ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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今回は三人称視点です。
そしてまた長いです……区切りどころがわかりませぬ。
多分一話に欲張ってあれこれ詰め込みすぎなんだとは思いますが
区切ると中途半端な長さになってしまうので。

ので、時間と体力にゆとりのあるときにお読みくださいませ。


Encounter

ここ数日、騒々しい夜を迎えている駒王町ではあるが

今日も今日とて騒動が起きていた。

凶悪犯――フリード・セルゼンを護送中のパトカーが襲撃に遭ったのだ。

 

この一時間ほど前にも、フリードによってパトカーが襲撃されている。

今度はまた別の犯人が、パトカーを襲撃したのだ。

幸いにして、パトカーの無線機は生きており、駒王警察署にこの事件は知れ渡ることになる。

 

無線通達を受け、柳と氷上が大破したパトカーの元に駆けつける。

しかしそこには既にフリードの姿は無く、代わりに初老の男が立っているのみだった。

 

「今の日本の警察は、本当に油断ならんな。

 まさか聖剣使いをも手玉に取るとは思わなんだ。

 いや、フリードが聖剣を使いこなせなかっただけか?」

 

「その顔……ICPOに指名手配されているバルパー・ガリレイだな?

 俺は駒王警察署超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)のテリー(やなぎ)だ。10年前の少年少女連続誘拐事件について

 手配書が上がっている。身柄を拘束させてもらうぞ」

 

「やれるものならやってみるがいい……フリード!」

 

柳は手錠を手にバルパーに駆け寄るが。それを見越していたかのように

バルパーは合図、柳は不意打ちを食らう結果となってしまう。

斬りかかって来たのは柳に散々苦汁を舐めさせられたフリード。

その手には、警官の首が握られていた。

 

「よーぅ。ようやっとてめぇに意趣返しができるぜぇ。

 散々俺様につまらねぇ弱いものいじめをさせやがって。

 今度と言う今度こそは、たたっ斬ってやるから覚悟しな!」

 

「懲りない奴め! フリード・セルゼン!

 公務執行妨害及び殺人の現行犯で逮捕する!!」

 

フリードの聖剣と、柳の特殊警棒がぶつかり合う音が夜の街に響く。

超特捜課(ちょうとくそうか)は人間の一般常識の外に存在するような超常的な存在によって

起こされる犯罪を未然に阻止したり、それらが起こす災害から

市民を守るために結成された部署である。

そのため、装備も互換性こそあるものの他の部署とは大きく異なるものを運用している。

柳のように、神器(セイクリッド・ギア)持ちの警官も所属している。

 

「柳さん、プラズマフィストの起動はしますか?」

 

氷上(ひかみ)が持ち出したプラズマフィストも、超特捜課で開発された警察の新装備だ。

ナックルダスター型のスタンガンで、超高電圧を流す事が出来

その威力は下級悪魔さえも倒す事が出来る。

勿論、そんなものを人間に向けて使えば即死モノである。

 

「待て、いくら聖剣を使うと言っても相手は人間だ。使うにしてもセーフティは絶対に解くな」

 

「了解、プラズマフィスト、セーフモードで起動します!」

 

プ・ラ・ズ・マ・フィ・ス・ト・ス・タ・ン・バ・イ

 

氷上がプラズマフィストのグリップを握ると、無骨な電子音と共にロックが解除される。

セーフモードとは言え、流れている電圧は極めて高い。

セーフモード時では悪魔に対する殺傷力は期待できないが

人間相手には強力なスタンガンと大差ないものが流れているのだ。

フリードも聖剣使いとは言え、その身は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)での強化など行っていない

全く普通の人間なのだ。当てることさえ出来れば、過ぎた火力と言えよう。

 

「またその玩具かよ、日本は大人も玩具で遊ぶってのは本当らしいな!」

 

「威力を知っているなら話は早い、食らいたくなければ縄につくんだな!」

 

柳の特殊警棒をかわした先には、氷上がプラズマフィストを握って殴りかかろうとしている。

プラズマフィストの先端を聖剣の刃で受け止めた時に発せられたスパークが

プラズマフィストの電圧の高さを物語っている。

 

「氷上! 取り回しには慎重になるんだ! 威力が高すぎて、自滅しかねないぞ!」

 

「りょ、了解しました!」

 

