ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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この作品はハイスクールD×Dの二次創作作品です。
仮面ライダーゴーストは一切関係ありません(挨拶)


今更ながらにネタ元が広範囲すぎて時折カオスの様相を呈していると思ったり
思わなかったり。


Soul31. 聖剣、暴走します!?

避けられた戦いを、何故嬉々としてやらなければならないのか。

流さずに済んだ血を、何故態々流す必要があるのか。

俺は断言しよう。この戦いに、意味など無い。ましてや純粋な願いさえも無い。

 

――ただ、態々死地に赴いた愚かな友の命を守るための、愚かな戦いだ。

 

駒王学園旧校舎の裏。ここに姫島先輩が結界を張り

兵藤一誠――とそれに憑いた俺、歩藤誠二と木場祐斗のタッグ。

聖剣使い、ゼノヴィアと紫藤イリナのタッグ。

この二組の戦いが行われようとしていた。

 

……実は、こっそりと警察に通報する準備もしている。

詳しい話をすると却って怪しまれるだろうが、騒動が起きていると言えば警察は動く。

その際、結界は力技でこじ開けるつもりだ。神器(セイクリッド・ギア)のある柳さんはともかく

氷上さんは結界に邪魔されてしまう恐れもあるからだ。

その上で警察を呼ぶ。そうすれば、ゼノヴィアの保釈は取り消し。

今度は確実に塀の中だろう。まぁ、最後の手段だが。

 

「そういえば、リアス・グレモリーの眷族の力はまだ見ていなかったな。

 『先輩』とやらの力も気になるしな」

 

「そうかい。けれど思い知ったときには、君はその得物を失うことになるよ?」

 

……チッ。まだ木場はのぼせ上がっているのか。

聖剣をぶっ壊すことだけにとらわれて、まるで周囲が見えていない。

だからこうしてイッセーを巻き込んでいるんじゃないか。ちったぁ反省しろってんだ。

……結界の中だから、俺が出ても良かったかもしれないが。

不必要に己の手を晒すのはよくない。

まぁぶっちゃけた話、イッセーと木場で十分だろうとは思うのだ。

 

と、思った俺ではあったが肝心のイッセーは相手の衣装――昨日見た黒のボディスーツ――

に見蕩れていた。二人ともあの格好と言うことは、あれが教会の正装か。

無駄に聖職者の服にセクシーな要素を詰めるのは

フィクションの話だけだと思っていたが、そうでもないのか?

 

「……さっきから気になってたけどイッセー君。目つきがいやらしいわよ。

 まさか再会したら悪魔になっていたってだけでも驚きなのに、それも色魔なんて!

 私が渡英している間に、一体何が起こっていたと言うの!?

 ……そう、これもきっと主の試練なのね! 悪魔になってしまったかつてのお友達を斬ることで

 神の裁きを与え、赦す!

 ああ主よ、イリナはきっとその試練を乗り越えて見せます、アーメン」

 

『ククッ、言うに事欠いて色魔かよ……ククッ。

 あの子、言っている事はよく分からんが面白いことを言うじゃないか』

 

「だっ、セージてめぇ笑うんじゃねぇ!」

 

色魔。これほどイッセーを的確に言い表す言葉もあるまいよ。

ついつい、俺は笑いを堪えきれずに噴出してしまった。

憑依している俺に対してイッセーが怒鳴るが

そんな様子は傍から見れば変なやつにしか見えないわけで。

 

「……い、イッセー君大丈夫? 神の裁きの前に、黄色い救急車呼んであげようか?」

 

『……そこに行くのはお前さんのほうじゃないのかね? それとも、現在進行形か?』

 

とは言え、流石にこの一言には俺のほうがカチンと来た。お前にだけは言われたくない、と。

大体宗教に嵌るやつは心の弱い奴が多い。それは何故か。拠り所を欲しているからだ。

逆に言えば、心の拠り所を持っていたり、自我をしっかりと持っている奴は

下らない宗教に惑わされることも無く、恙無く人生を謳歌できるはずなのだ。

まあ、俺のしがない持論に過ぎないのだが。

 

……つまり、だ。お前の方が余程心の脆い人間じゃないか。

そんなやつに精神のおかしい奴呼ばわりされたくは無いな。

 

「さっきから誰が話しかけてきてるのよ!? ま、まさか頭に直接……」

 

『な、わけないだろ。まぁ、お前達が知る必要は無いと思うがな。

 強いて言うなら……お前達が勝手に断罪してきた同胞の怨念かもしれないなぁ? ククッ……

 

