
一応今回本人にも突っ込ませるつもりですが。

原作がインフレの割にイージー過ぎるってのは言いっこなしで。

何はともあれ、毎度応援ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。

……今回もそれなりに長いので
ゆっくりご覧ください。


Soul42. 幽閉、されます。

部室に戻ると、オカ研の面子全員にグレイフィアさんが既に待機していた。

その隣にいるのが恐らくは魔王陛下――サーゼクス・ルシファーなのだろう。

 

考えてみたら、お互いに面識は無かった。まぁ当然か。

俺の顔はグレモリー部長がデータの横流しをしない限りは伝わっていない。

俺のほうも、情報誌に写真が載っているのを見ただけだ。

それを面識とは言わないだろう。

 

そしてやはりと言うかなんと言うか、グレイフィアさん同様霊体であるはずの

俺の姿ははっきりと見えているみたいだ。

 

「こうして面と向かって話すのは初めてだね。

 私はサーゼクス・ルシファー。知っての通りリアスの兄で、魔王を勤めさせてもらっているよ」

 

「……これはどうも、魔王陛下。自分はリアス・グレモリーが眷属の兵士(ポーン)、歩藤誠二です。

 最も、その肩書きも何時まで通ります事やら」

 

「セージ!」

 

グレモリー部長。俺の位置は微妙に違うぞ。考えてみたら陛下のほかには

グレイフィアさん、イッセーに俺の姿が見えているのだが

それ以外には俺の姿は見えていないことになる。

つまり、今陛下は壁に向かって話しかけているようなものである。

一応ここでは実体化できるのだが、見えているのならばあえてする必要は無いか。

そう思い今に至っている。

 

「……いきなり手厳しいね。リアスが言っていたとおりだ。

 本題に入ろう。確かに君の力は素晴らしい物がある。だがそれ以前に……」

 

「その件だけど、待っていただけないかしらお兄様。

 今セージは、右腕と今まで揮っていた赤龍帝の力のみならず、神器(セイクリッド・ギア)も使えない状態なの。

 だから……」

 

「お嬢様。以前申し上げたとおりです。この決定は魔王様……四大魔王の決定によるもの。

 それに異を唱える事は、魔王様に対して異を唱える事と同義となります。

 そこに、誠二様の現状は関係ありません」

 

まあ、分かってはいた事だが下手人扱いされるのはやはり堪えるな。

そして……まぁ期待はしてなかったが、ウォルベンや、イェッツト・トイフェルからの働きかけは

無かったと見て間違いなさそうだ。あの組織にどれだけの発言力があるかも分からないし。

それに、今ここでその組織の名前を出すと殊更に俺の立場が悪くなりそうな気がした。

 

「言いたい事はわかるよリアス。けれど、主に反抗的な眷属を認めてしまえば

 それははぐれ悪魔をも認めてしまうことになる。それに、こんな事は言いたくないが……」

 

「もういいわ! けれどセージは絶対にはぐれになんかしないわ!

 セージは私のよ、たとえ眷属になった経緯がなんであれ、今は私のよ!」

 

……違う、そうじゃない。もう何処から突っ込んでいいのか。

グレモリー部長には念を押したにも関わらず俺をモノ扱いする始末。

はっきり言って頭が痛い。犬猫でももう少し学習と言うものをする、と言うか

比較しては犬猫に失礼なレベルではなかろうか。

少なくともうちの猫は、あれで頭がよかったはずだ。

 

しかし、それにしてもだ。そもそも、はぐれ悪魔ってなんなんだ?

主に逆らい、悪魔の道に外れた眷属悪魔の事を指すんだったっけか?

ああ、こんなとき記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)があれば明確な答えが出るのだろうが。

 

……いや、今俺が疑問に思ったのはそういうことじゃないな。思想の問題だ。

主に逆らえば皆はぐれ悪魔なのか? ならば主が極悪非道で、それに立ち向かうべく

眷属が動いた場合はどうなる? それもはぐれ悪魔か?