二対一。フリードはよく捌いていると思われがちだが

聖剣使いが人間二人を相手にしているだけである。

柳は神器を持っているものの、使ってはおらず。氷上も特殊武器を持っているものの

今一つ扱いきれずにいる。イッセーらのように悪魔でもなければ、ゼノヴィアらのように

聖剣使いでもない。ただの人間を相手取っているのにしては、苦戦していると言えるだろう。

 

「……何を遊んでいる、フリード。体内の聖なる因子を聖剣の刃に込めるのだ。

 そうすることで聖剣はその力を増す……出来ない、とは言うまい?」

 

「たりめぇだクソジジイ! さて、そろそろ俺様も本気出すとしますかね!」

 

突如としてフリードの剣が輝きを増す。それと同時に力も増したのか

あっという間に二人の警官をなぎ払ってしまった。

 

「連続殺人犯のお前が聖なる力とは……笑わせてくれるな。

 ならばこちらも振り切るぜ。『加速への挑戦(トライアル・アクセラー)』、発……動ッ!!」

 

フリードに吹き飛ばされた柳は立ち上がり

ポケットの中からタコメーターつきのストップウォッチを取り出す。

これこそが柳の神器、「加速への挑戦」である。

極めて短時間だが、悪魔の駒の「騎士(ナイト)」以上のスピードを齎す、まさに「挑戦(トライアル)」の神器である。

 

ELECTRIC!!

 

それに加え、柳は特殊警棒のスイッチを入れる。

プラズマフィストほどではないが、電流を帯び始めたのだ。

電磁警棒と聖剣、傍から見れば聖剣のほうが強そうに見えるが柳はそれを速さと

警官として培われた格闘術で補い戦っている。

しかし、聖剣の因子の力かフリードも以前柳に逮捕されたとき以上にスピードを上げている。

下手をすれば、加速状態の柳に匹敵しかねないほどに。

 

「またそいつかよっ! けどなぁ!!」

 

「くっ、前より早いか! 氷上、こっちは引き受ける! お前はバルパーを確保しろ!」

 

「はいっ!」

 

氷上も援護を試みるが、互いに超高速で動いており迂闊に手が出せない。

柳の指示通り、バルパーの確保に向かったほうが確実なのだ。

プラズマフィストを握り、バルパーめがけて氷上が駆け出す。

 

「バルパー・ガリレイ! お前を逮捕する!」

 

氷上が駆け寄ったとき、バルパーは抵抗するでもなく呆気なく捕まった。

何せ、彼は非人道的な行いを繰り返していたとは言え自身は全く何の力も持っていないのだ。

聖剣ですら持っていない。では何故、そんな彼がここにいるのか――。

 

「息巻くのは結構だが、コイツをどうにかするのが先だと思うがね」

 

バルパーが氷上に手錠をかけられる前、懐にしまいこんでいた装置から何かが飛び出す。

飛び出したそれは、見る間に巨大化し、一戸建ての家屋ぐらいはあろうかと言う巨体になる。

イヌ科の動物にも見えなくは無いそれの首は二つあり

とても通常の生物とは思えないものがそこにいた。

 

「もう満足だろう、フリード。我々は撤収するぞ。

 日本の警察にオルトロスを倒すだけの力があるのかどうか、見物ではあるのだがな。

 これ以上時間を掛けては、遅れてしまう」

 

「俺は俺でアイツの首を取りたかったけど、しゃあねぇな。

 犬は犬らしく犬と遊んでなよ。じゃ、アバヨ!」

 

その怪物――オルトロスを置き去りにし、バルパーとフリードは姿を消す。

柳も氷上も、この怪物の処理をしなければならない状態だ。

家屋一棟分に相当する巨大な怪物。性質が大人しければまだ良かったのかもしれないが

生憎、オルトロスは獰猛な部類に入る。こんなものを放置すれば、被害は免れない。

 

「あれは……! クッ、何てモノを置いて行った!