 イッセー。ちょーっと、黙っててくれよ?』

 

「え? あ、ああ」

 

どうやら、奴は俺がイッセーに憑依したことは知らないようだ。

さっきもイッセーに憑依するところは見せてないし、見せる必要も無かったしな。

そこで敢えて、俺は少しデタラメを混ぜて話を振ってみることにした。

イッセーには少し黙っててもらう。

こいつも意外とおしゃべりだから、タネが明かされる恐れがあったのだ。

 

『ぐっ!? ううっ……ぅぅぅぁぁぁぁああ……いたい、イタイ、痛い……苦しい……

 何故、なぜ、ナゼ私達が殺されるぅぅぅぅぅ……』

 

「……っ!?」

 

「な、何だ!?」

 

勿論嘘だ。デタラメだ。俺がそれっぽく振舞っているだけである。

そして憑依を解き、霊体のまま彼女らの後ろに回りこむ。

見えていないのを確認した後、霊体の状態の俺の冷たい手を彼女らの首筋にそっと当てる。

 

『おなジかミをしんジるモのじゃなイか、ごロさナいでぐでぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

「ひぃぃぃぃっ!?」

 

「……たわ言をっ!!」

 

これは全部それっぽく言っているだけだ。まあ、今しがたアーシアさんの顛末の話を聞いて

いいアレンジが出来る話はないかと、それっぽい演出はしているが。

イリナの方は驚いているようだが、ゼノヴィアの方にはあまり効いていない様だ。

なるほど、こいつの方はガチってわけか。ならば。

 

『……いギてイる、にクい、ねタまじぃ……おマえミだいなのガぁぁぁぁぁぁ!!』

 

「さっきからしつこいぞ、怨霊め!」

 

「わ、私は何もやってないわ! だから来ないでよ!?」

 

勿論、今どうこうするつもりは全く無い。ただ驚かすために霊体のまま相手に突っ込む。

相手はイッセーじゃないので、当然すり抜けるがその際に冷たい、生暖かい空気が流れる。

これで戦意を奪おうかとも思ったのだが、この手はそう何度も使えなかった。

 

……ゼノヴィアがこっちに剣を構えていたのだ。そうなれば、霊体ごと斬られて終わりだ。

あまり効果は発揮できず、状況を引っ掻き回しただけに終わってしまった。

 

『……すまん。戦意を奪えるかと思ったんだが。どうもうまく行かないみたいだ』

 

「び、びっくりさせやがって! 本当にお前が悪霊になっちまったのかと思ったじゃないか!」

 

イッセー。何故そう思う。

俺の本体はちゃんと生きてるんだから、悪霊になるわけ無いじゃないか。

……違う意味でなりそうな時は多々あるけどな。

 

「戦意を奪うんなら、俺に任せろ! 必殺『洋服破壊(ドレスブレイク)』を……」

 

「……気をつけてください。イッセー先輩は、相手の、女性の服を粉々にします」

 

なんと。塔城さんから技のネタバレが飛ぶとは思わなかった。

予想外の場所からの敵への援護に、イッセーが憤慨しているが……。

 

これ、どう考えなくてもお前の責任だよなぁ。

これについてはフォローしない。フォローしたら俺も同類に見做されそうだから。

 

そういえばおばあちゃんが言っていたっけ。

「友達が悪い道を歩んだら、全力で止めろ」って。

 

もし俺に過去をやり直す事が出来たなら、全力でこいつのスケベを矯正にかかりたい。

もしかするとそれが、俺がこうなった遠因かもしれないからだ。

……本当にそうだとしたら、死んでも死に切れないのだが。いきてるけど。

 

俺の驚かしでイリナの出鼻は挫けたが、ゼノヴィアには一切効かなかった。

かつて悪魔契約の際に幽霊とも会話したが、中にはああした悪霊に近づいていたものもいた。

その際、彼らから(一方的に)学んだ恨み辛みを込めたつもりだったが……。

それで動じないところを見るにアレには一切の迷いが無い。

迷いの無い剣は確かに強い。だがそれは、同時にとても恐ろしいものだ。

 

――己の行いに疑いを持たない。それが意味するものは!

 

『気をつけろ木場! 奴は命を奪うことに何のためらいも持ってない!

 試合、勝負、その他スポーツ感覚で絶対に戦うな! お前が死ぬぞ!!』

 

「ご忠告どうも。けれどそれはあの神父にも言えることだろ?