極端な話、命を脅かされた場合とかやむなく主に歯向かうってケースとか、それもか?

最初の説明では人に危害を成す者をはぐれ悪魔と称する、って風に取れたんだが。

実際にはどうも違うみたいだな。まるで人間に対する益獣と害獣の違いみたいだ。

 

結局、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を行使する悪魔にとって有益なものが優秀な眷属。

たとえば……うんまぁ、イッセーのように。

逆に、悪魔の駒を行使する悪魔にとって不利益をもたらす者は

様々な理由をつけて如何様にでも出来る。まるでそう取れる。

 

なんだこれ!? ほぼ詰んでるじゃないか! ふざけるな!

この悪魔の駒を作り出した奴は何を考えているんだ!

悪魔は人間より精神的に優れているから過ちは犯さないとでも言うのか!?

 

……全くふざけた理論だ。もしそうだとしてもその思想自体が思い上がり甚だしいんだが。

そんな思い上がった連中が、過ちを犯さないなんてとても思えない。

まるで旧世紀の奴隷文明だな。歴史において、汚点として今の世では語られる思想。

今尚根付いている国際社会における根絶すべき課題にして、負の遺産の一つ。

そんなものをありがたがっているのか、悪魔ってのは。

ああ、だから悪魔なのか。人間と悪魔で優劣を語るのもナンセンスと思っていたが

文明に関してだけは、そうとも言い切れないのかもしれないな。

 

それが悪魔の常識だから、って言う意味じゃない。

その常識を、人間の世界に持ってきている時点でアウトだ。

そんな俺の中で渦巻いていた疑念は、顔に出ていたらしく陛下は怪訝そうな顔をしていた。

 

「君が今回の決定に不服なのは理解しているつもりだ。

 それでも納得できないと言うのならば、リアスの兄として発言させてもらおうかな。

 

 ……あまり、妹をいじめないでくれ」

 

「……万事不服って訳でも無かったんですがね」

 

ああそうかい。それが本音か。陛下も随分と俗っぽいお方で。

決定自体はそれが悪魔社会の常識だと思い知らされましたがね。

イッセーは悪魔になった事で夢や希望を持った。

アーシアさんは悪魔になった事で新たな人生を謳歌している。

祐斗は悪魔になった事で別の生き方を見出す切欠が生まれた。

 

……なるほど。確かにまぁ、グレモリー眷属の三人に限って言えば

悪魔と言うものが悪し様に語られるばかりではないってのは分からなくもない。

だが、分母――悪魔の総数に対して分子――悪魔になった事で得をした事が少なすぎる。

俺が知らないだけかもしれないが。

そもそもその理屈だと俺は悪魔になった事で家族に会えず

結果として自身の人間としての尊厳を汚された。

とは言え半分はあのビッチのクソカラスの仕業なんだが……。

ん? あいつが余計な事をしなければ、イッセーは悪魔にならずに済んだんじゃないか?

アーシアさんだってとりあえずは無事だったかもしれない。まぁ、今更か。

 

それ以外にも、悪魔の駒に適応できず異形の者になってしまった

元小動物の妖怪と言うはぐれ悪魔を、俺は以前から何度か見ているんだ。

しかもそいつらが人間を襲うところもしっかりと。つまり、実害が出ている。

 

「ただ幽閉といっても、今のギャスパー君と待遇はほぼ同じだ。

 聞けば、君もこの部室以外では夜しか実体が持てないのだろう?

 ならば……」

 

その言葉を聴いた瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。

ギャスパーってのがどんな奴かは知らない。ただ僧侶ってことだけだ。

そんな得体の知れない奴と同じと言われてもピンと来ない。

そもそもだ。俺は人間に戻りたくて、俺の身体を取り戻したくて戦ってたんだ。

それをこのクソ陛下は、そんな事は大事ではないと言う風にのたまって下さる。

 

「……あなたにゃそれで問題ないんでしょうがね。

 俺には問題大有りなんですよ。俺は悪魔になった事に今尚同意はしてません。

 そして、俺のこの魂が悪魔になったお陰で、肉体に戻ることさえ叶わなくなりました。

 悪魔は代償と引き換えに願いを聞き届けるものでしょう?