 氷上、各局に緊急通達だ! 危険生物発生につき応援願う、とな!」

 

氷上が無線で援軍を依頼している最中、柳は特殊警棒でオルトロスとの戦いに臨む。

しかし、サイズ差は如何ともしがたい上に柳は普通の人間。

対するオルトロスはギリシャ神話に伝わる怪物だ。ただの猛獣を相手にするのとは訳が違う。

 

特殊警棒の電撃でオルトロスは痛みを訴える咆哮を上げるが、決定打を与えたとは言い難い。

反射的に振り回されるオルトロスの爪を回避しつつ

柳は何とか被害が広がらぬように立ち回っているが

それが精一杯でもあった。

 

――――

 

周囲は瞬く間に騒がしくなる。突如現れた怪物に対する悲鳴。

それを彩る無機的なパトカーのサイレンの音に、報道をしようとするマスコミのヘリの音。

それらを不快な騒音として前足を振るい、パトカーを叩き潰し、ヘリを叩き落とそうと

オルトロスはさらに激しく暴れまわる。

 

実のところ、オルトロスも己の意思でここにいる訳ではない。

彼は元々ギリシャはオリュンポスの神々が統括する地域にいたのだ。

だが、神器の実験で神を見張る者(グリゴリ)に捕獲――と言うか密猟され

そこから紆余曲折を経て駒王町にバルパーの尖兵として使役されている。

訳も分からぬまま、害獣とみなされているのだ。

 

余談ではあるが、当然この件に対しオリュンポス陣営は神を見張る者を提訴しているが

神を見張る者からの返答は「組織としては関与していない」の一点張り。

つまり、コカビエルの独断で行われたことである。

それについての責任追及も、行われているとは言い難い状態だ。

 

「ご覧ください! 現在、駒王町には正体不明の謎の怪物が出没しており

 警察がその対応に出動している状態です! お住まいの皆様は、決して家から外に出ないよう!

 既に外におられる方は、最寄の避難所へ速やかに避難してください!

 また、この影響で駒王町内の各種交通機関は全線で運行をストップしており

 高速道路も駒王町をまたぐ区間は上下線とも通行止めになっております!」

 

郊外とは言え住宅が近いこともあってか、既にオルトロスの存在はネットに流されていた。

そして、そこにかぎつける形でマスコミが出動。ヘリを使い上空から撮影を行っているのだ。

警察も突然の事で、マスコミに対する報道規制がまだ敷かれていないのが災いした形だ。

 

図らずも、これによってオルトロスとテリー柳は全国、全世界にその姿を知られることとなる。

この状況に眉を顰める者も、決して少なくはない。プラズマフィストの開発を行った

駒王学園の世界史教諭にして生徒会顧問の肩書きも持ちながら

警視庁のオブザーバーとして出向している薮田直人(やぶたなおと)もその一人だ。

 

(これは……オルトロスですか。まずいですね、今の戦力では少々荷が重いかもしれません。

 自衛隊を動かせば、とんでもない騒動になるでしょう。

 それはそれで、私の目的としては問題ありませんが……。

 いや、それよりもこれを囮にされることの方が問題かもしれませんね。

 そうした場合次に来るのは恐らく本命、そちらは間違いなく今の警察では対応できません)

 

警視庁にある薮田の研究室。そこで彼は難しい顔をしながら、モニターを見つめている。

隣のコンソールには、開発中の装備の設計図が浮かび上がっている。

 

さて。彼は自衛隊の出動を危惧していた。実際問題として、ありえない話ではない。

このクラスの危険生物ともなれば、警察で対処しきれないこともありうるのだ。

国民の生活を守る上においては、自衛隊はその活動を行う事が出来る。

だが、自衛隊が動くほどの事態は、極めて重大な案件でもある。

 

薮田は頭を抱えていた。場合によっては撤退も具申しなければならないからだ。

状況を見る限りでは、決して優位とはいえない。こう着状態も、望ましいものではない。

 

(せめてこの強化服が一つでも完成していれば……いえ、今言っても仕方ありませんか。

 しかし何とかしてこの状況を打開せねば、協力を要請した彼女に申し訳が立ちませんね。

 ……ここは止むを得ませんか)

 

机の上の受話器を取り、薮田は何者かと話している。

話の内容からして警視総監クラスの大物であると推測される。

 

「……薮田です。この事件の解決に際し、神経断裂弾の使用を具申いたします。

 ……はい、はい。運用は現場の超特捜課柳警視に一任すると言うことでよろしいですね?

