ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーゴーストは一切関係ありません(挨拶
また、機動武闘伝Gガンダムも関係ありません。

今回時系列は前話とほぼ同一です。
セージ達がフリードをリンチしていた頃、イッセー達は……なお話です。


最近なんだか勢力問わずアンチ系のHSDD作品が多い気がします。
それらに比べればこの作品なぞ埋没してしまいそうですが
それでも読んで下さる方に感謝します。

その感謝に応えるべく執筆してまいります。
話の流れは全て私好みですがね!(まさに外道)


Life32. 俺達が出くわした悪魔

……まーたセージの奴がやりやがった。

木場が出て言ったってだけでも大事なのに、しかもセージの奴は部長に説教のおまけつきと来た!

だから何でお前はそんなに部長を目の敵にするんだよ!?

 

「俺の身柄はともかく、俺の心――魂は今も昔も俺のものですので。

 俺をモノにしたければ、それ相応の態度でぶつかってください。こんなやり方で

 人の心をつかめるとお思いでしたら――バカめ、と言っておきましょう」

 

「ま、待ちなさいセージ! あなたも私の大事な眷属なのよ!?

 私の許可無く危険な真似をする事は許さないわ!

 わ、私の言う事が聞けないの!? セージ! セージ!!」

 

「……セージ先輩、私の力にはなってくれたのに、何でリアス部長はダメなんですか?」

 

「あらあら。もしかするとセージ君は……?

 そうだとしたら、矯正しないといけないかもしれませんね」

 

……あ、やな事思い出した。あの野郎、いきなり俺をひん剥きやがって!

今度会ったらあいつに「洋服破壊(ドレスブレイク)」……

 

……ダメじゃん。あいつ霊体だからそもそも洋服って概念薄いし

そもそもこの技、男にはまるで効果がないんだった。

あいつが女だったら……な、わけないな。あんなミルたんほどではないにせよ

ガタイのいい女がいてたまるか! 使い魔の森じゃあるまいに!

 

けれど今の俺は、それ以上に我慢ならない部分があった。

部長が木場の事を心配してないはずがないだろうが!

にもかかわらずコイツはそれを馬鹿にした態度を取っている。

俺もいい加減堪忍袋の緒が切れるってもんだ。

 

「待てよセージ! もう俺も我慢ならねぇ! 部長に謝れ、今すぐにだ!」

 

俺はセージを怒鳴りつけ、胸倉を掴もうとしたが

その前に足を引っ掛けられて派手に転んでしまう。

前から思っていたがこいつ、幽霊のくせに足もしっかりあるなんて……

それだけでも十分ずるいって気がするぞ。

 

「イッセーさん! セージさん、どうしてこんなことするんですか?」

 

俺を心配して駆けつけてくれたアーシアの問いかけにも

興味なさげな顔をしている。本当に嫌なやつだなこいつ!

こんなやつが俺と悪魔の駒を共有してるってのも信じられないくらいだ!

俺はアーシアに心配をかけまいと気丈に振舞ってみせる。

 

「大丈夫、気にすんなよアーシア。おいっ、何とか言ったらどうなんだ!」

 

転んだままだが、俺はセージを見やってこの言葉を投げつけた。

どうせコイツの事だから「何とか」とかふざけたことを言うのだろうと思っていたが

案外、真面目に答えたのだ。その内容は納得できないが!

 

「生意気な口を利いてすみませんでした。だがこれ以上は謝らんぞ。

 悪いが俺は自分の意見を取り下げるつもりはない。

 木場が今ここにいない、それは紛れもない事実なんだからな?

 まぁアレも忠誠心はあるほうだから、俺みたいに露骨に嫌味は言わないだろう。

 そんなやつでさえ、このザマだぞ?

 別にあいつは俺みたいにグレモリー部長が嫌いだから出て行ったってわけじゃないんだ。

 それともアレか? 仲間は四六時中一緒にいないといけないって決まりでもあるのか?

