ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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この作品は仮面ライダーゴーストとは一切関係ありません(挨拶

尚、犬の生態については作者は素人ですので
もしご家庭の犬の健康状態に不安があるようでしたら
早急にお近くの獣医に診察を受けさせてください。


ちなみに作者は猫派です。

>どうでもいい
 そっとしておこう


Soul34. 嫌疑、かけられました。

目の前にいるのは巨大な三つ首の犬の怪物。

記録再生大図鑑を使わずとも名前くらいは知っている。

 

――ケルベロス。様々な創作において取り上げられる、メジャーな怪物だ。

……まぁ、中には三つ首ではないケルベロスもいたりするが。

 

「名前くらいは知っている相手だが、一応調べるか」

 

COMMON-ANALYZE!!

 

――なるほど。体躯は大きいが、その俊敏性は獣のそれである。

力も強く、筋肉も発達しているため神経への攻撃や内部からの攻撃が有効。

或いは、足を狙い転倒させることで動きを封じる事が出来る。

まぁ、あんなのと力比べするつもりも無いしな。

重量があるから、一度倒れたら立ち上がれないのだろうか。

 

「セージ君、なるべくそのハンマーは丁重に扱ってくれないかい……?」

 

「は? いきなり何を言い出すんだ。ハンマー何ざ殴って振り回してなんぼの武器だろ。

 それに……奴はそうさせてもくれないみたいだぞ?」

 

祐斗に見上げるよう促すと、ケルベロスの首の一つがこちらめがけて炎を吐いてくる。

フェニックスのそれに比べると威力は衰えているようだが、直撃は受けられない。

祐斗にとってみれば難なくかわせるものだが、俺はハンマーを抱えていることもあり

回避が遅れてしまう。そうなれば炎を浴びてしまうのは自明の理。熱い。

幸いにして、直撃は免れたが。

 

「セージ君!」

 

「直撃は受けていない、気にするな。それに得物が得物だ、祐斗みたいには行くまい。

 悪いが、攻撃をひきつけてもらえるか?」

 

「分かった、その間に攻撃を頼んだよ? で、出来れば穏便に、ね……」

 

「――前向きに考慮する」

 

祐斗はわざとケルベロスの目の前に出るように躍り出ている。

三つある首のうち、二つは祐斗の方を向いている。

一つは相変わらずこっちを向いているが――

 

「ま、首が三つもありゃそういう動きもするわな……だが!」

 

俺だって、祐斗にばかり働かせるつもりも無い。

ハンマー――ギャスパニッシャーの頭の部分を引きずりながらゆっくりと進む。

引き摺っているギャスパニッシャーと砂利が擦れ、火花を散らす。

火花の光を目安に、ケルベロスは再び炎をこちらに浴びせてようとして来る。

 

「そう何度も食らえるかッ!」

 

炎に対し、俺はギャスパニッシャーを振り回し防壁の代わりにする。

棍のように回転させるのは消費が激しいため、頭の部分を盾にする形だ。

そのまま炎を押し出すような形で、俺は歩みを進める。

 

「ダメだ――凍てつけ!」

 

祐斗の氷の魔剣で炎が止むと同時に、俺はギャスパニッシャーを地面に叩きつける。

ギャスパニッシャーが帯びた炎を散らせる目的もあるが

副産物として強烈な衝撃波も生み出していた。

これが人型の相手ならば転倒を狙えたかもしれないが

相手は四本足でしっかりと踏ん張っている。どうもこの手の攻撃は効きが悪いみたいだ。

やはり、直接殴るしか無さそうだ。あるいは、目や鼻などを狙うのがいいだろう。

 

「祐斗、奴の目鼻――神経を狙うんだ! そこから内側を潰せる!」

 

「わかったよ――蝕め!」

 

祐斗が新たな剣を作る。恐らくは毒を帯びた剣なのだろう。

確かに、毒ならば内側から攻撃できる。ナイスだ祐斗、俺も負けていられないな。

毒を受けたケルベロスに対し、俺はいよいよギャスパニッシャーの射程内にケルベロスを捉えた。

 