 ……ならば、俺を今すぐ俺の身体に戻していただきたい。

 俺はただ、家族に挨拶がしたいだけなのですよ」

 

「セージ! 魔王様の前よ、控えなさい!」

 

自棄である。俺がこうなる前だって願い事の二つや三つあった。

けれど、それは全て自身の力でかなえるべきものだと思っていた。

形式程度のお参りや願掛けはしたが、それはただのポーズだ。

こんな風に得体の知れないものに頼ってかなえる願いなど、二束三文の価値も無い。

悪魔に魂を売るとはよく言うが、今の俺は自分の意図しないところでそうなってしまった形か。

神ならいざ知らず、悪魔に願い事など以前の俺が聞けば卒倒モノだろうな。

 

……それくらい、自分が落ちぶれたって解釈も出来るので悲しくなるが。

 

「よ、よせよセージ……今のはまずいって」

 

「……フン。どうせ立場が悪いついでに言わせて貰いますがね。

 結局眷属システムってなんなんですか。ある悪魔の慰み者を四方八方から

 本人の承諾も得ないままにかき集めるシステムですか。

 あるいは、承諾するように色々仕向けて合法的に束縛するシステムですか。

 性質の悪い如何わしいゲームだってもっとマシなことしますよ」

 

「それについてはね、悪魔は出生率が低いんだ。だから他の種族から優秀な……」

 

「悪魔は出生率が低い? そんなの少なくとも俺には関係ありませんよ。

 なら医療とかで純血悪魔の生殖器とかその辺を改善すればいいじゃないですか。

 少なくとも人間は不妊治療とかそういうのをやっとります。

 それに、こうやってよその種族を無理やり悪魔に改造する所業……。

 いうなれば、人間が絶滅しそうだからって霊長類を人間に改造するようなものですよ。

 俺の知ってる限りでは、チンパンジーに知恵は与えても

 人間に改造するって話は聞いたことがありませんな。そういう意味では人間以下ですよ」

 

ここまで言って、俺は頭の中にある組織が思い浮かんだ。

面ドライバーシリーズの、最大最強の怨敵にして面ドライバーという戦士を生み出す切欠になった

悪の組織。面ドライバーが人類の自由と平和のために戦う戦士に対して

その組織は人類の繁栄をお題目に人類や様々な地球の命に改造を施し尖兵とするのが常嚢手段。

やってる事が、まるでその組織を彷彿とさせるのだ。

 

……つまり、フィクションの話にある悪の組織であるそいつらと同じ穴の狢って事か。

そうなれば俺は知らない間に悪の組織の片棒担がされてた、ってわけか。

最悪だ。今のは全て推測だが、もし事実だったら俺はどうしたらいいんだ。

 

「……誠二様。落ち着いてくださいませ」

 

「……魔王である私にここまで意見するとはね。なかなか面白いじゃないか」

 

「も、申し訳ありません! セージ! 今のは言いすぎよ!」

 

あらかた言い終えて周りを見ると、眷属組は真っ青な顔をしていた。

まぁ、そうだろうよ。まさか魔王陛下に面と向かって意見するんだもんな。

言うなれば、さるやんごとなきご身分の方に突然出て行って

面と向かって暴言吐くようなものだ。

度胸とかそういうんじゃなく、もう自殺願望クラスの無謀さだな。

実際、さっきからグレイフィアさんの目線が非常に痛い。

 

……いくら身体に戻れないからって、ちょっと自暴自棄になりすぎだろうか。

まぁ、これで処刑されるならそれはそれだ。無念と悔しさを抱えて死ぬのは御免だが

このしがらみから解放されたい気持ちは、無くはない。

有体に言えば、現状にちょっと疲れた。

 

「ではその度胸に免じて君の意見に答えよう。

 君の意見は、個人的な感情に根ざしている。それが妹に対するものなのか

 悪魔と言う種族に対するものなのか。一ついえるのは、それは私にとっては同一だ。

 そして、私は魔王であり、全ての悪魔を統括する存在だ。

 そんな私が悪魔の未来のために動くのは当然の事だろう?

