ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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神は言っている。
この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ない、と。

今回のサブタイはエルシャダイを意識してますが
あの作品テーマを踏まえるにこの内容は……ううむ。

作者はPVしか見てない口ですが設定はかみ合いそうですよね。

それより……
こんな投稿時間で大丈夫か?

>大丈夫だ、問題ない。


Soul37. ニーチェは言った。神は死んだ、と。

「うあああああああっ!!」

 

「……おっと!」

 

聖魔剣と擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の激突。

どうしてこうなったかと言うと、事は数刻前に遡る。

 

聖剣を神聖なものとして捉えていたバルパー・ガリレイや紫藤イリナは

木場祐斗が手にした聖剣使いの因子を合わせて生み出した魔剣――いや、聖魔剣。

双覇の聖魔剣を目の当たりにしたことで錯乱。

バルパーは己の研究に対する自信を失っただけですんだのだが

イリナは悪魔が聖魔剣とは言え聖剣を使う事が許せず。

さらに俺が光の力を駆使した武器を使えることを知り。

激昂し、俺に斬りかかって来たのだ。

 

あまりにも突然の事に俺も対応が間に合わず、こうして祐斗に援護してもらっている状態だ。

 

「体勢は立て直した、助かった」

 

「お安い御用だよ。とりあえず、彼女を落ち着かせないと」

 

「揃いも揃って……汚らわしい悪魔が、主の祝福を、愛を受けた力を振るうなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

SOLID-GUN!!

 

幸か不幸か、今のイリナは以前俺が焚き付けた時と同様我を失っている。

試しに芽留(める)にトランペットを吹いてもらうことも考えたが、周囲に人が多すぎる。

それに、あれは完全に切れている状態だ。あれ以上は上がらないだろう。

となれば、距離をとりつつ攻撃するか。全く、どうしてこうなった!

 

光剣を懐にしまい、祓魔弾の込められた銃をイリナめがけて撃つ。

どうでもいいが、いくら実弾じゃないとは言え人に向けて銃を撃てるようになるとは

俺も嫌な意味で場慣れしてきたな。

 

……だが、祓魔弾の銃というのは、さらにイリナを激昂させるだけであった。

 

「ぐうっ!? 悪魔でありながら悪魔を殺すための武器をまた!!

 そんなに悪魔祓いの武器を使うのなら、それで自分の頭を撃ちなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

やなこった。そもそも、今この身体は俺だけのものじゃないんだ。

鬱陶しい話だが、俺が死ねばイッセーにも悪い影響が出るやも知れぬ。

そう考えれば、俺とてそう簡単には死ねないんだよ。

 

「言ったはずだよ。セージ君は殺させない!」

 

「あんたもよぉぉぉぉぉ!! 悪魔の、悪魔の癖に聖剣を!!

 聖剣は、聖剣は!!」

 

イリナが喋っていることは、段々と支離滅裂になっている。

祐斗が聖魔剣で抑えているが、イリナの武器は擬態の聖剣。

冷静さを欠いているとはいえ、それが却って凶悪な変化を遂げて襲い掛かってきている。

ある時はワニの顎のような形に。またある時はチェーンソー。

はたまたある時は丸鋸。完全に、こちらを殺す気満々だ。

 

しかしその息をつく間もない猛攻を遮るものがいた。ゼノヴィアだ。

イリナの顔面に思いっきり平手を叩きこみ、有無を言わせぬ迫力でイリナを黙らせる。

流石は破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の使い手というべきなのか?

 

「落ち着け、イリナ! 気を確かに持て!

 確かに聖剣を悪魔が振るうのは由々しき問題だが、それは私達が決めることじゃない!