まずは足。爪先めがけ、ギャスパニッシャーを振り下ろし叩きつけると共に横薙ぎにする。

ここを叩けば、少なくないダメージを与えられると踏んだのだ。

要は、箪笥の角に小指をぶつけるのに等しい。犬にそのダメージがあるのかどうかは分からないが

ストレスのたまった犬は、しきりに足を噛むらしい。

結果炎症を起こしてよくない事があるらしいが。

いずれにせよ、炎症と言うかダメージを与えられるのではなかろうか。

 

「ギャウン!?」

 

突然の衝撃に、ケルベロスが悲鳴を上げる。

当然、狙った足を振り上げて抵抗しようとしてくるので、俺はそれに対し前足に飛び乗る。

そしてそのままギャスパニッシャーを再び横薙ぎ一閃。

与えたダメージは、前足の力を喪失させるには十分だった。

 

巨大な敵に対し、現実的と思われる戦闘プランはいくつかある。

一つ。毒など内側から蝕む攻撃手段を用い、無力化する。これは寓話にも近い話がある。

一寸法師の鬼退治など、これに近いだろう。一寸法師は毒ではないが。

 

二つ。同じスケールの攻撃手段を用意し、サイズ差の補正を無いものにする。

これも俺が好んで見る番組でよく使われる手法だ。怪獣映画でもよく使われる。

 

そして三つ。ある意味一番難易度が高いが、サイズ差をものともしない武器を用いる。

対戦車ライフルとか、近代軍事兵器でもそういうニュアンスのものはある。

今俺がとっているのは三つ目が一番近いか。

 

ハンマーにはおおよそ似つかわしくないフリルのついたギャスパニッシャーではあるが

それでもハンマーには変わりはなく、その鉄の塊が与える威力は大きい。

実際の材質は知らないが、鉄の塊としておく。

それを、怪物の鼻めがけて振り下ろしたとき

ケルベロスの首の一つが苦悶の表情を浮かべ沈黙する。

その仕返しとばかりに爪の伸びた前足が飛んでくるが

俺は何とかそれをギャスパニッシャーでガードする。

バランスを失いながらもなおパワーはあるのか

俺は多少吹っ飛ばされる結果になってしまった。

 

「セージ君!」

 

「大丈夫だ、問題ない。素敵なバックコーラスが流れているのに、無様は晒せないだろう?

 もう一撃行くぞ、引き続き頼めるか?」

 

「勿論さ!」

 

祐斗が素早い動きで怪物の目を回し。そこに俺が一撃を加える。

今度は下顎めがけてギャスパニッシャーを振り上げる。脳震盪を起こさせるのが狙いだ。

狙い通り、これで三つあるうちの首の二つが沈黙した。

身体の方も何度も祐斗に毒の剣を突き立てられた事で、毒の回りも早くなっているようだ。

狙いをすませていた炎も段々とデタラメな方向を狙いだし、火力も落ちている。

 

「祐斗、とどめを刺すぞ!」

 

「わかった、決めてくれ!」

 

ギャスパニッシャーを垂直に立て、頭に描かれた赤い眼がケルベロスを捉える様な位置に向ける。

柄にセットされたトリガーを引くと、眼の紋様は見開いたように変化し、魔法陣が展開。

その魔法陣はケルベロスを捕らえ、ケルベロスの動きは時が止まったかのように静止する。

 

「ぬおおおおおりゃああああああっ!!」

 

今度はハンマー投げの要領で、ギャスパニッシャーを思いっきり振り回し、投げつける。

動きの止まった相手にぶつけるのは容易い。

 

投げつけたギャスパニッシャーは見事残った頭部に炸裂。

遅れて聞こえてきた、そのフリフリからは似つかわしくない

重厚感あふれる衝撃音が、ダメージを物語る。

怪物は呆気なく地に伏し、そのまま気絶したようだ。元々気絶させるのが目的で頭を狙っていた。

つまり、目的どおりと言える。戦意を奪えればいい。

命を奪うのまではやりすぎな気もしたからだ。

 

……かなり甘い考えだとは思うし、毒が回っていることを考えれば遅かれ早かれだろう。

止めを刺して楽にしてやるのも温情だろうが、それをやれるほどの力も余裕も無いのが実情だ。

だから、こうして強引に黙らせる手を取った。

 