 ……だったら、やることは変わらないよ!」

 

そう。奴は方向性がフリードと違うだけで、根元は全く同一なのだ。

少なくとも俺にはそう映る。悪魔にとってはもとより

下手をすれば人間にとっても害悪になりかねない。

ゼノヴィアの相手をしている木場は、二刀流で相手の聖剣を凌いでいるが……。

 

「すげぇな、木場の奴。気迫がすげぇ……っ!?」

 

「イッセー君、ゼノヴィアにばかり気を取られていたら怪我をするわよ!」

 

……くっ。こいつの言うとおりだ。

あのパワーバカの聖剣使いに注意するように木場に警告を出したが

こっちはこっちで油断なら無い。腐っても聖剣使いだ。

ある程度昨日の夜見たゼノヴィアと違って、こっちは今初めて見る手合いだ。

まずはデータ収集!

 

『イッセー、何でも良いからとにかく攻撃を避けろ! 今データ集め中だ!』

 

「そんなアドバイスの方法があるかよ!?」

 

照合完了。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。今は日本刀のような形状をしている。

どう変化させてくるかが読めない分やりづらい。

そして、この手の武器を使う奴は大概柔軟な発想をするものだ。

……ここは敢えて、力でゴリ押すか。

 

『イッセー。こっちの擬態の聖剣なんだが、俺にも攻略法が読めない。

 ここは思い切って、ドラゴンショットぶっぱしてやれ』

 

「お、おう。それでいいのかよ……まいいや。行くぜ!」

 

BOOST!!

 

イッセーの左手が動いた。

俺のほうが力を貸すことで、倍加スピードを速められれば良いのだが……

 

『霊魂の。そう都合よく俺も動けんぞ』

 

ドライグに無理だと言われてしまった。やはりな。

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)も、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)も効果は近いものがある。

 

龍帝の義肢は足に移し変えが出来るが倍加は一度だけ。しかしその分消費は少ない。

赤龍帝の籠手は際限なく倍加できるが左手だけ、しかも消費が半端ない。

 

似たような効果なので、合わせて一度に4倍に出来るかと思ったが

どうやらそれは無理みたいだ。本人に言われては仕方が無い。

イッセーのドラゴンショットは赤龍帝の籠手でイッセーの少ない魔力を倍化させ……うん?

魔力の強化なら、もう一つ方法があるじゃないか!

 

『魔力なら俺のほうが段ちだ。シンクロして少ない倍加で撃てるようにするぞ!』

 

「おう、頼むぜセージ!」

 

BOOST!!

 

二回目の倍加にあわせ、俺はイッセーとのシンクロを強化する。

昨日の夜体感したあの衝撃波ほどのダメージは無いが

やはり剣圧だけでもダメージが僅かだが来る。

これは、一気に決めないとマズいか。

 

『イッセー、相手が突っ込んでくるのにあわせて撃て!』

 

「けどセージ、まだチャージが2段階だ、もういいのか?」

 

『俺が補う、やれ!』

 

俺の宣言にあわせ、イッセーは左手をかざし魔力波を撃つ。

少々早いタイミングだが、まぁいい。そう思っていたが――

 

「――ドラゴンショットッ!!」

 

『……ぐっ!?』

 

イッセーの魔力が少なすぎたのか、或いは他の要因か。

思った以上に、俺の方からパワーを持っていかれた感じだ。

些か想定外であったため、照準を定めるための集中力が途切れてしまった。

イッセーから放たれた魔力波は、確かにイリナを捕らえたが――

 

「や、やるじゃないイッセー君……咄嗟に盾に変えなかったら危なかったわ……」

 

ぬかった。姿を変えられるということは、剣だけじゃなく盾にも出来ると言うことか。

発射のタイミングが早かったのと、照準がずれたのが失敗だろう。

そして今の一撃は、相手の奇を衒い、一撃で倒すつもりの一撃だった。

二発目は無い。と言うか、撃たせてはくれまい。

 

しかしあの擬態の聖剣、結構厄介だな。ここは……昨日手に入れたカードで!

 

ERROR!!

 

何ッ!? 今ので魔力を食ったのか!?

相手が擬態ならこっちは……と思ったが、無理なら仕方が無い。

リロードしている暇は無さそうだし……

 

『すまん、勝負を焦った。気をつけろ、やつは得物を自在に変えてくる。

 何とか体制を立て直す、力やスピードと言った基礎能力ならこっちが上だ。

 そこをうまく使ってくれ! ……で、どっちを強化する?』

 

「力で頼む、俺は木場みたいに素早く動いてもあんまりうまく行かないみたいだからよ」

 

『了解した……頼むぞッ!』

 

EFFECT-STRENGTH!!