 君だってわかるだろう!? そもそも今はこの悪魔を倒すことよりも

 奪われたエクスカリバーを取り戻すのが先のはずだ!」

 

そう。そもそも彼女らはそれが目的で来日したはずだ。

それから様々な事件が起こり、忘れかけていたが大本はそこだろう。

俺だって、それについては突っ込みを入れたはずだ。

 

「そ、そうね……ごめんなさいゼノヴィア、取り乱したわ」

 

「謝る相手が違うぞイリナ。私も改めて思ったんだが、彼らを祓えば

 今度は私達が冥界から指名手配される。騎士(ナイト)は言うまでもないが

 そこの兵士(ポーン)も反抗的とは言え、リアス・グレモリー……

 サーゼクス・ルシファーの妹の眷属なのだからな」

 

「そうだぞ! ここは部長の領地なんだ、もう少し礼儀をだあだっ!?」

 

またイッセーが調子に乗る。こいつは悪いやつじゃないはずなんだが

どうにもすぐ調子に乗る。どうしたもんだかな。さっきのゼノヴィアではないが

一発殴りつけて話を纏めることにした。

 

「そこまでだイッセー、調子に乗るな。それにこの町はグレモリー領である前に

 多くの一般市民が人間の法に則って平和に暮らしている町だ。皆それを忘れないでくれ。

 さて。俺は怪我など一切していないし、さっさとエクスカリバーの回収……の前に少しいいか?

 

 ……そのバルパー・ガリレイってやつを警察に突き出したい」

 

言うや俺はイッセーからひったくったスマホを使い、警察に連絡しようとしたところで

スマホを取り上げられる。イッセーにではない。では誰だ?

 

「……それには及びませんよ。警察には、私から連絡しておきましょう」

 

「あ、あなたは!?」

 

薮田(やぶた)先生!?」

 

や、薮田先生だって!? ま、まさかこんなところにいるなんて!?

全く、この人は一体何者なんだ!?

俺から取り上げたスマホをイッセーに返すと、何事も無かったかのように

薮田先生は話を進めている。

 

「警察には私の知人がいます。私自身も警察には顔が利きますのでね。

 その男、聞けば指名手配犯のようで。

 何故ここにいるのかまでは知りませんが、私が対処しておきましょう」

 

「ど、どういうことだよ!? 薮田先生は出張のはずじゃ!?

 っつーか、何で学校にいるんだよ!?」

 

「おかしなことを言いますね兵藤君。私はここの教師ですよ?

 教師が学校にいることに、何の不思議があるんですか。

 出張についてなら、今しがた帰ってきたところですよ。

 ……少々、騒ぎはあったようですがね」

 

「それもあるけど今ここには結界を張っている筈よ?

 薮田先生、あなたは何者なのかしら? 場合によっては、理事長に話を……」

 

「結界? 何のことですか? 私に言わせれば、避難騒動があったとは言え

 こんな時間に未成年が出歩いていることの方が問題に見えますがね。

 理事長に話を通す前に、何故あなた方がこんな夜更けに外にいるのか。

 そして、学校の校庭で部外者を交えてオカルト研究部は何をしていたのか。

 その説明をしていただきたいものですね。

 勿論、返答如何では然るべき対応を取らせていただきますよ」

 

ぐっ……正論だ。どう考えてもこっちが分が悪い。

現時点で目撃されている以上、言い逃れなんて効きやしない。

立場が立場だからか、オカ研の面子も心なしか不安そうではある。

 

「……こ、これは……」

 

「あらあら……これは困ってしまいましたわね」

 

「……留年? 停学? どっちにしても困る……」

 

「い、イッセーさん……」

 

一人、自信たっぷりに前に躍り出る。グレモリー部長だ。

この場を言い包める秘策でもあるのか? もしそうならば驚きだが。

だが、今までを顧みるにとてもそうは思えない俺がいた。

 

ふと、グレモリー部長の目が妖しく光った気がした。

それと同時に薮田先生の表情も虚ろになる。

ま、まさか……。

 

「……ふぅ。本当はやるべきではないのだけど、記憶操作をかけたわ。

 これで何とかこの場は凌げるはずよ」

 

「おおっ! さっすが部長!