 ……了解しました、では直ちに手配いたします」

 

話を終え、モニターとコンソールの電源を落とし、薮田はおもむろに席を立つ。

そのまま研究室を後にしようとするが、部屋にいた研究員に止められる。

 

「博士! どちらに行かれるおつもりですか!?」

 

「駒王町まで行って来ますよ。やはり私も教師なんでしょうね。

 こういうとき、教え子の安否が気にかかりますよ。

 ……ああ、心配しなくとも今開発中の装備が完成するまで

 私は死にませんし行方不明になるつもりもありませんから」

 

研究員の返事を待たずして、薮田は部屋を後にする。

先ほどの応答とは裏腹に真剣な面持ちで向かうその先は駒王町。

今は、オルトロスが暴れている危険極まりない地域だ。

 

「薮田博士、お待ちしておりました。

 私がヘリにてご案内いたします、どうぞこちらへ」

 

「頼みますよ。可能であれば、私も現着次第現場にて指揮を執ります。

 神経断裂弾については、現場の人間よりは詳しいと思いますので。

 不可能でしたら、ケースは投下、上空にて指揮を執ります。よろしいですね?」

 

「了解しました。着陸が可能なようであれば、着陸を行います」

 

ヘリポート。薮田は待機していたヘリのパイロットに促され、ヘリに乗り込む。

そして、ヘリはそのまま駒王町に向けて飛び立った。

薮田の手には、かつて長野の事件で人類を恐怖に陥れた者に対し猛威を奮った

特殊弾丸の入ったケースが握られている。

 

それは、願わくば二度と封印が解かれてほしくは無かったもの。

しかし、この現状に際し封印を解かねばならぬ以上。

すべては、人々の生活を守ると言う警察の職務を果たすために。

 

――――

 

駒王町。オルトロスによる被害は留まることを知らず

物的被害も人的被害も徐々に大きくなっている。

このクラスの猛獣が一匹野に放たれると言うのは

それだけでも人間にしてみれば大事なのである。

市街地にアフリカの動物をそのまま放ったのとほぼ同義である。

 

「いいか、とにかく住宅街からは遠ざけるんだ! 今はあらゆる武器の使用許可が下りている!」

 

「しかし柳さん、現実問題として奴には超特捜課の装備くらいしかまともに効きません!」

 

(恨み言を言うつもりはないが……この町を仕切っているあの悪魔はどうしたと言うんだ!

 このままでは、我々警察の手には負えんぞ!)

 

そう。オルトロスの皮膚には日本の警察の銃では歯が立たないのだ。

先刻から催涙弾なども投入されているが、目立った効果を挙げられず。

柳の神器もスピードのみの強化であるため、そもそも攻撃が通らないオルトロス相手には

若干不利な組み合わせでもあるのだ。

 

「柳課長! もう我々の手に負えません! 自衛隊に救援を要請しましょう!」

 

「装備は歯が立たず、人的被害も徐々に拡大……。

 このままでは、我々がやられてしまいます!」

 

「くっ……。動けるものは引き続き威嚇射撃を!

 負傷者は後退、武器の使えないものは負傷者の治療に当たれ!

 救急の人間を呼んでもかまわん!

 自衛隊を呼ぶのは、我々が全力を尽くしてからでも遅くはない!

 ……が、いつでも呼べるように本庁に具申だけはしておけ。

 警察の誇りと威信、それと人命。天秤にかけるまでもあるまい」

 

警官の中にも、弱音を吐き出す者が出てくる。警官とて、普通の人間なのだ。

柳みたいに神器持ちの警官もいるのだが、そんなものは少数だ。

柳も内心では心に微かな皹が入り始めている。

警官隊による防衛線が壊滅させられるのは時間の問題になりつつある頃

そんな状況を打開するであろう報せが、氷上より伝えられる。

 

「柳さん! 今本庁から応援で薮田博士がこちらに向かっているとのことです!」

 

「博士が? 他にはなんと?」

 

「はい、神経断裂弾を用意したので、それを使って鎮圧に当たるように、との事です!」

 

神経断裂弾。もう10年、いや下手をすれば15年位も前の事件だ。

長野において、人智を超える怪物たちによって市民の生活が脅かされる事件が起きた。

多数の死傷者を出したこの事件は、当時の警察の技術部が開発した

特殊弾丸、神経断裂弾によって怪物に対する抑止力を得た事で鎮圧に成功。

その後、この弾丸は威力過多と言う理由から厳重に凍結が行われ

現在に至るまで一度もその封印を解かれていない弾丸であった。

 

当時まだ学生であった氷上も柳も、それはニュースでしか知らない事件。

警察学校に入って初めて、教本で学んだ事件。

その事件にまつわる装備を、今度は自分達が使うのだ。

 

「……神経断裂弾、か。そんなものを使わなければならないほどの事件か。

 

 了解した。各員聞こえたな! この事件は、10数年前の長野の惨劇と同規模だ!