 

イッセーの力が増している。このパワーで押せれば良いが。

残念ながらドラゴンショットはこれでは強化できないみたいだ。

このカードが強化するのはあくまでも物理的な力に留まっている。

スピードは変わっていないが、パワーは完全に押している。

切りかかってきたイリナの剣を持つ手を掴み上げ

もう片方の手であっさりと剣を奪い取ってしまえるほどに。

 

「な、なんてバカ力なの……!!」

 

「イリナ!? くっ、どうやら赤龍帝の力は健在らしいな!」

 

「半分当たりで半分はずれかな。それより、君の相手は僕だよ!」

 

木場とゼノヴィアの方も膠着状態か。こっちは勝負がつきそうだが……うん?

お、おい。イッセー……まさか……

 

「うへへっ、こりゃ丁度良い! この状態ならかわせないだろうし、既に触れている!

 『洋服破壊』、発ど――」

 

チッ! やりやがったこのバカ!

俺は強制的にシンクロを解除、カード効果もスポイル。

そこまで付き合うつもりは毛頭無いんだよ! ダメ押しとばかりに一枚カードを引く。

 

……ちったぁ剥かれる側の気持ちも知りやがれ!

 

SPOIL

EFFECT-MELT!!

 

当然だが、周囲は騒然とした。何せイッセーの服がいきなり溶け出したのだから。

これに関しては、俺の力が弱まっていた事が吉と出たようだ。

まぁパワー調整でこれくらいにとどめることは可能なのだが、あの時は敢えてそうしなかった。

このバカの事だ。俺をそういうことに利用しないとも言い切れなかったからな。

 

「い、イッセー!? あなた、こんなところで何をっ!?」

 

「あら、あらあら。思ったより可愛らしいですわね」

 

「い、い、い、イッセーさんがっ!?」

 

「……早く服を着てください、この変態先輩」

 

悲鳴で現状を把握したイッセーは、思わずへたり込んでしまう。

その様は、ライザー戦で披露した時と全く同じである。

 

「せっ、セージ!? てめぇ、そういう趣味があんのかよ!?」

 

『無い。それより喜べ。念願のスラ太郎との再会だぞ? もっと喜べよ?』

 

本当。何故すぐにそういう方向に考えを持っていくのだろうな。

ちょっと考えれば無いって分かりそうなものなのに。つか姉さんがいる、姉さんが。

寧ろ、そういう風にネタにするのはモノホンの人達に失礼だと思わないのかね?

ともかく、イッセーのスケベには少々業を煮やしていた部分もあるので

俺は精一杯の皮肉も込めてイッセーに冷や水をぶっ掛けてやることにした。

 

「こっ、これが喜んでいられるかよ!?

 何が哀しくて人前で全裸にならなきゃいけないんだよ!?」

 

『あ? お前それ本気で言ってる? これがお前が他人にやろうとしたことなんだが?

 人が嫌がることはやるなって、俺はおばあちゃんから教わったんだがな?

 俺は確かお前の親御さんの顔は知ってるはずだが……ああ、人は見かけによらんのだなぁ。

 あんな善人そうな人から、こんな下衆が生まれるなんて。それとも親の前では猫被ってるか?』

 

「こっ、この悪魔! 人でなし! 似非フェミニスト!」

 

『……お前なぁ。俺「も」悪魔だってことくらい知ってるだろ。

 後俺はフェミニスト気取ったことは一度も無いぞ?

 俺が今まで何をしてきたか、知らないわけでもあるまい?』

 

イッセーはしきりに非難の声を上げるが、はっきり言って迫力が全く無い。

仰向けにして足を思いっきりおっぴろげさせてやろうとも思ったが

まぁ……それをやるのは次の機会で良いだろう。あれば、の話だが。

 

「な、な、何が起きたのよ……!?

