ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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またしても難産でした。
今回のコンセプトは「一人の我儘が齎した結果」です。


Defeat processing

レーティングゲームにおける負傷者を治療するための医務室。

悪魔の戦いは、人間のそれよりも苛烈であるために、ここが暇になることはまずない。

しかし、今回は少し違った意味で暇ができてしまっている。

 

――シーリスとユーベルーナ、ライザーの二人の眷属。

彼女らは、この医務室に運ばれてきたときには既に光力が体を蝕んでいたのだ。

そのため、より医療設備の充実した冥界の大病院に即座に搬送する必要があった。

よって、二人分重病人はいないことになる。

 

これは彼女らが特例の事案であって、その他の怪我人は少なくない。

しかしそうした怪我人も、既に動ける程度には回復している。

これは医療スタッフの実力もあるのだろうが、レーティングゲームの術式、ルール等を考案した

アジュカ・ベルゼブブが規格外の天才であったところが大きいのだ。

戦闘フィールド以外のおおよその場所に、肖像画や胸像が飾られているのがそれを物語っている。

 

リアスとライザーのレーティングゲームも終了間際の頃

広間では既に脱落した互いの眷属が放送を通じて試合の様子を見守っていた。

 

……試合の流れの都合上、そこにいたのは殆どがライザー眷属であったが。

主の無残な姿に、眷属達は言葉を失っていた。

 

そんな空気を他所に、さっきまで戦場にいたイッセーが広間に入ってくる。

ライザーの眷属達はイッセーの姿に気付いていない。

と言うよりは、画面の衝撃的な映像で言葉を失い

折角回復したと言うのにまた倒れた者も出ており、意気消沈している形である。

 

 

ライザー眷属に混じる形で、唯一リアス眷属で広間から観戦していたのは

試合の際、惜しくもいの一番に脱落してしまった姫島朱乃。

彼女は息を呑みながらも、然程のショックは受けておらず

広間に来たイッセーにいち早く気付く形になった。

 

「あらあらイッセー君、お疲れ様。怪我はもういいのかしら?」

 

「朱乃さん! 俺なら大丈夫っす!

 ……けど、結局セージにいいとこ譲る形になっちまったな。

 今度はあいつよりも先に脱落しないようにしないとな。

 っつーか、まず一発ぶん殴る! あのやり方は無いだろ、あれは!」

 

彼女もすでに回復し、後から医務室に送られたイッセーと談話できる程度に回復している。

 

……と言うか、つい今しがた運び込まれたイッセーが既に動き回って話せる辺りは

イッセーの回復力が半端ではないのだ。ダメージの差もあるだろうが、先に離脱した小猫の方は

まだベッドからは動けない。

 

「あらあら、喧嘩は程々になさってくださいね?

 それよりイッセー君、一つ聞きたいのだけど、いいかしら?」

 

「俺に? 何すか?」

 

そうイッセーに問いかける朱乃には、普段のおっとりとした、かつ妖艶な雰囲気の奥に

何か底知れぬ闇があるようであった。憎い者を目の当たりにしたような。

 

「……セージ君、いつからあの槍を使うようになったのかしら?

 堕天使の光の槍……。あなた達にしてみれば、自分の命を奪った忌むべき武器。

 よくあんなもの、素面で使う気になれますわね。あんな忌々しい……」

 

「あいつなら使えてもおかしくないかなー、とは思ってましたけど。

 で、でも、俺も実際に使うのを見たのはさっきが初めてっすよ……?

 ……だ、だから朱乃さん、その……」

 

実際、朱乃の声のトーンはどちらかと言えば怒りに任せて吐き捨てる部分も含まれていた。

イッセーは朱乃を怒らせてはいけない相手だと認識していたため

震えながらも朱乃を諌めようとする。

 

その怒りの対象は、セージ自身と言うよりはセージが実体化させた光の槍の方なのだが。

 

「え……? あ……。あらあら、ごめんなさいねイッセー君。怖がらせてしまったかしら?