 そこに、君の個人的な感情を挟む余地は無い。

 また、悪魔の不妊治療だが……既に試したさ。だが、満足の行く結果は出なかった。

 それを改善するための悪魔の駒であり

 また多様な血を取り入れることでの悪魔と言う種族の強化も目的だ。

 不妊治療の例を出してくれたからこう答えるが、濃すぎる血は却って害悪となるだろう?」

 

……まぁ、そうなるよな。腹は立つけど、納得は出来る。

寧ろよく言ってくれたってレベルだ。どっかの誰かさんは目先の事態に眩んで

下すべき決断が下せないとかありそうだし。実際、いつぞやはそうなりかけた。

だから、陛下のこの意見自体は俺は気には留めない。

ただ悔しいのは、俺の問題を解決する手段がどこにも全く無い事だ。

事故でこうなった事に対して、魔王としては謝罪はしない方向か。

まぁ……それもまた一つの政治方針なんだろうけどさ。

悪魔の駒に不備があるって事を、大々的に言うのはまずいってことか。

 

……うん? これは、もしかすると……

 

「……個人的な感情、ね……。

 お答えいただきありがとうございます、陛下」

 

個人的な感情と言えばそう、グレモリー部長だ。

この人こそ、個人的な感情で家の顔に泥を塗った気がしないでもないんだが。

その点については、一体どうなんだろうか。

まぁ、兄君としてはともかく魔王としては一切触れないのが正しい選択だろうけど。

突っ込みたくなったが、泥沼に態々浸かりに行くほど酔狂でもないのでやめておく。

 

「リアスに免じて、この場でのはぐれ悪魔認定は行わないものとする。

 部屋はギャスパー君の部屋をそのまま使いたまえ。

 明日改めて、ギャスパー君の封印の解除と君の幽閉を同時に執り行う」

 

明日、か。

一日だけでも猶予をくれたのはありがたいと思うべきか?

……とりあえず、最後の一日はどうしたもんか。記録再生大図鑑が使えない以上

情報収集もそれほど出来ないしな。

 

――――

 

――さて。歩藤誠二となる前、すなわち宮本成二は誰が呼んだか

「駒王番長」と言う渾名がついていた。

その頃の俺は記録再生大図鑑の事など一切知らなかったので伝聞でしか知らないが

松田や元浜が色をつけて言いふらした事、出素戸炉井の連中と喧嘩して勝った……

 

……まぁ、俺の中学時代の友人がいる大那美(だいなみ)高校との抗争に俺が巻き込まれた形なんだが。

そういえば、あいつらとも話さなくなって久しいな。

大那美の黒い魔神番長、兜甲次郎(かぶとこうじろう)に同じく大那美の七変化スケバン、如月皆美(きさらぎみなみ)

あいつら、元気にやってるかな……ってそうじゃなくて。

 

最近、なにやら妙な噂を聞いた。

また出素戸炉井の連中が悪さをしているらしいのだ。

大那美の仲間達と焼きを入れてやったんだがなぁ。

調べたいところだが、今の俺はそれもできない。

身体が戻らない以上、駒王番長も不在の状態が続いている。

まさかとは思うが、不在をいいことに連中が暴れてやしないだろうな。

 

誰かに引き継ぎたいところだが……誰がいいだろうか。

そもそもこの名を引き継ぐと言う事は、出素戸炉井の連中と喧嘩になる可能性は高い。

そして、俺がいつか戻ったときのために変な噂を立てられるのも困る。

以上の点から、イッセーは不適格だ。品行で言えば祐斗なんだが……。

 

「セージ君、考え事かい?」

 

「……む、何時からそこにいたんだ?」

 

「君が大那美の人と組んで出素戸炉井と喧嘩した、ってところから」

 

