ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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新章突入。

……そして、いよいよ章タイトルさえも原作から離れ始めました。

尚、今回からさるやんごとなき組織も登場しますが
この作品はフィクションです、実在の人物・組織とは一切関係ありません。

※今回の後書きは解説が多いため長いです。
 本文も同様に長いので、お時間に余裕のあるときにお読みください。


停止世界のクーデター
Soul41. 知りたくも無かった衝撃の事実


……ああ、そうか。これは悪い夢なんだ。

 

俺が悪魔になって、人間じゃなくなって。

遠くで母さんが泣いていて。

姉さんは俺の事に気付きもしないで……いや、これはこれで致し方の無い事かもだけど。

姉さんには子供がいるんだから。

俺は明日香姉さんが好きだけど、それは多分マズいだろうから。

 

……とにかく。俺の右腕はやっぱり無くて。

 

 

……何もかも、何もかもが俺から消えていく。

 

 

俺、何処で何を間違えたんだろうな。

やっぱ、リアス・グレモリーに逆らったのが間違いだったのかな。

 

いや、そもそもリアス・グレモリーに関わったのが間違いなのかな。

或いは兵藤一誠か? ……まぁ、どっちでもいいか。

 

 

……ああ、俺、どうなるんだろうな……。

 

 

実体も戻らず、力も失い。何をすべきか、何が出来るのか。

……いや、今の俺にできる事は……無いか。

 

俺の……

 

…………

 

――――

 

何が現実で、何が夢なのか。

気がつくと、俺はオカ研の部室にいた。

 

右手は……ないか。これは否応なしに俺の右手が失われたことを痛感させられる。

夢だと思いたいが、どこまで行っても俺の右手は何処を探しても無い。

 

左手を使い、身体を起こすと周囲にはグレモリー眷属がいる。

いや……もう一人、グレイフィアさんもいる。何故?

 

まだ夢の続きで、またあのフェニックスと戦う事になるのか?

はっきり言って、今の俺に戦えるとは思えない。それでもグレモリー部長は戦うつもりなのか?

 

「セージ。気はしっかり持っている? 今日が何日だか分かる?

 自分の名前はきちんと名乗れる?」

 

首を横に振る。数は数えられるが、今が何月何日なのか。そんな事はきれいさっぱり消えていた。

名前は……そう。少なくともこの場にいる全員の名前は認識しているが、俺は……

 

「……俺は宮本成二。今日は……いつですか?」

 

俺の言葉を聴くと、グレモリー部長の顔色が少し、悪くなった気がする。

なんだよ。俺何か変な事言ったのかよ。

 

「今日は7月1日。あなたの名前は……それであってるけれど。

 もう一つ、歩藤誠二って名前もあるのよ……」

 

歩藤……誠二。そうだ、この名前で俺は……。

 

「お嬢様。今の誠二様の状態で、顛末をお伝えするのは危険かと」

 

「でも……もう判明してしまっているわ。ここのメンバー全員、あの場に居合わせたわ。

 だから……伝えなければならない。セージ、あなたの顛末を」

 

グレイフィアさんの言葉に、グレモリー部長は首を横に振る。

顛末。一体何がある、いやあったと言うんだ。ここまで来たら、俺も聞かざるを得ないだろう。

意を決し、俺の側からグレモリー部長に問い質す事にした。

 

「分かりました。お聞かせください。俺に何があったのか」

 

「分かったわ……グレイフィア、いつでもお茶を出せるようにしておいて」

 

「かしこまりました」

 

お茶の用意を始めたグレイフィアさんをよそに、グレモリー部長の話が始まる。

今のところ、俺は食って掛かろうと言う気は全く起きない。

まぁ、そんな力も無いけど。

周囲も、椅子やソファにかけながらも静かに話を聴く姿勢を崩さない。

 

「まずセージ。何故あなたが自分の身体に戻れないかというと……

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』のせいなのよ。

 『悪魔の駒』が、あなたの魂に結びつきあなたを転生悪魔にした。

 確かにあなたには転生の儀式は行っていないわ。

 けれど、イッセーに対して行った転生の儀式にあなたの魂がくっついてしまっていた。

 そのときに、あなたの魂だけが悪魔に転生してしまったの」

 

……は? 何だって?