 ただ、自分の命を奪った原因の物をああもあっさりと使うものだし

 前回の事もあるから、ちょっと心配になっちゃいましたわ」

 

「あ、あの件っすか。多分、大丈夫だと思いますよ。

 俺もあいつじゃないからはっきりとは言えないんすけどね。

 前回と今回じゃ、事情が違うってのは大きいと思いますけど」

 

話題は、前回セージが暴走したときの事に遡る。

イッセーの言うとおり、あの時とは戦いの理由が全く異なる上

セージ自身が乗り気かどうかも全く違っていた。

前回は「殺したい相手」であり、今回は「勝つべき相手」。全く違う。

レイナーレと同様にライザーを痛めつける理由が、セージには全く無い。

 

「……その割には、戦い方の残虐さはまるであの時みたいでしたわね。

 相手の弱点や隙を突くのは王道ですけど……容赦の無さも凄いですわね。

 うふふ、セージ君はアシスト向きかと思ってましたけど、アタッカーもこなせそうですわね」

 

「朱乃さんが言うと、何か洒落にならないっすよ……」

 

しかし、朱乃にはセージの苦悩は伝わっていなかったようである。

それはセージの心の壁の厚さが成せた業か、朱乃にそうした機敏を読み取る力に欠けていたか。

あるいは、普段と変わらぬイッセーに気を遣ったのか。

 

「……さて、それじゃ小猫ちゃんの様子を見てから、部長や他の皆を迎えに行きましょ?」

 

「そうっすね。セージも一発ぶん殴らないといけないし!」

 

この広場に、他にいるのはライザーの眷属ばかりである。

試合も終了し、中継が終わったこともあり

イッセーと朱乃は広場を後にし、リアスら無事なメンバーの迎えに向かうのだった。

 

――――

 

イッセーと朱乃がリアスらを迎えにいったのと時を同じくして。

レーティングゲームが終わった直後、セージは脇目も振らずにある場所へと向かった。

それは――

 

「うっ……げほっ! うげええっ……うえっ、うぼっ! げぼっ! うぶぇぇぇぇ……」

 

とある男子トイレ。その個室の一室で、セージは嘔吐していた。

酔いによる物ではない。ストレスによるものである。

 

通常、セージは霊体であれば食事の摂取や排泄などはある程度無視ができる。

肉体の活動に拠らずに行動できるためだ。

しかし、今は霊体になっているにも拘らず嘔吐している。

それほどまでに、セージの精神に与えたダメージは大きかった。

 

いくら転生悪魔になったとは言え、メンタルは殆どあの事件――堕天使の襲撃――

の前と殆ど変わっていない。つまり、多少毛が生えたか生えないか程度の普通の男子学生。

そんな彼が、短い間に二回も大々的な命のやり取りをしていたのだ。

 

彼にとって許せないのは、一回目はアーシア・アルジェントの救出という大義があったというのに。

そして、明確に殺意を持ちつつ相手をしたのも

殺人鬼であるフリード・セルゼンと、友と己の仇、レイナーレ。

――敵討ちはともかく、殺人鬼だから殺していい、と言うのはまた話がややこしくなるのだが。

 

しかし今日のこの二回目には、全く彼にとって納得の出来る大義が無かったことだ。

それなのに殺し合いをし、殺意を持って敵を討ったこと。

 

そして、彼には一つ疑問があった。

――何故、イッセーはこの件に関して何も思わないのか?

 

自分が考えすぎなのか? そう彼は考えていた。

前線に出ていないアーシア・アルジェントはともかく。

他のオカルト研究部員は、イッセーやセージよりも悪魔経験が長い。

リアス・グレモリーはそもそも悪魔だ。

価値観が大きく違うのは当たり前と言えば当たり前である。

殺人を是としたところで、なんらおかしくは無い。

 

自分がおかしいのか? 戦いのあと、あれこれ考えた結果が

こうしてトイレの個室を占領している有様である。

 

「うっ……はぁっ、はぁっ……目的のためとは言え……これは……

 こんな……こんな殺し合い、これから何度も何度もやることになるって言うのか……!!

 リアス・グレモリーの言う事のみに従って、転生悪魔として兵藤一誠のナビとして

 新たな生を満喫すれば、この苦しみから逃れられるとでも……?

 眷属なんだからそれが当たり前なんだろうが……だが、だが俺は……!!

 

 もうイヤだ! 何で俺が殺し合いに参加しなきゃならないんだ!

 俺は歩藤誠二……いや宮本成二! 駒王学園二年の普通の学生だって言うのに!!

 普通の学生に殺し合いをさせるのが、悪魔の正義だって言うのかよ!!