「ナイスアシスト、祐斗」

 

「お疲れ、って言いたいとこだけど実はあのハンマー……」

 

祐斗が何かを言いかけたところで、周囲が凄まじい光に包まれる。

一瞬の事で何が起きたのか分からなかったが、祐斗にはこの現象が理解できたようだ。

 

「まずい! この光はエクスカリバーのものだ。バルパーが何かしたに違いない。

 セージ君、急いだ方がいい!」

 

「そのようだな……っち、今の光で少々力が抜けてきやがった。

 これはここに置いて行くか」

 

俺の基本は霊体であるため、普通の悪魔以上に光には弱い。

自分の力が弱まるのを感じる。これ以上棺桶を変形させたこれを振り回すことは出来ない。

やむを得ず、俺はギャスパニッシャーをここに置いていくことにした。

それに、今までは相手が巨大な怪物であったからハンマーも効果的に使えたが

今度の相手は等身大だ。大振りのハンマーでは隙が大きくなってしまいがちだろう。

そう考えれば、得物を変えるのは一概に損とも言えない。

ギャスパニッシャーを下ろすと、思わず息をついてしまう。思ったより消費してたか。

こりゃ、すぐに行っても足を引っ張るかもしれないな。

そう考え、俺は祐斗だけを先に送り出すことにした。

 

「ああ、これからだね……バルパー!!」

 

祐斗に再び闘志の炎が燃え上がるのが見て取れる。

周囲が見えなくなるのは問題だが、今祐斗を縛る理由は何一つとしてない。

かつての仲間との再会を果たし。己の運命を狂わせた因縁の相手が目の前にいるのだ。

 

「祐斗。もう俺から言う事は何も無い。いや、そもそも初めから無かったのだろう。

 だから、思いっきりやって来い。己の運命のけじめは、己でつけなければならないんだ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

「……あ、ちょっと待て。その前に景気づけだ」

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

俺は祐斗の肩に左手を置き、右手でカードを引く。引いたカードは既に何度も使っている

力を強化するカード。これは俺か俺の憑依したイッセーにしか効果の無いカード……だった。

 

だが、モーフィングした武器を記録できたのならば。

もしかしてと思い、俺は他人を強化できるかと思い試してみたのだ。

 

「ん? セージ君、このカードは自分にしか効かなかったはずじゃ……?

 

 ……でも、無いみたいだね。僕の内側から今までに無い力を感じるよ」

 

「忠告はしておくが、お前の一番の武器はその使い慣れた剣とスピードだ。

 今力を強化したのはそれを補うだけの代物だ。メイン武器じゃない。

 お前の真価は、力押しじゃないところで発揮されるんだ。

 イッセーやグレモリー部長みたいな方向性を、態々お前が求める必要は無いんだ。

 

 ……む、すまん。また説教じみたことを言ってしまった」

 

我ながら偉そうだとは思うが、実際俺が見た祐斗はそうなんだから仕方が無い。

ならば、それに力を加えてやれば死角は塞ぐ事が出来る。

そう思い、俺は力のカードを引いた。実際に祐斗を強化できたのは驚き半分ってところだが。

 

「あはは、それがセージ君なんだから仕方ないよ。

 イッセー君がスケベなように、セージ君は口煩いんだよ」

 

「否定できないのが痛いが、勘弁してくれないか祐斗」

 

やれやれ。ま、こういう多少黒いところがあるのも祐斗が祐斗たる所以なのだろう。

その辺は海道さんには聞いてないが、聞くのも野暮だろう。

それに正直、そういう対応が出てきてくれたお陰で少々肩の余計な力が抜けた。

平常心が戻ったお陰で、逆に思いっきりやれるだろう。

 

「俺は力を回復させてから合流する。

 行け祐斗! お前の新しい道を拓くために!!」

 

「ああ!」

 

――――

 

祐斗を見送り、いつぞやと同様懐から取り出した水を飲んでいると、ふと何かの気配を感じる。

思わず立ち上がり、振り返るとそこにはスーツ姿に丸サングラスの男が立っていた。

こんな近くに来るまで、まるで気がつかなかった! だ、誰なんだこいつは!?