 今はまだ、被害は最小限度に留まっている! だがこのまま放置すれば、長野の惨劇の再来となる!

 間もなく神経断裂弾がこちらに届く! くれぐれも注意し、速やかにあの害獣を処理するぞ!」

 

「はっ!!」

 

柳の号令に警察官が応え、辺りは再び銃声の飛び交う壮絶な現場となる。

しかしオルトロスの皮膚は日本の警察官が所持している9ミリの弾丸では貫通できない。

顔部分を狙えばそうでもないのだろうが、一階から家屋の屋上を狙う程度の大きさだ。

やむなく煙幕を焚いたり、嗅覚など神経を狙った威嚇を行っているが効果は薄い。

これが人間の犯罪者ならば、説得と言う手段も使えるが

相手は人語を解さぬ獣である。力を以って鎮圧するより他ないのだ。

 

現時点では勝ち目はほぼ、いや全くといって良いほど無い。

だが、彼ら警察官はその場を退くことはできない。

彼らが退けば、市民が危険に晒されることになるのだ。

それは、勝ち目のない戦い。徐々に追い詰められていく警官隊。

それでも、悪魔に支配されたこの町の人間達を守るため、警官隊は戦う。

 

――――

 

無線連絡から30分も待たずして、新しいヘリローターの音が響き渡る。

神経断裂弾と、薮田博士を乗せた警察のヘリが到着したのだ。

 

「現場で動きがあった模様です! 今、警察のヘリが到着しました!

 警視庁の発表によりますと、以前に長野で起きた事件に使われた装備を導入したとのことです!

 繰り返します! 現在、駒王町において謎の巨大生物が出現、破壊活動を行っております!

 警官隊が対応のために出動しており、付近の皆様は……」

 

警察のヘリは、オルトロスの攻撃を掻い潜りマスコミのヘリをかわしながら

現場の対策本部近くにヘリを下ろし、薮田を降ろす。操縦士の腕は相当なものである。

 

「ありがとうございます、戻る際、くれぐれもお気をつけて」

 

「博士もご武運を!」

 

速やかにヘリは浮上、そのまま警視庁へと戻っていく。

その間、ごく僅かな時間。現着するなり薮田は動ける警官を全員呼び集めるように

柳に依頼していた。

 

「お待たせしました。こちらが神経断裂弾になります。

 本来ならば改良を重ねたものを提供するのでしょうが、今回皆さんにお渡しするものは

 最低限のメンテナンスしか施しておりません。

 ですが、威力は既に10年以上前とは言え実証されています。

 皆さんがお持ちの銃では規格が合いませんので、今回は銃ごとお渡しします」

 

そう言って薮田が取り出した銃はコルトガバメント。現在の警察ではあまり使われていないが

威力と弾丸の口径はやや大きめの銃だ。

神経断裂弾はこの銃での使用を当初は企画されていた。

薮田が取り出した銃に、警官達は驚きの色を隠せないでいた。

 

「静粛に。相手がアレだけの怪物なんですから、これでも足りないくらいですよ。

 しかしこれ以上は自衛隊の管轄になってしまいますからね。

 警官として動ける最大限が、この拳銃と神経断裂弾と言う訳です」

 

「では博士、確かに神経断裂弾を受領いたしました。

 これより、超常生物の鎮圧に取り掛かります」

 

「ええ、くれぐれも気をつけてくださいね」

 

薮田から神経断裂弾を受領した警官隊は、再びオルトロスの下へと駆けつける。

神経断裂弾は高い火力を以って標的を粉砕する弾丸ではない。

体内に撃ち込まれた弾丸が内側から神経を破壊する、そういった弾丸だ。

そのため、結局目鼻や口の中などオルトロスの脆い部分を

攻撃しなければならないことに変わりはないが

そこは柳の神器や氷上のプラズマフィストがうまくフォローする形をとっていた。

 

形勢は逆転。身体の大きさの差は如何ともしがたいが、警官隊がやや優勢になりつつあった。

 

――――

 