俺の魂が、悪魔に……?

 

「けれど、あなたの身体は人間のまま。身体の方は何とか峠は越えたそうだけど

 相変わらずいい状態とはいえない。予断は許さないわね。

 そして何より人間のあなたの身体は、悪魔になったあなたの魂を拒んだのよ」

 

グレモリー部長から語られた事実は、周囲に衝撃を与えるには十分すぎた。

姫島先輩はある程度聞かされていたのか、あまり表情が変わってないが

よく考えたら、この人いつもそうだった。

 

「ぶ、部長! それじゃ、セージはもう一生このままなんすか!?」

 

「方法は無いわけではないわ。一つは、悪魔の駒の摘出手術をする方法。

 もう一つは、セージの肉体に対して転生の儀式を行う事。

 でも……結論から言うわ。どっちも不可能よ」

 

「な、何でですか部長さん! 私を生き返らせたときのように、セージさんも……」

 

「……摘出手術だけど、それを行うのはセージじゃなくて、イッセーの方。

 セージは実体がない所に悪魔の駒を抱えているようなものなの。摘出なんて出来ないわ。

 それに、悪魔の駒の摘出なんて過去誰もやった事がないわ。やる必要が無かったもの。

 それに……もし悪魔の駒を摘出できたとしても、その場合イッセー……

 あなた、死ぬわよ」

 

冷酷に伝えられる現状。そういえば、イッセーは一度死んだところを悪魔の駒で復活している。

それは俺も知っている。ならば、その悪魔の駒を取り除いてしまえば

それで生きながらえているイッセーが死ぬのも道理は道理か。

しかし、悪魔の駒を摘出したケースが過去存在しなかったとは。

そんなに人間や、他の種族を辞めてまで悪魔になりたかったのかな。

俺はそうは思わないけれど。

 

「もう一つ、セージの肉体を悪魔転生させる方法だけど……。

 これは単純に物理的に出来ないわ。知っての通り、もう私は『兵士(ポーン)』の駒を1個も持ってない。

 他の駒での代用も出来ないわ。悪魔の駒を作成されたアジュカ様に確認したら出来ないそうよ。

 悪魔の駒以外で悪魔にする方法があるのなら、話は変わるかもしれないわね。

 生憎、私はその方法を知らないけれど」

 

「そんな……それじゃ、どうしようもないって事じゃないっすか!」

 

もう一つの方法。まぁこれは、可能だったとしても俺の方から却下を出していたかも。

……いや、どうなのだろう。生きているのか死んでいるのか分からない現状よりも

たとえ悪魔になっても、生きていたほうがいいのだろうか。

最近、俺はその辺が分からない。周囲にそんな事を聞ける相手もいないしな。

確かにイッセー……もだが、祐斗も友人は友人だが

彼らは皆悪魔に近すぎる。公平な意見が聞けるとはちと考えにくい。

 

「そうね……ごめんなさいセージ。これが今まであなたに伏せていた真実よ。

 私も事態が発覚してから何とかできないかとお兄様に聞いたりはしてみたわ。

 けれど……分かったのは今話した事だけ。あなたが納得するとは思えなかったし

 あんなに必死になっているあなたを見ていると、言い出せなかったのよ。

 だから私は朱乃に頼んで、病院の入り口に除霊札を貼らせたわ」

 

「セージ君のフットワーク自体は、ある意味では私たちの誰よりも軽いですわ。

 だから、ふとした拍子に身体の位置が知られてしまうかもしれない。

 その時に、身体に戻れないと言う事実を知られないよう

 セージ君が病院に入れないようにしましたの。

 ……もっともこうして抜け道があったことを考えると

 無粋な小細工だったかもしれませんわね」

 

涙ながらに語るグレモリー部長を前に、俺はもう何も言えなかった。

グレモリー部長を信じる信じないじゃなく、手の打ちようがないという現実に。

事実、俺は自分の身体を目の前にしながらも俺の身体に戻れなかった。

それは、紛れもない事実だ。あるべき右腕が無い。それはつまり、事態は好転していない。

ドライグに吸収されたときから紡がれている現実。物語るには十分だ。

 

だが、そうならば。そうなってしまったならば。

俺は、これを受け入れたわけではない。だが、今すべき事は何だ。

今できることは何だ。なく事か。いや、それじゃないはずだ。

それに、俺は最後に一つだけ確認したかった。

 

「……ならば最後にお聞かせください。

 俺に身体の位置を伏せていた理由。除霊札を何故病院の入り口に貼ったのか。

 それは、俺がショックを受けないように敢えて伏せていたのですか?