 

「お初にお目にかかります。私は上級悪魔のウォルベン・バフォメットと申します。

 冥界政府の命により、赤龍帝の監視を行っているものでございます」

 

冥界……悪魔か。しかし赤龍帝の監視って、それなら俺じゃなくてイッセーの方じゃないのか?

何故俺の側に来る? 確かに、俺にも赤龍帝はいるが。

 

「赤龍帝? それなら、もっと監視に適した対象が……」

 

「いえいえ。私が監視すべきは『赤龍帝であって赤龍帝でないもの』でして。

 つまり……あなたの事ですよ。歩藤誠二さん?

 いやあ苦労しましたよ。名前は分かったんですが、顔出しNGのようでしたので。

 なるほど……傾向としましてはサイラオーグ坊に近いようですな。

 ああ、あくまでも傾向ですのであまりお気になさらず」

 

しかも、名前まで割れて……い、いや名前は割れているか。

この間のあの戦いで、顔は割れてないが名前は割れている。

何でこのタイミングで面倒なのに絡まれるんだ、と思いたい。

 

「……何の用ですか。今この辺りは大変なことになっているんですがね」

 

「ええ、このまま放置すれば間違いなくグレモリー眷属は全滅。

 この町は廃墟となるでしょうな」

 

「……それを分かっていて、尚も俺を足止めするその理由は何ですか」

 

「サーゼクス陛下におきましては存じ上げませんが

 私どもは駒王町を放棄することにしたのですよ。

 この町ごと、今回の下手人である堕天使コカビエルを抹殺。

 そのための部隊編成が間もなく終了する予定でございます」

 

な、何だって!? この町ごと焼き払うのか!?

しかも魔王陛下に黙ってって……それ、完全な謀反じゃないか!

 

「ええ。しかしながら、妹君も陛下もご存じない。

 此度の下手人の恐ろしさを。町一つで済めば、万々歳と言ったところでしょう。

 この町を焼き払うことを咎められたとて、それは必要な犠牲なのですよ。

 先の大戦においてその名を轟かせた上級堕天使を相手に、被害を出さずにいられますか?

 いかに精鋭を揃えたとて、無理な話です。そう、たとえ魔王陛下が来られようと、ね」

 

俺は先の大戦とやらに明るくないが、このウォルベンと言う悪魔が語ることは

間違いではない気もする。しかし、それで町一つ焼き払う作戦を看過できるかというと

そんなことはあるはずが無い。

この作戦を取らなかった場合は被害はもっと大きくなるのだろうが……クッ。

 

「……何故、それを俺に伝えるので?」

 

「単純に見てみたいのですよ。その極限状態で、赤龍帝はどう動くのかを。

 我々にとって益となるか、害となるか。

 勿論、私個人としましてはこの作戦に賛同していただきたいのですがねぇ。

 ああ、赤龍帝と言っていますがもう片方は私は興味がありませんな。

 魔王陛下からも観察の命は受けておりませんし、ざっと見たところ

 力は強いようですが、本当にそれだけ。行動理念も卑俗。騒がしく喚き立てる餓鬼も同然。

 我々は俗物を相手にするほど暇ではないのですよ」

 

……様々な意味で悪魔だな。この町にいる母さんや姉さんを人質に取られているようなものだが。

どちらに転んでもこの町が助からないのならば……けど。

 

「……俺はそう簡単に割り切れない。意思の疎通は満足に図れないとは言え

 この町には家族もいるんだ。見殺しには出来ないし

 みすみす死ぬってわかってる手も取れない。

 あなたに言わせば、甘ったるい感情論でしょうがね」

 

「ほほう。噂どおりおかしな方だ。死別したも同然の家族を気にかけるとは。

 気質はグレモリーの者に近いのに、何故あなたはああも歯向かうのでしょうなぁ?

 確かに私の見立てでは彼ら彼女らは家族には(・・)情愛がありますからねぇ」

 

……この悪魔、何が言いたいんだ?