口に出てたのか。祐斗に話しかけられて、初めて今の状態を把握した。

人間、精神的に追い詰められると独り言が多くなると言うが

本当なのかもしれない。むぅ。

 

「そこは探られて痛い腹じゃないからな、武勇伝にするつもりも無いが。

 ……で、その出素戸炉井なんだがな。最近、またこの辺りで悪さをしているらしい」

 

「……まさか、僕に戦えって言うんじゃないだろうね?」

 

言われてちょっと考えてみる。祐斗の場合、長ランより白ランを着て

不良と喧嘩するほうが似合いそうな気がするんだが……ってそうじゃなくて。

そういや、大那美の皆に「箔をつけるためだ」って言われて

半ば強引に長ラン風に制服改造させられた事があったっけか。

確か改造制服は駒王学園の校則に記されていなかったはずだからそのままだったが。

イッセーだって着崩してるし。

……あ、だから余計番長なんて渾名がついたのか。ま、それはそれとして。

 

「まさか。いくら相手が不良校の生徒だからって、人間だぞ。

 悪魔の力で戦っていい相手じゃないだろ。ただ、今までおとなしくしてたのが

 ここ最近また暴れだしてるのが気になってな。考えられる一番の理由は

 俺――宮本成二の不在が大きいと思うんだが」

 

「抑止力がいなくなって、また調子に乗り始めているって言うのかい?」

 

「恐らくな。だがどうにも妙なんだよな。出素戸炉井の連中って、素行こそ悪いが

 アレで筋は通った連中が大半なんだ。だから、一度解決した問題をぶり返すような

 今回の行動が、どうにも腑に落ちなくてな」

 

そう。奴らは金座(かねざ)のねちっこい連中と違い、頭は悪いし素行も悪いが

相応に筋は通っている連中のはずだ。それなのに、何故また悪さを働いているのか。

この所、俺も自分の事ばかりでそっちまで情報収集はしていなかった。

 

「……まさかと思うが、僕に調べろと?」

 

「話が早くて助かる。不安なら、大那美高校の兜甲次郎って奴を訪ねてくれ。

 俺の中学時代の友人だ。俺の名前――勿論宮本成二のほうだぞ?

 それを出せば、協力してくれるはずだ」

 

「やれやれ……調子が戻ったら、心行くまで決闘を申し込みたいけどいいかい?」

 

「……お安い御用だ。しかし、俺は明日にも幽閉される身だが?

 話を振っておいてなんだが、見返りを求めたらあまりいい契約内容とは言えないぞ?

 それ以前に、報酬を払えない状態にだって……」

 

「……させません。セージ先輩に依頼した件、まだ解決してませんし」

 

祐斗との交渉が成立しようとする頃、塔城さんが話に割って入る。

む。確かに黒猫の件、俺が外に出られないとなると探しようが無いな。困ったぞ。

 

「……千客万来だな、おい。退屈するよりはいいんだがね。

 しかし、魔王陛下の決定だろ? それを反故にするのは問題だと思うが。

 そりゃまあ、俺だって君らに協力してもらえれば、心強い事はない。

 しかし……この間の一件と違い、今度は本気でグレモリー部長

 ひいては悪魔全体に対する反逆だぞ」

 

「そのことなんですが……セージ先輩、長話、聞いてくれますか?」

 

「……? 構わないが」

 

「僕は席をはずしたほうがいいかい?」

 

「いえ、大丈夫です。

 ……昔、あるところに猫魈――猫の妖怪ですけど――の姉妹がいました。

 母をなくし、姉妹で力を合わせて生きてきた彼女らは、あるとき悪魔の誘いを受けました。

 姉は妹との生活を望み、悪魔との契約を飲みました。妹は猫魈のまま、姉は悪魔に――

 ところが、その悪魔は姉に断りも入れず妹も悪魔にしようとしたのです。

 それを知った姉は怒り悪魔を殺してしまいました。

 それから、姉ははぐれ悪魔として冥界に追われる身となり

 妹は路頭に迷っていたところを別の悪魔に拾われました。

 それから、妹は姉を探し続け――今尚、再会は叶っていません」

 

猫の妖怪か。うちの猫もそこまで……生きないか。

俺が子供の頃にそこそこの年だったんだ。猫又になる頃には俺が死んでる。

俺が人間の寿命なら、だが。

だが、何故このタイミングでこの話なんだ?

