ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回、久々の長文です。
そして、第三章最終話にしてセージの決着編。

肉体を取り戻す事に固執していたセージへの答えは
今ここに下されます。

お時間のあるときにお読みくださいませ。
ではこの言葉を以って前書きを締めさせていただきます。


「この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
 仮面ライダーゴーストは一切関係ありません」


Soul40. 俺、開眼?

――某日日曜日。昼過ぎ。

 

イッセー、祐斗、塔城さん、アーシアさん。

そして桐生さんに、元浜、幹事の癖に遅刻して

イッセー、元浜、桐生さんの悪友トリオにボコられた松田。

兼ねてから松田と元浜が計画していた、カラオケ大会に参加したメンバーである。

町中にあるカラオケボックス。ここで彼ら7人によるカラオケ大会が行われていた。

 

その前哨戦としてボウリング大会も行われたが

俺は悪魔組がインチキをしないかとひやひやしながら眺めていた。

……その辺は杞憂に終わってくれたが。特にイッセーは松田をボコっていたときも

俺に言わせれば気が気でなかった。イッセーが彼らにボコられる分には然程気にしてないが

逆となれば話が変わってくる。人外の存在と戦う俺らの力では

一般人を軽く小突くのさえ、致命傷になりかねないのだ。

動物園のライオンが飼育員にじゃれて殺してしまうのに近い感覚だろうか。

事実、桐生さんや元浜はともかく、イッセーに小突かれた時には

松田も本気で痛そうにしている風にも見えたが……気のせいだと思いたい。

 

……で。

その俺こと、歩藤誠二はさっきから何をしているのかと言うと――

 

「めっちゃつかもうぜ~ドラグ・ソボールを~」

 

「よっ! ドラグ・ソボールバカ!」

 

「畜生めぇ! アーシアちゃんとデュエットでもしやがればぁーか!」

 

イッセーの歌に、松田と元浜がノリノリで合いの手を入れている。

なんだかんだでアーシアさんも楽しそうではある。

歌も歌わず、さっきから食べ物を注文しては黙々と食べている塔城さん。

真剣に選曲をしている桐生さん。

祐斗は……コーヒーを飲んでそんな様子を眺めているな。

ああ、気持ちは分からんでもないが、その態度をその顔でするのは

ある一部からは総スカンを食らうぞ、祐斗よ。

 

――そう。

俺は実体化ができないので、そんな様子をずーっと眺めているのである。ずーっと。

そりゃまぁ、俺だってボウリングやりたいとも思ったし

面ドライバーの曲だって歌いたいって時もある。

 

何故こんな生殺しもいいところな状態に首を突っ込んでいるのかと言うと

祐斗や塔城さんの提案だ。曰く――

 

今度みんなで集まるから、その時にセージ君のお見舞いもコースに入れる。

その時に、隙を見て身体に戻ってはどうだろうか。入り口の除霊札は、僕らで何とかする――

 

だそうだ。と言うのも、右手を失った一件以降、イッセーにうまく憑けないのだ。

一度憑いたら、中々分離できないのだ。まるでイッセーの――いやドライグに取られた

俺の右手が錨になってしまったかのように、イッセーの、ドライグの存在に俺が引っ張られる。

そんな錯覚を覚えてならないのだ。

そんなわけなので、イッセーに憑依して除霊札をやり過ごす方法が使えない。

そこで、除霊札を何とかしてくれると言う祐斗と塔城さんのプランに乗る事にしたのだ。

 

しかしこの方法には問題がある。

肝心の協力者たる祐斗や塔城さんからは俺が見えないし

俺が見えるイッセーにも一応事情は話してあるとは言え

参加も出来ない俺がうろついては目障りだろう。

 

……つまり、祐斗よりさらに一歩引いた状態で俺はさっきから行動しているのだ。

まぁ、霊体なのでその辺は問題ないんだが。

どうにも……な気分をさっきから味わっているのもまた、事実だ。

 

『はぁ。しかしこうして眺めている分にもそれなりに面白いからいいか……うん?』

 

思わず俺がぼやいていると、見覚えのある集団が何処からかやって来た。

虹川(にじかわ)楽団、そして祐斗の古い友人であり今は虹川姉妹専属の作詞家、海道尚巳(かいどうなおみ)

最も彼らは幽霊であるため、この場にいる全員にその姿は見えない。

俺みたいに事情があってイッセーにだけは見えるって存在と違い、正真正銘の幽霊だ。

と言うかそもそも、俺は死んでないから幽霊じゃない。

 

