ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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サブタイは「再突入」とか「再登録(意訳)」とかそんな感じです。
今回も三人称視点です。

でもって長いです。
時間に余裕のあるときにゆっくりお読みいただければ幸いです。


※この作品はフィクションです。
実在の人物、組織とは一切合切何も関係ありません。


Reentry

駒王学園から離れた場所。駆けつけてきた二人の警官――テリー(やなぎ)氷上涼(ひかみりょう)

彼らと合流する形で、紫藤イリナを抱えてきた薮田直人はこの場まで逃げ出してきた。

 

「柳君、氷上君。来ていただけましたか。まずは彼女を安全な場所まで。

 ショックなことがあったのでしょう、心神喪失状態です」

 

薮田(やぶた)博士、ご無事で……って、彼女は!」

 

「あの公妨の身元引受人の子ですよ! くっ、自分が目を離した隙に!」

 

駒王警察署の巡査、氷上が監視していたはずのイリナ。彼は公務執行妨害で逮捕され

司教枢軸卿の口添えで保釈されたゼノヴィアのみならず

その身元引受人たるイリナの素行を監視していた。

しかし無理も無い。フリードの一件の後にはオルトロスと言う大災害が待ち受けていたのだ。

それの対応に追われる形になり、イリナへの対応が疎かになってしまっていたのだ。

それについては上司である柳も熟知しており、氷上を徒に叱責することは無かった。

 

「氷上、今それを言っても始まらん。俺の方からも上には説明しておく。

 しかし薮田博士、一体この学園で何が起きているんです?」

 

「……最悪、紛争が起きますよ。防衛省には一応今回の件を伝えてはありますが」

 

「防衛省……自衛隊の管轄って事ですか!? お、お言葉ですが薮田博士!

 自分の目には、とてもそんな事態が発生しているようには見えないのですが……」

 

駒王学園には結界が張られており、氷上の目には全く何も、柳の目にもうっすらとしか

駒王学園の様子は映らない。今はソーナ・シトリーらが結界の維持をしている。

そのため、適性を持たない者――覚醒した神器(セイクリッド・ギア)を持たない、普通の人間には

普段と変わらぬ駒王学園が見えるのみなのだ。

 

「……氷上。俺の目には少しだが見える。夜だから今一わかりづらいが

 黒ずくめの軍団と、黒い羽の生えた奴が光を放ちながら戦っているように見える。

 ……薮田博士。あれが悪魔、そして堕天使。間違いありませんね?」

 

赤いレザージャケットの警官――テリー柳の質問に肯き返す薮田。

その面持ちは、真剣そのものである。無理も無い。あの戦いが学園の外に出れば

この町はたちまち火の海である。

 

「間もなく陸自がこちらに到着します。二人は陸自と協力して

 この町に住む人々の避難に当たってください。

 それから、絶対にこの町に人を入れないようにしてください」

 

「博士はどうするつもりですか?」

 

「……まだ学校に生徒がいるかもしれません。彼らをつれて来ますよ。

 なのでこちらには警察も、陸自の派遣も最小限度で結構です。

 先刻の害獣騒動の直後で、住民も気が立っているかもしれません。

 この場で暴動を起こされたら、それこそ最悪のシナリオです。

 そうならないためにも、あなた方には住民の避難誘導をお願いしたいのですよ」

 

イリナをつれた避難をひたすらに促す薮田。いくら超特捜課(ちょうとくそうか)と言えど、現時点での戦力では

駒王学園で繰り広げられている戦いには介入できない。

そもそも、彼らの主目的は戦いに勝つことではない。人命を守ることである。

 

「……テリー柳警視、薮田直人(やぶたなおと)博士の意見具申を認めます。

 薮田博士もどうかお気をつけて」

 

「柳さん!」

 

「俺に質問をするな、氷上! 今は一人でも多くの住民の避難誘導が先だ!」

 

柳の檄に答える形で、氷上はイリナを背負い、さらに駒王学園から距離をとる。

警官隊と合流し、安全な場所まで運ぶ手筈だ。

その段取りをしている所に、二人の少女が駆けつけてくる。

駒王学園生徒会副会長の真羅椿姫と、リアス・グレモリー眷属のアーシア・アルジェントである。

 

