ハイスクールD×D 同級生のゴースト   作:赤土

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他の作者様の作品を見ていると、ちょっと自分のは文章が長すぎかなと思ったり。
当面はこの長さでいきますが、ご意見ありましたらよろしくお願いします。



Soul2. 悪魔で、生霊です。

今日も日が昇り、沈む。そんな当たり前の現象だが、俺、歩藤誠二は悪魔だ。

日が沈んでからが本領発揮となる。

 

事の発端は数日前。気がつけば駒王学園の旧校舎・オカルト研究部の部室にいた俺は

わけもわからぬままオカルト研究部に入部することとなり、悪魔としての仕事を言い渡された。

と言うより、ほとんどこれしかやることがない。

 

何せ、俺は悪魔で生霊だ。兵藤一誠ことイッセーと言うエロガキに憑いてないと

日中はまるで動けない。いや、動けるには動けるのだが、誰も俺に気づいてくれない。

オカルト研究部の面々でさえもだ。

辛うじて物は触れるようになったのだが、まだまだ慣れない。

 

仕方なく、イッセーの中で勉強をするフリをしている。そんな日中だ。

一応、イッセーの受けている授業はイッセーを通して俺も聞くことができる。

が、イッセーが寝てたらアウトだ。そんなときはこっそり、バレないようにイッセーから

身体のコントロール権を奪っている。当のイッセーは自分が寝てる間に

ノートが書かれているのを見て「これも悪魔の力か!?」と糠喜びしている。

そんなわけねーだろ。ま、俺も聞く価値のない(と勝手に思った)授業は寝る主義だから

お互い様なのだろうけど。

 

日が沈み、夜の帳が街を覆う頃になると、ようやく俺も外での実体化が可能になる。

オカルト研究部の部室以外では、まだ夜の街位しか実体化出来ない。これがイッセーなら

 

「夜の帝王に、俺はなる!」

 

くらい言うかもしれないが、事はそんな単純じゃない。

一日の半分しか外部で活動できないのは、これはこれで辛い。

 

とにかく、夜になれば悪魔の仕事――ビラ配りだ。

このビラを頼りに、悪魔に願い事をしたい人間がいるらしいんだが、なんとも業の深い話か。

部長直々に渡されたこの妙な機械が光っている場所にビラを配るらしい。

しかし意外と範囲広いな。聞けばイッセーはチャリを漕いで配ってるらしい。

で、俺はというと――

 

――悪い、飛んでる。

 

と言うか、飛んでいる方が向こうからお客さん(幽霊だけど)がやって来るのだ。

結構未練がある人(?)がやはり多く、今日もビラを配りながら

飛び込みでお悩み相談などの仕事をこなしているのだ。

ふふん。やはりちょっとばかし同期のライバル意識はある。

悪いなイッセー、これが俺の、生霊のやり方なのさ!

 

 

――が、そんな濡れ手で粟を掴むような話があるわけも無く

部室に帰った俺を待っていたのは衝撃の事実だった……。

 

「……セージ。非常に言いにくいんだけど言わなきゃいけないことが2つほどあるわ。

 まず1つ。悪魔の仕事は人助けじゃないの。一々迷子を送り届けたりだとか

 不審者を撃退したりだとか、そういうのは別にいいから。それから2つめ。

 幽霊のお客様を取ってきたのはあなたらしいと言えるけど……ダメなのよ、幽霊は。

 人間と違って、幽霊は願いを叶えたら未練がなくなって、成仏しちゃうでしょ?