『おうおう、盛り上がってやがるねぇ。

 にしても木場の奴、こんな時くらい羽目はずしても良いだろうに』

 

『ほんとほんと。折角の宴会だもの、盛り上がらにゃ損だよ、損!』

 

海道さんと芽留(める)は、この場のノリが気に入ったのか自分達も参加しかねない勢いである。

最も、物理的に不可能なのは俺と同じなんだが。

と言うか、この場で乱入されたら騒ぎが起こるんでやめてくださいマジで。

 

『それより、あの隅っこ。セージさん、いるよ?』

 

『あ、ほんとだ……うっわ。セージも見えないからあそこにいるんだろうけど

 私らに言わせると結構アレな絵面よね、これ……』

 

『鬱いわね……』

 

……あ。俺が幽霊を普通に見えるのと同じように、幽霊からも俺は普通に見えるんだった。

それと同時に俺は、里莉(りり)瑠奈(るな)が言わんとしている事を察してしまった。

ちょっ、ぼ、ぼっちとかじゃないから! イッセーに見つかると面倒だから

こうして隅っこで隠れてるだけだから!

 

『……アレとか言うな。そんな事よりも、何故ここに?』

 

『何か楽しそうな雰囲気があったからねー。

 セージこそ、私らが夜しか動かないと思って油断した?』

 

……そうだった。幽霊にはあまり睡眠という概念が無い。霊魂だけの俺でさえ基本そうなのだ。

そもそも生きていないため、おおよそ生きるための三大欲求とは無縁なものなのだ。

とは言え、色情霊なんて単語もあるし、さる伝記には食欲旺盛な幽霊なんてのもいるらしいが。

そんな俺をよそに、幽霊組は話をどんどん進めていく。おいちょっと待て。

 

『ドッキリ第一弾大成功ー! じゃ、続いて第二弾、いっくよー!』

 

相変わらずのハイテンションで、さらに何かしでかしてくれそうな芽留。

しかも今回は、後ろで海道さんがギター構えてるじゃないか。

ま、まさか……まさか、ね?

 

「!? お、おい、いきなり電源落ちたぞ!?」

 

「ま、まさか『白昼のポルターガイスト』!?」

 

「こ、こんなところでか!?」

 

「き、機械の故障じゃね?」

 

結論から言おう。俺の予感は的中した。

曲を入れるタイミングを見計らい、カラオケの機械の電源を落としたと同時に

海道さんのギターの演奏が始まってしまったのだ。

……あーあ。俺、知らないっと。だけど、一応言っておこう。

 

――俺は何もしてないからな。「俺は」。

 

当然、誰も曲を入れていないのに突如として機械が落ちた上に曲が流れれば、皆驚きもする。

一部の者――あの時コカビエルとの戦いの場にいた皆はこの曲を聴いたことがあるが

桐生さん、松田、元浜はこの曲は聴いたことがあるはずがない。

木場も思わず飲んでいたコーヒーを噴出し、むせ込んでしまっている。

木場が飲むカラオケボックスのコーヒーは苦くないのに、だ。

 

「木場、お前汚ぇな!」

 

「ごめんイッセー君、でもこの曲……」

 

「あの時の……」

 

人間三人組とは違う理由で、イッセーらも驚きの表情を浮かべている。

そりゃあ、あんな非日常で聴いた曲が、日常たるこの場面で流れれば驚くわ。

俺だって現に衝撃を受けている。

祐斗は別個で思うところがあるのか、感慨深げにもしているようだ。

 

そう、この曲は祐斗の古い友人である海道さんが作曲したもの。

生前、完成した曲を弾く場面には恵まれなかったそうだが

今は虹川姉妹の協力を得てこうして演奏ができるらしい。

 

『ほら、セージも演奏に参加しなよ』

 

芽留はしきりに俺にも演奏を勧めてくる。

実際、俺も彼女に指南を受けたのでトランペットが出来たりするんだが……

それは、五体満足なときの話だ。右手の無い状態での演奏の訓練など、俺は受けてない。

やりたくても出来ないんだが、右手をなくした経緯を説明するのも気が引ける。

もっと言えば、右手がなくとも、最悪管楽器なのに口がつかえなくても演奏は出来る。

それが虹川流の演奏方法なのだが、俺がそれをマスターしたのは記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の賜物であって。

