ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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Soul3. 契約、取れました。

数日後。イッセーがとうとう悪魔としての初仕事に赴くらしい。

あの一件以来、俺は基本イッセーに憑依して行動している。

正直言って暇である。一応、この左手――記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の使い方とかは頭に叩き込んだ上で

部長を始めオカ研の全員に知れ渡ることとなる。

その時の評価は微妙なものであったが。

 

何せ、使えるカードが二枚しかない。全部で十枚超あったが、二枚を除いて全て白紙のカード。

かざしても何も起きないときた。

だが、まだ試していない、いや試せなかった機能がある。それは――

 

――おっと。どうやら準備が整ったようだ。魔法陣で契約者のもとへ移動、か。

大まかな流れは知っているとは言えこうして行くのは初めてだな。

イッセーの方は、やはり緊張している。

 

『そう肩肘はるな。悪魔としてそれっぽく振舞っておけば大体なんとかなる。

 と言うか、なんとかなる仕事だから回されたんだろ。

 いざとなりゃ、俺がフォローに入る』

「それもそうだな。これでまた、俺の夢への第一歩がまた刻まれた! 部長、準備OKっす!」

 

転移の魔法陣が発動し、俺達は悪魔を呼び寄せた人間のもとへと向かうのだった。

――の、はずだった。が、結果はどうだ?

 

「……おーい。イッセー、いないのか? ……屋外で召喚ってのは幽霊の事案であるから

 珍しいことじゃないが……遠くに一応駒王学園が見えるから駒王町からはそう離れてはないな。

 でもここどこだ?」

 

どうやら、転移の際にトラブルが起きたのか、分離して俺だけどこかに飛ばされたらしい。

近くに魔法陣が見当たらないところから、契約者の所でないのは間違いない。

マズいな。どうしたもんか。とりあえず、端末を取り出して部長に連絡する。

 

「……実は、転移にトラブルがあって、正常に転移できなかったの。

 お客様の元へはイッセーが自転車で向かってるから心配しないでいいわ。

 セージは、とりあえず部室に戻ってきてちょうだい」

 

くれぐれも勝手に戦わないように、と釘を刺され渋々戻ろうとする。

……が、誰かが呼ぶ声が聞こえる。

部長、やっぱり俺、はぐれ向きかもしれません。

 

俺はとりあえず声のする方角へ足を運ぶと、そこは放置されて結構な時間の経った廃洋館だった。

表札にまだ名前があるところを見ると、あまり考えたくない理由で手放したと考えるべきだろう。

それに、こんな人気のない場所から聞こえる声なんて、十中八九幽霊の声だ。

とりあえず、無駄だと思いつつもインターホンを鳴らす。鳴らない。

仕方ない。霊魂らしく中に入るか。

 

……とはいえ、一応イッセーに憑依するって形で謹慎中の身だ。

話を聞くだけ聞いて引き上げよう。まずは、声の主の顔を拝んでやる。

 

「おーい。俺を呼んだのは誰だー?」

 

すると、ふわふわと4人の幽霊が現れる。

黒を基調としたドレスにバイオリンを抱えた少女。

藤色のドレスにトランペットを持った少女。

赤を基調としたドレスにキーボードを引っさげた少女。ああ、幽霊だからなんでもありか。

そして、彼女らの妹であろう少女が揃ってやってくる。

 

「あら。随分軽いノリの悪魔ね」

「でもでも、ノリがいいのはいい事じゃない、私、嫌いじゃないわよ♪」

「ノリがいいなんて姉さん一言も言ってないじゃない。ところで悪魔さん。

 貴方が私達の呼んだ悪魔さん? イケメン枠じゃあないけど……

 頼りがいのありそうな雰囲気ではあるわね」

 

は? 話が見えない。あの一件以来、幽霊相手の営業は極力抑えている。

と言うかはぐれ悪魔の一件から俺は単独で外に出してもらえてない。

つーか赤ドレスの子、いきなり見た目で値踏みするな。

 

俺がきょとんとしていると、おもむろに黒いドレスの少女が紙を渡してくる。

これ、俺が配ってたビラだ。って事は、マジでお客さんか。

こりゃ話を聞くだけ、ってのは難しそうだな。

部長の話じゃ、破談も結構あるらしいが……俺は、出来ることは可能な限りやりたい主義だ。

こんなんだから、謹慎くらったのかもしれないけどな。

 

ええい現場判断だ、営業モード、スイッチオン!

咳払いを一つして、俺は悪魔の翼を広げ、それっぽく振舞ってみせる。

 

「……俺を呼んだのはお前達か。何を代価に、何を望む? 俺は、お前の望みを叶えてやろう」

 

いつぞや、イッセーとどっちが悪魔っぽく振る舞えるかの勝負をしたことがある。

その時は俺の生霊としてのポテンシャルを存分に活かして勝利をもぎ取った。

イッセーからは「消えたり壁すり抜けたりなんてずるいぞ!