「あなた方は……って薮田先生! どうしてこちらに!?」

 

「おや椿姫君、ご無事でしたか。それより、ここは間もなく危険な場所になります。

 速やかに警官あるいは自衛隊の指示に従い、避難してください」

 

「私達、その避難誘導の手伝いに来ました!」

 

二人の思いがけぬ援軍に、柳と氷上は目を白黒させている。

当然、そんな援軍など聞いてもいないし加えるにしてもどうしたものか、と言ったところである。

 

「ふむ。避難誘導を手伝っていただけるのでしたら、彼――

 赤いジャケットの警官の指示に従ってください。彼が現場指揮官です。

 柳君、私からも頼みます。簡単な避難誘導で構いませんので

 彼女らを加えてはもらえませんか?」

 

「……本来なら危険作業に一般市民の関与は認めないところだが。

 今は一人でも多くの手が欲しいのも事実。わかりました、薮田博士の具申を認めます」

 

薮田の進言もあり、柳は渋々とは言え首を縦に振っている。

人手が足りないのは事実なのだ。

 

「駒王学園生徒会副会長、真羅椿姫です。よろしくお願いいたします」

 

「そ、そのお手伝い、アーシア・アルジェントです!」

 

「駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)長、テリー柳警視だ。彼は同じく超常事件特命捜査課所属

 氷上涼巡査だ。こちらこそ、よろしく頼む。いいか、くれぐれも無茶はするなよ。

 氷上、ならばお前はその子を先に避難させてくれ」

 

「氷上涼巡査であります! 市民のご協力、感謝いたします!

 では柳さん、彼女を送り届けた後にそちらに合流します」

 

挨拶も程々に、氷上はイリナを連れて現場を離れ。避難は柳の指揮の下

椿姫とアーシアが誘導することになった。

既に町内には避難誘導の放送が流れており、普段の駒王町とは

比べ物にならないほど物々しい雰囲気を漂わせている。

 

「では、頼みましたよ。支取君達はまだ中にいるのですね?」

 

「え、ええ……先生はどうなさるのですか?」

 

「わかりました。では支取君達は私が避難させます。君達は柳君についてください」

 

椿姫は知らないことだが、薮田直人と言う人物は結界もものともせず

コカビエルとも面識があるように振舞っている人物である。

その事実を知っていれば、椿姫の行動も変わったのかもしれないが

椿姫にとって、薮田直人はただの生徒会顧問である。結界とか、堕天使とか、悪魔とか。

そういうものとは無縁の存在であると思い込んでいたのだ。

 

「頼みましたよ。この町の人達の命を守るために、大事な仕事です」

 

「あっ……薮田先生! 学校には……」

 

椿姫の制止も聞かず、薮田は一直線に駒王学園へと向かう。

椿姫は結界に阻まれることを懸念したが、それは杞憂である。

そもそも、さっきまで薮田は学園の敷地内にいたのだ。

 

(やれやれ。これで事が片付けば、支取君に追及されかねませんね。

 しかし、かと言って無視もできないでしょう。全く、厄介な事は起きる物ですね……ん?)

 

薮田が再び駒王学園の門をくぐろうとした時。

そこには、新たな大きな気配が確かに存在していた。

確かに見える白いオーラ。その正体さえも、薮田は知っていた。

 

(白龍皇ですか。できなかったとは言え……やはりあの時、赤龍帝共々破壊しておくべきでした。

 後世に災いを齎す物は、須らく滅ぼさなければなりません。

 人間も、三大勢力も私に言わせればまだ未熟。力だけが先出するような存在は

 やはり、この今の時代においてはあってはならないものですからね。

 彼らが私に気づくことは無いでしょうが……今はまだ、接触は避けておきますか)

 

まるで過去の二天龍を知り。まるで自分は人間ではないような思いを秘めて。

薮田は学園の敷地内へと再び入っていった。

 

――――

 