 それとも、俺に宮本成二に戻って欲しくないが故の行動ですか?」

 

「セージ! それじゃお前、部長がわざとお前の身体を

 遠ざけようとしていたって言いたいのかよ!?」

 

「……僕もそれは気になるところですね。部長、彼は僕のときと違い

 新たな人生を歩む前に、今まで歩んでいた人生に不平不満があったわけじゃない。

 イッセー君やアーシアさんみたいに、死んだわけじゃない。

 事故と言うのは分かりましたが、その後の対応は、ちょっと……」

 

俺の質問にイッセーが食って掛かるが、祐斗は逆に違和感を覚えていたのか

俺と似たような事をグレモリー部長に問い質していた。

俺とは違い、一応忠義のある祐斗にまでそれを言われると言う事は

疑惑をもたれていると言う事じゃないか。それは大丈夫なのか?

 

「祐斗に言われるのも最もね。けれど私は、悪魔になってしまったからには

 一日でも早く、セージにも悪魔としての生活に慣れて欲しかったのよ。

 だから、イッセーともども悪魔としての生活には便宜を図ったつもりよ。

 ……当の本人には断られたけどね」

 

なるほど。そういう理由で俺に情報を伏せていた、と。

 

……ふざけんな。全部そっちの都合じゃないか。

事故で悪魔になりました、戻せません。

だからめいっぱい協力するから悪魔を楽しんでね、ってか。

 

それで納得しろと? 冗談も大概にしろ。

そもそもデメリットがでかすぎるだろうが。

それに協力っつったって、俺の身体が無い件は全く便宜図ってないじゃないか。

イッセーの身体を乗っ取れって話なのか?

そういう問題じゃないだろ。やっぱり何も理解してやがらない。

俺は宮本成二であって、兵藤一誠じゃないってことを。

 

「……当然だ。そちらが提供するものと、俺が求めるもの。

 供給と需要が全くかみ合っていない。そして現時点でもそれなんだ。

 交渉の余地は無い。いや、そもそも最初から交渉ですらなかった。

 交渉ってのは、対等な立場に立って初めて成立するものだ。

 上司と部下って関係ならいざ知らず、主と眷属なんて関係で

 円滑な交渉が望めるとは、俺には到底思えない」

 

「それは私も思うわ。だからこそ……」

 

「……で、努力はしました。でも出来ませんでした、許してね。てへぺろ。

 ……とでも言いたいんですか。冗談じゃありませんよ。

 確かに努力は認められて然るべきものです。結果が出ないことも、俺自身経験してます。

 しかし、努力したからいいだろってのは、およそ人の上に立つ者として

 認められる姿勢とは言えませんな。そう、あなたには責任感が無さ過ぎる。

 もはや話になりません。兄君……いえ魔王陛下にお目通し願いたい。

 『此度の案件の、責任を取っていただきたい』と」

 

俺の提案に、また部室はどよめく。そりゃそうだろう。

曲がりなりにも直属の上司であるグレモリー部長に対する不信どころか

悪魔と言う種族の頂点に立つ魔王の召喚を要求しているのだから。

ま、俺だってこんな無茶な要求が通るとは思ってないが。

 

「せ、セージ君それは言いすぎ……」

 

「い、いきなり魔王様って、お前正気かよ!?」

 

「む、無茶を言うわね……分かったわ。お兄様……いえ魔王様に謁見できるよう

 私から話を……」

 

「いえ、それには及びません、お嬢様。

 誠二様、本日私がこちらに出向いたのは、その魔王様より

 誠二様への言伝を預かっているからなのです」

 

……何? まるでこちらの言う事を見抜いていたかのようなタイミングだな。

いや、このタイミングで向こうから接触を試みるって事は……

 