 いやぁ、あのままだったら俺達どうなっていたことか……」

 

ばっ、バカヤロウだ! アホ主とは思っていたが、ここまでとは!

「これは根本的な解決になってない」って喉元まで出かかったが

俺自身、他に方法があるかと言うと答えに窮する。

勿論、オカ研の面子がなんらかの処分を受けるであろう答えなら出せるのだが。

 

最もそれ以前に、俺は駒王学園の学籍が無いので「関係者以外」の立ち位置になるわけだ。

避難騒動があったお陰で、関係者以外が立ち入っていても問題は無いわけなのだが……

そのお陰で、フリードとか言う変なのが入ってしまったことを考えると、どうにもな。

 

「とにかく、これ以上事態を長引かせるのはよくないわ。

 早いところバルパーを始末して、コカビエルをお兄様に引き渡しましょう」

 

「それと、エクスカリバーの回収も行いたい。早いところフリードから取り上げよう……ん?」

 

ゼノヴィアがフリードの持っていたエクスカリバーを、グレモリー部長が

コカビエルを拘束しようと手を伸ばした瞬間。

さっきまで虚ろだった薮田先生の目の色が元に戻る。

まるで、さっきの記憶操作などまるで効いていないかのように。

ゼノヴィアはその様子に気付いたようだが、グレモリー部長はまだ気付いていない。

 

「……記憶操作、ですか。そうやって都合の悪いことを誤魔化すのが

 あなたのやり方ですか、リアス・グレモリー君。

 私はあなたの担任でもなければ、進路指導の担当でもありませんが……。

 その考え方、いずれは己の首を絞めることになりますよ?」

 

「!?」

 

「……あらあら」

 

「ぶ、部長の魔力が効いて、無い……!?」

 

「こ、これは驚いたよ……」

 

そりゃあ驚くよな。さっきの口ぶりだとグレモリー部長は過去同じようなことをやらかした……

あ、あのときか! アーシアさんが兵藤家に居候する事になった時!

あの時も何かやらかしたのだろう。そう考えれば合点がいく。

そして今回も、同じ要領でやろうとしたんだろうが……

 

多分、相手が悪かったんだろうな。

どういうわけだか分からないが、この人はタダモノじゃない。

何せその気になれば魔王でも赤裸々に出来る、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)でも読み取れないのだ。

 

「な、何者なのよあなたは一体……わ、私の領地に、学校にあなたみたいなのがいたなんて……」

 

「大方、傀儡相手ならば自分の意見を簡単に通せると思ったのでしょうが……

 私は自由を奪われることとか、独裁政権とかは嫌いでしてね。

 まぁ、私の機嫌を損ねたからって進路に影響するようなことはありませんが……。

 私の認識や記憶をいい様に弄ぼうとしたその報いは

 いずれ受けてもらうことになりますよ。ククク……それにですね」

 

そう言うや、薮田先生の左手には光る辞書のようなものが展開されていた。

何故だか既視感を覚える存在だが、それが何なのかは俺にも分からない。

そして一瞬、空が、いや空間全てが真っ白になったような錯覚を覚えた。

皆同じような感覚にとらわれたのか、きょろきょろとあたりを見回している。

 

「『何時から』駒王学園はあなたのものになったのですか? リアス・グレモリー君。

 駒王町にしても同じです。未成年である以上、実際に政治を執り行うことはおろか

 選挙権をはじめ参政権はまだ与えられないはずですが?

 そもそも、学園はそこに通う生徒と教師一人ひとりの。町はそこに住む人々一人ひとりの。

 それぞれの物です。誰か一人のものではありませんよ。それともあなたは

 その一人ひとり全ての命さえも自分のものとおっしゃるつもりですか?」

 

「この駒王町は、正規の取り決めで私が管理することになっているわ!

 たとえ先生でも、その決議に異議を唱えることは許さないわ!」

 

薮田先生の言っていることはまぁ、正論である。

しかし、常日頃からこの一帯を、学校を自分の縄張りとまるで犬のように主張している

グレモリー部長には、聞き捨てなら無い言葉だったのだろう。

薮田先生に食って掛かっているが、俺はその取り決めとやらは初耳だ。

まさか俺が思ったとおりに駒王町の町長がグレモリー部長の契約者だったりするのか?