 だとしたら俺はそんなの御免だね。人間やめさせられた上に

 仲良しこよしのお飯事に付き合えって……何の冗談だよ。寧ろ冗談であってほしかったよ」

 

「お飯事って……私、そんなつもりは……」

 

こ、こいつ何処まで部長の事を馬鹿にするつもりなんだ!

部長は俺達の事を心配してくれてるんだ、それで十分じゃないか!

それなのに勝手なことをして迷惑かけてるお前らの方がおかしいんだよ!

そろいも揃って勝手なことばっかりしやがって!

下僕なら下僕らしく部長の言うことを聞けってんだ!

しかもセージのやつは言うだけ言って部室から出ようとしている。本当にコイツは!

 

「セージ! 待てよ、セージ!」

 

「イッセー。これだけは言っとくぞ。

 ……喧嘩を売るなら相手と場の空気をちゃんと読め。じゃあな」

 

またコイツは、いつも知った風なことしかいわない。

ここが部室じゃなかったら、殴りかかっているところだ!

俺は何時だって部長のために戦ってる!

いつか、それをお前にも思い知らせてやるからな!

 

――――

 

「セージ、祐斗……どうして……」

 

「大丈夫っす部長! 俺が今度セージにガツンと下僕の心意気を教えてやりますから!」

 

「あらあら。イッセー君は部長に甘いのね。

 でも気をつけないと、アーシアちゃんに睨まれますわよ?」

 

とにかく、俺は今部長のフォローに入っている。

そのせいか、最近部長との距離が少し縮まっている気がする。

そういう意味では感謝するべきかも知れないけどやっぱ違うな、うん。

 

……それと同時に、朱乃さんの言うようにアーシアに

なぜか睨まれてる気がしないでもないんだけど……

ははっ、気のせいだよな……な?

 

「……とにかく、祐斗先輩とセージ先輩を探しましょう」

 

「それもそうね。イッセー、お願いできる?」

 

「勿論です部長! それじゃ、行ってきます!」

 

「ま、待ってください! 私もいきます!」

 

こうして、俺とアーシア、小猫ちゃんで

木場と……ちょっと気は進まないけどセージの捜索を行うことになった。

 

――――

 

「……で、何で俺が一緒に木場とあいつを探すことになってるんだよっ!?」

 

「いやー。こういう時セージの奴なら人海戦術張るかな、って。

 アイツは色々気にいらねぇけど、こういうときの機転は凄ぇんだよ。

 だからアイツがもっと素直に部長に協力してくれりゃ……」

 

そして、途中で偶々出くわした匙も加えて、いざ木場とセージの捜索だ!

小猫ちゃんは鼻が利くから、とても頼りになる。

アーシアもラッセーに頼んで力を貸してもらっている。

 

で、俺と匙は……

 

「……二人とも、サボってないで働いてください」

 

「だーから、何で俺もやらなきゃならないんだっつーの!?

 グレモリーの眷属が出て行ったなんて、モロにグレモリーの問題じゃないか!

 何でシトリー眷属の俺が呼び出されなきゃならないんだよ!?

 つーか、グレモリー眷属だろお前、サボるなって言われてるじゃないか、お前がやれよ!」

 

「俺だってサボってねーよ! いいか? 俺んとこのドライグはな、あいつの龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

 半ば共有しているようなものなんだ、だから反応があればすぐに……あれ?」

 

『俺は犬じゃないんだ。そんな事に力を貸せるか』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が反応しないと思ったらこれかよ!?

ドライグ、お前がサボるから俺までサボりと思われてるじゃないか!

とにかく、街中にではしたものの、まるっきり手がかりが無い。

そんな中、小猫ちゃんの動きが止まる。もしかして、見つけたのか!?