 俺は……俺は……普通の生活がしたいんだよ……っ!!」

 

トイレに響き渡る叫び声。

万が一にも聞かれていれば、謀反の意思ありとして

冥界の然る場所に連行されかねないことを口走っていた。

幸いにして、誰も通りかかることは無かったが。

 

宮本成二の慟哭が、歩藤誠二のストレスを和らげたとは言え。

根本的なことは何一つ解決していない。

 

ここでリアスに対し反乱を起こせば自由は手に入るのかもしれないが

それを実際に実行するほど短絡的でもなければ、実行できない理由もある。

友人を裏切ってまで果たすべき目的か否か。

反乱を起こした後、元通りの生活に戻れるのか。リアスが報復をしに来るのではないか。

そうなった場合、事は自分一人の問題では片付かない。

 

この二律背反が、徒に彼のストレスを増大させていた。

 

――――

 

セージがトイレで苦悩を嘔吐物と共に吐露している頃

グレモリー家とフェニックス家の会談も行われていた。

しかしそれは、レーティングゲームが始まる前の、いくらか平和的なムードではなく

一触即発の険悪なムードであった。

 

「魔王の妹だからと言う理由で、婚約破棄を正当化されたのではたまったものではありませんな。

 しかも、赤龍帝や堕天使の力まで用いて。グレモリー卿。うちのライザーの容態を省みても

 落とし前はつけていただきたいものですな」

 

「ぐむむ……この婚約は、全く以って互いのためになりませんでしたな……!」

 

リアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約は勝負の結果によるものと

フェニックス家側からの申し出――リアスの眷属に過激な思想の持ち主がいること――と

グレモリー家側からの申し出――既に純血悪魔がいること、ライザーの素行の問題――から

婚約は破談。

 

「では後日、裁判所より通知が来ると思いますので。以後は法廷で話し合いましょう。

 我々は、これからライザーの見舞いに行かねばなりませんので。失礼」

 

また、それに伴いフェニックス側からグレモリー側に婚約不履行と傷害を理由に

告訴が行われ、冥界裁判所にて公判が行われることになった。

実際、ライザーの症状は、傷害事件の被害としてみれば確実に勝訴を取れるほどの重体である。

婚約不履行の訴訟は、その序と言わんばかりである。

 

「……私が欲に駆られたばかりに……すまん、すまん……!

 本当にすまなかった……リアスの結婚については、もう私達がとやかく言うことではない……。

 リアスには、この件は伏せておこう。要らぬ心配をかけたくない……。

 私が蒔いた種なのだ。これ以上、私が蒔いた種で娘を苦しめたくは無い……」

 

「いえ……ミリキャスという孫がいたというのに、蔑ろにするようなことをしてしまった。

 まず彼を立派な悪魔に育てねばならないと言うのに、次の純血悪魔を望んでしまった。

 その罰ですわ、これは……。

 

 ……グレイフィア。ここに今後の予定を記したメモがあります。これをリアスに渡しなさい。

 確かに私達は今後必要以上にリアスに干渉しません。

 しかし、今回の件については本人にも責任を取ってもらう必要があるでしょう」

 

「……かしこまりました。それと、畏れ多い事ですがミリキャスの母として

 これだけは言わせていただきます。

 

 ……ご心配には及びません、お義母様」

 

そう返すグレイフィアの心の内には、己の息子を今回のような騒動に巻き込んでなるものか。

と言う、親心も多分に含まれていた。

 

リアスは我儘で政略結婚から降りた。両親も、これを黙認せざるを得なくなった。

その皺寄せが、ミリキャスに及ばないと言う保障は無い。

グレイフィアは表情一つ変えなかったが、内心には焦りがあった。

 

――もし、我が子ミリキャスが政略結婚に巻き込まれでもしたら。

 

父親が魔王である以上、ある意味リアスよりも事は大きい。

父親が魔王である以上、避けては通れない道なのかもしれない。

 

――その時、私はグレモリー家のメイドとして、ミリキャスの母としてどうすればいいのだろう。

 

今回の騒動は、見えないところにも影を落とす結果となった。

 

――――

 

冥界の首都、ルシファード。ここに存在する冥界最大の総合病院。

この一室で、先の戦いで重傷を負ったライザーやシーリス、ユーベルーナは治療を受けていた。

フェニックス卿とその夫人に先駆けて、レイヴェルが眷族を、家族を代表し

彼らの診断の結果を医師から聴いていた――。

 