考えたくは無いが、あまりいい内容じゃないだろうな。

それに、俺絡みで上層部が動くと言うのは、恐らくは……

 

――あなたにかけられているはぐれ悪魔の嫌疑――

 

それは、先日コカビエルとの戦いの時に遭遇したイェッツト・トイフェルの

ウォルベン・バフォメットと言う悪魔の言葉。

あの時は正直事態が切迫していたので話半分でもあったが、ありえなくは無いと思っていた。

恐らく、言伝と言うのはその件に関してだろう。

と言うか、それ以外の理由で態々一介の転生悪魔である俺に言伝までする必要があるとは

全く思えないのだ。

 

「リアス・グレモリー眷属の『僧侶(ビショップ)』、ギャスパー・ヴラディの幽閉を解く。

 それと同時に、リアス・グレモリー眷属の『兵士』、歩藤誠二を幽閉処分とする。

 以上、魔王様……サーゼクス・ルシファーの発表をお伝えします。

 後日、授業参観にはサーゼクス様がお見えになります。

 その際、本件は改めて正式に伝えられますと共に、ギャスパー様の幽閉の解除

 および誠二様の幽閉の執行が執り行われます」

 

「な……!?」

 

「せ、セージさんが……幽閉!?」

 

「う、嘘だろ……」

 

その発表を聞いたとき、当然のことながら色めき立った。

オカ研のメンバーは10人にも満たないと言うのに、相当騒がしくなった風に思える。

まぁ、俺が閉じ込められるよりも、俺の知らない僧侶の封印が解かれる事の方が

重大なニュースだろうよ。今の俺は……って、さっきからどうもいかんな。

俺はここまで根性曲がっていたか? ……性格は悪いかも知れんけどな。

 

しかし幽閉か。穿った見方をすれば、俺を閉じ込めておいて肉体を衰弱死させる。

そうする事でも、ある意味俺の目的は頓挫する。そうなりゃ、俺の要求は意味を成さない。

ただもしそうなったら、俺は正気を保てるかどうか。

少なくとも、悪魔を恨みはするだろうよ。だとしたら、ある意味ドライグには感謝だな。

 

……また暴走して、要らぬ被害を出したくは無い。

 

「お兄様が!? またお父様の入れ知恵なのね! ギャスパーの封印を解くのはいいわ。

 けれどセージを封印ってどういうことよ! ライザーの一件で、まだ懲りてないと言うの!?

 そもそも、今のセージは……」

 

「……おやめくださいお嬢様。旦那様も、お嬢様を思っての今回の決定です。

 どうか、今のお言葉は撤回願います。それに、曲がりなりにも魔王様の決定。

 それに異を唱えると言う事は……」

 

グレモリー部長の反応を見るに、また部長は無視されたと見るべきか。

まぁ、俺みたいなのがいればそういう風に考えたくもなるか。

今までが今までだからな。今がこうだから、なんてのは免罪符になりゃしない。

俺はそれについては仕方ないと思っている。だからこそ、俺の要求が通るとは思っていない。

なので、俺の問題は俺が解決するべきなのだろう……見込みは無いが。

 

「……結構だ、グレモリー部長。悪魔社会では、俺みたいなのは淘汰されるべきなのだろう。

 それに気付くのが、俺は少し遅かった。それだけの事だ。

 で、グレイフィアさん。俺は何処に幽閉されるので?

 その間の衣食住……はまぁどうにでもなるか。

 俺は生きてもいないが、死んでもいない。かつてドライグは俺にそう言ったしな」

 

吐き捨てるように俺が零すと、グレイフィアさんは淡々と俺の今後について説明してくれる。

曰く、旧校舎に封印を施してある部屋がある。今はその僧侶が封印されているが

その彼と入れ替わりで俺が封印される事になる、らしい。

 

……ん? そういや、その部屋って……

 

地図を出してもらい、俺の記憶とすり合わせる。

……あ。この間俺が勝手に入って、中の棺桶を変形させてぶん回したんだったっけ。

これは……このことは黙っておくか。まさかあの中にその僧侶が入っているなんて……

 

……ないよな、うん。無い。そう思いたい。

正直、俺も生き物のモーフィングなんてした事がないし、発想が無かった。

い、いや、俺がそこに至る考えが無かっただけで、もしかしたら可能なのかも。

いやいやしかし……生物を変形させるってありなのか?