 

「……悪魔のにおいがします。でも、これは……」

 

「ガー! ガー!」

 

ラッセーも何かを見つけたらしく、必死に訴えている。

だがやけに必死すぎないか? セージに気圧されたって訳でもないだろうに。

俺はてっきり、街中にいる悪魔なんて木場かセージくらいしかいないと思っていた。

だが、その思い込みがまずかったのだ。

そもそも、まだ日は沈んでいない。それはつまり、セージは実体化していないって事だ。

となれば残るは木場だが、それにしては小猫ちゃんの反応も、ラッセーの反応もおかしい。

となると……

 

「……どうやら、探し物じゃないものが出てきてしまったようですねぇ。

 これでも人間避けの術を使っていたつもりですが。それでも私が見えるってことは……

 あなた達、『裏』の連中ですね?」

 

そこには、オールバックに丸いサングラスをかけた背の高いスーツの男が立っていた。

その口にくわえているチョコレート菓子が、何ともいえないミスマッチ感を醸し出している。

一体誰なんだ、こいつは!?

 

「ふむ……ここにいると言うことはグレモリーか。

 はたまたシトリー、どちらかに連なるものですね。

 私は探し物をしているんです。失礼させていただきますよ?」

 

俺は思わず男を呼び止めようとするが、小猫ちゃんに制止されてしまう。

何でだよ? 木場やセージの事、知ってるかもしれないだろ?

 

「……ダメです。あの悪魔、物凄い使い手です。きっと、私や祐斗先輩はおろか

 下手をしたら部長よりも。だから、戦っちゃダメです」

 

「戦わないよ小猫ちゃん。ただ、木場やセージの事を聞くだけだって。

 すみません、ちょっと聞きたいんですけど――」

 

俺はスーツの男を呼び止めようと声をかけた瞬間――

 

――仰向けにひっくり返っていた。な、何があったんだ!?

 

「私は探し物をしている、って言ったんです。あなたの事情なんか知ったことじゃありません。

 それにですね……私はグレモリーも、シトリーも大嫌いなんですよ。

 

 ……さっさと私の目の前から消えろって言ってるんだ、ガキ」

 

「て、てめぇ! 会長を侮辱するやつはこの匙元士郎が――」

 

今度は匙が、言い終わる前に綺麗に吹っ飛ばされていた。

な、何だコイツ!? こんなやつが、グレモリーの領土にいたって言うのか!?

い、今まで全く気付かなかったぞ!?

 

「……いけない。スーツに埃がついては、折角のお菓子がおいしく食べられませんね。

 ちょっと羽虫を追い払うのに、埃を立てすぎましたかねぇ。

 ああ、一応言っておきますが私は『はぐれ』ではない、れっきとした悪魔ですので。

 

 ここに来たのだって、冥界の許可は得ているんです、よ!」

 

「ガーッ!?」

 

「ラッセー君!」

 

今度はラッセーの雷を、かざした左手から発せられた紫色のバリアで防いでいる。

反射された雷を食らってしまったラッセーを、小猫ちゃんがキャッチして

アーシアに手渡している。間髪いれずに治療を施したお陰で、ラッセーは無事みたいだ。

ほ、本当に一体何者なんだ、コイツは!?

お、俺達はただ木場やセージを探していただけなのに!

 

「……バフォメット」

 

「は?」

 

「バフォメット、とあなた達の主人に言えば、おおよそ分かるでしょう。

 それより早く退いてもらえませんかね?

 私は早く仕事を終わらせて、チョコレートが食べたいのですがねぇ?」

 

チョコレートだぁ? こいつ、何処まで本気なんだ!?

けれど、今の俺達がこいつに敵うかと言うと……わからない。

綺麗に吹っ飛ばされた俺の目の前の地面が輝くと、そこには見慣れた俺の憬れの人がいた。

 

「……いいえ、答えてもらうわ!

 私の領土で勝手な真似をするものは、誰であっても許さない!」

 

「……おや。グレモリーの無能姫が何の用ですか。私は冥界政府の特命で動いているのですが。

 それさえも認めないとなると、それは即ち治外法権を宣言していることになりますがねぇ?

 冥界は、人間界における治外法権を今は一切認めていないはずですが?」

 

こ、こいつ!? 魔王様の命令でここにいるって言いやがった!?

