ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(しつこい

週末に映画公開されますね。
ゴースト本編もですが雰囲気がいつもとなんだか違う気がします。


閑話休題。
今回以降しばらく三人称視点が続きます。
コカビエル鎮圧のために軍を派遣した冥界。
否応なしに戦闘に巻き込まれるリアス達。

赤龍帝がなんとかしてくれる?
そんな夢物語、ありゃあしないんですよ。

久々の1万文字越えで少し長めです。


School wars

「あ、あれは……!!」

 

「ふ、ふふふ……来たか。ついに来たか。

 残念だった……いや、よく持たせたなリアス・グレモリー。

 喜べ、援軍だぞ? 彼らの力を借りれば、俺に勝つことも不可能ではないかもしれないぞ?」

 

コカビエルとグレモリー眷属の戦いが繰り広げられる駒王学園上空。

そこに、冥界の魔王サーゼクス・ルシファーが差し向けた

冥界の軍勢が満を持して進撃してきたのだ。

夜の闇に紛れてはいるが、その数は一個中隊といったところである。

これは相手が単独であるために、大多数の部隊展開は逆に不利になる、との見解もある。

 

「ハマリア様。人間界への転移、成功しました。全部隊、いつでも展開可能です」

 

「ご苦労。しかし……久々に冥界以外への出撃命令と聞けば

 まさか前大戦の生き残りの掃討とはな。総員、相手は俗物の堕天使が一羽とは言え

 油断をすれば足元を掬われるぞ。気を引き締めてかかれ」

 

冥界軍を指揮するのは番外の悪魔(エキストラ・デーモン)、ハマリア・アガリアレプト。

黒のローブを纏い、マゼンタ色の髪をボブカットに仕上げた女性。

その美しさからは想像もつかないが、先の大戦において陰ながら功績を挙げた

四大魔王直属の特殊部隊「イェッツト・トイフェル」の指揮権を持った女傑である。

現場指揮権は彼女にあるらしく、この場にはサーゼクス・ルシファーの存在は確認されない。

 

「サーゼクスはいないか……まぁいい。久々の戦いだ、俺の血が騒ぐのがよくわかる。

 いいぞ……俺はこのときを待っていたんだ!」

 

「私達では不服と言うの? 舐められたものねっ!!」

 

興奮を抑えきれないコカビエルに対し、展開したばかりの冥界軍は

冷静に状況収集に努めていた。

その温度差は激しい。興奮冷めやらぬコカビエルと、歯牙にもかけられず逆上するリアス。

激昂と共に放たれた滅びの魔力は、そもそもコカビエルにかすりもしない。

当たれば確かに大きな一撃になるはずのそれは、夜空の雲に穴を開けるだけに終わった。

 

「『スローすぎて欠伸が出る』、ってところだな。

 そんな様子では、いくら赤龍帝で強化したところで何も変わらん。

 そう……『当たらなければどうと言うことはない』!」

 

仕返しに放たれたコカビエルの光の槍――否、柱はリアスを牽制するように地表に直撃。

格の違いをこれでもかと見せ付ける形になっていた。

 

「やはり貴様では話にならん。少しだけ待ってやる。そこの軍隊と協力して俺に挑むか

 あるいは尻尾を巻いて逃げ出すか。どちらを選んでも、俺は一向に構わん」

 

吐き捨てるように言い放ち、コカビエルは完全にリアスから目線をはずしている。

それは、リアス達に対しては「お前達など相手にならん」と言う意思表示。

冥界軍に対しては「いつでもかかって来い」と言う意思表示。

既にコカビエルの興味は、完全に冥界軍――イェッツト・トイフェルに移っていた。

そんな様子を傍目で見ながら、冥界軍は冷静に情報収集に努めていた。

 

「ハマリア様、尖兵からの報告が入っております!」

 

「読み上げろ」

 

「はっ! 『敵性体は一、敵は全面戦争を目論んでおり

 放置は冥界にとって多大な害悪となりうる。よって、全力を以ってこの敵性体を殲滅

 冥界の平和を守るべきである。なお、作戦区域には赤龍帝が二、白龍皇が一。

 さらにEXコードYが一、それぞれ確認せし』との事です!」

 