「眷属のお二人は、入院は必要ですが命に別状はありません。

 今は、身体を休めることが重要です」

 

「あ、ありがとうございます! お医者様、それでお兄様は……」

 

ライザー眷属のうち、シーリス、ユーベルーナは身体に光力による毒素が回り

全治三ヶ月の入院生活を余儀なくされた。

不幸中の幸いにして、命の別状と身体機能への異常はなく

退院後はライザーの眷属ハーレムに復帰することを望んでいる。

しかし、この戦いから戦いへの恐怖心を植えつけられてしまい

レーティングゲームへの参戦復帰はさらに先のことになるだろう――

と、医師の診断で語られた。

 

「ライザー君については……命に別状は無い、とは言ってもそれはフェニックスだからです。

 通常の悪魔ならば、聖水のプールに浸けられた時点で即死ですよ。

 それ以外にも、傷口から光力が全身に行き渡っている上に、人間が作った消火の為の薬剤が

 フェニックスの治癒能力を阻害しています。こういう言い方は不適切ですが……

 フェニックスであるがゆえに苦しんでいる、とも取れる状態ですね」

 

そしてライザー・フェニックス本人も、全身に聖水による重度の火傷、光力による毒素

ならびに消火器の薬剤にさらされたことが原因で、身体に大きな障碍を負うこととなった。

こちらは全治半年以上の期間が必要となり、後遺症も少なくないとの診断が下された。

 

「そ、そんな……なんとかならないんですか!?

 そ、そうだ! フェニックスの涙なら……」

 

「手は尽くしますよ。私とて医者なんですからね。

 しかし……もし治ったとしても、後遺症が出ることは、覚悟なさったほうがいいでしょう。

 あと、フェニックスの涙については……現在入手が困難でしてね。

 いくら製造元のフェニックス家から直接とは言っても、それをやれば今度は我も我もと

 フェニックスの涙を求める他の患者さんが押し寄せてくる。

 それくらいの奇跡の薬なんですよ、フェニックスの涙は。

 だから、前例を認めるわけにはいかんのです。

 何とか、ライザー君にも回せるように手配はしますよ」

 

医師による非情な宣告。奇跡の薬であるが故に、その取り扱いには慎重にならざるを得ない。

それは、患者への副作用に拠るものだけに留まらない。

純血悪魔と転生悪魔の差はあれど、医療ににおいては平等性も重要になる。

フェニックスの涙を欲している重病人は、ライザーだけではないのだ。

その治療を心待ちにしている重病人は、少なくない。

そんな中、いくら製造元の一族とは言え特例を認めてしまえば暴動が起きかねない。

病人を救うべき病院で暴動が起きるなど、愚の骨頂である。

 

レイヴェルもこの日以来眷属として――否、妹として兄を気遣い

毎日のようにライザーの見舞いに来ている。

その後レイヴェルはフェニックスの涙の増産を家族に具申したが、品質の維持を理由に断られ。

結局、通常の治療をしつつフェニックスの涙の供給が安定するまで待つこととなった。

 

が、フェニックス家もグレモリー家との裁判のため、調剤に割く時間的余力も残っておらず。

レイヴェルは、ただ兄のベッドの前で歯噛みする日々を過ごしていた……。

 

――――

 

フェニックスにここまでの深手を負わせたと言う事件は、非公式の試合ながらも

瞬く間に冥界中の話題となり、あるものはその戦いぶりに震え上がり。

またあるものは番狂わせに色めき立った。

 

特にセージについては、顔が割れていないながらも

その残虐性と実績から、血筋による悪魔族の繁栄を望む旧来派と

来歴を問わない繁栄を望む新鋭派の両者から、本人の望みとは裏腹にマークされることになった。

 

 

旧来派の言い分はこうだ。

 

――転生悪魔の無秩序な力は、悪魔の血筋を脅かしかねない。

リアス嬢は早急にこの眷属を管理するか、或いは悪魔社会を守るために処分すべきである――と。

 

 

新鋭派の言い分はこうだ。

 

――悪魔の駒の力で、また今までに無い悪魔が誕生した。

不死を謳ったライザーをも打ち倒した、この新しい転生悪魔を大いに歓迎、祝福すべし――と。

 

 