魔王様てことは、部長のお兄さんであって……な、なんでだよ!?

 

「お兄様が!? そんなはずは……」

 

「確かにサーゼクス陛下の承認は得ていますが、直接私に命を下したのは

 サーゼクス陛下ではないという事です。いいですかリアス嬢?

 いまや冥界も世情は目まぐるしく動いているのです。

 何時までもこの町が己の庭であるかのような認識は、捨て去ることをお勧めしますよ?

 まぁ、それが出来ないから無能姫が無能姫たる所以なんでしょうけどね。くはははははっ!」

 

な、何様なんだこいつは! いきなりやってきて、俺達に喧嘩吹っかけるだけじゃなくて

部長を小馬鹿にした態度をとって……何なんだよ一体!?

 

「くっ……私からお兄様に意見申し伝えるわ。名を名乗りなさい!」

 

「良いでしょう。私はウォルベン。ウォルベン・バフォメット。

 番外の悪魔(エキストラ・デーモン)バフォメットの者ですよ。

 くれぐれも兄上に恥をかかせないようにお願い申し上げますよ?

 では、私は仕事に戻りますので……ふむ、チョコレートが溶けてしまった。

 人間界のチョコレート、その良いものをついでに買っておくとしましょう。

 

 ……やはり食べ物は人間界に限りますねぇ。それも人間が作ったもの。

 悪魔連中は食べ物のイロハを全く理解していないから困ります。

 特にソーナ・シトリーのチョコレートは酷かった……何処をどうしたらあんな暗黒物質が出来上がるんですか。

 チョコレート、いえ全ての甘味に対する侮辱ですよ、全く……」

 

こ、この期に及んでチョコレートかよ!

こいつ、腕は立つかもしれねぇけど、すっげぇ頭に来る奴だ!

何より、部長をここまで馬鹿にされて黙っていられるか!

 

「おいっ! バフォメットだかヘルメットだか知らねぇが!

 ここを守護しているのは部長なんだ! その部長に、いきなり文句を言うって何なんだよ!?」

 

「おーや。私が探しているのは『あなたじゃない赤龍帝』と『白龍皇』なのですが。

 ……それからおまけで、ここで不穏な動きをしていると言う堕天使。

 たとえあなたがオリジナルの赤龍帝であったとしても、お呼びじゃないんですよ」

 

『本家より分家に用があるってことか。この物言いは少々引っかかるものを覚えるな。

 ……理由を挙げるとすれば、霊魂のの神器(セイクリッド・ギア)か』

 

こいつ、セージを探してやがるのか! しかも今までの態度を省みても、まともな理由じゃない!

本当に何なんだこいつは!?

 

「そんなの知ったことか! 赤龍帝のオリジナルはこっちなんだ。

 俺が相手になってやる! 行くぞドライグ!」

 

『……やるなら気をつけろよ。今までの流れで散々分かっているとは思うが

 コイツは相当な使い手だ。それこそフェニックスよりは上手だ。

 それを踏まえて仕掛けろよ?』

 

BOOST!!

 

「待ちなさいイッセー! バフォメットはフェニックスと同等以上の力を持っているわ!

 不死ではないにせよ、正面からぶつかって今のあなたでは勝てないわ!」

 

「やれやれ。私は早く仕事を終わらせてチョコレートを心行くまで食べたいのですが。

 ……仕方ありませんねぇ。いかにオリジナルと言えど、中途半端な育ち方では

 私の足元にも及ばないと言うこと、冥界では凡百以下であると言うこと。

 ……教えてさし上げましょう!」

 

俺が繰り出した赤龍帝の籠手の一撃を、ウォルベンは右手で軽々と抑え込んでいる。

しかも、そこから俺は左手を一切動かせない。それどころか、押されてさえいる。

 

「こ、こいつ! 下手をしたらフェニックスより……!!」

 

『だから言っただろうが。お前、さっき霊魂のが言ってたことをまるで聞いてないな。

 「喧嘩は相手と場を弁えて売れ」ってな。

 それ以前にも「考えなしに突っ込むな」とも言われただろうが。

 客観的に見ても、今のお前は霊魂のに劣っているぞ。

 勝っているのは、自由にできる身体があることだけだ』

 