今は変な悪魔に構っている暇は無いはずなんだが。

俺は何とかして、この場を切り上げたかった。

 

「……先ほどから仰る事の意図が読みかねますが」

 

「失礼。最初に申し上げたとおり、私の任務はあなたの監視なのですよ。

 しかしながら、こうなってしまってはあなたの監視どころではない。

 事態の打開のために本国に援軍も要請しました。

 引き続き監視させていただくにあたって、その作戦に巻き込まれては

 笑い話にもなりませんからな」

 

む。つまりコカビエルをこの町ごと焼き払う、その上で俺を監視し続けたい。

だから、その部隊が来る前にこの町を出ろ、そういいたいのか?

 

……悪魔らしい、随分勝手な言い草だよ。

待てよ? 俺の監視や情報収集が目的なら、それをエサに援軍に来てもらうのは……

 

「監視、情報提供をご希望ならば協力しますが、条件があります。それは――」

 

「ああ、コカビエル討伐の交換条件でしたらその話は聞かなかったことと致します。

 私も一応は魔王陛下の『監視』と言う命の下、ここに来ておりますので。

 仮にも堕天使陣営最大組織の大幹部と直接表立って事を構えるのは、避けたいのですよ。

 まぁ、降りかかる火の粉位は払いますし、事故が起きたとて知ったことではありませんがね」

 

ぐっ、先手を打たれたか。いやしかし、それはある意味当たり前なのかもしれない。

まつりごとのイロハは俺はよく知らないが、お互いに身分やら何やらあると見ていいだろう。

方や堕天使大幹部、方や魔王の勅命で来た上級悪魔。

さっき言っていた町ごとコカビエルを倒すって話も

恐らくは駒王町を適当な理由をつけて焼き払う。

そこに偶々コカビエルがいた、それがこの作戦のシナリオではなかろうか。

……ちっ。本当に俺を観察対象としか見てなくてここに来たってことか。

 

「そういうわけですので。勿論『私が助けてくれる』などと考えないでもらいたいですな。

 それを踏まえた無茶をされるようでしたら、その通りに私は上に報告するだけですので。

 私のお見受けした限りでは、歩藤さんは聡明な方のようですので。誰かさんと違いましてな。

 精々、興味深い情報提供に協力していただきたいものですな。

 

 ……そうそう。状況次第では、報酬としてあなたにかけられているはぐれ悪魔の嫌疑。

 これを晴らすために、お力添えをさせていただこうかと思っておりますので」

 

――はぐれ悪魔の、嫌疑だって!?

い、いや。何を驚く事がある、俺! 今までの行いを顧みれば

いつそう認定されてもおかしくなかったんだぞ!

そうなれば、俺はいよいよ犯罪者か。ククッ、予想していたとは言えきついな。

 

……なるほど。悪魔らしく、モノで釣る作戦に来たか。

恐らくこれで首を縦に振っても「力添えはする(晴らすとは言ってない)」ってオチだろう。

それはつまり。遅かれ早かれ、俺ははぐれ悪魔にされるのだろう。

はぐれ悪魔にされるって分かっていて、尚も情報提供に協力するメリットは……ま、無いな。

 

「……お断りします。と言っても、今までの話の流れですと勝手に情報を収集するのでしょう?

 ならばどうぞ勝手になさってください。ただし、どのあたりの情報を集めているのか。

 位は教えていただいてもよろしいですか?」

 

「いいでしょう。我々が欲している情報は――」

 

――ぐっ。そうかい。それが悪魔って生き物のやり方かい。

人を陥れ、嘲り、惑わす。そうした連中を慣用句的に悪魔と言うがね。

名実共に悪魔だよ、あんたは。

たったその程度の情報のために、町一つ焼き払うのも厭わないんだからな。

今ここで吐き捨てても状況は決してよくならない。こみ上げてくるものを何とか堪え

力が戻るのを確認した俺は、改めて戦場へと足を向けることにする。

 

背後から、ウォルベンがやって来ているが気にしても仕方が無い。

邪魔をしない分、まだ有情と言うべきだろう。

 