それにそれじゃ悪魔じゃなくて幽霊だろうが!」と文句を言われたが、ああ聞こえない。

悪魔なんて角生えてるかコウモリの羽生えてりゃ大体悪魔って認識してもらえるんだよ。

俺は今回のビラ配りでそれを思い知った。

 

……が、今回は悪魔っぽく振舞う前に素を見せてしまっている。

マズい。これハズしたパターンだ。

一瞬の沈黙が流れたあと、俺を呼んだ幽霊姉妹が腹を抱えて笑っている。

特に藤色の子がえらい勢いだ。

 

「ぶっ、あはっ、あはははははっ!! 今更カッコつけたって無理だよ悪魔のお兄さん!!」

「な、なにこのギャップ、受ける、ちょー受けるんですけど!!

 って言うか魔法陣から出てこないで徒歩でやってくる悪魔ってのもありえないんですけど!!」

「……く、くくっ、あまり笑ったら悪魔さんに失礼よ……くくっ」

「ふ、ふふっ、お腹痛いわ……っ!!」

 

ちょ、ちょっと笑うな! 自分だって恥ずかしいと思ってるんだ! だから笑わないでってば!

あと藤色の子、それ俺の憑依主の前では言わないであげて!

ガチで自転車で行かなきゃいけないような悪魔だから!

こうして、呆気なく営業モードは終わりを告げ、結局素の状態で悪魔稼業に挑むことになった。

……堅苦しい話とか省けたし、結果オーライにしておこうか。

 

「く、くくっ、ご、ごめんなさいね……あ、あまりにも想像と違ったものだから……

 で、では私達の願いを聞いてくれますか?

 悪魔で私達を認識できるのは、貴方が初めてなんです」

 

一番早く立ち直った黒いドレスの子――名を虹川瑠奈(にじかわるな)と言う、が顛末を話し始める。

そうそう。俺はそれが目的で来てるんだから。決して受けを狙おうと思ったわけじゃないぞ!

 

聞けば、この虹川姉妹。元は有名な貿易商の家で、音楽を趣味としていたのだが

不況の煽りで事業が失敗。生活も回らなくなり

心労が祟ってそのまま病床に伏せてしまう悪循環。

せめて最後は美しいままで終わりたいと各々が大切にしていた楽器とともに心中したそうな。

それから、誰も買い手がつかないこの土地に幽霊として住み着き

夜な夜な演奏をしているらしい。幽霊の音なので、生きてる人間には聞こえないそうだが。

――ポルターガイストという例外を除いて。

 

「でも、やっぱりみんなの前で演奏してみたいと思ったわけ。

 この子――(れい)の声は、本当に綺麗なんだから」

 

赤いドレスの子が自慢げに妹と思しき少女を紹介する。

なるほど。結構音楽に対する思いは真剣みたいだ。

生きてたら、さぞ名のある演奏家や歌手になったに違いない。

 

「それじゃ望みを言うよ悪魔のお兄さん! 望みは私達の音楽を聴いてくれること!」

 

テンション高く、藤色の子が演奏の開始を宣言する。

なにこれ。もしかして結構おいしい思い出来てるんじゃないか?

そんなことを考えていると、演奏が始まった。なるほど、確かにいい演奏だ。

落ち着いた弦楽器の音は……黒いドレスの子、長女の瑠奈(るな)か。

それと対比になるような高らかな管楽器の音は……藤色の子。

確か次女で芽留(める)とか言ったかな。それらを赤いドレスの子――三女の里莉(りり)がうまく合わせている。

そこに里莉(りり)が紹介した子、末っ子の(れい)の声が加わる。

太鼓判を押すだけのことはある。身内贔屓ってだけじゃない。

 

まるで音のグラデーションだ……ん。今ちょっと恥ずかしい表現をしてしまった。

 

冷静に考えると、イッセーが聞いたら羨ましがるかな。女の子の合奏を特等席で聞けるってのは。

土産話にしてやるか。可愛い女の子の合奏を聞くだけのお仕事、って。幽霊屋敷でだけどな。

程なくして演奏が終わる。思わず、俺は立ち上がり拍手を送っていた。それだけの価値はある。

そしてそれは、俺の契約が果たされ、彼女らの未練が絶たれた事を意味する。

 

幽霊の未練が無くなれば、成仏するのみ。

今度は空の上で、その演奏を奏でてくれ。大丈夫、君達なら成功する。

 

「……これが望みか。代価は、俺の胸にしかと刻んだ。契約は成立だ。どうか安らかに……」

「ちょっとちょっと! まだ終わってないのに終わらせないでよ!」

 

……えっ? そういえば、一向に成仏する気配を見せないぞこの子ら。どうなってるんだ?