「二天龍が揃い踏みか……しかし赤龍帝が分裂していると言う話、事実だったのだな。

 今代は中々面白い展開になりそうだ。それに……EXコードY、その話は事実なのだな?」

 

配下の報告に、ハマリアは興味深そうに耳を傾けている。

面白いものを見つけたと言う感情と、厄介なものを見つけてしまったと言う感情の二つが

織り交ざった声で、部下に解説を求めている。

 

「はっ。先行の者の報告では、間違いないとの事です。

 そして、白龍皇は不明ですが、赤龍帝は現時点では

 いずれも完全な覚醒には至っていない、とも報告が入っております!」

 

「先行の……ウォルベンの奴か。今回は先走らなかっただけマシとしておくか。

 いや、既にやらかしているな。赤龍帝の覚醒の有無を調べるために行動を起こしたか。

 まぁいい。我々の目的は赤龍帝ではなく、堕天使の殲滅だ。各部隊、攻撃用意せよ!

 焼夷魔法を用いても構わん! ここであの俗物を始末するのだ!」

 

焼夷魔法。現実世界において用いられた焼夷弾とほぼ同等のもの。

魔王直属とは言え、悪魔の軍勢。悪魔である以上、光が弱点と言う性からは決して逃れられない。

それに対抗するには、弱点を突かれる前に攻めるのがセオリーである。

猛攻を以って、コカビエルの足を止めようというのだ。

しかし焼夷弾を用いると言うことは、被害も甚大。状況を確認した部下の一人が

ハマリアに命令の確認を取る。

 

「焼夷魔法ですか? しかし、あの場には未だサーゼクス様の妹君が……」

 

「チッ……あの俗物め。妹だからと甘やかした結果がこれか。

 リアス・グレモリーを呼び出せ! 即座にこの場から退避させろ!

 奴とて彼我戦力差を理解しているはずだ! 私が話をつける!」

 

「はっ! リアス・グレモリー、応答せよ。こちらは魔王様より派兵されし冥界軍。

 応答せよ。こちらは魔王様より派兵されし冥界軍。リアス・グレモリー、応答せよ」

 

ハマリアの命令に、部下の悪魔がリアスに対し通信の魔法陣を展開する。

すぐさま、それに答える形でハマリアの元にリアスからの通信が入る。

 

「リアス・グレモリーよ。魔王様の部隊が、我が領土に何用かしら?」

 

「リアス・グレモリーだな? 私はハマリア・アガリアレプト。

 四大魔王直属部隊を率いているものだ。

 単刀直入に言う。これより我々は敵性体殲滅のための作戦行動に移る。

 焼夷魔法を用いるため、この場から速やかに退去せよ」

 

「四大魔王直属の……それより焼夷魔法って!

 それじゃ、この学校は……!」

 

「繰り返す。これより我々は敵性体殲滅のための作戦行動に移る。

 この場から速やかに退去せよ。退去の無い場合は、魔王陛下に対する

 反逆の意思ありと見做し、我々の攻撃対象に加えるものとする。

 我々は、今回の敵性体殲滅に対しあらゆる権限を魔王陛下より受け賜っている。

 ……この意味がわかるな?」

 

無論、ハマリアはサーゼクスの性質を知った上でリアスに対し警告している。

それほどまでに、コカビエルの行為は今の冥界にとって危険なのである。

そして、とどめにハマリアの言った最後の言葉。

これは、最悪の場合はサーゼクスがリアスを殺すことも厭わないことを意味していた。

 

「……お、お待ちください! 今回の事件は、私の領地で起きた事件!

 領主の私が決着をつけねば、何のためにこの地を任されたのかわかりません!

 私がコカビエルを始末します、だから……」

 

「私は退去しろ、と言ったのだぞ? リアス・グレモリー。

 それに、お前ごときが前大戦で我々悪魔を苦しめたコカビエルを倒すだと?

 

 ……思い上がるな俗物が! 戦争も知らん貴様が

 コカビエルと同じ土俵に立てるとでも言うのか!

 現に貴様は、コカビエルに一撃も加えられていないではないか!