それが使えない今は、どっちにしたって演奏できないんだが……むぅ。

 

『いや、俺は今日は気分じゃないと言うか……』

 

『答えは聞いてないっ! セージも参加、参加!』

 

俺は押し切られる形で演奏に参加させられる羽目になった。

こうなったら自棄だ。振りだけでもやってやる。

 

――結局、カラオケ大会の〆は幽霊の乱入によって幕を閉じる事になった。

呆然としていた皆をよそに、海道さんは満足げに去っていく。

案外君らはた迷惑だなおい。

 

しかし、去り際に海道さんがふと漏らした言葉。

それは一概にもはた迷惑と言い切れないものだった事は胸に刻んでおく。

 

――達者でな、木場。

 

そう。今世において、彼らは二度と出会うことは叶わないのだ。

祐斗に霊感があれば、また話は変わったのかもしれないが、そういう意味でもないだろう。

海道さんにしても、祐斗にしても、聖剣計画とは既に過去なのだ。

もはや互いに進む道は違えている。方や幽霊、方や悪魔。

いずれも人ならざる道なのだが、俺の見た限り、人としての心まではなくしていない。はずだ。

ならば、俺がとやかく言うことはないだろう。

 

一風変わった縁だったが、またどこかで道が交わったときには

語らうのも悪くは無い。俺はそう思う。

 

『……で、さっきから何物思いに耽ってるの、セージ?』

 

『うん? いや別に? おっと、俺もそろそろ移動するから、またな。

 ……それと。もし、もしもだ。俺がいなくなったときは

 俺の権限は今の有志に受け継ぐ形にはしてある。君らはただ、音楽の道を邁進して欲しい』

 

『……なんだか、いなくなっちゃいそうな言い方ね』

 

む。やはりそう取られるか。言い方がまずかったかな。

瑠奈の指摘も最もだ。今の俺はPV担当のお飾りマネージャーとは言え

突然いなくなる事態は避けたいとは思ったんだが。

何分、この間のような事態が起きた以上は何が起きてもおかしくないのだ。

 

……それに、俺が実体を取り戻した時、彼女らと今までどおりに接する事ができるのかどうか。

俺は小さい頃から見えないものが見えるとか、そういうのは特に無かった……はずだ。

つまり、幽霊が見えるのは俺が霊魂だけになり、彼女らと近しい存在になっているからに過ぎない。

 

『えっ!? セージ、マネージャー辞めちゃうの!?』

 

『いや、万が一の話だ、万が一の。少なくとも今は辞めるつもりは無い』

 

里莉がオーバーリアクション気味に驚いた様子を見せるが、俺はそれをはっきりと否定する。

あくどい事を言えば、悪魔としての面子を保つための上得意先でもあるのだ。

最近ではそういう悪魔契約に関してはイッセーに水を空けられている気もするが。

まぁ、あまり人間相手にそういうことをしたくないってのは心のどこかで思っているのかもしれない。

……本当、俺は性格こそ悪魔に近いが悪魔失格だと思う。

だが、だからこそ早く俺は身体を取り戻し、人間に……うん?

 

その考え自体は揺るぎ無いものなのだが、俺は何か引っかかるものを感じた。

それが何なのかまでは確証がつかめないが、それでも何かがひっかかる。何だ?

……いや、今は迷っている場合じゃない。そもそもこの間だって、俺が迷ったお陰で失敗したんだ。

もはや迷いは許されない。やるしか、ないんだ。

 

そんな事を考えながら、大層な事をしでかしてくれた虹川姉妹と別れ

カラオケボックスを後にした一同についていくことにした。

 

――――

 

「ちぇっ。もうちょいドラグ・ソボールの歌を歌いたかったぜ」

 

「仕方ないよ。明日から普通に学校だし」

 

零すイッセーを木場が宥めている。その様を桐生さんが眺めニヤニヤしている。

何を考えているのかは……深く考えるのはやめよう。女性の闇というのは、結構深いものだ。

イッセーにせよ、松田にせよ元浜にせよ、それを知らなさ過ぎる。

祐斗は……知ってそうだな。表に出さないだけで。

そう、だからあっけらかんと桐生さんに突っ込んでいるが……

あまり、調子に乗らないほうがいいと思うのは俺だけだろうか。

波長が合うとは言っても、桐生さんも根っこは女性だと思うんだがね。

 

一方、平和なのはアーシアさんと塔城さん。

きょとんとするアーシアさんに、塔城さんは「無視していい」と言わんばかりの対応を取っている。

アーシアさんがそういう世俗に疎いのは知っているが、塔城さんは知っているのか?