しかも、口数の多くない塔城さんにしては非常に珍しい長話だ。

 

「姉は妹が悪魔になる事を拒み、主を殺しました。

 けれど、妹は姉に会いたい一心で悪魔になる道を選びました。

 妹が悪魔になった事を知れば、姉は悲しむかもしれません。

 それでも、妹は姉に会いたいのです。しかし、はぐれ悪魔――犯罪者である姉に

 妹の主は会わせてくれません」

 

「気持ちは痛いほど分かるが……塔城さん、本題に入らせてくれ。

 ……何が言いたい?」

 

はて。この話、どこかで聞いたような話だな。

俺自身、微妙にだが身に覚えがあるような、ないような。

だが少なくとも、感情移入は十分すぎるほどできる話だ。

ある意味今の俺は、この猫の姉妹に似た境遇にいるとも言える。

それだけに、俺はこの話の本題を知りたかった。

 

……しかし、その次の言葉には俺も耳を疑った。

 

「……セージ先輩。私と契約しませんか? 悪魔はセージ先輩も信じられないでしょうから

 セージ先輩もよく知っているであろう猫の妖怪、猫魈と」

 

「すまない。話の展開が読めない。あと俺は確かに猫との付き合いは長いが

 猫の妖怪に知り合いはいないし家族にもいない」

 

いやだってそうだろう!? 悪魔が悪魔と契約するってどういうことだよ!?

……うんまぁ、確かライザー・フェニックスは自分の実の妹に悪魔の駒を使うと言う

ある意味外道な行為を働いていた。

そしてそれは悪魔と悪魔で契約が可能と言う事を意味している。

それは転生悪魔にも適用されるのだろう、恐らくだが。

 

……ええい、こういうとき記録再生大図鑑があれば手っ取り早いんだが。

 

「当たり前ですけど、私は悪魔の駒を持ってません。

 そういう意味でセージ先輩を守るのは無理です。

 ですが、悪魔契約を交わせば何の問題も無く私はセージ先輩と接触できます。

 そうすれば、私たちはセージ先輩に協力する事が容易になります」

 

……んー、つまり外に出られなくなる俺の目や耳の役目を果たしてくれるのか。

それは確かにありがたい。実際に出られなくとも、外の情報が入るか入らないかでは

俺の行動指針は大きく変わってくる。今回の件なんか最たるものだ。

 

「『たち』って事は……塔城さんだけでなく、祐斗に……」

 

「……いえ。当面の協力者は祐斗先輩だけになると思います。

 イッセー先輩は部長に近すぎますし、アーシア先輩はイッセー先輩に近すぎます。

 副部長は言うまでもありません。ギャー君は事情を知らないも同然ですし」

 

おいおい……俺のせいではあるにしても、これじゃ反乱企ててるみたいじゃないか。

それで二人がオカ研にいられなくなると言うのは、俺としちゃかなり心苦しいぞ?

俺が追放される分には、別にどうでもいいんだが。

 

「僕としては、小猫ちゃんの提案を呑んで欲しいかな。

 僕が契約の話を持ちかけてもよかったんだけど

 そういうことに友情を持ち出すのは憚られるからね。

 君だって『君と僕は友達だ、だから悪魔の僕と契約しよう』

 ……なんて言われて首を縦に振るかい?」

 

ああ、なるほど。そりゃノーだ。仮にそんな話を振られたら

俺は遠慮なく友人としての縁をぶった切ったところだ。

しかし、そういう心遣いが出来るとは、流石イケメンと称されるだけの事はある。

悪魔になりながらも、心は人間のままか。俺はそれだけでもうれしかった。

俺の今後にも、微かな光がさした気がしたからだ。

悪魔になってしまっても、人の心を失わずにいられるというのは。

しかしそれを言ったらイッセーの奴は……いや、深く考えるのはやめよう。

 

「祐斗の言いたいことはわかった。けれどもう一つ、分からない事がある。

 塔城さん、あんたを信じないわけじゃないんだが……何か、隠してないか?