モニター越しにオルトロスと警官隊の戦いを見守る薮田の後ろに、人影が現れる。

オールバックに丸サングラスの男。

冥界政府の依頼で人間界にやって来た、ウォルベン・バフォメットだ。

 

「……バフォメット家の者ですか。ここにいると言うことは冥界政府の差し金ですか。

 しかしあなたも随分と底意地が悪いですね。

 人間にオルトロスの対応が困難なことくらい、分かるでしょうに」

 

「これはこれは……シトリーのお目付け役の先生は、人間に随分肩入れなさっているようですな。

 まあそういうわけですので、私如きの力添えなど、必要ないと思ったのですよ」

 

しかし薮田は動じるでもなくウォルベンと相対している。

まるで、昔から知っているような相手であるかのように。

勿論、冥界はバフォメット家のウォルベンと、人間であるはずの薮田との間に

接点など全く無いはずである。

 

「所で……ここにはどういった用件で?

 断っておきますが、私はまだこの役割を降りるつもりはありませんよ。

 それとも、この件を突きつけてグレモリーかシトリーの瓦解を狙うおつもりですか?

 シトリーはともかく、グレモリーはいくら現ルシファーの家系とは言え

 吹けば飛ぶ程度でしょう? 態々あなたが出張る必要など、無いと思いますがね」

 

「私個人としては、それも考えましたがね。それは私の任務に含まれていませんので。

 しかし私に言わせれば、先生も随分と底意地が悪い。先生ならば、オルトロスはおろか

 ケルベロスも、これをけしかけた堕天使も一瞬で消せるものを……」

 

ウォルベンの軽口に、一瞬だが薮田が顔を顰める。

まるで「そのことには触れるな」と言わんばかりに。

ウォルベンの言葉が本当であれば、薮田の持つ力は上級堕天使以上のものとなる。

それはまるで、神クラス。だが、薮田直人は人間として通っている。

この状況で、ウォルベンがはったりを述べるメリットもない。

 

「……何のことだかさっぱり分かりませんね。人を化け物呼ばわりは単純に不愉快ですよ」

 

「失礼。ですが先生、あなたは一体何者なんでしょうな?

 ただの高校教師かと思えば、警察に技術提供を行い

 冥界ゆかりの者として人間界での悪魔の動向の監視も行う。

 私めには、とてもただの人間とは思えませんな」

 

「……今の地位を得るには苦労した、とだけ言っておきますよ」

 

まるで苦労話をするかのように薮田が語り終えたと同時に地響きが鳴り渡る。

警官隊の射撃によってオルトロスは地に伏したのだ。

プラズマフィストで鈍ったところに神経断裂弾を何発も撃ち込まれたのだ。

いかに巨体を誇るオルトロスといえど、内側からの攻撃には弱かったのである。

 

「21時34分、巨大害獣の撲滅を確認!」

 

「よし、引き続き周囲の警戒に当たれ! 害獣は鑑識に回す!」

 

オルトロスを倒しても、警察の仕事は終わらない。

寧ろ、ここからが大変なのだ。市民生活のインフラを、一刻も早く復旧させなければならない。

たかがケルベロス以下の怪物一体とは言え、それが市民に与えた影響は計り知れないのだ。

 

「お見事、と言っておきましょう。しかしどうやら、この間に動きがあったようですな。

 そして私の目的もそこにあるわけでして。では、今度も良い出会いであることを願いますよ。

 薮田博士、いえ――」

 

「――その名は今の私には相応しくありませんね。

 私はこの国で暮らす一介の人間に過ぎませんから。

 しかし……やはり動きましたか、コカビエル」

 

姿を消したウォルベンがいた場所を一瞥し、モニターに目を戻す薮田。

そこには、駒王学園に膨大なエネルギー反応があることを示す数値が出ていた。

 

(当然、この場にも超特捜課を派遣すべきでしょうが……今彼らは消耗している。

 仕方ありませんね。舌の根も乾かないうちですが――)

 

薮田はモニターを切り、展開していた簡易指令施設を収納している。

そのまま、現地の警官に指示を出している。但し彼は命令権を持たないため

意見の具申を行う程度である。

が、それを適切に行うことで実質命令と変わらない効果を発揮しているのだ。

 

「今後ですが、超特捜課も交通課や市民課と協力して

 インフラの復旧に当たる方向はどうでしょう。

 万が一の事もありますし、彼らの警備を行うと言う名目で。

 神経断裂弾はここに置いていきますので」

 