ま、まあ考えられるのはひとつの未練を絶ったら

また新たな未練ができてしまった、って事だろうか。

未練も欲望も、そういう意味ではそう大差ない。だから俺は幽霊相手の営業を目論んだんだが。

 

「お墨付きも頂けたんだし、今度は路上ライブにいくわよ!」

「「「おーっ!」」」

 

……あのーもしもし? 勝手に話し進めないでくださいます?

つか路上ライブって何路上ライブって。

どうやら、俺一人に聴かせるだけではまだ足りないらしい。

 

なるほど。こりゃ確かに業が深いわ。

つい唖然としてしまっていた俺に、里莉(りり)は無邪気な笑みを浮かべながら

契約の更新を要求してくる。

 

「じゃあ悪魔のお兄さん! これでお兄さんは私達虹川楽団のファンクラブ第一号にして

 私達のマネージャーに任命します!」

 

勝手に決めてるしもう……後ろで芽留(める)は得意の管楽器で盛り上げてる。

確かにテンション上がるけどさ。(れい)も拍手をしてくれている。

これもう断れない雰囲気じゃないか……そしてダメ押しとばかりに

瑠奈(るな)が裏面のアンケートへの返答がびっしりと書き込まれたビラを手渡してくれる。

 

「……こんごとも、よろしく」

 

あのそれ俺の台詞……こういうのってアリなのか? 後で部長に確認を取るか……

幸い、魔法陣の方は俺ひとりなら難なく発動し、俺は無事に部室に帰還することができた。

聞けば、魔法陣が正常に作動しなかった理由はイッセーの魔力が低すぎたことが原因らしい。

その為、元々霊的な存在であるせいか魔力が高く不自由しない

俺の方だけ飛ばされてしまい、中途半端な位置に出てしまったとの事だそうだ……

ドライグ。お前の宿主で俺の憑依先は結構前途多難だぞ。

 

尚、虹川姉妹の件については正式に契約と認められたようだ。

今回の件は、イッセー程ではないが珍しいケースとして扱われ

他の地方の悪魔稼業においても議題となるかもしれない。

そう部長は話していた。

 

まあ、瑠奈(るな)も言ってたしな。幽霊を正しく認識できる悪魔は珍しい、と。

 

それよりさっきから妙に静かだと思ったら、イッセーがソファに座ったまま動かない。

チャリでの移動がそんなに堪えたのか。気にするな。俺なんか途中下車の上徒歩だ。

しかもある意味不法侵入だ。

 

だがイッセーの精神的ダメージは、そこではなかったらしい。

 

「おぉぉぉぉぉい!! なんなんだよこの差は!? 俺は転移できなくてチャリで行ってその先には

 得体の知れない魔法少女という名の漢が居て、ぶっ通しで魔法少女アニメ鑑賞会だったのに!?

 お前は転移も無事にできてしかも美少女四姉妹の演奏が聞けて

 マネージャーに任命されただって!? この野郎ぉぉぉぉぉ!! 木場の野郎も大概だが

 お前もやっぱりここでぶちのめしてやるぅぅぅぅぅ!!」

 

……イッセー。それは心中お察しするが痛い。やめろ。コブラツイストをかけるんじゃない。

うぐぐ、実体化が仇になっている。と言うかなぜそこで木場が出るんだ。

言っとくが俺もイケメン枠じゃないぞ。多分。

 

あ、やばい。これかなりやばい状態だ。あの、姫島先輩。見てないで助けてくださいませんか。

それから塔城さん。何事もなかったかのように羊羹むしゃむしゃ食べてるんじゃないよ。

そんでもって木場。なんでここで爽やかスマイルを発揮するんだ。

発揮する場所間違えてるだろ!?

くそっ、落ちる、落ちる落ちる! ロープ、ロープロープ!

 

――あ、憑依すればいいのか。

 

精神世界に逃げ込めば、イッセーとて手出しは出来まい。

怒りをぶつける相手が逃げたことで、イッセーは興奮しているが

部長の一声で、またすぐに落ち着きを取り戻す……と言うか、別の意味で興奮してやがる。

あー痛かった。また何か言われても困るから、五感共有は切っておこう。

 

この場所、今度模様替えすっかな。とか考えている間に、俺はどうやら眠っていたらしい。




以上、セージの悪魔契約編でした。
もうミルたんにインパクトで勝つのは無理なので
ほかの角度から攻めていこうかと。

そんなわけで(?)今回のゲストキャラの元ネタは東方Projectより
プリズムリバー姉妹。申し訳程度の改変ですがそのまんま出すのも
味気ないと思ったので。なお元ネタのレイラに相当する玲がボーカルってのは
この作品の独自設定です。

……みすちー無理やり加えるよりは纏まりがいいかな、と。

8/30 一部改変。

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