一方。紫藤イリナを抱え、避難場所へと急行する氷上涼。

駒王町内には、緊急車両による避難誘導のアナウンスやサイレンが流れ

夜中だと言うのに物々しい雰囲気を醸し出していた。

避難を急ぐ氷上の前に、海外のセレブが愛用するような高級ドレスを纏い

左手には赤と青の結晶があしらわれた腕輪を身につけた眼鏡の女性が現れる。

とても避難を急ぐような風貌には見えない彼女を、氷上は訝しむ。

 

「あの。この町には緊急避難警報が発令されています。自分は見てのとおり警官ですので

 最寄の避難場所まではご案内いたします。自分についてきてください」

 

氷上は自分に着いてくるように女性に促すが、女性は何も反応しない。

氷上の様子を興味なさげに一瞥した後、氷上が抱えているイリナに目を向ける。

 

(人間のほうはただの人間ね。抱えているのは……聖剣使いかしら。

 コカビエルを討つ為に天界がわずかな戦力を派兵したとは聞いてたけど、本当にわずかね。

 ケチったのかしら? まぁ、数を増やせない天使にしてみれば

 使い捨てと言えども貴重だものね。出し渋りもわからなくは無いわね)

 

そんな女性の様子に、氷上は改めて状況を説明する。

氷上自身、何故こうなったのかはいまいち把握していないが

自衛隊が動く事態という事で、緊急性だけは把握していた。

 

「すみません。自分は駒王警察署超常事件特命捜査課の氷上涼巡査です。

 お嬢さん、今この町には緊急避難警報が発令されています。

 最寄の避難場所は自分が把握しておりますので、自分についてきてください」

 

「ああ、私に言っていたのかしら。ごめんなさいね。

 けれど……私は避難する必要は無いわ。なぜなら……」

 

女性に避難を促そうとする氷上に、突如として黒いオーラが襲い掛かる。

それと同時に、女性の目つきは鋭く、背中には黒い羽が現れていた。

それは紛れもない、悪魔の証。

 

「くっ……悪魔!? この町を統括する悪魔か!?」

 

「私をあのようなものと一緒くたにするな人間風情が!

 あなたのようなただの人間には興味はありません!

 そこに抱えている聖剣使いの少女を置いていきなさい。そうすれば、見逃して差し上げます」

 

悪魔の女性――カテレア・レヴィアタンの提言に対し、氷上は職務上の理由から首を横に振る。

カテレアにしてみれば、下に見ている人間に反抗されたことが酷く腹立たしかった。

その腹いせとばかりに、再び魔力を帯びた黒いオーラが氷上を襲う。

 

「うわああああっ!!」

 

「ふん、所詮は人間。悪魔――それも魔王である私に歯向かうからこうなるのです。

 さて……そこの聖剣使いの人間。いつまで寝ているのかしら?」

 

カテレアはイリナを起こそうとしている。何故悪魔であるカテレアが

敵対しているはずのイリナを起こそうとするのか。

三大勢力の世情に疎い氷上も、それは疑問であった。

受けたダメージで意識が朦朧としながらも、状況の把握に努めようとしていた。

 

「う……あ、あなたは……あ、悪魔!?」

 

「ごきげんよう。聖剣使いのお嬢さん。私はカテレア・レヴィアタン。

 レヴィアタンの名を持つ魔王よ」

 

イリナにしてみれば、再び意識を失いかねない話である。

目が覚めたら、目の前に魔王がいるのだ。

最も、カテレア・レヴィアタンは厳密には正式な魔王ではないのだが。

一方で、氷上は柳に対し無線応援を呼びかけようとしていた。

 

「こちら氷上。柳さん、応答願います。正体不明の悪魔と遭遇、交戦状態です!

 場所は――」

 

「……少し静かにしてもらえるかしら? 私は騒がしいのは嫌いなの」

 

氷上の応援要請が通る事は無かった。カテレアによって、無線機が破壊されたのだ。

プラズマフィストで挑もうにも、イリナがそばにいる。巻き込むわけには行かない。

 

「な、何!? 何が起きていると言うの!? コカビエルがおかしなことを言って

 悪魔が聖剣を使って、それから……ああもう、わけわからないわよ!!」

 

一方で、イリナはまだ混乱している。聖剣――正しくは聖魔剣を使う木場祐斗。

光の剣を振るい、祓魔弾を込めた銃を取り回す歩藤誠二(ふどうせいじ)