そこには、本人が望んだものは全く反映されていなかった。

当たり前である。冥界の者達にとって歩藤誠二とは、一介の転生悪魔に過ぎないのだから。

 

そして、セージへの評価とは裏腹に主であるリアスへの。

ひいてはグレモリー家に対する世間のバッシングは大きくなった。

 

 

「フェニックス家の三男が、レーティングゲームにおいて重体となる」

事が大きく取り沙汰されたのだ。そこに付随する形で

 

「『赤髪の滅殺姫』が己の我儘のためにレーティングゲームで婚姻拒否を表明」した事が

 

「『赤髪の滅殺姫』が己の我儘のためにフェニックス家三男を重体に追いやった」

と解釈、報道されたのだ。

 

これらは冥界の新聞、ニュース、週刊誌あらゆるメディアで流布され

冥界において知らないものはいない、と言うほどにまで広まったのだ。

 

――――

 

結果、グレモリー邸には日夜冥界のマスコミが押しかける事態となってしまう。

家族会議を開こうにも、あまりの煩わしさにリアスを冥界に呼び戻すことも出来ず

やむなく、部活動終了後にオカ研の部室を貸し切って行われることになった。

 

「……私だって、好きでライザーを再起不能にしたわけじゃないのよ」

 

当然、こういう扱い方をされてはリアスも面白くない。

しかし、冥界の世論においてリアスを肯定するものは

家族と眷属、そして一部の物好きを除いて殆どいないのも事実だった。

 

「それは私も試合を見ていたから知っている。

 しかし、なってしまったものを変える事は出来ない。もう一度聞くがリアス。

 あの眷属……歩藤君と言ったか。彼は普段からああなのか?」

 

「……私に反抗的な態度を取る事が多いのは事実よ。

 初めは、そのうち言うことを聞くようになる……って思っていたわ。でも……」

 

家族会議の議題は当然、ライザーとのレーティングゲーム。

及び、そのライザーに重傷を負わせたリアスの眷属、歩藤誠二についてである。

 

「……我が娘を蔑ろにするとは許せんな。今、その彼を連れて来なさい。

 私からじっくりとハナシアイをさせてもらいた……いたいいたい、やめてくれないか母さん。

 私はある程度本気で話しているのだが」

 

「だから、よ。あなたとそういう意味でのハナシアイなんて、娘の眷属の処刑と同義じゃない。

 けれどリアス。場合によっては……覚悟を決めなさい。

 眷族の不始末は主であるあなたが取るの。

 

 ……幸か不幸か、グレモリー家からそんな眷属は過去一人として出ていない。

 だから、そうなったときの心意気を説く事は私達には……」

 

リアスの母が言い終える前に、リアスは激昂していた。

既に話の途中から怒りを募らせてはいたが、眷属の処刑と言う話題になったときに

噴出したようである。

 

「いい加減にしてお母様! 眷属を処刑するって、それは本気で言っているのかしら!?

 それに、過去そんな眷属が一人もいないのに、何故セージだけが処刑されなければならないの!?

 それとも、私は反乱を起こすような眷族を抱えてる無能な主だとでも言いたいの!?」

 

「お、落ち着いてくれリアス! 私はそんなことは一言も……」

 

「……そうね、ごめんなさいリアス。言い過ぎたわ。けれど、これだけは覚えておきなさい。

 私達悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使う者は、使った相手の全てを一度は奪っていると言うことを。

 それを踏まえて、主として恥ずかしくない行いをしなさい。

 これはあなたの母として言わせて貰うわ」

 

「……知っているわ! 朱乃の時も、小猫の時も、祐斗の時も! ギャスパーの時も!

 それからイッセーや、アーシアの時も……それに……」

 

子供じみた反発を母に返すリアスであったが、途中でふと違和感に気付く。

一人ひとり眷属の名前を挙げていったリアスだが

一人、どうしても腑に落ちない存在がいることに気付いてしまった。

 

「……わ、私……セージに……悪魔転生の儀式をした覚えが……

 イッセーには、確かに悪魔の駒を使って儀式をしたけど……セージには……」

 

そう。リアスはセージに対し、正式に契約を結び

彼を転生悪魔として使役していたわけではないのだ。

イッセーに対して悪魔の駒を用いた際

セージの魂がそれに巻き込まれる形になっていただけなのだ。

 