 ……それに、自分の兄に妹殺しの汚名を着せるつもりか? 私はそれでも構わんがな」

 

リアスに浴びせられるハマリアの罵声。しかしこれは、尤もな事である。

事実、リアスは先の大戦を体験していない。対するコカビエルは大戦でその名を轟かせている。

その差は極めて大きい。実力においてリアスがコカビエルに勝っている部分は

良くて才能だけだろう。才能だけでどうにかできるほど、実戦と言うものは甘くは無い。

 

そして、ハマリアは己の行為は魔王の一挙一動であるとも言っている。

その上でハマリアが作戦行動中にリアスを手にかけたとあれば

「サーゼクスがリアスを殺した」と解釈されかねない。

マスコミ次第だが、少なくとも民衆の一部はそう見るだろう。

そもそもハマリアにしてみれば、コカビエル殲滅こそが主目的であり

リアスの保護など二の次、三の次である。

 

そもそも事態収拾のためにハマリアはここに派遣されてきた。

さらにサーゼクスの命により、リアスの保護が形だけでも含まれていることになっている。

コカビエルを即座に殲滅し、悪魔社会に平和をもたらすのが

イェッツト・トイフェル本来の目的であるのに対し

リアスはそんな彼女らの行動を阻害していることになっている。

穿った見方をすればそうとも取れる。

そんなハマリアの言動を快く思わないものがいた。そう、イッセーである。

 

「おいっ! さっきから黙って聞いていれば! いくら魔王様の直属だからって

 部長は今までコカビエルと必死に戦っていたんだ! 後からしゃしゃり出てきて威張るな!

 それにな、俺達は一度コカビエルを――」

 

「や、やめなさいイッセー!」

 

「何だ、この品性の欠片も無い俗物は? まさかこれが、貴様の眷属と言うのではあるまいな?

 ……そのまさかか。しかもその左手、赤龍帝か。

 フッ……赤龍帝も、グレモリーも地に堕ちたな。

 こんな俗物を駆り出さねばならぬほど台所事情は切迫しているのか?

 まぁいい。それよりさっきの私の言葉の意味がわかるか?

 私の一挙一動が、そのまま陛下の一挙一動になるのだ。つまり私が貴様ごと焼き払うと言うのは

 陛下が貴様を焼き払うと言うことだ。ここまで言えばわかるだろう?」

 

ハマリアの辛辣な意見を気にも留めず、イッセーはハマリアに食って掛かっている。

当然、その実力差は言うまでもない。ハマリアもそれを知ってか、イッセーなど歯牙にもかけず

リアスに明確な警告を突きつけている。

 

「魔王様が部長を!? そんなわけねぇだろ! デタラメばっか抜かすな!!」

 

「イッセー、黙りなさい。これは命令よ。相手は魔王様の直属の部隊。

 あなたがどうこう出来る相手ではないわ」

 

「そうしたくなければ、直ちに眷属をつれて退けと言っているのだ。

 陛下の性質は知っていよう? 陛下が自身で下された命令で妹が命を落としたと知れば

 どれほど悲しむと思っているのだ?

 ならば言い方を変えようか。我々は陛下の命令が無ければ

 問答無用で焼夷魔法を使用していた。自分の行いが、悪魔にとって

 不利益をもたらしていることを自覚したらどうだ?

 ……面子や権威などと言うつまらぬものに拘っていては、いつまでたっても大成せんぞ?」

 

「くっ……」

 

畳み掛けるようにハマリアは「サーゼクスの命令で、やむなく攻撃を一時中止している」と語る。

つまり、ハマリアのプランでは「転移後、即座にコカビエルを攻撃する」つもりだったのだ。

しかしこうして、リアスを遠ざけるために時間を割いている。

それはつまり、コカビエルに反撃の余地を与えていることになる。

 

「構わんぞ、ハマリア・アガリアレプト。こいつらでも羽虫の数匹程度にはなる。

 羽虫と戦っても面白くもなんとも無いが、こいつらがどうしてもと言うなら俺は構わん。

 それより早く部隊を展開しろ。俺はさっきから戦いたくて仕方ないんだ。

 攻撃を加えない理由は簡単だ。無抵抗の奴と戦っても面白くもなんとも無いからな。

 俺は無意味な虐殺は行わん。『無意味な』虐殺は、な」

 

「言ってくれるな。ならば『イェッツト・トイフェル』の恐ろしさを思い知らせてやろう。

 悪魔は決して衰退してはいないことをみせしめるいい機会だ。総員、部隊を展開せよ!