俺の左手を抑え込んでいる奴の右手は、紫色に輝いている。

輝いていると言う表現はあまり適切じゃないか。輝きと言うよりも

禍々しいオーラがそこに凝縮されているような感じだ。

 

「さっき吹き飛ばしただけでは不満ですか。ならば……ふんっ!」

 

ウォルベンは力を込めたのか、紫色の波動は俺の方に収束されて向けられてきた。

物凄い衝撃に、俺は耐える事が出来ずに吹っ飛ばされてしまった。

 

「イッセー! ウォルベン、よくも私のイッセーを!」

 

「……お分かりですかな? 私のクリーニング代とチョコレート代の請求はしないでおきますよ。

 今グレモリー家は大変なことになっているって小耳に挟みましたのでね。

 むしろ……」

 

ウォルベンは今度はアタッシュケースを部長の足元に投げ寄越して来た。

部長が中身を確認すると、そこには冥界で使われているお金が入っていた。

以前、部長に見せてもらった事がある。

あの中身、日本円にすると宝くじ一等が100枚は当たったような額だ!

ちょ、ちょっと欲しいかも。

 

「これ位あれば、家の建て直しにもそこの彼の治療費にも困らないでしょう?

 ……ま、無理にとは言いませんけどね。

 

 しかし、あれほど恐れられた二天龍の片割れも今や凡百以下とは。

 時代の流れとは本当に恐ろしいものですねぇ。

 白龍皇やもうひとつの赤龍帝がどうなのか、早急に調べてみる必要がありますねぇ」

 

「バカにしないで頂戴! グレモリーの次期当主である私が

 訳の分からない施しをはいそうですかと受けると思っているのかしら!?

 それに、イッセーは私の自慢の下僕よ! それを愚弄する者は……」

 

「ええ、そういうと思ってました。ですから……」

 

「……みなさん、伏せてください! ケースが……!!」

 

小猫ちゃんが叫んだ次の瞬間、アタッシュケースは爆発した。

と言うよりは、アタッシュケースから煙幕が焚かれ、周囲は何も見えなくなってしまう。

煙幕の向こうから、ウォルベンの憎たらしい声だけが聞こえてくる。

 

「だからあなたは無能なんですよ! あなたは、いえグレモリー家はいずれ埋没する運命にある!

 先日のレーティングゲームはいわばその試金石! あのような結末を迎えた時点で

 グレモリー家の運命は決まったも同然! どうせあなた達は終わりなんですよ!」

 

俺達への、グレモリーへの呪詛の言葉を残しながら、ウォルベンの奴は消えていた。

……嫌な奴だぜ、全く! いきなり出てきて部長に喧嘩売るなんて、何考えてやがるんだ!

それに、部長の家が大変なことになってるなんて、デタラメ言いやがって!

 

「部長、気にしたらダメっすよ。どうせ根も葉もないデタラメなんですから!」

 

「そ、そうね……一体何故バフォメットの者が冥界政府の命で動いているのかしら……?

 それじゃ、私はさっきの件についてお兄様に問い合わせるわ。

 祐斗かセージが見つかったら連絡を頂戴。それじゃ、頼んだわよ」

 

煙幕が晴れ、俺と匙はアーシアに怪我の手当てをしてもらっていた。

その間に部長も帰っていった。本当に忙しそうだ、俺に出来ることはあんまり無さそうだけど。

いや、木場とセージをとっ捕まえて、部長の前に連れ戻す!

それが今の俺に出来ることだ!

 

それはそうと。俺はともかく、匙は完璧にとばっちりだな。ちょっと悪い事しちゃったかな。

 

「うおおっ! か、感激だよ! アーシアさんに怪我の手当てをしてもらえるなんて!」

 

「怪我が大した事無くてよかったです!」

 

……前言撤回。もうちょっと痛い目にあってもらってもよかったかもしれない。

しかし結局、木場の手がかりもセージの手がかりも見つからなかった。

さっきから小猫ちゃんが難しい顔をしてるけど、何か見つかったのかな?