 そうなると、私達悪魔にとっての利益がほとんど出ないの。

 無駄足とは言わないけど、今度から気をつけなさい」

 

がっくり。ちょっと過剰サービスしすぎたってことか……

むぅ、だが困ってる人を見過ごせないのも事実。幽霊達にだって事情がある。

どうすりゃいいんだ? 独立して何でも屋を立ち上げるわけにもいかないし。

この件がまたしても顔に出てたのか、部長は咳払いを一つすると改めて口を開いた。

 

「……でも、どちらもあなたが良かれと思ってやった事。それはあなたの美点よ。

 それを踏まえたうえで、精進なさい」

 

これは、フォローされてるんだろうか。あー、要らん気を使わせてしまったな。へこむ。

生返事になってしまったが、一応返答だけしてビラ配りに戻る。

今度はイッセーを見習って、チャリで行ってみるか。

そのイッセーは、ダンボール数箱分のビラを配り終えてしたり顔をしていた。ちょっと悔しい。

 

――で、早速チャリでビラ配りを再開する。うん、夜の空気が気持ちいい。

空を飛ぶのとはまた違う感覚がある。地上を走っているからか、幽霊との遭遇率は

低くなったがそれでも見渡すと結構いる。イッセーは見落としていたのか

或いは俺が霊魂だから見えるだけか。部長も幽霊の客取引は俺らしいと言っていたし。

 

……まあ、願い叶えるのは未練を無くすことでもあるし、成仏するのが普通だよな、幽霊は。

とりあえず、機械の指し示した場所にビラを投函し終え、悠々と帰路につく。

 

そもそも俺はイッセーほど、焦る理由が見つからない。

あいつはハーレム王と息巻いていたが、俺は正直自分の正体と実体さえ得られれば

それ以外の目的が思いつかない。だからこうしてのんびりやっている。

ドライグの件にしたって、悪魔になったのにしたって思えば成り行きだ。

 

だが、今の俺には普通の人間には無い力がある。

せっかくだから、普通の人間にはできないことをやりたいものだ。

それがイッセーの場合、ハーレムなんだろうが。

 

まあ、俺もイッセーに対するライバル意識はあるんだが

「負けたんならそれでもいいや」程度のものだ。「絶対に勝つ!」って程じゃあない。

 

――――

 

そうしてのんびり走って通りかかったのは深夜の廃工場帯。

古ぼけた看板を見るに、とある製薬会社の工場だったようだ。

この手の廃工場は、時折立ち退きが不十分で、何か名残が異臭を放っていたりもするらしい。

だが、それにも増して変な匂いがする。と言うか、俺はこの匂いが実は大嫌いだ。

 

――血の匂い。錆びた鉄のような、あの匂いが。思わずチャリを止め、中の様子を調べてみる。

まさか殺人事件か? 最悪、実体化を解いて逃げれば一応俺が指名手配されることはない。

実体化は夜でも自由に解ける。そういえば、イッセー越しに見た新聞で

「殺人事件が相次いでいる」って書いてあったな。まさかそれに出くわしたか?

慎重に廃工場の敷地に潜入し、周囲を探ってみる。

 

血の匂いがどんどん近くなっている。マジで殺人事件?

慎重に足を進めるが、いかんせん明かりのない廃工場だ。街灯も届かない。

悪魔になったお陰か夜目が効くようになり、暗闇もそれほど恐るほどではないが

見通しが悪いのは問題だ。犯人がまだいたりしたらちょっとマズい。

 

ここまで来て、さっき部長に釘を刺されていた事を思い出した。

とりあえず連絡を取ろうと機械を取り出そうとするが――

 

――マズい、落としたッ!!

 

瞬間、殺気のようなものを感じる。

慌ててその場を離れ、チャリを止めてある敷地の外へと走り出す。

……って、落としちゃマズいもの落として回収もしてない! 今の今でそんな状態で戻れるか!

意を決して、おそらく犯人が居たであろう場所に戻り、機械を回収する。

回収と同時に、何か牙のようなものが飛んでくる。

 

その牙は、さっきまで機械があったところに刺さっている。

一歩間違えたら機械がおシャカか、俺の手がおシャカか、どっちかだった。

牙が飛んできた方角を見ると、暗闇の中に3つの光のようなものが見える。

3つ光っているのが何かわからないが、怪物的な何かだろう。悪魔の俺が言うのもなんだが。

 

――オマエ、マルカジリ

 

怪物らしきものがそう言ったかどうかはわからないが、そう聞こえたような気がした。

それと同時に、また牙が飛んでくる。なるほど。殺人事件の犯人かどうかはわからないが

コイツは一枚噛んでるな。もう俺に狙いを済ませている。

こんな状態で、表通りに出るわけには行かない。表通りに出た途端逃げるかもしれないが

こいつがほかの人間を襲わない保証など、どこにもない。

これは、害獣駆除をしろってことか?