 

「……私はただ疑問に思っただけですがね。まぁ、仮に取り決めがあったとしましょう。

 しかし……いえ、これ以上は話が長くなりますね。

 リアス・グレモリー君。この件については後日、職員室に出頭してください。

 出頭の無い場合は『教師にも秘密にせねばならないこと』を

 生徒が一存でこの学校で行い、駒王学園の生徒としてあるまじき行為をしていたと見なし

 オカルト研究部の廃部を求めるものとしますが、よろしいですね?」

 

「冗談じゃないわ! オカルト研究部の廃部だなんて!」

 

「何を勘違いしているんです? 後ろめたい事が無ければ、今までどおり活動できるんですよ?

 単純に私を、教師陣を納得させるだけの事実があればいいのです。

 ああ、記憶操作だとかウソの活動報告だとかは通じませんよ?

 私にそれが通じないことは、さっき理解いただけたと思いますしね。ククク……」

 

歯噛みしているグレモリー部長を尻目に、薮田先生は電話をかけた後に

バルパーを起こそうとしていた。

 

「さて……バルパー・ガリレイと言いましたね。

 私は警察にも伝手がありましてね。あなたが犯した罪についても、既に知っているのですよ。

 ですので、私にはあなたを警察に突き出す以外の選択肢が存在しないのです」

 

「ぐっ……わ、私に警察に出頭しろと言うのか……」

 

「ククク……今私の携帯から警察をこの場に呼びました。

 間もなく駆けつけることでしょう。それもただの警察ではありません。

 こうした悪魔だの聖剣だのと言った超常事件の専門部署を呼んでいます。

 言い逃れは出来ませんよ? 塀の中で己の行いを見つめなおしてはいかがです?」

 

超常事件の……ああ、超特捜課(ちょうとくそうか)か。確かに超特捜課と薮田先生にはパイプがあった。

そういう意味でも、超特捜課を呼ぶのは理に適っているのだろうか。

 

「わ、私もここまでか……ククク、ハハハハッ……

 聖剣を追い求めた挙句が、卑しき犯罪者とは! どこだ! 何処で私は道を誤ったのだ!?」

 

薮田先生に起こされたバルパーが、突如として笑い出す。

観念したのだろうか、自分のおかれた立場に絶望したのだろうか。

いずれにせよ、祐斗や海道さんの経緯を知っている以上、全く同情の念なんて沸かないが。

 

「そうか、そこの騎士か! 悪魔でありながら聖剣にも適合した、貴様の存在が!

 それを生み出したのは誰だ!? 私か、私なのか!? そう、私だ!」

 

「……て、てめぇっ!」

 

「イッセー君、もういい……彼は終わりだ」

 

狂い始めたバルパーを殴りつけようとイッセーが握り拳を作るが

それを祐斗が制止している。殴りたいのはお前じゃないのかとも思ったが……。

ああなっては、話が変わってくるだろうな。

 

「歪んだ聖剣、聖魔剣を生み出してしまったのも私だ! 私の研究が生み出してしまったのだ!

 そう、私は聖剣を生み出し、私だけの聖剣を作るはずだったのだ!

 だがこの世界の光と闇、聖と魔のバランスが崩れた事で世界は歪んだのだ!

 そう! 私の研究は間違っていなかった! 世界が歪んだことで、私の研究も歪んだのだ!」

 

「世界が!? 主に祝福された世界が歪んでいるなんて、ありえないわ!」

 

光と闇、聖と魔のバランス? 一体何のことを言っているんだ?

イリナは神に祝福されているはずのこの世界が歪んでいるなど、ありえないと断じているが。

しかし、どうも俺にはこれが狂人の戯言には思えない部分があった。

 

「おのれ魔王! おのれ神よ! よくも私の研究を台無しにしてくれた!

