ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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このタイトルにピンと来た方は間違いなくほぼ同年代。

……でもないかなぁ。少し前に3が限定とは言え出たし。
ロアはスパロボ(OG世界)に出向しちゃったから
もうあのシリーズには出ないのかなぁ。

閑話休題。
始まります。


Soul27. 悪魔のバトルドッジボール

駒王学園・オカルト研究部。

部で集まって球技大会の練習をするというのも妙な話だが、何せ部対抗戦があるのだ。

俺は去年は帰宅部所属……と言うかバイトをしていたので

部活動をやっている暇など無かったのだ。

 

よって、これが初めての部対抗戦になる。参加は出来ないが。

一応、生徒会や教職員には色々な意味で顔が利いていたが。

 

皆が一心不乱にボールと格闘しているさなか、俺は実体化もせず

――まあ、屋外なので出来ないのだが――

何をしているのかと言うと。

 

 

――トランペットの練習である。

 

無理も無い。そもそも俺は日中実体化できないし、宮本成二は重体だし

歩藤誠二と言う名前の学生はいないのだ。

一度、グレモリー部長が歩藤誠二を転入させる手続きを取ろうとしたが

それを俺は丁重にお断りした。

 

まず一つ。歩藤誠二は戸籍上に存在しない。よって、人間世界においては立派な文書偽造罪だ。

 

次に、俺の今の状態を省みれば、学籍はあったとしても保健室

……いや部室通学にしかなりえない。

そんな状態で、胸を張って駒王学園の生徒などとは俺は言えない。

 

最後に、そんな事をすれば宮本成二の存在を遠まわしに否定しているような気がしたのだ。

俺は宮本成二に戻るのが最終目標なのに、だ。

そこのところをグレモリー部長は理解しているのだろうか。

 

 

まあ、病院にあった除霊札があの人の仕業ならば、ある程度理解したうえで妨害している……

などと、穿った見方も出来てしまうのだが。

 

 

ともかく。俺は正規の形で球技大会には参加できない。

そこで、応援のトランペットならば吹けるだろうということで、トランペットが得意な

虹川家の次女、芽留に頼み込んでトランペットの練習をしているのだ。

 

……何故か、トランペットの実体化の訓練から始めることになってしまったが。

 

SOLID-TRUMPET!!

 

まさか、武器じゃなく楽器をこれで実体化させることになるとは思いもしなかったが。

 

実体化させた後は、勿論演奏の練習。テンションの上がる曲は、芽留の得意とするところ。

そういう意図もあって、芽留に指導をお願いしたのだ。そして教わったナンバーが……

 

『よーし、そろそろ演奏始めるぞー!

 「音撃鬼管・突撃喇叭」!』

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

テンションの上がる曲、で俺が教わったのはなんと突撃ラッパ。

これは確かにテンションが上がる。思わず、俺が見ていた特撮ヒーローシリーズの一つ

「面ドライバー音撃鬼」の必殺技になぞらえて命名してしまうほどだ。

 

俺自身は、芽留が選んでくれたと言うことと、演奏の難易度から気には入っている。のだが。

 

「セージ! 球技大会に突撃ラッパは無いでしょ! 他のにしなさい!」

 

「で、でも部長! 何かすっげえテンション上がって来たッス!

 うおおおおっ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!!」

 

「あらあら、イッセー君ったらあんなに張り切っちゃって。

 でも、私も凄く身体が熱くなってきましたわ……うふふふふふふ」

 

「わ、私も何だか凄いやる気出てきました!!」

 

「……みんな燃えてる。私も……ふーっ!!」

 

……やっば。これは芽留のソロライブの時とかなり近い状態だ。

テンションが上がりっぱなしで、危険極まりない状態。

やる気を向上させるのは良いんだが、チューニングが難しいな……。

 

チューニングについては里莉に、テンションダウンについては瑠奈に

それぞれ頼んだ方がいいのだろうか。

とはいえ、もう期日も迫っているので

とりあえずチューニングのコツだけ今夜聞きに行くとするか。

 

……あのデニムジャケットの幽霊も、来るって言ってたことだしな。

 

――――

 

夜。虹川家で落ち合うことになっていた俺は、虹川家のソファで寛いでいた。

ここの掃除も、何だか久々にやった気がする。

このところは、虹川楽団の依頼はライブ関係のものが多いからだ。

 

「よーぅ。俺様、参上っと」

 

デニムジャケットの幽霊が、相変わらず軽いノリでやって来る。

その手には生前愛用していたであろうギターと、楽譜が握られている。

 