……これも深く考えるのはやめておくか。

 

「……さて、それじゃセージ君の見舞いに行こうか?」

 

「おっ、さすがイケメン。こんな時でも友達思いだな。

 けど、俺だって土産話いっぱい仕入れておいたんだぜ?」

 

「一回しか見舞いに行ってない誰かさんと違ってな」

 

「なにぃ!? 俺だってちゃんと行ったぞ!

 ……うやむやになったけどな」

 

祐斗の言葉を皮切りに、俺の見舞いに行く話になる。

さて、いよいよか。しかし……俺はここにこうしているし、夜や部室とかなら

祐斗やアーシアさん、塔城さんにも見えるわけだから見舞いというのも変な話だよな。

それに、イッセーが一回しか見舞いに来てないって話だが

他の面子――祐斗やアーシアさん、塔城さんが俺の見舞いに来たという話は聞いてない。

別にどっちでもいいから黙っているが。まぁ、これも深く考えても仕方ないか。

それに、このややこしい事態ももうすぐ解決するんだ。

 

特に反対意見も出ず、祐斗の目論見どおり、次の目的地は駒王総合病院へとなる。

祐斗が合図を送ってくれているようだが……俺、そっちじゃないぞ。

まぁ、事の成り行きはみていたから知っているけど。

 

そうして病院を目指す俺達の前に、見覚えのある人物の混じった一団が見える。

見覚えがあるといっても、敵対的な意味ではない……はずだが。

アーシアさんは特に見知っているらしく、いの一番に一団に声をかけた。

 

「あ! ゼノヴィアさん! 慧介(けいすけ)さんたちも!」

 

「アーシア、知り合いなのか?」

 

「ええ、最近家事手伝いのアルバイト始めたんです。そのアルバイト先のお家の夫婦なんです。

 赤ちゃんもいますよ?」

 

アーシアさんがアルバイト、か。社会勉強という意味では実に有意義だ。

幸か不幸か、言語についても堪能だし、積極的にやるべきだと俺は思う。

しかしまぁ、あの束縛したがりのグレモリー部長がよく許可出したな、とは思うが。

それはイッセーも思ったのか、小声でアーシアさんに問いかけていた。

 

「アルバイト? んなことしなくったって、悪魔の契約で……」

 

「ええ、でももっとよく普通の生活ってものを知りたかったので。

 イッセーさんのお家ではよくしてもらってますけど、他のお家の事も知りたかったんです。

 それに、元教会の所属って事で悪魔の契約では入れなかったんですよ」

 

ああ、それなら確かに悪魔契約って体では入れない家庭だわ。

教会を抜けたといっても、だからって悪魔と契約するって風には考えなかったんだろう。

悪魔になってしまった俺が言うのもなんだが、いいことだと思う。

 

「……やあ、お揃いだな」

 

「ゼノヴィア!? お前、国に帰ったんじゃ……それに、イリナの奴は……?」

 

イッセーの言葉に、一瞬ゼノヴィアさんの表情が曇ったように見えた。

む。イッセーの奴め、地雷踏んだか?

 

「……あれからはぐれてしまってな。今はイリナが見つかるまで彼らの家に世話になっている」

 

「イリナが!? だったら、俺らも探すのを……」

 

「……申し出はありがたいが、結構だ。もうコカビエルの脅威も無い。

 私と君らが手を組む理由など、もはや無い。イリナを探すくらいはわけないさ。

 アーシアには個人的に世話になっているが、だからと言って君らとまで手を組めるほど

 私は割り切りのいい方じゃないんでな……」

 

「……手厳しいですね」

 

む。こりゃ間違いなく何かあったな。しかも結構ややこしそうな事態が。

しかも、本人がああ言っている以上下手に踏み込めんぞ。

この件については……仕方ない、放っておくしかなさそうだ。

俺達は、何でも解決できるわけじゃないし、不用意に他人の領域に踏み込むべきじゃない。

塔城さんに祐斗は言わんとした事を察したのか、少し寂しそうながらも納得しているのに対し

イッセーは納得していないような顔をしている。が、こればかりは諦めろ。

 