 貴様らが先の戦争で滅びさえしなければ、聖と魔のバランスは保たれ

 私は唯一無二の聖剣と、それを使う者を生み出す事が出来たのだ!

 下らぬ戦争で滅びる程度の下らん存在が、よくも私の研究にけちをつけてくれた!!」

 

「な……じ、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 

バルパーの口から放たれた驚きの証言。

 

――神は滅んだ。

 

まぁ、俺には然程衝撃的なことではないのだが

曲がりなりにも聖剣を振るうために集められた祐斗。

現在進行形で神を崇拝しているゼノヴィアやアーシアさん。

そして一応は神と敵対する者であるグレモリー部長。皆に一様の衝撃を与えていた。

 

たとえそれが、狂人の戯言だったとしても。

 

「そうだ……神が滅びたからこんなことになったのだ!

 おのれ……そのことにもっと早く気付いていれば、違った研究を生み出せたものを!!

 私の研究こそが、新たな聖剣を、新たな神を生み出せたものごぼぉっ!!」

 

狂人の幕切れ。それは、あまりにも呆気ないものだった。

突如として現れた刃が、バルパーの心臓を的確に貫いていた。

そして、それをやったのは……

 

「半分正解で半分不正解だ、バルパー」

 

光の槍が、バルパーを貫いている。

俺以外で、それを使えるやつは今この場に一人しかいないはずだ。

それも、さっき倒したはずの奴。

 

「やはり、あの程度では倒せなかったのね……コカビエル!!」

 

「当たり前だ。あの程度で倒せるのは精々中級の堕天使だな。

 まぁ、今の人間が俺の予想を上回っていたことだけは褒めてやるがな。

 神の不在を知ったバルパーにせよ、俺に不意打ちとは言え痛手を負わせた人間の武器にせよ」

 

「はん……ぶん……はず、れ……は……どう、い……!」

 

「言ったとおりだ。魔王も神も、前の戦争で滅んだ。それはあってる。

 だが……いや、死に行くお前が知らずともいいだろう。

 地獄で吹聴されても困るだろう、なぁ?」

 

「……それはひょっとして、私に言っているんですか?」

 

崩れ落ちたバルパーを踏みつけつつ、何故かコカビエルは

薮田先生の方を向いていたような気がした。

わからない。コカビエルと薮田先生に、どういう関連性があるんだ?

だがそれよりも。コカビエルが動いたと言うことは、また戦場になる!

 

「それにしても聖剣使いに聖剣計画の生き残りども。

 お前達は信仰する対象を失っても尚戦い続けるか。実に滑稽だ。

 そのサマを見ていることは、ここでの戦いと同じくらいに面白い見世物だったぞ?

 そして元聖女の魔女。ありもしないものを信仰する……

 いや、紛い物の偶像を信仰する。その気分はどうだ?」

 

「えっ……?」

 

「ば、バカな……」

 

「な、何を言っている!?」

 

……あちゃあ。狂人の戯言を肯定する形でカミングアウトされてしまったか。

士気に関わることだし、言っても平行線になるのが関の山と俺は黙っていたんだが……。

最も、俺は「唯一無二の神を最初から信じていない」のであって、彼らとはまた話が違うのだが。

そもそもこの国ではその辺の草むらや便所にだって神様はおわすんだ。

それがいいのか悪いのか、は俺の知ったことではないが。

 

「滑稽だ、実に滑稽だ! ただ機械的に与えられるものを

 『愛』と信じて憚らぬその盲目的な愚かさ!

 如何様にでも塗り替えられる『正義』を信じ剣を振るうその盲目的な愚かさ!