「幽霊になると、物を持つのも一苦労だな。ちゅーか、瑠奈ちゃんまだ?」

 

「……その前に、まだ名前を聞いていなかった。

 俺は名刺にも書いてあったが歩藤誠二。そちらは?」

 

「……悪ぃ。生前の名前は忘れちまった。今は海道尚巳、で通してる。

 幽霊になると、色々生きてたときの情報が無くなるみたいでよ。勘弁してくれや」

 

悪魔契約をするつもりは今のところは無いが、名前は聞いておくことにする。

しかし、やはり臨死体験をすると記憶に障碍が出るものなのか。

俺も死んでないとは言え、霊体になった直後は記憶が混乱していたしな。

 

「了解した。では海道さん、結論から言うがイザイヤさんは、実は俺も探している人物だ。

 ワケがあって、身柄を確保しなければならないんだ。つまり、俺達の利害は一致している。

 どうだろう? ここは一つ、協力して身柄を確保したいんだが。

 

 ……ああ、勿論身柄を確保してどうこうする訳じゃないから、そこは安心してくれ」

 

「……もしかして、何かやばい事に首突っ込んでいるのか!?」

 

む。勘がいいな、この幽霊。確かにイザイヤがあいつなら、間違いなくあの計画の関係者を

片っ端から当たるつもりだろう。しかし、手がかりとかって大丈夫なのか?

 

「残念ながら、な。そこで『聖剣計画』について、知っていることを教えてくれないか?

 教会主導って事は本部は海の向こうだろうが、ここは知っての通り日本だ。

 その計画は、日本でも進められたのか?」

 

「首謀者――バルパー・ガリレイってクソジジイなんだが、こいつが日本に来たってことは

 俺様の知る限りじゃなかったと思うぜ。ただ、あれから随分たっているから

 日本支部に移って計画を進めている可能性は大いにある。

 あるいは……既にこっちに協力者がいたり、とかな」

 

「日本に厄介ごとを持ち込んでくるなんて……アニメや特撮じゃないんだから……。

 いや、あるいは聖剣計画自体が教会にとっても鼻摘みな代物で、こっちに逃げ込んできたって

 考えることも出来るか……しかし何で国連にも加入してないような小国じゃなくて

 一応国連主要国の日本なんだ? 下手すりゃ日本政府から通報されかねんぞ?」

 

昨日のちゃらんぽらんな雰囲気はどこ吹く風。

海道さんは至極真面目な表情で聖剣計画について語っている。

しかし、何でこういう案件は日本に持ち込まれるのだろう?

隠れ蓑にしやすい国なのだろうか? 色々不便だと思うんだがなぁ。

まして少しでも迂闊なことをすればすぐにtsubuyaittaとかで晒されるご時勢なのに。

 

「……俺様もそれは思ったぜ。政府はアレかもしれないけど、最近日本の警察の方でも

 悪魔やら超常現象への対策を練った管轄ってのが出来たらしいぜ?

 これ、こっち来てから出来た幽霊の友人に聞いたんだけどよ。

 バケモンに襲われて、自分はやられちまったけどツレはその警官が保護したんだとよ」

 

警察が悪魔の相手を、か。それが本当なら、随分と心強い話だ。

そういえば、結局あのフリーメイソン(・・・・・・・)だか言うサイコパス神父が起こした

連続猟奇殺人事件、あれはどういう処理になったのだろうか。

そういうものこそ、警察の本領発揮だと思うんだが。

聖剣計画の首謀者の潜伏先についても、後で調べておくか。

 

「貴重な情報をどうも……っと、瑠奈が来るみたいだ。

 ここから先は、音楽の話にしますか」

 

「そうだな。これでも俺様、生前はギタリストになるのが夢だったんだぜ?

 ま、ちゅーても夢ってのは呪いと同じ。呪いを解くには夢を叶えろ。

 途中で挫折したりしたら一生呪われたまま……って生前言ったけどよ。

 

 ……これ、死んだらどうなるんだろうな。考えたこと無かったぜ」

 

海道さんのギターにかける情熱は本当みたいだ。

となれば、ギターをうまく演奏できない今の状態は心中察するに余りある。

 

……俺はギターの演奏も出来ないし、マネージャーみたいなことをやっているとは言え

そこまで音楽に詳しいわけじゃない。俺自身は……この件について力になれそうも無いな。

これも、それとなく瑠奈に話を振ってみるか。

 

――――

 