 こ、これはもしや窮地に陥った私を救うために主が授けてくださった奇跡!?」

 

相変わらず、イリナは一人で盛り上がっている。こういうのは相手にしないに限るんだが……。

今はそうも言っていられないのが悩ましいところだ。

おまけにイッセーは成り行きとは言え俺が戦闘不能にしてしまった。

その落とし前をつけずに退くのもどうかと思い、俺はおもむろに実体化する。

 

「塔城さん、わるいけどこれ片付けてくれないかな?」

 

「……気は進みませんけど。セージ先輩の報酬のフルーツで引き受けます」

 

前を隠して丸まっているイッセーを指し示し

俺は塔城さんに結界の外にイッセーを放り出すように依頼する。

どうやらこの間のキウイがお気に召したらしい。俺もあれ好きなんだが……まぁいいか。

 

さて、うずくまってるイッセーだが、こうなっては邪魔にしかならないのだ。

俺が羽織っている形になっていた上着をイッセーに被せる。

そこを塔城さんが引っ張り出して行った。いくら変態で通っているとは言え

このまま外に出したら間違いなくこいつが捕まる。

それこそ問題外の事態だ。さて。身軽になった所で、と向き直った矢先

木場とゼノヴィアの勝負にも決着がついたようだ。

 

「がはっ……!?」

 

「『先輩』。己の得物を誤ったな。確かに私の剣は破壊力を重視するものだが

 君のそれはそうじゃないだろう? 見たところ、その分野は君が不得意とするところだ。

 聖剣の破壊? 笑わせてくれる。頭に血が上り、大局も分からない

 一介の転生悪魔にどうこう出来るほど、エクスカリバーはやわではないよ」

 

なんと。木場もやられたか。しかもあの様子じゃ手心加えられてるぞ。

あのゼノヴィアとか言うの、昨日の夜の事を思えば相当な向こう見ずと思ったが

なるほど、この程度はどうこう出来る観察眼は持っているわけか。

……これは油断ならないな。ちょっと、俺のほうもそれ相応の作戦を立てるか。

 

RELOAD!!

 

「……お見事。これで一勝一敗って解釈で良いのかな?」

 

「わっ、私は負けてないわよ!」

 

少々の疲れと引き換えに、カードと使用コストの補充を終える。

そして拍手をしながら上っ面だけでも祝福した俺に、イリナから案の定の反論が飛んでくる。

まぁそう見るのが普通だわな。それについてどうこう言うつもりはないし。

ただ、そうなる前はどう見ても負けていたと思うがね。

 

「不服か。まぁその方が都合が良いさ。何せこれから俺とも戦ってもらおうと思ってね」

 

「へぇ。さっき相当言いたい放題言ってくれたじゃない。容赦しないから覚悟しなさいよ?」

 

「……ビビリに凄まれても怖くないんだがね」

 

ビビリ呼ばわりされたことに、イリナは顔を真っ赤にして否定している。

ふむ。こういう反応が好きって人もいるだろうな。イッセーは裸にしか興味無さそうだったが。

 

「落ち着け、イリナ。

 ……すると何か? 君は私達二人を相手にする、そう言いたいのか?」

 

「ああ。それからもう一つサービスをつけてやる……俺は一切の攻撃をしない。

 当然だろう? タッグマッチを振っておいて、後から増援で一人来たんだから。

 これくらいのハンデは、あってしかるべきだと思うがね」

 

正直に言うと、木場が負けたことよりも脳筋風情がすかした態度を取っていることの方が

気に入らなかったりする。それに、俺だって口先だけじゃないつもりだ。

勝算は、頭に叩き込んでいる。

 

「私達も嘗められたものだな。

 身の程を弁えない愚かな悪魔よ、聖剣の錆になって消えても知らんぞ!」

 

「やっぱムカつくわあなた。ゼノヴィア、連携して仕掛けるわよ!」

 

二人は聖剣を抜き身で携えている。うむ、確かに実体化して対峙すると些か嫌な汗が流れるな。

だが、前言撤回するつもりも二言を弄するつもりも無い!

 

「俺の言った事の意味を教えてやる……!」

 

SOLID-TRUMPET!!

 

俺が実体化させたのは……球技大会の応援でも使ったトランペット。

その様に、対峙している二人はともかく結界の内外のギャラリーも呆気に取られていた。

 

「と、トランペット……?」

 

「演奏でもするのかしら?」

 

「悪魔がトランペットだと……本当にふざけたマネを!」

 

大正解だ。さて、ギャラリーの諸君。俺のトランペットのレパートリー。

オカ研の皆ならば心当たりはあるだろう? 木場は怪しいかもしれないが。

ゼノヴィアは俺がトランペットを持っているのが不服なのか、聖剣で突っ込んでくる。

とは言え、これくらいをかわすのは造作も無い。木場以上、それこそ柳さんクラスの速さなら

回避は困難だったかもしれないが、こいつ程度なら難なくかわせる。

忘れちゃいないか? お前ら、聖剣持ってるって言ったって、その身体は人間だろうが。

 