「その方が良いかもしれませんね。よし、氷上! 我々はインフラの復旧に当たる!」

 

「はい!」

 

(その方が良いでしょう。ケルベロス、それに上級堕天使の相手を

 今の超特捜課に依頼するわけには行きません。やはり、私が出る必要がありましたか。

 

 ……必要以上に神を見張る者とは接触したくは無かったのですが)

 

インフラの復旧に当たる警官隊を一瞥し、薮田は駒王学園の方へと足を運ぶ。

そこには今警官隊が苦戦した以上の怪物が複数いる。

今は敷地内から外に出てはいないが、いずれ外に出るだろう。

そうなる前に始末しなければならない。

 

薮田は悠々と歩みを進める。その左手には、普通の人間ではありえない輝きを秘めて。

左手から発せられる光は、まるで辞書のような形を成し。

次の瞬間、薮田の姿は忽然と消えたのであった。

 

――――

 

駒王学園・オカルト研究部の部室。リアス・グレモリーはここで様々な悪魔の執務を行っている。

今も例外ではない。その内容は、先ほど現れた冥界の使者を名乗る悪魔

ウォルベン・バフォメットについて

兄である魔王サーゼクス・ルシファーに問い質すためである。

 

「……確かに、駒王町に冥界政府から使者は派遣した。

 それが誰なのかまでは担当に一任していたから今初めて聞いたけどね。

 それよりリアス、君は私に隠し事をしていないか?」

 

「……魔王陛下にお伝えするほどの事でも無いからですわ」

 

図星である。セージへの応対の事、そして何よりコカビエルの事。

リアスは兄であるサーゼクスに色々と隠し事をしていたのだ。

リアス本人に隠す意図は無かったのかもしれない。

しかし、結果としてサーゼクスの耳に入った以上、それは隠し事足りえてしまうのだ。

 

「朱乃君から聞いたよ。駒王町にコカビエルが潜伏しているそうだね。

 ウォルベンを派遣したのも、そういう経緯があっての事だ。

 彼クラスの堕天使が悪魔領地で動いているとなると、事は思っている以上に重大だ。

 そしてもう一つ。これもある意味ではコカビエルより重大だ。

 ……歩藤誠二。この名前に心当たりが無いはずもないだろう?」

 

以前、この件でリアスは母であるヴェネラナから叱責を受けた。

セージの悪魔契約について、事故で行われたものであるのに

何故サーゼクスに相談しなかったのか、と。

それについてはついぞ知らなかったために相談をしなかったのだが

結局のところサーゼクスの耳にまで届いていた。しかも、関係性まで。

 

「勿論よ、私の大事な眷属だわ」

 

「……の割には、あまり快く思われていないみたいじゃないか。

 日頃の反抗的な態度、度重なる反乱未遂。然るべき場所に突き出せば

 すぐにでもはぐれ悪魔として処分できる。

 『はぐれ悪魔を出すような主』になって欲しくはないが、このままでは私も庇いきれないよ?」

 

セージがはぐれ悪魔認定されていないのは、サーゼクスの庇いたてがあっての部分もあった。

実際、冥界の一部では以前のレーティングゲーム等からリアスに対して

「眷属を使い切れない無能主」と言う評価を下されている部分も上がり始めている。

ここでセージを斬り捨て、何事も無かったかのように振舞うのは簡単であるはずだった。

 

しかしそれをやるには、セージはレーティングゲームで活躍しすぎたのだ。

良くも悪くも目立ったセージをはぐれ悪魔として斬り捨てれば

間違いなくリアス・グレモリーの名に傷がつく。

反抗的な眷族を切り捨てた英断と取られるか。

あるいは前途有望な実力派転生悪魔をはぐれにしたと取られるか。

いずれにせよ、リアスの心にも、名前にも傷を残す結果となるだろう。

 

「お兄様、それは……」

 

「余計なことはするな、とリアスは言いたいかもしれないけどね。

 それに私も母上から事情を聞いて驚いたよ。まさか悪魔の駒にそういう作用があったなんて。

 はぐれにしたくとも、兵藤一誠君の手前それも出来ないって事情もあるとはね」

 