「……お待たせ。とりあえず私も演奏してみるけど、あまり期待はしないで。

 そのためにも里莉を待機させてるし、セージさんにもお願いしたいの」

 

今回のキーパーソンである瑠奈を迎え、俺達はそれぞれギターの準備をする。

何故か俺は実体化からだ。それも、トランペットと同じ要領で。

瑠奈も普段のバイオリンから、ギターに楽器を変え演奏を始めた。

 

 

……のだが。

 

「あーっ! 違う、違うって! ちゅーか、俺様の曲そんなに暗いナンバーじゃないって!」

 

「……ご、ごめんなさい。私、こういう曲しか……」

 

「あっちゃー、やっぱダメか。じゃあ、今度は私がやってみるね!」

 

案の定と言うかなんと言うか、瑠奈の演奏は海道さんのイメージには合わなかったらしく

里莉が名乗りを上げている。

実際、里莉は違う曲同士のマッシュアップや他人の曲の真似は得意だ。

今回みたいに、他人の曲を演奏すると言う場面では適任だと思う。

 

 

……のだが。

 

「……違う」

 

「えっ?」

 

「違ぇんだよ。俺様の曲はもっとこう、なんちゅーか……

 やっぱ、俺様が演奏しないとダメだな!」

 

それができないから虹川楽団がいるんだろうが!

……と突っ込みたくなったが黙っておくことにした。

結局、グダグダのままその日は終わり

海道さんの演奏の依頼の話はなあなあになってしまった。

 

俺の方は、楽譜を読むので精一杯だった……。

 

――――

 

そんな、悪魔の仕事の依頼でもない事に俺が躍起になっている中。

とうとう、球技大会当日がやってきた。

不安要素だった木場も、参加自体はするらしい。もっとも、まるでやる気の無い面で

「ただいるだけ」って言葉がこの上なく相応しいって状態なのだが。

果たして、これを参加したと言えるのだろうか?

 

……俺は参加すら出来ないんだがな!

それでも不貞腐れるでもなく、トランペットを携えてスタンばってる俺に俺は褒美をやりたい。

総指揮がアホのグレモリー部長だというのに

ここまでやる気になってる俺も珍しいかもしれない。

 

実は最初、練習の割り当ての際にイッセーに突っ込まれるまで

俺の事には一切触れられなかったのだ。

軽く馬鹿にされているような気分にさえなった。今に始まったことでもないので黙っていたが。

相手が相手なら「いじめだー、いじめだー」と喚いたのだろうが

生憎俺は「いるはずのない」存在であるため、喚くだけ無駄なのだ。喚く気もないが。

 

さて。テニスコートに目を向けると、シトリー会長とグレモリー部長の試合が行われていた。

悪魔の存在を知らない生徒達は黄色い歓声を上げているが

悪魔と言うものを知っているものにしてみれば……

 

 

……なにこの茶番。

そういえばドラグ・ソボールでもこんな展開があったような。

一般人の世界チャンピオンがゼルを倒した(事になった)英雄になった後

実際にゼルを倒した空孫悟と仲間達が武道大会に出たら

ありえないほど次元が違っていて、何もかもが茶番になってしまったような。

 

まあつまり何が言いたいのかというと……

手品の種は余興でもない限り、バラすもんじゃないな、と。

 

「す、すげえ試合だぞセージ! お前も見ろって!」

 

『断る。何が楽しくて茶番を見なくちゃならないんだ。

 凄い試合も何も、悪魔なんだからアレが当たり前だろ。

 全く、棲む世界が違うんだから自重しろってんだ……』

 

イッセーの呼びかけにも応じず、俺は楽譜とにらめっこをしていた。

当然、本番のための代物だ。

俺は音楽の成績は普通だったので、いきなり本格的な楽器の演奏なんて

正直に言うと不安だったりする。だから、ギリギリまで楽譜とにらめっこしたい。

それにどれ程の効果があるのかはわからないが。

 

ところで、俺は冷めているのだろうか。だが、この試合に興味がわかないのも事実だ。

しかも耳を澄ますとうどんのトッピングがなんたら言ってるじゃないか。

勝った方に奢る代物か。庶民的アピールか。おめでてーな。

 

……既に小西屋のトッピングてんこ盛りうどんは去年試したことがある、というのは

彼女らのためにも今後も黙っておくことにするか。

 

で、試合の結果はラケット破損による両者引き分け。なんとも呆気ない幕切れだ。

いや、当たり前か。悪魔なんだから、人間界でムキになればそうなる事くらい分かれよ。

結局、俺が得た収益は「シトリー会長も同じ穴の狢か」と言う事だけだった。

 

――――

 

さて。いよいよ部対抗戦。種目はドッジボール。おいおい、大丈夫なんだろうな?