 

「……甘いものは好きですけど、チョコはどうも苦手です」

 

……違った。ウォルベンの奴と自分の味覚の差に憤りを感じていただけだったみたいだ。

思いっきり足止めを食った形になったが、気がつけば日が沈んでいた。

セージの奴、もしかしたら実体化してるかも。

改めて探そうと思った矢先、俺は急に匙に呼び止められる。

 

「イッセー、ちょっといいか?」

 

「何だよ?」

 

「怒らないで聞いてくれよ? さっきの奴の言ってることなんだがな。

 あながち全部が全部デタラメじゃないと思う。

 俺のとこは、どうもそっちとは違う形で冥界の情報が入るみたいでな。

 で、ここからが重要だ。今グレモリー家とフェニックス家は……裁判で争っている」

 

は!? あの件はもうこっちの勝ちで決着がついたんじゃないのかよ!?

あそこで勝ったから部長は自由の身、親の決めた結婚の問題は全部解決したんだ!

それなのに、何で裁判になってるんだよ!?

 

「な、何だって!? 何でそんなことになってるんだよ!?

 レーティングゲームで決着つけただろ!? それに、俺部長からは一言も……」

 

「俺に聞くなよ。俺だってレーティングゲームで何があったかは知らないんだからよ。

 ただ一つ言えるのは……グレモリー家がやばいってのは、どうも本当らしい」

 

淡々と述べる匙の態度に、俺は思わずいきり立っていた。

なんだか、部長を愚弄されているような気がしたからだ。

そりゃあ、匙にそんな意図が無いのは知っている。

けれどさっきから部長がボロクソに言われているのを見ているせいか

ついナーバスになってしまったようだ。

 

「お、お前! グレモリー眷属の俺の前で、それを言うか!?」

 

「……嘘だと思うんなら冥界の新聞とか色々読んでみろよ。

 どうしても信じられないようなら、俺が読んでるやつを貸してやろうか?」

 

……言い返しはしたものの、確かに言われてみると部長が難しい顔をする回数は

フェニックスの一件が片付く以前とそう変わっていない。

けれど、俺はそれを部長から全然聞いていない。

部長の事だから、言わないだけかもしれないけど。

 

それに、匙の言う新聞ってのもどうにも怪しい。

俺だって冥界の新聞に目を通したことはある。

けれど、俺が見た中にはそこまで部長を悪し様に言っているものはなかった。

ゴシップ雑誌はそうでもないけど、あれは元々そういうものだし。

 

「それはいいけど、どこの新聞だよ。場合によっちゃ――」

 

「みなさん! ラッセー君が遠くで爆発が起きたのを見たそうです!

 もしかすると、そこに祐斗さんやセージさんがいるかもしれません!」

 

俺が言い終える前に、アーシアが――と言うより、ラッセーが何かを見つけたらしい。

爆発とは穏やかじゃない。そういえばゼノヴィアって聖剣使いの姉ちゃんが

クソ神父の名前を出してた気がするけど……。

 

「よし、分かった! 小猫ちゃん、匙、行くぞ!」

 

「……仕切らないでください」

 

「だから、何で俺まで!?」

 

何故か俺は小猫ちゃんに怒られていた。そりゃ、大して役に立ってなかった気はするけどさ!

けれどじっとしてもいられないだろ。だから行くんだよ!

俺達は匙を半ば強引に引っ張りつつ、爆発のした方角に向かっていった。

 

――――

 

たどり着いたときには、既に何もかもが終わっていた。

爆発したらしきパトカーの残骸の周りには、警察が現場検証で数人残っているだけだ。

まさか警察に木場やセージの事を聞くわけにも行かない。

 

ふと、警官の一人がこっちを見た気がした。

凄く怪訝そうな顔をしてみているが、もう一人の警官は普通に応対してくれた。

 

「こらこら。ここはさっき事故が起きたから、通行止めだよ。

 通りたかったら、あっちの道が使えるからあっちから回りなさい」

 

「あ、いえ、俺達は……」

 

「すみません。人を探しているんですけど、見かけませんでしたか?