 ただし焼夷魔法は使用するな! 妹君を巻き込むからな」

 

コカビエルからの催促に応じる形で、ハマリアは部隊を展開させる。

沈黙を守り、ハマリアの周囲に鎮座していた悪魔の部隊が、黒い翼を広げ展開される。

闇夜をさらに黒く染めるその部隊は、リアスやその眷属の存在などお構いなしに

コカビエルに対し攻撃を開始する。

 

「く……ふふふ……はははははははっ!! これだ、これが俺の求めていたものだ!!

 さあどんどん撃って来い! 俺が、俺が全て蹴散らしてやる!!」

 

魔力弾をものともせず、コカビエルは光の槍を分散させ、無数の矢のようにして撃ち出す。

それはさながら、規模の大きな銃撃戦のようでもあった。

そして、そのコカビエルの変わり様に衝撃を受けていたのはリアスとその眷属達。

さっきまでの、自分達との戦いとはまるで違うコカビエルの動きを見せ付けられているのだ。

 

「あの野郎……今までのは舐めプだって言いたいのかよ!!」

 

「やめなさいイッセー! 今出たら蜂の巣よ!」

 

「部長、このままじゃ両者の戦闘に巻き込まれます。何とかしないと」

 

彼らは結界の中だから、まだ健在でいられるのだ。

外に出れば、コカビエルの光の矢と冥界軍の魔力弾。

その流れ弾に撃たれ命を落とすのが関の山。

さながら、紛争地域に取り残されてしまった状態である。

 

「……ダメ。ギャー君っぽいこの武器でも、もう止められない」

 

「私達はあれと二人で戦おうとしていたのか……コカビエル、なんて力だ……!!」

 

「……結界も長くは持ちませんわ。隙を見てここを離れたいところですけど

 こうも途切れなく砲撃が続いては、難しいですわね」

 

流れ弾は朱乃の結界で防いでいるが、魔力弾はともかくコカビエルの矢は

相性の都合上一撃でも食らえば終わりだ。

そのために結界を強化せざるを得なくなり、そうなれば一歩も動けない。

セージに焚き付けられ戦意を取り戻したゼノヴィアも

コカビエルの圧倒的な力を前に震え上がっている。

同様に、同じく猛攻を目の当たりにして

動けない状態になってしまったものがいる。セージだ。

 

「ダメだ、これじゃ近づけない! くそっ……どうして……どうしてこうなったんだ!!

 どいつもこいつも……ここが自分の世界じゃないからって、勝手に戦争しやがって!!」

 

リアス達とは違い、戦闘には巻き込まれていないがどの道参加できない。

と言うより、規模が違いすぎて参加したところで何も変わらないだろう。

それはセージに限った話ではないのだが。

 

(いや……諦めるな。不意打ちとは言え一撃加えられたんだ。

 向こうの軍勢に気をとられている隙を突けば、あるいは……!

 何も倒すんじゃない、一瞬の隙を作るだけでいいんだ。

 グレモリー部長らは動けまい。今ここで動けるのは……俺だけか……ならば!)

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

コカビエルがイェッツト・トイフェルとの戦いに気を取られている隙を突き

セージはおもむろに飛び上がり、コカビエルの首めがけて

左手のプラズマフィストを当てようと試みる。

 

「とったぞ、コカビエルっ!!」

 

「あれは……セージ!?」

 

セージの狙い。それはいくら堕天使でも人型をしていれば、弱点も人間に倣うだろうという判断。

そうなれば、関節・内臓等、人間と弱点はほぼ等しくなる。

ならば、首と言うあらゆる生物の弱点を狙うことで、大打撃を与えようと試みたのだ。

しかし――

 

「伏兵か。能無しのリアス・グレモリーの眷属にしては頭を使うな。

 だが、そもそもの実力が足りていない! 無駄な足掻きだったな!」

 