彼らいずれも悪魔である。そんな天界・堕天使勢力のような悪魔が存在していることに

イリナは混乱をきたしていた。その上にコカビエルの放った――神はいない――発言に

自身の信仰心は大きく揺らいでいた。

 

「あなたもよ聖剣使いのお嬢さん。私は騒がしいのは嫌いなの。

 ……そう、世界は静かであるべきなのよ。静寂な世界……そう。

 静寂なる世界……望まれる世界……そのための……修正を……」

 

一瞬、カテレアの目が赤く染まり上がる。それと同時に左手の腕輪は怪しく輝き

人格が変わったような雰囲気も出していた。まるで何かに操られているかのように。

しかしそれを、今見知ったばかりの氷上もイリナも、気づくはずが無かった。

おまけにそれは一瞬の事で、すぐに元の雰囲気に戻る。

 

「……っ。まぁいいわ。それよりお嬢さん、私はあなたとゆっくりお話がしたいのだけど。

 少し、時間をいただけないかしら?」

 

「あ、悪魔と話す事なんかないわよ!」

 

後ずさりしながらも、イリナは擬態の聖剣を握り、カテレアに向かい合う。

しかし魔王級のオーラに押されているのか、若干腰が引けている。

そのただならぬ様子に、氷上も体勢を立て直し、右手にはプラズマフィストが握られている。

 

「(無線が破壊された以上、現場判断で起動させるしか……!)

 そこまでだ、悪魔! これ以上は公務執行妨害で確保する!」

 

「あら。私はあなたとお話しすることはありませんが。

 ……どうしてもと言うのなら」

 

カテレアが左手をかざすと、氷上の足元に魔法陣が展開され。

そこから黒い触手が伸び、氷上の首を締め上げる。

突然の出来事にイリナは驚愕し悲鳴を上げ、氷上は右手のプラズマフィストを取り落とす。

 

「ぐっ……ううっ……」

 

「私に対する抵抗は無意味です。さてお嬢さん、改めて私とお話をしましょうか?

 ああ、それとその物騒なものはしまってくださらないかしら。

 それで私に敵うとは思えないけれど」

 

「わかったわ……その前に、お巡りさんを放して」

 

触手が氷上を解放すると、氷上はその場にへたり込み、むせ込む。

プラズマフィストはご丁寧に、触手によって飛ばされている。

イリナも隙を突いてカテレアを討つつもりだったのかもしれないが

いくら聖剣とは言え擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)一本では

カテレアを倒す事は出来なかっただろう。

7分の1のエクスカリバーでは、魔王クラスの相手には通用しない。

如何に不意をつく事に優れた武器とは言え、威力が足りなさ過ぎるのだ。

この点は、コカビエルと対峙したセージに近いものがある。

 

「さて、こちらは約束を守りました。今度はそちらが約束を守る番。

 悪魔は約束を大事にするものだと言う事は、あなたも存じているでしょう? さあ、こちらに」

 

「ま、て……ッ!!」

 

不安そうに氷上を見つめるイリナを無視するかのように

カテレアはイリナごと魔法陣で転移する。

その転移の先がどこであるかは、氷上にはわからない。

何故、カテレアがイリナを浚うのかも。

 

「クソッ、またしても……クソッ!!」

 

氷上の握り拳は、無念を込めて地面に叩き付けられていた……。

膝をついた氷上の上空を、避難民を乗せた自衛隊のヘリが飛び交っている。

失意のまま、氷上も付近の避難誘導現場へと足を向けるのだった。

 

――――

 

駒王学園。ここに迫っている巨大な力を前に、この場にいる者の多くが戦々恐々としていた。

その正体は白龍皇アルビオン。赤龍帝ドライグと並び二天龍と称される存在。

その戦力は未知数である。

 

「面白い、面白いぞ! やはり神のいない、偽りの神だからこそ出来上がるこの世界!

 悉く俺の好奇心を刺激してくれる!