負傷者どころか死者が出るとか不祥事は御免こうむるぞ?

イッセーは相当に気合十分だが、俺から見れば空回りしないかが不安である。

しかもご丁寧に、おそろいの鉢巻までこさえて来てるじゃないか。

その出来栄えは、部員全員に好評な代物であった。イッセー、いつの間にこんなものを?

 

『へぇ。やるじゃないかイッセー。しかし言ってくれれば力を貸したのに』

 

「悪ぃ悪ぃ。何だかお前、このところ忙しそうだったからさ。ほら、これお前の分」

 

『……おい。俺は着けられないぞ? ここでの実体化が出来ないことぐらい、分かるだろうに』

 

「でもそのトランペットは実体があるだろ? だからよ……これでよし」

 

イッセーはおもむろに、俺が実体化させたトランペットに鉢巻を巻きつけた。なるほど。

これなら外からは鉢巻を巻きつけたトランペットに見えるはずだ。

 

……ほんと、仲間意識は強い奴なんだよなぁ。そこは素直に美点として認めてるんだが。

何でエロスが絡むと非常識極まりなくなるんだ、お前は……。

この点が、兵藤一誠という人物の評価を真っ二つに分ける要因ではなかろうかと思う。

 

さて。ホイッスルと共に試合開始。

俺のトランペットは、スタンドに立てかけて準備万端。

勝手に演奏するトランペットと言うのも、オカルト研究部らしくていいだろう?

まあ、まさか日中の、こんな日常風景で記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)をここまでフル活用することになるとは

俺も思いもしなかったがな!

 

『さあ行くぜ……「音撃鬼管、突撃喇叭」!!』

 

EFFECT-TOTUGEKIRAPPA!!

 

カードを引き、トランペットから突撃ラッパのメロディが鳴り渡る。

これだけで実は演奏は成り立つのだが、俺は律儀にトランペットを吹いている。

形だけでも演奏をする。虹川楽団のスタンスは一応、受け継いでいるつもりだ。

今演奏しているのは、テンションを上げることに特化している、次女の芽留の曲。

観客もヒートアップしているのか、声援が派手になっている気がする。

これ以上のヒートアップはダメだ。騒動が起こる。

ここで俺は、里莉との特訓で会得したチューニングを開始する。

芽留の特訓の成果だけでは天井知らずでテンションが上がってしまうからだ。

 

オカ研部員全員のテンションが上がっている。あのアーシアさんでさえ

積極的にボールに向かっている。最も、相手の野球部の狙いは、殆どイッセーだが。

音と言う性質上、これを効いている相手全てにテンションアップの効果が出てしまう。

つまり、野球部員もテンションが上がっている。

 

……そういう意味では、戦術的には無意味だったりするが別に今回は勝ちたいために

態々これを使っているわけではない。これが俺の参加の仕方だからだ。

これで攻撃が激しくなって、イッセーが集中砲火されるなら……やっぱお前の日頃の行いだ。

 

これには一部松田と元浜の噂操作も含まれているが、火の無いところに煙は立たない。

イッセー。恨むなら己の日頃の行いと運命を恨むんだな!

 

 

……あれ? 俺どっちの応援してるんだっけ? まぁいいか。

俺の演奏が2ループ目に突入する辺りで、事態は大きく変わった。

野球部員の一人が、棒立ちの木場を狙ったのだ。

 

「木場! 避けろ!!」

 

「……えっ?」

 

イッセーは恐らく「えっ? じゃねぇよ!」とか思ったんだろうが……

ま、マズい! あの球の軌道はマズい!

 

俺はトランペットから手を離し、思わずコートに駆け寄り……

 

『うらあああっ!!』

 

イッセーの下腹部に直撃せんとしていたボールを蹴飛ばす。

が、俺も咄嗟の事だったので、つい悪魔の力でやってしまった。

その結果、どうなるかは俺も良く知っていたのだが。

 

――ボールは破裂。その大きな音で観客も、野球部員も、オカ研の皆も我に帰る。

一瞬の静寂の後、突如破裂したボールに周囲は騒然とし、そこかしこがざわつきだす。

 

「お、おい……いきなりボールが破裂したぞ……」

 

「何か叫び声も聞こえたし……や、やっぱオカ研だから出たのか?」

 

「い、いや……きっと木場を狙ったもんだから、女子の怨念が形になったんだよ……」

 

「マジかよ女子こえーな!?」

 

「や、やってないわよ! きっとこれはアレよ、『白昼のポルターガイスト』よ!」

 

「それこの間病院でも出たらしいぞ!?