 貴様らは、ハリボテにプログラミングされたものにしたがって、今まで生きてきた――

 

 ――天使どもの家畜に過ぎなかったというわけだ! ハハハハハハハッ!!」

 

……これは酷い。言っていることには大まかには同意できるものの、そこまで言うか。

そりゃあ俺だって所謂聖書の神――四文字(Y・H・V・H)を信仰何ざこれっぽっちもしてない。

だが、それを糧に生きてきた人たちの人生を愚弄するつもりもなかった。

だがコイツは、それをやってのけている。

事実、愕然とした者は多く、一部は戦意さえ失っているほどだ。

 

「う……嘘よ……神様が……主が……そんな……」

 

「つまらん……一人、脱落した奴がいるな。

 おい、誰でもいいから片付けておけ。その目障りな塵を」

 

「い、いかん! イリナ、しっかりしろ!

 くっ、コカビエル! 根拠のない詭弁はやめてもらおうか!」

 

一際信仰心が強い――思い込みが激しいとも言うが――紫藤イリナが

真っ先にコカビエルの言葉を真に受けてしまったようだ。

その目には生気は宿っておらず、膝をつき崩れ落ちている。

 

「詭弁……か。お前達と違い、俺は先の大戦を実際に戦い生き抜いてきたんだがな?

 いわば、俺は現場にいたわけだ。たとえ俺の証言が嘘だとしても

 お前達にそれを証明する術はあるまい? 悪魔の証明と言うやつだ。

 それより俺は塵を片付けろ、と言ったんだ。気が利かない連中だな。

 お前達がやらないのならば、俺がやってやろう」

 

「くっ、イリナ! 目を覚ませ、イリナ!!」

 

そんなイリナをコカビエルは容赦なく狙っている。

正直、あれを防ぐ手立てはない、どうすればいい!?

ところが、コカビエルの右手に収束するはずのエネルギーは、全く集まらずに霧散している。

それと同時に、薮田先生がイリナの元に駆けつけている。ま、まさか?

 

「……ただ事ではないことは分かります。彼女は私が連れて逃げます。

 私の伝手を通じて、自衛隊をこの場に派兵してもらいます。

 皆さんも、早くここから逃げなさい。いいですね?」

 

「えっ、逃げるって……」

 

ま、まあ逃げるのが当然の選択肢だわな。薮田先生の言っていることは間違ってない。

ただ……何かが引っかかる。

さっきの現象といい、都合よくコカビエルの攻撃が阻害されていることといい。

薮田先生は本当に何者なのだろう。などと考える間もなく、既に薮田先生は逃げ切っている。

教師が我先に……と思いもしたが、既に一人抱えている。

俺たちは自力で動けるが、既に正気が無く自力で動けない

イリナを安全な場所まで運ぶのも必要かもしれない。

 

「……チッ。こんな芸当が出来るのはあいつしかいない。

 まさか言った矢先に不正解の原因に出くわすとは思わなかったがな……

 面倒な結界を張ってくれる。だが、この手足は普通に動くと言うことを

 忘れてもらっては困るな!」

 

コカビエルが徒手空拳で俺達を倒そうと突っ込んでくる最中、突如として空気が重くなる。

それにあわせ、何やら重いムードの曲が流れている。

瑠奈のバイオリンか、まさかコカビエルにも効くとは思わなかったが。

 

「……みなさん、ここは一度逃げましょう」

 

「観客は俺様が逃がしておいたぜ、よくわからねぇがありゃヤバイのだけはよくわかる!」

 

「ちっ……どいつもこいつも。いくら俺が寝起きで調子が悪いとは言え

 こうも不覚をとるとはな……まぁいい」

 

ナイスアシスト、海道さん。

あのウォルベンとか言う悪魔の言ったとおりの事態が起きようとしているのか。

ん……いや、ちょっと待て。今薮田先生は自衛隊を呼ぶって言ってたよな。

そこに冥界の悪魔軍が来たら……やばくない?

 

じょ、冗談じゃない! 本気で戦争になる!

この町を、本気で焼き払うことになる!

どうする、どうすればいいんだ!

俺には、いや多分ここの誰も、そんな戦争状態を止める術を持っている奴なんかいるのか!?