「あ、紹介しますね! こちらゼノヴィアさんに

 私がベビーシッターのアルバイトでお邪魔してる伊草慧介(いくさけいすけ)さんに、めぐさん。

 それと……百合音(ゆりね)ちゃん、今日はいるんですか?」

 

「いるわよ? 今はおねむだけどね」

 

妙な空気になってしまった場の空気を変えようと、アーシアさんが皆にゼノヴィアさんと

彼女が世話になっているという二人を紹介している。ナイスだ、アーシアさん。

 

「伊草めぐよ、よろしくね」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 

松田にせよ、元浜にせよその目つきに何か如何わしいものを感じた。

無論、イッセーにもだ。しかし今のアーシアさんの話しぶりとこの様子だと

彼女、子持ちじゃなかろうか。お前ら女性ならなんでもいいのか。

 

……最も、子持ちの女性に好意を抱くという点においては

俺は決して他人のことを言えた義理ではなかったりするんだが……。

 

そしてそれを知ってか知らずか、慧介と呼ばれた男性は不機嫌そうに……

いやそう見えるだけか? とにかく、むっつりとした表情で語り始める。

 

「君達は高校生か。こんな時間に何をしている。

 早く家に帰り、勉強をしなさい」

 

あ……これはあれだ。めんどくさいタイプだ。

そして、俺があまり得意とはしないタイプの人間だ。

正直言って、分かりきった事、当たり前の事をしたり顔で偉そうに講釈垂れる奴は

あまり好きではない。そしてまたその手合いの教師は駒王学園にも少なくなかった。

……決まってそんな教師の授業は必要最低限だけ聞いて寝ていたが。

それは悪ガキどもも同じ考えなのか、めぐさんとの態度とは打って変わった

「帰れ」オーラがにじみ出ている。恐らく違う理由もあるかもしれないが。

そして、そんな俺達の考えを見透かしたかのようにめぐさんからも突っ込みが入るのだった。

 

「はいはい、しょうもない事言わないの。

 君達、その様子だとアーシアちゃんのお友達? この方角だとあそこのカラオケかな」

 

「え? そうですけど……」

 

一方、めぐさんは友好的な態度でこちらに接してくれるみたいだ。

なんというか、分かりやすい構図だ。気苦労が絶えなさそうとも思えるが。

皆はカラオケに行った話、ボウリングをした話をめぐさんにしている。

慧介さんは……不機嫌そうだ。俺も正直少しだけ同意しているんだが……。

 

「ああっ!? ファッションモデルの伊草めぐさんじゃない!

 わ、私ファンなんです! サインお願いします! な、名前は桐生藍華で!

 ……元浜、めぐさんにアレやったら明日から晒しあげるからね?」

 

「やんねぇよ、そもそも俺の守備はん……や、なんでもないです」

 

ふと、桐生さんが素っ頓狂な声を上げる。なるほど、めぐさんはファッションモデルなのか。

確かに見た目は俺の記憶している元浜のストライクゾーンからは外れている。

俺は……許容範囲かな。変態談義に参加している桐生さんだが

ファッション雑誌を読むくらいには女子力あるんだな……ってのは失礼か。言わないでおこう。

 

「? まぁいいわ。はい、サインね……藍華ちゃんへ、っと。

 これでよし、応援ありがとうね」

 

「はいっ! あ、隣の方もモデルさんですか?」

 

「わっ、私かっ!?」

 

手慣れた手つきで書かれたサインを貰い、桐生さんは満足そうだ。

どこにサイン色紙を持っていたのか、は気にしたら負けだろうな。

桐生さんはゼノヴィアさんもモデルかと思っているみたいだが……

いやまあ、彼女見た目はともかく、モデルじゃないんだよなぁ。

 

しかしふと思ったが、オカ研の面子やフェニックスの眷属、そして彼女ら聖剣使い。

皆美目麗しい女性が大半なのは何でだろうな。オカ研面子とフェニックス眷属はともかく

聖剣使いと俺らに接点なんか全然無いはずなのに。

あ、フェニックス眷属は確か趣味だったか。

ともかく、何かしらの意図的なものを感じるのは……いや、考えるのはやめておくか。

ゼノヴィアさんのルックスについてはめぐさんも思っていたらしく

なんとゼノヴィアさんをモデルにスカウトしていた。

 

「うん? ゼノヴィアちゃん、モデルやってみる?」

 

「なっ、ななな何故そこで私が!?」

 