 

ここは戦うしかないか、と考えた途端に右手が鈍く輝く。

ドライグの鱗で、今俺が武器にできそうなものだ。ドライグに曰く――

 

龍帝の義肢(イミテーション・ギア)

 

見た目は強そうな籠手だが、これで殴ってダメージを与えるのか。

よくわからないが、ダメージは通るのか?

 

BOOST!!

 

電子音らしき音声とともに、俺の力が増す感覚が来る。音の主は右手か。

そしてこれが、おそらく俺の右手の力。だが、相手の実力がわからないし

相手はまだ暗闇の中だ。迂闊に飛び込んだら、目も当てられない。

思い切って、挑発をかけてみる。

 

「来いよ怪物、こっちの肉はうまいぞ……霊魂だけどな!」

 

気合いを入れる意味合いで、強く握った右拳を左の掌に軽く叩きつける。

眩く光るくらいには気合が入る。

 

……えっ? 光る?

 

BOOT!!

 

右手の鈍い光ではなく、今度は左手の眩い光。自分でも思わず目を閉じてしまう。

目を閉じる前に一瞬見えたが相手は黒い人間サイズで二足歩行の蜘蛛のような怪物。

足元には糸でぐるぐる巻きにされた人間が倒れている。

多分仕留めた獲物だろう。見ないほうがいいかも。

 

光が収まり、目を少しずつ開くと、怪物も光にやられたのか狼狽えている。

心配するな、俺も狼狽えてる。右手とは別の電子音。ブート……キャンプ?

いや違う、起動、って意味か。恐らく、右手の龍帝の義肢(イミテーション・ギア)が起動キーなんだろう。

で、何を使えば……え? え? え?

 

――わかる、この左手の使い方がわかる!

 

開け。そう念じると左手に展開されていた赤茶色の籠手は開き

由緒正しい魔導書を思わせるデザインに展開する。

その裏側、つまりこの魔導書が読めるように左腕を翳すと、そこにはわけのわからない文字は無く

かわりにカードホルダーがセットされていた。カードアルバムなのね、これ。

 

どうやらこのカードで何かするらしい。となれば、俺がやることは一つ。

とりあえずカードを一枚引く。カードリーダーとか無いが、どうすれば……ん?

ああ、そうか。カードをかざせばいいのか。とりあえず、自分に読めるようにカードをかざす。

ちなみに裏面は籠手とほぼ同じデザインだった。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

ライブラリ……図書館? 知りたいことが分かるのか?

とりあえず、この左手の詳しい使い方と、相手の情報か。

すると、目の前に文字が浮かび上がる。うんうん、これは読める。

読めるし、すぐに頭に入ってくる。相手ははぐれ悪魔。名前は……文字化けして読めないな。

名前を調べる機能もあるのか、これ。まあさしずめ蜘蛛男ってところだろうか。

能力は自分の牙を発射しての攻撃と糸による捕縛……ってさっき見たことまんまだな。

 

これ以上のデータ、例えば弱点は? そう思った途端、カードホルダーから

1枚のカードがせり出してくる。ああ、これ使えってことか。

1枚のカードでできるようになると便利なんだろうけど、仕様じゃ仕方ないな。

もう1枚のカードを引き、今度は思い切ってかざす。

 

COMMON-ANALYZE!!

 

アナライズ……分析。なるほどね。これは弱点や攻略法を見つけるためのカードか。

……ん、さっきより情報表示に時間がかかるな。今分析中ってところか。

分析が終わるまで、相手の攻撃を凌げってことか!

 

――キサマ、サキイカ

 

はぐれ悪魔は牙で俺を倒せないと見るや、飛びかかってくる。

これ、人間の身体能力ならやられてる! さすがははぐれ悪魔って事か!