 

「薮田先生も余計なことをしてくれたわね……自衛隊を呼ぶだなんて。

 そんなことをしたら、事態は悪化の一途を辿るばかりだわ。

 自衛隊に、人間にコカビエルを止める術なんて無いわ。

 

 ……皆。私達がここで逃げたら、誰もコカビエルを止めることは出来なくなってしまう。

 私達の学校を守るためにも、ここでコカビエルを倒すわよ!」

 

結局そうなるのか。逃げる算段を立てている自分が情けない、と思わなくも無いのだが……。

だがそれが本当に情けないのは、やれば出来る状態から逃げることに対して、だと思う。

どうにも出来ないことから逃げ出すのは、それは必要なことではないかとも思うのだが。

 

今回の案件は、言うなればはぐれ堕天使と悪魔の些細な――

当事者にしてみれば全く些細ではないのだが――小競り合いでもなければ

無関係な者を多数巻き込んだ人騒がせなお家騒動でもない。

冗談抜きで戦争にもなりかねない、いやもう一歩手前の状態だ。

 

戦争はどちらかと言えば悪ではあるが、国と国との間で必要な

いわば必要悪の交渉手段であると俺は思っている。

それを個人のレベルでどうにかできるなど、俺にはとても思えない。

だから冥界は軍を動かし、その尖兵としてウォルベンがいた。

そしてここは日本だ。日本国の危機ともなれば国を守る自衛隊は動く。

二つの異なる組織に属する軍ないしそれに準ずる組織が動くと言うのは

人命救助でもない限り、戦争のそれと変わらない状態じゃないか。

 

俺が生まれるずっとずっと前に戦争は確かにあった。

けどまさか、俺が生きてる間にこの国で戦争が起きるなんて、夢にも思わなかった。

体験などしたくなかった。ただそこにあったと言う事実だけでよかった。

 

「了解っす部長! 俺は何時だって部長のために戦いますよ!」

 

「そうね。私としても、堕天使は根絶やしにしたいもの。

 それがたとえ、上級堕天使であっても……いえだからこそ、ですわ」

 

妙に戦意の高いイッセーと姫島先輩だが、何やら足に地のついていない感じがする。

神の不在を知らされてショックを受けたアーシアさんに聖剣使いの二人、そして祐斗。

皆とは違う形で、俺は戦意が折れかけていた。

 

――このままじゃ、皆死んでしまう。戦争が、始まってしまう!




原作のコカビエルは戦争起こすために一連の騒動を起こした戦争狂でしたが
本作ではコカビエルがそこにいるだけで勝手に戦争状態に突入しそうです。

サーゼクスの意向に反して駒王町をコカビエルごと焼き払おうとする冥界軍。
日本国の領土である駒王町を守ろうとする自衛隊。
原作では結局冥界からの派兵は行われずに収拾つきましたけどね。
フィクションでは定番・お約束の展開だったと思います。

けれど本作はそうしたことに割と喧嘩売ってるスタンスですので
果たしてどうなることやら。お約束で終わるかもしれませんけど、ね。
サーゼクスが陣頭指揮を執れば最悪の事態は避けられそうですけど
それはそれでコカビエル歓喜で大災害になりそうですし。


薮田先生。
性格造詣的には某重力の魔神を操るメタ・ネクシャリストを意識してます。
ネーミングはまた別のところから持ってきていますが。
今までも造詣元並のチートスキルを発揮していましたが
今回さらに

・コカビエルに動じない
・何故か結界張った上殺人鬼や凶悪怪獣の闊歩していた学校にいた
・記憶操作が通じない(神器らしきものを持っている)

と言うただの人間にはありえないチートスキルを発揮してます。
一体何者なんだ(棒


セージがやたら戦争状態を怖がっているのは
子供の頃に見た某戦争アニメがトラウマになっているとか、いないとか。

……ちょっとトラウマ植えつけるぐらいで丁度いいんですよ、ああいう題材は。

11/17訂正。
「日本では」戦争は起きてませんよね。つまりそういうこと。

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