如何に自然の雷と同等の威力を持ったショックを加えることが出来ようとも。

やはり当たらなければ意味が無いのである。

セージの左手は、虚しく空を切るだけに終わってしまう。

 

「気をとられたな! 冥界軍、グレモリー部長、今だっ!!」

 

それでも、セージはただでは転ばなかった。

コカビエルの容赦の無い攻撃が止み、その注意が一瞬、セージに向いた。

その一瞬だけでも、イェッツト・トイフェルの攻撃をひきつけるには十分すぎる隙だった。

防御結界を展開し、魔力弾を防がざるを得ない状況にしか持ち込めなかったが

それだけでも、リアス・グレモリーらの退避には十分な時間稼ぎにはなっている。

 

ただし、そこには代償も存在する。

振り向きざまに入ったコカビエルの肘打ちを、セージはまともに浴びる結果になってしまった。

リアス・グレモリーらを退避させることには成功したが

今度は自分が戦場に取り残される結果になってしまう。

 

「セージ!」

 

「ぐっ……構うな! こっちはいくらでも逃げられる! 何のための霊体化だ!」

 

イッセーの呼びかけにも、全く動じずセージは霊体に戻る。

ただし、この状態は無敵と言うわけではない。

コカビエルの一撃が万が一当たれば、当然消滅する。

ただ、目視しにくくなっただけである。おまけに、少なくともコカビエルには見えている。

 

(とは言え、ここの連中相手に霊体化によるかく乱が通じるとは思えないんだよなぁ。

 今までの経緯を考えれば、もう霊体化したところで無意味だよな……だが!)

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

退却のため、加速のカードを引く。結果としてセージは、イェッツト・トイフェルの弾幕と

コカビエルの弾幕の飛び交う中をその身一つで突っ切ることになった。

霊体の一部を焼きながら、セージは前線から下がろうと試みていた。

 

(アーシアさんを下げたのは失敗だったか……?

 いや、ダメージもらってるのが俺だけなら大丈夫だ。

 こんな場所に、アーシアさんを出すわけにはいかない。

 自分の身も自分で守れない人が、こんなところにいちゃいけない!)

 

セージが弾幕を掻い潜るその上空で、冥界軍を相手に無双を繰り広げるコカビエル。

一個中隊の冥界軍は、あっという間にその数を半分以上も減らされていた。

 

「フン……所詮は羽虫の子か。油断していたとは言え

 あんなのに一撃貰うどころか地に伏せられた自分が恨めしいな。

 それと……さっきの言葉は口先だけか、ハマリア・アガリアレプト?」

 

「チッ……貴様もずいぶんと舐めた真似をしてくれるな!

 そこまで言うのならば、私の力を思い知らせてやろう!」

 

ついにはハマリア自ら動き出そうと、黒のローブを脱ぎ捨てようと手にかける。

しかしそれを制止する手がふと差し出される。イェッツト・トイフェルの尖兵――

ウォルベン・バフォメットだ。

 

「それには及びませんよハマリア様。

 私も本気を出せる戦場が欲しいと思っていたところなのです」

 

「よかろう。ならばやって見せよ」

 

ウォルベンは紫色の禍々しいオーラを帯びた鎌――クレセントサイダーを手に

コカビエルに斬りかかる。対するコカビエルは、ウォルベンのクレセントサイダーを

光の槍で受け止める形になっている。

 

「少しは骨のある奴が来たか!」

 

「それはこちらの台詞ですよ。今代の赤龍帝に拍子抜けしていたところですのでね!」

 

クレセントサイダーの斬撃は、コカビエルにダメージを与えるばかりか

駒王学園にも被害をもたらしていた。このクレセントサイダーという武器。

対多数の相手には適しているが、それは同時に攻撃範囲が広いことを意味しており。

市街地など、周囲への被害を省みなければならない場面では

取り回しに適さない武器でもあるのだ。

 

「ううっ! 砲撃が止んだと思ったら今度は斬撃……!

 距離をとっているのに、ここまで被害が及ぶなんて……さすがは魔王様直属の部隊、ですわね」

 

「そうね……それよりセージは?」

 

「……状況に異常なし。ここにいます」

 

EFFECT-HEALING!!