 駒王学園の制服を着た、線の細い男子生徒と……えっと、幽霊?」

 

アーシアはそんな微妙な空気も知ってか知らずか警官に木場とセージの行方を聞いている。

木場はともかく、セージはその聞き方じゃダメだろ……。

でも実体化してるかどうかも分からないしなぁ。探すとなると面倒な奴だな、アイツは。

 

「おいおい、ここは事故現場だよお嬢ちゃん。それに幽霊って……。

 そんなの、いるわけ無いだろ。少し前、バラエティの特集で取り上げはしたけどさ。

 具足と甲冑の幽霊、って。ははっ、それはテレビの見すぎだよ」

 

うっ。それ……間違いなくあの時の俺のお客さんだ……。

最近取り上げられなくなったとは言っても、やはり一時テレビを騒がせてたんだな。

はぁ、何で俺のお客さんはミルたんと言い変なのばっかりなんだ……。

木場みたいに美人のお姉様か、セージみたいに美少女バンドのお客さんが欲しいぜ……。

 

って、今はそんなこと気にしてる場合じゃないか。

 

「……じゃあ、いないんですね?」

 

「ああ、見てないよ。それよりそろそろ暗くなってきたから

 気をつけて帰るんだよ?」

 

小猫ちゃんが改めて聞くも、警官は見ていないの一点張り。

ここで何かあったのは間違いないだろうけど、これじゃ教えてもらえそうに無いな。

部長だったら、催眠術とかで聞き出すんだろうけど。でも知らないものは知らないよなぁ?

 

そんなことを考えていると、さっき俺を怪訝な顔で見ていた警官が何かを思い出したように手を叩く。

 

「あ、君達駒王学園の生徒さんだろ? ちょうどよかった。

 駒王学園の覗き事件についてちょっと聞きたいんだけど。

 繰り返し行われていて、先日なんか器物損壊や強制猥褻の事案も上がってるんだ。

 あまりにも悪質で、先日も被害にあった生徒の親御さんから被害届が出たんだ。

 学校の周りで、怪しい人を見かけたとかはあるかい?」

 

「それなら、ここにいるこいつがはん……もごっ!」

 

「い、いやぁ……知らないです。知らないですよ俺達。なぁ小猫ちゃん、アーシア?」

 

「え? わ、私はそんな怪しい人なんか見てませんよ?」

 

「……コイツが犯人です」

 

何かを言いかけた匙の口を慌てて塞ぐが、小猫ちゃんが俺を指差して犯人呼ばわりしてる。

やめろ、やめてくれ小猫ちゃん! なんてことするんだよ!

 

「おいおい、真面目に聞いてるつもりなんだけどな。

 被害に遭った器物損壊ってのが、白昼堂々女子生徒の衣服が粉々に裁断……

 って言っていいのかどうかってくらいに粉微塵になっていたそうなんだ。

 ハサミを使ってもそんな芸当できないだろ? だから、そういう事が出来る犯人がいるって事なんだけど……」

 

ほっ。どうやら洋服破壊については警察に知られてないみたいだ。

これなら、俺が捕まる心配はないな。うん。

 

「……出来る人がいます。それがコイツ。

 洋服を粉微塵にするところを、私は見た事があります」

 

「こ、ここ小猫ちゃん!?」

 

小猫ちゃん、まさか洋服破壊の事を警官に話すつもりなのか!?

な、何てことするんだ! 俺の折角の修行の成果を、まるで犯罪者を訴えるみたいに!

やめろ、やめてくれ!

 

「本当かい? 俄かには信じられないが……うん?

 すまない、ちょっとそこで待っててくれないか?」

 

話の途中でけたたましく鳴り響く無線機に呼ばれる形で、警官がその場を後にする。

……た、助かった、のか?

