ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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サブタイ訳:事態解決。そして……

今回も三人称視点です。
色々な事態が原作通りに行かなくなりましたが
今回もその例に漏れません。





Settle an incident. and...

海の彼方で盗まれた聖剣エクスカリバーが日本国・駒王町に持ち込まれ。

それを追って警察、果ては自衛隊にまで話が及んだ一連の事件。

首謀者である堕天使幹部コカビエルは、その戦力の大半を喪失し。

今まさに、駒王町を牛耳るリアス・グレモリーによって首謀者は討たれようとしていた。

 

「セージ!? お前、その武器は……」

 

「デュランダル……いや、ディフェンダーだ。

 デュランダルの刀身にあるであろう聖なる力を、そのまま防具として使っている。

 剣として使うか、盾として使うかの違いだ。

 力は刀身に流れているから、武器に転用できない事もない」

 

「驚いたな……君は一目見ただけで模倣するどころか応用させてしまうとは。

 力の程度はわからないが、本家本元を操るものとしては負けられないな」

 

両手両足に赤い装甲を、右下腕に盾ともジャマダハル状の剣とも取れる装備を身に着け。

コカビエルとの全面対決を渋っていたセージではあったが、彼我戦力差が埋められた事で

全力を以って殲滅する、と言う方向へと考えがシフトしていた。

 

「あれだけ戦うのを嫌がってたくせに、今更かよ……都合いいな、お前」

 

「何とでも言え。今俺達がやってるのは不特定多数の命のやり取りなんだ。

 限られた条件下でのスリリングなやり取りを楽しむゲームじゃない。

 だから確実性が高く、かつ有益な結果をもたらす策をとるのは自然じゃないか?

 それより、無駄口叩いてないでグレモリー部長に回す力のチャージをさっさと進めたらどうだ。

 俺がこれを使って奴に取り付いて動きを封じる。そうすれば当てられるだろう」

 

イッセーの難癖にも応じず、セージは淡々とコカビエルを倒すプランを頭の中で練っている。

接近できる自分が近づき、コカビエルの動きを封じたところに総攻撃を当てる考えらしい。

 

「グレモリー部長。幸い奴の攻撃を封じる術があります。これを活用して

 奴の懐に飛び込み、動きを封じます。そこを総攻撃してください」

 

「……総攻撃に参加する、って捉えていいのね? わかったわ」

 

セージのプラン。それは、自身が盾を構え突撃し、その影から近接戦闘を得意とする

木場や小猫、ゼノヴィアが攻撃、コカビエルの動きを封じる。

そこに赤龍帝からの譲渡を受けたリアスが一撃を加える。

朱乃は一連の流れをサポート。この流れで戦おうと言うものだ。

 

BOOST!!

BOOST!!

 

「だったらさっさとやろうぜ、セージ!」

 

「――言われるまでもない、安らかな夜を取り戻す。

 あんな奴に、安眠を妨げられるのは甚だ不愉快だからな!

 皆、続いてくれ!」

 

「正面から突っ込んでくるか……俺を舐めるなぁぁぁぁぁ!!」

 

イッセーは力を蓄え、セージはディフェンダーを構え突撃。

その影に小猫、木場、ゼノヴィアが続く形になっている。

本来、実力の大きく離れた相手が真っ向から挑んでくると言う事態に

コカビエルは大きく激昂、無数の光の矢をセージめがけて放つ。

 

――しかし、光の矢はディフェンダーに全て弾かれ、セージには傷一つ負わせられない。

コカビエルの猛攻をものともせずに、セージはコカビエルとの距離を詰めていく。

ディフェンダーの防御力に加え、戦車(ルーク)形態のパワーと突進力で

コカビエルの攻撃をものともしない構えだ。

それは、後ろに控えている三人との距離も詰められている事を意味していた。

 

「デュランダルの力を防御に使っていると言うのか、なるほどな。

 デュランダルを複製するばかりか、悪魔が振るう事に思うところはあるがな。

 今は非常時だから黙っているが、私とてイリナの気持ちは理解しているのだぞ?」

 

「……力比べは遠慮させて欲しい。古代中国の由緒正しい言い伝えに

 『強い矛と盾は交えるな』と言う旨もあることだし。

 それから文句は俺に神器(セイクリッド・ギア)を寄越した奴に言ってくれ。

 アーシアさんと同じで、そういう『仕様』なんだから」

 