 

魔力弾で焼かれた体を治療しながら、何食わぬ顔でセージはリアスの近くまで戻っていた。

言葉とは裏腹に、多少息は上がっている。生きた心地がしなかったのだろう。

 

「なんて無茶をするの! コカビエルの攻撃を受けたら、間違いなく命を落とすのよ!

 ましてあなたは霊体、普通の悪魔よりも光に弱いのよ! もしあなたに万が一がおきたら……」

 

「イッセーが悲しむんだろ。皆まで言いなさんな。どうせ俺はおまけに過ぎませんよーだ。

 ……ってのは冗談ですが、これでわかったでしょう。もう俺達には手におえませんよ」

 

本当は冗談じゃないけどな、と小声で漏らしながらもセージはリアスに苦言を呈していた。

徹底抗戦を提言していたリアスだったが、ここに来て彼我戦力差を完全に把握する形になった。

把握には遅いタイミングだが、これで撤収の方向で意見がまとまろうとしていた。

 

「待てよセージ! まだ、まだやれるぜ! 俺達にはまだ……赤龍帝の力がある!

 そうだ、木場だって禁手(バランスブレイカー)に至れたんだ、俺が禁手に至れば、あんな奴……!!」

 

「バカを言うな。そんな不確かなもののためにお前は仲間を、この町の人間を犠牲にする気か。

 だとしたらそれをやる前に俺がお前を倒す。その根拠の無い自信はどこから来るんだ、え?」

 

イッセーの反論。それは、赤龍帝ならばコカビエルにも勝てるかもしれないということ。

実際、赤龍帝そのものの力ならば、コカビエルだろうと勝てる見込みはある。

しかし、それを振るうものが素人同然である。それではとても勝ち目が無い。

どちらが主になろうとも、それは変わらない。

 

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べた。その身体をドライグに売れば、禁手の力を扱えるらしいな。

 だが……そんな力、俺は認めない。これ以上、お前は何になりたいんだ。

 既に人間をやめ、その上悪魔もやめるのか。そんなお前の行き着く先はなんだ?

 お前は兵藤一誠であることさえも、自分から放棄するつもりか?」

 

「だったら……ほかにどうしろって言うんだよ!?」

 

もう一つ、セージにとって許せないことがあった。

それは、イッセーがそんな強化を繰り返すことで

兵藤一誠でさえなくなってしまうことを危惧していたのだ。

既に人間をやめ。その上ドラゴンに身体を、魂を売る。そんなことを続ければ

いずれ兵藤一誠という人格そのものが、この世界から消えてなくなる事を懸念していたのだ。

 

しかしイッセーも、現状の打開のために力を得ようと考えた結果である。

セージの否定にも、全く引き下がる気配を見せない。

 

「今は耐えろ。出来もしないことを無理に挑んで、痛い目を見る必要は無い。

 俺達は俺達の出来ることをやる。今は無理でも、いつかの未来。出来るかもしれないからな」

 

セージの言葉が、イッセーの心の何かを引きちぎったのか。

次の瞬間、イッセーの左手がセージの顔面に突き刺さっていた。

 

「イッセー君!?」

 

「イッセー、何をしているの!?」

 

「はぁっ、はぁっ……そんな悠長なこと言ってられるか!

 今、今大変だってのに、何で先の話してんだよ! いつかっていつなんだよ!

 え!? 答えろよセージ!!」

 

「……久々に効いたな。だが、子供じみた言い訳を聞きたいわけじゃない。

 夢を語るのは結構だが、現実に目を向けろ。

 お前の言うことは、現実との折り合いがついていない」

 

口元を拭いながら、何事も無かったかのようにセージは振舞う。

その態度は、さらにイッセーを逆上させていた。

 

「現実ってなんなんだよ! 俺達がここで全滅することか!

 そんな現実くそくらえだ! それを曲げるためなら、俺はなんだってやってやる!!」

 

「……かつては両親を。今度はグレモリー部長を、アーシアさんを泣かせるのか。

 この際だからはっきり言っておこう。そんな事ではお前にハーレムは未来永劫無理だ。

 お前に万が一が起きて、悲しまない者がいないはずが無いだろう。

 そんな考えも至らないで、女性の心を掌握せねばならないハーレムに君臨するだと?