「ふざけているのはそっちだろう。俺は『攻撃はしない』って言ったんだ。

 楽器の演奏は、攻撃じゃあないよな? 折角だ、最近覚えたこの一曲、ゆっくり聴いてくれ。

 

 ――『音撃鬼管・突撃喇叭』!!」

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

俺が演奏するのは突撃喇叭。実際これしか吹けないんだから仕方ない。

今回は青天井、ギャラリーもそこそこ多いので全力で演奏している。

攻撃しない以上、ここで全力を使っても問題あるまい。

とは言え、音がゼノヴィアとイリナの二人に集中して向かうようにはしているが。

 

「こ、これは……フッ、いいだろう! その曲、我が破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)で幕引きとしゃれ込もう!」

 

「も、盛り上がってきたわ! こんな奴、やってやろうじゃない!」

 

……大成功。きっと虹川さんもこんな反応を見るのが楽しかったんだろう。

勿論、今回の俺はかなり悪趣味な方向でやっているので、彼女らと同列に語るのは失礼に値するが。

良い具合に観客も盛り上がっている。ここからさらにヒートアップさせてやる!

凄まじい勢いの剣戟が飛んでくるが、かわせない程じゃあない。が、念には念を押すとするか。

トランペットを宙に放り上げ、その間に一枚のカードを引く。

 

EFFECT-HIGHSPEED!!

 

加速を確認した後、落ちてきたトランペットをキャッチ。

俺は再び演奏を始める。まぁ実際のところ、俺が本当に吹く必要性はあまり無いのだが。

虹川さんの演奏にしたって、ただそれっぽく見せてるだけのエアバンドだ。

彼女らは霊的な力で曲を演奏している。そこに教えを請うた俺も、自然とそうなる。

 

演奏をしている間にも、ゼノヴィアとイリナの攻撃は激しさを増している。

最もこれは、俺の作戦の範疇だ。何せ、今吹いている曲の大本は虹川芽留。

彼女は聞くものをハイテンションにする程度の能力で演奏しているのだ。

オリジナルと勝負するつもりは無いが、ハイにさせる程度なら今の俺にも出来る。

で、攻撃を繰り出しながらハイテンションになるということは。

 

「くっ、このっ、すばしっこい奴め! 大人しく私に斬られろッ!!」

 

「このっ、このっ!

 主よ、今あなたの元にこの忌々しい悪魔の首をお届けいたしますっ、アーメン!」

 

だいぶ剣筋が大味になってきたな。土煙を上げながら、無駄に力んだ状態で剣を振り回す。

元が軽いイリナはそれほどでもないが、ゼノヴィアは目に見える形で息が上がり始めている。

フッ、こればかりは無駄に体力付けてくれたグレモリー部長に感謝すべきかねぇ?

もう一押しとばかりに、俺は演奏を続けることにした。

その最中、丁度ゼノヴィアとイリナが向かい合う中央に立つ事が出来た。

……この瞬間を待っていた!

 

二人は既に正気を失いつつある目で俺を捉え、聖剣で俺を斬ろうと突っ込んでくる。

その目には、敵である俺以外は見えていない様子だ。ここまでうまく行くと気持ち良いな。

聖剣が俺めがけて振り下ろされるその瞬間。俺は実体化を解き、その場を退散した。

その結果は――言うまでもないだろう。

 

「ぐあっ!? い、イリナ……貴様、私を斬るつもりか!?」

 

「ぜ、ゼノヴィアこそ……そんな危ない武器を振り回したら、私までやられるじゃない!!」

 

二人のターゲットが変わった。なんと、お互いに斬りあっている。

これはもう腹を抱えて笑うしかない。俺という標的を見失い、敵を求めて暴走していた二人は

お互いを当面の敵と認識、攻撃しあっているのだ。

球技大会のとき、チューニングに必死だったのはこれが原因だ。

際限なくテンションを上げ続ければ、たちまち観客は暴徒となってしまう。

それは俺としても不本意だったので、曲以上にチューニングを必死に学んだのだ。

勿論、今回はチューニングは殆どしていない。際限なくテンションをあげたことで二人は暴走。

まさしく狂信者と呼ぶに相応しい状態になったのだ。

 

「私の前に立ちふさがるものは、それすなわち神の前に立ちふさがる者!