 すまないが、俺は一度主を僭称する輩に隠し事されたもんだから

 そういう事に敏感になってしまってな」

 

「……そうですね。ごめんなさい、セージ先輩。私がセージ先輩にこの提案をしたのは

 セージ先輩と、私……そして姉の境遇がよく似ているからなんです。

 私……今まで黙ってましたけど……」

 

今までの話と、塔城さんの様子から俺は大半を察した。

姉妹の猫魈の話、それはもしかしなくても、そういうことなんだろう。

そして、俺に黒猫探しを依頼して、その顛末を気にかけていたのは……

 

……やれやれ。引き受けたのは猫探しのつもりだったんだがな。

まさか、生き別れの姉を探していたとは。しかも妖怪猫って。

事実は小説よりも奇なり、よく言ったもんだ。

 

「……いい。大体分かったから皆まで言いなさんな。

 黙ってたって事は、それ相応の理由があるんだろ。

 忘れてもらっちゃ困るが、俺は幽閉されるんだ。

 そういう立場の奴に、あまり不用意に秘密を話さないほうがいいぞ?」

 

「……僕は何も聞いてないよ。何か聞こえたとしても、それは空耳かな。

 最近、僕も疲れているのか、友達が罪人扱いされたショックからか

 幻聴が聞こえるようになってね。アーシアさんの神器でも幻聴は治せないらしいし」

 

「……ありがとうございます、先輩」

 

話は決まった。俺は塔城さんと契約を交わす事にした。

最も、契約といってもそれは言葉のあやで、実際には幽閉された俺の監視につくと言う事らしい。

勿論、監視と言うのは表向きの理由だ。

実際にはさっき話したとおりに情報の提供を受ける事になる。

対価として要求されたのは、引き続き黒猫――塔城さんのお姉さんを探す事。

祐斗は俺との決闘。勿論、右腕が戻ってからの話だが。

 

……俺たちだけでは、この現状はどうにもならないのかもしれない。

けれど、それでも今の俺には二人の力が、心がとても温かいものに感じられた。

そう、俺はまだ諦めたわけじゃない。俺の身体が生きている限りは。

母さんより先に死ぬなんて事はあっちゃいけない。

 

「ただ……前に塔城さん、グレモリー部長は信頼に値すると言っていたな?

 その件はどうなったんだ? 俺にここまで肩入れすると言う事は

 その信頼する相手を裏切る事に他ならない。それに、今の話しぶりだと……」

 

「……最近、分からないんです。私も、以前姉さんに会いたいと部長に話した事はあります。

 けれど、そのときの応対は『はぐれ悪魔だからダメだ』の一点張りでした。

 それを聞いて、姉さんは遠い存在になったんだと思ったときもありました。

 でも、セージ先輩と部長のやり取りを見ているうちに分からなくなってきて……」

 

……あったな、そんなこと。確かに俺とグレモリー部長は何度か対立している。

しかし、それだけで付き合いがそれなりに長いはずの塔城さんに心変わりを招くか?

ふーむ。信頼とは斯くも重く、深いものだ。

 

「……いや、その先も結構だ塔城さん。重ね重ね言うが、俺に協力するって事は

 グレモリー部長に対する反逆になりかねない。

 もし、立場が危うくなるようならこの話はその場でなかった事だ。それだけは頼む。

 最悪、万が一だが……俺を売ってもらって構わない」

 

「……ごめん、聞こえなかった。僕らは部長に逆らうつもりは無いよ?