 二天龍を滅ぼさなかった事を感謝するぞY・H・V・Y()――いやヤルダバオト(偽神)よ!!」

 

興奮冷めやらぬ形でコカビエルが吼える。

その咆哮に答える形で、既にボロボロになった駒王学園のグラウンドに

止めとばかりの光の柱が降り注ぐ。その光の中から現れたのは、全身を白い鎧に身を包んだ存在。

黒を基調としたコカビエルのアンチテーゼと言わんばかりの白い鎧。

そしてそれは、紛れも無くそれが白龍皇である事を示すもの。

 

「さっきからうるさい。一人で勝手に盛り上がって。

 しかし随分と大掛かりな事をしてくれたな。アザゼルが動きたがらないわけだ」

 

白い鎧の存在は、コカビエルとイェッツト・トイフェルを交互に見やり、ため息をつく。

それは面倒な事に駆り出されたと言うこの事態に対する呆れである証だった。

 

「『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』……いや『白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(スケイルメイル)』か。

 赤龍帝と違い、禁手(バランスブレイカー)に至っているとはな。

 だが、如何に白龍皇と言えどそう簡単に俺を破れるかな?」

 

「いや……お前を倒すのは俺じゃない」

 

なに? と問い返す間もなく、コカビエルの鳩尾に白龍皇の拳がめり込む。

思わず嘔吐するコカビエルだが、それ以上に恐ろしい事が起きようとしていた。

 

DIVIDE!!

 

「が……っ!? ち、力が……」

 

「これで終わりではないぞ? 白龍皇の力、知っているだろう?

 早く俺を倒さねば、白龍皇はお前の力をどんどん奪っていくぞ」

 

DIVIDE!!

 

「ぐっ、おのれ……ッ!!」

 

白龍皇の力。それは、10秒毎に能力を2倍にする赤龍帝に対し

10秒毎に能力を半分にする、恐るべき力である。

コカビエルのように元々の力が強いものが受ければ、効果は覿面である。

 

その一方、白龍皇の参戦により事態を重く見た冥界政府は

イェッツト・トイフェルの一時撤退を命じ。

コカビエルと白龍皇が戦っている最中を見計らい駒王学園の上空から撤退を始めていた。

イェッツト・トイフェルの本体めがけてコカビエルが光の槍を投げつけるが

それは本隊が展開している結界に阻まれてしまう。

無双を繰り広げていたさっきまでならば、考え付かない状態だ。

 

「――ウォルベン。陛下より撤退命令が出た。引き上げるぞ」

 

「御意。では私も帰ってチョコレートを食べるとしますかねぇ。

 力の衰えたコカビエルと戦っても、得るものは無さそうですし。

 何より白龍皇と戦う準備まではしていませんからねぇ」

 

DIVIDE!!

 

「くっ……に、逃げるかぁ!!」

 

「コカビエルに構うな! 監視用のドローンだけ置いていけば良い!

 リアス・グレモリー。貴様らも引き上げるのだな。

 赤龍帝を擁する貴様だからこそ、白龍皇の恐ろしさは知っていよう?

 コカビエルのときのような言い訳は通じんぞ」

 

イェッツト・トイフェルの目的は事態の収拾。必要以上に自分達が出張る必要は無い。

それもあり、白龍皇対策に情報収集用のドローンだけを残し、全軍撤退していた。

二天龍が揃っていると言う事態が、冥界政府にとっても由々しき事態だったのだ。

 

DIVIDE!!

 

「冥界軍は逃げたか。まぁ、俺の目的はあいつらじゃないしな。

 それより、お前は逃げないのか? まぁ、アザゼルの命令もあるから逃がしはしないがな」

 

「い、忌々しいトカゲめぇ……!!」

 

DIVIDE!!

 

「……こんなものか。さて、お膳立てはこのくらいにしてやろう。

 お前の相手は赤龍帝がする。今のお前なら、丁度いい力加減だろう」

 

「貴様ァ……俺を赤龍帝の実力を測るために使うつもりか!!」

 

「悪いか? このまま続けてもお前に勝ち目は無いと思うがな。

 だったらせめて、全力を尽くして戦ったらどうだ? 勝てそうな相手にな。

 こっちにしてみれば、誰がお前を倒そうが関係ないんだ」

 

言うだけ言い残し、白龍皇と名乗る白い鎧は姿を消す。

そこに取り残されたのはグレモリー眷属と

力をおよそ32分の1にまで減衰させられたコカビエル。

歴然としていた実力差は、大きく埋められている。

そうなれば、数で勝っているグレモリー眷属が優位だ。

 

「白龍皇が私達を助けてくれたというのかしら……まぁいいわ。

 またとないチャンスよ、皆一気に畳み掛けるわよ!」

 

BOOST!!