 笑わせるなこのスケベザルが! 自己犠牲での現状打開なんざ

 どこまで行っても自己満足に過ぎないんだよ!」

 

セージの熱弁ではあるが、これはこれでブーメランである。

今しがたのセージの行いを見れば、ブーメランであることは明白である。

程度が違うかもしれないが、セージにも多かれ少なかれ自己犠牲の精神があるようだ。

それをセージが気づいているのかどうかはわからないが、セージの熱弁は続く。

 

「誰かを助けたければ、まず自分が助かれ! 自分も助けられないような奴に

 誰かを助けるなんてできるわけねぇだろうが!!

 

 ……どこぞの聖女様にも言えることかもしれないけどな」

 

ひとしきり吼えた後、セージは再び記録再生大図鑑を展開。

戦況の把握に努めだしていた。

イッセーも負けじと睨み返しているが、セージは気にも留めない。

 

「……フン。これでは憑依してシンクロなど無理だな。

 やはり、考えの違う二人の人間が融合して力を発揮するなんて、土台無理な話なんだ。

 イッセー。これでもお前はまだ、俺の力を使ってコカビエルと戦おうと考えているのか?

 ……それはつまり、俺を力ずくで吸収するなりして俺の力を行使する。

 そう解釈してもいいのか?」

 

「何でそういう風に言うんだよ!? そもそも、それはお前のお家芸じゃないのかよ!?」

 

「……そいつを言われると痛いが、お前も結構根に持つな。ま、それだけの事をしたんだがな」

 

ため息をつきながらセージは周囲を見渡す。

最前線からは離れたとは言え、まだ戦場にいることに変わりは無い。

自分達がどれだけ策を練ったところで、コカビエルに敵うはずも無い。

それは、この場にいる誰しもが把握しているはずだ。そうセージは考えていた。

しかしイッセーは、コカビエルを倒すつもりでいる。

それが若さゆえの向こう見ずか、赤龍帝と言う免罪符によるものかはわからないが。

 

「俺達が力を合わせれば、できない事なんて無いはずなんだ……!!」

 

「時と場合を考えろ。俺達が力を合わせたところで、この身一つで太陽までは行けないだろう。

 イカロスの翼の話……グレモリー部長ならばご存知でしょう?」

 

「コカビエルを太陽に喩えるのは腹立たしいけど、納得できなくも無いわね。

 私達は、その太陽に挑もうとしているイカロス、って事でいいのかしら?

 けれどセージ、私達は悪魔よ?」

 

リアスも一定はセージの意見に納得していた。

しかしそれは、主として眷属の意見に耳を傾けているだけの事務的な対応である。

イッセーの意見に対する対応とは、まるで言葉のトーンが違う。

 

「……なるほど。悪魔だから、人間じゃないから出来る、と。

 そうおっしゃりたいわけですな。ならばお一人で太陽を目指してください。

 現実から目をそらした夢物語に、一歩間違えば破滅するかもしれない物語に

 他人を巻き込まないでいただきたい。俺が言いたいのはそれだけです。

 そして、話を長くした俺が言うことではありませんが、今は……」

 

「そうだな、あの二人の戦いが激しくなってきた。私たちも巻き添えを食らっては適わんぞ?」

 

ウォルベンとコカビエルの戦いは激しさを増し、リアス達をも巻き添えにしかねないほどだ。

クレセントサイダーが光の柱を切り裂けば、光の柱は光の矢へと変質し。

クレセントサイダーの斬撃は、広範囲を巻き込み。

駒王学園のグラウンドは、既にぼろぼろの状態になっていた。

 

ウォルベンの上官であるハマリアも、それについて咎めるでもなく静観している。

これは自軍兵力が減っており、こうでもしなければ戦線を維持できないと言う判断によるものである。

 

(……チッ。やはりリアス・グレモリーを犠牲にしてでも焼夷魔法を行使すべきだったか。

 今の戦闘で、こちらの兵を予想外に失ってしまったな。

 ここはウォルベンにやってもらうしかないか)