 そこに直れ、我が破壊の聖剣で斬り捨ててくれるわ!!」

 

「主よ、主の教えを解さぬ愚か者に天罰を! アーメンッ!!」

 

最早俺たちなど眼中にないとばかりに、二人で斬りあうその様はまさしく滑稽である。

しかも、二人とも同じ神に祈りをささげているのだ。馬鹿らしくて笑えてくる。

おもわず賭けの対象にしたくなるほど、おかしな戦いだ。

……俺はあまり賭け事は好きではないし

そもそも高校生が賭け事ってのも如何な物かとは思うが。

 

「くくっ、そうだ。斬りあえ。殺しあえ。勝った方が神の寵愛を受けられるぞ?

 くくっ、くくくっ、ははははははっ!!」

 

「せ、セージ……あなた、本物の悪魔よ」

 

「あらあら、これは私達へセージ君が用意してくれた余興かしら?」

 

このある意味地獄の光景に、姫島先輩はなぜかノリノリで観戦しており

グレモリー部長は意外にもドン引きしていた。何故そこでドン引きするんですか。

そもそも、俺を悪魔にしたのは何処の誰なんですかねぇ?

 

「や、やめさせてください! セージさん、これ以上は……」

 

「悪いなアーシアさん。俺はもう演奏を止めているし

 テンションを下げる曲も確かにあるが、それは時間が無かったから今回教わっていない。

 ああなったら、死ぬまで止まらんだろうよ。それにこの際だから言わせて貰うが……

 

 ……あんた、悪魔としての自覚が足りなさ過ぎる。

 それとも俺みたいに人間に戻ることを望むか?

 今回、彼女らに詰められたのもあんたが煮え切らないからだ。

 悪魔になったってことは、人間であることを捨てているってことなんだ。

 俺はそれが我慢ならんから人間に戻りたいんだ。正直な話、俺は人間に戻れないなら

 死んだ方がマシだとも少なからず思っているがね」

 

「そんなことはありません!

 死んだ方がマシだなんて、主もそのような事はお望みになるはずがありません!

 主よ、迷えるセージさんに是非救いの手を……あうっ!」

 

アーシアさん。あんたの言いたい事も理屈としては分かる。

だが、だがね。理屈じゃどうしようもないほど許せないことってあるものでね。

今となっては望むべくも無いことなのかもしれないが……いやだからこそ、かもな。

それから主の救いの手とやらはそれこそ微妙に余計なお世話なんだがね。

……それを一々口に出すほど空気読み人知らずでもないが。

 

俺は、人間として生きて、人間として死ぬつもりだったんだ。

それが今やこうだ。人間として生きることさえ……

いや、それどころか死ぬことさえも俺には許されないと言うのかね?

生前――まぁ、まだ生きているが――の行いは極悪犯罪者に比べれば真っ当な

いち小市民として生きてたつもりだ。それなのにこうなのだから……

 

……やはり、アーシアさんの理屈でも神はいないことになるな。

それより癖なのだろうか。信仰心のなせる業なのだろうか。

その弊害についてだけは難儀だと思うぞ、俺も。

 

「悪いな。これもあんたの身の上を知ったうえでの結論だ。

 もしあんたがこれからもイッセーの傍に居たいがために悪魔であることを続けるなら

 悪魔としての自分を受け入れろ……半端な覚悟で悪魔やってるんじゃねぇよ。

 ま、悪魔やめたがってる俺が言えた義理じゃないけどな。

 それからこれはあくまでも俺の意見だ。

 アーシアさんはアーシアさんの生き方をすれば良いと思うぞ」

 

「うぅ……」

 

「セージ、あなたそこまで悪魔でいるのがイヤなのね……。

 性格は悪魔っぽいし神器も、腕も立つのに本当に惜しいわ」

 

悪魔についてどうこう言えるほど悪魔経験はないけどな、と付け加えはしたものの

ついぞアーシアさんに説教をしてしまった。うーむ、そのつもりは無かったのだが。

思ったことを言うと、どうしても説教臭くなる。

口が悪いのを矯正する方法、本当に無いかなぁ……。

 

などと思っていると、突如視界が光りだす。何事かと思い見渡すと

さっきまで観戦していた姫島先輩が苦しそうにしている。ま、まさか……。

 

「くぅっ……ちょ、ちょっと予想外でしたわ。

 二人の攻撃が激しすぎて、これ以上は結界を維持できませんわ……ッ!!」

 

「何ですって!? 朱乃、私も結界の維持に回るわ、持ちこたえて!」

 

しまった! ハイになって武器を振り回すってことは、威力もそれ相応に上がってるって事か!