 『姉さん!』って叫び声を聞いた奴が何人もいるらしいぞ!」

 

「なにそれこわい!?」

 

周囲は騒然とし、試合は一時中断となってしまった。

……俺は悪くない。と、思いたい。

あそこで出なければ、イッセーが悲惨なことになっていただろう。

 

「……セージ。ちょっといいかしら」

 

『一つ弁解させていただくなら、あの球の軌道は

 イッセーにとってとても不幸な結末になったと思います』

 

結局、暫くした後に試合は再開の運びとなったが

今の事件が切欠で、対戦相手の士気は軒並み下がっていたのだった……。

 

――――

 

ドッジボールはある意味ではオカルト研究部らしい勝利をもぎ取った。

生徒会との試合だけ、まるでデフォルメされたヒーローが活躍する

某ゲームの如き様相を呈していたが。あのまま闘球王目指しても良かったと思うよ、俺は。

 

さて。気付けば外は雨が降っていた。

雨音の中、部室に乾いた音が響く。木場が叩かれたのだ。誰に? グレモリー部長だ。

 

随分攻撃的だな。もう突撃喇叭の効果はとっくに切れてると思うんだが。

イッセーも内心では怒っているのだろう。本人は抑えているつもりだろうが、顔に出ている。

 

「……今日は調子が悪かったみたいです。申し訳ありませんでした。

 気分が優れないので、今日はこのまま帰らせていただきます」

 

「おい待てよ木場! この間から、お前ちょっと変だぞ?」

 

強引にでもこの場を去ろうとする木場に、とうとうイッセーが喰らいついた。

俺はだんまりを決め込んでいる。木場の事情も知っているし

ここは下手に出ず、イッセーの犬っぷりに任せることにしたのだ。

 

「変? じゃあ聞くけどイッセー君。君は僕の何を知っているんだい?

 今までの僕を見て一方的に決めてるんなら、それは君に人を見る目が無いだけだよ」

 

「祐斗、やめなさい。イッセーはあなたを心配しているのよ」

 

「心配? 悪魔の癖にですか。利己的なのが悪魔の生き方だと僕は思ってましたけど

 違うんですね。セージ君なんか、そういう意味ではとっても悪魔らしいと思いますけど」

 

……思いも拠らぬところから攻撃された気がする。

そりゃまあ、俺の身体に拘るそのサマは、見方によっちゃ利己的だろうよ。

 

「セージは関係ないだろ? この間の戦いの事、忘れたとは言わせねぇぞ。

 俺達は一丸になってやっていかなきゃならないのに、お前がそんな調子じゃ……」

 

「……悪いけど、それはセージ君にもそっくりそのまま言えることだよ。

 彼は自分の身体を取り戻すために戦っている。それと同じように、僕にも戦う理由があるのさ。

 

 ……部長に仕える以外にね」

 

むぅ。図らずも木場が離反する引き合いに出されている気がする。

まあ、実際俺は反抗的だし離反の引き合いに出すにはうってつけだろうよ。

この点については、俺は木場に同意せざるを得ない。

 

「ストップだイッセー。お前の負けだ。それに、アーシアさんを助けるときだって

 事の始まりはお前の利己的な行動だろう。お前に木場の事をとやかく言えはしないぞ。

 今更掌返したようにグレモリー部長に尻尾を振っても、説得力がない」

 

「ぐっ……あ、あれは結局部長も公認だっただろ!

 けれど、今回のは……」

 

「利己的という意味では、君がアーシアさんを助けようとしたのも

 セージ君が自分の身体を取り戻そうとするのも、そう変わらないと思うよ。

 勿論、僕の戦う目的――聖剣の破壊もね」

 

言うだけ言って、木場は振り返ることも無く部室を後にした。

やはり、そこが目的か。しかしその肝心の聖剣の在り処……知っているのか?