アメーバとかスライムみたいなのならともかく。

 

「……ジ君。セージ君。聞いてるかい?」

 

「うぇ!? あ、ああ、すまない。考え事をだな……」

 

祐斗の言葉で、俺は現実に引き戻される。

もしやらかしていたとしても、今更なんだと言う話もあるし。

 

「何を考えているのかは察しが着いたけど、その通りだよ。

 だから僕はあの時丁寧に扱ってくれって言ったんだ……」

 

「すまん。って、祐斗に謝っても仕方ないな。部屋の引継ぎがあるだろう。

 その時に俺からもその僧侶に謝らせて貰うさ」

 

「? なんでセージがギャスパーに謝るのかしら?

 まぁいいわ。セージ、なるべく早くあなたが自由になるように私も働きかけるわ」

 

「ゆっくりで構わない。自由になったところで、俺には戻る場所など……

 いやすまない部長。今のは聞かなかったことにして欲しい」

 

全く、俺も疲れているな。

まぁ、色々あったから仕方の無い事かもしれないが。

思った以上に、ショックも大きいし。

態度の節々に出ている以上、今の俺が正常じゃないのは分かりきっている。

 

……骨休めには、丁度いいのかもな。

ため息をつくと、今度はイッセーがなにやら神妙な顔をしていた。

珍しい。こいつが神妙な顔をするとは。

 

とは言え、こいつは以前松田のお宝と言う至極どうでもいいことで神妙な顔をしたことがある。

内容は思い出すのもばかばかしいと言うか既に忘れたが。

今回もそれくらいの事かと思ったが……

 

「そうだ部長。俺からも言わなきゃいけない事があったんです。

 昨日、契約の仕事でゲーセンに行ったんですが、その相手が……」

 

「……知ってるわ。みんな、これを見て」

 

イッセーの言葉をさえぎり、グレモリー部長は冥界のゴシップ雑誌を出してくる。

確か以前部長を堂々とこき下ろしていた雑誌だ。よくそんなものを買う気になるな。

それはそうとして、開かれたページをみてみると

そこにはイッセーと、堕天使らしき人物が映っている。

しかも、羽の枚数からかなり上位の堕天使のようだ。

 

「この堕天使はアザゼル。冥界で言う魔王にあたるポジションにいるわ。

 セージの事もだけど、今日はイッセーにこの事についても聞きたかったの。

 あなた……何もされてないわよね!?」

 

「え? ええ、一緒にゲームやったくらいっすよ?」

 

「そう、それならいいわ。どうせゴシップ誌の言う事だし

 私は信じていなかったけど。いずれにせよ、信じるならイッセーね」

 

その一言にイッセーは感激しているが、俺はそんな猿芝居をよそに

もう少しじっくりと雑誌を読んでみる事にした。

 

そこには、こう記されている。

 

――赤龍帝と堕天使総督の密談!?

 

――悪魔に対する裏切りか!? 堕天使総督との契約!?

 

――リアス・グレモリー、まさかのスパイ疑惑!?

 

何処の業界もゴシップ雑誌ってのは不必要に煽るな。

そうしないと売れないとでも言いたいかのように。

こんな勝手な事を書かれれば、そりゃあグレモリー部長の性質上怒るだろう。

 

「全く……何処の誰よ、こんな根も葉もない事をでっち上げたのは!」

 

「けど部長、この写真だけは合成じゃないっす……。

 実際、俺とこのアザゼルって堕天使、このゲーセンで会いましたから」

 

「……チッ。やはり堕天使は屑の集まりですわね。

 イッセー君を利用して、悪魔を、部長を貶めようとするなんて」

 

いつもの口調から一変、舌打ちまで交えながら姫島先輩が毒づいている。

しかし姫島先輩よ。確かにアザゼルとやらにそういう意図があったとしても、だ。

それを雑誌にして出しているのは悪魔じゃないか。

俺には寧ろ、これを利用して悪魔と堕天使の全面戦争を引き起こそうと言う思惑が見て取れるが。

 