 

「了解っす! セージ、これなら文句はねぇよな!?」

 

BOOST!!

 

「……まさか本当に想定の範囲外の事態が発生するとはな。

 ここまで来たら、確かに殲滅したほうが被害は抑えられるかもしれないか。

 だがシンクロは断る。少し頭を冷やしたほうがいいだろう、お互いにな」

 

しかしこの期に及んでも二人の赤龍帝――特にセージはシンクロを拒み。

各々の力でコカビエルと対峙しようとしていた。

それが適うほど、今のコカビエルは減衰しているのだ。

 

(確かにシンクロして強化すれば、決められはするだろうが……ドライグの言い草が気になる。

 俺達をシンクロ……いや寧ろ、俺をイッセーに憑依させるのを待ち構えているようだった。

 あまりにも突拍子過ぎる。戦力強化以外の目的があるな、間違いなく)

 

BOOST!!

 

「だったらぼさっとすんなセージ!」

 

RELOCATION!!

 

「……フン、言ってくれるな!」

 

イッセーの左手の正拳と、セージの右足の回し蹴りがコカビエルを捕らえる。

しかし如何に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ないし龍帝の義肢(イミテーション・ギア)で強化された一撃とは言え

上級堕天使のコカビエルに有効打を与えるには程遠かった。

いや、32分の1にまで減衰させて、ようやくまともに攻撃が当たる状態になったと言うのが

現時点での真理だろうか。

 

「な、なめるな……禁手にも至っておらぬ、弱小の赤トカゲごときがぁ!!」

 

イッセーもセージも、その攻撃の性質上、どうしても接近戦を挑まなければならない。

そうなれば、反撃を食らうのは自明の理。それを見逃さないコカビエルでもなかったが

反撃のために収束させている光は天からの雷によって霧散させられる。

上空には、黒い髪をなびかせて朱乃が雷を撃つべく待機していた。

 

「素直でかわいらしいイッセー君も。

 生意気な所が逆にかわいらしいセージ君もやらせませんわよ?」

 

「お、おのれぇぇぇぇ、虚空の旧き者共に乗っ取られ

 堕天した塵屑のような奴から生まれた奴が、なまいきなぁぁぁぁ!!」

 

先刻、朱乃を挑発したのとは全く逆の立場になっている。

力の減衰は確実にコカビエルを追い詰めていたのだ。

しかし、今の言葉は確実に朱乃の逆鱗に触れていた。落ちる雷が激しさを増している。

 

「あ、朱乃さんっ! お、俺たちまで巻き込まれてるっす!!」

 

「くっ……イッセー、伏せろ。避雷針になるっ!」

 

セージが左手を高く掲げ、既に実体化させていたプラズマフィストに朱乃の雷を吸収させる。

実際のところ、プラズマフィストにそんな機能は無いが雷に対し雷をぶつける事で

強引にコントロールを試みているのだ。

そうして集めた雷を、コカビエルめがけて発射させる。

電撃は見事コカビエルに命中するが、それでもまだコカビエルは倒れない。

 

「ぐぐっ……お、恐ろしきは白龍皇か……

 貴様らごとき塵屑に、ここまでいいようにされるとは……っ!」

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……ひ、姫島先輩……

 こんなときばかり都合のいいことを言うのも……何ですがっ……

 か、加減は……して、いただきたい……っ」

 

「あらあら、ごめんなさいね。でもお見事ですわよセージ君、うふふ」

 

セージもまた、雷の強引なコントロールで感電したのか、消耗していた。

プラズマフィストにしても、オーバーロードを起こしてしまい使用不能になっている。

地面に放り捨てられたそれは、放電しながら実体化できなくなり消失する。

 

「押せているわね。小猫、祐斗、ゼノヴィア! さらに畳み掛けるわよ!