「けれど、あのコカビエルを倒すには有効な方法だ。

 小猫ちゃん、もう一度コカビエルの動きを止められるかい?」

 

「……攻撃が止んだら、仕掛けてみます」

 

「貴様らごとき蛆虫どもが、ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

先刻までイェッツト・トイフェルを相手に余裕綽綽であった姿は見る影も無く

ただ激情のままに光の柱を投げつけてくるコカビエルの姿がそこにはあった。

まるで子供が癇癪をおこしたかのような、堕天使幹部としての矜持など

かなぐり捨てたかのような暴れっぷりだ。

それを示すかのように、一際大きな光の柱が、セージを飲み込もうと迫ってくる。

 

「セージ君!」

 

「……セージ先輩!」

 

「――来る、あまり動かないでくれ!」

 

真っ向からセージ達を飲み込もうとする光に対し、セージはディフェンダーを構える。

ディフェンダーの刀身に流れる聖なる力は、攻撃を受け流すためのバリアとなり。

その様は、まるで開いた雨傘に降り注ぐバケツの水であった。

 

強力な撥水加工を施されている雨傘が水を弾くように、光の柱はディフェンダーを貫通できず

複数の条の光となって、セージ達の後ろへと散っていった。

威力だけはあったらしく、光に押される形でセージが踏ん張った跡が地面に残されている。

 

「バカな、俺の力が通らないだと!?」

 

「――防げた! 今のうちに!」

 

「……はい!」

 

セージの影から飛び出す形で、小猫がギャスパニッシャーを構えている。

ギャスパニッシャーの眼は、コカビエルの四肢をしっかりと見据えていた。

白龍皇によって力が減衰させられた事で、ギャスパニッシャーによる

時間停止の効果も通りやすくなっていた。

 

しかしコカビエルも一度食らっているためか、視線に入らないように動き回る。

それを見越してか、その移動先に回りこむように朱乃の雷が遮りに入る。

 

「あらあら、逃がしませんわよ?」

 

朱乃の雷に追い立てられ、コカビエルもついにはギャスパニッシャーの視線上に入ってしまう。

それは即ち、自身の身体の自由を奪われる事を意味していた。

今度は四肢の自由が効かない。防御も、回避も、反撃もままならないのだ。

 

「ぐっ、また『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』か! ええい、どこまでも、どこまでも!!」

 

「終わりだ、コカビエルッ!!」

 

「これで終わりにさせてもらうよ!!」

 

自由を奪われたところに、聖魔剣を構えた木場。デュランダルを構えたゼノヴィアが斬りかかる。

障壁を張る隙さえ与えずに、二つの刃はコカビエルを確実に切り裂いた。

黒い羽が、闇夜に舞い散る。

 

「……セージ先輩、同時に」

 

「――了解したっ!」

 

黒い羽が舞う中、今度は小猫のギャスパニッシャーと、セージのディフェンダーによる打撃が

コカビエルを挟み込むように突き刺さる。小猫の一撃が、コカビエルの身体を突き動かし

セージのディフェンダーの刃に深々と食い込ませる。

そこから流れる血は、人間と同じように赤かった。

 

EXPLOSION!!

 

「部長、決めてください!!」

 

TRANSFER!!

 

「待っていたわ、イッセー。コカビエル、これで終わりよ!!」

 

イッセーから譲渡された力を手に、リアスが滅びの魔力を放つ。

今のコカビエルに、それを回避する術も、防御する術も無い。

ただ無抵抗のまま、リアスの一撃を食らう形になった。

 

「ぐ、が、があああああああああっ!!」

 

赤龍帝によって強化された滅びの魔力が、コカビエルを飲み込んでいく。

戦いが始まる前、それどころか数刻前でさえ遅れは取らないと豪語していたコカビエルが

こうも簡単にリアス・グレモリーの手玉に取られている。

そうなったのは白龍皇の力添えによるものだが

どうあれコカビエルを討ち取った事に変わりは無い。

 

魔力波が消えた跡には、複数の対になっていたコカビエルの黒い羽は

たったの一対のみになっており、その身体は見るも無残にズタボロになっていた。

白龍皇に減衰させられた力をかき集め、滅びの魔力に対するバリアにしたのだが

それを以ってしても、攻撃を防ぎきる事は出来なかったのだ。

 