……最も、それを企んだコカビエルが討たれた今、誰が得をするんだって話だが。

 

「私もそれは確認しました。既に魔王様の手で、出版社に規制はかけられましたが……」

 

「ところが、下手に規制をかけたためにそれが事実だといっているようなものである、と。

 そう思われてしまったから、余計に収集がつかなくなってしまっているようですな」

 

「……仰るとおりです、誠二様。現在冥界では目立った混乱は発生しておりませんが

 一部の悪魔から魔王様や旦那様に責任追及が及んでいる状態ではあります」

 

なるほど。それがさっきのグレモリー部長への発言を取り消せにつながるわけか。

俺と同じくらいにはグレモリー家ってのも踏んだり蹴ったりみたいだしな。

……俺のせい、と取れなくも無いだろうが。

 

……しかし、おきてしまったものは仕方が無いが

この手のスキャンダルは放置しておけば自然と鎮火するものではないのか?

下手に動いたがために、余計に延焼してしまう。

今回の件は、どうもそう思えてならない。

 

……これでは、俺の事も後回しにされそうだな。

本当、騒動には事欠かないな。

 

――――

 

数日後。今日は授業参観が行われている。授業参観、か。

母さんは仕事があるから、仮に俺が宮本成二に戻っていたとしても来なかっただろうな。

まだ幽閉処分を下されていないので、俺は霊体のまま教室を漂っている。

 

イッセーの親御さんは……アーシアさんのほうばかり見ている。それでいいのか。

授業の方は……英語のはずなのに何故か粘土細工を作る話になっている。だから何故だ。

……そういえば、ここは教師も結構癖の強い人間が多かった気がする。

 

暇なので出来栄えを見てみると、イッセーはグレモリー部長の裸体像を作り上げていた。

こいつの手先が意外と器用なのは知っていたが……問題は、そのディテールだ。

俺の知らないところでこいつがグレモリー部長を

そういう風に観察した時があったのかもしれないが

俺の知る限り、そこまで親密ではなかった気がする。アーシアさんならともかく。

まあ仮にアーシアさんの裸体像だったら、俺が「うっかり」壊していたかもしれないが。

いくらなんでも、クラスメートの裸体像はまずいだろう。

グレモリー部長だからいいってのも、ちょっとおかしな話な気もするが。

 

俺も以前一度シャワーで出くわしたときや

使い魔を捕獲しに行った時位しか確認していないしする気も無いが

もしイッセーが妄想だけでこれだけの代物を作り出せるのだとしたらば。

 

……これが悪魔になってから開花した才能なのかどうなのかは俺も知らない。

だが、間違いなく将来食うのには困るまい。死後評価されるパターンかもしれないが。

 

そんなわけの分からない授業が終わった後、家庭科室でなにやら人だかりが出来ている。

野次馬を乗り越える形で天井から様子を見てみると

作務衣を着たくせっ毛の美青年が炊き出しをしている。

 

……あれ? あの人、確か俳優の天道寛(てんどうひろ)じゃなかったか?

俳優で料理評論家、但し自筆の本は鳴かず飛ばずだった天道寛。

本を書く才能がなかっただけで、料理の腕は超一流。

そんな彼が炊き出しとは、そりゃあ人だかりも出来るわ。

 

「お釈迦様は言っていた……『食事はあらゆるものに感謝し、祝福を賜るもの』ってな。

 押さず、駆けず、喋らず。順番を守って並ぶんだ。焦らずとも、用意はしてある」

 

この人だかりは、ちょっとやそっとでは消えそうもない。

これ以上ここにいても仕方ないので、俺はこの場を離れる事にした。

炊き出しの豚汁は気になったが、これを並んでいたら日が暮れそうだ。

そもそも、実体化できないので食えないんだが。くそっ。

 

……でも何で、天道寛がここにいるんだ?

家族がここの生徒、って噂は聞かないし、そもそも俺は芸能関係にはあまり強くない……。

面ドライバーシリーズの俳優なら、何となく分かるんだけど。

天道寛だって、面ドライバービートの主役やった経験ある俳優だし。

 

少し移動すると、今度は場違いな衣装を着た女性がいた。

さっきの天道寛と言い、ここはいつから撮影現場になったんだ?