確かゾンビ映画何かでも、何故ゾンビの力が強いのかって理由に

「理性が働いていないから力を制御無しで振り回している」ってのもあるくらいだ!

今、彼女らに理性は無い。そんな状態で聖剣を振り回せば……!!

 

しかも間の悪いことに、結界の裂け目にゼノヴィアの振りかざした剣が当たろうとしている!

止むを得ん! 被害が出るよりは余程ましだ!

 

思い切って、ゼノヴィアの前に躍り出た上でカードを引く。

うまく行かなかったら俺もここまでだ。

少々遊びすぎた、そのツケを払えって事か!

 

EFFECT-EXPLOSION MAGIC!!

 

「くっ!?」

 

「ぐぅっ……!!」

 

「せっ、セージ!!」

 

爆風でゼノヴィアを吹き飛ばすことには成功したが

少々近すぎたのか俺も巻き添えを食ってしまった。しくじったが、結界は無事みたいだ。

こんな状態で結界が解けたら、氷上さんが乗り込んできて全員逮捕だ。流石にそれはまずかろう。

そういえば、さっきアーシアさんに止める方法は無いと言ったがもう一つあったな。

 

……俺がぶっ倒れることだ。演奏者が倒れれば、その効果を維持できなくなる。

 

「けほっ、けほっ……わ、私は一体……?」

 

「あ、あれ? 何で私……あ、あいつぶっ倒れてる!

 よく分からないけど、また主が我らをお救いになったのね!」

 

「むぅ……釈然としないが、そうなのかもしれないな。私にもさっぱりだ。

 だがこれで勝負はついた。リアス・グレモリー、私達の勝ちだな」

 

「ま、待ちなさい! 今のはセージが身体を張って被害を食い止めたのよ!?

 この勝負、こちらの勝ちよ!」

 

向こうでまだ何か言い合っている。どうもグレモリー部長は勝ち負けに拘る性質みたいだ。

これはただの喧嘩みたいなものだからいいが、その姿勢は主としてはどうかと思うがねぇ。

 

「覚えておくと良い。最後に立っている者こそが勝者なのだ。

 では我々は聖剣の捜索に戻る。くれぐれも関わらないでくれよ?」

 

「じゃーね。イッセー君、本格的に裁いてほしくなったらいつでも言ってね?」

 

言うだけ言って、二人は学園を後にした。やれやれ、やっと帰ってくれたか。

グレモリー部長は負けた事がよほど気に入らないのか、歯軋りをしていたが。

面倒なので、俺は寝たフリをしている。しかしいつの間にやら、ふりが本当に寝ていたみたいだ。

疲れていたのだろう、な――。




相変わらずオリ主が地味にゲスい。
でもただ人間でありたいだけなんです。
その願いは未だ叶う事はありませんが。
……そして振り返ってみるとどいつもこいつも傲慢だなぁ、と。

ライダー絡みで人間であることに拘り、人間の味方で在り続けたというと
どうしても草加雅人が出てきますが……一日遅いですね。
9/13ならそれに因んだ何らかのネタ挟んだかもしれませんけど。
作者的親ばかかもしれませんが、オリ主は草加ほどアレな性格ではない……
と、思います。嫌味っぽさとかはもろに草加のそれを意識してますけど。

洋服破壊については、ここで言いたいことは全部言えたと思います。
劇中反射とかされてない(少なくとも私が確認した限りでは)ので
自分がひん剥かれるリスクがまるで分かってない、だから揮える技だと
勝手に解釈してます。撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけなんです。
ちょっと意味違うかもしれませんけど。
イッセーの全裸とか読者視点だと誰得かもしれませんけど、劇中では間違いなく
得する人が最低二人はいるでしょうから。
原作でもここで暴発して味方に被害及ばせてますし。犯人謝ってますけど
謝る位なら最初からやるなって理屈でもあるわけでして。

アニメ基本未見の私にはゼノヴィアの声が
某妙高型で再生される不具合があります。この不具合は多分改善されません。
あとイリナの武器も大概にチートだと思います。
原作ではそれっぽい演出はありませんでしたが
現時点でのチート代表たる記録再生大図鑑対擬態の聖剣。
このカードはまた後日まともな形で出せればと思います。

……つまり、イリナかオリ主に変なフラグが立つってことですよ。ククク……

※7/19一部修正。
時系列的におかしなことになっていたので修正。

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