「えっ、違うの? めぐさんと一緒にいるから、私てっきりモデル仲間かと……」

 

桐生さんは当てが外れてちょっとつまらなさそうな顔をしている。

ゼノヴィアさんは当惑しているし。まぁ、アーシアさん以上に世俗には疎そうだから仕方ないか。

そんな中、さっきまでめぐさんに向けられていた変態三人組の目線は

今度はゼノヴィアさんに向いている。こいつら、やっぱどこかで処理しておくべきだろうか。

元浜を金座(かねざ)高校の女子生徒から助けたのは間違いじゃなかったと思いたいが

こうも他人様に迷惑ばかりかけるのははっきり言わなくてもいただけないな。

 

「上から87・58・88か。なるほどモデルにゃ向いてるんじゃね?」

 

「元浜ァ! あんた初対面にそれをかますか!」

 

「おおっ! でかしたぞ元浜!」

 

……あーあ。やりやがったよこいつ。

俺は黙ってみているつもりだったが、実行に移されちゃ話は別だ。

イッセーにばれないように元浜の後ろに回りこみ、そっと首筋に手を当てる。

霊体の時は体温とか色々低いので、冷たい手を首筋に当てられれば……わかるよな?

 

「――――――っ!?」

 

「ど、どうしたんだよ元は……むひゃいっ!?」

 

ついでに松田にもかましておく。実体が戻ればこの手は使えなくなるが

それはそれ、これはこれだ。実体のあることのメリットのほうが遥かに大きい。

桐生さんの言うとおり、初対面に向かってセクハラをかますのはいただけないな。

実体があれば、今頃コブラツイストの一撃でも飛んでいたかもしれない事を考えると

この一撃はかなり有情だと思うのは、俺の気のせいだろうか。

 

これら一連の流れは慧介さんにはふざけている様に見えたらしく

さっきからむっつりしている表情がさらに険しくなっている。

……否定しきれないのが痛いな。

 

「いい加減にしなさい! 君達は不健全すぎる!

 学生の本分を忘れ、不埒な会合に耽るばかりか、白昼堂々猥談まで繰り広げる始末!

 そんな事ではこの国の将来を背負って立つ事等出来ん!

 こんな下らない会合を開いている暇があったら、もっと世界に目を向けなさい!

 そして、世界に数多といる理不尽な暴力や仕打ちに苦しめられている人々に

 自分が何を出来るか、それをじっくり考え、行動に移しなさい」

 

言ってる事は間違ってないんだがなぁ。

如何せん、説教臭すぎる。俺が言うな、と誰かには言われそうだが。

けれどバカやってる暇があったら、ちょっとだけそう考えるのも悪い事じゃないと

俺は思っていたりもする。もっと良いのは行動に移す事だが、それは意外とハードルが高い。

だからこそ、俺は気をつけていたつもりではあったのだが。

 

「……ちっ、うっせーおっさんだな」

 

「い、イッセー君……聞こえるよ?」

 

悪態をついているイッセーを、祐斗が苦笑しながらも宥めている。

とは言え塔城さんも口には出してないだけで同意しているような様子だし

松田と元浜は言わずもがな。アーシアさんだけは言葉に感銘を受けたのか

まっすぐな瞳で慧介さんを見つめているようだが。

 

「や……やっぱり慧介さんは最高です! 弟子になりたいぐらいです!」

 

「アーシア君。聞こえないな、もっと大きな声で言いなさい」

 

「あー……これダメなスイッチ入っちゃったわ。

 ほら慧介、馬鹿なこと言ってないで帰るわよ。じゃあみんな、またね」

 

「離せ! まだ話は終わってない!」

 

「あ……じゃ、じゃあそういうことだ。またなアーシア」

 

半ば強引に、慧介さんはめぐさんに引っ張られる形で俺達の前から去っていった。

それを追う形でゼノヴィアさんもついて行ったようだが。

 

「離せ! 俺は伊草慧介だぞ!!」

 

興奮した様子で叫ぶ慧介さんらを、アーシアさんだけは無邪気に手を振って見送っていたが

他の面子の大半はやや引いた様子で眺めていた。

 

「じゃ……じゃあ僕達も行こうか」

 

「……だな」

 

「……賛成です」

 

――――

 

そして、ようやく目的地である駒王総合病院が見えてきた。

何だかんだ言っても感慨深い。ようやく、ようやく俺の悲願は果たせられるのだ。

 

「お、見えてきたな。しかし何時見てもでかい病院だなぁ」

 

「あれ? でも宮本、家そんなに裕福じゃなかったはずじゃ?