 イッセーはチャージ、今度ははずさないわ!」

 

「……はい」

 

「了解!」

 

「……いいだろう!」

 

「了解っす!」

 

リアスの号令にあわせ、小猫が再びギャスパニッシャーの目をコカビエルに向ける。

その目に映ったものの時間を停止させ、動きを封じる力があるのである。

それを作り上げたセージは知らない事だが

このあたりはモデルになった存在を忠実に再現している。

先刻はまるで効かなかったが、32分の1に減衰したコカビエルには

わずかながらにも効果を発揮する。一度成功したときと同様

コカビエルの身体の一部の動きを完全に停止させる事に成功している。

その隙は、攻撃のチャンスを作るには十分すぎるほどだ。

 

そしてゼノヴィアは祝詞を唱えながら、右手を天に掲げる。

その右手に現れたのは、エクスカリバーとも異なる新たな剣――デュランダル。

 

「……ククク、この期に及んでさらにデュランダルか。

 バルパーが知った時の顔はもはや見られぬのが残念だが……まぁいい。

 精々、俺を失望させてくれるなよ!」

 

「力を殺がれておいて、口はいまだ達者なようだな!」

 

MEMORISE!!

 

「セージ君、まさか……」

 

「ああ。どこぞの誰かにはまた恨まれるかもしれんがな。

 だがさらに度肝を抜いてやる……これが、俺の力……俺なんだからな!!」

 

デュランダルと破壊の聖剣の二刀流でコカビエルを追い詰めるゼノヴィアの脇で

セージは新たなカードを獲得。それは――聖剣デュランダルを実体化させるカード。

 

SOLID-DURANDAL!!

 

地面に突き刺さる形でゼノヴィアの振り回しているものと寸分違わぬ大剣が現れる。

おもむろにセージが柄に手を伸ばすが、一瞬表情が曇る。

それを悟られまいと、セージは木場に攻撃を促す。

 

「祐斗、俺も後から仕掛ける。お前も行ってくれ!」

 

「ああ、わかったよ!」

 

しかしそれは、セージの強がりであった。

セージが作り出したデュランダル。セージは当然それを使おうと試みるのだが。

 

(ぐ……っ。槍と違って痛みは無いが……う、動かせない……っ!

 こ、これじゃまるで使い物にならない……!)

 

セージから冷や汗が流れる。傍から見れば隙だらけである。

一方、コカビエルの減衰した力も、少しずつ戻り始めていた。

32分の1が16分の1になるだけでも、体感2倍の強さになる。

コカビエルにしてみれば全盛期には遠く及ばないが

現時点で優位に進めていたグレモリー側にしてみれば、苦戦するに足りる要素である。

その証拠に、隙だらけのセージにコカビエルが気づく。そうなれば、やる事は一つ。

 

「赤龍帝の片割れ……あのおかしな力を持つほうか。

 あっちは特に厄介だからな……ここで消してやる!」

 

「コカビエル! 君の相手は僕達のはずだ!」

 

「まずい……避けろ、直撃するぞ!」

 

ゼノヴィアの攻撃をしのぎながら蓄えていた光力で作り上げた光の柱を

セージめがけて投げつける。その光の柱は、射線上にいた木場やゼノヴィアも巻き込む形で

セージを狙っている。

 

二人はデュランダルや聖魔剣を巧みに操り、攻撃を回避するがセージにそれは出来ない。

思わず、セージはデュランダルの影に隠れる体勢をとる事にした。

身体の大きさが災いして、ある程度掠める形にはなったが直撃だけは辛うじて免れた。

 

「ほう。デュランダルを盾にしたか。振り回せなくとも、避難シェルターにはできるか。

 だが、それでは上空からの攻撃は防げまい! 直上爆撃、受けてみろ!」

 

「盾……? そうか、やってみる価値はある!

 ありがとうよコカビエル! お前のおかげで、使い道が見えた!」

 

木場とゼノヴィア、小猫を弾き飛ばしセージの上空から光の槍を投げつけるコカビエル。

立ち位置の都合上、デュランダルを盾にして攻撃を防ぐ事はできない。

持ち上がらないデュランダル手に、セージは直上からの攻撃に備えるべく博打を打った。

 

BOOST!!