もはや、コカビエルに戦意は残されていなかった。

リアス・グレモリーと言う、自分よりも格下であるはずの相手に敗れた事が

心身ともに決定打を与えたのだ。

 

「ば、か、な……っ」

 

「コカビエル。今までの狼藉は許し難いものがあるわ。

 犯罪人として、お兄様の、魔王様の下へと連行させてもらうわ」

 

コカビエルを捕縛しようとリアスが近づく。

しかしその目の前に、突如として白い鎧が現れる。

白龍皇アルビオン。コカビエルを弱体化させた張本人である。

 

「待った。悪いがコカビエルの身柄は堕天使総督であるアザゼルが預からせてもらう。

 俺はアザゼルの使いとしてここに来た。自分達の不始末ぐらい、自分達でつけたい。

 そうアザゼルは言っていた。ここはその言葉に免じて、手を引いてはもらえないか。

 もしそうでない場合は……」

 

「実力行使、ね。わかったわ。こちらとしてもこれ以上堕天使陣営と事を構えるつもりは無いわ。

 けれど、追って魔王様からそちらに連絡が行くかも知れない事は伝えておいて頂戴」

 

アルビオン――正確にはアルビオンを宿した者の言葉に、リアスは二つ返事を返す。

いや、返さざるを得ないとも取れる。多少なりとも消耗している現時点で

白龍皇を相手に戦う。それはあまりにもハイリスクだ。

それはその場にいる誰もが理解していた事。そのはずだった。

 

「領主の協力に感謝する」

 

白龍皇は魔法陣を展開させ、そこに突き飛ばすようにコカビエルを放り込む。

恐らく行き先は堕天使総督アザゼルのもと。

連れ帰るのではなく、コカビエルだけを先に送り飛ばした。

その行動の意味するところは、すぐに判明する事になる。

 

『無視か、白いの』

 

『そう言うな。こっちにだって都合があるんだ、赤いの』

 

イッセーの神器から、ドライグの声が。

白い鎧からは、今までとは違う声がそれぞれ響く。声の主は二天龍。

明確な意思の元に、先の戦いにおいて猛威を振るった存在がまた、邂逅していた。

 

『中々面白い事になっているじゃないか、赤いの』

 

『ああ、今度の持ち主が面白い事になっているからな』

 

『その割には、「禁手(バランスブレイカー)」にも至れていないようだが?』

 

『ぬかせ。それに匹敵する、いや或いはそれ以上の力がある』

 

二天龍のやり取りは、古くからの知己に出会った事を喜ぶものとも

目的を果たせた事を喜ぶものともとれるが

いずれにせよ、互いに喜びの感情が強いことだけは確かであった。

そして、彼らにとっての喜び。それは――

 

――戦い。あるいはそれに必要な強さ。それだけであった。

 

『試すか?』

 

『もちろんだ。こっちも仕事は、義理立ては終わった』

 

イッセーの左手の宝玉の輝きが増し。

白い鎧は再び臨戦態勢をとり。

その場の空気が再び張り詰めたとき、更なる異変が起きた。

 

「ぐ……なんだ? 右手が……っ!?」

 

「セージ!? ……っ!? な、何だこれ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が……!?」

 

赤龍帝の片割れ、龍帝の義肢(イミテーション・ギア)――セージ。

彼の右手は、異常な光を放ち、まるでその部分だけ別の存在のようであった。

 

「うああああっ!? う、腕が、腕がちぎれ……ぐああああああっ!?」

 

「おいっ、どうしたんだよ、セージ!?」

 

『相棒。来るべき時が来た。腹をくくれ』

 

セージの右腕に発生した明らかな異常。

右腕の異常な痛みにセージは思わず右腕を押さえるが、痛みは当然引かない。

それに対しイッセーは狼狽するが、ドライグは淡々と

まるでその時を待っていたかと言わんばかりの言葉を投げかけていた。

 

『霊魂の。今までご苦労だったな。約束通り、俺の鱗を返してもらうぞ』

 

「な……いきなり……何だって言うんだ……ま、まさか……!?」

 

セージは何かを察した。それは、ドライグが何故俺に力を貸してくれたのか。

その答えにも連なる事。可能性の一つとして、セージの頭にはよぎっていた。

 

――自分を、何かの保険にしていた事。

 

――あるいは、自分をドライグないしイッセーに力を集めるための貯蔵庫にしていた事。

 

「や、やって……くれた……な!