 宮本自身、部活じゃなくてバイトに行ってる派だし」

 

……それなんだよなぁ。入院費、いくらになるんだろ。

祐斗にも塔城さんにも言った事だが、やはり実体が戻ればまずバイトだ。

それも悪魔の仕事じゃない、今までどおりショッピングモールのバイト……

 

……って、まだ首つながってるかなぁ。

長期休んでいたから、首切られてる可能性もあるよなぁ。

もし首切られていたら、バイト探しもせにゃならんのか。

こりゃ冗談抜きで、オカ研に顔出してる暇なんかなさそうだな。

 

(……セージ君、セージ君。準備、できてるよ)

 

(おっとすまん、考え事をしていた。それじゃ祐斗、手筈どおりに頼む)

 

そんな先のことで思い悩んでいたら、祐斗の合図に反応が遅れそうになった。

傍から見たら何もないところに手を振っているため、危ない人に思われかねない。

そうしないためにも、俺がしっかりしなければならんのだ。

俺がゴーサインを出すと、祐斗は小刀サイズの風の剣を生み出し

一時的に突風を吹かせたのだ。

 

(――吹け)

 

「え……風が……っきゃあああああっ!?」

 

「お、おおおおおおっ!?」

 

思わずスカートを抑える女性陣に、イッセー・松田・元浜の変態三人組の目が釘付けになる。

 

事の顛末はこうだ。祐斗が気付かれぬように作り出した風の剣で突風を起こす。

その前に、塔城さんがこっそりと除霊札に細工。

風が吹けば剥がれる程度に半はがしの状態にしておく。

除霊札に触れる分には、悪魔の塔城さんでも問題は無い。そもそも張ったのだって姫島先輩(悪魔)だ。

そこに祐斗が起こした風が吹き、除霊札が剥がれる。

 

(セージ君、除霊札ははがれたよ)

 

『ありがとう祐斗、塔城さん……塔城さん?』

 

「……見たものを忘れろ」

 

「小猫ちゃん、これは不可抗……ぐえぅ」

 

「ぎ、ギブ! ギブギブ!」

 

……こっちについては考えが至らなかった。ごめん女性陣。

しかし結果オーライとはこの事か。唯一俺が見えるイッセーも今は塔城さんに絞められてる。

チャンスとばかりに、俺は二人に礼を言いつつ病院に駆け込んだ。

 

(セージ君、彼女におごるときには気をつけたほうがいいよ?)

 

『……心得とく』

 

わき目も振らず、俺は俺の身体がある病室に向かっていく。

だから、俺は気付かなかった。

 

その場に、いるはずの無い者が近づいてきた事に。

その場に、来て欲しく無い者が近づいていた事に。

 

――――

 

駒王総合病院、その一室。

病室の前にかけられた札には、宮本と記されている。

扉は閉まっているが、今の俺には関係ない。

扉をすり抜けると、そこには生命維持装置につながれた俺の身体が確かにあった。

その顔色は、長い入院生活であまりよくは無いものの。

 

『いた……見つけた!! 俺の……俺の身体!!』

 

他には誰もいない。恐らくは偶々だろうが、都合はその方がいい。

感極まった俺は、思わず声を上げてしまった。

 

 

人間ではなくなったと聞かされながらも。

 

人の命を理不尽に弄ぶ悪意を目の当たりにしながらも。

 

ゲーム感覚で命のやり取りを強要されながらも。

 

何処までも続く理不尽に翻弄されながらも。

 

……己の魂を、腕を食いちぎられながらも。

 

 

或いは、この程度の理不尽は人生においてこれからあるのかもしれないが。

それでも俺は人間でありたいと願いながらも、人ならざる力で戦い続けた。

それは全て、この日のため。己の身体を、己のものとするため。

 

『母さん、姉さん、今、今帰るから……!』

 

深呼吸をし、イッセーに憑依する要領で横たわっている身体に憑依しようとする。

憑依と言う表現が適切かどうかはわからない。けれどようやく戻るその身体。

目を閉じ、憑依を試みる。そうして目を開けば、次に映るのは病室の天井だ。

 

 

……そのはずだった。

 

 

『ぐあああああっ!?』

 