 

「ハマリア様! レーダーに感あり、12時方向! こ、これは……!!」

 

「記録再生大図鑑に反応……? し、しかも大きい……っ!?」

 

ウォルベンとコカビエルの戦闘が続く最中、ハマリアの軍勢のレーダーが反応を示す。

同様に、下にいるセージのレーダーにも反応があった。

とてつもなく強い反応。突如として現れたそれにいち早く反応したのは

ハマリアでも、セージでもなく……ドライグだった。

 

『――来るぞ、相棒』

 

「こんな時になんだよ! 来るって、何がだ!?」

 

――白いのが、来る。

 

前大戦を生き抜いた堕天使幹部と、魔王直属部隊精鋭の一騎打ち。

そこに割り込む形で、二天龍の片割れ・白龍皇アルビオンが姿を現そうとしていた。

 

「データ照合……は、白龍皇アルビオンです!!」

 

「何だと! 二天龍がここに揃うと言うのか! 直ちに陛下に報告しろ!

 場合によっては我々だけでは手に負えん可能性がある! 急げ!!」

 

「はっ!!」

 

白龍皇の参戦。それは魔王直属部隊に衝撃を与え。

 

『相棒。こうなれば俺はやるぞ。確かに今のお前は堕天使幹部に傷一つ負わせられない。

 だが、霊魂のがいれば話は別だ。

 俺が何のために、霊魂のに力を分け与えたと思っているんだ?』

 

「ど、ドライグ……お前、何を言ってるんだよ……!?」

 

沈黙を続けていた赤龍帝が、その本性を少しずつもたげ。

 

『――本体のとシンクロしろ。事態の打開にはそれしかない』

 

(……何でシンクロを要請してきたんだ? しかもドライグの側から。

 タイミングとしては白龍皇を感知した時点で何かあったと見るべきか。

 これは……何かはわからないが何かあるな)

 

戦いは一時中断を余儀なくされ。

 

「白龍皇だと!? はははははっ! 面白い、奴らも戦いを望むか!

 そう、戦いこそがありとあらゆる生き物の本質!

 やはり俺は間違っていない! 間違っているのはアザゼルどもだ!!」

 

(白龍皇……やはり来てしまいましたか。もはや私には、どうでも良いことですがね)

 

神の忌まわしい置き土産は、今ここに集おうとしていた。




今回について。

ハマリア・アガリアレプト
名前は機動戦士Ζガンダムのハマーン・カーンと
機動戦士ガンダムのキシリア・ザビからです。
名前ネタでサーゼクスさんに「ここで終わりにするか、続けるか!?」とか
言いそうな気がしますけど。そうなったらグレイフィアさんとの女の戦い待ったなし。
原作冥界組は結構ガンダムネタが多いのでそこに倣いました。
これはウォルベンも同じく。
風貌はもろハマーン様です。台詞回しに少々キシリア様要素も入ってますが。
アガリアレプトはルシファー配下の悪魔と言う事でチョイス。

イェッツト・トイフェル
独語で「現在の悪魔」とかそんな風な意味。
これはスパロボOGユーザーなら少しピンと来た名前かもしれません。
だからってアインスト・トイフェルなんて「部隊は」存在しませんが。
直属部隊と本文中では触れられてますが
実質的には秘密警察みたいなもんです。
リアスも魔王直属部隊と言う事しか知りません。
一般兵の戦闘力は中級悪魔以上コカビエル以下。

クレセントサイダー
13周年迎えた某MMORPGのロマン武器。
本作のバフォメットがバフォメットたる所以の武器です。
性能もネタ元に同じく。ただし威力はHSDD仕様。
ロードオブヴァーミリオン? いえ、知らない魔法ですね。

EXコードY
誰かをさしている暗号。
キーワードはイニシャル。兵士はともかく、ハマリアはそのコードが意味する事を
知っています。

さて。
結構イッセーとセージの溝が深まってきたところにドライグが何やら企んでいる様子。
普通に考えても何でドライグがセージに力を貸したのか。
その答えがいずれ明かされる……かも。

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