 俺に……選択肢が……なかった……事を……いい事、に……!!」

 

「ど、どういうことだよセージ!? ドライグ!?」

 

『喜べ相棒。霊魂のとの諍いも、お前に足りない力も、今全て、お前の思うがままだ。

 お前は悪魔になったんだろう? それなのに、思うが侭に力を得られなかった。

 その原因は確かに霊魂のだ。霊魂の。お前が自分の力と思っていたものは

 ほぼ全て、相棒が得るはずだった力だ。性質は大きく異なったがな。

 

 霊魂の。お前は良くやってくれた。

 あれだけのわずかな欠片から、ここまで力を蓄えたのだから。

 そしてそれを今、収穫する時だ。相棒、霊魂のを取り込め。そうすればお前は強くなる!』

 

それは、ドラゴンでありながらもまるで悪魔のような誘い。

しかし、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のことを考えればそれは自然ともいえる。

今まで共有のお陰で憑依していない状態では半々にしか力を発揮できなかったのだ。

それを統合すれば、8個分本来の力を発揮できる。しかし、統合と言う事は当然――

 

――イッセーかセージ、どちらかの人格は消滅する。この場合、消えかかっているのはセージだ。

 

「ふ、ふざけ……んな……俺、は……っ!!」

 

『さあ相棒。霊魂のを取り込め。お前達の悪魔の駒は共有されているのだろう?

 それならば容易い事だ。霊魂のに植えつけたのは俺の鱗。俺の一部。

 分け与えた俺の一部を、今再び俺の元に取り込む。そうすれば、お前はもっと強くなるぞ?

 

 ……やらぬのならば、俺がやる!』

 

「ど、ドライグ!?」

 

「……く、ふふっ、ははは……っ。俺もこれまでか……

 思えば当然……か。訳もわから……ぬ……力、に……

 手を、出した……ん……だから……な……っ!

 気を……つけろ……イッ、セー……ドラ、イグ……は……」

 

イッセーの左手と、セージの右手が一際激しく、赤く光る。

それと同時に、セージは実体化を強制的に解除され

右手だった箇所の赤い光だけがそこに存在する証となっており

その赤い光もイッセーに取り込まれるように消えていく。

 

『こんな……ところ……で、俺の……から……だ……も、とり……戻せず……に……』

 

「お、おいドライグ! やめろ!」

 

『俺は腹をくくれって言ったんだ、相棒!』

 

WERSH DRAGON BALANCE BREAKER!!

 

『……いつか……いつ……か……俺、の……』

 

「せ、セージ!?」

 

セージの声は途切れ、イッセーの身体を赤い鎧が覆う。

それは白龍皇の鎧と酷似した姿。赤龍帝の籠手の禁手――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

赤龍帝の力はあるべき姿に戻り、本来の持ち主がその力を

遺憾なく発揮できるようになった証左でもある。

しかしそれは、確かに存在していた赤龍帝の片割れ、分霊を取り込む形で生まれたもの。

分霊を宿していた霊魂は、そこに存在を確認できない。

 

「こ、これが……」

 

『サービスで霊魂のの力も使えるようにしておいたぞ。

 本来持っている能力からさらに多くの力を得ている。白いのの鼻を明かすにはうってつけだ』

 

『言うじゃないか赤いの。まさか二つに分けて力を蓄えていたとはな。

 宿主が二人存在したからこそできた芸当だな?』

 

『ああ。リアス・グレモリーには感謝している。この力、新たな力を

 俺はものにできたのだからな……試してみるか?』

 

『聞くまでもなかろうよ』

 

白い鎧と赤い鎧が、激しくぶつかり合う。しかしドライグの言葉に反して

動きは白い鎧のほうが圧倒的に鋭かった。

事実白い鎧の方は、イッセーとは比べ物にならないほどの

修羅場を潜り抜けているような動きではある。

しかしそれを差し引いても、今のイッセーの動きが鈍いのは明白であった。

その理由はただ一つ――迷い。

 

『どうした相棒! 気合が入っていないぞ!』

 

「入るわけ無いだろ! 事情が、事情が全く読めてないんだぞ!