場違いな衣装を着た女性。その衣装とは魔法少女のコスプレ……

 

 

 

……ではなく、高そうな着物を着たポニーテールの女性。

しかも、番傘のおまけつき。もう何処から突っ込んでいいのか分からない。

その隣には、旧日本海軍の軍服と思わしき制服を着た黒髪の男性がいるし。

 

流石にその格好を見かねたのか、生徒会が動いているようだ。

先割れスプーン、もとい匙がこの男女に苦言を呈している。

 

「困りますよ。いくら父兄の方でも、ここは学校ですよ?

 相応しい格好をしていただかないと」

 

「困ってしまいましたね。これでも相応しい格好だと思ったんですが。

 ()()の方が良かったでしょうか?」

 

「冗談でも止めてください。建物が倒壊してしまいます。

 着るならせめて()()のほうにしてください。

 確かに、あなたの言うとおり普段着でも良かったかもしれませんが

 私、仮にも宮内庁の人間ですので制服で来た方が良いかと……」

 

くっ、くくくくくく宮内庁!?

俺が動転するのとシンクロするかのように、匙も動転している。

なっ、ななななななな何で宮内庁の人間がここにいるんですか!?

俺達が動転していると、後ろからシトリー会長がやって来る。

それにも拘らず、匙は動転したままだ。まぁ無理もあるまい。

 

「サジ、どうしました? 物事は簡潔に解決しろと……」

 

「会長! それどころではありませんよ! 人間が宮内庁の和服を正装で……」

 

「落ち着きなさい。宮内庁の方ですか。

 サジ、我々では手に余ります。薮田(やぶた)先生に来ていただきましょう。

 呼んできてください……廊下は走らないように!」

 

早歩きで薮田先生を呼びに行った匙を見送り、俺は様子を見ることにした。

シトリー会長は相変わらず落ち着いているが、俺には何故宮内庁の人間がいるのかが分からない。

何かの隠れ蓑か? グレモリー家に対するオカルト研究部、シトリー家に対する生徒会みたいに。

しかし宮内庁までも悪魔の根城になっているなんて、流石にそれは考えたくない。

 

程なくして、匙に連れられる形で薮田先生がやって来る。

ここは私が受け持つ、と彼らに伝え匙とシトリー会長はまた別の現場に向かったようだ。

ここに人ならざる者も多いとはシトリー会長も言っていたが、それにしたって。

 

「宮内庁……まさかあなた方が直々にお越しになるとは。

 しかし……いつから宮内庁は日本神話とは言え宗教をお認めになったのですか?

 私の知る限りでは、宮内庁は宗教活動は一切認めていないはずですが」

 

「宮内庁は便宜上の立場ですよ。あなたもご存知でしょう?

 今度、ここで三大勢力による会談が行われる事を。そこに彼女も参加しますので

 会場の下見という事で、今日は『日本の高校生の学習風景』の抜き打ち視察も兼ねています。

 大日如来さんも、別口で来ているそうですよ」

 

「私も当代の皇室とは異なり、世俗には疎いのですが……。

 今日見させていただいた限りでは、個性的過ぎてあまり参考になりませんでした……」

 

「……職員会議に議題として提出させていただきます。

 それと、大日如来さんについては把握しております。

 先日、学校に『今日、家庭科室を貸して欲しい』と申し出がありましたので」

 

和服の女性の少し困ったような顔に、薮田先生も少々頭を抱えているように見えた。

思い当たる節があるんだろうな。まぁ、英語の授業で美術の授業をやったりするくらいだし。

しかし日本神話や大日如来がうんたらかんたらって、どういうことなのだろうか。

気にはなったが、流石に薮田先生がいる場で立ち聞きをする勇気は俺にはなかった。

薮田先生のみならず、和服の女性にも見られている気がしたと言うのもあるし。

俺は今実体化はしてないはずだ。シトリー会長も霊体の俺は見つけられないし。

 

……うん? そういえば大日如来様が家庭科室の使用申請って……

今家庭科室にいるのは天道寛。

 

……まさか、まさか……ね。

気にはなるが、相手が相手だ。好奇心は猫を殺す。

薮田先生には俺は普通に見えるし、思い返してみると

天道寛も俺に気付いていたような気がしないでもない。

立ち聞きをやめ、俺は部室に移動する事にした。

 

――――

 

部室に向かう途中、冗談抜きで撮影会場になっている場所があったが

そこについてはあまり触れないでおきたい。頭が痛いからだ。

俺の耳がおかしくなっていなければ、レヴィアタンがどうとか聞こえた気がする。

まさか、カメラを向けられてへらへらしてたあれが、か?