 ただ、幽閉された眷属仲間の監視を買って出るだけさ。

 イッセー君が適任なんだろうけど、幸い部屋には結界が張られている。

 セージ君は勝手に出られないし、中での実体化だって出来る」

 

「……見えれば、イッセー先輩でなくとも見張りは出来ます。

 セージ先輩が勝手に消えなければ、ですけど。

 それにぶっちゃけますと、イッセー先輩はちょっと信用できません。

 部長やアーシア先輩はお気に入りのようですけど

 私にはあの下半身と脳髄が直結したようなエロドラゴンの何処がいいのかよく分かりません」

 

……なるほど。そうか。そういうことか……ククッ、はははははははっ!

これは一本取られた。監視役ならば、確かに俺と接触する事は容易だ。

随分と単純な話だが、これならば名目上は反乱にはならない。

最も、単純すぎるがゆえに向こうも気付いている可能性も否定しきれないが。

 

「……じゃあ、改めて。二人とも、俺に力を貸して欲しい」

 

「僕らでよければ」

 

「……セージ先輩がこんな形で終わるなんて、私は嫌ですから」

 

これだけは……これだけは今言わせて欲しい。

 

――ありがとう。ありがとう二人とも。

 

俺は何も報いる事はできないかもしれない。

それでも、それでも力を貸してくれる。

そんな彼らの期待を、裏切りたくは無い。

それだけでも俺は、諦めずに進む事が出来そうだ。




セージの制服、実は長ラン風のものでした……
ブレザーに長ランスタイルて何だろうとお思いでしょうが
これは仮面ライダーウィザードの各スタイルのマント裾をイメージしていただけると
早いかもしれません。

セージが触れた悪の組織ってのは、面ドライバーが仮面ライダーのパロディ作品である以上
あの組織です。イーッ!

本作の改変点

・小猫と黒歌との関係
原作ほどこじれてません。普通に生き別れ状態。
なのでセージに黒猫捜索を依頼したりしてました。
ただ、黒歌指名手配は原作ままなので……
小猫にしてみれば「何故、どうして」を知りたいがための行動。
リアスがいらんことしいなのはこちらでも同様。
木場のときの応対を顧みれば小猫の黒歌との接触も拒否するかなー、と。
本作のリアスは見事に情愛が結果にかみ合ってませんね……

・悪魔の出生率に関して
一応不妊治療とか試みたけれどもうまくいかなかったので
悪魔の駒で悪魔を増やすという短絡的な行動に出た、という設定。
セージや黒歌、インベスもどきのはぐれ悪魔はその被害者といえます。

・ドラゴンパワーによるハーレム形成
そんなものなかった(迫真)

・出須戸炉異高校
昔ながらの不良校、ってイメージです。
悪魔になる前のセージと仲間達が大喧嘩を繰り広げた話が出ましたが
この一件が原作の新生徒会に絞められた件に該当、出須戸炉異の生徒は
駒王と大那美には手出しできません、よかったね。
……なので作中セージが訝しんでます。

また増えたオリキャラ解説
尚、ここに限らない事ですがそのまんまな名前、設定でも赤の他人です。
赤の他人ですけど、能力とかはモチーフ元のキャラを大いに参照しています。

大那美高校
セージの中学時代の友人が多く通う学校。
名前はダイナミックプロから。
偏差値は駒王学園より少し下がる程度。学ランにセーラー服の少し制服が古風な学校。
イッセーが入ったらハレンチ学園になったかもしれない。
下記にあるとおりセージの中学時代の友人はダイナミックプロ作品の主人公の名前と
JAE所属俳優の名前の掛け合わせ。
セージは悪魔になる前後でシャッフルされている変な例。(不動明+高岩成二)
これについてはもう一つのネタがあるので……

兜甲次郎
名前の元ネタは兜甲児+岡元次郎。
異名はマジンガーZと仮面ライダーBLACKより。

如月皆美
名前の元ネタは如月ハニー+佃井皆美。
如月と言っても宇宙は来ないですよ、残念でした。
……3話? 知らない話ですね。

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