 そんな状態で、まともに戦えるわけが無いだろうが!」

 

『ならばこう言おう。奴こそ白龍皇。俺と戦う運命にある存在だ。

 強者に君臨する――即ちハーレムを作りたければ、奴との戦いは避けられん。

 そして、今俺達には奴と互角以上に戦える力がある!』

 

「……! よし、俄然燃えてきた!!」

 

ハーレムと言う言葉に反応し、イッセーの闘志に火がつく。

赤い鎧も動きの鋭さを増し、白い鎧と激しくぶつかり合う。

先ほどの迷いは一体なんだったのか。

しかし、これもまた兵藤一誠という人となりであるのだから致し方の無いところなのだろう。

それについてドライグは異を唱えない。彼は戦えれば何だっていい部分もあるのだ。

そんな彼にとって、兵藤一誠という人間は度し難く、御し易い存在であった。

 

そこにかつて存在していたはずのもう一つの赤龍帝の意思は、介在していなかった。

ストッパーでもあったその存在――歩藤誠二が何も語らない、語れない事は

ドライグにとっても、イッセーにとっても

己が欲望のままにアクセルを噴かすことができることを意味する。

最も、ドライグはともかくイッセーは元来自分の身体である。

己が欲望の赴くままにアクセルを噴かすこと自体は、間違いではないのだろう。

ただ、その方向性に多大な問題点があるだけで。

 

そして今や、ストッパーであったはずのセージの力はアクセルの補助となっている。

赤い鎧の左手から、白い鎧を絡めとるように触手が伸びる。

白い鎧に食らいついた触手からは電撃が流れ、さらに右手には赤い銃が握られ

容赦の無い射撃が行われていた。

 

「ぬっ……これは、俺の聞いた赤龍帝の力ではないぞ……!?」

 

『なるほど。確かに面白い事になっているな……だが!』

 

DIVIDE!!

 

白い鎧を縛り上げていた触手は白龍皇の力で弱まり、手刀でバラバラにされてしまう。

その勢いで白い鎧は赤い鎧に殴りかかるが、その拳は赤い鎧の右手のディフェンダーに阻まれ

カウンターを受ける事になる。カウンターがヒットした部分は、微かに溶け出していた。

 

「……朱乃、気付いたかしら?」

 

「ええ……あれは確かに赤龍帝の籠手の禁手でしょうけど

 発揮している力はセージ君のですわ」

 

「すると、前にセージ君が暴走したときみたいに……」

 

一方。突然始まった激戦に唖然としていたリアスと眷属達。

赤龍帝の力の暴走だけならば、一度だけとは言え身を以って知っている。

しかし今回のそれは、暴走と言うものではない。

だが、イレギュラーな部分を秘めている事に変わりは無い。

 

「いいえ。あそこにあるのはイッセーの意思で間違いないわ。ただ……」

 

「寧ろ逆に、セージ君の意思が感じられませんわね……」

 

状況は赤龍帝が優位であった。悪魔の駒の力を8個全て引き出せ、セージが今までに蓄積した

戦闘データや武装、能力もその全てが使用可能。その上に赤龍帝の鎧。

禁手の性能自体は白龍皇のそれと互角。宿主で言えば、イッセーは遥かに弱い部類ではある。

しかしそれにもかかわらず、戦いは五分と五分であった。

 

「ぐっ……!? 姿まで消せるだと!?」

 

『その調子だ相棒、白いのとの初めての戦いにしてはいい調子じゃないか!』

 

『や、やってくれるじゃないか赤いの……これは俺も負けられないな!』

 

ありえない強化を施されている赤龍帝の鎧を用いたとしても

戦闘は決してワンサイドゲームにはならなかった。

盛り上がる白龍皇とその宿主、そして赤龍帝に対して、赤龍帝の宿主であるイッセーは

未だ腑に落ちないものを感じていた。戦闘自体は、自身の夢のためにも乗り気であったのだが。

 

(セージの奴はどうしたっていうんだ? まるで声が聞こえねぇ……うるさくなくていいけど。

 けれど……俺はセージじゃねぇから、能力がこれだけあっても使いきれねぇ!)