RELOCATION!!

MORFING!!

 

「モーフィング! 『剣』を『盾』にするッ!!」

 

セージの右手――龍帝の義肢に握られたデュランダルが、徐々に形を変えていく。

剣を思わせるスタイルはそのままに、さらに幅広になった刀身。

鏡を思わせるほどに磨かれたような刀身。

そして何より、握り手の部分が大きく変化している。

剣のそれではなく、例えるならばジャマダハル。腕に通して使う刀剣系の武器ではあるが

それはその刀身次第では、盾を髣髴とさせるデザインになる。

 

今セージの右手には、右下腕を覆うほどの大きさの

幅広のジャマダハルが装備された形になっている。

軽く腕を振ってみる。――少し重いものの、動く!

 

セージはデュランダルだったものが使える事を確認した後

そのまま右手を天に掲げ光の槍を迎え撃つ。

 

MEMORISE!!

 

「『ディフェンダー』か……間に合えっ!!」

 

「紛い物の聖剣で、我が一撃を凌げるものか!」

 

コカビエルの光の槍が、セージに降り注ぐ。直撃ならば、セージは消滅している。

その光が収まらぬうちに、光の中心からは音声が発せられる。

その音声は――記録再生大図鑑のものだ。

 

PROMOTION-ROOK!!

 

「ば、バカな!? 俺の……俺の攻撃が通らないだと!?

 奴は悪魔なのだぞ、悪魔に、光の一撃が通らないはずが……」

 

「ふむ。やはりこの状態のほうが安定するか。こいつ、何だかんだ言っても重い。

 さすがはゼノヴィアさんと言っておくか、こんな重いものをほいほい振り回せるのだから。

 そして白龍皇にも感謝せねばならないか。本来のパワーだったら、これでも防げたかどうか」

 

ディフェンダーを装備した右腕を払いながら、セージは呟く。

対するコカビエルは、悪魔であるセージに光の槍が通らなかった事に愕然とし。

今ここに、手札は出尽くした。後は、決着をつけるのみである。




今回は非常に解説も長くなります。

カテレア。

先行登場組。何故彼女がイリナを浚ったのか。
ヒントはイリナの立ち位置。三大勢力の話にある程度免疫があり
イッセーに近すぎず遠すぎずの彼女ならではです。
ネタバラシですが同様の目的を松田や元浜、桐生にも出来なくはないですが
彼ら彼女らは別な出番がありますので今回は見送り……ろくな出番じゃありませんが。
三大勢力の話にも免疫ありませんし。

そして原作には無い腕輪。これ結構曲者です。
今まで他作品ネタを散々使ってましたが、これはモロです。
元ネタのそれそのものと言っても過言ではありません。
(平行世界移動もその気になれば可能な元ネタだからいいよね……?)
知っている方はカテレアの台詞でピンと来たかもしれません。

白龍皇。

まだ使用者の名前は出てません。ここは原作どおりヴァーなんとかさんです。
コカビエルを彼のかませにしないために強引に一時撤退させましたが
はっきり言って弱い敵と戦って楽しい……
ってタイプのキャラには見えませんでしたので、こんな形にしてます。
そう解釈すると弱体化ありきの白龍皇の光翼は難儀な神器ですね。

セージの新武装(またかよ)。

デザインモチーフは武装チェイサー・スパイダー。
あるいは闘士ダブルゼータガンダムの左腕の武器。
武器にも転用できる盾にはロマンを感じたりします。逆かもですけど。
デュランダルから変化させているので光耐性ついてます。
殴る事で光属性攻撃も出来ます。またかよ。
なお変化前のデュランダルが使えなかった理由は単純に適性の有無。
原作みたいにほいほい譲渡が可能なほうがちょっとおかしい気がしましたので。
変化させた際に適性等の条件まで書き換えてます、赤龍帝マジチート。
新武装関係ないですが、プラズマフィストで見せた雷操作と言う芸当は
グレートマジンガーのサンダーブレークを意識してます。
そこに科学的見解は全くありませんのでご了承ください。

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