そう。そもそもセージをはぐれ悪魔にするのは物理的に無理なのだ。

セージの悪魔の駒はイッセーと共有がなされている。

片方だけをはぐれ悪魔として追放することは出来ないのだ。

セージと違い従順で、赤龍帝のオリジナルでもあり

セージと同等に前途有望なイッセーを切り捨てる選択肢など

リアスに存在するはずも無かった。

結果として、セージは現状維持で保留とせざるを得ないのがリアスの、冥界の判断であった。

 

「しかしこのままでは彼――歩藤誠二も増長する恐れはあるね。

 既に主である君を蔑ろにする態度を取り続けている。

 このままではいずれ冥界そのものにも牙を剥きかねない。

 そうなってからでは遅い。はぐれ悪魔指定こそされていないけれど

 実質ははぐれ悪魔と見做しても間違いなくなるのは、時間の問題かもしれないね」

 

「!! さ、させないわ! セージをはぐれ悪魔にだなんて!!」

 

「分かっている。だから出来ればもう少し早く私に相談してほしかったかな。

 アジュカにこの件を話せば、解決策もすぐに見つかるとは思うが……。

 しかし、これ以上歩藤誠二をこのままにも出来ない。

 コカビエルの件が片付いたら、追って連絡をするよ。

 それから、今地上に派遣する部隊を編成している。30分もあれば支度は出来ると思うから

 それまで持ちこたえてくれるだけで良い。無理に倒そうなどとは思わないでくれ。

 

 ……それと最後にもう一つだけ言わせて欲しい。もう少し私を、兄を信じてはもらえないか?」

 

「待ってお兄様、それには……」

 

「そうは行かないわ。リアス、事はもう私達の手に負えるスケールじゃない。

 そう思って、前もってサーゼクス様に連絡させてもらったわ」

 

リアスがサーゼクスの部隊派兵に待ったを掛けようとするが、それは朱乃によって阻止される。

リアスが待ったを掛けようとしたのは駒王町を治めるものとしての矜持によるものは少なくない。

しかしそれは、同時に多大な視野狭窄を生み出すことにもなる。

冗談かどうかは定かではないが、サーゼクス自身からも

「信頼して欲しい」と言われてしまっているのだ。

 

「それに、今大変な事が起きているわ。コカビエルがもうここまで入り込んできている。

 すぐに皆を呼び戻しましょう」

 

「それには及ばないっす! 朱乃さん!」

 

朱乃の提案を待っていたかのようなタイミングで、イッセーが部室に入り込んでくる。

そこから遅れる形で小猫、アーシアと入ってくる。

 

「イッセー! それに二人とも、何時戻ってきたの?」

 

「部長、今かなりヤバイことになってます! 街中じゃ危険生物が暴れてるし

 校舎にフリードの奴が入り込んでるし、コカビエルが……」

 

「ええ、こちらでも掴んでいるわ。すぐに撃退するわよ!」

 

リアスの号令と共に、オカ研の部員は外へと飛び出していく。

リアス・グレモリーとコカビエルの駒王町を舞台にした

戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




と言うわけで今回の補足。

神経断裂弾
仮面ライダークウガに登場した弾丸とほぼ同一のものと思っていただいて結構です。
グロンギに通用する=クウガにも通用する=相当クラスの人外に通用する
と言う流れで採用に踏み切りました。警察の特殊装備で
これが真っ先に思いついたってのもありますが。

なお本文中に強化服について触れられてますが
「この世界にクウガはいません」ので、アレは開発の仕様がありませんとだけ。

オルトロス
この後駒王学園にて戦うケルベロスの下位互換として採用しました。
原作では地獄の番犬として扱われていましたが
ケルベロスもギリシャ神話にルーツを持っているため
同じイヌ科のフェンリルがきちんと北欧勢力から出てるのに
ケルベロスがこんな扱いってのも納得できない
(石踏氏に各世界神話勢力を出す構成がこの時点で無かったって考えも出来ますが)
ため、オルトロスとケルベロスはギリシャ勢力からの出典となっております。
入手法? 勿論密猟ですよ? これは一応伏線も兼ねてます。
ヒントは冥府の風評被害著しい神様。

そしてケルベロスの下位互換である彼にも苦戦する超特捜課の前途は多難である。
この辺は現時点では致し方無しとしか申し上げられません。
だって神器含めて「ただの人間」ですもの。

オリ主はやはりサーゼクスに睨まれてました。まぁ当たり前ですけど。
妹に信頼されてないショックで八つ当たりしてるわけではありません。多分。

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