 

……笑えない冗談だ。いや何時もがっちりしていろと言うつもりも無い。

だが、アレは酷い。完全に相手を、世間を舐めている。もしアレが本当にレヴィアタン陛下なら

俺はとっくに見つかっているのだろうが、目も合わせたくなかったのが本音だ。

と言うか今冥界は、あんたの同僚の家族はえらい事になってるだろうが。

何処吹く風とでも言いたいのか。それでいいのか。

しかも、記憶が確かなら外交担当だったような気がするんだが。

 

……もう俺は突っ込まない。まさか乗せられた船が泥舟だったなんて。

いや見てくれだけは豪勢だからタイタニックと言うべきか?

あんなのの同僚に、俺は俺の運命を託さなければならないのか。

やっぱ早いところ俺の身体取り戻したい、と思わずにはいられなかった。

……現時点では、それは絶望的かもしれないが。




悪魔の駒マジ外道。
これを作ったアジュカはきっと「全部俺のせいだ! サーゼクス、全部俺のせい!」
とか言ってるに違いありません。
原作ではロケットでとんずらせずに一応責任取ってますけど……

セージは人間に戻りたい

そのためには悪魔の駒の除去ないし悪魔契約の解除が必要

セージに適用されてる悪魔の駒は共有物、契約も共有

共有先のイッセーからは除去・解約不可

……これはひどい(棒
王の駒と転生悪魔の弊害は語られてますが
一度転生悪魔になった者が主を(トレードだけど)変えるって話はともかく
元の種族に戻れるって話は私は知りません。
見落としているかもしれませんが、大々的に取り上げられてもいないはずですし。
本作では悪魔の駒除去手術は技術も前例もありません。
それこそ、需要が無かったんです。

そしてアザゼルがいらんことしたお陰で現在悪魔勢力に不穏な空気が。
一般市民は赤龍帝やリアスに対して「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」とか
考えていたり、いなかったり。
……いや、アザゼルじゃなくてこれをパパラッチしたマスコミが、か?

そして新章と同時にぞろぞろ来た新キャラ解説

>天道寛
これはそのまんま「仮面ライダーカブト」より天道総司と中の人水嶋ヒロ。
正体バレですが大日如来――太陽モチーフの仏様なので
太陽にちなむキャラから抜粋したかったのです。
……あ、そこてつをとか言わないように。
あの人出てきたら速攻で話が終わってしまいますので。カブトも大概ですが。
大日如来様が「家庭科室を貸してくれ」ってのもシュールですが
断りもせずに勝手に振舞う印象の強い原作を見ていると
これだけでも有情に見えてしまうのは目がおかしいかもしれません。

>さるやんごとなき組織からのお忍びの二人
和服の女性は「艦これ」の大和、もう一人の男性は「ヘタリア」の日本です。
大和はしずま先生の「天照モチーフ」の発言を真に受けての抜粋。
時代が時代ならやんごとなきお方ご本人です。
今回和服を着ているのは、流石に海でも海軍施設でもない場所で
あの格好は色々とまずいと思うんです。本文中でも「艤装はまずい」と言ってますし。
日本はさすがにそんな御方が単独で行くのはまずかろうという事での付き人。
大日如来さん? 超俺様なので……
あとはMMD動画とかで共演の影響。
ただしイメージとしては日本そのものが前回の事件を受けて様子を見に来た……
って感じで書いてます。

今回は「日本勢力(妖怪除く)がアップを始めたようです」ってことで。

02/03修正。
キャラクター造詣に影響を及ぼすほどの致命的なミス……
ご指摘ありがとうございます。

02/06修正。
ニホンゴムズカシイデース。
モチーフの元ネタ的にはかなりきわどいところですが、一応修正。
ご指摘ありがとうございます。

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