けど、こっちも悪魔なんだ、残念だったな! 同じ土俵の上なら可能性はある!

この分なら、分析が終わるまでは持たせられる!

 

――分析完了。右手の倍加した一撃で倒せる。牙を発射する少し前に、隙ができる。

そこを狙え、か。

 

右手に力を込める。後は相手に牙を撃たせるだけだ。

さっき攻撃を凌いでいた時に、癖は見切っている。頭を軽く振るのが奴が牙を撃ちだす合図だ。

 

「――今だ!!」

 

牙を撃ちだす寸前、相手の頭めがけて右ストレートを叩き込む。

インパクトがかかったのか、はぐれ悪魔はそのまま廃工場の壁まで叩きつけられる。

一瞬痙攣したあと、黒い体が溶けるように消えていく。倒した……のか?

未知の相手なものだから判断がつかない。殺気は感じられない。恐らく、倒したのだろう。

 

そう思った瞬間、思わずへたりこんでしまう。とりあえず運が良かった。相手に捕縛されたら

こううまく行かなかったかもしれない。一応は正当防衛なのだろうか。

右手は龍帝の義肢(イミテーション・ギア)。左手は――

これが、ドライグの言ってたもうひとつの力、か?

とりあえず、俺はビッグバン砲以外にも神器があるという解釈でいいのだろうか?

 

などと色々考えていたら遠くにサイレンの音が聞こえる。

まずい、今警察に来られるとかなり面倒だ。この左手のことは後回しだ。

落し物がないか確認した後急ぐように外に止めてあったチャリに跨り

帰路に戻ることにした。

 

 

――とりあえず、怪物の相手よりも部長の形相の方が怖かった。

と日記には書いておくことにする。

 

「セージ。どうやら言っておかなきゃいけないことは2つじゃ足りなかったようね。

 今回は運良く返り討ちに出来たからいいようなものの、悪魔になりたてのあなたじゃ

 消されるのが関の山よ。あなたが霊魂だとしても、悪魔の攻撃を受け続ければ

 あなたの実体だけじゃなく霊体――すなわちあなたの存在そのものに影響が出るわ。

 あなたは当分の間、イッセーに憑依して活動なさい」

「……わかりました。今回の件は俺に非があります。

 勝手なことをしてご心配をお掛けし、すみませんでした」

 

お説教いただきました。今にして思えば確かに俺も無茶したと思う。

逃げるなら方法はいくらでもあった。しかし、それ以上に俺の力や

俺自身のことを知りたいという欲望が勝ってしまったのだ。

これは間違いなく俺に非がある。すみませんでした。

頭を下げ、部室を後にしようとする俺に、背後から声がかけられる。

あれ? 前にも似たパターンあったな。

 

「あなたのその実体も霊体も、あなた自身だけのものじゃないのよ。もっと大事になさい」

 

……それはイッセーの事か、それともオカ研の面子の事か。

言葉だけ聞くといい言葉なのだが、いかんせん部長は俺の見た限り

イッセーに結構入れ込んでいる。それはつまり、俺に何かあれば憑依先である

イッセーにも影響が出る。そういう意味で言っているとも取れてしまう。

もしそうだとしたら――

 

いや、俺の考えすぎであってほしいのだが。

改めて頭を下げ、俺は部室を後にする。何とも言えない気分になった俺は

霊体の状態で夜の街を漂い、頃合を見計らってイッセーに戻ることにした。

 

どの道、夜の街では街灯が眩しくて実体化できないのだから。




という訳でセージの初実戦でした。
原作通りだとちょっと神器だすタイミングが無いので。
ネタバラシしますと、龍帝の義肢に関してはイッセーの
赤龍帝の籠手みたいなパワーアップはしません。
その代わり……

なお、幽霊相手の悪魔契約に関しては一応可能ということにしてあります。

ただ、人間相手のそれよりもはるかに効率が悪いという
設定にはしてありますが。

※01/13 矛盾点あったため本文修正

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