確かに、ウォルベンの言うとおり逃げると言う手もある。

正直、リアス・グレモリーに殉じるのも俺の主義ではない。

この力を使えば、ここから逃げることなど造作も無いだろう。

どうせはぐれ悪魔にされるのだ。逃げ出してはぐれ悪魔になるか、ここで野垂れ死ぬか。

……やれやれ。お先真っ暗の選択肢しかないのか。

 

しかし、俺はどうも腑に落ちなかった。

ウォルベンの言っている事がでは無い。俺自身がここで逃げることに対して、だ。

確かにリアス・グレモリーのために死ねるかと聞かれれば、答えはノーだ。

わざとイッセーを殺し、悪魔にする切欠を与えたマッチポンプ疑惑を晴らしたわけではない。

俺に至っては、その場に居合わせただけだ。それなのにこれだ。

まさか命を救った恩人を気取っているのではなかろうな、とも穿った見方は出来る。

 

命は救えばいい物ではないと思うのだがな。

やり取りが発生している時点で、それは既に狂気の世界だ。

一般人であったはずの俺やイッセーを何の躊躇いも無く巻き込んだ。

あのクソッたれが殺した後、何事も無く元に戻すことだって出来たはずだ。

 

……いや、それをやらなきゃいけない。それがこの町に住む人間を守ると言うことだ。

ここは人間が生活を、命を営む世界だと思っていたのだが、それは俺の思い違いなのか?

人間の常識を超えた力で不幸が起きたのならば

同じ常識を超えた力でそれを防ぐ。或いは取り返す。

力を持つものの責務。それを果たさなければならないと思っている俺は、おかしいのか?

 

……他人はどうだか知らないが、俺はそれを成すべきであると思う。今だってそうだ。

誠に全く以って不本意で得た力ではあるが、今ここにあり、確かに使える力だ。

俺自身の意思で、確かに使える力だ。

 

これはリアス・グレモリーのためじゃない。俺のためだ。

俺が、俺であることを見失わないための戦いだ。

俺が、俺を取り戻すための戦いだ。

その前に立ちはだかっている犬っころやカラスなど、その辺の雑草と同一の代物だ。

ただ、そこから蛇や蜂が出てきて驚かしているようなものだ。

そう考えれば、俺の選択肢はやはりこれしかないな。

 

「では、許可を得られたようですのでじっくりと観察させていただきますよ?」

 

「……ご自由に。それと、魔王陛下にご連絡されるようでしたらお伝えください。

 『はぐれ悪魔大いに結構。俺は、俺であることを絶対に見失わない。見失っても取り戻す。

  今ここにいるのは、リアス・グレモリーの眷属ではなく、不幸な事故で命を落としかけ

  人間に戻ろうともがいている一人の愚かな転生悪魔である』――と」

 

「ククク……ハハハハッ! その言葉をお待ちしておりましたよ歩藤さん!

 決意が固まったならば急いだ方がよろしいですよ!

 もう既に、コカビエルは動いている! 赤龍帝の名に泥を塗るかどうかは

 あなたにかかっていますよ!」

 

ウォルベンの煽りにしか取れない激励――

これを激励と言っていいものか判断しかねるが――を背に

俺は歩みを進める。迷っている場合でもない。結果がどうあれ、やらねばならんのだ。




前回に引き続きファイナルアタックライドが炸裂しました。
くどいようですがセージはギャスパーの事を知りません。

そしてサーゼクスの意向はセージ本人に(多少歪んだ形で)
ついに伝わってしまいました。
はぐれ悪魔として開き直るか、それとも。

冥界の現政権でさえも二心を持った部下を抱えているという現状。
けれど、私としては十分にありうる選択肢だと思うのです。
>駒王町ごとコカビエルを倒すと言う意見

コカビエルを倒して戦争を食い止めることと、たかが人間の集落一つ。
悪魔の価値観ではどちらが優先されるのでしょうね。
原作のリアスがそこまで考えてサーゼクスに打診しなかったかと言うと
それは首を傾げてしまいますが、多少は考えていたかもしれません。
その決断をサーゼクスが下すはずが無い、と思っていたとしても。
いずれにしても、そこに住む人達にすれば「ふざけんな」って案件ですが。

補足ですが、ウォルベンは四大魔王のいずれの眷属でもありません。

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