代わりに走ったのは、全身を引き裂くような激痛。

まるで、これは自分の身体ではないとばかりに拒絶されたのだ。

何が起きたのか、まるで理解できない。

そうなれば、やる事は一つ――もう一度。

 

 

しかし、結果は変わらなかった。

 

 

『ああああああっ!?』

 

二度の失敗。何か、何かが足りないのか。

腕か、そうか。腕が無いのが原因か。

だがそれだけで、全身が拒絶されるような痛みが走るものか。

まさかもう身体の機能は死んでいるのではあるまいか。それは否。

生命維持装置を確認したが、今のところきちんと動いている。

ならば何故、俺は俺に戻れないのだ。

 

記録再生大図鑑の駆使に費やしていた思考回路を、今回の原因の追究にひたすら費やす。

しかし、どれだけ思考を巡らせても納得のいく結論は出ない。

それからは、もうやけだ。無駄と分かりつつも、幾度と無く身体への帰還を試みる。

当然結果は変わらない。激痛と共に、拒絶されるのみだ。

 

何故、何故ここまで来て俺は俺に戻れない!?

何が足りない、何が!?

 

わけが分からない。俺はここにいるのに、何故俺は俺に戻れない。

俺は、俺は確かにここにいる。それなのに何故戻れない、何故だ!?

 

それから何度繰り返したのか。度重なるトライアンドエラー。

霊体でありながらも息を切らし、心理的にも追い詰められた状態。

俺の身体はさっきからピクリとも反応しない。

どうしてだ、どうして!?

 

俺は……俺はここにいる……いるんだ……

 

 

悲しみ、混乱、無念、悔しさ。とにかく様々な感情がせめぎあい

霊体にも拘らず涙があふれてくる。

涙目を擦りふと病室の入り口を見ると、入り込んでくる赤い髪の人影があった。

 

「……セージ、そこにいるのね……。

 驚かないで聞いて頂戴。今のあなたは……」

 

視界はぼやけてよく見えないが、恐らくはあの人……いやアイツだろう。

ある意味では俺をこうした張本人。

ある意味では俺の命の恩人。

そんなアイツの呪縛から、俺はようやく逃れられると思って。

ただそれだけに望みを託し、今まで戦ってきたと言うのに。

 

 

――身体を取り戻せもしなければ、人間にも戻れないわ。

 

――あなたの魂は悪魔。その身体は人間。無理なのよ……。

 

 

消え入りそうな声で放たれた、非情な宣告。

……それはなんだよ。お前の勝利宣言か?

ふざけるな……ふざけるなよ。なら、俺の今まではなんだったんだ。

俺は今まで、何も無いところを目指して進んでいたって言いたいのかよ。

 

その言葉を振り切るように、俺はさらに身体への復帰を試みる。

しかし結果は変わらず、俺には何もできなかった。

 

その絶望感を引き立てるように、けたたましく生命維持装置の警報がなる。

……本体の方も、衰弱が激しく危篤状態に陥っていたのか……。

 

 

……俺は、このまま終わるのか……?




第三章「月光校庭のエクスカリバー」編、終了です。
原作ではリアスと朱乃は水着を物色していたシーンですが
またしてもイッセー得なエロイベントはキャンセル。
その代わりパンチライベントなら起きてます。制裁のおまけつきで。
変態三人組はもっと「自分がどう思われてるのか」を考えたほうがいいと思うんです。

空耳とかむせたりとか相変わらずさりげないネタはぶっこんでますが
それ以外の解説とか。

アーシア
渡フラグが立った? いえいえそんなことありませんよ?
悪魔契約以外の面からの社会勉強を試みたりとか、前回の避難誘導といい
戦闘では空気気味ですが社会貢献にはかなりアクティブです。
原作ゼノヴィアみたく生徒会に入りそうな雰囲気が漂っていたりいなかったり。
描写はしてませんがこの時の服は原作同様です。

ゼノヴィア
某めぐみんよりバストが3cm大きい方。
アーシアとは友達になってますが、だからってイッセーらとも友達になれるほど
親しいイメージも無かったので。アーシアと違って因縁も無かったですし。
描写はしてませんが流石に193(753)Tシャツは着用してません。

セージ
右腕はなくす。神器は使用不能。イッセー憑依も困難。その上身体は戻らない。
まさに踏んだり蹴ったりの状態です。
でも別にオリ主ヘイトって訳じゃないですからね?
……ただ、ネタバレですがもう一つだけよくない事が起きます。
次章、復活なるか!?

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