 

その証拠に、姿を消す事でアドバンテージを得たはずの赤龍帝は

その動きを白龍皇に読まれ始めていた。白龍皇の攻撃が、ヒットするようになっていったのだ。

 

『どうした相棒、また動きが鈍っているぞ!』

 

『赤いの、その様子じゃ宿主には恵まれなかったみたいだな。

 能力は立派でも、動きが素人だぞ?』

 

「――どうした! そんな調子じゃ、白龍皇どころか俺にも勝てないぞ!

 俺を失望させてくれるな、赤龍帝を宿すものよ!」

 

「さ、さっきからみんなしてすき放題言ってくれるじゃねぇか……!」

 

ドライグからも、アルビオンからも、そして白龍皇を擁する者からも

総攻撃を受ける形になっているイッセー。

イッセーにしてみれば、赤龍帝と白龍皇の因縁に無理やり巻き込まれる形になっている。

にもかかわらず、彼らはそれを当たり前のように受け入れているため、イッセーのみが

理不尽を感じている状態だ。この場にセージがいれば、状況は変わったのかもしれないが。

彼もまた、理不尽を、無益な戦いを嫌う人種であったのだから。

 

(……これでいい。相棒には気の毒だが、霊魂のはあのままにしておけば

 俺達の戦いに茶々を入れてきただろう。

 ただの人間の魂風情に、俺達の戦いを邪魔されてたまるか。

 あの時だって、あんな偽者の神に俺達の戦いは邪魔されたんだ。

 今度と言う今度こそ、誰にも邪魔されない戦いが楽しめるんだ)

 

一つの戦いは幕を下ろし。

そして新たな戦いの火蓋が切って落とされ。

 

『面白い手土産じゃないか、赤いの!』

 

『こっちは宿主がへっぽこなんでな、それを埋めようと思ったらこうなっただけだ!』

 

戦いのための戦い。それは何も生まない。

同じく何も生まないもの。それは破壊のための破壊。殺戮のための殺戮。

破壊も、殺戮も明日を生きるために肯定される事が自然の中では往々にして存在する。

しかし、それらは全て生存と言う目的のための、破壊あるいは殺戮と言う手段である。

手段は、目的ではない。破壊も、殺戮もそれ自身を目的にすれば

そこには何も残らなくなってしまう。

 

ただ、欲望を無意味に貪り尽すだけの不毛な戦いが、ここに繰り広げられていた。




さて。

セージ消滅。
本来の赤龍帝でも無いのに、赤龍帝の力を駆使し続けた結果がこれです。
しかし、セージにしても実体を伴って活動するには
赤龍帝に頼らざるを得なかったわけで。
そんなセージの弱みに付け込み、ドライグは自身の力を蓄えていました。
オリ主は絶対無敵? 逆境なんて無い?
そんな不文律、どこにもありませんよ?

赤龍帝の鎧。
原作ではイッセーが左腕を差し出し、リアスや朱乃にご奉仕してもらう
イベントの切欠になりましたが(あれをリスクとは言いません! 断じて!)
拙作ではイッセーに支払い能力なしとドライグに見做され
セージが連帯保証人として肩代わりさせられる羽目になりました。
実際、今までの時点ではセージの方がイッセーより若干強かったので
ドライグはセージから代償を集りました。
実際ドライグにとってはセージはそういう存在でした。

なお、能力は一巻部分ラストで披露した赤龍帝の激情鎧(ブーステッド・ギア・バイオレントメイル)に近いものがあります
(セージの記録した能力を使えると言う点において)。
ただし扱う人間が違うので、完全に力を発揮できるかと言うと、はてさて。

赤龍帝VS白龍皇、他。
原作では会談中のイベントですが、拙作では赤龍帝増殖などの経緯もあるため
初戦が前倒しになってます。ヴァーリがコカビエルを倒さなかったのは
こうなった赤龍帝の力を測るためにわざと仕向けてました。
32分の1の力のコカビエルも倒せないようではお眼鏡に適わないと言うわけですね。
32分の1にまで弱体化させたのはコカビエルの名誉のためです。
何度も言うようですが、この時点で相手にするには
コカビエルはかなり強い部類に入ると思いますので。

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