結果として、セージは霊魂だけの状態で、イッセーの悪魔の駒を共有し

一人の転生悪魔として顕現することができていたのだ。

 

「そ、それじゃ……彼がいつも言ってる身体を取り返すって……

 確かにあの時、もう一人はまだ息があったから、救急車で運ばせたけど……」

 

「……リアス。その言い方だと、まるで事故があったみたいね?」

 

リアスが初めてイッセーを悪魔にした際の出来事を思い返していると、母からの指摘が入る。

指摘どおり、これは本来の悪魔転生の儀式であれば事故に値する事例である。

なにせ、本来悪魔にしようとした者ではなく、無関係な者まで悪魔にしているのだから。

おまけに、身体を奪った上で。

 

「何故もっと早くサーゼクスに言わなかったの!

 サーゼクスに言えば、解決法もすぐに見つかったでしょうに!」

 

「わ、私だってたった今気付いたのよ! セージがそんな方法で悪魔になっていたなんて!

 セージはうっすら気付いていたんだわ。だからあの時、堕天使だけでなく私をも殺そうとした。

 自分を悪魔にしてしまった、私を殺しに!」

 

「何っ!? リアスを殺そうと!? よし、今すぐその彼をここに連れて来なさい!

 私が……ってだから痛いよ母さん」

 

リアスは自らのミスで起きてしまった取り返しのつかない事態に狼狽し。

リアスの父はまたしてもセージ抹殺計画を立ててはリアスの母に窘められ。

リアスの母は何とか、現実的な解決法を模索してはいるものの――

 

「落ち着きなさい。彼ももう既に悪魔になっている以上は

 身体を取り戻せば解決、なんて甘いものじゃないわ。

 彼の悪魔の駒を摘出できれば簡単なのだけど、彼一人のものではないでしょう?」

 

「……ふぅむ。あの時のレーティングゲームにおける彼の異常は、そこに起因していたのか」

 

そう。セージに存在する悪魔の駒は、彼一人のものではない。

寧ろ、イッセーの悪魔の駒を借り受けているといったほうが正しい。

そのため、セージの悪魔の駒を摘出しようものならば、イッセーにも影響が出ることになる。

まして、イッセーは「兵士(ポーン)」の悪魔の駒を全て使い、ようやく転生できたのだ。

全て揃ってバランスが取れているものを摘出すれば、異常が起きるのは当たり前である。

 

「ええ。間違いなくセージに適用されている悪魔の駒はイッセーのものよ。

 セージから悪魔の駒を摘出するのは、イッセーから摘出するのに等しい行為。

 イッセーは8つ全部使って転生できたのよ。

 そこを取り除けば、イッセーにも影響が出るのは避けられないわ」

 

そもそも、悪魔の駒の摘出と言う行為自体、相応の施設で行わなければならない

リスクの高い行いなのだ。言うなれば、人間の臓器を摘出するのと殆ど変わらない。

 

「……どちらに転ぶにせよ、苦渋の決断をせねばならんと言うことか。

 ああ、なんと言うことだ。私の可愛いリーアにこのような仕打ちを……おのれ神め!」

 

「あなたは黙ってて。リアス、さっきも言ったけれど、決断を下すことは必要よ。

 その決断を下すのは他でもない、あなた自身。その責任は、下した後もきちんと持ちなさい。

 けれど、あなたの母としてこれだけは言わせて貰います。

 

 ……どんな決断を下そうとも、私達はあなたの味方であり続けます」

 

――結局、その日の家族会議は具体的な結論を提示することなく。

ただ、リアスとその両親の意思表示を行ったに過ぎないものであった。

 

ライザー・フェニックスとのレーティングゲームは確かにリアス・グレモリーの勝利で終わった。

しかし、それはリアスにとっても、グレモリー家にとっても

苦難の道の始まりとなる勝利であった。




今回のタイトルを和訳すると「敗残処理」です。

・原作では負けてる戦い
・戦力は原作より充実しているとは言え、無理やり得た勝利
・とどのつまり我儘のごり押し

というわけで、ライザーと眷属の皆さんはここで出番終了……と思います。
特にライザーはある意味原作より重症ですし。
ドラゴン恐怖症こそ発症してませんが、水場恐怖症になってます。

次回は時系列的にサト……じゃない、ザトゥージ回ですが
活動報告にもあるとおり私事で次回投稿は未定となります。
ご了承くださいませ。

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