 

『……牢屋に入れられる持ち主ってのもいたが、ちゃちな犯罪で入れられるやつは前代未聞だぞ?

 ああ、面白いことを教えてやる。牢屋に入ったやつは皆死刑にされたか、獄中死した。

 それくらいの連中もいたって事だ。死ななかったやつも当然、脱獄囚だな。

 それに比べれば、お前の牢屋行きは相当有情だな?』

 

ドライグ。何でそこで歴代の赤龍帝を引き合いに出すんだよ!?

何だか惨めになってきたぞ! けど、俺は俺だ。このスタンスを変えるつもりはない!

 

『やれやれ。俺も霊魂のに倣ってみたが……。

 霊魂のがどれだけ突っ込み役をしていたかがよく分かるってものだな。

 精々、愛想を尽かされないようにしろよ? 俺は一蓮托生だから諦めてる部分はあるがな。

 だが俺の名前が桃龍帝とか乳龍帝になるような真似だけはやめてくれよ?』

 

何でだよ! 知らないのかドライグ? おっぱいは世界を救うんだぜ!

俺が小さい頃に見た紙芝居のおっさんがそう言ってたんだ、間違いない!

お前のドラゴンパワーに俺のおっぱいパワーが合わさればきっとセージにだって勝てる!

 

『……そんなのと戦わされる霊魂のにしてみりゃ良い迷惑だな。

 やれやれ、分霊のあいつがほんの少し羨ましいと思えてきたな。

 そんな頭の悪いパワーアップ、やりたくは無いものだ。白いのに顔向け出来ん』

 

俺の意気込みにドライグが呆れたように返していると

無線機越しに話していた警官の様子が変わったみたいだ。

 

お、おい、何で睨まれてるんだよ!? 俺そんなに悪い事したのかよ!?

と思ったら、話の内容はぜんぜん違っていた。

 

「……君達、速やかに自宅に戻るんだ。パトカーで自宅まで送ろう」

 

「あ、いや、その必要は……」

 

「凶悪犯……いや、危険動物が付近をうろついているとの通報があった。

 巻き込まれてからでは遅い。もしどうしてもと言うのであれば

 危険動物が出没したのとは反対側のあっちから帰宅するんだ。いいね?

 

 ……いや、ここからでは駒王学園の方が近いか。すぐに学校に避難するんだ」

 

そう言って、警官は俺達が来た方角を指し示していた。

凶悪犯、と言うか危険動物が付近を……ってそれかなりやばくないか?

その正体は気になったが、俺達は渋々警官の指示に従い、学校に戻ることにした。

 

 

――そして、学校に戻った俺達を待っていたのはさらに恐ろしい光景だった――




今回の新登場キャラ、ウォルベンさんは
Gガンダムよりウォン・ユンファ+ウルベ・イシカワです。
丸サングラスと甘党なところにウォンの面影があります。
と言うか殆どウォンです。ウルベ分は腕っ節くらいです。

何故バフォメット姓にしたかは……申し訳ありませんが深い意味はありません。
ソロモン72柱以外の悪魔でパッと出てきたのがバフォってだけです。
得物として鎌を持ってますが流石に街中では振り回しません。
森の中で子供を引き連れてもいません。
このネタが分かる方はIris……もといOlrun鯖で私と握手……
はできませんね。失礼しました。

原作では宇宙世紀だけでなくアナザーガンダムからも
名前を引っ張ってきている事例はあったのに
何故かGガンネタだけは捜す事が出来なかったので
今回Gガンからネタを引っ張ってきました。
Gガン好きの私としては由々しき事態だったので……。

とりあえずライダー(全般)・ウルトラ(特訓回)・ガンダム(今回)で
コンパチヒーローシリーズは制覇できたと思います。だからなんだってお話ですが。

話の最後で危険動物出没の報せ。恐らくはアレを指すのでしょうが、さて。
ようやくエクスカリバー編も終わりが見えてきました。

……原作の、ですけどね。

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