 

「……なあ、セージ。部長のために戦うのは、間違っているのか?」

 

「それを俺に聞くな。聞くなら先割れスプーンの方がいいだろう。

 一ついえるのは、悪魔の常識ならそれであっているだろうよ。

 だが、木場にせよ俺にせよ、それよりも大事なことがある。ただそれだけだ」

 

……まあ、俺が反抗的なもう一つの理由として

「グレモリー部長が仕えるに値する悪魔だと思ってない」ってのもあるのだが

それを話すと話がややこしくなりそうなので、黙っておくことにした。

一連の話を聞いていたグレモリー部長は難しい顔をしていた。まあそうだろうよ。

 

「……セージ。どうしても、自分の身体を取り戻すのを諦めないの?」

 

「何をバカな。いいですか? こうしている間にも

 俺の身体はどうなっているのか分からんわけです。

 それに、もう事故に遭って三ヶ月になります。

 母のことを思えば早急に宮本成二に戻りたいんですよ、俺は。

 

 ……まさかとは思いますが、総合病院に除霊札を貼ったの……部長の差し金ですかな?」

 

ついでに除霊札の件について問い詰めることにした。

当たりはつけているのだが、分かっていてあえて聞いている。

あのデザインの札は、そもそも見覚えがあったからだ。

 

「そ、それは……」

 

「……あらあら」

 

「まあ、誰がやったことかはもうどうでもいいです。

 しかし、事故なら事故で落とし前はつけて欲しかった……のは正直なところですね。

 俺にとっては祖父母つきとは言え女手一つで育ててくれた、たった一人の母なんだ。

 この年から親不孝はしたくないんですよ」

 

……やれやれ。何故そこで言いよどむ。そんなの、自分がやったって言わんばかりだろう。

これ以上追求するのも馬鹿らしくなったので

本心を伝えてこの話はひとまず切り上げるつもりだった。

 

もう一言「親の七光りで今まで過ごしてきたあなたには分からないでしょうがね」

と喉元まで出掛かったが、流石にあの一件があった後なのでそれは言わないでおくことにした。

 

「お、おいセージ……言いすぎだろ……」

 

「言いすぎ? 何がだ? 事故の落とし前をつけないのが悪魔のやり方ならそれは諦める。

 だがな、親不孝の件については嘘偽りの無い本心だぞ?

 

 ……マザコンって言われたっていい。今母さんは凄い心配してると思う。

 それなのに、その心配事を解決させられない。俺に問題があるにもかかわらず、だ!

 これを親不孝と言わずして何と言うんだよ!!」

 

思わず、声を荒げてしまった。

松田と元浜の証言では、母はほぼ毎日のように病室にいるらしいのだ。

心配をかけているのは想像に難くない。母に感謝こそすれ、何故こんなことになったのだ!

こんなこと、あってはならないことなんだ!

 

……だが、相当俺も荒れていたらしい。顔に出ていたと言うべきだろうか。

アーシアさんは怯え、塔城さんも小柄な身を低くして警戒しているようにも見えた。

除霊札について言及したときに一瞬顔色を変えた姫島先輩も、表情こそ変わらないが

その腹の底は窺い知る事は出来ない。まあ、それはいつもの事だが。

 

「……失礼。こちらも今の状態でまともに部活はできそうもありませんからな。

 俺も早退させていただきます。それでは」

 

これも口実だ。今の自分が至極冷静だとは思わないが

言うほど冷静さを欠いているとは思っていない。はずだ。

その証拠かどうかはさておき、退室時に俺はイッセーに耳打ちをした。

 

「……木場は俺が見張っておく。心配するな」

 

「お、おいセージ!?」

 

後ろでまたグレモリー部長が何かを言っているような気がしたが

ここで振り向くつもりは全く無かったので、黙って退室。

霊体に戻ると同時に木場を探しに行くことにした。




オリ主マザコン疑惑


……ではなく、家庭環境では割とそうなってもおかしくないと思うのです。
「だったら公立行けよ」とか言われそうですが……。
勿論、バイトもその家庭環境だからこそです。本編始まる前の話ですが。


海堂もとい海道さん。
やはり「夢ってのは~」の件は入れたかったです。
そのせいで少し不自然な話の流れになってしまったかもしれません。


ちょくちょく出ている面ドライバーシリーズ。
今回もどストレートな命名です。HIBIKI!!

効果は敵味方全員を暴走させると言う、危険な効果。
こちらは芽留の元ネタの彼女にあやかってます。
実際もうつ病よりもそう病の方がある意味では怖いですからね……。



ここまで来ておいて今更ですが残念なお知らせがあります。

イッセーが未だ禁手に至っておらず、左手をドライグに差し出していないこともあり
パワー吸収と言う名のエロイベントは発生いたしません。あしからず。

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